第16話 動き出す物語
クラッシュ・タウン。
D・ホイールの製造に必要な鉱石、”ダイン”が眠る鉱山の麓にある町。
その昔、鉱石を求めた荒くれ者達が決闘を繰り広げた場所でもある。
現在では決闘に勝利し、鉱山の所有権を手にした”クラッシュ・ファミリー”が睨みを利かせている為、小さな縄張り争いが起こる程度であった。
その町の南側、その地区にある他の建物よりも比較的大きな店”レストラン・サザンライト”。
昼時には労働者や町民達で賑わう憩いの場。
その客が賑わう店の中で、一人の少女が要領良く立ち回っている。
「フレア~! こっち注文~!」
「はい! …ご注文をどうぞ」
後頭部の高い位置で結んだ金髪の髪を揺らしながら、カウガールスタイルの少女――――今年で16歳を迎えたフレアは精力的に働いていた。
「ブロンソンさん、今ならサンドイッチがおススメです」
「何時でもおススメじゃないか……まあ昔みたいなド正直な理由で注文を決められるよりはいいか。 それで頼むよ」
「はい、少々お待ちください」
フレアは厨房に注文内容を伝える。
厨房のストークが返事を返すと、フレアが厨房に入り、サンドイッチが乗った皿を手に持ってブロンソンの元へと戻ってくる。
「はい、お待たせしました」
「ありがとう……あれ? 卵は?」
気落ちした様子のブロンソンに、フレアはクスクスと笑う。
「売り切れです。 …何か前にもありましたね。 こんな事」
「そういえばそうだな。 3年前……フリントがここに来た時だったっけな~。 早いもんだ。 俺は3年と半年だな。 フレアも大きくなる訳だよ」
ゴーグルを掛けていてよく解らないが、ブロンソンは懐かしそうに目を細めているに違いない。
「ええ……それじゃ、ゆっくりしていってくださいね」
フレアはブロンソンに微笑むと、自分の仕事に戻っていく。
「……あのお転婆娘も、随分と落ち着いたもんだな~」
「いえいえ、ちょっと礼儀を覚えただけですよ。 あまり変わって無いですね。 俺から見れば」
フレアの後姿を眺めるブロンソンに、厨房から出てきたストークが声を掛ける。
客足が落ち着いてきたので、後を他の従業員に任せて休憩に入ったようだ。
「フレア! 上がっていいぞ!」
「はい! お疲れ様、兄さん!」
フレアはエプロンを外し、自分の部屋へ入っていくと、決闘銃を腰に提げて戻ってくる。
「行ってきます!」
「おお、気をつけろよ」
フレアは大きな声で外出をストークに伝える。
あの元気な声は、2年経っても変わらない。
何となくだが、ブロンソンは嬉しくなって笑みを零す。
「……ストークさんの言う通りかもな。 ところで、フレアは何処に行くんだ?」
「ニコとウェストの所。 遊ぶ約束してるそうですよ。 決闘しまくるそうです」
「……変わってないな」
* * *
フレアは北地区の秘密基地に辿り着く。
中に入ると、ニコとウェストが何時もの様にカードを並べて何かをしている。
「ニコ、ウェスト」
「あ、フレア!」
「こんにちはフレア」
やってきたフレアを見て、ニコとウェストが立ち上がる。
二人共大きくはなっているが、成長期の真っ只中にいるフレアには大分引き離されており、ニコでさえ少しフレアを見上げる形となっている。
暫く3人で雑談をしているが、ふとウェストがフレアに尋ねる。
「ねえフレア。 遊星からの連絡はもう来たの?」
「……まだ来てないわ」
ニコとウェストにはチーム”サティスファクション”について、ショッキングな内容は伏せて伝えてある。
勿論、鬼柳が死んだ事は伝えていない。
「大丈夫なのかな……遊星……チーム”サティスファクション”……」
ウェストはチーム”サティスファクション”のサインカードを見ながらそう呟く。
ジャックがサテライトを去ってから、遊星は大変だった。
俺はまたDホイールを作る。 そして……俺達の”絆”を取り戻しに行く。
遊星は再びDホイールを作ろうとするが、そこには多くの困難が待ち構えていたのだ。
まず予算が足りない。
