爆発!爆裂!ゼロの紅魔族!!   作:もんえな

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#02 ルイズの道

 

 

 

 ルイズは泣きじゃくっていた。それはもう長い間。

 授業中、散々周りからバカにされても少し怒鳴るか無視するかで我慢していたルイズ。だが進級にも関わる大事な使い魔召喚の儀で失敗した結果溜りに溜まったものが、ついにルイズの中で溢れてしまった。

 そして逃げ出した。

 我ながら本当に無様に、逃げ出してしまった。

 そんな自分が悔しくて、自分を変わらず笑いものにする奴らが腹立たしくて。

 自室へ逃げ込んで、とにかく泣き腫らした。

 

 ―――しかししばらくして。

 誰かから部屋のドアがノックされた。

 おそらくコルベール先生じゃないかと警戒したルイズだが、そういう訳でもなさそうだ。なぜなら教員側の立場だとしたら、ノックなんてする必要がない。ズカズカと踏み込んできて説教すればいい。

 ルイズは授業中に逃げ出した叱るべき生徒。それぐらいしてきたって何もおかしくない。

 なのにしばらくしても、誰かが入ってくる気配はなかった。

 しかし代わりに。

 突如、その声が飛んできた。

 

「あのー。サーモンなんとかで召喚? された私ですけど。いますかー?」

 

 それはあまりにも予想外な相手の声だった。

 使い魔召喚の儀式で、ルイズが召喚してしまった子供の平民。どう考えても偽名だが、めぐみんなどとふざけた名前を名乗る少女。

 壁越しではあるが間違いなく彼女の声だとルイズは確信した。

 なぜか来たのか。分からない。

 自分を元いた場所に返せと、怒鳴りにでもきたのだろうか。

 仮にそうだとしても返す手段をルイズは知らない。

 だからルイズは、これも無視することにした。あの子には悪いことをしたと思うが、それはお互い様だ。ルイズからしてみればあの子が召喚のゲートを潜ってしまったからこんなことになったのだ。

 自分にはもう関係ない。そう思い込んで耳を塞ぐ。

 

 だが、ルイズはすっかり忘れていた。

 授業から逃げ出し自室に逃げ込んだ際、部屋の鍵を閉め忘れていたことを。

 

 ガチャ、とドアノブが傾き、部屋のドアが開く。

 えっ、と驚愕しベッドの上で蹲っていたルイズと、ずかずかと平気で入り込んでくるエセ貴族の格好をした平民。

 彼女はルイズの姿を確認すると―――カァッ!! と目を見開いた。

 まるでその赤い瞳が輝いたようにさえ見えるほどの気迫を漂わせて。

 

 

「我が名はめぐみん!! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法!! 爆裂魔法を操る者ッ!!!」

 

 

 ……さっきも聞いた気がする自己紹介を突然叫び出した。

 むしろさっきより声量が上がっているかもしれない。

 

「ふふん、聞きましたよ。この私を使い魔として召喚した、と。あまりの強大さ故、世界に疎まれるほどの我が力、汝も欲するのだな」

 

「……え? は、え?」

 

「ならば! 我と共に究極の深遠を覗く覚悟をせよ! 人が深遠を覗く時、深遠もまた人を覗いているのだ……」

 

 ……………………。

 決まった……、とでも言いたげなドヤ顔で固まるめぐみんと、言葉も出ず硬直するルイズ。

 共に沈黙することたっぷり10秒。

 

「……帰ってくれる?」

 

「か、帰る場所がないんですよ!」

 

 ジト目で睨みを利かせるルイズに、たぶんこっちが素なのだろう慌てた様子で腕を振るめぐみん。

 だが、正直ルイズはこの変てこ娘の相手をするような気分では到底なかった。今まさに、鍵を閉め忘れていた過去の自分に深い反省を抱いているところである。

 

「とりあえずそちらの事情は先ほどあのハゲ頭にお聞きしました。あなたは私を使い魔として召喚したという話ではありませんか! うん! 大当たり! 大当たりですよ! これ以上ないほどの大当たりです!」

 

 一体どこが大当たりなのか。まったくルイズには理解できない。

 というかこの子、自分を売るのに滅茶苦茶必死になっているように見えるのは気のせいだろうか。

 

