ひとりでお客さんを待っていたアルパカ
ひとりでなかまを探していたトキ

ある日出会ったふしぎな二人組によって、こうざんのカフェで出会ったふたり。
ひとり同士だったふたりは、やがて――。

こちらで掲載している「あなたとお茶を」よりも前の、ふたりがともだちになる前の話。

アニメで語られたふたりの物語の後、トキがアルパカのカフェに通い始めてから数日後のお話。

※pixivにも同作品を掲載しています。

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あなたの声が聞きたくて

 ――私、ここに通う。

 アルパカの手を取ったとき、その手は柔らかくて、カップを持ったときみたいな温かさがあって。それから私を見上げるアルパカの表情がきらきらして見えた。

 通うと決めたのは、もちろん飲んだ紅茶がおいしかったのもある。それに、紅茶を飲んだあとに歌ってみたら声が出やすくて、紅茶を飲み続ければもっと歌が上手くなるんじゃ、と思ったのも嘘じゃない。

 だけど一番の理由は――――アルパカの、声。

 私たちがカフェに入ったとき、私たちがカフェのマークを作ったとき、そして私がカフェに通うと伝えたとき――いいことがあったとき、アルパカは、とても嬉しそうな声をしてくれた。それが頭に残っていたんだと思う。その声は、聞いている私まで嬉しくなってきて、胸がほっと温かくなる。そんな声だったから、もっと聞きたいなって思ったんだと思う。

 

 きぃ

 ちりりん

 

「アルパカ。今日も来たわ」

「わぁぁぁぁっ! いらっしゃぁい、待ってたよぉ!」

 ドアを押すと、店の中が目に入ってくる。そして店内を見渡すよりも早く、アルパカが嬉しそうな声と一緒に、私の元へ来てくれる。

「嬉しいなぁ、また来てくれたんだねぇ! トキちゃん、ありがとねぇ!」

「今日も紅茶、飲ませてもらってもいいかしら?」

「もちろんだよぉ! トキちゃんのために、うーんとおいしーい紅茶、作るからねぇ!」

 目を瞑っていても表情が分かるくらいの、アルパカのうきうきした声。

 私はそれを聞いて、不思議と落ち着くし、紅茶を飲んだときみたいに、胸がほっと温かくなる気がしていた。

「今日はどこで飲むぅ?」

「そうね、それじゃいつもの場所で」

「分かったよぉ! それじゃ、テーブルに座っててねぇ~!」

 アルパカの声に惹かれた私は、気がつけばアルパカの様子をずっと見ているようになった。

 

 ◇◇◇

 

 それから何日かカフェに通って、アルパカの様子を見続けて、いくつか分かったことがある。

 紅茶をいれるのが上手。

 ちょくちょくドジをする。

 表情がころころ変わる。

 私の歌を好きになってくれている。

 アルパカの紅茶を飲むと、歌が上手くなる――気がする。

 

 カフェにお茶を飲みに行く――というのは理由のひとつで間違いないのだけれど、アルパカを観察するというのも、いつの間にかもうひとつの理由になっていた。

 アルパカのカフェに行くと、可愛らしい声が聞こえて、アルパカが嬉しそうに出迎えてくれる。席に座ると紅茶をいれてくれて、感想を伝えるとアルパカは目をきらきらとさせて喜ぶ。そんなやりとりを何日か続けるうちに、もっとアルパカを見ていたい。アルパカをもっと知りたい。――いつからかそう思うようになった。

 

 かばんと一緒にここに来てからというもの、日が昇ってからアルパカのカフェに行くのが当たり前になった。

 朝起きて、じゃぱりまんを食べて、パーク中を飛んで、フレンズを見かけたら歌を歌ってあげて、夜が来たら寝る――。そんな日々の中に、アルパカのカフェという場所が増えた。そして、歌を歌ってあげると、喜んでくれるファンができた。私にとってはそれが一番嬉しい部分だったりするのだけれど。

 

