Shadow Princess コズミックプリキュア After Story 作:k-suke
私立 ノーブル学園 女子寮
ゆい「許可は取りましたのでどうぞ入ってください」
全寮制であるノーブル学園においては、セキュリティの観点からもあまり部外者を入れるのは好ましくないのだが、さすがに今回は事情が事情である。
兎にも角にも自分を助けてくれた少女がボロボロの姿だったのだから、このままはいさようならというわけにはいかない。
そういった事情を寮に説明したところ当然あっさり許可が下りたのだ。
ゆう「了承する」
妙に淡々とした話し方、赤と青のオッドアイに日本人離れした白い肌にプラチナブロンドの髪。
それらから連想されるごく自然な感想をゆいはなんとなく尋ねた。
ゆい「あの、四季さんって外国の方なんですか?」
ゆう「肯定する。カナダの研究所で私は生まれた」
ゆい「へぇーっ、カナダの人なんですか。いつ頃から日本に来たんです?」
ゆう「回答する。この世界の時間で昨日の17時23分だ」
ゆい「は、はぁ…(変な話し方だけど日本語に慣れてないのかな?) あっ、お風呂はあっちです。着替えは用意しますし私も一緒に入りますから少し待っててください」
ゆう「了解した」
ゆいは多少首をかしげながらも、ゆうを浴場に案内し自分も二人分の着替えを取りに部屋に向かった。
30分後 はるかとゆいの部屋
バスタオルを1枚巻いただけのゆうが椅子に座りながら疑問を口にした。
ゆう「質問する。どこかボディに異常でも出たか?」
その質問にゆいは部屋の隅でいじけながら返事をした。
ゆい「いえ、なんでもないです…」
胸や腹の肉を弄り半泣き状態になりながら、ゆいはぶつぶつとつぶやいていた。
ゆい「えぇえぇそりゃあね、きららちゃんやみなみさんがそばにいるから分かってはいましたよ。でもやっぱり落ち込むなぁ…」
先ほどゆうに自分の服を貸したゆいだったが、服のサイズが全く合わなかった。
ブラウスはボタンが止まらないと言われ、スカートに至ってはずり落ちそうだと言われたのだ。
ゆう「確認する。この部屋は二人部屋のようだがもう一人はどうした」
そんなゆいに対して、部屋を見回していたゆうがなんとなく疑問を口にした。
ゆい「あっはい。ちょっと外出してるんです。そろそろ戻ってくると思いますけど… えぇと…」
多少気を取り直したゆいは机の上にあった1枚の写真を取り出した。
以前のファミリーデーの時に撮った写真であり、トワが来る以前のものではあるが説明にはちょうどいいと思ったのだ。
ゆい「この子です。春野はるかちゃんっていうんですけど、この子が私のルームメイトなんです。 グランプリンセスになるっていう子供の頃からの夢に一生懸命な子なんです。バイオリンとかバレェとかすっごく頑張ってるんです」
はるかに加えきららやみなみが写っているそれを見て、多少眼光が鋭くなったゆうだが、ゆいはそれに気づかずきららやみなみ、写っていないトワのことを説明していった。
そして一連の説明が終わった後、ゆうは写真を指差して尋ねた。
ゆう「…了解した。続けて質問する。ここに写っているこの三人は誰だ? 年齢に差がありすぎるようだが」
ゆうの指差した人たちを見て、ゆいは写真を覗き込むと少し笑いながら答えた。
ゆい「あぁ、はるかちゃんのご家族ですよ。ご両親と妹さんで離れて暮らしてるんです。 まぁそれで甘えたい盛りの妹さんが駄々をこねたこともあったんですけど…」
ゆう「理解した。私の姉も両親とは離れて祖父と暮らしていた。珍しい話でもあるまい」
淡々とした調子ながらも会話が弾んできたことにゆいは嬉しくなってきたが
