第18話 不思議な世界のカウガール
今日の”夢”は長かった。
たった数日の出来事なのに、とても長く感じた。
その内容がはっきりしていて、衝撃的過ぎたからだ。
最初は、いい”夢”だと思った。
遊星がジャックに勝利した。
それも”フォーチュン・カップ”という大舞台の、決勝戦で。
ジャックを打倒し、遊星は新たな”決闘王”となったのだ。
喜びのあまり、跳び上がりそうだった。
感覚は無いが、実際に跳び上がったかもしれない。
早く”夢”から覚めて、この興奮をフリントや兄に伝えたかった。
そして、心を躍らせるもう一つの話―――”星の民の伝説”。
赤き竜と、その竜を模した痣を持つ5人の戦士―――”シグナー”。
そのシグナーの一人が遊星であり、シグナー達が従える5体の竜の内の1体がスターダスト・ドラゴンだと知った時は驚いた。
やはり、遊星は只者ではなかったと。
スターダスト・ドラゴンも、ただのカードではなかったのだと。
だが不安な事もあった。
シグナーの宿敵―――”ダークシグナー”。
冥界の王を復活させ、世界を滅ぼそうとする”ダークシグナー”と、それを阻止して世界を守ろうとする”シグナー”。
彼等は5000年周期でこの世に現れ、世界を賭けた戦いを繰り返す。
前回の戦いから5000年後の今、再び世界を賭けた戦いがサテライトで起こるのだという。
治安維持局長官”レクス・ゴドウィン”からその話を聞いた遊星は、サテライトの仲間達を守る為、戦いの地となるサテライトへと舞い戻り、ダークシグナーとの戦いに身を投じる決意をする。
何とも言えぬ”不安”を感じた。
それは時間が経つ毎に大きくなり、もはや先程までの興奮は完全に冷め切る。
最終的に残っていたのは、”もうこれ以上見たくない”という恐怖からの思いであった。
そして、その感じていた”不安”は最悪の形で目の前に映る。
地上絵の中から上がる人々の悲鳴。
そして、それを貫く、狂ってしまった懐かしい声―――
「人々の魂を生贄に……降臨せよ! 《地縛神 Ccapac Apu》!」
地上絵の中にいた人々が心臓の様なものに吸収されていく。
全員を吸収し終えると、心臓が邪悪な光の柱に包まれ、消滅した瞬間、地の底から黒い巨人が姿を現す。
その巨人は体に刻まれた青い模様を発光させると、低く野太い呻き声を上げる。
ATK:3000
その巨人を召喚し、従えているのは死んだはずの鬼柳。
その巨人と対峙しているのはスターダスト・ドラゴンと、それを従える遊星。
鬼柳と遊星はライディング・デュエルを行っていた。
「ヒャーーーッハッハッハッハッハ! アッハッハッハ!」
狂った様に笑う鬼柳。
彼は内も外も変わり果てた姿で、遊星と決闘を行っていた。
「……こんな巨大な……モンスターが……」
「遊星よ、亡者の呪いをその身でとくと味わうがいい! …我が神”Ccapac Apu”よ! 宿敵”シグナー”に、裁きの鉄槌を振り下ろせ!」
鬼柳が攻撃宣言を行うと、巨人がその腕を遊星目掛けて振り下ろす。
その腕はスターダスト・ドラゴン、くず鉄のかかしをすり抜け、真っ直ぐに遊星へと向かう。
腕が遊星を押し潰そうとした瞬間、遊星のDホイールの一部が爆発音と共に煙を吹き、減速。
直撃は免れたものの、衝撃によって遊星はDホイールごと吹き飛ばされる。
Dホイールの走行不能による決着であった。
Dホイールから投げ出されて地に転がり、苦しそうに顔を歪めている遊星。
その横で愉快そうに笑う鬼柳。
「苦しめェ! 怯えろォ! 恐怖に支配され、戦慄の業火に身を焼かれる生き地獄! 嘗てこの俺が味わった辛酸を、貴様も味わうがいい!」
鬼柳がカードを掲げ、巨人を収めると地上絵も消滅する。
「命は預けておく。 次に会う時まで、恐怖に怯え生き恥を晒すがいい……」
そう言って去っていく鬼柳。
正に悪夢のような光景に、フレアは叫ぼうとした―――――
「あ! 気が付いたか!」
眼が覚めた瞬間、目の前に兄であるストークがいた。
フレアは叫んだはずだったのだが、声が出ていない。
喉が痛く、息苦しい。
自分の体の異常をストークに尋ねようとした瞬間、先にストークが口を開く。
