赤龍帝は千葉に居る   作:おーり

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高評価を頂いたので続きです


第6話

「あれ? 比企谷くん、こんなところでお昼食べてたんだね?」

 

 

 なんだか部室棟に赴くことが億劫で仕方がなくなってきていた今日この頃。

 久方振りにベストプレイスでもある体育館裏の自販機前へとやってきた俺であったが、自由な時間を満喫する寸前のところでそう声をかけられた。

 

 声をかけてきたのはジャージ姿だが美少女。

 なんだか最近美少女とのエンカウント率ばかりが鰻登りになっていて、俺の死期が近づいているのではと僅かばかりの危機感を抱かざるを得なくなる。

 ……ああ、そういえば一回死んでたわ。先に命数を売り払った代償かもしれん。

 

 

「……あー、わるい、どちら様だったかな」

「あ、あはは、比企谷くんボクのことやっぱり知らなかったんだね……、いちおう、同じクラスなんだけど……」

「お、おう、悪い」

 

 

 同じクラスの美少女に教室外で話しかけられるとか、そんなラブコメみたいな経験が現実に体験できるわけがない……!

 やはりベストプレイスは中々見つからないからベストプレイス足り得るということか。木刀の竜も紆余曲折を経て流離うわけだ。

 

 しかしよみがーえーれー、とうたわれることも無く現世へ舞い戻ってきた俺からしてみれば、そもそも同じクラスだからと言って声をかけられること自体がイレギュラーの塊。

 普段からコミュニケーションブレイクダンサーを地で往く俺が、多数に囲まれることもないからと内弁慶を発揮した結果、後日に面白可笑しいネタの生き証人として晒される黒歴史に既にいろいろ学んでいる。

 違うんだっつっても裏目に出るばかりでハイ残念。

 喩え純朴そうな美少女が対象であったとしても、その対応を間違うことは二度目の死にも直結する。

 見極めろ、全てを……っ! 正義のその奥にだって闇が潜んでいるものなんだ……っ!

 

 

「えっと、戸塚彩加(さいか)です。よろしくね、比企谷くん」

 

 

 と、俺の人間観察力にも引っ掛からないレベルの、裏のない笑顔で挨拶された。

 ……え? なに、この子、天使……?

 

 

 

  ☆

 

 

 

「天使なら私がいるじゃないか」

「いや、お前みたいなパチモンじゃなくて、マジモノだよ。こう、微笑むだけで祝福を振りまくような? 浄化するレベルで信仰心促せるような奴。なんていうか、もう、尊い……」

「拝むな拝むな」

 

 

 明後日の方向へ滂沱しつつ掌を合わせるハチマンに、柄にもなくツッコミを入れてしまう私がいた。

 お前ら悪魔ってそういう行為は自傷ダメージになるのではなかったか……?

 

 

『ハチマンさん! 天使にほど近い美少女ならここにもいますよ! ホラ!』

「アーシアはそっちで力の扱い方を教えておいてどうぞ」

『私の扱いがおざなりすぎじゃないですかねぇ……?』

 

 

 妥当だとは思うが。

 居候を初めてからこっち、アーシアは町へ散策に出かける以外はハチマンの家でゴロゴロしてるか私と一緒に家事を手伝うかのどちらかだ。

 本職の悪魔祓いに働けと命じても碌な結果にはならないのだろうから半ニートでも道理としては問題なさそうだが、家事手伝いを自分で言うことは花嫁修業とは言い難い。というか、見た目がニートでは心理的に駄目だろう。

 しかして不法滞在に近しい立場の外国人ふたりが、外へ働きへ出ることが難しいこともまた事実。

 ハチマンの(マスター)であるセラフォルーの話では、私だけでも嫁の学校へ転校できる手続きをしている最中らしいのだが……、この半ニートから目を離してもやはり碌な結果にもならないのであろうことは明白なので、せっかくなのでこの自称系天使美少女とやらも道連れにすることを提案してみたのだが、なんだか愉快気に承諾されてしまったのはつい最近の話。