ゆい「あ、お姉さんがいらっしゃるんですか? どんな人です?」
ゆう「回答する。 この少女より2年分ほど年上だ。祖父の世話に追われているらしいから、もう少し甘えてきてもいいとは父も言っていた」
そのどこかトンチンカンな回答にゆいは首をかしげることとなった。
ゆい「…あの、それじゃ妹さんじゃないんですか?」
ゆう「否定する。私より先に生まれた以上姉だ」
ゆい「はぁ…(やっぱりまだ日本語が慣れてないのかなぁ)」
そんな会話をしていると、壁に立てかけていたゆうのハープがパタリと倒れ、弦が切れる音がした。
ゆい「あっ、弦が… このハープといい、一体何があったんです?」
ゆう「回答する。先の戦闘において「敵」の戦力を見積もり損ねた結果だ」
ゆい「確かにそう言ってましたけど… 敵って…」
その時、寮の玄関の扉が開きはるか達の声が聞こえてきた。
ゆい「あっはるかちゃん達帰ってきたみたいです。ちょっとすみませんね」
軽く謝るとゆいははるか達を出迎えるべく部屋を出て行った。
それを見届けたゆうは、弦の切れたハープを拾い上げると部屋の中を見回した。
そしてあるものを見つけるとそれをケースから取り出し分解し始めた。
ゆい「おかえりなさい。どうでしたか?」
はるか達を出迎えたゆいは、間髪入れずそう尋ねた。
はるか「あ、ゆいちゃん。どう…って?」
ゆい「えっ? 変な手紙が来たからそれを確認しに行ったんじゃ…」
きらら「あ〜そうだっけ。悪いけど説明は明日にさせて…」
首をさすりながらのきららの言葉に、ゆいは不審感を覚えて改めて見回すと皆どこか歩き方が不自然だった。
ゆい「…まさか、怪我をしてるんですか?」
はるか「まあね。ちょっと色々あって…」
立っているのも辛いのか、痛みに顔をしかめながらのみなみの言葉にゆいはやりきれない思いだった。
ゆい「ディスダーク…ですか…」
トワ「…わかりません」
みなみ「ええ、わからないの。 一体何と戦ったのか…」
ゆい「ええっ!?」
てっきりプリキュアとしてディスダークと戦ったのかと思ったゆいだが、予想外の答えに思わず声を上げた。
ゆい「じゃあ一体何があったんですか?」
きらら「だからかなりややこしくて、うちらもよく事情がわかってないの。それも含めて明日にさせて。はるはるも今日は早めに休みなよ」
はるか「うん…」
はるかを気遣うように言い置くと、きららとトワは肩を貸し合いながら部屋へと戻ろうとした。
それを見たゆいはハタと思い出し、慌てて呼び止めた。
ゆい「えっ? あっそうだ。きららちゃん疲れてるところ悪いけど服貸して」
きらら「えっ? 服? なんで?」
みなみ「どうかしたの、ゆい? なんで服なんかが…」
ゆい「あっ、じ、実は…」
ゆいは帰り道であったことを簡単に説明した。
ガラの悪い男の人に絡まれたこと。
たまたま通りすがった女の子に助けてもらったこと。
今外国から来たらしいその子が部屋にいるのだが、お風呂上りに着る服がないこと。
ゆい「私の服だと… その、サイズが合わなくて…」
きらら「あ〜… オッケー、適当に持ってっていいよ」
みなみ「カナダから来た子か… 興味があるわね、異文化交流になるかも。ゆいを助けてくれたなら悪い人じゃなさそうだし」
トワ「是非お話をしてみたいですわ」
はるか「カナダの子か… 英語のレッスンになるかな… なんて名前なの?」
ゆい「あっ、私と似た名前で…」
〜♪〜♫〜♪〜〜♪〜♫〜♪〜♫〜♫〜♪〜♪〜♪〜
そこまで話をすると、ドアの少し空いていたはるかの部屋から美しくも冷たいメロディーが流れてきた。
ゆい「これあの子が? ハープは壊れてたはずなのに…?」
はるか「ふわ〜ぁ… 上手だね〜」
