とある島へ落下物語   作:【時己之千龍】龍時
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第02話 てつだって

SIDE 灼煉院 龍燕

 

 目を覚ましたらまず目に入るのは見慣れた天井……ではなく、まちの家の天井だった。

 

「……やっぱり夢じゃない、ん?」

 

 なんだか腹に何か重りのようなものがある?

 

「目が覚めた?」

「ん?!」

 

 苦しいと思い気や、まちが俺の腹の上で正座している。

 

「え…と、これは何かの罰か?」

「何かしたの?」

 

 まちは無表情で首を傾げて聞いてくる。その返しで罰ではないということはわかったがなぜ腹上にいるのかわからない。

 

「…何故俺の腹の上にいるんだ?」

「特等席で龍燕様の寝顔を見たかったから」

「特等席……」

 

 冗談だよな……。特等席というならまだ隣で座って覗き見ている方がまだ良かった。

 俺は溜め息をついて、まちに気にせず半身を起こす。布団がクッションとなり頭を打つことはないだろう。まちは後ろに倒れ、赤く染まった頬を手で触れていた。

 

「ふふ。龍燕様ったら大胆ね」

 

 まちの言葉を気にせずに立ち上がった俺は、縁側へ移動し背伸びをする。

 

「ふぁ……いい天気だ」

 

 一言言ったあと俺は布団を畳み、着替えを済ませる。

 

「龍燕様?今どうやったの?」

「ん?」

 

 振り返るとまちは驚いた顔をしていた。

 

「なにがだ?」

「着ていたものが一瞬で変わった……、何をしたの?」

 

 ああ、これか。

 

武己(ブキ)の機能の一つだ」

 

 俺は身につけていた籠手型の武己をまちに見せた。

 

「ぶき?」

「ああ。瞬間装着の応用だ。あらかじめ登録をしておくとできる」

「へぇー便利ね。そうだわ」

 

 まちは笑顔で、何か閃いた様に手を叩いた。

 

「龍燕様は料理できる?」

「ん?出来るが。ええと、作ってほしいのか?」

「食べてみたいわ!龍燕様の手料理」

「そうか」

 

 俺はまちに案内され、台所に入った。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

「ここに野菜があって……こっちには魚があるわ」

 

 龍燕は大きな野菜に目がいった。

 

「随分と大きい……大根だな。それに……」

 

 龍燕は……魚と言われたものを一匹手に取る。

 

「これは新種か?」

「何を言ってるの?それは鰯よ」

「これが…鰯。こっちのはなんだ」

「そっちは鯛よ。龍燕様は初めて見たの?」

「この……魚はな」

 

 龍燕の出身は内陸ではあったが流通や旅をしていた頃によく目にしていて、調理したこともあった。しかし記憶にある魚と目の前にある魚が全く一致しない。龍燕は料理で魚は使わない方が良いなと思った。

 

「わかった。有り難う。まちは居間で待っていてくれ」

 

 まちは頷いて台所から出て行った。

 

「よし、作るか」

 

 龍燕はまず能力の炎で火加減を調節しながら素早く切った野菜を炒めて単純に野菜炒めを作る。続いて味噌汁を作り、最後に武己の収納機能からご飯を取り出だす。収納機能に入った物は入れた時の状態で維持されているため、炊き立てで入れていたご飯はほかほかだ。

 

「これでよし」

 

 使用したものに清めの炎を掛け、元に戻した。出来たものをお盆に乗せてまちのいる居間へと向かう。

 

「出来たぞ」

「え、もう?」

 

 龍燕はちゃぶ台の上に料理を並べた。

 

「随分と早いわね」

 

 料理時間は約10分程。野菜炒めや味噌汁、特にご飯は通常ならありえない早さだ。

 

「ご飯は武己の収納機能にいれておいたのを使った。野菜炒めと味噌汁は台所にあったものを使わせてもらったよ。冷めないうちに召し上がれ」

 

 まちは頂きますと言って食べはじめた。

 

「美味しい。あやねより」

「あやね?」

「妹よ。ほとんど当番はあやねだったの」

「そうなのか。そういえば、その妹は?」

「わからないわ。多分まだ帰って来ないかも。……帰って来たらお仕置きだわ」

 