「いらっしゃぁぁぁい! トキちゃん、今日も来てくれたんだありがとねぇ! 紅茶の準備、できてるよぉ! 今日も天気いいし、テラス席にするぅ?」

 今日もアルパカは、変わらない元気な声で私を出迎えてくれた。

「……いえ。今日は、別の席にするわ」

「んお? 何かそんな気分?」

「そんなところかしら。場所は……そうね、ここがいいわ」

 私が選んだのは、アルパカがお茶を作るところ――アルパカはキッチンと呼んでる――の正面。席に座ると、お茶の準備をし始めるアルパカの姿がよく見えた。

「……え、へへへ。なんだか恥ずかしいなぁ~」

「私のことは気にしないでいいわ。アルパカはいつもとおりで」

「んー、分かったよぉ。じゃ、もーちょっと、待っててねぇ」

 アルパカは、よしっ、と気合いを入れて両手を胸の前で握りしめる。それから後ろの方から、透明なものを取り出し始める。高さは手のひらひとつと半分くらい、よく見るとその透明なものの中には、葉っぱのような、何か。

「んー、じぃっと見られると、なんか照れちゃうなぁ。うへへへ」

「ね、アルパカ、その葉っぱは?」

「これ? あ、そっか。トキちゃんはいれるのを見んのは初めてだっけ。えっとね、この透明なもの、がらすびん? って言うんだけどね、この中に紅茶の元の、お茶っ葉が入ってるんだぁ! ハカセにまるごともらってね、たまに入れてもらってるの!」

「この葉っぱが、紅茶になるの?」

「そうだよぉ! これからやってみるねぇ! あ、でもまずお茶っ葉を選ばなきゃ」

 アルパカはその言葉を最後に、両方の頬に手を当てて、んんん~、と唸りながら、テーブルの上に並べられた葉っぱを見比べる。私から見える部分でだけで、五つが見える。お茶を注ぐカップや、お茶を持ってくるお盆で見えなくなっている部分にも目が向いているから、それ以上の数が、アルパカの前に並んでいると思う。

「昨日は、これとこれで……。少し香りが強くって。んで、おとといは、これに、あれをひとつまみ入れて、味はいい感じに…………うぅん」

 アルパカは、うんうんと唸りながら難しそうな顔をして、がらすびんをじぃぃと見つめる。

 ――すぐに作るんじゃないんだ。と思ったとき、今までのアルパカ言葉が頭をよぎった。

 アルパカは、いつも「今日の紅茶」と言って出してくれていた。そして紅茶を飲む私に、「どうかな?」って聞いていたのを思い出して。――やっと今、その意味が分かった。アルパカは今、全て自分に出すお茶のために悩んでくれているんだ、と。そう思うと、胸がじんわりと温かくなってくる。

 アルパカはしばらく悩んで、「うんっ、今日のお茶っ葉はこれ!」とふたつのがらすびんを取り出した。

「トキちゃん、決まったよぉ。これから美味しーい紅茶、いれるからねぇ!」

 がらすびんを両手に持ったアルパカは、キッチン越しに満足げに笑った。

 

 そこからのアルパカは早かった。カップにお湯をいれて――これはカップを温めるため、らしい――それから捨てる。ふたつのがらすびんからお茶っ葉の重さを量って、ポットにいれる。そのあとお湯を入れて、ポットにふたをする。

「はいっ、これで準備完了だよぉ。あとはね――」

 とん、と目の前に木でできたものが置かれる。その中には――――。

「……砂?」

「そぉ、これね、砂時計って言うんだぁ! 紅茶の蒸らす時間を、きっちり計れるの!」

 目の前で、白い砂がさらさらと下に落ちていく。砂の向こうには、アルパカのくりくりした目が見える。

 少しずつ、少しずつ砂が落ちていく。何もしていないのはなんだか落ち着かなくて、立ち上がって一曲、といきたいところ。――だけれど、今はアルパカがお茶を作るのを見ていたいから、アルパカと一緒にじぃっと落ちる砂を見ていた。この時間は、短いようで、とても長い時間に思える。私が歌うなら、一曲や二曲はできそうなくらい。