トワ「ふむ、なかなかのものですが… 心がこもっていない気がしますわ」
パフ「パフ? この曲は…」
アロマ「パフ、どうしたロマ?」
聞き覚えがあるというような表情をしたパフに、アロマは嫌な予感がしていた。
パフ「あの子の弾いてた曲パフ」
みなみ「あの子って…!?」
きらら「まさか!!」
パフの言葉に皆は血相を変えて部屋の中に飛び込んでいった。
ゆい「えっ!? 何?」
部屋に飛び込んだ一同は、椅子に腰掛け優雅にハープを弾いている少女を見て顔色を変えた。
アロマ「お、お前は!!」
みなみ「四季…ゆう…」
きらら「な、何であんたがここにいるのよ!!」
息せき切り興奮状態のきらら達とは対照的に、ゆうは極めて冷静に回答を返した。
ゆう「回答する。ゆいに連れられてきただけである。ボディの洗浄を提案され、有益と判断したためだ」
トワ「…本当にそれだけだと? ここの方達を人質にしたり夢を奪う意図はないとおっしゃるのですか?」
ゆう「肯定する」
疑惑の目とともに念を押すようなトワの言葉にも、ゆうは表情一つ変えずにあっさりと肯定した。
きらら「あんたね!! それではいそうですかって信じられると思う?」
当然と言えば当然というように声を荒げたきららに、はるかはなだめるように割って入った。
はるか「う、まあまあ、きららちゃん落ち着いて。変なことする気はないって言ってるし… あれ?」
そこまで言った時、はるかはゆうの足元に転がっているものに気がついた。
はるか「!! 私のバイオリン!! バラバラになってる!!」
大慌てでバラバラになったバイオリンを拾い集めたはるかは、半泣き状態になりながらゆうを睨み付けた。
はるか「う〜っ… なんでこんなことしたの?」
ゆう「回答する。私のハープをお前達が破損させたからだ。弦と使えそうなパーツで修理させてもらった。これが弁償というやつだろう」
はるか「えっ、あ〜… う〜…」
確かにゆうの服及びハープをボロボロにしたのは自分達であり、はるかはとっさに言い返せなかった。
きらら「いやいやいや、あんただって私らのことボロボロにしてくれたじゃん。こちとら服どころか殺されかけたんだからね!!」
ゆう「反論する。見逃そうとした私の警告を無視して攻撃を仕掛けてきたからだ。そうである以上自業自得である」
ジロリと睨み付けながらのゆうの言葉に、自分の言動を思い返したきららは返答に詰まってしまった。
確かにあの時、ゆう キュア・デッドは自分達に撤収するように警告を行っていた。
その言い草に腹を立て攻撃を仕掛けた(全く効かなかったが)ことは確かであるのだ。
ゆい「ちょっ、ちょっと待ってください!! 四季さん、あなたが戦った敵っていうのはまさか…」
自分そっちのけで繰り広げられる会話に戸惑っていたゆいだが、ようやく話の内容を理解できたらしく割って入ってきた。
ゆう「肯定する。私の敵はプリキュアあるのみだ」
ゆい「そんな…」
きらら「そいつの言う通りよ。手も足も出ないままとことん可愛がってもらっちゃったわよ」
ゆいが口を挟んできたことで多少余裕を取り戻したきららが吐き捨てるように叫んだが、それを聞いたゆうは首をかしげた。
ゆう「否定する。私はお前達を破壊しようとしたが、頭を撫でたり高い高いをしてやった覚えはない」
ゆい「…日本語って難しいですね…」
ゆうのどこかズレた言葉に、調子の狂ったゆいは脱力しながらその言葉を絞り出した。
しばらく沈黙の続く中、じっと考え込んでいたみなみとトワだがおもむろに口を開いた。
トワ「…質問してよろしいでしょうか」
ゆう「了承する」
トワ「プリキュアが敵だとおっしゃるのならば、あなたはディスダークなのですか?」