「驚いたぞ。 お前には無縁のものだと思っていたからな。 覚えてるか? 仕事中にお前、倒れたんだぞ。 お医者の先生は安静にしていればすぐ直るって言ってたから、絶対に安静にしてろよ。 ……暇だからって抜け出すなよ。 皆にうつったら大変だからな。 後……今度から体調が悪いと思ったら、無理せず休め。 分かったな? それじゃ、お休み」
「ま……待って……」
フレアは何とか声を出し、ストークを呼び止める。
「どうした? 腹減ったか? それとも―――」
「フ……フリントを……」
「フリント?」
フレアは今すぐサテライトへ向かいたかったが、体が言う事を聞かない。
動けたとしても、周りに止められるであろう。
なのでフリントにこの事を伝え、サテライトへ遊星を助けに行って貰おうと考えた。
「フリントはお医者の先生と一緒に病院へ行ったぞ。 お前の薬を貰う為にな。 もうちょっとしたら帰ってくるから、それまで待ってろ」
そう言って、部屋を出て行くストーク。
もう一度ストークを呼び止めようとするフレアだったが、急に意識が遠くなり、そのまま気絶してしまった。
・
・
・
フレア、聞こえますか? フレア―――
「ん……?」
自分を呼ぶ声に反応し、フレアは目を覚ます。
立ち上がると、そこは何もない、真っ白な空間。
「ここ……何処? 私部屋で寝てて……あれ?」
フレアは自分の喉に手を当てる。
痛みがない。
喉どころか、体のダルさも無くなっていた。
「治ってる! これで遊星の所に……って、その前にここは……フリントも兄さんもいないし…」
逸る気持ちを抑え、フレアは現在の状況を確認する。
何も無い真っ白な空間、そこには自分ただ一人。
服装は何時ものカウガールスタイル、持っているのは自身のデッキと決闘銃のみ。
「さっきまではパジャマと頭におしぼり……今は何時もの服と決闘銃……どうなってるの?」
無事に目を覚ましたようですね。
「きゃ!? ……だ、誰?」
再び聞こえてきた声にフレアは跳び上がって驚く。
私は、あなた達と共にある者……大空であり、大地であり、風でもある。
「??? ど、どういう事……?」
ごめんなさい……今は詳しく話せる時ではありません。
急がなければ、シグナー達が危ない―――
「シグナー!? それって遊星の事!?」
フレアは思い出す。
苦しんでいる遊星の姿を。
不動 遊星は大丈夫です。
彼は”地縛神”の恐怖を乗り越え、立ち上がった。
あなたに助けて欲しいのは、他のシグナー……彼の掛け替えの無い仲間。
「他のシグナー……ジャックの事?」
ジャック・アトラスでもありません。
……彼女は5人の中でも、特別な”力”を持ったシグナー。
ですが、今の彼女は”戦う力”を持ちません。
お願いですフレア! あなたの”力”を―――
その瞬間、フレアの目の前に渦の様なものが現れ、フレアを引き込んでいく。
「ちょ、ちょっと待って! まだ待って!」
お願いです……あなたにしか頼めないのです。
「そうじゃなくて! やっぱりあなたの事が知りたいの! あなたの声……何だか知らないけど凄く懐かしい……一体誰なの!? 協力するから教えて―――」
必死で呼びかけるフレアだったが、とうとう渦の中へと消えてしまう。
フレア……私はあなたを”守る者”。
あなたとは、ずっと一緒にいました……あの広く自由な”大空”の下……そして、”荒野”の中で―――
* * *
「……ここは……森?」
気付いた時、フレアは霧が立ち込める薄暗い森の中に佇んでいた。
「こんなに沢山の緑、本の中でしか見た事ないわ……もうちょっと明るければ文句は無いのに」
フレアは辺りを見回しながら歩き始める。
暫く同じ様な景色の中を歩いていると、一人の少女がうつ伏せになって倒れているのを見つける。
「大変!? ねえどうしたのあなた……!?」
フレアがその少女に触れようとした瞬間、自分の手が少女の体を通り抜けてしまう。
「え? え? …どういう事? まさかこの娘……幽霊!?」
この森の雰囲気からそう判断したフレアは、少女からさっと飛び退く。
その瞬間、少女が眼を覚まして起き上がる。
