「うーん……ん……」
フレアとフリントがサテライトにやってきた翌日の朝。
テントの中で眠っていたフレアが目を覚ます。
「おはよー……あれ?」
フレアはテントの外に出るが誰もいない。
外で寝ていた6人分の寝具も既に片付けられている。
「このパターン前にも……」
フレアは急いで身支度を整え、外へと飛び出す。
「どこいった~! ……あれ?」
フレアが地上へと上がって駆け出すと、すぐそこの曲がり角にある広場で、遊星が決闘盤を構えているのが見えた。
もっとよく見ると、対戦相手はジャック。
2人の間で決闘を観戦しているフリントとラリー達4人。
遊星の場にはジャンク・ウォリアー。
ジャックの場には腹部に大きく恐ろしい口を持った悪魔、マッド・デーモン、そして伏せカードが1枚。
張り詰めた空気の中、ジャックが口を開く。
「……お前には俺を倒せない」
「……キングだからか!」
「……そうだ! キングだからだ!」
遊星の問いに、ジャックは顔に絶対的な自信の笑みを浮かべて答える。
「ねえ、フリント……一体どうなってるの? 何でこんな朝早くから遊星はジャックと決闘してるの?」
フレアはフリント達に近づき、この状況について尋ねる。
「もう9時過ぎだぞ……遊星がジャックに挑んだ。 ……どうやら、遊星は決闘に答えを求めたようだ」
「決闘で……答えを?」
「来いよ! バトルだ!」
ジャックが遊星を挑発すると、遊星はそれに応じる。
「ジャンク・ウォリアー! 攻撃しろ! ……!?」
その瞬間、 ジャンク・ウォリアーの体に鎖が巻きつき動きを止めると、電流の様な黒い光が ジャンク・ウォリアーを襲う。
ATK:2300→1600
「罠カード《闇の呪縛》! こいつがある限り、お前のモンスターは動けない! やれ! マッド・デーモン! 【ボーン・スプラッシュ】!」
マッド・デーモンが腹の口の中にある頭蓋骨を噛み砕き、その破片をジャンク・ウォリアーに向かって飛ばす。
動けないジャンク・ウォリアーはそれをかわす事が出来ずに破壊され、残った破片が遊星を襲う。
遊星 LP:200→0
遊星はその場で膝をつき、悔しさで体を震わせると、拳で地面を殴りつける。
「ああ!?」
「遊星が……負けた……」
ラリー達が驚きの声を上げる。
遊星がジャックに負ける事は、別に珍しい事では無い。
ただ、その負け方に問題があった。
「え? 皆何でそんなに驚いてるの?」
「……ジャックのLPは4000。 遊星は何も出来ずに敗北した……」
「嘘!?」
驚いているフレア達を余所に、ジャックは膝をついている遊星に近づく。
「遊星……決闘とは、モンスターだけでは勝てない」
「くッ…!」
遊星は顔を上げ、悔しそうに近づいてきたジャックを見上げる。
「罠だけでも、魔法だけでも勝てはしない。 全てが一体となってこそ、意味をなす……そして、その勝利を築き上げる為に、もっとも必要な物は……ここにある」
そう言って自分の胸を親指で差す。
「ここに……うん、解る気がする……フリントも解るでしょ?」
フレアは自分の胸に手を置き目を閉じる。
「いや、俺達が思っている事と、ジャックが思っている事は違うかもしれない」
「え? どうして?」
「決闘において、一つの考えだけが正しいとは限らない。 決闘者の数だけ、違う信念があってもおかしくはない。 ……何にせよ、自分が信じる道を行けばいい」
「…うん、解った!」
「遊星。 何時までも鬼柳の事を引きずり、今の言葉の意味を理解出来ないお前に勝利は無い。 ……じゃあな」
そう言って、ジャックは何処かへ去っていく。
残された遊星はもう一度地面を殴りつけた。