 もう少しで上の砂が無くなる。もう少し。……上の砂が、全部無くなった。

「ん、お茶っ葉もじゃんぴんぐしてるし、これで準備おっけーだねぇ」

 アルパカはいつものゆっくりとした動きとは違った、きびきびとした動きでポットを持ち上げて、カップに向けてそれを傾ける。

 木の蜜のような色をした紅茶が、カップの中に注がれていく。その瞬間に、ふわり、と柔らかい匂いが広がった。

「んぅ~、やっぱりこのお茶っ葉は匂いがいいねぇ」

 アルパカは目を細めて、鼻をすんすんと動かす。口元が横に広がって、嬉しそうな顔をする。それからいつものお盆にカップを載せて、ゆっくり慎重に、私が座っているテーブルへ。

「はい、どぉぞぉ!」

 とん、とカップがテーブルに乗る。店の中に広がっていた匂いが、もっと強くなった。

「ね、アルパカ。お茶っ葉が違うと、味や匂いはそんなに違うの?」

「ぜぇんぜん、違うよぉ! トキちゃんに出してる紅茶はね、喉がすっきりするお茶っ葉を使ってるんだけどね、それ以外のものをぶれんど? することで全然違った匂いや味になるんだぁ。入れる量が違うと全然味も匂いも変わっちゃうからね、いろいろ変えて作ってね、トキちゃんに合うのは何かなぁって探し中なんだぁ。えへへ」

「知らなかったわ」

「これを言うのはトキちゃんが初めてだよぉ。せっかく作るのを見てもらってたから、話してみてもいいかなぁって。……難しかった、かなぁ?」

「いいえ、そんなことないわ」

「よかったぁ」

「ただ――。アルパカが私のことを考えて紅茶をいれてくれているってのが分かって。嬉しかった」

「……ふぇ」

 その言葉を最後に、アルパカは動きを止める。

 目をまん丸にしているアルパカを見ながら、いれてもらったお茶を一口。――うん、おいしい。喉がすっきりとしてきて、甘さがじんわりと体の中に入ってきて。気持ちが入っているのが分かったからか、いつもよりも、おいしく感じる。

「ありがとう、アルパカ。おいしいわ」

「――――っ! やったぁぁぁ! 嬉しいよぉ!」

 アルパカは言葉通り、飛び上がって喜ぶ。声も弾んだようになって、音が高くなる。目を瞑っていても、アルパカが嬉しそうな顔をしているのが分かるくらい、うきうきとしたものが伝わる。