 ……そういえば、この話はハチマンは知っているのであろうか。

 

 そんな私たち、というかアーシアへハチマンが仕事を命じたのが今日の話だ。

 日頃より働きたくないと嘯くハチマンであるが、その実能動的に活動する性格であることは既に把握している。

 というか、比企谷家が根本的にそういうバイタリティ溢れる血筋らしく、他人のことに無意識的に世話を焼こうとする傾向にある。

 そこを覗いてしまえば随分と善性な一家なのだが、元より人間のキャパシティは広くなく、それなのに他人様の手助けに精を出して悪くもない結果を引き出してしまうために更なる依存を誘発し、……結果として、ご両親の行動力の方向性は中々家族へは向き難い。

 今回の事態はそんな、ハチマンが言うところのシャチクコンジョウという血筋(モノ)を発揮した結果なのだろう。

 以前にはぐれ悪魔から助けた少女に、神器の使い方を教えて欲しい、というアーシアへの仕事は。

 

 

「ほら、遊んでないで見てやれよ。あーしさんも若干手持無沙汰な感じだぞ」

『とは言いましても、私たち言葉が通じませんので間にハチマンさんが欲しいのも事実なんです。ラウラさんといちゃいちゃしてないでこっちにも顔を出してくださいよー』

「イチャイチャはしとらんわ。しょーがねえなぁ」

『まってましたぁ! いよっ! ハチマンさんの! ちょっといいとこみてみたいっ!』

「やる気なくなるからそういうのやめて?」

 

 

 何故に彼女のことを『あーしさん』などとややこしくなりそうなあだ名で呼んでいるのかは不明だが、紹介されたミウラユミコという彼女は神器使いであったらしい。

 本人の望む聖剣、明確には聖なるオーラを纏った武器を精製出来る神器(セイクリッドギア)。確か名称は、『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』とか言ったか。

 ………………あれっ? 私の上位互換じゃないか?

 

 そこはかとなく自身の存在意義が揺らぎかけている事実に打ちのめされている一方で、ハチマンはふと明後日の方向へと顔を上げた。

 

 

「……あー、丁度いいサンドバッグが出たっぽいな。先行するから後から来てくれ」

 

 

 そんなことを呟いて、足元に転送魔法陣を一瞬で描き、さらりと姿が掻き消えた。

 ――いや待て、せめてもう少し余韻を残せ!

 

 

 

  ☆

 

 

 

 それは悪意の顕現であった。

 

 まず目立つのは植物のツタが絡まった、新緑が青々と瑞々しい全体図だ。

 例えるならばポ●モンのモン●ャラだが、その『怪物』は大らかに睥睨すると人の形に酷似している。

 腕と思しきツタが蠢く諸手を掲げて、獲物を絡め捕ろうとする様相には人相手では感じられない、命の本能を酷く刺激する醜悪なまでの嫌悪感を覚えさせた。

 

 ――そう、それは『獲物』に襲い掛かっている。

 

 植物は其処まで機敏には動かない。

 ハエトリグサなどの食虫植物でさえ、獲物を粘着性の液汁で絡めて動きが鈍ったところを数秒かけて挟み込む。

 機敏に活動することを求めない代替えとして持続的細胞分裂を備えたのが植物の定義である以上、そのまるで意思を持って襲い掛かっているツタは植物では無い。

 その絡まった怪物の『奥』、または其処ではない何処かに、『そうせよ』と意図を以て活動を促している『何か』あるいは『誰か』が存在するのであろう。

 

 さておき、無数にツタ状の『何か』が蠢いて絡め捕ろうとしている獲物は、一言で云えば美少女であった。

 

 ――またかよ、という意見は黙殺する。

 触手プレイとか好きだろお前ら?

 その対象が美少女だから興奮するんだろ?