「解らないッ…! ジャックの言葉の意味も! 俺はどうすればいいのかも! 解らない……カード達も……応えてくれない…!」
「い、一度くらいの惨敗なんて気にするなよ! またリベンジしてやろうぜ!」
「そ、そうだよ遊星!」
「……すまない皆……今は放って置いてくれないか……」
励まそうとするタカとラリーの言葉を、下を向いたまま聞こうとしない遊星。
「ゆ、遊星…! あのね遊星! ジャックが言いたかったのは―――」
「フレア! …行くぞ」
「ちょ、ちょっとフリント!?」
フリントはフレアの言葉を遮り、フレアを引っ張って行ってその場を離れる。
「何するの! 遊星が悩んでるんだよ! 教えてあげても―――」
「俺達が教える事じゃない。 あれは遊星自身が見出さなければ意味が無い…」
「でも……」
「フレア、遊星に伝えて来てくれ。 ジャンク置き場にて待つ、決闘盤を持って来い……と。 お前が来るまで待っているともな……」
「ちょっと、フリント!?」
そう言ってフリントはフレアを置いてジャンク置き場へ向かってしまう。
* * *
「……ようやく来たか」
フリントがゴミ山の上で待ち続けて数時間。
既に辺りは暗くなり始めた頃、遊星が姿を現した。
後ろにはフレアとラリー達4人も一緒である。
フリントはゴミ山から下りると、決闘銃を抜き、決闘盤へと変形させる。
「決闘盤を持ってこさせた理由は解っているな? 俺と決闘だ。 俺達決闘者は、決闘で道を切り開くしかない」
「フリント……すまない。 今の俺では、まともな決闘が出来ない……また今度にしてくれ……」
そう言って遊星は腕につけた決闘盤を外そうとする。
その瞬間、長いワイヤーについた手錠が遊星の決闘盤を捕らえる。
「な…!? これは!?」
「…お前の住処から一つ拝借してきた。 俺と決闘しなければ、お前の決闘盤は破壊される」
そう言いながら、フリントは自分の決闘盤に片側の手錠を取り付ける。
それを見たフレアがフリントに詰め寄る。
「フリント!? 何て事をするの! 早く外してよ! 壊すなんて酷い!」
「俺に勝てばいい話だ。 それとも遊星。 お前は自分の決闘盤を捨ててまで俺との決闘を拒否するか? だとすれば……お前は決闘者として終わりだ」
「くっ…! 解った……その決闘、受けよう」
「「デュエル!!!」」
こうして、フリントと遊星の決闘が始まった。
先攻はフリント。
「遊星は嫌がってるのに……遊星ー! フリントなんかやっつけろー!」
「そうよ! やっちゃえ!」
「お、お前達……フリントにもきっと考えがあるんだ……」
フリントの無理やりなやり方に腹を立てたラリーとフレアは完全に遊星の側へ付き、そんな2人をナーヴが宥める。
「俺のターン!」
フリント 手札:5→6
「俺は《ヴォルカニック・ロケット》を召喚!」
フリントの場に現れたのはヴォルカニックのアタッカー、ヴォルカニック・ロケット。
何時でも突撃出来る様に遊星をその鋭い眼で睨みつけている。
ATK:1900
「ヴォルカニック・ロケットの効果により、デッキから《ブレイズ・キャノン》を手札に加える! …カードをセットしてターンエンド」
LP:4000
手札:5
モンスター
・ヴォルカニック・ロケット
魔法・罠
・セット
「俺のターン!」
遊星 手札:5→6
遊星は自分の手札を確認し、戦術を練る。
「(よし……ここは”チューニング・サポーター”を…) 手札からモンスター1体を墓地に送り、魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動―――」
墓地に送ったカード
ボルト・ヘッジホッグ