最初のDホイールで殆どの蓄えを使ってしまった為、作り始める事すら出来ない状態であった。
その為に遊星達は寝る間も惜しんで資金調達に励んでいたが、そこへさらなる苦難が襲いかかる。
それは元デュエル・ギャング達の報復による、住処への襲撃であった。
未だに”サティスファクション”に恨みを持つ一部の元デュエル・ギャング達。
復讐したいが、”サティスファクション”は手強く、今まで手が出せなかった―――が、今は違う。
リーダーである鬼柳が死に、釈放されたクロウは行方不明。
そして、強者で武闘派のジャックがサテライトを去った今、孤立していて所在がはっきりしている”サティスファクション”の生き残り、不動 遊星にその矛先が向いたのである。
襲撃があった日、その場にいたフレアとフリントは遊星達とその場を切り抜けた。
俺達はこれからサテライトを転々とする。 当分は逢えないだろう。 …心配するな。 俺は諦めない。 何時か必ず、Dホイールを作って見せる。
そう言って、遊星達は去っていった。
落ち着いたら手紙を出すよう遊星に伝えていたが、その手紙は未だに来ない。
「……大丈夫よ。 遊星は強いから。 きっと無事」
フレアはウェストにそう言うと、自分のデッキを取り出す。
「それより決闘しましょ! 新しいコンボ思いついたのよ!」
「うん!」
* * *
「……」
ここはクラッシュ・タウンから大分離れた、市場が賑わう活気のある町。
その町へ買出しを任されたフリントが郵便局の長椅子に腰掛け、職員が戻ってくるのを静かに待っていた。
やがて、奥の部屋から男性の職員が出てくる。
「お兄さん、やっと来てたよ。 ……それにしても随分せっかちな人だなあんた。 毎日通って手紙が来てないか確認してるんだから。 慌てなくてもクラッシュ・タウンまでちゃんと届けるのに……そんなに急ぎなのかい?」
「急ぎではないが、待ち遠しくはあったな」
フリントは長椅子から立ち上がり、手紙を受け取る。
手紙の宛名はフリント、そしてフレア・ヴィルアース。
差出人は不動 遊星。
間違いなく、フリント達が待ち望んでいた手紙である。
フリントは郵便局を出て、止めてあった車に乗り込むと、クラッシュ・タウンまでの帰路を急いだ。
* * *
「しかし、ようやくフリントも仕事が出来る様になったんだな」
「ええ、驚きました。 車の運転が上手いんですよ。 本人の希望もありましたから、買出しをお願いする事にしたんです。 多分、そろそろ帰ってくる頃だと思います―――っと、噂をすれば」
日が暮れてきた午後6時頃、再び賑わいそうになってきた店内でブロンソンとストークが会話をしていると、外で車の走行音が聞こえ、店の前に停車するのが見えた。
ストークは店を出てフリントを迎える。
「お疲れさん。 いいタイミングだ。 後は俺がやっておくよ」
「ああ、すまない……フレアは中に?」
「いや、ニコとウェストの所だ。 ……もしかして、来たか?」
「ああ……一番心待ちにしていたのはあいつだろう。 行って来る」
* * *
「ドリル・ウォリアーでウェストを! サンダー・ユニコーンでニコを攻撃!」
「わぁ!? また負けちゃった……」
「もう私達じゃ相手にならないわね。 フレア、本当に強くなって……」
秘密基地で行われている2対1の変則タッグデュエル。
デュエルシートで行われたこの決闘を制したのはフレア。
「ふふ、ありがとう。 私はもっと強くならなきゃ。 じゃないと、ジャックに勝てないからね」
笑いながらカードを片付けるフレア。
そこへ手紙を持ったフリントが秘密基地に入ってくる。
「フレア、やっと来たぞ」
「フリント? 来たって……遊星の手紙!?」
「あ、フリント!」
「いらっしゃい、フリントさん」
フレアは驚いて立ち上がり、フリントに詰め寄る。
他の二人もカードを片付けて立ち上がると、フリントに挨拶を交わす。
「ああ……俺は先に読ませて貰った。 ……何時の間にか、大分話が進んでいるようだ」
フリントがフレアに手紙を渡すと、フレアはその場で読み始める。
フリント、フレア、元気か?