 ゴゴゴッとまちから黒いオーラが浮き上がる。

 

「…そ、そうか」

 

 

 

 

 食べ終わると龍燕は皿や茶碗に清めの炎を掛けた。まちはその炎を不思議そうに見ていた。

 

「なにそれ」

「ん?清めの炎だ。汚れた物等をその名の通り清める炎だ」

「初めて見たわ」

「そうか。触れてみるか?」

 

 まちは驚いて龍燕に聞く。

 

「火傷しない?」

「温度の調整は出来るから温かいだけだ」

「……触ってみたい」

 

 龍燕は清めの炎を掌に出してまちの方へ差し出す。それをまちはゆっくりと手を伸ばし、炎に触れた。

 

「あ、温かい。不思議ね」

「他にも色々ある。例えば癒し火とか」

「それも…名前の通り?」

「ああ。癒し火は名の通り、傷を癒したり、病気を治したりする技だ。まぁ限度はあるがな」

「凄いわ。そうだ。龍燕様は昨日からお風呂に入っていないでしょう。今沸いてるから…どうぞ入って下さい」

「おっ、風呂か。有り難う。入らせてもらうよ」

 

 龍燕は脱衣所に案内してもらう。脱いだ着物を籠に入れ、武己から手拭いを出して風呂場に入り、身体を洗って湯船に浸かった。

 

「はぁー…いい湯だ」

 

 満足そうに呟く龍燕。

 

『龍燕様。湯加減はどうですか?』

「丁度良いよ」

『そう。よかったわ。うふふ』

 

 まちから妙な笑いが漏れると、突然扉が開かれた。

 

「!!」

 

 龍燕は驚いて振り返る。

 

「龍燕様。お背中を流します。うふふ…」

 

 まちが身体を隠さず風呂に侵入し、不気味な笑みをこぼしながら龍燕に近づいてきた。

 

「ま、まち?何故風呂に?」

「龍燕様のお背中を流そうと」

「俺はもう洗った」

「遠慮しないで」

「…すまんな、流石に遠慮させてもらうよ」

 

 龍燕は一言残し、風呂場から消え去った。

 

「!龍燕様?」

 

 まちは突然龍燕が消えて混乱した。

 

 

 

 

 龍燕はまちの家から(逃げるように)出た後、行人の気配を捜した。

 行人の気配は簡単に見つかり、すぐに向かった。

 

「行人。おはよう」

「あ、龍燕おはよう」

「おはよう龍燕」

「ぷー」

「ん?この生き物は?」

 

 行人の頭に乗る丸い生き物に龍燕は気になった。どこかで見たような、似たようなのを見た覚えがと龍燕は思った。

 

「この子はとんかつ。私のうちで一緒に住んでるの」

「とんかつ…」

 

 その名を聞いて龍燕の脳裏に『豚』が浮かんだ。もちろん行人の頭に乗る丸いのではない。さらに名前がその先なる?非常食みたいで……と思ったところで思考を止めた。

 

「ええと、龍燕さん。頭に思ったの…多分俺が思ったのと同じです」

「そうか」

 

 行人も龍燕の表情から自身が思ったのと同じだと気づいたらしく苦笑しながら言っていた。

 それから龍燕も行人達と一緒に歩き出す。

 

「行人達はこれから何をするんだ」

「すずと一緒に村の方へお手伝いに行くんだ」

「ほぅ、お手伝いか」

 

 龍燕は頷いた。

 

「面白そうだな。俺もついて行って良いか?」

「良いよ。そういえばまち姉は?」

「まち?……多分大丈夫だ」

「多分?」

「置き手紙を置いてきた」

 

 脱衣所に瞬間移動して服を入れた籠を手にさらに居間へと跳び、素早く着たあとに『出かけてくる』の一言紙に書いてきた。たぶん大丈夫だ。

 

「そうなんだ」

 

 三人は村に向かった。

 

「すーずー!おいもの収穫手伝ってー!」

「あ、はーい!」

「早速だな。さ、行くぞ」

「うん!」

 

 早速声をかけられたすずは元気良く手を振りながら返すと声の方に走り出し、それを見た龍燕が静かに行人にそう言うと彼も頷き、二人もすずの後を追いかけていった。

 