「その魔法に対して罠をチェーン発動! 《マインドクラッシュ》! 俺が宣言したカードが相手の手札にあった場合、それを墓地に送り、無かった場合は俺の手札をランダムに1枚捨てる!俺が宣言するのは―――」
フリントが決闘盤を決闘銃に変形させると、遊星の手札に向かって発砲。
遊星の手札の1枚を弾き飛ばす。
「―――《ジャンク・シンクロン》だ」
「馬鹿な…!?」
呆然とする遊星。
ラリーが代わりに弾き飛ばされたカードを拾うと、それは紛れも無く”ジャンク・シンクロン”であった。
「ほ、本当だ!? どうしてフリントは分かったの!?」
「戦術を読むのは簡単だ。 …今の遊星が相手ならな。 さあ、ワン・フォー・ワンはデッキ・手札からレベル1モンスターを特殊召喚するカードだ。 お前は何を特殊召喚する?」
「くっ…! 俺は……デッキからレベル1モンスター《ロードランナー》を守備表示で特殊召喚……」
遊星の場にロードランナーが現れ、守備体勢をとる。
DEF:300
「…カードを伏せてターンエンド」
LP:4000
手札:2
モンスター
・ロードランナー
魔法・罠
・セット
「俺のターン、ドロー!」
フリント 手札:5→6
「ロードランナーは攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない……それで俺の攻撃を防げると思うな! 永続魔法《ブレイズ・キャノン》を発動! そしてこれを墓地に送り、永続魔法《ブレイズ・キャノン-トライデント》を発動! 相手のモンスターを選択し、自分の手札から炎族1体を墓地に送る事で、選択したモンスターを破壊! さらに500ポイントのダメージを与える! 俺は《ヴォルカニック・バレット》を墓地に送り、《ロードランナー》を破壊する!」
フリントが決闘盤を銃に変形させると、ロードランナーに向かってヴォルカニック・バレットを撃ち、破壊する。
「ぐう…!」
遊星 LP:4000→3500
「この効果を使用したターン、俺は攻撃出来ない。 カードを伏せてターンエンド」
LP:4000
手札:2
モンスター
・ヴォルカニック・ロケット
魔法・罠
・ブレイズ・キャノン-トライデント
・セット
遊星の手札
ドッペル・ウォリアー
ドミノ
「……(”クイック・シンクロン”が来れば……) 俺のターン!」
遊星 手札:2→3
引いたカード
シールド・ウィング
「くっ…! 俺はモンスターをセット……ターンエンド」
LP:3500
手札:2
モンスター
・セット
魔法・罠
・セット
「俺のターン、ドロー!」
フリント 手札:2→3
「俺は墓地にある《ヴォルカニック・バレット》の効果発動! LPを500払い、デッキから同名モンスター1体を手札に!」
フリント LP:4000→3500 手札:3→4
「ブレイズ・キャノン-トライデントの効果発動! 手札から《ヴォルカニック・バレット》を墓地に送り、セットモンスターを破壊する!」
フリントが決闘銃でセットモンスター”シールド・ウィング”を撃ち抜き、破壊する。
「ぐあ…!(駄目だ……読まれている…!)」
遊星 LP:3500→3000
「俺はこれでターンエンド」
LP:3500
手札:3
モンスター
・ヴォルカニック・ロケット
魔法・罠
・ブレイズ・キャノン-トライデント
・セット
「……俺のターン」
遊星 手札:2→3
「(このまま守っていては……攻めるしかない!) 《ドッペル・ウォリアー》を召喚!」
遊星の場に銃を持ち、黒い戦闘服を着た兵士が現れる。
ATK:800
「ゆ、遊星……あんなモンスターしか出せないなんて……」
「攻撃力800しかないのに、どうする気なんだ遊星は……」