 それでも文句があるならば、聞こうか(脱衣。――

 

 ――続ける。

 ツタ状の何かは彼女、便宜的に『彼女』と呼ぶが、彼女の全身を絶妙な力加減で拘束している。

 無駄な肉が一切ついていない華奢な胸や腹に、柔らかそうだがしかしか細い腕や太ももへ、それは蛇かロープのように背後から絡まっている。

 引き摺られることに抵抗をし、前へと逃れようとするその心理はわからなくもない。

 現状でさえ自由が利かないのに、謎の塊へと引き込まれでもしたらどうなってしまうのか、わかりようもないしわかりたくもないことは納得がいく。

 そして植物ではないと先に定義したにも拘らず、繊維としての性質を兼ね備えているのか引き千切ることも容易くないらしい。

 

 敢えて言わせてもらうと、非常に扇情的な絵面が其処に完成していた。

 

 ぎゅるぎゅると締め付けて身動きに不自由を牽引し、彼女を意図的な危機感以上に羞恥も重ねて赤面を促す。

 間違いなく天才か、特殊な性癖を伴った紳士の御業である。賛辞を贈りたい。

 

 

「……っ、ぁ、やぁ……っ!」

 

 

 彼女の口から、遂に悲鳴が自然と漏れた。

 ツタは締め付けを強めて、じゅるぃ、と彼女の胸部を徒に這い蠢いた。

 ――おかしい、此処は年齢制限板では無かったはず――。

 

 

 

 

 

「――何してやがるテメェキーーーーーーック!!!」

 

 

 

 

 

 そんな空気を正面からぶち破ったのは、他でもない主人公だった。

 モンジ●ラモドキの真正面から、本体へ向けて飛び蹴りを噛ましたのだ。

 

 一歩目で赤熱し、

 二歩目で空気を裂き、

 三歩目で推進力を伴う驚異の突破を促す。

 

 まさに完璧なライダーキ●クを再現して見せたその男こそ、我らが主人公・比企谷八幡その人である。

 もうすこしやすんでいてもよかったのよ?

 

 

『うびゃあああああああああ!』

 

 

 咄嗟の威力に防御も間に合わず、思わず少女の拘束を自然と解き吹っ飛ばされる怪人。

 何やらちょぼらうにょぽみ系の悲鳴が響いた気がしないでもないが、気にしないことが精神安定の秘訣である。

 

 

「大丈夫か戸塚!?」

「ハァ……ハァ……っ、う、うん、ありがとぅ…………あ、あれ? 比企谷、くん……?」

 

 

 なんだか救助に入った理由が今回は明白だった。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 街中に念のため、と張り巡らせていた魔力波の反響観測から、またもやはぐれ悪魔が出たらしいので現場へ急行してみれば本日天使認定したばかりのクラスメイトが襲われていた。土地を管理とやらしているなんとかって貴族はホント何してんだよ。

 初めは戸塚が襲われている、などとは気づくはずも無く、そもそもが単独で動き始めた悪魔の反応が、人を襲うつもり満々の反応を返していたから現場へ急行した理由に他ならない。

 そもそも、先日のあーしさんの被害からも、管理者が碌に働いていない場合もあると判断しただけでしかないからな。

 そうやっていて正解だったわけだが。

 

 さて勢いで吹っ飛ばしてしまったが、今の俺にこれ以上に戦う能力は無い。

 本当はもっと背後からネチネチと狙撃するみたいに何処かのキリツグさんみたいな『勝てるやり方』を組むことが正解だったのだろうが、やってしまってからはもう遅い。

 しかし戸塚があんな目に遭っている事態を、見過ごすことなどできやしなかったのも事実で。

 やはり感情の赴くままに動くのは間違っていたのかもしれない。後悔などはしてないが。

 

 

「さぁて、かかってこいやァァァァァ!!」

 

 

 いつもの自分らしくもない、心なしか自棄も相俟った気持ちで吠えて見せた。

 男ってやつはなぁ、泣いてる女の子の側に立てれば、それだけで満足なんだよォ!

 

 

 




いっかい何も考えずに書いてみた方がいいのかもしれない

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