ゆう「否定する。そんなものは私とは関係ない」
あっさりと疑問を一蹴したゆうに、みなみは続けて尋ねた。
みなみ「じゃあ、あなたがプリキュアと、私達と戦った理由は何? ドレスアップキーが欲しかったわけじゃなさそうだし、目的はなんなの?」
ゆい「回答する。私はプリキュアを破壊するためのものであり、お前達がプリキュアだからだ」
はるか「…えっ?」
その身も蓋もない回答にはるかを始め一同は一瞬何も言えなかった。
きらら「…いやだから、みなみんは目的を聞いてんでしょ。なんの目的でプリキュアを破壊すんのよ!!」
戸惑いながらもきららは再度の質問を投げかけたが、ゆうの回答はけんもほろろだった。
ゆう「回答した。私はプリキュアを破壊するためだけに作られたものであり、それ以上の目的はない」
ゆい「つ、作られたって…? え?」
きらら「あ〜もう、わけわかんないことを!! まずさぁ、その話し方やめてくんない? 機械みたいでイライラすんだけど」
頭をかきむしりながら、淡々とした話し方にイラついたように叫んだきららに対して、ゆうは端的に答えた。
ゆう「肯定する。私は機械だ」
きらら「…は?」
一瞬何を言われたのかわからず、きららはきょとんとしてしまった。
はるか「機械…って、え? え?」
みなみ「ま、さか… あなた… ロボットだとでもいうの?」
信じられないというようにそう言うも、なんとなく皆には心当たりがあった。
先ほどの戦いの中で見せた、ゆうの圧倒的なパワー。
プリキュアに変身した自分達を、変身前にもかかわらず上回る驚異的な身体性能。
そして何より、右手の指からのマシンガンやワイヤー式ロケットパンチにミサイル。
いかにもロボットというような各種の武装から、どこかでゆうの言っていることが正しいと思っていた。
ゆう「肯定する」
アロマ「へ、変なこと言ってどういうつもりロマ!! お前はどっからどう見ても人間ロマ!!」
アロマのいうことももっともであった。
確かにプラチナブロンドのロングヘアに赤と青のオッドアイ。
透けるような白い肌に文字通り作り物のような美しさと、ゆうの外見的特徴は人間離れしている。
だが、それでもどう見てもゆうは普通の人間でしかなかった。
するとゆうはゆっくりと立ち上がり、アロマを鷲掴みにした。
アロマ「えっ?」
そしてバスタオルの胸元をはだけると、そのままアロマを抱きしめるように胸に押し付けた。
アロマ「い、いきなり何するロマ!?」
突然のことに顔を真っ赤にして大慌てをしたアロマだったが、すぐに真剣な顔つきになっていった。
アロマ「この音… お前本当に!?」
ゆう「確認する。了承したか?」
アロマ「わ、わかったロマ…」
パフ「おいいちゃん!!」
そんなアロマをパフは不機嫌そうな顔とともに、尾羽を掴んでゆうから無理やり引き剥がした。
アロマ「痛いロマ!! パフ、いきなり何するロマ!? 今大切な…」
パフ「…エッチ」
低い声とジト目でパフに睨まれたアロマは、先ほどの状況を理解し思わず吹き出した。
アロマ「変なこと言うんじゃないロマ!! 確認してただけロマ。こいつ心臓の音の代わりにモーターや歯車みたいな音が…」
パフ「パフゥ…?」
必死の言い訳にもかかわらず、パフの兄を見る目はどこか冷たかった。
トワ「なるほど、アロマも男の子ということなのでしょうか」
きらら「あーもう、トワっちも変に納得しない!! 服と下着ぐらいあげるからあんたもちゃんと着替えてよ!!」
混乱し脱線を始めた状況をなんとか収拾しようと、きららは怒鳴り散らしながら服を取りに自分の部屋に向かった。
その後きららの持ってきた服にゆうを着替えさせ、どうにか落ち着いた一同は改めてゆっくり話を聞くことにした。