ラリーとブリッツが不安そうな声を上げる。
本来ドッペル・ウォリアーはシンクロ補助に使用するモンスターであり、単体で出すようなモンスターではない。
つまり、遊星にはもうこれ以外の手が残されていないという事である。
「装備魔法《進化する人類》を《ドッペル・ウォリアー》に装備! 自分のLPが相手より下の場合、装備モンスターの元々の攻撃力は2400となる!」
ATK:800→2400
「ドッペル・ウォリアーの攻撃力が跳ね上がった! いけぇー遊星ー!」
ラリーが攻撃力アップを表すかのように高く跳び上がる。
これでヴォルカニック・ロケットの攻撃力を500上回った。
「行け! ドッペル・ウォリアー!」
ドッペル・ウォリアーがヴォルカニック・ロケットに向かって機銃を乱射すると、撃ち抜かれたヴォルカニック・ロケットは墜落し、破壊される。
「ぐ…!」
フリント LP:3500→3000
「同じLPとなった為、ドッペル・ウォリアーの攻撃力は元に戻る……ターンエンド」
LP:3000
手札:1
モンスター
・ドッペル・ウォリアー
魔法・罠
・セット
・進化する人類
ようやくフリントに反撃した遊星だったが、その顔は晴れない。
持てる手を全て使った結果がこれだけなのだ。
まだ多くの手札を残したフリントと比べれば、自分が劣勢なのには変わり無い。
「俺のターン、ドロー!」
フリント 手札:3→4
「……行くぞ遊星! 俺は《ブレイズ・キャノン-トライデント》を墓地に送り、手札から《ヴォルカニック・デビル》を特殊召喚!」
フリントの場が噴火すると、その中からフリントの切り札、”ヴォルカニック・デビル”が姿を現す。
ATK:3000
「何…だと…!?」
「バトル! ヴォルカニック・デビルで攻撃! 【ヴォルカニック・キャノン】!」
ヴォルカニック・デビルが巨大な火炎岩を放つと、ドッペル・ウォリアーを一瞬で蒸発させ、そのまま遊星を襲う。
「うわぁぁぁーーー!!!」
遊星 LP:3000→800
遊星は膝を付き、その場に倒れこむ。
「ターンエンド! 遊星! 立て! まだ決闘は終わってないぞ!」
LP:3000
手札:3
モンスター
・ヴォルカニック・デビル
魔法・罠
・セット
フリントがそう呼びかけるが、遊星は一向に立ち上がる気配を見せない。
心配したラリー達やフレアが近くによって様子を見る。
「ゆ、遊星? どうしたんだよ?」
「……すまない……もう放って置いてくれ……駄目なんだ……俺は……俺は……」
遊星は地面に肘と膝を付き、うずくまってしまう。
「駄目って……何をいってるのよ遊星! 何時もみたいに立ち上がって、あんな意地悪なフリントなんか倒しちゃってよ!」
「駄目なんだ……カードの声が聞こえない……応えてくれない……解らないんだ……もう……」
「……お前はこの状況をカードのせいにするつもりか?」
その様子を見ていたフリントがゆっくりと近づきながら声を掛ける。
「違う……駄目なのは俺だ……皆……もう俺に関わるな……俺は……友を”不幸”にするッ……」
「ふ、不幸にって……いきなり何を言い出すの遊星!?」
「不幸になるんだッ! 昔も今も! そしてこれからもッ!」
遊星は泣き叫ぶような声を上げる。
その声に込められたものは、最近芽生えたものではなく、ずっと心の奥に溜め込んでいたような、重く深いものを感じさせた。
「遊星…! まさかまだ”あの事”を…!」
「え…?(あの事?)」
ナーヴが洩らした一言が、フレアの耳に入っていく。
そして、遊星の言葉を聞いたフリントは遊星に向かって走り寄り、遊星の胸倉を掴む。
「もう一度……もう一度言ってみろ遊星!!!」
