赤龍帝は千葉に居る   作:おーり

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最近やったことと言えばアベマで生徒会役員共視聴中の*ネタ時にオレンジレンジを挟んだ程度です


第4話

 

 フリード・セルゼンは絶望していた。

 今になって明かされた報告を耳にして、普段の狂気的な口調や顔つきも一切消えて、まさに消えるような掠れた声音で、とある報告を告げに来たミッテルトという堕天使(上司)に訊き返していた。

 

 

「…………なんだって(ぱぁどぅん)?」

「だから、教会から神器遣いを派遣させたのよ。アーシアっていう回復系のね。そいつの神器を奪うために今回の作戦が建てられた、って……ちょ、なんでアンタいきなり荷造り始めてんの?」

 

 

 改めて見ると、他にもいた『はぐれエクソシスト』とでも呼べる神父らも、揃ってわたわたと動き出している。

 まるで引っ越しの準備を今始めたかのような慌ただしさに、ミッテルトは驚きを通り越して逆に冷静になって問うていた。

 

 

「なんでって、なんでって! これが逃げる準備をしないわけがないでしょうがよぉ!?」

「は、っはぁ!?」

 

「チクショウ! こんな上手い話があるはずなかったんだ!」

「もうダメだぁ……! おしまいだぁ……!」

「こ、こんな教会に居られるか! 俺は逃げて幼馴染と結婚するんだーーー!」

 

 

 神父らは絶望に染まり切った表情で、言葉の通り逃げる準備はするものの、誰も彼もが逃げられるはずはないと悟っているようでもある。

 いったい何があるというのか、ミッテルトは今になってやってきた驚愕の感情のまま、フリードという少年神父に問い質していた。

 

 

「だ、だからいったいなんで、」

「何でも何も! よりによってアンタら何を呼んだ!? アーシア!? アーシア・アルジェントとか口走ったか!? あの『ひとりイスカリオテ』を、『人外ゼッタイコロスウーマン』を、『処刑する聖少女(アポカリプス・アイドル)』を! こんな極東の僻地で悪魔祓いに勤しむとかいう話もトチ狂っていましたけどねぇ、そこまで、そこまで見境の無い大馬鹿だとは思ってもみませんでしたよぉ!!」

「――え」

 

 

 

  ☆

 

 

 

 堕天使の命題は、世界中に蔓延る『神器遣い』を回収して回ることに尽きる。

 少なくとも組織の末端であるレイナーレはそう教わっており、正確には神器のみの回収『ではない』ことまでは明白に説明されていなかった。

 これは、神器遣いを身内へ転じさせる悪魔側と、人の枠を外れ神秘を司るようになった者たちを囲おうとする天使側との三つ巴から、本来あったはずの『神器遣いらに最低限度の尊重を伴う』という条件を履行し切れなくなってきたために変動した結果である。

 少なくとも堕天使は元は人間を愛するために地に堕ちたはずだったのだが、神器遣いが『戦力』として使える者も居ることから、人外らが種族的に相応に人間を尊重しなくなっていたがために、人命を軽く見るようになってしまった弊害でもある。

 誰も彼も人の世がなくなれば生き残れないはずなのだが、少なくとも【聖書陣営】と呼べる三竦み状態のモノたちは大多数が人を軽視していた。

 

 それは、彼女も例外ではない。

 

 

「(兵藤一誠の神器は回収できなかった。あの時は確かに人払いの結界を張っていたはずなのに、あんなゾンビみたいな目をした男に邪魔をされるなんてついてないわ)」

 

 

 あらすじ乙。

 そして件の兵藤一誠は、既にこの町の領主悪魔であるグレモリーに保護されて転生している。

 迂闊に手を出せば内政干渉に触れるため回収できなくなった、と敵地内の人間の命を狙っておきながら今更過ぎることに注意する黒髪堕天使。

 迂闊なんて一言では、済むはずがなかった。

 

 

「(まあ、悪魔は教会に来れるハズなんてないし、儀式が成功するまで動き回らないのが正解よね。アーシア・アルジェントも明日には日本に来るはずだし、回復系の神器なんてレアものを確保できれば、幹部に昇進するのも早くなるはず……!)」

 

 

 何処かの喋るマスコット付きのロケット団のようなことを妄想し、ほくそ笑むレイナーレ。良いカンジー。

 件のアーシアは予定より早くに日本へ来ており、バタフライエフェクトが働いたのかゾンビみたいな目をした男と邂逅し、さらりと堕天使の企てを察していた。

 原作展開? 予定調和(運命)なんてモノはこの世にはねえんだよ! そんな細かいことを呟くようなその幻想をぶっ殺す!

