私の人生、彩りなんて無かった。
輝きなんてない。ずっと真っ黒。
私の体に日に日に増えてゆく痣。
もう痛みなんて感じなくなってしまった。
痛みだけではない。恐怖や悲しみ、哀れみ...
そう。私は喜怒哀楽の怒と哀が欠落していた。
喜と楽はまだあるのだろうけど。
そもそも私の人生に喜びや楽しみなんてない。
だから、喜と楽もほぼ欠落してるようなものだ。
ーー今日も、私の【両親】というモノが私を殴る。蹴る。浴びせられた罵倒の言葉や暴力なんて、数えるだけ無駄なほど。
私に【ご飯】なんて概念はない。例えるなら餌だ。
そう。餌というのが一番正しい。
【両親】というモノはまず私に餌を与える時はお皿に盛り付けなんて、いちいち手間のかかることはしない。
私を見るなり蔑んだ顔して床に料理をぶちまけて出ていくのだ。
私を見て「汚い」なんて呟きながら。
私はそれを食べる。
床に捨てられた食べ物なんて、不衛生だし汚れるから食べるようなモノじゃない。
私の部屋の掃除なんて【両親】というモノがするはずがない。
自分でやろうにも手錠で繋がれているし、足には足枷が付いている。そして大前提になにも道具がない。
そもそも私は部屋から出られないのだ。
この部屋には窓一つすらない。閉鎖された空間。
私に逃げ道なんてどこにもない。
だから私は諦めて【両親】というモノが床へとぶちまけていった餌を這いつくばって食べる。
こうするしか、私には生きてゆく術が無いから。
そう。こうするしか生きていけな......あれ?
私、なんで生きてるんだろ。
わざわざこんなことしてまで生きてる意味って...ある?
別にこのまま生きててもなんもない......
そう考えてたら【両親】というモノが部屋へと入ってきた。
そして何を思ったのか私の手錠を外した。
こんなの初めての感覚......手が自由に動かせるなんて。
そして【両親】というモノはすっと、右手でなにかを取り出し、私へと向けた。
それは......ナイフだった。...とても切れ味の良さそうな。
それを見た直後、私は何をしたのか覚えてない。
我に返った頃には辺り1面、血まみれだった。
付いていたはずの足枷も外れていて、目の前には【両親】というモノのもう原型すら留めていない無残な死体があるだけだ。
「ふっ......ふふっ、...あはっ!アハハハハハ!!」
私は笑っていた。初めて笑った。
そして初めて知った......これが喜と楽?
私はーーーー人を殺すことで快感を初めて知った。
それからの私は狂っていた。
自分の感情のままに人を殺した。
相手が誰だろうが関係ない。殺したいと思ったら殺す。
人を殺してゆく中、何度も命の危険にあった。
捕まりかけたし、殺されかけた。
けれども、それでも私は、恐怖や怯えーーー怒と哀だけは、感じることが出来なかった。
それに人を殺すことで良いこともあった。
殺した大体の大人はバッグに財布など金目のモノを持っていた。
私はそれで初めて、お皿に盛り付けられた、ちゃんとした【ご飯】を食べた。
モノを食べて初めて美味しいと思った。
そんな生活がもう何年続いただろう。
私は不意に飽きた。
そう。飽きたのだ。人を殺すことに。
殺しすぎて、何も感じなくなった。
そしてなにを思ったのか私はふと自分の首筋に刃を当てた。
そして掻っ切った。自分の喉を。
自分の中から溢れ出した血を見て、綺麗だと思った。
自分の血ってこんなに綺麗だったのか......
薄れゆく意識の中、私は何故か『死にたくない』と思った。『痛い』、『嫌だ』ーーーーーー『こわい』...と。
こわい?なにそれ?イタイ?なにそれ?
だってそんなもの今まで感じたことない......
あぁ...これがもしかして私が失っていたはずの怒と哀?
こんな......かん...じ...なん.........
あぁ、最後の最後に......世界が......いろどっ......た......
私はそっと息絶えた。
次の日。少女の死体が発見された。
その少女は指名手配中の殺人鬼の少女だった。
少女は喉を掻っ切って死んでいた。
少女は両親から虐待を受けていた。
その虐待は酷いものだった。
罵倒され、暴力を振られ、まともに食事も与えらなかったのだ。
きっと両親の虐待により、感情が麻痺したのだろう。
少女は喜怒哀楽の怒と哀を失った。
少女はやがて両親の虐待に対して抵抗しなくなった。
少女はもう痛覚すら麻痺していた。
そんな少女に両親は痺れを切らした両親は少女へとナイフを向けた。
そうすればまた少女が必死に命乞いする。
そう思ったのだろう。
しかし結果的に両親は我を失った少女にナイフを奪われ殺害された。
そして少女は逃げ出し、行方不明となった。
少女が逃げ出した日から街では殺人事件が相次いで起こるようになった。
少女は両親を殺すことで人を殺す快感を得てしまった。
少女が初めて知った快感が、殺人だったのだ。
何人もの警官たちが少女を捕らえようと躍起になった。
しかし帰ってくるものはほとんどいなかった。
非力な少女に警官たちを力で押し殺すことは不可能だ。
けれど少女は頭が良かった.........良すぎたんだ。
少女の策略を前に何人もの警官たちが死んでいった。
その光景を少女は恍惚の笑みで見ていたという。
やがてある日、殺人がピタリと止んだ。
少女は死んだのだろうか?それとも殺人に飽きたのだろうか?いろんな憶測が飛び交った。
そして少女は発見された。.........死体として。
少女の右手にはナイフが握られていた。
少女は自分で自分の首を掻っ切り、自殺したのだ。
きっと少女は自分を殺すことによって、恐怖や怒り、哀しみを感じようとしたのだろう。
少女のもとへと座り込み目を閉じた。
「辛かったね.........もういいよ......おやすみ...」
私はそっと目を開けて少女の顔を見た。
少女は苦痛に歪んだ顔をしていた。
少女は哀しそうな顔をしていた。
少女は怒ったような顔をしていた。
少女は楽しそうな顔をしていた。
少女は喜んだような顔をしていた。
...少女は報われたような顔をしていた。
そんな少女の顔は......とても幸せそうに見えた。