「フリント!? 止めて―――!?」
「!? フ、フリント……?」
遊星は胸倉を掴まれ、上げさせられた顔でフリントを見た。
フリントは遊星を真っ直ぐ見ながら泣いていた。
その涙は止まる事を知らないように、フリントの頬から流れ落ちる。
「遊星…! 俺は鬼柳が死んだとお前に聞かされた時、思い出したんだ…! 俺にも……俺にも昔……掛け替えの無い友がいた事を!!!」
「フリント!? 思い出したの!? 昔の事を!」
フレアが驚いてフリントに尋ねるが、フリントは首を横に振る。
「肝心なところが思い出せない……俺が何者なのか……友の名前も顔も、思い出せない……だがいたんだ! 確実に……」
フリントは真っ直ぐ遊星を見詰めていた顔を下げる。
「だが……俺は失った……友と争い……別れ……そして、俺のせいで友が死んだ……」
「そんな…!?」
衝撃の事実に、フレアは言葉を失う。
一体、昔のフリントに何があったというのか。
「俺はお前と同じなんだ……どうしてあの時、友を止める事が出来なかった…? どうしてあの時、友を救えなかった…? ……お前と同じ様に、そんな後悔の念が渦巻いていた………だがな、俺は立ち上がった! 何故なら―――」
フリントは掴んでいた遊星の胸倉から手を離し、遊星の肩を力強く掴む。
「俺は進まなければならなかった! 仲間の為に、自分の為に……そして、死んだ友の為に! 俺は戦わなければならなかった!!! 逃げる訳にはいかなかったんだ!!! ……遊星、お前もだ! 皆を見ろ!」
フリントは遊星から手を放す。
手を離しても、遊星はフリントを見詰め、体を起こしたままでいた。
「フレアはお前を決闘者として尊敬し、お前を思って涙を流し、このサテライトまでやって来た! ラリー達はお前を慕い、お前と共にいる事を望んで生きている! そして俺の中にも……記憶を無くして大きく空いたこの”心”に! お前達の……お前の存在が輝いている! 俺は自信を持って言える! お前は掛け替えの無い”友”だと!!!」
フリントは涙を流しながら、吐き出しすぎた息を吸い、呼吸を整える。
全ての思いをさらけ出した男の姿が、そこにあった。
「……遊星、お前は俺達を見て”不幸”だと言うのか? そんな訳があるか! 俺もフレアも、ラリーもナーヴも、タカもブリッツも、ジャックもクロウも……そして鬼柳もだ! どんな最期であろうと、魂に焼きついた思いは消えやしない! お前と鬼柳の”絆”は途切れたりはしない!」
「そうよ遊星! 私……遊星に逢えてよかったよ! 遊星がいなかったら……今の私はいないもの!」
「遊星! 俺も遊星に逢わなかったら、今頃顔中マーカーだらけになって野垂れ死んでた! 遊星のおかげで、俺……生きてこれた! 遊星は俺達の”希望”だよ!」
フレアとラリーも涙を流して遊星に語りかける。
「そうだ遊星! 俺達ずっと一緒にやってきたじゃないか!」
「そんな俺達が”不幸”だなんて……そんな事を思われる方が”不幸”だよ」
「ていうか、遊星そんな風に考えてたんだな。 遊星ってムッツリだからよ。 逆に迷惑に思ってんじゃないかって心配してたよ俺」
ナーヴ、タカ、ブリッツは笑顔を遊星に向ける。
不幸な者は、誰一人としていない。
そんな素晴らしき友達を見て、遊星は眼に涙を溜める。
「皆……でも……」
「遊星! 進む事を恐れるな! ……心配するな。 お前が立てないのなら、フレアやラリーが手を貸してくれる。 お前が足を動かせないのなら、ナーヴとタカとブリッツが背中を押してくれる。 そして道に迷うのなら……ジャックやクロウ、そして俺が前に立って導いてやる! だから遊星……お前は己の為、友の為―――」
未来へ進むのだ!