「――ふふっ」

 笑っちゃいけないとは思っていても。やっぱり、声が出てしまう。

「んぅ? トキちゃん、何かあった?」

「いえ、アルパカが嬉しそうだから、こっちも楽しくなっちゃって」

「え、そうかなぁ? えへへへ、おいしいって褒めてもらうの嬉しいから」

 アルパカは頬をぽりぽりとかいて、恥ずかしそうに、また笑う。

 その笑顔を見ているだけで、その嬉しそうな声を聞いているだけで、紅茶を飲んだときのような温かさや落ち着く感じを覚えるから――アルパカは不思議だ、と思う。

 紅茶をいれるアルパカ。お茶を出すアルパカ。恥ずかしがるアルパカ。

 表情がころころと変わる。その変わっていく表情を見るたびに、私が知らないアルパカが見えてくるような気がして。

 ――やっぱり、アルパカのことをもっと知りたい。そして、アルパカに何かしてあげたい。そう思った。

「――ね、アルパカ」

「なぁに、トキちゃん」

「アルパカに、お礼がしたいわ。よく考えたら、紅茶をいれてくれるアルパカに、お礼をしてないもの。私ができることって無いかしら?」

「お礼、なんて……。あたしがいれる紅茶に、『おいしい』って言ってもらえるだけで、十分だよぉ」

 アルパカは、手をひらひらとさせて私の言葉をやんわりと断る。

 それでも私は――どうしてもお礼がしたかった。アルパカが私を思ってお茶を出してくれていることが分かったから。私も、アルパカのために何かしたかったから。

「じゃあ……歌を、歌ってもいいかしら?」

「うた?」

「そう、歌。アルパカのために。アルパカが紅茶を作っているときや、アルパカのお茶がおいしかったとき、お礼を込めて。歌いたいわ」

 アルパカからは、だめ、の言葉は出なかった。なら、歌っていいってことで。

 そうね、歌いやすい場所は……。入り口近くの踏み台、のような場所。ここなら立って歌いやすい、かも。

「あそこって、何かに使ってる?」

「んー? ああ、そこね、テーブルを片付けたりするときに使うくらいで、いつもは使ってないよぉ」

「じゃあ、そこ、借りるわね」

 ふわりと飛んで、台の上へ。

 そこから見渡すと、店の中が一度に見える。アルパカの目が私に向く。

 ――――おいしい紅茶をありがとう。また飲みたいわ。そう、歌に込めて。

「わたぁ~しはぁ~、とぉ~きぃ~!」

 ――あれ?

「なか~まを~さがぁ~してぇ~る~! どこーに、いるーの~!」

 やっぱり、声が遠くまで届くような気がする。これも、アルパカの、紅茶のおかげ?

「わた~しの、なか~まぁ~ぁ~! あ~ぁ、なかーま……」

 歌い終わって、大きく一息つく。ぱちぱちぱちと、乾いた音が耳に入ってきた。

 ――仲間。私と同じフレンズはまだ見つかっていない。けれど、私のために紅茶を出してくれて、私のためにどんな紅茶にしようかって精一杯考えてくれているフレンズは、今、目の前にいて――。

「はぁぁああ~~~っ! トキちゃぁん、歌、綺麗になったねぇ~!」

 きらきらした目で、拍手をしてくれている。

 あのとき、かばんに聴いてもらったとき以上に、歌い終わったあとに胸が温かくなって、すっきりしてて。誰かのために歌うって、こんなに胸が温かくなるのかな、って、ふと思う。

 ――かばんちゃんはね、すっごいんだよ! わたしのともだちなんだ!

 ふと、紅茶を飲んでいたときにサーバルが自慢げに言っていたことが頭に浮かんでくる。それを聞いたかばんは、恥ずかしそうに手を振っていたのも。

 かばんとサーバルが言ってた、『ともだち』という言葉。一緒にいて楽しい相手のことだよ、とアルパカに教えてもらった。

 なら、一緒にお茶を飲んで、楽しくて。歌を聴いてもらって、嬉しくて。もっと、アルパカに歌ってあげたいというこの気持ちは。アルパカを、『ともだち』に思いたいってこと、なのかな。

「トキちゃん、うんと、歌、上手になったねぇ。綺麗だったよぉ!」

 うきうきとした甲高い声で向かってくるアルパカと、もっと一緒にいたい。いろんなことを一緒にしたい。そんな気持ちが、浮かんできた。

 そして、それと同時に。

 ――アルパカは、どう思ってるんだろう。

 そんな気持ちが、私の胸の中で引っかかっていた。

 

 ◇◇◇

 