「う……あ……ここは? …私、一体……」
「え~と……大丈夫? 怪我してない?」
フレアが後ろから声を掛けるが、少女は振り向きもしない。
今度は正面に回るが、どう見てもフレアは彼女の視界に入っていない。
「お~い……(わぁ、可愛い娘……)」
目の前の少女は整った顔立ちをしており、緑色の髪を兎の耳の様にした特徴的な髪型はとても愛らしい。
挙動からして大人しそうに見えるが、その目の奥には”強い意志”が宿っている様に見える。
「クリリ~…」
「きゃあ!? 何!? 何!?」
フレアが少女の気を引こうと奮闘していると、突然足と尻尾を生やした大きな毛玉の様なモンスターが空中から少女の前に下りて来る。
「あ! クリボン……あ!?」
「え…?」
フレアは少女が声を上げた方向を見ると、遠くの方に干乾びた様な竜が描かれた岩を見つける。
「”エンシェント・フェアリー”が封印されている山……ここは……”精霊の世界”……」
「ええ~!? 精霊って……」
フレアは小さい頃、母が買い与えてくれた絵本で見覚えがあった。
デュエル・モンスターズの精霊――――自分達が住む世界ではない何処かに彼等は住んでいるのだと言う。
カードはね、精霊世界の窓なのよ。 精霊さん達がカードの奥にある精霊世界からフレアを見ているの。 だからカードを大事にしてあげないと、精霊さん達は怒って窓の前からいなくなっちゃうかもね。
精霊についての話は、フレアが小さい頃に存命していた母親がよく聞かせてくれた。
「という事は……本物の精霊!? きゃー!」
フレアが子供の様に眼を輝かせ、クリボンに抱きつこうとするがやはりすり抜け、フレアは自分自身を抱きしめる事となる。
「……どうしてぇ~!?」
フレア……フレア、聞こえますか?
「!」
悔しそうに自分を抱いているフレアの頭に、先程の声が響く。
今のあなたには実体がありません。
もう少しであなたに実体を持たせる為の”力”が溜まります。
もう少しだけ、待っていてください―――
「あ! 待って……一方的に話されちゃった。 それにしても……私の方が幽霊だなんて」
フレアは再び少女の方を見る。
少女はクリボンと呼ばれた精霊と共に歩き始めていた。
「……どうすればいいか分からないし、とりあえず付いて行ってみようかな……」
* * *
「クリボンは一体何処に向かってるのかしら……」
クリボンを先頭に少女、フレアという順で歩いていると、突然少女が驚いた顔で後ろに振り向く。
「今の声……龍亞!? 龍亞が戦っているの!? どうして!?」
「ルア? …って、誰の事? それに声なんて……」
フレアは耳を澄ましてみるが、聞こえてくるのは風で揺れる木の葉の音ぐらいである。
少女は不安そうな表情を浮かべるが、すぐにそれを消し、クリボンを促して走り始める。
「え? あ、ちょっと待って! どうしたの一体……」
フレアも慌てて後を追う。
そうやって走り続ける内に森を抜け、霧も晴れきた。
「あ! あんなとこに町が! 行ってみようクリボン!」
「クリリ~」
少女とクリボンは町を見つけると、そこへ向かって駆け出す。
「あ、町がある……けど」
フレアも同じ様に町を見つけるが、前を行く少女よりも鋭い感覚を持つ彼女は町の異様さに気付く。
「(ここからでも解る……人が全然いない……隠れてるの? ……どうなっているのかしら?)」
* * *
「誰もいないのかしら……」
案の定、町には人影がまったく見えなかった。
少女は不思議そうに辺りを見回しながら歩いている。
一方、フレアはこの町に入る事で、更なる異様さに気付いていた。
「(見られてる……それも結構沢山に……私の事は見えないだろうから、見られてるのはあの娘ね)」
これがフリントなら、精確な数と、敵意があるか無いかも言い当てられたであろう。
経験が浅いフレアでは”沢山”が限界であった。
「(それに……)」
フレアは町中に見られる杖の様な物を見る。
町中の至る所に突き立てられたり掛けられていたり、明らかに異様である。
「あら…?」
少女が突然立ち止まると、目の前の物陰からこちらを窺っている子供が何人も見えた。