 

 

「……? それにしても慌ただしいわね、いったい何を騒いd」

 

 

 その瞬間、レイナーレは極大の光に包まれた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 絶句した。

 教会へ行きたくないでござる、とニートみたいなことを宣ったハチマン()の代わりにアーシア・アルジェントの付き添いで来ていたのだが。

 蒼い騎士甲冑のようなコスプレみたいな恰好へ変身したアルジェントが、光の槍をブッぱして教会をピチュった。

 なんということでしょう。

 一撃でクリアされた教会は、クレーターのような更地へとびふぉーあふたー。

 というか、いま明らかに下手な地震以上の衝撃が町中へ響いたのだが、良いのかコレ。

 

 

「――ふぅ、すっきり。では帰りましょうかラウラさん。わたしビザがまだ残っているのでしばらくお世話になりますね」

 

 

 ビザをお持ちでしたか。

 あ、元の服に戻ってる。

 流石に修道服では目立ちすぎるのでカーディガンとロングスカートを貸したのだが、こうして見ると大人し目のお姉さんという感じで似合っていて、……むぅ、小柄な我が身が恨めしい。

 自然と比企谷家に泊まるようなことを口走っているし、ハチマン()もこういう美少女が好みなのだろうか。

 

 夕暮れの道すがら、嫁に助けられた経緯に思いを馳せる。

 ドイツの片田舎で、私は人工天使転生実験というモノの被験者として扱われていた。

 其処の施設は研究成果も芳しくなく、生きてモノを話せたのは私程度で、他にもいた被験者は老若男女『上手くいかなかった』。

 死んだのならばまだマシな方で、簡単に死ねない身体で全身の皮膚が融解し関節が歪に曲がって立つことも儘ならなくなるような一例なんかを見ると、施設の警備くらいなら命令されれば請け負うくらいの同情心は沸いていた。

 そもそも教会に買われた孤児のひとりでしかなく、付けられた苗字もハチマンの主に当たるセラフォルーにいつの間にか用意されていたものなので、持っているものと言えば改造の結果生じた異能と名前くらいなモノだ。

 親も友人もいない、大切なモノもない私は、いつ死んだとしても構いやしなかった。

 

 それが変わったのは、セラフォルーが施設と研究員らを潰しに来たときだ。

 それまでの襲撃にはない圧倒さで、これ以上ないくらいの実力の差を見せつけられたときに、ようやく終わるのだと諦めた私を拾い上げたのは、他でもないハチマンだった。

 

 ひと目見ただけの私を、まだ子供だからと殺すことを由としなかったハチマンの言葉で私は九死に一生を得たわけだが、それでも私の中にあったのは当然感謝などではない、ようやく終われることを受け入れた自身を否定された憤りだった。

 お前に何がわかる、死にたい人間の気持ちがわかるはずがない、何もない奴を生かせていたって意味も理由も未来(さき)もない。

 諦観だけだったはずの私は、そんな酷い罵声をハチマンへ投げつけた。

 

 返ってきた答えは、知るか。

 見つけた奴を見捨てるなんて寝覚めが悪いにもほどがある、と。

 死にたいお前の気持ちなんてものよりも、子供が死にたいと叫ぶ姿を見せられた俺の方が辛い、と。

 場所がないなら探せばいい、見つかるまでは保護くらいはしてやる、と。

 結局、唯一の成功例に当たる私を野放しにすることはセラフォルーも不本意だったので、言い出しっぺの八幡の家に引き取られる形で、私は彼と使い魔契約を交わした。

 捻くれたエゴを突き付けられたのに、それが何よりも私に生きていてほしいという彼の願いであったことはすぐに理解でき。

 

 もう私は、彼からは離れないことを心に決めた。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「いや、帰れよ」

 

 