「あら、行人さんに龍燕さん」

「おはようございます」

「二人も手伝ってくれるって」

「うん、任せといてよ!」

 

 声をかけてきた二人の少女の名前は人数が多すぎて行人も龍燕も覚えていなかったが、すずの言葉に行人は元気良く返し、龍燕もああと頷く。そして行人はやる気十分に畑へ入っていく。

 龍燕は今朝の巨大野菜を思い出し、もしかしたら大きいだろうなと思った。

 

「よかったー。イモ掘りくらいなら僕にも出来るよ」

 

 行人はそう呟きながら地面から伸びているツルを握る。

 

「あ、行人。一人じゃ無理だよ、一緒にやろ?」

 

 すずが突然そう言い、その言葉に行人はショックを受けたようにうなだれるが直後くっくっと笑い出す。

 

「た、確かに体力じゃ少しばかり皆に劣るかもしれないけど……見せてやるよ!! パワーなら負けてないってとこを!!!」

 

 行人は気のせいか目をキュピーンと輝かせてツルを引っ張り、その勢いにその場にいた女性陣はおぉっと声を上げる。が……。

 

「ゴメンナサイ、ダメデシタ……」

 

 全然全く引っこ抜けないまま行人は力尽きる。

 

「ほう。そんなに抵抗があるか」

 

 龍燕は行人と場所を入れ替わり、行人の握っていたツルを手に握って軽くピンピンと確かめるように引く。

 

「龍燕も一人じゃ無理だよ?」

 

 すずは龍燕にも行人に言ったように言うが、龍燕は何度か頷いてから問題ないと言ってひょいっと引っ張り上げた。直後、巨大な芋が三つ飛び出し、ドスンッと三度音を立てて落ちた。

 

「か、片手で?!」

「凄い……」

「りんちゃんより凄いだ……」

 

 龍燕は通常の芋より約十倍近くあり、さらに自分の予想よりかなり大きかったことに驚いた。

 

「抵抗はそこそこあったがやっぱり、この程度なら問題ないな」

「この程度ってどの程度までいけるの?!」

「……難しいな」

 

 行人の問いを迷いながらも、芋掘りは続き、全てを掘り終えた。

 そしてもう、一つ目の仕事で既に満身創痍となっている行人を連れ、すずと龍燕は村を歩いていく。その先々で龍燕は珍しいものを見るような目を向けていた。

 

「それにしても……でかいな、野菜」

「へえ、龍燕のとこじゃ小さいんだ」

「あぁ、うん、まあな……」

 

 龍燕の言葉にすずが意外そうに返すと、頭をかいて龍燕は言葉を濁す。それを見た行人がすずに聞いた。

 

「で、次は?」

「えと、羊の毛を刈るの」

「羊か。あの毛の生えた動物だろう?一度見たことはあったが、触れると気持ち良さそうな毛だったな」

 

 心なしか嬉しそうに、過去に見た羊を龍燕は思い出しながら言った。

 

「へ~、龍燕って動物好きなんだ。意外だね」

「まぁ好きだな。特に火山龍とか」

「火山龍?そんなのいるの?」

 

 行人とすずは龍燕の言葉で驚き振り向いた。

 

「さて、羊だったな。どこにいるんだ?」

「あ、あっちあっち」

 

 龍燕の問いにすずはそう言って走り出し、それを見た龍燕がいち早く後を追うと行人は一瞬立ち止まって何かを考えるような表情を見せたが再びその後を追う。

 そして彼らはすず達が羊と呼ぶ動物の毛刈りに挑戦する……のだが……。

 

「なんだこれは……」

「羊だよ?もふもふしてて可愛いじゃない」

 

 龍燕の絶句した表情で言った言葉に、すずは何言ってるの?というように首を傾げて返す。

 彼らの目の前にいるのは龍燕の見覚えのある羊から遠く離れたような…、なんというか綿菓子に鳥の足をくっつけたような生物だった。

 

「なんかこの島の動物って変わってるよね?パチモンくさいっていうか……」

「行人、それは失礼だと思うぞ。でもまぁ…触り心地はよくかわいいな」

 