フレアが感じた視線の正体はこの子供達であろう。
「ねえ、あなた達何してるの?」
「「「うわぁ~!」」」
そう言いながら少女が子供達に近づくと、子供達は怯えながら逃げ去ってしまう。
「ちょ、ちょっと! 待って!」
少女が子供達を追いかけるが、子供達は何処までも逃げていってしまう。
「(何かあったのかな…?)」
少女の後を追いながらフレアが考え込んでいると、広場に辿り着いた少女は息を切らしてベンチに座る。
「どうして皆逃げちゃうの…?」
寂しそうに俯く少女。
そんな少女に声も掛けてやれない現状に、フレアは悔しさを覚える。
そんな中、フレアは何かの音を聞く。
「(? ボン、ボン……ボールが跳ねる音?)」
「クリリ~」
「どうしたのクリボン?」
クリボンもそれを聞き取ったようであり、その音の方へと向かう。
少女とフレアもそれに続くと、向かっていた階段の下からボールが跳ねて上がってくるのが見えた。
ボールはどんどん加速し、階段の手前に立っていた少女の腕の中に納まる。
「え…? ど、どういう事?」
「ボールが階段を上がってくるなんて……どうなってるの? ……あ」
フレアが面食らっている中、少女はふと近くの木を見ると、地面に落ちている木の葉が浮き上がり、再び木の枝にくっつくのが見えた。
その木の下には、例の杖が突き立てられている。
「見て、落ち葉が木の枝にくっついていく……」
「あ、本当……さっきのボールといい、あべこべな世界ね……」
「この世界では、物が反対に動くのかしら………これ、何かしら?」
ようやく少女が杖に注目する。
先が二叉になっている杖であり、その根元部分に両側が指針になっている棒が横向きに取り付けられている。
その指針は時計の指針にも見えるが、時間を示す物には見えない。
「あちこちで見かけるけど……!? 何!?」
少女が杖を見詰めていると、突然強くて嫌な風が吹いてくる。
「(これは……良くないものの前兆!)」
「奴等が来るよ!」
フレアがそう考えていると、突然子供達の叫びが聞こえて来る。
「精霊を捕まえに来るよ!」
「早く逃げて!」
少女に向かってそう言うと、子供達は次々と現れては逃げ去っていく。
「え……どういう事? !?」
その瞬間、少女が信じられない様なものを見るような表情になる。
フレアにはそれが何なのかは解らないが、その様子を見た後に感覚を研ぎ澄ますと、沢山の足音を聞き取った。
「(何か来る…!)」
「駄目…! こっちよクリボン!」
少女はクリボンを促し、広場から離れ、階段の横にある路地に隠れる。
フレアもその後に続き、共に路地から広場を覗いた。
「ニオウ……ニオウゾ! セイレイノニオイ!」
「セイレイドコダ!」
そこには兵士の様な身なりをした大量の猿で溢れかえっていた。
全員が町中にあった杖を手に持っている。
ただ、その手に持たれた杖の指針は、全員縦に取り付けられていた。
「オマエ、アッチマワレ! オレ、コノサキサガス!」
「ウキー!」
「(お猿さんが喋ってる……)」
「何なの……あれ」
少女とフレアが息を潜めて様子を窺っていると、突然少女のポケットが光り出す。
少女がそのポケットから取り出したのはデッキケース。
「(あ、この娘決闘者なんだ。 決闘したいなぁ~……!?)」
フレアが呑気にそんな事を考えていると、突然目の前に妖精と自分もよく知る馬のモンスターが現れる。
「サ、サンライト・ユニコーン!?」
「皆……恐がらないで……ああ!?」
「ンン!?」
少女が突然現れた精霊達を落ち着かせていると、先程の猿がやってきてフレアと少女が隠れている路地を覗いた。
「クリリ~!」
「ああ!?」
その瞬間、恐れからなのか、少女を逃がそうとしたのか、クリボン達は路地から飛び出す。
「イタゾー!」
猿達の狙いは精霊。
勿論その後を追いかける。
ここで猿の中に1匹が手に持った杖を振り上げる。
「駄目ッーーー!!!」
路地から出てきた少女が声を張り上げるが、時既に遅し。
精霊達に差し向けられた杖の指針が横向きになると、杖の先から邪悪なオーラが飛び出し、精霊達を包むと、突然現れた石版の中に閉じ込めてしまう。
