悪魔として転生させられる直前、俺は禄でもない内容の宿題を提出したペナルティとして変な部活に矯正のために強制入部させられた。
今になって思えば、やっつけ半分で書くにしたって今更教師へ語る必要はなかったとも思うし、内容に関しても我ながら『砕け散れ』は言い過ぎだった気もする。今になっては遅いが、素直になれない幼馴染っぽく謝罪しよう「べ、別に
己の失態はさておき、抵抗すればできただろうし、そもそも高校生にもなって人格の矯正とかカウンセリングとしか思えないし、それを強制することだってまともな教育機関としてもあり得ないことだと今更ながら考えさせる。高校生にもなって性格改善だとか、義務教育も終えているのにそんな扱いをされる奴なんぞ犯罪者としか思えない。少年院か此処は。……あぁ、犯行声明出してましたね……(納得。
それにしたって、それを抵抗しなかったこともまた俺の落ち度に繋がるのだろう。
俺の扱いを鑑みれば不公平が絶対的に成り立つ珍妙な勝負事に無理やり巻き込まれて、それすらも受諾せざるを得なくなった経緯のそもそもの理由は、思春期によくある女子との、それも学校でも最上位に位置するであろう美少女との触れ合いというニンジンが目前に吊り下げられていたことに起因する。
まったくもって、迂闊な真似をした過去の己を、全力で殴り飛ばしてやりたい。
美人局には気を付けろと、親父も常々言っていたというのに。
女子には過去にも痛い目を散々と遭っていたのに、俺と言う間抜けはしっかりと学習することが出来ていなかったらしい。
「そんなわけで、俺は早々に退部したいのだがそれでいいいか?」
「待ちなさい比企谷くん、あなた4日も無断で休んでおきながら突然何を言い出すの?」
悪魔へ転生しドイツへ拉致られてから、数えて3日振りの放課後はラウラによって確保された。
なのでその翌日にご参拝した我らが主人公・比企谷八幡。まあ俺ですが。
しかし奉仕部と言う胡乱な部活の美少女部長様には、開口一番の俺の提案になおも胡乱気な顔を晒される。
「いや、先日人生観変わるようなアンビリバボな体験をしてしまってな。そんな奇跡体験を実感した手前、この部活に放課後の希少な時間を割くことが煩わしくなった」
「……随分と上から目線で言ってくれるわね。どうせアレでしょう? 私に勝つ自信がないから捨て台詞みたいな言い訳で、」
「ああ、うん。もうそれでいいから。退部届受理してくれるように平塚先生にお前からも口添えしてくれよ」
俺の言葉に彼女は絶句したような顔を見せていた。
彼女の言う『勝負』というのは先にも言った通り、俺の
ぶっちゃければ、俺もそれにうかうかと釣られてしまったクマー。
「……あなたわかっているの? あなたが負けたのなら、平塚先生が言っていたペナルティが実行されるわよ?」
「それ、実際のところ何処まで適用される命令権なんだ? 俺の人権を一時的に奪ったとして、法律持ってこられたらフツーにあの先生の首が飛ぶか、お前の醜聞にしかならなさそうだが」
え? 俺が勝てる見込み? そんなのあるわけがねぇよ。
そもそもその勝敗の行方は審判である平塚先生の独善によって基づかれると宣言されており、件の教師より端から良い感情を備えられていないであろう俺にとっては不公平極まりない。
勝てるはずのない勝負を最初から仕掛けられた。この時点で、彼女の言う『自信』などというモノは沸くはずもねぇ。
……というか、実際そんな約定が履行されたとしても、手間と下手が積まれたイジメ問題の土壌にしか発展しなさそうだと思うのは俺だけかね?
まあ今更この話を教育委員会とかPTAとか文部科学省とか新聞記者に垂れ流したところで、証拠そのものが口約束だけだから知らぬ存ぜぬで通されれば話も発展しないと思うけど。
というか、そもそも信じてもらえるかも無理な話だろうなぁ。まあそんな告げ口みたいなマネしたくも無いからやる気もないけど。
「……それでも受理する気は私にはないわ。そもそも、あなたの性格の改善を依頼されたのは私なのだし、そんな捻くれた思考を普通にしている時点で社会的に問題のあるレベルなのは間違いがないようだし」
「個人の人格程度が社会でいちいち見直されるわけねえから杞憂だと思うけどなぁ。十人十色でも十把一絡げ人間万事塞翁が馬、結局は好き嫌いの問題だろ?」
「それだから問題なのよ、あなたは」
そう言うと、彼女は俺が入室した最初の時の、本を読んでいた姿勢へと視線を傾ける。
……結局、退部届の受理はしてくれないのん?
