Fate/avarus stulti   作:夜明色のイチカ

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03.噛み合った歯車

 未だに俯く敦から視線を外す。彼は、気づいていないであろう。

 初めて出会った当時から彼の両肩に、色濃く存在しているモノ()がある。

 誰のか、分からない両腕が二組。

 それは、煤のような黒く細々としていて、形が辛うじて保っている。

 弱々しい見た目に反して、その両腕から感じる念は強い。恐れを抱くほどに強くも悲しい、敦への執着を感じる。

 

 そういう類は他も含めて、此方が見えていると分かれば面倒くさい事になる事が多い。

 

 4ヵ月ぶりに対面で会った敦は、どこから拾ってきたのか憑き物が前回に見たときよりも増えてた。

 その事に(れん)は、思わず聞きそうになった事を飲み込んで曖昧な笑顔で見なかった事にした。

 

 あれらに同情しては、いけない。あれらに同調しては、いけない。所詮は、他人事。

 俺は人でなしだと自分に言い聞かせ(れん)は、それらの存在を認識から意図的に外し、徹底的に無視をする。

 

 おじじ様曰く、この眼は魔眼の一種であるらしい。

 この眼を通せば、他者には認識することのできない存在を見知る事ができるという。

 呼び方は様々とある。が日本では、このような眼を見鬼と呼ぶという。

 

 コツリとわざとテーブルに音を立てて、敦の前にマグカップを置いた。

 

 「ほら、ココア。熱々だから気をつけて飲めよ」

 

 こんな時に、どんな言葉をかければ良いのか分からず、悩んだ末に出た言葉は、ぶっきらぼうなものであった。

 

 ふと、鳴ったスマホを手に取る。そこには、(れん)宛てに兄から送られてきたメッセージがあった。

 どうやら泊りの用事が追加されたようで家族は、帰ってこないらしい。

 この後の予定が、いきなり白紙となった知られに(れん)は、この後どうしようかと考えながらマグカップを揺らす。

 揺らされたマグカップの中に入っている中途半端に残ったココアが、再び混ざり合いココア特有の甘い香りが鼻をくすぐる。

 その残りを一気に飲み干し、ちらりと正面に視線を向ければ同じくココアを飲んでいた彼と目が合った。

 

 目の合った敦は、しばし呆けた後に照れくさそうに笑った。

 彼を取り巻いていた影が消えた事に(れん)は、彼に気づかれない様に安堵の息をそっとついた。

 

 「落ち着いたか?」

 

 無言で頷いた敦に(れん)は、予め用意していた濡れタオルを渡す。

 

 「俺さ、空気を読むとか察するとか下手くそなんだよね。だからさ、思ってる事が、あるなら何でもいいから言葉にしてくんない?」

 

 と言い戯ければ敦は、嬉しそうに顔をくしゃりと歪めた。

 

 「せやね、言わんかったら分からへんな。その…いつも、ありがとうな…蓮」

 

 「そう言うこと。さっきの話しを聞いてる限りじゃ、何が何だか分からないんだけどさ。起きたら、周りの家族の様子が変って事でOK?」

 

 先程の話をざっくりと要約して聞けば敦は頷く。改めて蓮に視線を合わせた敦は、自分の思いを話し始めた。

 

 「蓮は、知っとるやろ。俺が養子だってこと」

 

 「ああ、中学の時に言ってたな」

 

 「まだ気持ちに踏ん切りがついてへんだけで、養子って事に不満はあれへん。やけど・・・なんか、自分だけ除け者にされとる気ぃすんねんで」

 

 そう言うと敦は、悔しそうな表情を浮かべながら話を続ける。

 

 「ほんで、朝起きたら何ぞの話し合いをしとったのに、俺がおる事に気づくと、その話をぴたっと止めて、皆んな口を揃えて何でもないって言うねん。それを聞くと、やっぱり俺じゃあ、あかんのかなって想うねん」

 

 

 敦が持つ白いマグカップとスマホを交互に眺めた蓮は、ただ疑問に思った事を口にする。

 

 「何で、お前じゃダメなんて思ったんだ?」

 

 何でと返した言葉に敦は、迷い気味に言おうとしていた言葉に(れん)は予想がついた。だからこそ、わざと話を被せる様に続けた。

 

 「あっ、前にも言ったけど、家族の条件が血の繋がりの有無とかの話なら、なしだから。それ以外の理由で、何でそう思ったんだ?」

 

 「あ、いや…俺が、その…頼りないから、相談できひんのなかって」

 

 不安気に瞳を彷徨わせながら言った言葉に、(れん)は何を当たり前のことを言っているんだと思い失笑した。

 だが敦は、その反応が気に入らなかったのだろう。表情が不安気なものから不機嫌なものへと変わった。

 未だに収まらない笑いをかみ殺し、(れん)は言う。

 

 「めちゃくちゃ、頼りないに決まってるじゃん。俺達まだ子供なんだから」

 

 「でも、もうすぐ大人やろ!」

 

 「いや、子どもだね。俺も敦も、まだ未成年だし、まだ青春していたいし」

 

 「何や、それ」

 

 俺の答えに敦は呆れた声を滲ませ、そして笑った。

 

 「それに、わざわざ言わないって事は、今は、まだ知らなくても良いって事なんだろ」

 

 「でも、俺は、それを知りたいねん」

 

 それでもと食い下がる。敦の心を表しているかのように、両手で握りしめるマグカップがカタカタと音を立てて震えていた。

 この時に、何かしらの慰めの言葉を本当ならかけるべきなのだろう。が、彼の葛藤に同情できない蓮は、慰めの言葉ではなく突き放すような言葉を返す。

 

 「なら直接、自分で聞くしかないだろうな。それが、今ある何かを犠牲にしてでも知りたいこと…であったら、だけどな」

 

 「お前さ、時々、ホンマに嫌な事を言ぃなや」

 

 「俺にとっては、他人事だしな」

 

 蓮は、でもと続ける。

 

 「俺でよければ、話ぐらいならいつでも聴くからさ。その初夢の話を聴かせてよ」

 

 敦が語った初夢の話。

 それは兄から来たメッセージでの書き込まれた夢のことと、蓮の見た夢とも内容がほとんど一致していた。

 

 偶然の一致。

 これは果たして、その一言で片付けてもよい事なのだろうか。

 

 また明日と敦を玄関まで見送った蓮の耳が、偶然に拾った不快なノイズ音。

 

 

 あるはずのない、世界の歯車の音が聞こえた。

 

 それは錆びた鉄が、擦れ合うような音に聞こえ。

 そして、甲高い誰かの断末魔のようにも聞こえた。

 あの初夢から、この世界は終わりに向かって加速を始めた。

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