「ドウダ? ”マイナス”ニナッタキブン?」
猿の一匹がいやらしい笑みを浮かべながらクリボンの石版にささやく。
「どうしよう……クリボン達が……」
「そこにいちゃ駄目! 早く戻って!」
フレアが必死になって姿を晒している少女に呼びかけるが、少女には聞こえない。
やがてこちらに振り向いた猿達が、”精霊と一緒にいた怪しい少女”を捕まえようと迫ってくる。
呆然としていた少女が我に帰ると、慌てて階段を駆け上がって逃げ出した。
* * *
追っ手から逃げ回っていた少女とフレアだったが、挟み撃ちにされ、とうとう追い詰められてしまう。
何とか見つけて逃げ込んだ路地も行き止まり。
もはやこれまでと諦めかけたその瞬間、突然足元の石が浮き上がり、その下から一人の少年が手招きをしていた。
少女は迷わずその少年のいる穴へと入り、身を隠す。
「えーと……私は……まあ見えないんだし、いっか」
暫くして猿達がやってくるが、石の仕掛けを見つけられず、早々と他の場所へ移動していった。
「……行ったようじゃな」
石の隙間から顔を覗かせた少年が石を退かし、穴から上がると、少女に手を貸して上がらせる。
「ありがとう! おかげで助かったわ」
「よっと……お嬢ちゃん、さては違う世界から来なすったな?」
「え?」
石で隠れ穴を塞ぐと、年寄りの様な口調の少年は少女にそう尋ねる。
「やれやれ。 小さな子がたった一人で精霊界に彷徨い込むとは……わしが付いとらんかったらどうなっていた事やら」
「(一応、私もいるんだけどね。 見えないし、何にも役に立ってないけど)」
呆れた様子で杖を突く少年に対して、フレアは溜息をつく。
「ちょっと! お姉さんに対してそんな言い方無いんじゃない? 君だってまだ子供じゃない!」
少年の言葉に対して、少女はムッとして言い返す。
「子供ではないぞ! こう見えても、立派な爺さんじゃよ!」
「(物言いはそれっぽいけど……どう見てもそうには見えないわ……)」
フレアは同じ様な喋り方をし、”爺さんでは無い”と言い張るクラッシュ・タウン最年長の南地区長を思い出した。
「わしは”トルンカ”という者じゃ。 よろしくな、お嬢ちゃん」
* * *
町中に猿達が徘徊するようになってから数時間。
少女とトルンカは小さな民家に隠れてお互いの情報交換を行っていた。
悪いと思いながらも、フレアはその横で話を聞く。
まずはこの”世界”について。
この世界は元々精霊達がそれぞれの能力を活かし、互いに協力し合う平和で豊かな世界だった。
現在フレア達がいる”シュバンクの町”も、多くの魔法使い族や天使族達が暮らす、平和な町だったのだという。
だがある日、先程の猿達が現れてから全てが変わってしまった。
何の為なのかは解らないが、あの猿達は世界の全てを”マイナス化”しようと企んでいるらしい。
マイナス化とは、先程のクリボン達の様に石版化されてしまう”呪い”の事らしく、猿達が持っていた杖―――”カースド・ニードル”から放たれる大量のマイナス・エネルギーを浴びると、マイナス化されてしまう。
カースド・ニードルのマイナス・エネルギーは凄まじく、普段から垂れ流しているマイナス・エネルギーが回りに影響を及ぼし、”反対”の呪いを掛けている。
先程のボールや木の葉、そしてさっき見かけた子供達やトルンカも”反対”の呪いに罹り、歳が反対になって子供の姿となってしまったらしい。
「本当に凄まじい呪いでな。 あの猿共でさえ普段は杖の針をマイナス・エネルギーの反対である”プラス”にしていなきゃ呪いの影響を受けてしまう程なんじゃ」
次は謎の少女、”
何と彼女はフレアが守る様に頼まれた”シグナーの少女”であった。
彼女は森で見た封印されている”エンシェント・フェアリー”なる者を助ける為、”レグルス”という精霊を探しているらしい。
トルンカによると、レグルスはフォヤールの森にいるらしいのだが、気が触れてしまっているらしく、誰構わず襲い掛かるので危険だという。
だが、龍可は”エンシェント・フェアリー”を、精霊達を早く助けたいと言って聞かない。