「………ウオォォォォォーーーーーー!!!」
不動 遊星、魂の叫び。
遊星は叫ぶ、全てを吐き出すように。
恐れも、後悔も―――道を行くのに邪魔になる、重荷を全て吐き捨てて。
「……フリント……俺は……戦わなくてはならないんだな? 己と……過去と……」
「ああ!」
「俺は……進まなくてはならないんだな? ……この素晴らしい仲間達と共に!」
「ああ! 来い遊星!」
そう言ってフリントは遊星から離れる。
一定の距離まで離れると、ソリッドビジョンが復活する。
決闘再会の合図であった。
「遊星! カードもお前の友だ! ……もう解るな? 行け! お前の”光差す道”を!」
「ああ! 俺のターン!!!」
遊星は”絆”を信じ、指先に全てを込める。
「(皆……もう一度、俺と―――) ドローーー!!!」
遊星 手札:1→2
「……俺は魔法カード《戦士の生還》を発動! 墓地に眠る戦士族1体を手札に戻す! 俺が戻すのは《ジャンク・シンクロン》! そして召喚!」
遊星の場にジャンク・シンクロンが現れ、左手を隣にかざす。
ATK:1300
「ジャンク・シンクロンの効果発動! 墓地からレベル2以下のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する! 来い! 《ドッペル・ウォリアー》!」
続けて現れたのはドッペル・ウォリアー。
ジャンク・シンクロンの横で防御体勢を取る。
DEF:800
「さらに墓地から《ボルト・ヘッジホッグ》の効果発動! 俺の場にチューナーがいる時、墓地から特殊召喚出来る!」
今度はジャンク・シンクロンの右隣にボルト・ヘッジホッグが現れる。
流れる様な下級モンスターの連続召喚―――ようやく、遊星本来の決闘が戻ってきた。
ATK:800
「レベル2《ドッペル・ウォリアー》に、レベル3《ジャンク・シンクロン》をチューニング!」
ジャンク・シンクロンが背中に背負っているエンジンをかけると、姿が3つの光輪へと変わる。
その3つの光輪がドッペル・ウォリアーを囲むと、2つの光、そして光の柱へと変える。
「集いし星が、新たな力を呼び起こす! 光さす道となれ! シンクロ召喚! いでよ! 《ジャンク・ウォリアー》!」
光の柱から現れたのは遊星のエースモンスター、 ジャンク・ウォリアー。
両目を赤く光らせ、拳をフリントに向かって突き出す。
ATK:2300
「シンクロ素材となった《ドッペル・ウォリアー》、そして罠カード《星蝕-レベル・クライム-》を発動! まずは場にレベル1の星蝕トークンを特殊召喚し、場のシンクロモンスター1体とレベルを入れ替える!」
星蝕トークン ATK:0 レベル1→5
ジャンク・ウォリアー レベル5→1
「そして場にドッペル・トークンを2体特殊召喚する!」
ドッペル・トークン ATK:400
ドッペル・トークン ATK:400
遊星の場にジャンク・ウォリアー、ボルト・ヘッジホッグ、不気味な食虫植物、デフォルメされたドッペル・ウォリアー2体の、計5体が並ぶ。
「そしてジャンク・ウォリアーの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、自分の場のレベル2以下のモンスターの全攻撃力分、このカードの攻撃力をアップする! 俺の場にはレベル2のボルト・ヘッジホッグ、レベル1のドッペル・トークン2体、そしてレベル1となったジャンク・ウォリアー自身がいる! 〈パワー・オブ・フェローズ〉!」
ATK:2300→6200
「攻撃力6200だと!?」
「バトル! ジャンク・ウォリアーでヴォルカニック・デビルを攻撃! これが……俺のモンスター達の”絆”の力! スクラップ・フィストォォォーーー!!!」
ジャンク・ウォリアーのオーラが、隕石の様に巨大な拳となり、ヴォルカニック・デビルを押し潰す。
「ぐあぁぁぁ!!! くっ……それでいい……遊星……」