「私の方は準備オーケー、ばっちこいですよ! 契約だろうが何だろうが受けてやろうって話です! さあ! さあさあ!!」

 

 ルイズがいない間にコルベールと何を話したのか、やたら使い魔契約に乗り気を見せる平民。

 だがルイズはそれが嫌で逃げ出したのだ。

 やたらテンションが高い彼女から目を逸らす。

 

「結構よ。私はあんたと契約する気なんてないから」

 

「え!? そ、それは困ります! さっき言いましたけど、私帰る場所がないんです! あなたが契約していただかないと私も寝床がなくて困るんですよ!」

 

「なによ、それ。結局自分のためじゃない。大体、どうして平民のあんたなんかと……」

 

 ルイズは、自分が子供みたいな我儘を言っているのは十分承知していた。

 使い魔の再召喚は認められない。

 その事実がある以上、このまま目の前の平民と契約を結ばなければルイズは留年。そうなった者の多くが学院をやめているため、実質退学の烙印を押されるようなものだ。

 それを避けるには今すぐにでも契約するのが一番。よく分かっている。

 

 だが……今まで周囲から受けてきた嘲笑の数々。

 失敗だけが積み重なる虚しい爆発。

 それでいて召喚した使い魔はこんなヘンテコな平民で。

 ―――もう、別にいいやとさえ思えてしまった。心は磨り減ってしまい、ついに決壊した。

 きっと多くの人の期待を裏切ることになる。父や母はもちろん、姉達からも。でもそれ以上に、孤独に耐え続ける今この時のほうが、ルイズには辛く重たい時間だった。

 別にいい。留年だろうが退学だろうが。

 しかし、

 

「おや? あなた、もしかして泣いていたんですか?」

 

 いつの間にか近づいてきていためぐみんが、ルイズの顔を覗き込んでいた。

 慌てて後ずさりしながら距離を取るルイズ。

 

「目元が大分赤くなっていますよ。どうして泣いていたんですか?」

 

「あんたには関係ないでしょ! もういいから出て行って!」

 

「えぇ……そういう訳にはいかなくてですね……」

 

 プイッとそっぽを向くルイズ。後ろからはめぐみんの困った声が聞こえるが、ルイズには知ったこっちゃない。

 だがめぐみんにも引けない理由があった。彼女は負けじとルイズの正面に回りこんでくる。

 

「よければ私に聞かせてくれませんか? あなたが泣いていた理由」

 

「しつこいわね! それで私の相談にでも乗って、契約までしてやろうって魂胆なんでしょう!」

 

「うっ! い、いやぁ? そんなことは……ないことも、ないですが……で、ですが! 中庭でも少し涙を見せていたので。純粋に心配しているというのは事実です、はい」

 

 なんなんだこのめぐみんとかいう少女は。ルイズは段々目の前の少女にイライラしてくる。

 だが、いいだろうと思った。そこまで聞きたいなら話してやろうじゃないかと。

 それを聞いた上でどうしようもないことだと納得させれば、めぐみんも諦めるに違いない。

 

「……分かったわ。どうせあんたに話したところで何も変わらないし、聞かせてあげる」

 

 

 そうしてルイズは、ポツポツと自身の境遇をめぐみんに打ち開けた。

 何よりも、魔法が一度も成功せず、あんたを召喚したのだって失敗なんだと。

 努力しても、努力しても、いくら努力しても、結果は失敗ばかり。報われることなんて一度もない。

 その純粋な思いを、有りっ丈を話してやった。

 

 

「ふむ……なるほど」

 

 聞き終えためぐみんは、考え込むように顎に手をやる。

 ルイズはほとんど拗ねた子供みたいに膝に顔を埋めている。

 

「分かったでしょ……もういいのよ、私なんて」

 

「……ルイズ。一度、あなたの魔法を見せてもらえませんか?」

 

 飛んできたのはあまりにも予想外な言葉。

 はぁ? とぼやきながら顔を上げると、めぐみんは尚も難しそうな顔でいる。

 

「失敗するといいますが……どういうものなのか、イマイチ判断できません。この目で見てみたいです」

 

「……はぁ、一度だけよ」

 