 三人は鋏を貰うと毛刈りを始める。いつも手伝っているのであろうすずは手慣れた様子で羊の毛を苅っていく。龍燕はすずを見ながら行い、少しずつだがコツを掴んで苅っていく。行人は……どうにも手つきがおぼつかず、それを見たすずが口を開いた。

 

「あ、行人。気をつけて刈ってね? その子達怒ると――」

「――メェッ!?」

「あ、ゴメン」

 

 すずの注意は遅く、行人はちょっぴり羊の身を切ってしまい、切られてしまった羊は苦痛の悲鳴を上げる。行人は謝罪の声を出すが、その次の瞬間羊の群れが行人に襲い掛かった。

 

「ぎぃーやぁーっ!!!」

「一斉に襲ってくるから、って遅かった……」

「仲間意識が非常に高い…羊?だな」

 

 襲われている行人が悲鳴を上げ、すずが及び腰になりながら説明を続けると龍燕は自分の手の中に避難してきたとんかつの頭を無意識の内に撫でながらそう呟く。その後怪我をしてしまった羊は龍燕の癒し火によって傷を治してあげた。

 

 

 

 

 

 それから三人は牛の乳絞りやら田植えの手伝いやらを行うが行人は乳搾りでは牛にヘタクソと潰され、田植えでは田んぼの中にダイブしてしまう、ものの見事な足手まといっぷりを発揮していた。

 

「龍燕、ほんと凄かったなぁ……特に水面に、いや宙に浮いてたのかアレ?」

「歩法術の一つ。虚空瞬動の応用だ。虚空瞬動は、足元に精神力を使って擬似的に足場を作って行うんだが、その足場の範囲を広くしてやったんだ」

「なんか非常識な技持ってるね」

 

 行人はアハハと元気なく笑い、龍燕はただそうかと返した。

 

「あ、気づけばもう夕方か。もうそろそろまちの家に戻るよ」

「そうだね。じゃまた明日」

「また明日ね」

「ああ、明日な」

「ぶー」

 

 龍燕は軽く手を振り返して見送った。

 

 

 

 

 長い階段を上り切ると鳥居の下でまちが座っていた。

 

「ただいま」

「うふふ……お帰りなさい、龍燕」

「なんか不気味だな」

 

 まちは不気味に微笑む。いや……不機嫌なんだろう、完全に。

 

「私を置いて行ったわね?ちょっと道場の方に来て」

「道場の方に?」

 

 龍燕は首を傾げながらまちについて行き、道場に入った。

 

「さぁ龍燕様、来て」

「……」

 

 まちは変わらず不気味な笑みを浮かべたまま構え始める。

 

「ええと…まず聞いていいか?」

「なに龍燕様」

「体術とか知ってるのか?」

「これでも強いわよ?」

 

 首を傾げる龍燕にまちはムッとなる。

 

「なんで首を傾げるのよ」

「まぁ、手合わせくらいなら」

 

 龍燕も右半身を引いて構えを取る。

 

「本気で来てね」

「本気でいいのか?」

「いいわ」

 

 まちは笑みを浮かべた。自身が言うほど自信があるようだった。

 

「行くわよ!」

 

 まちが龍燕の懐へ素早く近づき、背負い投げをしようとしたが……。

 

「あれ?」

 

 確実に握った筈の龍燕の腕が消えていた。

 

「遅い」

 

 まちが気づいた時既に、右側から龍燕の手刀が首筋に触れていた。

 

「一様言っとくが、これが俺の能力なし、単純な全力の『速さ』だ」

 

 龍燕は首筋から手刀を離す。

 

「……全く、気づく事ができなかった」

 

 まちは悔しそうな顔で言った。

 

「鍛練すればまちも速く動けるようになると思うぞ」

「そう?」

 

 まちは少し嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「……龍燕様」

「ん」

「私にその速技(ソクギ)を伝授して」

「速技…瞬動を?厳しいと思うが、それでも良いんなら」

 

 まちは嬉しそうに喜び、龍燕に抱き着いた。

 

「頑張るわ」

 

 龍燕はまちに瞬動を伝授することになった。

 

 

 

 

 

 







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