「……一体、何があったの?」
フレアとフリントがクロウのアジトに戻ってから数時間後、日が暮れ始めた頃にチーム”サティスファクション”が帰還したのだが、様子がおかしい。
無事に帰ってきたという事は、勝利を掴み取ってきたという事。
だが、今のチームに見えるのは勝利の喜びではなく、ギスギスとした険悪なムード。
鬼柳とクロウは苛立った様子でお互いに顔を背け合い、遊星とジャックは無言のまま何も喋らない。
フリントは一番冷静そうな遊星に事情を聞いてみた。
遊星によると、遠征自体は順調に進んでいたらしい。
特に苦戦する事もなく、決闘盤を持つゴロツキを狩っていった。
だが、ここで問題が起きた。
A地区に溜まっていたゴロツキの中には、まだサテライトに流されてきたばかりの少年がいた。
後から聞いた話によると、その少年はガラが悪いが決闘が好きで、決闘をする為にゴロツキのメンバーになったのだという。
勿論、少し前までデュエル・ギャングの抗争があった事を知らない。
結果、その場にいた事情を知らない少年は、訳が解らないまま”サティスファクション”に追い回される事となった。
必死で逃げたが、とうとう鬼柳に追いつかれ、鬼柳と決闘。
その結果、決闘に敗北し、決闘盤を破壊されてしまう―――それだけならよかった。
何と鬼柳は決闘の後も逃げる少年を執拗に追撃。
少年は再び捕まり、鬼柳は少年の決闘盤をデッキごと踏み潰してしまった。
これらの一部始終を見ていたクロウが、続けて少年に暴力を振るおうとしていた鬼柳に掴みかかり、取っ組み合いの喧嘩に発展。
それを見つけた遊星とジャックが止めに入り、事態は一旦収束するが、それからずっと二人はこの調子らしい。
「ひ、酷い……どうしてそんな事したの鬼柳!」
「あのガキは敵だ! このサテライトで決闘盤を持ってんだからな! …決闘してたらよ、そのガキメチャクチャ弱ぇんだ! しかも決闘中に”助けろ”だの”許してくれ”だの……イラつくんだよ! そんな覚悟で入ってくんじゃねぇよ! この”決闘の世界”によぉ! …だからデッキごとぶっ壊してやったんだ!」
「ふざけんな!!!」
ここまで黙っていたクロウが突然鬼柳に掴みかかる。
「お前が何したか解ってんのかよ! あれがお前の言う”決闘”だって言うのかよ!」
「”決闘”だろうが! 俺達のサテライト制覇を達成させた”決闘”だろうがァ!」
「あれのどこが俺達の”決闘”だってんだよテメェェェーーー!!!」
鬼柳とクロウが拳を振りかぶると、ジャックが鬼柳を、遊星がクロウを止め、フリントが二人の間に入る。
「二人共止めろ! 鬼柳! クロウの言う通りだ! 俺達が出会った晩に、お前が話してくれたな―――」
どうやったって、俺達はサテライトから逃げる事は出来ない……だったら、ここで満足するしかねぇ。 このサテライトで”ドデカイ”事をやって、満足しようぜ……そう思って、俺達はこのチームを立ち上げたんだ!
「―――鬼柳! 抵抗が出来ない程の弱者を徹底的に追い詰めるのが、お前が言っていた”ドデカイ”事なのか! 答えてみろ!」
「ぐ……だってよ! 満足出来ねぇんだよ! 何所にあるんだその”ドデカイ”事は! 満足出来ねぇんだ!!!」
「それが見つからないから弱者に当り散らすのか!