 何が納得いかないのかは知らないが、そこまで言うならとことん自分の悪いところを見せてやると、ルイズは魔法の杖を取り出す。

 狙いは何でもいい。そもそも狙いだって正確にいかない。とにかくいつも目の前で爆発が起こる。ただそれだけ。

 ルイズはぐっと指先に力を込めて、精神力を集中させると―――やるならいっそ、派手にやってやろうと。全力で杖を振り下ろした。

 唱えた魔法は『ロック』。鍵がある扉を遠距離から施錠する、ただそれだけの魔法。

 ―――結果。

 バゴンッ、という爆発音はいつも通り。

 部屋の真ん中で突如強力な爆発が巻き起こり、家具とかその他諸々に結構な損害を与えた。爆発の粉塵が部屋中に舞い上がり、ものの一瞬で綺麗に整理整頓してあったルイズの部屋がぼろぼろに。

 こうなるためいつも部屋の中では魔法を使わないようにしていたが……別にいいと思った。めぐみんを納得させるためというより、どうせしばらくしたら自分はここからいなくなるのだからと、ほぼ完全に諦めていたから。

 煙が少しずつ晴れていく中、ルイズは虚ろな瞳で、ただじっと爆発した箇所を眺めていた。

 

「これで分かったでしょう。私はどんな魔法を唱えても、必ず爆破が起きてしまう。魔法の才能なんてマイナスまで突き抜けた、正真正銘本物の落ちこぼれなのよ……」

 

 自分で口にして、自分に戒める。これが正しい評価なのだ。

 めぐみんもようやくこの有様を見て諦めたか、じっと黙っている。ならばさっさと出て行けと、一言言ってやろうと思った。

 だが、なぜか。

 振り向いたとき、ルイズの目に映ったのは―――爛々と瞳を輝かせる、めぐみんのすがたであった。

 

「す、すごい……すごいじゃないですか! ルイズ! まあ私の爆裂魔法には遠く及びませんが、これはすごいことですよ!」

 

 めぐみんの口から漏れたのは、なぜか賞賛の言葉であった。

 

「どんな魔法を唱えても爆発する!? なんてうらやまっ……い、いえ! 素晴らしい体質なんでしょう! なにが失敗ですか! 十分凄いじゃないですか!」

 

「……なに? あんたバカしてる?」

 

「いえまさか! しかも威力の制御が利くから考えようによっては一日に何発でも撃ち放題! あっ、でも一撃必殺の強力な爆裂を起こしてこその芸術の散華もやっぱり捨てがたいです!! どっちがいいんでしょう。どっちだと思いますか!?」

 

「な、何のこと言ってるのよ! 知らないわよ!」

 

 鼻息を立てながら物凄いテンションで熱く語りかけてくるめぐみん。

 ルイズはただ困惑する。なんなんだコイツは。

 今まで自分の魔法を見たら呆れるかバカにして笑い飛ばすか、その両者しかいなかった。こんな風に褒めてくるやつなんて初めてだ。

 一瞬、嫌味でわざとそう言ってるだけかとも思ったが、

 

「これはまさか……この世界で言うところの爆裂魔法なのでしょうか!? 威力はどのように変動するのでしょう、元魔法の詠唱の長さでしょうか?」

 

 嬉々として語るその様子に、陰りは一切感じられない。

 純粋に、目の前の少女は『すごい』と感じて口に出している。そんな様子がルイズにも伝わってくる。

 

「な、なんなのよあんた……」

 

「しかしルイズ! これはきっと天啓に違いありません! 他の魔法が全て爆発にすげ変わる? それは即ち他の魔法には覚える価値すらないということ! ルイズにその力を与えたどこかの神様に私はとても共感を覚えます! 運命(さだめ)なんですよ! この私と共に爆裂道を歩むという永劫より続く運命(さだめ)!!」

 

「ちょ、ちょっと!? 顔近いわよ!」

 

 興奮気味に顔を寄せてくるめぐみんをぐいーっと引き剥がす。

 何が彼女をここまで熱くさせているのだろうかと、ルイズは疑問に思う。

 ただの失敗魔法。爆発。

 煙を撒き散らし周囲を散らかすだけの、迷惑極まりない魔法と呼べるかも分からない粗悪品。

 彼女はこれのどこにそこまでの魅力を感じているのか。ルイズには到底理解が及ばない。

 

「しかし……ふふ、そうですか。ルイズ、私があなたの元に召喚された理由が、何となく分かりましたよ」

 

