彼女はこの世に生を受けた瞬間から”軍人”であった。軍人として生まれ、軍人として育ち、軍人たれと教育を受けてきた。「パパ」や「ママ」の代わりに好奇の目で見てくる研究者が居た。玩具の代わりに銃を、遊びの代わりに殺し方を学んだ。友達の代わりに同僚がいた。それらは等しく先に逝った。残ったのは彼女独りだった。それがドイツで初めてのデザインベビー実験成功体、「ラウラ・ボーデヴィッヒ」だった。
この人生を憂いたことは無かった。閉鎖された軍施設の更に奥深く、研究施設で育てられては疑問を持つほうが難しいというもの。他の人生など端から存在しないのである。
実験は大成功だった。軍人としての最適解、お手本のような遺伝子を持った彼女は常に成績トップだった。周りの”仲間たち”は彼女を持て囃した。ラウラという成功例をきっかけに次々と妹が生み出された。
そんな黄金期は僅か五年で幕を下ろす。今から十年前、ラウラ五歳の時である。自軍のミサイル発射管全てがハッキングされ、一箇所を狙う。攻撃目標は日本。この世に「兵器としてのIS」が生まれた日であった。
ラウラにはIS適性がほとんどなかった。エリート街道をひた走ってきた黒兎たちは突然横から愉快な兎に蹴落とされた。生まれて初めての屈辱。向けられた期待の目はいつの間にか失望の目に代わっていた…。
それでも諦めなかったのは彼女たちだけではなかった。親的存在である研究者たちだ。尤も、彼らからすれば等しく消耗品である。親愛の情が湧いたわけではない。ただ単に、今までの研究成果が道半ばにしてその花弁を畳みかけていることに対して強い憤りを覚えただけである。金銭的にも新しい個体を作るよりはこれまでのモノをリサイクルした方が良かった。そうして生まれたのが生体同期型ナノマシン『
軍の最前線からゴミ処理場まで行きかけたラウラはぎりぎりのところで一般兵程度の枠に収まった。
そこからもう一度、最前線まで引き上げてくれた恩人がいる。この教室に。すぐ隣に。そのことだけで、彼女は胸が熱くなった。再会した
(それに比べて…)
教官に教えていただいているにも関わらず、なんて愚かな生徒たちだろうか。ISは兵器、すなわち銃や戦車と同じである。それを教えるところとなれば、それはもう軍学校である。にもかかわらず、何なのだこの腑抜けた者たちは…。ISをファッションか何かと勘違いしているのではないか?
「挨拶をしろ、ラウラ。」
内心の憤りを隠すこともなく考え事をしていたら、不意に教官からお声がかかる。
「はい、教官」
自分も腑抜けていてはいよいよ駄目だ、と自分に喝を入れ、居住まいを正し、
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」
挨拶は簡潔に。これ大事。
「お前も挨拶をろくに出来んのか…それとここでは織斑先生だ。そう呼べ。」
「は、了解しました。」
何故か怒られた。思わず目線が下がる。
と。
一際腑抜けた顔でこちらを見つめる者が最前列にいた。瞬間、消えかけた炎にガソリンが撒かれる。どこか教官に似た、整った顔立ち。視線の先に居たのは…
「貴様が…!」
教官の唯一の汚点を作った張本人か!
パァン!
教室中に乾いた音が響き渡った。
ラウラの原作前の描写はほとんどが独自設定です。ヴォーダン・オージェについても半分は独自設定です。もうお分かりでしょうが今回も独自設定独自解釈フルブーストです。矛盾点については見つけ次第修正します。
『ラウラ五歳の時』とありますが、あくまで年数だけ考えればの話です。人造人間特有のあんなことやこんなことが有るのでしょう、くらいに考えてください。
書いてて思いました。ラウラちゃんって程度は違うけどルイスくんと色々似ていますね。幼いころから道は一本。挫折と帰還。なんだかんだこの二人、気が合うかもしれません。甲斐甲斐しくラウラのお世話をするルイスくん、中々様になっている…。
…あれ?ヒロイン…?