「ここがフォヤールの森?」
「霧が濃くなってきたのぉ」
レグルスに会う為、彼がいるというフォヤールの森の中を歩く3人。
この道中、フレアと龍可はお互いについて話し合う。
龍可達シグナーは、想像以上に切迫した状況に置かれていた。
現在、シグナーである遊星、ジャック、龍可、そしてフレアが知らない4人目のシグナー、”十六夜 アキ”はダークシグナー達との決戦に挑もうとしていた。
サテライトのB.A.Dエリアにて、最強の邪神が封印されている旧モーメント―――”冥界の門”の解放を防ぐ為、4つの旧モーメント制御装置の前で待つダークシグナー達を倒し、日没までに制御装置を起動させなければならないという。
その制御装置の一つである”Cusillu”を起動させる為、龍可は双子の兄である龍亞と送り人のセキュリティ”牛尾 哲”と共に向かっていた。
その途中、龍可は不思議な声とクリボンの要請に応え、この精霊世界にやってきた。
「エンシェント・フェアリーを助けたら、すぐに戻ってダークシグナーと戦うつもりだった……けど」
だが、ここで思わぬ事態が起きる。
何と今現在、シグナーではない兄の龍亞が龍可の代わりにダークシグナー”ディマク”と闇の決闘を行っているのだという。
「龍亞は私を守る為にダークシグナーに挑んだの……早く”エンシェント・フェアリー”や精霊達を助けて戻らなきゃ、龍亞が危ない……」
「うーむ……流石は双子。 無鉄砲なところがそっくりじゃ……」
「それであんなに急いでいたのね……同じ立場なら、きっと私も同じ様にしてたわ。 …人の事を言えないわね」
フレアは暫く考える様に俯いていたが、決心したように顔を上げて龍可に振り向く。
「……鬼柳の事、何か知ってる?」
龍可はハッとした様にフレアを見る。
龍可はフレアの3年間の話を先程聞き、遊星やジャック、そして鬼柳とは嘗ての仲間である事は知っていた。
少し言いづらそうにするが、龍可も決心したように話し始める。
「……鬼柳は今、ダークシグナーとして制御装置”Ccapac Apu”の前で待ち構えてるの。 そこには遊星が向かったわ……」
「遊星……」
フレアは上を見上げ、赤いDホイールで荒廃した世界を駆ける遊星を想像する。
彼はまた走り出したのだ。
離れてしまった”絆”を取り戻す為に。
その”絆”を、二度と離さない様にする為に。
今度こそ―――友を救う為に。
フレアは視線を龍可に戻すと、彼女は不安そうに俯いている。
龍亜だけでなく、他の仲間達の身を案じているのだろう。
「……心配しないで龍可ちゃん! きっと遊星達は無事よ!」
「……うん!」
フレアの励ましに、龍可は笑顔を返す。
さっきまでフレアに対して敬語で話していた龍可だったが、ここまでの会話で大分フレアと打ち解けたらしく、普段通りの振る舞いを見せるようになっていた。
それから暫く森を進むと、森のあちこちに”カースド・ニードル”が突き立てられているのを見つける。
針は全て”マイナス”となっており、”反対”の呪いを受けた落ち葉が木にくっついていく。
「気をつけるんじゃぞ二人共。 前にも言うたが、レグルス殿は今、平静を失っておられるからな―――」
「レグルスー! 出て来てー! お話があるの―――」
「うぇーーー!? しー! しー! 襲われたらどうするんじゃ!?」
「大丈夫よ。 きっと話せば解ってくれる! ……レグルスお願い! 私達は敵じゃないわー!」
フレアが龍可と慌てるトルンカのやり取りを後ろで笑いながら見ていると、前方の草むらが揺れいている事に気付き、決闘銃を抜いて構える。
「二人共下がって! 何かいる!」
フレアがそう叫んだ瞬間、草むらから鎧を纏った、1頭の白い獅子が飛び出してくる。