雪ノ下雪乃という名前の冗談みたいに韻が踏まれたこの黒髪ロング絶壁ツンドラ部長様は、俺がおひさしと顔を出した時は一瞬目を見開く程度の表情の変化をも垣間見られたわけだが、次のコンマには『あなたのことなんか顔も見たくないんだからねっ』とでも言いたげな顰めた
感情の揺れ幅をサーチしておけば会話に関しても相応にイニシアチブを取れそうではあるが、ぶっちゃけあんなメンドイ術を日頃から使ってられるか。
というか、他人の感情を読み取るなんてのは実際のところ地雷も良いところだ。
幾度も使えば、人間の弱い精神ではそのうちそれに依存し切ることになるのは目に見えているし、俺に対する
人間不信振り切って自殺するような
だから――、
――先の顔合わせにて割と明白になった人付き合いに難が山盛りになっていそうな事情を抱えていそうなこの大和撫子が、ひょっとしたら俺と似たように他人との会話に飢えているがために、俺のような底辺だとしても何某かの遣り取りが可能でありそうな相手を得られる機会がチラつかせられている状況を好ましく思っているかもしれない――、
――などと言うのは俺の過ぎたる妄想だろう。
そんな学園ラブコメの出来損ないみたいな、ありもしない話がこれから綴られることなんて微塵も期待していない。
だから、雪ノ下が再び口を開いたその言葉は、完全な独り言だと思って聞き流していた。
「……てっきりあなたは私に好意を抱いているのだと思っていたわ」
聞 き 流 し て い た 。
視線は本へ落とされているままのようであるし、俺は俺で「部活に参加しなくちゃならないのならせめて俺の席くらい用意してほしいよおめーの席ねーからとかリアルでやられるのも常だけど時間取られてまでイジメって人間性としてどうなん?」と独り言を呟きつつ適当なパイプ椅子を開いて雪ノ下と若干の距離を取り座っていた。
持ってきた鞄を床へ置いて、スマホを手にしてメールチェック。
連絡先は新しく得た眷属先輩のクワガタさんという株をやっている転生悪魔のお方だが、将来的にも稼ぐことを示唆されたので手を付け始めていたのである。
多少の助言を得て小遣い程度から先行投資を始める俺氏。
王様からは何かせよとの命も得ていないが、命握られているからには有能になっておかんと申し訳が立たない。
……今思えば俺の人権ってそもそも王様に握られてんじゃねぇか。そう考えると、こんな子供染みた勝負事とはいえ、取られるわけにもいかねぇか……?
「……比企谷くん?」
「……ん?」
呼ばれて、顔を上げると、何故か『ひょっとして聞いてなかったのかコイツ』みたいな目でこっちを見ている雪ノ下と目と目が合った。
見つめ合うこと数秒。
気まずくなったのか、雪ノ下が顔を反らす。
何も悪いことはしていないはずなのだが、なんだか悪い気がしてしまった俺は素直に謝ることにした。妹に学ぶ、女子の扱い。
「スマン、なんか言ったか?」
「いいえ。何も言っていないわ」
「え、いや、でも、」
「何も言ってないのよ4日ぶりとはいえ無理に入れられた部活に律儀に顔を出してまで私と最低限度の付き合いを保とうとしていたという勘違いを私がしてしまったとかそんな話をする気も全くなかったわええそんな黒歴史を私が造るはずないのだからあなたの勘違いもいいところよ目だけではなく耳も腐っているのではないかしら?」
「お、おう、え?」
早口で全く聞き取れねーぞ、何言ってんだコイツ。
とりあえず、久方ぶりに女子と会話をしてフラれてしまったことだけは理解した。
うん、常道常道。平常運転だよ。何処かの世界線で遠くない未来に顕れる妹系後輩のお株が先走って奪われたとかそんな既視感もあった気がしたけど気のせいだったな!
それはさておき、なんだか本格的に気まずくなってきた。
俺は何もしていないはずなのに、何故か積もる悪いことをした気分。
気まずい空気をどうにかするほどの払拭力とでも言うべきか、リア充が持っている会話力のような何某かは俺にはない。
しかし、今だけは宿れリア充の英霊……ッ! プリキュア・ハッピーシャワー!(錯乱)
「そ、そういえば先生の言っていたアレだけど、ぶっちゃけ依頼人って日にどれくらいくるんだ? 俺も暇ってわけじゃないから、出来ることなら時間つぶしだけにくるのは避けたいんだが……」
……提示した話題が此れかよ!