なお、その際に上着の胸元が窮屈だとゆうが口にし、きららがさらに機嫌を損ねたのはどうでもいい余談である。
みなみ「あなたがロボットなのはわかったわ。そしてプリキュアを破壊するために作られたっていうの?」
ゆう「肯定する」
トワ「だから私達を破壊しようとした。そうおっしゃるのですか?」
ゆう「肯定する。私はそのためのものだ」
みなみ「…わかったわ、質問を変えましょう。あなたがプリキュアを破壊するものだというのならば、私達も戦わざるをえないのだけれど…」
ゆい「み、みなみさん!? ちょっと待ってください、四季さんはそんなに悪い人じゃ…」
ゆうをかばうように口を挟んできたゆいを押しとどめて、みなみは続けた。
みなみ「どうしてパフを人質に取らなかったの? …まぁ取るまでもなかったといえばそれまでだけど…」
その疑問に、ゆうは全く嘘のない目で堂々と言い放った。
ゆう「回答する。人質などという弱者の取る下劣な作戦など取るつもりはない」
きらら「…じゃあ何? パフを連れ去ったのは本当に私達を呼びつけるためだけだったっての?」
ゆう「肯定する。1日かけて検索した結果、あの場所ならば周辺の建造物及び人的被害が最も少ないと判断した」
きらら「…わぁ、気配り上手」
ゆうの回答にきららは呆れ気味にそう言うしかなかった。
トワ「ではもう一つ。なぜ今私達と戦おうとなさらないのですか?」
ゆう「回答する。先ほど戦闘を中断したが、戦闘力を再度解析した結果、お前達程度ならば今更破壊する価値もない。エネルギーが回復次第別の世界に向かうまでだ」
はるか「…ちょっと待ってよ。別の世界に…って、他の世界にもプリキュアがいるのは知ってるけど、それを破壊するっていうの!?」
以前、ハルモニアに招待された時に多くのプリキュアがいることを知っていたはるかはゆうに詰め寄った。
ゆう「肯定する。破壊するだけの価値があるプリキュアを破壊するためだ」
全く表情を変えないまま、淡々とした物騒な答えを返すゆうにアロマは食ってかかった。
アロマ「そんなことして何になるロマ? プリキュアがいなくなったらどうなると思ってるロマ!?」
はるか「そうだよ。ディスダークみたいな人達がやりたい放題やって、ホープキングダムみたいに夢を奪われた絶望の世界だらけに…」
アロマの言葉に同意し必死に訴えたはるかだったが、ゆうの返事は冷めたものだった。
ゆう「質問する。だからどうした? そんなものは私に何の関係もない」
ゆい「なっ!? 関係ないって…」
ゆう「私はプリキュアを破壊する死神であり、その結果を思索する必然性はない。それでなくともお前達レベルの存在がいなくなるだけで破滅するような脆い世界など、価値もそれなりのものでしかあるまい」
みなみ「!! そ、それは…」
ゆうの言葉に全員考え込んでしまい、しばらく何も言えなくなってしまった。
はるか「…それでもやっぱり我慢できない。他の世界のプリキュアを倒すっていうなら私達が絶対に止めてみせる!!」
堂々言い放ったはるかだが、ゆうは冷めた答えを返すだけだった。
ゆう「警告する。ボディの破損度合及びエネルギーの消耗具合を計算から除外しても、お前達の身体性能ならびに武装性能では私と戦った場合、勝利できる可能性は小数点以下切り上げで1%である。 それは理解しているか」
きらら「うぐ…」
みなみ「要するにゼロでないだけということね…」
屈辱に歯噛みしながらも、数時間前に手も足も出ないままに滅多打ちにされた身の上としては全く反論できなかった。
はるか「そ、それでも!! やってみないとわからないよ!! ゼロじゃないんだから!!」