「え?」

 

「即ち! この私こそが爆裂魔法の真の使い手だからこそ! これから生まれようとする爆裂の担い手が、芽吹く前に摘み取られようとするのを阻止するため! そういう事なんですね!?」

 

「だから何言ってんのよあんた!」

 

 突っ込んでも突っ込んでもキリがない。

 しかしルイズは知らなかった。目の前にいる少女―――爆裂娘ことめぐみんが、爆裂にどれほどの情熱を掛けているのかを。

 めぐみんは意気揚々と自身のマントをはためかせた。

 

「よし! いいでしょう! ルイズ、これから私がとても良いものを見せてあげます!」

 

「は? いいもの?」

 

「そうですとも! あなたが決して落ちこぼれではないという、その証明です!」

 

 訳の分からないことを言い放ち、めぐみんはその場で身を翻した。

 部屋の窓際へと一目散に駆け寄り、ルイズの許可もなしに勢いよく開け放つ。夜風が僅かに入り込みすっと頬撫でた。

 めぐみんは自身が握り締める大きな杖を夜天へと掲げるが如く振り上げる。

 高らかに宣言するように、彼女の声が響き渡った。

 

「爆裂魔法は最強魔法。それを扱う私を召喚したという時点で、あなたは決して落ちこぼれなんかではないということです! というか爆裂を愛する者に落ちこぼれなんていませんとも!」

 

「別に愛してないわよ! っていうかあんた、魔法が使えない平民なんでしょう!? いい加減その貴族ごっこはやめて……、」

 

 ベッドから立ち上がり、とりあえず奇行を繰り返すめぐみんを落ち着かせようとするルイズだが。

 めぐみんはこちらを制止するように空いた手を突き出してくる。

 帽子の下からは赤い瞳が覗き、全てを見抜くように煌めいていた。

 

「貴族だの平民だのは分かりませんが、私が扱えるのは爆裂魔法ただひとつ! 過程は違えどあなたと同じようなものです」

 

「え……?」

 

「まあ見ていてください。あなたが失敗魔法だと語るその爆発が、極めた先にどれほどの変貌を遂げるのか。私が見せてあげましょう! その先にある真の爆裂というものを!」

 

 高らかに声を張り上げ。

 めぐみんは―――つらつらと、それを紡ぎ始めた。

 

「―――黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆を望みたもう……」

 

 そこでルイズは己が目を疑った。

 めぐみんの足元に―――炎のような、紅蓮の陣が突如として浮かびあがった。

 彼女が掲げる杖の先端には、とても邪悪な力を感じさせる黒色の奔流が渦を巻いて集束され始める。

 

「覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!」

 

 それを一瞬、ルイズは魔法かと思った。

 自分や他の生徒が勝手に勘違いしただけで、彼女はやはり正真正銘のメイジなのではないかと。

 だが違う。本能がそう囁きかける。

 これはルイズが知っているような魔法じゃない。別の何かだと。

 

「踊れ、踊れ、踊れ……我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!」

 

 闇の奔流は着実に彼女の杖へと集束し、その真なる形を現そうと脈動するように膨れ上がる。

 ルイズに駆け抜ける、全身を突き抜けるような重いプレッシャー。

 神聖にも邪悪にも映り、神々しさまでを感じさせるその光景に、ルイズは目を奪われた。

 ただ、釘付けとなる。

 自分と同じような背丈の、小さな女の子。だけどその背中はあまりにも大きく見えて―――。

 

「これが人類最大の威力の攻撃手段! これこそが究極の攻撃魔法! ルイズ! あなたが決して落ちこぼれではない証拠がここにあります!」

 

 めぐみんは世界全てに轟かせるように、高く高く、"それ"を解き放った。

 

 

「エクスプロォオオオオオジョン!!」

 

 

 閃光は一瞬であった。

 杖の先端に集束したエネルギーは、溶岩のように赤い紅蓮の爆炎へと姿を変え。

 一筋の光となって、天高くへと撃ち上がった―――その直後。

 遥か先。

 学院の石壁を跨いだ、草原のど真ん中へと光は一直線に落下して。

 

 ―――爆発。

 いや、それは"爆裂"だった。

 