「トルンカ! 案内して!」
「無茶じゃ! 今出て行ったら捕まりにいくもんじゃ!」
トルンカが何度も龍可を諌めるが、龍可は主張を変えない。
幾ら龍可が聡明な少女と言えど、まだ子供。
それらしくも、危なっかしい向こう見ずな一面を見せる。
「(私に実体さえあれば……とにかく、二人だけじゃ危険だわ! 何とか引き止めてトルンカ―――ああ!?)」
とうとう龍可がトルンカの制止を振り切り、外へ飛び出していく。
トルンカも覚悟を決めたのか、必死になって龍可の後を追う。
「(~~~早くしてーーー!!!)」
フレアは謎の声が言っていた”実体化の力”が来るのを願いながら、後を追った。
* * *
「見つかっちゃった!?」
「ほれ見ろ言わんこっちゃない!」
「(ほれ見ろ言わんこっちゃない!)」
フレアはトルンカと同じ事を思いながら、後ろを振り返る。
現在、フレア達は下り坂を猛ダッシュ中。
後ろからは猿が4~5匹程追いかけてきている。
龍可とトルンカが坂を下り切ると、龍可が足元に転がっている複数の空瓶を坂の手前に置き、坂の麓に立ててある”プラス”のカースド・ニードルを”マイナス”に変更し、急いで離れる。
「龍可ちゃん!? こんな時に何遊んどるんじゃ!」
「(あ、成る程! 龍可ちゃんあったまいいー!)」
その瞬間、”反対”の呪いを受けた空瓶は転がる方向が反対になり、坂を転がりながら上がっていく。
それを踏みつけ、同じ様に”呪い”を受けた猿達は、空瓶と共に坂を転がりながら上がって行ってしまった。
「おお…!」
「今の内よ! 早く―――!?」
先へ進もうとした龍可だったが、行く先から3匹の猿が駆けて来るのが見えた。
「やっぱりこっち―――こっちも!?」
反転して逆方向へ行こうとするが、その方向からも猿が4匹程向かってきていた。
龍可達がいる道はT字路となっており、他に道は無い。
来た道を引き返しても、そこには転がっていった猿達がいる。
「ど、ど、ど、どうするんじゃあ!? さっきの手はもう使えんぞ!」
「そ、そんな事言ったって……」
絶体絶命の危機に、二人は完全に取り乱してしまっている。
そんな二人を見て、フレアは拳を強く握り締め、俯く。
「(実体が無いから二人を助けられないなんて……何の為に私はここにいるのよ! 何の為にここへ来たのよ! 遊星の大切な仲間を……龍可ちゃんを助ける為でしょ!)」
何も出来ない非力な自分が悔しくて、涙が流れる。
「(これじゃ一緒じゃない! 鬼柳の”夢”の時と! そんなの絶対に嫌! もう仲間の危機に何も出来ないなんて嫌! 誰か! 誰か!!!)」
私に”力”を!!!
その瞬間、フレアの目の前の空間に無数の亀裂が入る。
「え!?」
フレア、遅くなってごめんなさい。
その亀裂を突き破れば、あなたはこの世界で実体を持つ事が出来る。
「!? ……遅いよもう!」
フレアは空間の亀裂に向かって飛び込もうと身構える。
フレア、この精霊世界ではあなたの思いが反映される―――
「思い?」
想像して――――あなたが思う、”大事なものを守る”に適している”力”を……その”姿”を。
「私が思う――――」
そう考え始めた時には、既にフレアは空間の亀裂を突き破り、龍可達の前へと躍り出ていた。
「な、なんじゃあ!?」
「!?」
もう駄目かと諦めかけたその時、二人の目の前に拳銃を持ったカウガールが躍り出る。
カウガール―――フレアは前の猿に向かって銃を構えた。
「(私が思う、大事なものを”守る”に適した”力”―――)」
フレアの脳裏に、3年間の出来事が流れる。
そして、その記憶の中にカウボーイハットとマントを身に付け、フレアを守る為に決闘銃を構える男の姿があった。
「(―――フリント! 私に”力”を!!!)」
フレアが決闘銃の引き金を引くと、銃口から弾丸が放たれ、猿を1匹弾き飛ばす。
「おお!?」
トルンカが驚いている間に、フレアは2発目、3発目と弾丸を放ち、前方の猿を倒す。
残りは後方の猿4匹―――
「(―――このままじゃ駄目! もう一つ―――)」
