命蝕龍伝記   作:柴猫

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6ヶ月以上も待たせてしまい、大変申し訳ございません!!
受験が落ち着いたのでもう半年も空くことは無いかと……

久しぶりの本編どうぞ


第3話 大地震わす者

船の上に着地した震轟竜は咆哮を轟かせる。その咆哮にダレン・モーランに応戦していた船員が一斉に振り返る。

彼らの表情は新たに表れた脅威に怯え、震えていた。

 

震轟竜はその蒼い剛腕を振り上げながら進んで突っ込んでゆく。道中にある木箱やらなんやらが紙くずのように吹き飛ばされる。その行先には――――

 

 

 

大砲に弾を詰めようと運ぶ母が。

 

声に出して知らせようとしたが直感で駄目だと悟る。

震轟竜が着地した位置とアルアの位置は20mほど離れていたが、震轟竜はそれを僅か三秒ほどで詰めたのだ。声を出しても間に合わない。

それでも母を助けたいという本能のような何かがフロウの口を動かそうとした。

 

 

 

だが、アルアは運んでいた弾を地面に置いた。この時点で一秒半。

母を殺そうと震轟竜がアギトを開いた。瞬間、

 

 

 

 

 

「し!つ!こ!い!」

 

 

苛立ち全開の声を出し、体を振りかぶった。その姿は吟遊詩人から聞いた遠い異国の球技の玉の蹴り方に似ていた。

しかし、蹴る玉はない。かわりに母の足元にあったのは

 

 

 

 

 

 

大砲の弾。

 

 

 

アルアが大砲の弾を思いきり蹴飛ばした。蹴とばされた弾は震轟竜の胸に勢いよく当たり、

 

 

ドカーン、と爆発した。

 

 

「いつまで追っかけてくるのよあんた!うっとうしいにも程があるっての!何?あいつを取り逃がしたのがそんなに悔しかったの?じゃあ、あいつを追ってけばいいじゃない!なんであたしなのよ!え?八つ当たり?お門違いにも程があるでしょ!」

 

これまでの鬱憤を晴らすように喋りきったアルアは、一度深呼吸をすると再び震轟竜を見る。

 

「昔だったら即あんたを狩ろうしたけど、今は状況が状況だしまた今度戦ってやるわよ。だから今はサヨナラね。」

 

そう言った母はすでに体当たりの態勢に入っている豪山龍の方へと向き直った。その隙を逃すまいと震轟竜が距離を詰め、剛腕を振り下ろそうとした。

 

 

 

 

「状況が状況って、あんたにとってもってことよ。」

 

 

母は何と背を向けたまま震轟竜の引っかきを躱し、後ろ足の間をすり抜け震轟竜の背後にまわった。態勢を崩した震轟竜が船から落ちかけようとした時、

 

 

 

 

衝撃が走った。

 

 

船が激しく揺れる。私は姿勢を低く取り、近くのマストにしがみついた。乗組員たちも柵につかまり振り落とされまいと踏ん張っている。

母は姿勢を低くしただけでやり過ごしている。相変わらず人間業ではない。

 

 

 

 

 

そして、思いきり吹き飛ばされる震轟竜が母と私のすぐ上を通過していった。

 

「地面からディアブロスが出てこないか注意してねー。」

 

棒読みで母がそう言った。

 

 

直後にグワーーーンと大音量が聞こえてきて私は耳をふさいだ。豪山龍が怯み、砂中に潜っていく。

 

「総員!全速力でここを抜けるぞ!」

 

揺れが収まってきた船に船長の大声が聞こえてきた。乗組員たちは即座に持ち場に駆ける。

 

 

 

巨大な砂塵が夜空に映える月にかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー、きつかった。」

 

「あんなことがったのにその一言で済んじゃうんだ……。」

 

「んー、まああいつ一頭だけならテキトーに撒けばいいんだけど、豪山龍もいたからね。あれが下位だったのが救いね。G級だったらそう上手く誘導できないから。」

 

夜の暗闇と競うように煌々と光るバルバレを通りながら、そんなことを言い合っていた。

 

「ねえ、母さん。」

 

「ん?何?」

 

「足、大丈夫なの?」

 

「ああ、平気よ。砲丸蹴り飛ばしたくらいじゃ。」

 

「つくづく人間じゃないね……。」

 

「人じゃないからね。」

 

「あっ、はい。」

 

いつも通りの他愛のない会話をしていると、巨大な船が目の前に見えてきた。どうやらもう集会所に着いたらしい。

 

「ここに来るのも20年ぶりね。」

 

懐かしそうな顔で見上げながら呟くように言った。

 

「母さんは昔ここで働いてたんだっけ。」

 

「ええ。そこそこ上の役職についてたんだけど、いいやつもいたんだけど良い職場とは言えなかったし、あんたをもらってそれを皮切りに辞めた後は一回も戻ってないわね。」

 

嫌いってわけじゃないけど、と付け足す母の言葉をよそに私の記憶は蘇える。

 

 

 

川で釣りをして父がガノトトスを釣り上げ、母に拳骨を食らわされた時。

 

三人で昼寝をして、気づけば夜になっていた時。

 

 

 

母に内緒で父の背中に乗せてもらって飛んだ時。

 

 

「………ロウ。………フロウ?」

 

母の言葉で我に返ると、母がじっと私の顔を覗いていた。

 

「どうかしたの。」

 

「う…ううん!何でもない。」

 

「また思い出してたのね、あいつの事。」

 

「う………うん。」

 

思い出していた事があっさり見破られてしまい、私は母の問いを肯定した。

 

「あんたってホントあいつのこと好きよね。確か何だっけそういうの異国の言葉でファザコンって言ったけ。」

 

「ち…違うって!そういうんじゃなくて……その………。」

 

ハァーとアルアが大きなため息をついた。

 

「まあいいじゃない。あんたがハンターになったのはそれが一番の理由でしょ?だったら、それを果たしなさい。

私は責任もって見届けるから。」

 

「母さん………。」

 

母の言葉に胸が熱くなるのを感じ、私は決意した。

 

「……私、絶対に父さんに会う。そしてまた一緒に過ごしたい。」

 

私の言葉に母はうんとだけ言った。

 

「そしたら、また遊ぶんだ!釣りしたり、木登りしたり、空を飛ばせてもらったり!」

 

「うん、うん、うん………うん?」

 

私は自分の失態に気づき、口を覆った。

しばらくして母は恐ろしいと感じるほどの笑顔で私に向き直った。

 

「ちょっとこっちきなさい。」

 

「へ?ちょっ、やだ。いたいいたい!首掴まないで!いいじゃん昔の事だから!あああ!締まる!首が締まる!お願い許してえええええあああああああ!」




その後、少女の悲鳴がドンドルマ中に響いたという………

ではまたいつか

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