 静かな草原の大地に降り注ぐ、まるで神からの鉄槌。

 爆裂の衝撃波は、草を、大地を、風さえも食い殺し、あまりの威力に部屋の中がガタガタと揺れる。

 響く轟音は思い出したかのように一瞬遅れて学院の方まで届き、耳を塞ぎたくなるような爆音が響き渡る。

 

 その決して美しいとは言い難い刹那の爆裂を目にして―――ルイズは、自分の中の常識が、一変にひっくり返るような衝撃を受けた。

 一度も成功したことがない魔法。

 唱えても唱えても、先にあるのは生産性のない爆発のみ。

 それがルイズを苦しめてきた。ルイズにとって、自分の"失敗"魔法はただの巨悪でしかなかった。

 だが。

 目の前の少女は言う。

 それは決して、失敗なんかじゃないと。

 その道の先には、これほどの大きな未来が待っているのだと。

 ―――ルイズの可能性を、見せてくれた。

 

 あまりにも野蛮で、ただの破壊力しか秘めない爆裂の輝き。

 だがルイズは、その輝きから目を離せなかった。まるで自分の目の前に舞い降りた天使のようでもあった。

 ザワザワと、学院の中が一気に騒がしくなるのが分かる。生徒達は窓から顔を出し、野次馬のように外を見る。一体何が起きたのだと、夜中にも関わらず喧騒に包まれる。

 学院の外側にできた、ここから見ても分かるほどの巨大な地面の窪み。灰色の煙が立ち上がるそれを尚もルイズは呆然と見つめていた。

 ルイズに背中を向けたまま、めぐみんは言う。

 

「どうですか? ルイズ、これが爆発の先にある真の爆裂です。あなたにはここに至るまでの道筋が、きっと見えているはずです」

 

 彼女は杖を下ろし、こちらに振り向いてくる。

 今まさにあれほどの衝撃を巻き起こした張本人とは思えない、歳相応の少女の顔をしながら。

 

「この輝きを見れば、他の魔法なんてどうでもよくなるんです。どうしても魅了されてしまうんです。ルイズ、あなたはどう思いましたか? あの圧倒的なまでの火力と破壊力。見えませんか? "輝き"が」

 

 ―――見えた。

 はっきりとそう言える。

 あの輝きはまさに、真っ黒な霧に囚われようとしていたルイズの心に、明るい光を照らし出した曙光であった。

 

「道の歩み方が分からないのであれば、この私がいくらでも先導しましょう。他の魔法みたく決してあなたを拒んだりしません。なぜなら爆裂道は来る者拒まず、全てを受け入れるのですから」

 

 めぐみんの手が、そっとルイズに差し出された。

 それは救いの手にも見えて、閉ざされた心の扉を開く希望へのドアノブのようにも思えて。

 

「ルイズ。私と共にこの爆裂道を歩みましょう!」

 

 ルイズは一切迷うことなく、めぐみんの手を―――、

 

 握れなかった。

 

「え?」

 

 つい素っ頓狂な声がもれる。

 ルイズがめぐみんの手を握ろうとした瞬間……唐突に、めぐみんは真後ろへとぶっ倒れた。

 受身の一つすら取らず、後頭部から思いっきり床に激突する。

 

「ぷぅぇ……げ……げんかい、デェス……」

 

 全身をプルプル震えさせながら、今にも途切れそうなかすれた声でめぐみんは呟く。

 

「かっこよく締めようと思いましたが、やはり魔力が底を尽きれば身動きができません……」

 

「ちょ、ちょっとどうしたのよ! 顔が青いわ!」

 

「我が奥義である……爆裂魔法は、その絶大な威力であるが故に、消費魔力もまた絶大……」

 

「魔力? 精神力じゃなくて? って、そんな場合じゃないわ! 大丈夫なのあなた!?」

 

 慌てて駆け寄ったルイズは、めぐみんの頭を膝枕をしてあげてやつれ切った顔を覗き込む。

 と、何の脈絡もなく突然めぐみんのお腹辺りから『ぐぅ~~~』とバカでかい音が響いてきた。

 

「おぅふ……そうでした。三日三晩何も食べていないんでした……。どうりで身動きが取れないだけでなく、視界までどこかぼんやりと……」

 

「ああちょっとしっかりしなさいよ! え、ええっと、とりあえず保健室に連れてった方がいいのかしら」

 

