ルイス・ルースは執事である。オルコット家に仕える執事家系のルース家の一人息子である彼は、幼少期から所作、心構え等を叩き込まれて育ってきた。それに関しては何も疑問に思うところは無かったし、むしろ率先して両親に教えを乞うていた。
全てが変わってしまったのは、やはり三年前。オルコット夫妻が帰らぬ人となった事故。同行していた彼の父親もまた、その命を散らした。当然、彼は悲しみに暮れた。家内の全使用人、SPから庭師に至るまで涙を流した。それほどに三人の死は重いものであった。
そんな中で、気丈にも立ち上がった人物がいた。セシリア・オルコットその人である。片親を無くして立ち直れなかった彼からは、どれほどその姿が気高いものに見えたことか。ましてや、将来仕えるべきと疑わなかった次期当主である。自分が支えようと、知らぬうちに上から目線になっていた自分を恥じた。この人に付いて行こうと、真に誓った瞬間であった。
それからは忙しかった。なにせ奮い立った彼らは、英才教育を受けていたとはいえまだ中学生である。頼りになりそうな親族を「財産を狙うハイエナ」と一蹴し、自分たちで切り盛りしていくのは至難の業であった。出来る勉学は全て終えた。最初のうちこそ、男など、と鬱陶しがっていたセシリアも彼の献身に在りし日の母親と執事を重ね、徐々に心を許し、幼いながらも立派な主従となっていた。
セシリアはその後、己に箔をつける意図もあり、受けたIS適性審査では堂々のA+を記録。箔どころかイギリス政府のお墨付きまで貰い、BTテストパイロット一人目に抜擢。稼働データ、及び戦闘経験を得るために日本に渡った。彼と、もう一人の友人であるチェルシー・ブランケットに家を任せて…。
ところも時も変わってIS学園の話。この世には臣下の礼、というものがある。相手に対し、自分が臣下(家来)であることを示す為の動作(儀礼、儀式)=礼を行うという意味である。普通の生活をしていては滅多にお目にかかれるものではない。のだが、運がいいのか悪いのか、目の前に躊躇なくそれをやってのける奴がいる。
ほんの少し遡って朝のSHR。いきなり紹介された二人目の男子にクラス中が浮足立ち、そわそわした空気が全体的に漂っている。思えば自分の時もそうだったなぁとしみじみしているのは一人目の男子、織斑一夏。自分も早く声をかけて、学園に二人しかいない男同士、連携を深めていこうと決意する。
そして、いざ、休み時間。教室中が一斉に椅子を蹴る音で溢れかえる…その一歩手前。件の彼がスッと立ち上がった。出鼻を挫かれ、たたらを踏む彼女らを後目にスタスタと、それはそれは優雅に歩き、足を止めて開口一番
「お久しゅうございます、セシリア様。お変わりないようで何よりです。」
片膝をつき、胸に手を当てて、臣下の礼を取る。少し遅れて慌てて一組の廊下に集ったクラスも学年も違う健脚家達も見惚れる程の鮮やかな礼であった。一部鼻血を出している者までいる。
これまでどこか憂鬱そうだったセシリアの態度はこうなることを見越してのことだったらしい。一夏と会う前の彼女ならば誇らしげにそれを受け入れたかも知れないが、乙女は既に恥じらいを知ったようである。
「ええ、貴方も。しかしここでそれは流石にオーバーですわ。それにほら、皆さんも貴方が気になるようです。」
その一言で周りの空気が息を吹き返す。今のなにー?とか、セシリアとはどういう!?とか、ご、ご趣味は?等の質問攻めは一限が始まるまで続いた。本人も真摯に答えるものだから、彼女たちの収穫も十分だったようである。ただ一人、結局話しかけることも出来なかった男子を除き。その後すぐ、ロッカーの場所に戸惑うところを救出することできっかけを得たようではあるが。
さて、昨日からの続きである実習訓練授業である。前回同様にISの展開。しかし前回と違うのは、専用機持ちが三人に増えていることにあった。白い白式、青いブルーティアーズと来て、見慣れぬ”エメラルド色”の機体。
――非武装状態のISを感知。操縦者ルイス・ルース。ISネーム『エメラルド・ピュープル』。戦闘タイプ…該当なし。
セシリアと対峙したときと同様に白式からデータアナウンスが飛んでくる。が、戦闘タイプ該当なしとは…?
「次、武装だ。オルコット、前回のようなミスはないだろうな…
そこ、いつまで呆けている、集中しろ。」
ギンッ!と物理的圧力がありそうな眼光を前に、一夏は深く考えるのをやめた。
一方セシリア・オルコットは一夏のように気を取られるようなことは無かったが、内心は興味津々であった。データは本国から送られてきてはいたのだが、異様なデータ容量と、鈍く光る[秘匿案件]の文字に、ルームメイトがいる寮室で安易に開くのを躊躇った為である。
果たして、彼の手に現れたのは、分かりやすく言うとセシリアの主武装≪スターライトMkⅢ≫の少し小振りなものであった。名前は…≪試作量産型スターライト≫というらしい。試作なのに量産型とはなかなかユニークな武装である。
一方、色々な意味で注目を浴びている当の本人はというと、
(セシリア様、随分とお優しくなられた。他の女性方にならともかく、男性である織斑一夏様にまで笑顔を向けられるとは…一体何があったのでしょうか。)
終始微笑みを絶やさぬままそんなことを考えていた。
まず一番初めに。このオルコット家のお話は一部独自設定です。また、私自身書籍版は八巻までしか読んでおらず、その記憶も曖昧です。もし仮に九巻以降にオルコット家家庭事情の公式設定が載っていたとしても、それは本作とは別物なのです…。とはいえ。あった場合には、修正する必要性を感じた段階で適宜修正を行っていきます。
次に、彼専用IS『エメラルド・ピュープル』の話を少しだけ。emerald pupil。意味は『エメラルドの瞳』です。本作タイトルと合わせて、このISの特性については大まかに推測できるかと。
次回は鈴の絡み&クラス対抗代表戦です。多分。
※何故か四話になっていたのを修正