フレアが願うと、もう一つ同じ決闘銃が現れ、左手でそれを握る。
フレアは迎え撃とうと後方へ振り返るが、既に4匹の猿が目前に立ち、杖を振りかぶっている。
しかし、フレアは臆する事無く、二丁拳銃で即座に3匹を撃ち倒した。
「駄目じゃ!? 間に合わん!」
フレアが3匹目を撃ち終わった時に、4匹目が杖からマイナス・エネルギーを放つ。
トルンカと龍可が顔を伏せた瞬間、鳴り響く銃声―――
「……ん? ああ!?」
トルンカが恐る恐る顔を上げると、そこに立っていたのは猿ではなく、フレア。
フレアは放たれたマイナス・エネルギーを紙一重でかわし、4匹目を撃ち倒していたのだ。
役目を終えて消滅する左手の決闘銃。
残された決闘銃で、相当練習したであろう華麗なガンプレイを見せてから、決闘銃をガンベルトのホルスターに収めると、フレアは二人に笑いかける。
「大丈夫二人共? 怪我は?」
「あ、ああ……わしは平気じゃ」
「あ、あなたは一体…?」
龍可は驚きのあまり、その場に座り込んでしまっている。
そんな龍可に手を貸し、立たせてあげてからフレアは胸を張り、堂々と自己紹介する。
「私は決闘ガンレディ、”フレア・ヴィルアース”! あなたを助けてとお願いされて、別世界からやってきた正義の、そしてシグナー達の味方よ! よろしくね! 龍可ちゃん! トルンカ!」
「ガンレディ……その割には迫力に欠けるし、色気も足りんのぉ。 ガンレディと言うより”ガンガール”じゃなぁ」
トルンカの言葉に、がくりと体勢を崩すフレア。
かっこよく決まったと思った自己紹介が外れてしまい、フレアは恥かしそうに項垂れる。
「だが腕は見事じゃったぞ!」
トルンカは倒れている猿の側に寄り、猿の体についている跡を見る。
「これは”魔法弾”じゃな! 込められている魔力自体は小さいが、それを銃弾サイズまで凝縮する事で威力を高めとる……殺傷能力は低いが、当たったら痛いぞぉ~!」
痙攣している猿を杖で軽く小突くトルンカ。
褒められたフレアは嬉しそうにしていたが、ふと今の状況を思い出す。
「さあ、こんな危ない所から離れましょ! 事情は大体解ってるから! フォヤールの森へレッツゴー!」
「おわっ!?」
「きゃ!?」
そう言ってフレアは二人を両脇に抱え、全速力で町の外を目指した。
* * *
「はぁ、はぁ……ここまで来れば安全かな?」
「あ、ありがとうございます……」
「ひぃ、ひぃ……何で途中からわしを走らせたんじゃあ! 年寄りをいじめるでない!」
「ご、ごめんね……ちょっと二人は厳しかったから……それに、どう見てもトルンカはお爺さんには見えないし……」
町から大分離れた丘の上で、フレアは背負っていた龍可を下ろし、地面に座り込んで怒っているトルンカに両手を合わせて謝る。
「ところでフレアさん……あなたは一体…? シグナーの事も、私達の事まで知ってるみたいですけど…」
「ああ、それはね―――」
フレアは遊星達との関係と、これまでの事を全て龍可達に話す。
「不思議な声……”エンシェント・フェアリー”かな?」
「起こった出来事を”夢”で見る……ふーむ、聞いた事の無い能力じゃのう。 お前さんはシグナーでは無いのか?」
「残念ながら……でも、私は遊星や龍可ちゃんの力になりたいの! お願い! 私も協力させて!」
フレアが龍可に向かって手を合わせると、龍可は眩しい笑顔を返してくれる。
実体が見えない時には、不安そうな顔や寂しそうな顔ばかりだったので、これを見たフレアは心が暖かくなるのを感じる。
この顔が見たかったのだ。
「ありがとうフレアさん! こちらこそよろしくお願いします!」
「ふふ! よろしくね! ……あ、そうだ。 龍可ちゃん、今度からは勝手に飛び出しちゃ駄目よ! 抑えられない気持ちはよく解るけど、ここで龍可ちゃんが倒れたら皆が悲しむから。 今度からは慎重に行こうね!」
「あ……はい。 心配させてしまって、ごめんなさい……トルンカも、ごめんね」
「(何故フレア殿には敬語で、わしにはタメ口なんじゃ……爺さんじゃぞ、わしは……) 気にせんでええ、皆無事じゃったからな。 ……それよりも、走りに走って、わしゃ疲れた……もう歩けん……」