身勝手過ぎて泣けてくる。プリキュア・ラブサンシャインにしとくんだった。みんなも幸せゲットだよ!
「……そう云われると困ってしまうわね。毎日依頼人が来るわけでもないし、こちらから宣伝しているわけでもないから予定は立てられそうにもないわ。ああ、でも比企谷くんにとってはあまり関係ないでしょうね。結局は私が解決するでしょうし」
――成功した!?
え? なんでコイツドヤ顔で宣えるの? それだけ実績あるってことなの?
いや、どちらにしろコイツの機嫌が直ったのなら深く考えなくてもいいか。
何処か悠然と佇む雰囲気を纏いつつある雪ノ下に、浮き沈み激しい奴だなとやや呆れた感想を抱いた丁度その時。
「失礼しまーす」
と、部室に最初の依頼人が。
ガラリと開け放たれたドアから顔を覗かせ、彼女はそのままに後ろ手で扉を閉めて目標へと歩み寄る。
やや傲岸不遜な眼差しで、少女の目線はゆきのん部長へと真っ直ぐ向けられている。
「えーと、此処ってホウシブ? っていう部活で合ってる?」
「ええ、合っているわよ。依頼人の方かしら?」
「依頼っつーか、平塚先生に訊いたら此処を紹介されたんだけどね」
現れた女子は、如何にもリア充してますと全身で体現している金髪の……た、縦ロール? いや、ゆるふわ系? に見える、髪型へ一部パーマを充てた女子。
見覚えがあるような、無いような。
……あ。
昨夜のはぐれ悪魔に襲われてた系女子だったわ。はっはっは、うっかり!
そんな襲われ系女子の視線は、部屋にいる最も存在感のある部長様にしか注がれておらず、安心乍ら俺には視点は向いていないご様子。
アレだな。どっちも己に自信を持つタイプだから、見知らぬ部屋へ入って周囲を見渡すような配慮をしないことが癖になっているのかもしれん。
そして雪ノ下の場合は同族嫌悪だろう。わかるわ。同じ位置に王は要らぬ、みたいなラオウのような配慮を互いにしているに違いない。
ほおら、俺が回想に入っていた合間に、既に膠着状態だぜ☆
「要領を得ないわね。どういう目的で此処へ来たというの?」
「それをなんでアンタに言わなくちゃいけないわけ? つーか、此処ってボランティアみたいなことをしてるとかって平塚先生に聞いたんだけど、仮にも依頼人として来るお客にその態度は無いんじゃない? なんでいきなり喧嘩腰に訊いてくるわけよ、雪ノ下サンさぁ」
「あら、私のことを知っているのね。ところであなたのお名前は? 私はあなたのことを一切知らないから、自己紹介からしてもらえると助かるのだけど?」
膠着っつうか戦争一歩手前だったわ。
俺が口を挟んでも飛び火する未来しか予想できないし、言い合いを見守っているうちに部屋へと
本当に、なんでこんなに喧嘩腰なんだ、お互いに。
「し、しつれいしまーす……」
そんな状況を見守っているうちに、第二のお客が部屋の扉を開けた。
桃色お団子ヘアの彼女は先に入ってきた女子のようにずんずんと進むようなことは無く、教室の入り口で顔を覗かせてメンチを切り合っている女子らの存在を把握し恐らくドン引きし、困ったように周囲を見渡すと、先立って雪ノ下と距離を取るために教室の入り口脇に椅子を引いていた俺を見て、驚いたように声を上げた。
「な、なんで優美子とヒッキーが此処にいるの!?」
ユミコというのは先に来ていた女子のことだろう。女子らしい名前だし、他に候補はいない。
おいヒッキー、何処にいるんだよ、呼んでるぞ。
「? 結衣? って……っ!?」
あ、目が合った。
目が合ったはいいが、漸く俺の存在に気付いたらしいユミコさんとやらが、何故か固まってしまう。
何故に? 俺に邪眼の力でも宿っていたというのか? 悪魔に転生したことだし、可能性としては無くはねぇな……。
そして煽る対象が沈黙したのをいいことに、雪ノ下は新たな客へ視線を向けた。
「依頼人の方かしら? ようこそ奉仕部へ、歓迎するわ由比ヶ浜結衣さん」
「あ、あたしのこと知ってるんだ」
「偶然よ」