 慌てるルイズに、しかしめぐみんはふっと笑いかける。

 それはさながら聖母のようであった。

 

「大丈夫ですよルイズ。それよりも、使い魔契約とやらを早く結んでください。その後にでも、とりあえず何か食べさせていただきたいです」

 

「で、でも大丈夫なの? 本当に辛そうだけど……」

 

「空腹はともかく、動けなくなるのは慣れてるので……あ、そうそう。使い魔契約を結んだ暁には、是非一日一回、私自身の訓練も兼ねて爆裂魔法を撃たせていただきたい所存……」

 

「こんな状況でよく言えるわね! あなたホント頭おかしいわ!」

 

 つい怒鳴ってしまうルイズ。だが……その表情は柔らかく微笑んでいた。

 ついさっきまではこんな訳の分からない奴と使い魔契約だなんて、と思っていたが、それが嘘のようにルイズの心は晴れやかだった。

 この子が放った爆裂を目にした途端、ルイズは……悔しいが、彼女の言うとおり魅了されてしまったのかもしれない。

 一瞬にして全てを灰塵へと帰す、あの絶大なる威力に。その爆裂に。

 

 ルイズは自分の杖を再度握り締めた。

 

「まったく……じゃあ先に契約済ませるわよ」

 

「おお! やっと私と共に爆裂道を歩む決意がつきましたか!」

 

「う、うるさいわね! あんたがいると毎日飽きそうにないから、契約してやるのよ!」

 

 こほん、と一度咳払いして。ルイズは小さく杖を掲げる。

 

「……我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為なせ」

 

「ほう。なかなかセンスがある詠唱ですね。だが私の爆裂魔法に比べれば……って、あれ? なぜ顔を近づけるんですか? ルイズ?」

 

「い、いいから黙ってなさい! 私だって女同士でこんなことするの恥ずかしいんだから!」

 

 顔を赤くしながら目を閉じ、ゆっくり顔……というか、その薄いピンクの唇を近づけるルイズ。

 めぐみんはハッとした。

 

「ん? なんだか嫌な予感がします。ルイズ? その進行ルートはとても危険だと私は思いますが……まさか契約ってそういうことですか!? こっちが動けないのをいいことに! や、やめ、やめろォーーー!! ぅ、むぐくぅうううっ!?」

 

 コントラクト・サーヴァント。

 つまり、使い魔契約となる口付け。

 突然キスをされ暴れ出す……なんてことは当然できず、ピクリとも動けずに甘んじて受け入れるしかないめぐみんだった。

 顔を離すルイズ。両者の顔は真っ赤に染まっていた。

 

「な、ななななな、なんてことをしてくれたんですかァ!!」

 

「だ、だから仕方ないのよ! こういう形式なんだから!」

 

「それでキス!? キスですか!? この呪文を考えた奴はよっぽどメルヘンなやつ……うっ!?」

 

 突如としてめぐみんは体の一部―――主に左手の甲から、物凄い熱が伝わってくるのを感じた。

 とてつもない激痛。鉄板でも押し付けられたような熱い痛み。

 ……しかしめぐみんはのたうち回ることすらできず。

 

「うぎゃあああああああああああああああああああ!! 手がァ!! 手がァアア!!」

 

「ちょ、大げさよ! 使い魔のルーンが刻まれてるだけだから……って、あれ? もしかしてそんなに痛いの?」

 

 ルイズに膝枕されたまま、体はピクリとも動かないのにとりあえず絶叫するとてもシュールな光景を晒して。

 限界を超えた魔力消費に加え、猛烈な空腹とトドメとなるルーンの刻印を受けて、ガクッと白目を剥きながら気絶するめぐみんであった。

 

「……あれ? ちょ、ちょっと! しっかりしなさいよ! ねぇってば! ちょっとー!」

 

 学院が大騒ぎの中、ルイズの悲鳴のような叫びが部屋中に響き渡った。

 

 ―――こうして、突如として見知らぬ場所に来てしまっためぐみんはルイズとの契約を果たす。

 めぐみんの使い魔生活と新たな爆裂道が幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 




契約までの流れを改変したこともあって、元々一話だったのを二話に分割することに。
ここまでが一話としての区切りとしたいので、今回のみ続けて二話分の投稿となります。
次回からは不定期更新です。

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