ゲートを抜けると、そこは死地だった。
「!?」
その手に大きなシールドを構え、主人を守るようにして飛び出たルイスを待っていたのは刃の洗礼だった。ステージ(と言っても観客席は隔壁により満席だが)に舞台入りした瞬間、その黒いISは弾丸のようにルイスに迫ってきた。それまで相手をしていた一夏をガン無視して。
その後も嵐のように繰り出される剣技の数々に防戦一方のルイス。それは正しく豹変と呼ぶにふさわしいものだった。なにせその直前までは、激昂しシールドエネルギーが底を付きかけている状態でなお突っ込んだ白式とそのサポートのシャルルを相手にしていたのだ。まるで確かめるように、傷ついた白式でも対応できる範囲に抑えた攻撃で。ところが今はまるで容赦がない。全盛期の千冬程ではないが、それでもそれは一高校生の対応できる範疇を遥かに超えていた。
「やろう…ふざけんな!」
「ダメだよ一夏!その機体じゃ!」
「離せよ!あれは!あいつは…!」
その後一夏から語られる話によると、やはりあれは千冬を模倣するVTシステムであるようだ。もっとも、姿形からしてIS教育中に幾度となく見るビデオ映像の中の人物、暮桜に乗る千冬そのままであるため見当はついていたが。
…そんな話をしている間も、暮桜(仮)はルイスに対して猛攻を続ける。それは不自然なまでに。しつこく。一時離脱している一夏とシャルルに代わる形で援護しているセシリアのこともまるで眼中にないらしい。
取り敢えず一夏の方は、シールドエネルギーを一夏ほどは消耗していないシャルルのラファール・リヴァイブ・カスタムⅡから工面することにより賄うということで決まったらしい。普通ならばどちらかに集中させ、一夏ならば一撃必殺、シャルルなら多撃確殺でいきたいところである。どちらもルイス・セシリアペアの援護があればこそ、現実味を帯びてくる作戦である。しかし敢えてそうしないのは、この状況が普通ではないからだ。というのも、
「よく聞いて一夏、あの敵は普通じゃないよ。まずあれが模倣してるのは織斑先生でしょ?」
「そうだ、あいつ千冬姉の真似を…!」
「そう、確かにそうなんだよ。でも、あれが模倣してるのは正確にいうと
シャルルの視線の先には未だにしつこくルイスを狙い続ける暮桜(仮)。セシリアの援護攻撃を所々避けつつも、気にする素振りは一切ない。ましてや一瞬でもそちらを見ようともしない。
「モンド・グロッソには色々な競技部門があるけれど、織斑先生が出場したのは近接戦闘部門のみ。つまり、あれは
そう言ってアサルトライフル、ガルムの銃撃を関節を狙って撃ち込む。回避される。しかしやはりこちらを気にすることはなくルイスを狙い続ける。
「こんな感じで、一対一じゃないと対応できないんだ。つまるところ、そこに隙がある。」
「…なるほど、要はルイスが相手をしている間にシャルルとセシリアで隙を作り、そこに俺が零落白夜を打ち込むってわけか。」
相手の分析をし、作戦を立て、そうしているうちに冷静さを取り戻した一夏。しかし一方で、そのあまりの劣化コピー具合に闘志を燃やす。決着は近づいていた。
「ぐっ…!?ですが、これなら…!」
大型のシールド二つによって暮桜(仮)の猛攻を防ぐルイス。その額には汗が浮かぶ。が、事態はそれほど深刻ではなかった。
アリーナに入った瞬間にこちらを向き、唐突に襲ってきた暮桜モドキは、今も執拗にルイスを狙い続けている。しかし彼に言わせれば、それはとても好都合だったと言える。
彼のIS『エメラルド・ピュープル』は、元々打鉄のような防御型である。全身の厚い装甲に加え、大型のシールドを二つ搭載した本機の役割は、本来は射撃特化型ISの補助、つまりは『ブルー・ティアーズ』とのセット運用である。当然、守備範囲(字の通り)は近接から遠距離、実弾からビーム、果ては肉弾戦までと多岐にわたる。そしてルイスも、彼自身の専用機となる機体の特性上それなりの訓練を積んでおり、こと守りに関して言えば少なくとも一学年において彼の右に出るものはいない。
そう言う都合で、自陣が整うまで彼は時間を稼げばよかった。相手は
まず、シャルルが合流することによってルイスの負担は更に軽減する。セシリア一人の援護でさえ致命の一撃を抑えることに成功していたのに加え、もう一人加わることによって暮桜(仮)の勢いは更に弱くなる。それでもなお、ルイスを狙い続ける。
『こちらの準備整いましてよ。』
『こっちも行けるよ。』
『トリは任せろ!』
セシリア、シャルル、一夏の順に声がかかる。後は事前の打ち合わせ通り、ルイスがトリガーとなる行動を起こせば詰めの一手が始まる。カウントダウンは始まった。
横の薙ぎ払い…違う。袈裟懸けの攻撃…違う。返す刃…違う。そして縦の一閃…今!
「行きます!」
気合一声、ルイスはその両手のシールドを即座に量子化、格納し、素手になる。
IS発祥の地、日本において遥か昔に確立された新陰流と言われる剣術の流派、そこに伝わる技能の一つに無刀取りと言われるものがある。似たものに真剣白刃取りがあるが、それとは違い、こちらは振り下ろす前に相手側へ一歩踏み込み、勢いがつく前にそれを止めるというものである。
ルイスが実行したのはその無刀取りのアレンジで、相手側に踏み込んでその得物の持ち手を掴むというものだった。これには流石に暮桜(仮)も動きを一瞬止める。
後ろから一夏が近づく。その手には雪片弐型。
変わらずルイスの方を向きながらも回避しようとするが、得物ごと腕を掴まれたため身動きが取りにくい。
そして、それ以上の動きを封じるようにシャルル&セシリアの関節等弱点を狙った狙撃。相手がこちらを見ず、動きを止めているともなれば外す要素は無かった。
「行くぜ偽物野郎!これで…終わりだあああああ!」
白式の振り下ろした雪片弐型が暮桜(仮)に突き立った瞬間、一夏は零落白夜を発動させる。発動可能時間は一瞬。されどその輝く刃は、確実に絶対防御を発動させ、残りシールドエネルギーを余さず喰い尽くす。こうして決着はついた。
「ぎ、ギ…ガ……」
解除されていくVTシステム。眼帯が外れ、金色の瞳を露わにしたラウラの顔が出てくる。まるで捨てられた子犬のように、ひどく不安そうなその目に害意など欠片も見えず。
だからこそ、油断していた。
「ッガ…!?」
最後まで解除されなかった右腕。黒く染まった雪片は思わず力を抜いた一瞬の隙を突いて。
ルイスを袈裟斬りにした。
新年度ですね、憂鬱です(挨拶)。
それにしても、時間に極めて余裕のある春休み期間中ではなく、大学が始まった四月になってやっと意欲が湧くという謎現象。せめて書き溜めしておくとかしておけば良かった。
さて恒例(?)の独自解釈コーナーです。
モンド・グロッソの部門とかの話は独自設定です。
無刀取りについてはあまり深く聞かないでください。存在を知っているだけでホントのところはよく分かってないです。