「ぐ……くそ…! 何でだよ……俺達チームだろ……何で解ってくれねぇんだよ……!」
鬼柳は納得出来ていないようだが、普段物静かなフリントの一喝に押され、拳を下げる。
「鬼柳……俺達はお前の気持ちが解らない訳じゃない。 だが、今は落ち着くんだ。 そうすれば、何れ次の目標は見つかる。 …その時に、その有り余ったエネルギーを爆発させて、おもいっきり”満足”しろ」
「……」
「皆、この話は一旦終わりにしてくれ。 俺もフレアも、こんな気持ちのまま帰りたくない」
「!…帰るって、まさか……」
フリントはクラッシュから連絡があった事をチーム”サティスファクション”に伝える。
現在の時刻は午後5時、後2時間で別れの時である。
あまりにも突然な話だったので、メンバー一同は驚いた様子だった。
「…そうか、もう行っちまうのか……そうだな、このままじゃ送る方も送られる方も気分悪いな。 …クロウ、遠征の時に殴ってすまねぇ……頭に血が上っちまってよ」
「……お互い様だ。 こんな時じゃなくても、喧嘩したままは嫌だしな。 …俺も謝る、スマン」
鬼柳とクロウは握手を交わすと、遊星は安心したように溜息をつく。
おそらく、ここまで二人を宥めてきたのは遊星なので、肩の荷が下りた様に感じているのだろう。
「おっしゃ! 二人の送別会といこうぜ! 満足させてやるぜ!」
「それじゃあ俺は飯の準備をするか。 7時だよな? 簡単な物になっちまうけど、簡便な!」
鬼柳はすっかり機嫌を直すと、クロウと共に住処の奥へと入っていく。
「……フレア、大丈夫か?」
フリントが首を上半身を捻って後ろを見ると、フレアが震えながらフリントのマントを掴んでいた。
「私……男の人の喧嘩は一杯見てきた……でも……こんなに恐いのは初めて……どうして……仲間なのにどうしてこんなに恐い喧嘩が出来るの…!」
「……信じあった仲間だからこそだ。 信じていた仲間が解ってくれない……それが許せなくて、悲しくて……だからこそ、解ってもらえるように真剣な思いを全力でぶつけ合う。 …それが今の喧嘩だ。 単に気に入らないからという理由で行う、そこらの喧嘩とは訳が違う」
「……そうなんだ」
フレアはフリントを見上げる。
そこには、何時もの様に無愛想な顔が見える。
「(あの時……一番恐かったのはフリント)」
フレアは喧嘩を起こした鬼柳やクロウよりも、止めに入ったフリントの方が恐ろしく感じていた。
一番恐かったという事は、あの3人の中でフリントの”思い”が一番強かったという事である。
「(そもそも、あんなに怒ったフリント、初めて見た……鬼柳がやった事に対して怒ったんだと思うけど……でも、それだけじゃない……)」
フリントは鬼柳に向けて言葉をぶつけていたが、その言葉は真後ろにいた自分にも向けられているような―――いや、この場全てに向けられているような感覚を、フレアは感じていた。
「(もしかしてフリント、ああいう”喧嘩”自体が許せないのかな…?)」
フリントは今まで店で起きた喧嘩を何度も見てきており、時には仲裁もしていたが、ここまで感情を剥き出した事は無い。
鬼柳達とは親しい仲だが、まだ会って4日。
鬼柳達の事を考えての行動ではあるが、たったそれだけの付き合いであれだけの感情を出せるとは思えなかった。
「(昔……フリントに何かあったのかな? フリントは記憶喪失だけど、きっと”心”が覚えてるんだわ。 決闘の様に、心に染み込んでいる”昔の記憶”が……)」
* * *
「忘れもんはないか?」
「うん! ユニフォームありがとう! 持って帰っても大事にするね!」
現在時刻は6時50分。
港の側にあるクロウのアジトなら、待ち合わせの港には歩いても5分は掛からない。
フレアとフリントは、チーム”サティスファクション”と子供達に見送られて、待ち合わせの港へと向かうところであった。
「フリントさん、フレア姉ちゃん、絶対にまた来てくださいですの……」
「リリちゃんも皆も元気でね!」
フレアは少し涙ぐんでいるリリの頭を優しく撫でる。
「二人共、俺達は何時でも”絆”で繋がっている。 俺達は離れていても仲間だ」
「ありがとう、遊星。 お前と再び決闘出来るのを楽しみにしている」
遊星が差し出した右手に、フリントは握手して返す。
「フリント! その前に俺との決着を忘れるな! 次に会った時、ランニング・デュエルの借りは必ず返すぞ!」
「ジャック、まだ根に持ってたんだ」