「もう……男の子なんだからしっかりしなさいよ……」
「だから年寄りだっちゅーとろーが! …わし、もうここから一歩も動かんからな!」
トルンカは杖に寄りかかるような体勢で我侭を言う。
龍可は溜息をつくと、トルンカの前で屈み、背中を向ける。
「しょうがないなぁ……はい、早く乗って。 おんぶしてあげる」
「え?」
意外な事だったのか、トルンカは間の抜けた声を出す。
「大丈夫龍可ちゃん? 私が代わりに背負ってあげるよ?」
「ううん、フレアさんも私をここまで背負ってきて疲れたでしょ? 私はここまで背負ってきて貰ったから大丈夫! それに……ここまで走る事になったのは、私のせいだから……ほら、遠慮しなくていいよトルンカ」
「あ……ああ、スマン……」
トルンカはありがたそうに龍可の背に乗ると、龍可が立ち上がって歩き出す。
「フォヤールの森は、あっちでいいのね?」
「うむ」
まるで歳の離れた姉弟のような二人を見守りながら、フレアがその後ろを歩く。
「龍可ちゃんは”強い娘”なんじゃな~」
「私? 強くないよ。 だって、小さい頃ずっと病気がちだったもん。 強いのはフレアさん見たいな人よ。 かっこよかったし……」
「そんな事ないよ、龍可ちゃん」
フレアは二人の前に出る。
その顔は心なしか赤く見えた。
「強いっていうのはね、丈夫だとか、戦いが上手いとか、そういう事だけじゃないの。 大事なのは心……”思い”よ」
フレアは自分の胸に手を当てる。
これがあったからこそ、あの時フレアは戦う事が出来た。
「龍可ちゃんはあの時、精霊達を助けたい一心で飛び出して行ったでしょ? それは龍可ちゃんの思いが龍可ちゃんに勇気を与えたから……”思い”は”強さ”になるのよ」
「そうじゃな! あの時の龍可ちゃん、危なっかしかったが頼もしくもあった! まるで”ヒーロー”の様な”強さ”を感じたぞ!」
「フレアさん……トルンカ……ありがとう。 でも、その”強さ”私のじゃないよ。 この”強さ”は私にとっての”ヒーロー”が持っている”強さ”……その人が私を守ってくれているから、私も頑張れるの」
「……その人って、遊星? それとも……”龍亞”って人?」
「!? る、龍亞の事も知っているんですか?」
「わぁ!? 危ないぞ龍可ちゃん!」
フレアの口から出るとは思っていなかった人物の名前に龍可は驚き、体勢を崩しそうになる。
「ご、ごめんね……結構最初から側にいたの……森の中でその名前を叫んでたから……」
「そ、そうだったんですか……はい、その通りです。 龍亞は私の双子の兄で……”ヒーロー”です」
龍可の表情は明るく、龍亞と呼ぶ声には”優しい愛情”を感じる。
彼女にとって、龍亞は掛け替えの無い大事な兄妹なのであろう。
「そうなんだ! ふふ!」
フレアは歩きながら、自分にとっての”ヒーロー”を思い浮かべる。
「(フリント……私、必ず龍可ちゃんを助けて帰るから……待っていて!)」
フレアは腰の決闘銃を握り締め、自分の使命を果たす決意を新たにするのであった。
モンキークエスト~龍可とフレアと精霊と呪われし爺さん~
すいませんでしたOTL
もはや遊戯王ですらない(汗)
まあとりあえず……フォーチュン・カップ編、完!
そしていきなりダークシグナー編終盤……どうなってるの? って感じですよね…
自分的にはこの二つにフリント達は入る余地がないかな? と思っています。
特にダークシグナー編はシグナー全員にスポットが当たる話が多いので、下手にフリント達を介入させればフリントたちが空気、もしくはそれぞれの見せ場を奪ってしまうと思ったのです。(まあそこは作者の力量しだいでしょうが……つまり、自分はヘタレです)なのでダークシグナー編はフリント並みに謎が多いフレアと龍可を中心とした”精霊世界編”として進めて行きたいと思います。
一応、決闘もします。 少なめになるかもしれませんが。
感想にて、フォーチュンカップ編やダークシグナー編に登場した脇役達を活躍させてはどうかというご提案がありましたが、これらはWRGP編でやろうと考えています。 お楽しみに。