とある島へ落下物語   作:【時己之千龍】龍時

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第03話 逃げて、逃れて、お姉様

 

「龍燕様、あやねを見てないかしら?」

「あやね?見てないが」

 

 道場から出た龍燕はまちに手拭いをもらった。

 

「そう、一体何処に逃げたのかしら……」

「何かあったのか?」

「ちょっと、ね。そうだわ、龍燕様なら見つけられるわよね?気配でわからないかしら」

「え、ああ出来る」

 

 そう言って龍燕は目を閉じて意識を集中する。

 

「………いた。近くに行人やすずもいるな」

「すずにもお願いしたから。もう捕まえたのかしら」

「ん」

 

 あやねが途中現れたもんじろうと一緒に、いや行人もすずから離れた。

 

「どうしたの?」

「気配からして、あやねともんじろう、行人が一緒にすずから離れた」

「すずったら逃がしたわね」

「俺がちょっと行ってくるか」

 

 自作の饅頭をいくつか武己から取り出し、まちに渡す。

 

「試しに作った自作饅頭だ。くつろいで待ってて」

「ありがとう。ふふ、待ってるわ」

 

 龍燕は瞬間移動であやねの近くへ跳んだ。

 

 

 

 

 

 瞬間移動であやねの近くに跳ぶと行人も一緒にいた。

 

「おう、行人。あやね」

「あ、龍燕」「し、……龍燕様?」

 

 龍燕に気づいたあやねが龍燕から少し離れた。

 

「龍燕様?もしかしてお姉様にお願いされたの?」

「まぁそうなるな。なにをしたのかはわからないが、悪いことをしたなら素直に謝った方がいいと思うぞ?」

 

 あやねは首を横に振った。

 

「そんなの自殺行為よ!どうにか弱味を見つけたほうが得策よ」

 

 あやねの考えに龍燕は溜め息をついた。

 

「行人はどっちが正しい判断と思う?」

「龍燕の方だと思うよ。さっき同じことをあやねに言ったんだけどね」

 

 龍燕はあやねの後を行人と一緒についていった。

 

 

 

 

 

 まちの弱点探しを初めてからだいぶ時間は過ぎたが、あやねはまだ見つけられずにいた。

 

「もう夕方になりそうだな」

「もーなんでもいーから弱点教えてよー!弱点ー!」

 

 あやねは涙目で必死に龍燕や行人にまで言い始めた。

 

「涙目で言われてもなぁ……」

「僕達、島来たばかりだしね」

 

 龍燕と行人が苦笑しながら顔を見合わせる。

 

「あ、そうだ!」

 

 すずが何か思い付いたようで声を上げ、皆が振り返った。

 

「そんなの本人に聞けばいーんじゃない」

「「え?」」

 

 すずの単純な思い付きに龍燕と行人は声を漏らした。

 

「ちょっと行ってくるね」

 

 そう言葉を言い残し、すずは走って行ってしまった。

 

「自分の弱点をそんな簡単に人に教えるかな?」

「僕も教えてくれないと思う」

「でもすずになら案外ポロリと話しちゃうかも」

「話を聞いてあーやっぱりな……て感じになるんじゃないか?なんかまちの弱点というか……人間の弱点、例えば心臓を突かれたら死ぬ、とか」

「あ、たしかにまちならなんかそんな感じがするね」

 

 龍燕の予想に行人も確かにと答える。しかしあやねはすずを信じて待った。

 

「聞いてきたよー」

「よっしでかした!」

「帰ってきたな」

「うん」

 

 あやねはすずを期待の目で見る。

 

「『心臓を刀や矢で刺されると死ぬ』っていうのが弱点だって」

 

 すずの答えに龍燕と行人はやっぱりそうだよなと笑った。

 

「ほぉーそれじゃあんたは心臓に何か刺さっても死なんのか?コラ!」

「痛い目に合う前に諦めといた方がいいんじゃない?」

「確かにな。そうした方がいいと思うぞ?」

「いやよ!」

「ならどうする?続けるのか?この流れから……ん?」

 

 龍燕は話途中、ある気配に気づき言葉を止めて振り返る。

 

「せめて一矢でも報いなきゃくやしーじゃない!」

「まったく、負けず嫌いだなー君は」

 

 あやねと行人は気配に気付かず、まだ話を続けている。

 

「あーあやね?弱点探しは失敗だと思うぞ?」

「まだよ!絶対あの『行き遅れのババァ』にぎゃふんと言わせてやるんだからぁー!」

 

 龍燕は止めに入ろうとしたが、あやねの発言でその後ろにいた気配の主がかなりの精神的なショックを受けた。

 

「行き遅れ?」

 

 行人の言葉にそうよ!と返し、さらにあやねは続けた。

 

「お姉様ももう18!立派に適齢期の過ぎた行き遅れの年増女なのよ!」

 

 さらにまちはショックを受けて膝を地に着かせた。

 

「明治の風習が残っているとはいえ、18が適齢期とは……」

「18?ここではそんなに低いのか?俺のところでは70代でも結構多かったが?」

 

 後者龍燕の場合は、医療技術が高いため長生きする人が多く、自然と高齢者結婚も多いという事だけだ。

 

「ねぇ、そんな言い方したらまち姉、落ち込んじゃうよ?ほら」

「へ……?」

 

 すずがあやねの後ろを指差し、気付いたあやねはピタリと動きを止めた。そして真っ青な顔でゆっくりと振り返る。そこに真っ白なまちがいたのに気づき、あやねは悲鳴を上げた。

 

「裏切ったわねすず!!お姉様を連れてくるなんて」

 

 再びすずの方へ向き直しあやねは怒鳴る。

 

「え?早く顔を会わせて仲直りした方がいいって思ったから」

「すず、そんなつもりで」

「言い判断だ」

 

 行人と龍燕がそうだなと思った。

 

「それに、あやねのところに案内すれば豆大福を五十個にしてくれるって。まち姉が」

「「やっぱ豆大福か!!」」

 

 あやねと行人が突っ込みを入れ、龍燕はまたかと頭を抱えた。

 

 まちは現れて最初は酷くショックを受けた。これが弱点と知るやあやねは言葉の猛攻をまちに良い続けた。

 

「な、なぁ龍燕。さすがにまちが可哀想に見えるが……」

「確かに……でもすぐにあやねの悲鳴で終わりそうだぞ?」

「え?」

 

 行人が改めてまちを見てみると、黒いオーラを身に纏っているように見えた。あやねはまだ気づいていないようだったが、まちが手に持っていた呪いの人形と釘を見てアレ?と気づいたのかまちの顔をうかがい、一瞬で顔を青ざめた。

 

 

 

 今日もあやねの悲鳴が藍蘭島に響く事になった。

 

 

 

 

 


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