ジャックが気合を入れてフリントに勝負の約束をし、その横でフレアが小さく笑う。
「そういえば俺はフレアとまだ決闘してなかったな。 よし! じゃあ俺はフレアに勝負の約束をするぜ! 俺はさらに強くなってるだろうから、お前もちゃんと鍛えて置けよ!」
「勿論! 私は誰よりも強くなってみせるよ!」
クロウとフレアはお互いに親指を立てあって約束する。
「お前達はこのチーム”サティスファクション”のメンバーなんだからな! 何時でも来いよ!」
「うん! …じゃあまたね!」
「…世話になった」
フレアは笑顔で頷き、フリントも笑みを浮かべて右腕を軽く上げる。
そうして、二人は港へ向かおうと歩き出すのだが、フレアが急に思いついたように立ち止まり、フリントを引っ張って引き返してくる。
「何だ? 忘れもんか?」
「違うの。 …フリント! 白紙のカード4枚頂戴!」
「? 何に使うんだ?」
フリントは懐から射撃に使用している白紙のカードの4枚をフレアに手渡す。
フレアはそれを受け取ると、自分の荷物からペンを取り出し、カードと一緒に鬼柳達へと差し出す。
「実はね! 私の友達にサティスファクションのファンがいるの! その子のお土産に皆のサインが欲しいんだけど……どうかな?」
「いいぜ! よっしゃー! その友達を満足させてやるぜ!」
「フハハハ! いいだろう! このキングのサインが欲しいとは、解ってるではないか!」
「サインは……苦手だな……」
「名前書きゃいいんだよ!」
暫くして、フレアは書き終えたサインを受け取る。
鬼柳は余白一杯に、デカデカと”満足”の二文字を。
ジャックは練習したであろう、かなり本格的なサインを。
遊星は丁寧な、クロウは大きめで見やすい字で自分のフルネームを書いていた。
「ありがとう!」
「フレア、急ぐぞ。 もう約束の時間まで1分も無い」
「ええ!? じゃ、じゃあね!」
フリントとフレアは港を目指して走り出す。
チーム”サティスファクション”は二人が見えなくなるまで見送り、その後は子供達を小屋に入れ、4人で焚き火を囲む。
「さて、俺達も今後の予定を話したら、今日は解散すっか!」
「予定? もう次のが立ってるのかよ……」
遠征から帰ってきたばかりだというのに、次の予定を立てている鬼柳に呆れるクロウ。
「ああそうだ! …俺は思ったんだ。 何故、次の目標が見つからないのか……それはまだ終わってないからだ!」
「は?」
「……どういう事なんだ?」
遊星が尋ねると、鬼柳は活き活きとした表情で答える。
「終わってねぇんだよ! 前の目標……”サテライト制覇”がな!」
「それはどういう事だ!? 説明しろ!」
「落ち着けよジャック。 いいか? これは遠征中に聞いた話だが、どうやらF地区にチーム”インセクト”の残党が集まりだしたらしい。 しかも、他のチームの残党まで取り込んでな!」
「何だって…!」
「マジかよ…」
鬼柳の情報に、全員が驚く。
チーム”インセクト”はかなりの大規模な勢力を誇ったチームであり、その残党の数も多い。
最近ではチーム”サティスファクション”を恐れて息を潜めていたが、どうやら他の残党と結託し、再び大規模な勢力となって動き出そうとしているようだ。
「この情報は本物だ。 何せ、遠征先の逃げてる奴等が合流しようだとか話してたんだからな! ……こういう奴等がいる限り、何度でも敵のチームは復活する。 つまり、サテライト中の決闘盤を持つ奴等全てを倒さない限り、サテライトを制覇したとは言えねぇ! 俺達の挑戦はまだ終わってないんだよ! 面白くなってきたぜ! クロウ! こういう奴等ならお前も文句は無ぇだろ? ハッハッハッハ!」
「……」
「鬼柳……」
遊星は不安を感じながらも、活き活きとした様子の鬼柳に対して何も言えずにいた。
これから自分を待ち受けている”悲劇の運命”を知らずに、鬼柳はダイダロス・ブリッジの下で満足出来る”未来”を思い浮かべながら、夜の暗闇に笑い声を響かせるのであった。
これにて、サテライト編第1章「チーム”サティスファクション”」は終了…といったところです。
サテライト編が続いているのに一旦クラッシュタウンに戻りますが(汗)
一応原作の流れでいくつもりですが、本編に入るのはまだ先になりそうです(汗)
短い上、デュエルなくてすいません(汗)
9話と一緒にしようか迷ったのですが、9話の雰囲気とまったく違っていた事と、あわせると2万文字と長くなるという事で分けました。