フリント LP:3000→0
ソリッドビジョンが消え、決闘終了のアラームが鳴り響いた。
遊星が急いでフリントの元へと駆けて行く。
「フリント! 大丈夫か! お前の決闘盤が―――」
「心配するな。 これは俺が見よう見真似で作った偽物だ。 この鍵を使えばすぐに外せる」
「!……ハッハッハ! …ありがとうフリント。 もう俺は迷わない」
「ああ! …もし迷ってしまっても、”絆”と共に乗り越えて行け!」
「…ああ!」
「遊星ーーーー!!!」
今度はラリー達が駆け寄り、遊星をあっという間に囲んでしまう。
その中で、フレアだけがフリントの元へと来ていた。
「お疲れ様! …あれ全部演技だったの?」
「ああ……最初は遊星を挑発して、闘志を出させる作戦だったんだが……まさかあのような展開になるとは、予想出来ていなかった」
「……ねえフリント。 記憶の方は…? まさかあれも演技とか……」
「いや、それは本当だ。 だが……肝心なところが分からない……正直、自分が先程何を喋っていたのかもぼやけてきている……俺がはっきりと思い出したのは、”そういう友がいた”……という事だけだ」
フリントは思い出そうと頭を抱える。
もしかしたら、フリントの記憶が戻ったのではなく、”魂”に刻まれた記憶が、フリントの思いに応えて口から放たれたのではないか―――フレアは何となくだが、そう思った。
「フリント……ナーヴが言っていた”あの事”って何なんだろうね?」
フレアはナーヴが洩らした言葉をフリントに伝える。
ナーヴの様子からして、遊星をあそこまで悩まし苦しめた原因なのは間違いなさそうだった。
「……何れ、遊星が話してくれるさ。 今は……喜ぶ時だ」
フリントは仲間達と笑い合う遊星に顔を向ける。
「うん! …それにしても凄かったね! 今の決闘! フリントが負けるとこ初めて見たもん!」
「ああ……俺もまさか、切り札ごと全LPを持っていかれるとは予想していなかった。 …あの土壇場で、そんな結果をもたらした遊星とカード達の”絆”は凄まじいな……カード達は信じて待っていたのかもしれない……遊星の復活を」
フリントは笑みを浮かべながら、決闘盤にセットしていた相手の直接攻撃を無効に出来る永続罠《ファイヤー・ウォール》をフレアに見せる。
「ふふ……完敗だねフリント!」
「次は俺が勝つさ……」
「ねえ2人共! 見てよ! 凄いよ!」
突然ラリーが興奮した様子でフリント達に手招きをしている。
周りをよく見ると、既に日は沈みきっており、フリント達が決闘を行っていた外灯の下以外は既に暗闇の中であった。
「どうしたのラリー? こんな暗い中でカードでも見つけたの?」
「違うよ! こっち来て、上向いて!」
「上? ……わぁ!」
ラリーに促されフレアとフリントが見たものは、満天の星空と、そこに流れていく大量の星々だった。
「すげぇなこりゃ……もう一生見れねぇかもしれないぞ」
「そうだな……サテライトって大体曇ってるから、星空自体稀だしな」
「それにしてもすげぇ……これなら願い掛け放題じゃないか? …ってもう実践してるし」
ナーヴ、ブリッツ、タカが流星群に感嘆していると、隣では早速フレアとラリーが願いの早口言葉を唱えている。
「凄い決闘者になれますように凄い決闘者になれますように凄いでゅりゅ……あーん! 噛んじゃった!」
「もっと簡単なのにしようよ。 何にしようかな……レアカード……いや、それよりも遊星みたいなカッコイイ男に……それだと長いな~…」
そんな様子に笑いながら、遊星とフリントも星を見上げる。
「フリントは何か、願ったりしたのか?」
「そうだな……記憶が戻りますように……とでも願ってみるとしよう」
そう言って2人は目を閉じて、それぞれ願う。
「(鬼柳…………俺は……もう友を失いたくはない。 今度こそ、俺は友を守る! 友が窮地に陥ったならば、必ず友を救う! だから……流星よ! 俺に―――)」
友を助ける”力”を!!!