遅れてしまってすまない。 大分前に奴等は俺を追う事を諦めたんだが、その後もゴタゴタが続いてな。 Dホイール制作にも熱が入って、中々手紙を出す事が出来なかった。 とにかく、俺達は全員無事だ。
「よかった~……」
そして、お前達に伝える事がある。
お前達がこの手紙を読む頃には、俺はもうサテライトにいないだろう。
「え…?」
完成したんだ。 新しいDホイールがな。
俺はそれに乗ってシティへと向かい、ジャックに会いに行く。
俺達のカードを取り戻す為に。
「……」
その後の内容は、シティに侵入する為の手段、そしてそれの実行日と実行時間が記されていた。
遊星もジャックと同じく、パイプラインを利用してシティに向かうらしい。
それは流出が止まるメンテナンス時間を狙い、パイプラインを完成したばかりのDホイールで駆け抜けるという、無謀極まりない作戦であった。
「…~~~ッフリント! サテライトに今すぐ行きましょ!」
「……確かに決行日は今日だが、今から行っても間に合わないぞ。 決行は23時15分。 今は18時過ぎ。 サテライトまでは車で6時間以上掛かる上、途中で夜になる。 スピードが出せん」
「それでも行かなきゃ! 行って遊星を応援したい! 間に合わなくても……お願いフリント!」
「……分かった。 俺も気持ちは同じだ。 行こう」
フリントとフレアは秘密基地を飛び出し、急いで車へと向かう。
「何だかよく分からないけど……頑張ってねー!」
「行ってらっしゃい!」
事情は分からないが、ニコとウェストは二人に後ろから声援を掛けて送り出した。
* * *
「フリント急いで! もう40分も過ぎてる!」
「解っている!」
フリントが運転する車がサテライトに到着したのは23時30分。
ここまで飛ばしてきたのにも関わらず、暗闇とサテライトの悪路のせいで到着が遅れてしまった。
現在時刻は23時55分。
フリント達は住処へ向かわず、直接パイプラインへと向かっていた。
近道としてギリギリ車で入れる道を通り、大通りに出ようとした瞬間、バイクの走行音が聞こえて来る。
フリントはそれに反応し、車を大通りの前で急停止させると、目の前を赤いバイクが横切る。
「遊星!!!」
「ウソ!? 今のが!?」
フレアが驚いている間に、続けて白いバイクが横切る。
「あれはセキュリティの……追われているのか」
「大変! 私達も追いかけなきゃ!」
「無駄だ。 車ではDホイールのスピードに追いつけない。 ……心配無い。 遊星が向かう方向はパイプラインだ。 つまり、作戦は続行だろう。 …遊星なら、やり遂げる。 信じよう」
フリントは強く息を吐き、背もたれに体を預ける。
買出しの分と、ここまで休憩無しの全力で運転してきた分の疲れが来たのであろう。
「……今日はナーヴ達に宿を頼もう」
「ええ……ごめんなさいフリント。 お疲れ様」
* * *
フリント達が遊星の住処に向かうと、ナーヴ達の姿が見えない。
暫く待っていると、ナーヴ達4人が戻ってきた。
ノートパソコンや双眼鏡を持っている事から、おそらく作戦を見届けに行っていたのだろう。
4人の顔は明るく、どうやら無事に遊星はパイプラインを抜けたようである。
「皆!」
「「「「あ!?」」」」
フレアの呼び掛けに、4人は2人の元へと駆けて来る。
6人は互いの無事を喜び、そして再会と作戦の成功を喜んだ。
「驚いたのよ? やっと連絡が来たと思ったら、もうDホイールが出来てて、もうジャックの所に行ってるなんて。 何か仲間外れにされたみたいでちょっとショックよ」
「悪いな。 色々あったんだ。 紙を買う金も暇も惜しんでDホイール作ってたから、気付いたらこんな知らせるのが直前になっちまったんだ」
申し訳無さそうにするナーヴ。
この後はお互いの積もる話をした。
ラリーがデュエル・ギャングの一人を倒した、今回のDホイールは念願のハイブリットタイプ、フリントが車を運転出来る様になった、フレアはジャックを倒す為に特訓をしている等、驚く様な話が飛び交う。
「私ね、必ずDホイールを手に入れて、ジャックに挑戦する為にシティへ行きたいの」
「ジャックにって……遊星が今さっき取り返しに行ったじゃないか」
ナーヴが首を捻ると、フレアは首を振って立ち上がる。
「私はジャックと決闘して倒したいの! 私、絶対にジャックがキングだなんて認めない! キングになったジャックのシティでの決闘、テレビで見た事ある?」
「あ、ああ……遊星のパソコンで放送をジャック出来るから見た事あるぞ」
ナーヴの言葉に、他の3人も頷く。
「私も隣町への買い物の時、知り合いの家で見せて貰ったの。 何か色々言ってたよね―――」
キングは一人! この俺だ!