その獅子はこちらに対して唸り声を上げ、明らかに敵意を剥き出している。
「(ライオン…? どうしてこんなにボロボロなのかしら?)」
フレアは龍可とトルンカを自分の背に隠し、目の前の獅子をよく見ると体が傷だらけで、左後足首には折れたカースド・ニードルの二叉になっている先端部分がはめ込まれており、指針は”マイナス”の向きを指している。
「レ、レグルス殿…!?」
「嘘!? このライオンが!?」
フレアは驚いてトルンカに振り返る。
捜していた人物が獅子だったなどと、フレアは予想もしていなかった。
「レグルス……こんな傷になるまで、たった一人で戦っていたなんて……恐がらないで、あなたを傷つけたりはしないから―――」
龍可が前に出てレグルスに近づこうとした瞬間、レグルスは龍可に向かって大口を開くと、鋭い牙を見せながら吼える。
「イヤァ!?」
「お止めくだされ! この娘はエンシェント・フェアリー様を救う為、はるばる異世界からやって来られたのですぞ!」
怯えてフレアの背に隠れる龍可。
同じくフレアの背に隠れているトルンカが顔を出し、レグルスを止めようと声を掛ける。
「……何だと?」
「(しゃ、喋った……)」
フレアは驚きながらもレグルスに対して一歩も引かず、二人を庇いながら決闘銃を握りしめている。
「そうなの! だから安心して―――」
「ふざけるなァーーー!!!」
龍可が喋り終わる前に、レグルスはその鋭い牙を向け、3人に対して飛びかかってくる。
警戒していたフレアが咄嗟に二人を抱えて飛び退いてかわすと、決闘銃をレグルスに対して構える。
「待ってフレアさん! 撃たないで!」
龍可にそう言われると、フレアは決闘銃を下げつつ、レグルスに対して身構える。
「やはり無理じゃあ……ここは一先ず逃げよう!」
「お願い信じて! 私、エンシェント・フェアリーと約束したの! この精霊界を守るって!」
「…やはりそうか。 貴様もこの私を捕らえ、エンシェント・フェアリー様の力を悪用しようとしているのか…!」
「え……ちょっと待って、話が合って……あ、そっか!? だから……」
フレアは閃いた様に左掌を決闘銃の銃把を乗せる。
「二人共! レグルスの左後足を見て!」
「あ! あれはカースド・ニードル!? 針が”マイナス”になっとるっちゅー事は……」
「さっきから、私達の言葉が反対に聞こえてた、っていう事ね……」
「何ちゅーこった! レグルス殿のご乱心はアレのせいじゃったんじゃ!」
トルンカは頭を抱えて嘆くと、レグルスが再び唸り声を上げる。
「精霊界を汚す悪党共め! 貴様等の好きにはさせんぞぉーーー!!!」
「誤解よレグルス! 私はあなたの敵じゃない!」
「……ウガァァァーーー!!!」
どうやら今の言葉がレグルスの逆鱗に触れたらしく、獰猛な雄叫びを上げながらレグルスが襲い掛かってくる。
フレアは”呪い”によって惑わされているレグルスを撃つ事が出来ず、二人を促して逃げ出した。
「トルンカ! あなた魔法使い族なんでしょ? 何とか出来ないの?」
「無理なんじゃ! 子供のままでは魔法が使えん! フレア殿! あなたはどうじゃ? 魔法弾が撃てるなら他の魔法も―――」
「あれオンリーよ!」
3人が頭を悩ませながら走っていると、トルンカが何かを思いついたように立ち止まり、レグルスに振り向く。
「やーい! お前なんか大っ嫌いじゃ! レグルスのバーカバーカ! 不細工ライオン弱虫ライオン!」
トルンカはありとあらゆる罵詈雑言をレグルスに向かって吐き掛ける。
本当に反対に聞こえるならば、思いきり貶してやれば気を良くするのではないか、という考えの作戦であった。