 何故か家へ帰ってきたアルジェントへ、女子の旅行具にしては少なすぎる預かっていた手荷物を突き出し、俺は居座る気満々に見え得る彼女の言い分を切って捨てた。

 教会所属とか口走っていたわけだし恐らくはローマつまりはイタリア語を口遊む彼女の言葉を理解できるのは今のところ自動翻訳アプリを生物的に携えてる俺とラウラだけなわけだが、そんなことは問題ではない。

 教会所属ってことはがっつり悪魔の敵役じゃねーか、易々と泊めていられるか。

 あと最初はさん付けだったけどこの面の皮の厚さでもう呼び捨てでいいやこの子。

 

 

『ええー、いいじゃないですかー。潰したのはさておき、そうなるとわたし泊まる場所がないんですよー。ジャパン観光をひと通り終えるまでは泊まらせてください』

「ホテル行けホテル。いくら清貧重んじる教義とはいえ旅代くらいは貰ってんだろうが」

『お土産を買いたいので極力控えたいんですよ』

「それこそ知らん」

 

 

 はぁーあ、お金もねぇ、情けもねぇ、オラこんな教会いやだー、とカンツォーネ調で歌いだすアルジェント。

 斬新すぎる家なき子が此処に爆誕した。

 同情する気はないからほんと帰ってもらえませんかね……?

 

 

「いいじゃん、泊めてあげたら? せっかくの美少女だよ、むげにしちゃお兄ちゃんこの先どこで出会う(縁を持つ)っていうの?」

 

 

 ラウラの同時翻訳を聞いていた(小町)があっさりと許可を下していた。

 

 

「いや、何気にうちの高校レベル高いから美少女分は割と過負荷なんだが」

「そこは『充分』っていう言葉を使うべきじゃないの……?」

「……出会った奴らそろいもそろってキャラが立ちすぎてるから、やっぱ負荷だよ」

 

 

 思わず遠い目で、今日会っただけでも存在感の在りすぎる連中を想起する。

 普通な奴って居ないのかな。普通ってレアだな。

 

 

 

  ☆

 

 

 

「なんでこねーし!」

「……は?」

 

 

 翌々日の一時限目終了後、憤慨したご様子のあーしさんが我が席にまで詰め寄ってきていた。

 主語がえらく抜けている気がするのだが、問い返した方がよろしいのかしら。

 

 思えば遅刻して一時限目の途中から参加したのだが、授業中もこのひとの席から圧が凄かった。ついでにクラスの雰囲気もやや重かった。

 昨日はそんなことは無かったはず……はて?

 

 

「何がだ?」

「部活! ハチもはいってんでしょうが!? あーしらだけだし依頼人もこねーしで、結局時間潰しただけで終わったし!」

「……? ――ああ、奉仕部!」

 

 

 納得したり、とワードを口遊み手のひらポンと打つ俺氏。

 そういえば昨日は新しい居候が気になって早めに帰っていたわ。

 

 結論として、下手に近づくと日本観光と称して町へ連れ出される恐れがあるので、引き籠りに準じたい俺は放課後はなるべく実家へ戻らない方が良いのだということを理解した。

 俺の家なのに居づらいってどういうことだ。リアルうまるに顕現されても全くうれしくないぜ! 控えろ三角ヘッド!

 

 

「なんだ? あーしさん入部したの?」

「……あと結衣もはいったし」

 

『話のついででバラされた!?』

 

 

 遠ぉくの方からピンクお団子の馬鹿っぽい女子の驚愕の声が響いた。

 不貞腐れたご様子のあーしさんのふくれっ面が無駄に可愛らしくて宇宙の法則がみだれる!

 いや、そこまではいかないか。

 とりあえず、いつもの取り巻き、早く来て宥めてくれよ。

 

 

「ってか、ハチも部員なんでしょーが、今日は来いよ」

「え、めんどくせわかった行くから、だからそのこぶしをゆっくりと下ろそうか」

 

 

 出掛けた本音にいきなり物理に訴えるとかグンマー育ちなのこの子?

 もっと都会感溢れる大人になりたまえよチミィ!

 

 つか、いま普通に脅威を感じたんだが、このひと聖なるオーラを拳に込めておらんかったか……?

 

 




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