「ね、アルパカ。空、飛んだことある?」

「ふぇ?」

 次の日、アルパカと一緒にお茶を飲みながらそんな話を投げかけてみる。

「あるわけないよぉ。あたし、鳥のフレンズじゃねぇからぁ。こないだ、トキちゃんにもってもらって、空からカフェのマークを見たのが最初だよぉ」

「そ。――ね、アルパカ。空、飛んでみない?」

「ふぇぇぇ?」

 アルパカは目を丸くして、私の方を「信じられない」って顔で見つめる。

 昨日、カフェから帰って一日中考えてた。アルパカにしてあげられること。私が歌う歌もそうだけど、どちらかと言えば私が歌いたいだけだから。

 紅茶のお礼――それは、空を飛ぶこと。空から、ジャパリパークを見せてあげること。

「私がアルパカを抱えてあげる。カフェのマークを見たときみたいに、ね。アルパカには、いろんな所を見てほしいの。……どう?」

「えっと…………」

 アルパカは紅茶のカップを置いて、私の方を上目遣いで見る。口を開いては閉じて、言おうか言うまいか迷っているのが分かる。

「トキ、ちゃん。…………いい、の?」

「もちろんよ。アルパカのためなら」

「……じゃあ、お願いしても、いい?」

「いいわよ。紅茶飲んだら行きましょ」

「やったぁぁ! 楽しみだなぁ!」

 アルパカの声が高くなる。そして紅茶を飲みながら、鼻歌が聞こえる。

 私は、この声が聞きたかったんだなぁと思うと。飲んでいる紅茶が少しだけ甘く感じた。

 

「じゃあ、持つわよ」

「ん、お願いねぇ」

 アルパカの背中に手を当てて、アルパカにしゃがんでもらう。膝の裏に腕を入れて――。

 ばさり、羽を動かす。

 ふわり、足が地面から離れた。

 胸の前にアルパカの顔がある。ぎゅっと目を瞑ったアルパカが、恐る恐る目を開ける。それから、下を見て。

「ふぁぁぁ~~~。あたし、飛んでるぅ。また飛んでるぅ~!」

 表情は見えないけれど――きっと、わくわくした顔をしているんだろうな、と思った。

「アルパカは大事に抱えるから、心配しないでね」

「トキちゃんは、かばんちゃんを連れてここまで来てくれたから、大丈夫だよぉ」

「ありがと。それじゃアルパカ、どこに行く?」

「えっとねぇ、それじゃぁねぇ、サーバルちゃんたちがいた、さばんなちほーに行ってみたいなぁ。ふたりが旅したところ、見てみたいんだぁ!」

「ん。それじゃ、さばんなちほーに」

「しゅっぱぁ~つ!」

 

 ――アルパカは、私の腕の中で空の旅を楽しんでくれた。

 あれはなに? これはなに? いろんなものに興味を持って、それに私が答える。答えられるものと、答えられないものがあったけど……。

 さばんなちほーに降りて、いろんなフレンズとも会った。中にはサーバルやかばんを知っているフレンズまで。

 木陰で休んだり、池で水を飲んだり、木の上に登ったり。いろいろと見ているうちに、気がつけば空の向こうが紅くなってきていた。

 夜の時間が、帰る時間が、もうすぐやってくる。

「……そろそろ、時間ね」

「んだねぇ。戻る時間?」

「そうね。帰らないと夜になっちゃう」

 ――もう少しだけ、一緒にいたいけど。

 その言葉は、喉の近くまで来ていても、口から出ることはなかった。

 ふわり、アルパカを抱えて、羽を動かして体を浮かせる。ゆっくりとした早さで、来た方向へと戻っていく。

「……空、真っ赤だねぇ。トキちゃんの色みたい」

 アルパカの声が、少しだけ低くなったように思えた。

 ――もし、だけれど。私の、もう少しだけ一緒にいたい。そんな気持ちがアルパカもあったりするのかな。あるなら、嬉しい。

 そう思っていると。

「…………日が沈むのって、早いねぇ」

 腕の中で、アルパカがぽつりと呟いた。

「もっと日が沈むのが遅かったら、トキちゃんと、もっといっしょに居られるのになぁ……」

「……ある、ぱか?」

「なぁんちゃってねぇ~うへへへ」

 照れ笑いなのか、頬をぽりぽりとかきながら、アルパカは笑う。

 ――もしかして、アルパカも。

「私も。日が沈まないでほしい」

「……へ?」

「アルパカと一緒にいたい」

「トキ、ちゃん」

「アルパカも、そう、なの?」

「……ん。うん。もうちょっと、トキちゃんと、一緒にいたいなぁって。あたしも、思ってるよぉ。……トキちゃんも、なの?」

 ――なんだ。アルパカも、だったんだ。

 そう思えたら、気分がとても楽になった。

 アルパカが私を見上げる。顔はちょっとだけ紅くて、そして――少し、寂しそうで。

「でも、夜はセルリアンが出てきちゃうから」

「うん、帰らなきゃ、だよね……」

 声色は、下がったまま。寂しいって気持ちが声から伝わってくる。寂しいのは私も同じ。だから。少しでも元気づけてあげたくて、アルパカの喉元をこしょこしょとくすぐってやる。