必死に食い下がったはるかのまっすぐな目を、ゆうは正面から見つめていたが、しばらくして口を開いた。
ゆう「…了承した。私と勝負しろ」
その回答に一同はギョッとした。
ゆい「ま、待ってよはるかちゃん。しょ、勝負って…」
アロマ「ま、まださっきの怪我も治ってないロマ!!」
はるか「わかってる。でも、他のプリキュアを傷つけるっていうなら放っておけない!!」
そう言い放ち、全身に走る痛みを必死にこらえながらプリンセスパフュームを取り出したはるかだったが、ゆうがその手を掴んできた。
はるか「えっ!?」
ゆう「制止する。半病人と勝負するつもりはない。たとえ結果が見えていようとも全力を出した勝負の果てに破壊してこそ意味がある。 まずはボディの修復を完了させろ、勝負はそれからだ」
はるか「…それじゃ私達の怪我が治るまで戦わないの?」
ゆう「肯定する」
妙に正々堂々としたゆうに、一同は混乱し始めていた。
アロマ「う〜ややこしいロマ〜… はっきり言うロマ!! お前は悪い奴なのかロマ!?」
考え込んでいたアロマは答えを求めるように尋ねたが、それに対してゆうの回答はさらに混乱に拍車をかけた。
ゆう「肯定する。お前達が『正義』ならば、死神である私は『悪』となる」
その言葉に一同が頭を抱えている中、ゆいがおずおずと口を挟んできた。
ゆい「…あの、皆さんの怪我が治るまでしばらくかかりますよね。だったらそれまで四季さんは何もしないってことですよね」
ゆう「肯定する」
ゆい「こうおっしゃってますし、この人信用できると思うんです。ディスダークみたいに嫌らしさが感じられないというか… それに…」
先ほどガラの悪そうな男性に絡まれたときのことをゆいは思い返していた。
ゆい「何でもかんでも破壊するような悪い人だったら、あの人達だって殺してたと思うんです。プリキュアより強いなら簡単でしょうし…」
先ほどからの話からしても、ゆうがプリンセスプリキュアを圧倒するパワーを有しているならば、人間の五体を一瞬でバラバラに引きちぎることだって可能だろう。
だが、あの時自分に絡んできた男性達は大怪我をしただろうがそれで済んでいた。
しかも、きちんと事前に警告はしており、相手がそれを無視して殴りかかろうとしたからこそ反撃をしていた。
だから決してゆうは悪人ではないとゆいは思い始めていた。
みなみ「まぁ、ゆいを助けてくれたことは確かみたいだし…」
トワ「私という前例もあることですし、どんな形にせよプリキュアの力を持っておられる方を無下に追い出すのも…」
きらら「下手に追い出して他に被害出たら後味悪いしね…」
ゆいの言葉に、皆それぞれ仕方ないというような感想を口にしていた。
はるか「あっ、でも私のバイオリン…」
みなみ「大丈夫よ。今度錦戸先生のところに持って行きましょう」
みなみは優しく告げ、はるかも小さく頷いた。
とりあえずこれで今夜は解散となり、ゆうははるかとゆいの部屋に泊まることになった。
翌日 ノーブル学園 第二生徒会室
例のごとくお茶会のために集まっていた一同だが、今日はいつもより人数が一人多かった。
シャムール「あ〜ら、新顔さんなのねん。にしてもお人形さんみたいに綺麗な人ね」
ゆう「否定する。私は人形ではない、死神だ」
みなみ「まぁ、確かに…」
ミス・シャムールの言葉を律儀に否定するゆうに、説明も面倒だというようなため息をみなみはついた。
きらら「で、はるはるとゆいゆいは一晩こいつと一緒だったわけだけど、ほんっとに何もなかったんだ」
昨夜一晩ゆうのことがずっと気になり、首の痛みもあってついに一睡もできなかったきららは寝ぼけ眼で尋ねた。
ゆい「はい、本当に何も… ずっとハープを弾いてたぐらいです」