「へえ、ひょっとして全校生徒の顔と名前把握できてるんじゃね?」
「そんなことは無いわ。何より、あなたのことも最初は知らなかったもの」
「まあ俺は元々有名でも何でもないから当然だろうけど」
「そうね。人間モドキは知られないのが当然だから」
「勝手に人権まで剥奪するの辞めてくれませんかねぇ……」
冗談だと解かるが、ひょっとしたら転生に関して察せられたのではとも疑われるから、そういう話はマジでやめておいた方がいいと思うが。
老婆心染みた忠言でもしておこうかとも思ったが、そもそもまともに生活していて悪魔とそうそう関わることも無いのだろうし沈黙を貴ぶ俺。
それはそうと、先立っていたユミコさんとは打って変わっての対応に若干の違和感も抱かなくもない。
恐らく知り合いであろうユミコさんとやらの仲間足り得るのであろうが、敵が強くなれば益々やる気になるとでも言いたいのだろうか。
何処の戦闘民族だよ。慢心し過ぎだぞユキータ。
あとユミコさんの名前に関しては煽る為だけに、わざと知らない振りしたんじゃないかなという妄想が蔓延るのだけど。
……妄想に過ぎないと思っとかんと精神衛生上胃痛が酷い。女子のリアル喧嘩はキャットファイトとルビを振るほど可愛くもないんだもんよ……。
「なん、ちょ、いつから其処にッ!?」
「最初からいましたけど……」
人を指さし絶叫するユミコさん。
入室の際には周囲の確認からしましょう。
「彼は奉仕部の部いn……備品よ。用件があるのなら部長である私を通してもらいたいわね」
「だからサラッと俺の人権剥奪せんでよ。普通は悪い方に云い直したりしないだろ」
「仕方がないわね。あなたは勝負を放棄したのだし」
そんなところばかり権利を主張しやがる……!
でも負けでいいから退部させてほしい等価交換が為されてないのだから、言質も取れていないと思うのは俺だけかな? 後で平塚先生に脅hもとい進言しておこう。
「ところで、顔馴染のようだけどあなたたち知り合いなの? それともストーカーかしら? うちの部から犯罪者が出るのは困るわね」
「いや全zちょっとまて、否定する前にマシンガンみたく言葉を被せるのはやめろ。そうやって冤罪は生まれるんだぞ」
「冤罪だと騒ぎ立てる……。益々怪しいわね」
「訝しげな眼でスマホに手を掛けるな。これだから女子の言い分は
「いや、さらっと否定されたけど、あたしたち同じクラスだよ? ヒッキーは誰とも喋ってないから覚えてないのかもだけど」
「「マジでッ!?」」
ユミコさんと言葉が被る。
同じタイミングでお団子ピンクの言葉に驚愕を覚えた俺たちは、はたと目が合った。
「ともかく、あなたは彼を探しに来たということでいいのかしら?」
「あー……。まあ、うん。今更隠すことでもないから言うけどね。平塚先生に目の腐った男子の居場所を訊いたら、此処に行けばわかるって言われてさ」
「其処に居る、とは言われなかったのか」
「言われなかったのでしょうね。言葉足らずを意図的にやる人だから」
平塚先生の評価が割と低安価に落ち始めた瞬間である。
「ていうか優美子、ヒッキーのこと探してたの? なんで?」
「え、いや、それは……」
「その前にちょっと待て。その引き籠りみたいなあだ名はひょっとして俺のことか」
「え? いや?」
「いやだよ?」
何処に悪口みたいなあだ名で悦ぶ男子が居るというのか。
「問題ないのではないかしら。ぴったりよ? 引き籠りヶ谷くん?」
「無駄に語呂だけ合わせやがって……!」
「なんか楽しそうな部活だねー」
コイツの眼球俺より腐ってんじゃねえのか。
どの辺がどう楽しいのか、むしろ楽しんでいるのは片方だけなのでは、と言い募る前に。
「と、とにかく! コイツはあーしが借りてくから! ちょい来な!」
「えっ、ちょ、ま」
せ、せめて鞄をー! と引き摺られて逝く俺。
ファンタ片手にやってらんねー、と河原で佇む様なオチであった。覚えている人いるのかしら。
3年D組ぃ、ドラゴン先生!