「なぁにトキちゃん。くすぐったい」

 寂しそうなのは見たくなくて。一緒にいたいって気持ちがあって。もっとアルパカを知りたい。仲良くなりたい、同じ気持ちでいたい。そう思える。

 きっと、サーバルが言っていたのは、こんな気持ちのこと、なのかな。

「また明日、アルパカのお店にくるから。お客さんとして。――――ともだちとして」

「とも、だち」

 ふと、歌うときみたいに勝手に言葉が口から出ていた。

 自分にいい聞かせるように呟いたアルパカは、私を上目遣いで見てから、へにゃ、と笑う。

「ともだち。……うん、ともだち。お客さんじゃなくってね」

「そ、アルパカにお茶を貰いに。そして、アルパカに歌を歌いに。お互いに、ね」

「……うんっ! また、トキちゃんの歌、楽しみにしてるからねぇ!」

「私も、アルパカのお茶、楽しみにしてるから」

「トキちゃんの歌が上手になるような紅茶、作ってあげるからねぇ!」

 

 話をしているうちに、気がつけばカフェの屋根が見えるところまで近づいてきていた。アルパカとの空の旅は終わりの時間。

 カフェのマークの近くに降りる。アルパカはまっすぐに立って、私をまっすぐに見て。

「じゃあ、トキちゃん、また明日ね」

 夕日の紅色を背にして、にっこりと笑う。

「また明日も、来るからね」

「待ってるよぉ! おいしーいお茶、考えておくからねぇ!」

「楽しみにしてるわ」

 空は真っ赤で、そして逆側の空には黒が見えてきていた。

 ――カラスが鳴くからかーえろ。

 頭に、そんな歌が浮かんできた。カラスのフレンズはまだ見たことがないし、カラスが鳴いても鳴かなくても、私たちは昼行性のフレンズだから、帰らなきゃいけない。

 

「それじゃ、また明日」

 羽を動かして、ふわりと地面から足が離れる。

 ゆっくりと羽を動かして浮上。カフェのマークの全体が見えてくる辺りで体を前に――。

「トキちゃぁーん!」

 速度を上げようとした瞬間に聞こえてきたのは、人なつっこくて甲高い声。下を向くと、カフェの入り口の前で、手をぶんぶんと振っているアルパカの姿があった。

「トキちゃぁん! またねー!」

「ふふっ。……またね、アルパカ」

 手を振り返して、加速。南の方へ、住処がある方へ飛んでいく。

 さっき飛んだときはアルパカの重さがあったから速度が出せなかったけれど、今は一人だから、いつもと同じくらいの早さが出せる。今はそれが、少しだけさみしいなと、思ってしまう。一緒に飛んだフレンズのことが、頭からなかなか離れない。

「とも、だち」

 アルパカと交わした言葉を口にすると、私の胸が紅茶を飲んだときのように温かくなる。

 私の仲間はまだ見つかっていない。――けれど、ともだちと呼べる相手は、見つかった。アルパカというともだちが、できた。

「明日も、お店に行かなきゃ、ね」

 明日のことを考えることなんて、この姿(フレンズ)になってあまりなかったのに、この数日はずっと次の日のことを考えてる。

「カフェに。ともだちに、会いに」

 行く理由はある。

 明日また、ドアをくぐればあの可愛らしい声が聞こえてくる。

 それを楽しみに、今日は住処に帰ろう。

 明日また、ともだちに会うために。


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