最初からキングが全力で掛かったら、一瞬だ!
キングの決闘は、エンターテイィーメントでなければならない!
「―――って。 馬鹿みたい! 隣でこう叫んでやりたいわ!」
フレアはジャックの真似をしながら、叫ぶ。
「最初から嘘と毒で掛かれば、一瞬だ! キングになるには、泥棒をしなければならない!」
フレアの改造ジャック演説に4人は唖然とする。
今まで口を開かなかったフリントが溜息を吐く。
「……毒はジャックではないと言っただろう。 それにドラガンの話は確かに不自然だったが、推測の域を出ていない。 ここまで勝ち抜いたのは、ジャックの実力だろう。 その為にお前は特訓をしているんだろ? ……後、気持ちは解らなくも無いが、お前ももう大人と言っていい年だ。 もう少し淑やかにしろ」
「嫌よ! 何でフリントはそうやってジャックを庇うの? 自分が一番酷い事されたのに、馬鹿みたい!」
フレアは子供っぽくむくれると、フリントに対してそっぽを向く。
ブロンソンが言う様に、年相応の落ち着きを見せてきたフレアだったが、今でも子供っぽい一面を見せる事があるようだ。
フリントが話した”ドラガン”とは、フレアとフリントが見たジャックの防衛戦の相手である。
ドラガンはここまで勝ち抜いてきた挑戦者とは思えない様なプレイングをし、そのままジャックに敗れてしまった。
フレアはこの試合を”八百長”だとか、”ドラガンがジャックに脅されてる”などと言って聞かないのだ。
「まあまあ二人共、今は止そうぜ。 それにしても、本当に驚く様な事ばかりだよな。 他には―――」
フリント以外の視線が、フレアに集中する。
「…ちょっと見ない間に大きくなったな~……俺よりあるんじゃないかもしかして」
「そうだな……それくらいか。 タカくらいだから……160前後ってところか。 ラリーとの身長、昔は頭半分、ってところだけど、今じゃ一つ分程開いてるな」
「お、俺だってでかくなってるはずなのに……」
皆が驚いた様子でフレアとタカ、ラリーを見比べている。
「ふふ! そう? もしかしたら将来はフリントを抜かしたりして! ……でも、大きくなったって言っても、数センチとか位でしょ? そんなに驚く事でもないと思うけど…?」
「え? いや……何ていうか……なあ?」
「俺に振るなよ……」
「えーと……」
皆の驚き様にフレアが首を傾げて尋ねると、ラリーを除く3人がなにやら困ったような表情をする。
「さて……ずっと運転だったからな。 もう休ませて貰う。 車が心配だから車で寝る」
「あ、待ってフリント!」
フリントが立ち上がり、ホームから出て行こうとすると、フレアが駆け寄って呼び止める。
「ねえフリント。 私に何か変なところある? 皆何か態度が変だし……」
フレアは小声で言うと、自分の体を見回す。
「……何も変なところは無い。 お前が大人になったというだけだ」
「?」
「待ってフリント!」
そう言ってフリントは再び歩き出すが、今度はラリーに呼び止められる。
フレアと同様に、ラリーも近寄って小声で話す。
「フリントはさ。 その……憎くないの? ジャックが。 俺は正直……憎いよ。 裏切られたのもそうだし……俺だけじゃなくてフリントにもあんな目に遭わせたし……」
「……3年前、お前に言ったな? ”俺はお人よしじゃない”……と。 あれは間違いだ」
「え?」
「俺はとんでもなくお人よしだ。 ”友”に関してはな。 どうしても……信じたくなる」
昔、友を失った経験があるからなのか、フリントは自分の中でジャックを切り捨てる事が出来ない。
願っているのだ―――戻ってくる事を。
「確かに、ジャックに対して憎い気持ちはある……だが、憎むよりも信じていた方が、ずっと楽で気持ちがいい。 だから俺は信じる事にした……ジャックを……そして、会いに行った遊星を」
「フリント……そうだね! きっと遊星なら…! ありがとうフリント! また明日ね!」
「ああ……」
ラリーは納得した様子で引き返していく。
フリントは地上に上がり、空を見上げると、雲の隙間から僅かに星が輝いていた。
その星に遊星とスターダストの無事を願いながら、フリントは車の中で目を閉じたのであった。
というわけで、ここから原作本編です。
原作の流れを追いながらも、独自の展開で進めようと思っています。