だが、レグルスは気を良くするどころかトルンカに対して怒りの雄叫びを返す。
「どわぁぁぁ!? ヒィィィ!?」
「私にその様な浮ついた世辞が通じるとでも思ったか!」
「駄目じゃった~……」
「一体どういう意味に聞こえていたのかしら……」
手詰まりとなった3人は再びレグルスと相対したまま動けなくなるが、突然レグルスとフレアが何かに気付いた様に顔を上げる。
「「何かが来る…!」」
フレアは急いで二人の手を引き、倒木の陰に身を潜める。
その瞬間、町に現れた猿達が次々と現れ、レグルスを取り囲んだ。
「また貴様等か……」
「トウトウミツケタ」
「ゼーマンサマノゴメイレイ。 コンドコソツカマエル!」
ジリジリとレグルスに詰め寄る猿達。
それを倒木の陰から見守る龍可とトルンカ。
フレアは何時でも加勢に出られるように、決闘銃を握り締める。
「”マイナス”ニナレー!」
「バカ! ヨセ! ワスレタカ? ヤツノアシ、”マイナス”ノカースド・ニードルアル!」
猿達の1匹がレグルスに向かって杖を振ろうとしたが、仲間の1匹に止められると、慌てて杖を下げる。
「!? ソウカ……”マイナス”ドウシセッショクサセル、キョウリョクナ”プラス”エネルギーカワル!」
この瞬間、会話に気をとられている2匹の隙をつき、レグルスは包囲網を破ってその場から逃げ出す。
「ニゲタゾー! オエー!」
猿達は全員でその後を追っていった。
「……今、重要な事聞いたね」
倒木の陰から出てくる3人。
フレアが龍可に笑いかけると、龍可も同じ様に笑って返す。
「うん! マイナス同士を接触させると、強力な”プラス”エネルギーに変わる!」
* * *
「……ミウシナッタ」
「マダトオクイッテナイ! テワケシテサガス!」
レグルスを追っていた猿達は散開すると、手分けしてレグルスを捜し回る。
その内の1匹が跳ね回りながら森を捜索していると、目の前に見覚えのある少女を見つける。
「やーい! 捕まえてみなさいよぉー!」
「オマエ! シュバンクノマチニイタコムスメ! ナゼコンナトコロニ!?」
猿は丸い跡がついた兜をさする。
どうやらフレアに撃たれた猿の一匹のようだ。
猿は少女―――龍可を捕まえようと追いかける。
暫くの鬼ごっこが続いた後、龍可は突然足を止める。
「ヘバッタカ! コンドコソツカマエ―――ギャ!?」
猿が龍可に飛びかかろうとした瞬間、猿の後頭部に魔法弾が命中する。
龍可は猿が完全に伸びている事を確認すると、猿の手からカースド・ニードルを取り上げた。
「上手くいったね!」
フレアが木の上から龍可に手を振る。
龍可が誘導してきた猿をフレアが狙撃したのだ。
「うん! これでレグルスを―――――フレアさん!?」
突然、龍可が声を上げる。
フレアもそれに気付き、決闘銃を構えて振り返ろうとするが、時既に遅し。
複数の猿がフレアに飛びかかり、木から地上へと引きずり下ろされる。
「痛っ…!? ……油断したわ。 こんなに早く近づいて来るなんて……」
「龍可ちゃ~ん……フレア殿~……」
さらに、別方向から誘導を行っていたトルンカも捕まってしまったようで、猿に引きずられてくる。
「バカメ! キノウエ、オレタチトクイ! チジョウヨリ、ハヤイ!」
猿の1匹が得意げに胸を張る。
フレアとトルンカが捕まり、逃げ場も無い今、龍可も大人しく投降するしかなかった。
「オマエタチ、スグニハ”マイナス”ニシナイ! ツレテカエッテシラベル!」
「止めなさい! 龍可ちゃん達に手を出したら許さないわよ!」
手足を押さえられながらも、フレアは龍可達を守ろうともがき続け、片手片足を押さえていた猿を振り払う。
「オマエ、イチバンヤッカイ! ミンナデ、トラエル!」