「ねえ! あれ見て! あそこ!」
突然、フレアが空中を指差す。
全員が指差した方へ顔を向けると、何か光るものが空中を舞っている。
それは風に乗り、ゆっくりと地上へ落ちていく。
落ちた地点は――――遊星の足元。
「これは……」
遊星がそれを拾い上げる。
「何々? 何だったの?」
フレアを始め、全員が遊星の周りに集まり、遊星が手に持っているものを覗き見る。
遊星が手に持っていたのはデュエルモンスターズのカード。
シンクロモンスターであり、青白く輝く竜が描かれていた。
そのおかげで、暗闇の中でもはっきりとその姿が見える。
「綺麗……こんなに綺麗なカード見た事無い……」
覗き込んだフリント以外の5人は流星を眺めていたように、遊星が手に持っているカードに見とれていた。
フリントはそのカードを見ると、笑みを浮かべて遊星の胸を叩く。
「遊星。 それはお前のカードだ」
「え?」
「お前の足元に落ちたんだ。 …お前の願いとは、そいつの事だろう。 必ず、お前の力になるはずだ」
「だが…しかし……見つけたのはフレア―――」
「いいじゃん! 私何かより遊星の方が似合ってるよそれ!」
フレアに続いて、他の4人も皆頷く。
だが、遊星はそのカードを自分のものにする事を躊躇っている。
「なら遊星。 こういうのはどうだ? そのカードは皆の”絆”のカード、というのは?」
「皆の”絆”……」
「ああ。 そしてその中心にいるお前が、そのカードを皆から預かる……どうだ?」
「それいいねフリント! そうしようよ遊星! 皆のカードよ!」
フレアがラリー達4人を見渡すと、4人とも笑って頷く。
反対する者は誰一人としていない。
「皆……ありがとう。 皆の”絆”……俺が預かる!」
遊星がそう言うと、暗闇のジャンク置き場に5人の歓声が響き渡った。
「ねえ遊星! さっそくソリッドビジョンで見せてよ! ディスプレイモードで! せっかくだからシンクロ召喚からね!」
「シンクロから……解った」
フレアの要望を聞き入れ、遊星は決闘盤をディスプレイモードに変更し、決闘盤にジャンク・シンクロンとジャンク・ウォリアーを並べる。
「ワクワクしてきた! かっこよくシンクロ口上決めてね!」
「まだ手に入れたばかりなんだから無理だろそれは……」
興奮するフレアに呆れながらナーヴが突っ込みを入れる。
「行くぞ……レベル5《ジャンク・ウォリアー》に、レベル3《ジャンク・シンクロン》をチューニング!」
ジャンク・シンクロンが背中に背負っているエンジンをかけると、姿が3つの光輪へと変わる。
その3つの光輪がジャンク・ウォリアーを囲むと、5つの光、そして光の柱へと変える。
「集いし願いが、新たに輝く星となる……光さす道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ!
《スターダスト・ドラゴン》!!!」
光の柱から現れたのは、夜空に輝く星々の様な青白い竜。
その竜は暗闇の中から星空へと飛び上がり、流星と共に夜空を舞う。
ATK:2500
「凄い凄い凄い!!! ドラゴンだぁーーー!!!」
「うっはぁ~! すげぇぜ~!」
「……さっき見た流星群よりも、こっち見れて良かった…って感じだなこりゃ!」
ラリー、タカ、ブリッツは空を舞うスターダスト・ドラゴンに大興奮。
「ブラボーーー!!! 凄いね! シンクロ口上もよかったよ!」
「あの短時間でよく思いついたな遊星……」
フレアとナーヴが感嘆すると、遊星自身も驚いた顔をしている。
「いや……何故か、自然に言葉が出てきたんだ」
遊星はスターダスト・ドラゴンを見上げる。
初めて見たはずなのに、このドラゴンとは昔からずっと一緒だったような気がする―――そんな奇妙な感覚を遊星は覚えていた。
「(不思議なドラゴンだ……)」
サテライトの”希望”、未来への”希望”―――不動 遊星。
これが彼とスターダスト・ドラゴンとの、運命の出会いであった。
「”スターダスト・ドラゴン”……無事、不動 遊星の手に渡りました。 これより帰還します…………ヒーッヒッヒッヒ!」
過去に悩み、未来に悩み、友に悩み、地縛神に悩み、機皇帝に悩み……悩み多き主人公、不動遊星。
遊戯王の主人公はよく悩みますけど、質はともかく、種類の多さはダントツ遊星のような気がします。