命蝕龍伝記   作:柴猫

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第8話 旅立ち

 

「あ~~……疲れた」

 

自室で元気ドリンコをぐびぐびと飲んでいくアルア。母の言葉には同意する。ちゃんと休んだはずなのに、まだ腕がひりひりする。

 

 

時は日が暮れて数時間。窓の外には、商人や飲食をするハンターが溢れていた。雷光虫のランタンが、夜の星に競うように光り輝いている。

 

まさかの極希種の乱入に肝を冷やした私たちが帰還し、事の顛末をギルドに伝えたときは、集会所にどよめきが走った。

報告を受けたギルドマスターが観測用の気球を向かわせたときには、傷ついた盾蟹の姿があったのみで、閃一角竜の姿は消えていた。

クエストの依頼主は行商人で、盾蟹に高価な代物を台無しにされたやり返しの為だったので、クリア扱いにはなった。

 

詳しい報告はリストルに任せて、私たちは宿で疲れを養うことにしたのだ。

 

ユクモの村には温泉があったので、狩りの後には決まって温泉に入っていたのだが、バルバレには汚れを落とす用のお風呂しかなく、ユクモ村の天然温泉と比べるとやはり違う。まあ、その分各地から疲労回復の食材や料理はごまんとあるので、これも地域の特色なのだろう。

 

「そうだね、今日は何食べに行く?」

 

「んーー、前に見た東の国の料理でも食べる?」

 

「それって、生の魚を米の上に乗せた、スシっていうもの?」

 

「そ、結構前に村長から聞いたことあってさぁ。その時は仕事一辺倒だったから、無視してたんだよね。改めてどんな味なのか、気になってきてさ」

 

母の言葉に肯定する私。

正直私は想像できないのだが、私と会う前のアルアは非常に冷酷で、眼前のモンスターを全て屠るくらいだったという。何やら物騒な二つ名をつけられていたらしいが、本人は「それは言っちゃいけない」と何故か顔を赤らめて言うのだ。

 

 

「ホント……昔はどうにかしてたわよ」

 

目を遠くして悔いるような、懐かしむような、あるいは戒めるような口調でそう言い放った。

 

「そういえばコルネーはどこ行ったの?」

 

「さっき部屋に行ったっきりだけど」

 

「じゃあ呼んできてくれる?夕飯食べに行くから」

 

うん、と部屋を出て階段を上る。突き当りの右のドアの前に立ち、ノックをする。

 

「コルネーさん、ご飯食べに行きましょう」

 

「あ、はい」

 

ドアを開けてきたコルネーは、そこまで大きくない手紙を大事そうに抱えて出てきた。

 

「手紙、ですか?」

 

そのことを指摘すると、彼は背を伸ばした。

 

「ええ、村長さんに今後の事を書いていて」

 

「そうですか、決意したんですね」

 

「はい」

 

凛とした口調には、初めて会った時の臆病さは微塵も感じられなかった。

 

「僕、気づかされたんです。これまでの僕の人生は凄い狭かった。村長の提案を聞いていなかったら、その事実すら気づけずに土に還っていったと思います。

でも、フロウさんにアルアさん、リストルさんと会って……もっと知りたくなったんです。この世界の事を。」

 

その決意の言葉に、私は少し驚いた。

 

「不束者ですが、これからも色々教えてください」

 

「はい、私が教えられる範囲なら何でも」

 

「!ありがとうございます!」

 

『フロウー!コルネー!そろそろ行くよーー!」

 

私は、「今行くー」と応答し階段を下りた。

 

 

人間はこの短期間でこんなにも変わることができるのか。

 

 

 

私のお父さんは、どうなのかな。

 

覚えてるかな、私の事。忘れてるかな、私のことなんて。

 

 

 

それでも、私は止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

アプトノスの竜車に荷物を積み終わり、額を拭く。

 

コルネーの入団試験も―――ハプニングこそあれ―――終わったので、母の友人であるラミスさんに会いに出発するのだ。

 

私も幼いころに彼女と会ったっきりなので、少しウキウキしてる。

 

 

「よし、これで終了ね!」

 

アルアが食料を荷物置き場に置き、屋根へ登る。続けて三連結の竜車の屋根を走り、アプトノスの手綱を握った。

 

「アンタたち、行くわよ!」

 

私は中央の竜車に乗り込み、リストルさんもアルアの近くに乗る。コルネーは少し乗り遅れ、慌てながらも最後尾に乗る。

 

アプトノスはゆっくりと動き出し、バルバレの門へと歩き出す。道中で道行く狩人が物珍しそうに視線を送ってくる。

 

 

門に着くと、ギルドマスターと職員たちが見送りに来ているのが見えた。石柱の上に胡坐をかくギルドマスターはこちらを見て

 

 

「無事を祈るぞ」

 

と一言送った。

全員、おのおのの方法でそれに答えた。

 

 

 

職員たちの声援を背に竜車は、草原へと進んでいった。

 

 




多分これが年内最後の投稿だと思います。来年もよろしくお願いします。

ではまたいつか
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