仕切っている者を除く全ての猿達がフレアに群がる。
再び手足を押さえ、フレアが持っていた決闘銃を取り上げ、仕切っている猿の方へ投げてしまった。
「あ!? 私の決闘銃! 返して! 放してよ……ちょっと! 何処触って―――」
「ああ~! どうすればいいんじゃあ~!」
無力だと判断されたのか、一人自由となっているトルンカ。
フレアは大勢の猿に押さえられ、龍可は仕切っている猿に捕まっている。
仕切っている猿はフレアと龍可から奪った決闘銃とカースド・ニードルを持ち、勝ち誇った様に笑っている。
「ぐぬぬぬ……亀の甲より年の功! やってやるわーい―――え?」
トルンカが自棄になって猿達に突っ込もうと駆け出した瞬間、目の前に大きなハンマーを背負った大男が振ってくる。
「おわぁ!?」
「フンッ!」
驚いて尻餅をついているトルンカを余所に、男はフレアに群がっていた猿達全員を纏めて素手で捕まえ、放り投げる。
「何何!? 誰一体!?」
自由になったフレアは驚きながらも、その場から飛び退いて猿達に構える。
「ナンダイッタイ―――ア!?」
仕切っている猿が大男に驚いていると、突然手から決闘銃と、元々自分が持っていた物を含めたカースド・ニードル2本が離れる。
見ると、その3つが鞭で絡めとられ、少し離れた位置にいる美女の腕に収まる。
「誰も殺めず傷つけず……貧しき者から何も盗まず……盗みの掟三箇条……お嬢さん!」
「あ! とと……ありが―――!?」
美女はフレアに向かって決闘銃を投げ渡す。
フレアは決闘銃を受け止め美女を見ると、その顔には見覚えがあった。
猿を投げ飛ばした大男も同様である。
「ナンダオマエラ―――ン!?」
仕切っている猿がふと捕まえていた龍可を見ると、何時の間にかいなくなっている。
辺りを見回すと、小柄で箒の様な髪型をした金髪の小男が龍可を背負って遠くに立っていた。
「お宝頂いたら即トンズラ! 基本だぜ? …お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「あ、ありがとう……」
「ギ……ギギ……」
仕切っていた猿が悔しそうに後ずさりし始めると、後ろにある何かにぶつかる。
「形勢逆転だな。 まだやる気か? お山の大将……」
仕切っていた猿が振り向いて見上げると、そこには右目に眼帯を付け、筋肉質な体をした壮年の男が立っていた。
「安心するがいい。 さっき言った通り、盗みをやる時は殺さず傷つけず……だ。 見逃してやろう」
既に仲間達のカースド・ニードルは全て奪われてしまっている。
仕切っていた猿は仲間達と共に慌てて逃げ去っていく。
「見逃してはやるが、許す事は出来ん。 これでも食らえ!」
壮年の男が合図をすると、猿達の足元の地面に穴が開く。
かなり広く深い大穴で、全ての猿が悲鳴を上げながら落ちていく。
「おお……随分と長く聞こえたな。 掘り過ぎじゃないか」
壮年の男が草むらから出てきた、細身で眼鏡を掛けている男に話しかける。
他の3人も壮年の男の周りに集まってきた。
「本来は外す側なんで、加減が解りませんでしたよ。 でも、盗みには関係してないから、掟破りじゃないですよね?」
「ね、ねぇ! あなた達……」
壮年の男にフレアが話しかけ、自分のデッキから1枚のカードを取り出す。
「もしかして……」
「フッフッフ……ようやくお会い出来ましたな! お嬢サンダー!」
「お嬢サンダー!?」
壮年の男の奇怪な呼び方に驚くフレアだったが、他の二人はそれ以上に驚いている。
この目の前の怪しい集団は何なのか、どうしてフレアと親しげなのか、謎だらけである。
「な、なあフレア殿。 そこの御仁達は知り合いか? 一体何者なんじゃ?」