トワ「一晩中ですか? うるさくなかったのですか?」
はるか「いや、それがなんか子守唄みたいでかえってよく眠れちゃって…」
苦笑いをしながらぽりぽりと頭をかきながらのはるかの言葉に、アロマは大きくため息をついた。
アロマ「死神の弾く子守唄なんて縁起でもないロマ…」
はるか「う、確かに…」
ゆい「まあまあ。とりあえずお茶とお菓子を楽しみましょう。四季さんの分も用意してありますから、よかったら…」
ゆうの目的がはるか達プリンセスプリキュアと戦うことだとはゆいも理解しており、先の戦いで彼女が見せたという常軌を逸した戦闘力のことも聞いている。
そのためかやはり多少ピリピリした空気が流れており、なんとか場を和ませようと口にしたのだが
きらら「ゆいゆいったら冗談きついって。食べられるわけないじゃん、ロボットなんでしょそいつ」
そんな気配りをぶち壊すかのように、これまでの意趣返しとばかりにきららは手をひらひらさせながら、どこか小馬鹿にしたような言葉を口にした。
するとゆうはそんなきららをギロリと睨みつけ一瞬怯ませた。
きらら「な、何よ…」
そして、ゆうは無言のまま椅子に腰掛け、カップに注ぎ込まれた紅茶と配られていた茶菓子を完璧なテーブルマナーで食した。
シャムール「エクセレント!! パーフェクトなマナーですわん。プリンセスの見本ともいうべき動作、皆さんも見習いましょう」
きらら「わ〜お…」
はるか「すごい!! ものを食べられるなんて…」
ゆう「回答する。これでエネルギーの補給をしているわけではない。人間に擬態するためのシステムの一つだ」
唖然としている一同を前に、ゆうは優雅に口を拭きながら淡々と回答を行った。
トワ「しかし、この方がロボットというものだとすれば、他にも同じような方がいらっしゃるということなのでしょうか?」
みなみ「わからないわ。でもこんな人間そっくりのロボットを作れるなんて相当の技術がいるはず…」
きらら「極秘に開発してた秘密兵器とかってこと?」
紅茶を飲みながら疑問を口にしていたところ、ゆうが口を挟んできた。
ゆう「質問する。 それがそんなに悩むほどのものか? お前達とて人間が作ったものだろう」
その質問に全員紅茶を吹き出した。
きらら「ゲホゲホ!! い、いきなり何言い出すのよ!!」
はるか「ひ、人が作ったって… まぁ、それはそうだけど…」
みなみ「へ、変なこと言わないで!! こっちが恥ずかしいから!!」
耳まで真っ赤になりながら大慌てで否定するようにそう叫んだが、ゆうは首をかしげるだけだった。
シャムール「う〜ん、それにしてもあなたいい目をしてるわね。目標を迷いなくまっすぐ見据えている目。こんな純粋で汚れのない目は久しぶりに見たわねん」
ゆう「肯定する。私の目的はただ一つ、プリキュアの破壊あるのみだ」
シャムール「あらら。ずいぶん物騒な目的ねん」
きらら「いやいやいや、軽い軽い軽い。物騒ねで片付けないでよ」
実にあっさりとゆうの言葉を肯定したシャムールに当然というようにきららは食ってかかった。
アロマ「そうだロマ!! やっぱりこいつは危険ロマ!!」
しかし、そんなアロマの言葉をシャムールはサラリと流した。
シャムール「そうかしらん。こんな純粋な目をしてる人は悪い人じゃないわよん。とっても正直で信用できる子よ。 立派なプリンセスの資格があると思うわん」
そのシャムールの言葉に一同は考え込んでしまった。
はるか「…でも、やっぱりあなたの力をそんなことに使ってほしくない」
少しして、はるかはゆっくりとそう口にした。
ゆう「質問する。私に破壊されたくないということか?」
はるか「違うよ!! 力はそんなことに使うものじゃないと思う」
トワ「その通りですわ。私もかつて人を絶望に追いやることに力を使っていました。ですがそれではいけないと、力とは希望のためにあるのだとわかりました。ですから…」
ゆうにかつての自分を投影し、必死に訴えたトワだったが
ゆう「拒否する。私の力の使い方は、私が決める。私は、プリキュアを破壊するものだ。それ以外はどうでもいい」
全くゆるぎなく放たれたゆうの言葉にはるかは悲しそうな顔をした。
はるか「そんな… それで終わっちゃうなんて悲しいよ。もっと嬉しいことや楽しいこといっぱいあるんだよ」
みなみ「はるかの言う通りよ。ロボットだからと言って自分の可能性を自分で決めないで」
きらら「他にもさ、できることなんて色々あるってば」
そんなはるかに同調するように、みなみときららもゆうに思いの丈を語った。
しかし、はるか達の言葉を聞いたゆうは、どこか嘲笑うかのような口調で淡々と語った。
ゆう「嘲笑する。お前達がそれを言うのか」
はるか「えっ?」
きらら「どういう意味よ?」
みなみ「私達の言うことがおかしいというの?」
多少ムッとしたような表情をしたはるか達に対して、ゆうは無表情ながら嘲るように続けた。
ゆう「回答する。お前達は目標を持ち、それに全力で邁進していると聞いている。ならば自分自身でその目標以外の多様な可能性を全て否定していることになる」
はるか・きらら・みなみ・トワ「「「「!!!!!!」」」」
ゆう「さらに言うならば、その目標を達成した後の展望が現在存在しているのか。お前達は機械である私と同様の行動しかしていない、人間のくせにな」
みなみ「そ、それは…」
きらら「そ、そりゃ確かに…そんなこともあったけど…」
はるか「で、でも…」
夢に向かって努力してきた。
目標を見据えて頑張ってきた。
それは自分達の自慢であり誇りでもあった。
しかし、改めて言われてしまうと全く反論できなかった。
ゆい「ちょっ、四季さん。それはいくら何でも…」
あまりの極論に絶句してしまったはるか達を見て、ゆいも絞り出すように訴えたが、それ以上の言葉が出てこなかった。
ゆう「まぁいい、要求する。きちんとボディの修復およびエネルギーの回復を行い、コンディションを整えておけ。 お前達が回復するまで私は待つ」
そう淡々と宣言するとゆうは席を立ち、部屋の窓ガラスをぶち破って出ていった。
パフ「みんな、しっかりするパフ!!」
愕然とした表情で身じろぎひとつしなくなってしまったはるか達を見て、パフは必死にそう叫んだが、全く反応がなかった。
アロマ「くそ!! やっぱりあいつはとんでもないやつだロマ!!」
しかし、ことここに至ってもシャムールは全く意見を変えなかった。
シャムール「そうでもないわよん。なかなか大切なことビシッと言ってくれたと思うわよん。あの子とはもっと色々話をしてみるべきねん」
アロマ「なんでロマ!? あいつはディスダークと同じだロマ!! プリキュアをこんなにして…」
シャムール「ノンノンノン、それは違うわん。プリキュアが光なら、ディスダークは闇。そしてさしずめ、あの子は影というところかしら」
ゆい「か、影? ってどういう…」
なぞなぞのようなシャムールの言葉にゆいは思わず尋ねた。
シャムール「ん〜、ヒントだけ言っておくわねん。影とはどこにどうやってできるものかしらん」
ゆい「えっ?」
シャムール「あとは自分達で考えること。みんなが正気に戻ったら伝えておくといいわん。これも立派なプリンセスになるためのレッスンよん」
それだけ言い残すとシャムールは、プリンセスレッスンパッドに戻っていった。
To be continued…