「え? うーん……知ってるけど、会ったのは初めて」
「はあ?」
「少年。 お嬢サンダーが持っているカードを見てみるがいい!」
そう言われ、トルンカと龍可はフレアのカードを覗くと、それは1枚のモンスターカード。
「もしかして……!」
龍可が気付いた様に5人を見ると、壮年の男が楽しげに笑う。
「集まれい野郎共!」
壮年の男の掛け声と同時に、4人がそれぞれポーズを取る。
「黒蠍一の力持ち! ”強力のゴーグ”!」
「黒蠍団の紅一点、”棘のミーネ”!」
「どんな罠でも朝飯前! ”罠はずしのクリフ”!」
「お宝頂きゃ、後はトンズラ! ”逃げ足のチック”!」
「そして私がリーダーの”
最後に名乗った壮年の男がフレアの手のカードを指差す。
そこに書かれているカード名も”首領・ザルーグ”であった。
「「「「「我等! 《黒蠍盗掘団》!!!」」」」」
「やっぱり! 感激~! 自分のカードの精霊に会えるなんて!」
「あなたがここに来た事を感じ取り、馳せ参じましたぞ! お嬢サンダー!」
「……ねえ、その呼び方何なの?」
感激の表情から一気に微妙な表情になるフレア。
そんな様子のフレアにザルーグは指を振る。
「これは我等の最初の主人にして、名探偵決闘者”万丈目サンダー”からあやかった由緒正しき呼び名ですぞ!」
「最初の主人?」
「ええ。 最初の主人の手から離れて数十年、我々は色んなところを流れに流れて、あなたの手に渡ったのです! 因みに我々とこうやって話せる主人は、あなたと最初の主人だけでしたな!」
「これも人生よね……」
ザルーグの横でミーネがしみじみとしている。
「でも、お嬢サンダーと出会うまでがあまりに長くてさ~、どんどん精霊力が減っていって、最終的にはカードにもいられなくなちゃって……気付けばこの精霊世界だったんだよな」
チックがお手上げポーズで溜息を吐く。
「だが、お頭は何とかカードを通して人間界の決闘を見れた」
「だから、俺達はお嬢サンダーがどういう決闘者かは知っている……俺達が使われるに足る決闘者だ」
ゴーグが自慢のハンマーを振り上げ、クリフは手に取ったナイフを光らせる。
「お嬢サンダー! この世界で成すべき事があるのなら、我々はあなたに協力しますぞ!」
ザルーグが二丁拳銃を抜いて構える。
フレアは小さく笑うと、龍可とトルンカに向き直る。
「どうかな龍可ちゃん? きっと頼りになるから、皆にも協力して貰おうよ!」
「喜んで!」
「ふーむ。 愉快な連中じゃな」
「「「「「それが! 《黒蠍盗掘団》!!!」」」」」
* * *
「来るな! これ以上近づけば容赦はせぬぞ!」
現在フレア達は崖に掛けられた丸太の上。
ようやく見つけたレグルスと対峙している真っ最中であった。
先頭にはカースド・ニードルを持って真っ先に飛び出した龍可。
その後ろは決闘銃を構え、龍可を守る為に続くフレア。
さらに、その後ろからはカバーとしてザルーグが付く。
「龍可ちゃん! 気をつけるんじゃあ!」
陸地で応援するのはトルンカ。
丸太が動かない様に押さえているのがゴーグ。
追手の猿達が近づかないように見張っているのがミーネ、クリフ、チックである。
「ウガァァァ!!!」
先程の様に怒り狂って襲い掛かってくるレグルス。
そのレグルスに向かって、龍可は”マイナス”にしたカースド・ニードルを差し向ける。
「うわぁぁぁ!!!」
龍可とレグルスのカースド・ニードルが近づくと、お互いの針は”プラス”となり、凄まじい力の爆発が起きる。
それにより丸太の橋は砕け散り、橋の上いたレグルス、龍可、フレアは崖下の川へと落ちてしまう。
ザルーグは陸地に近い位置にいたので、ギリギリでゴーグに助けられる。
「馬鹿! 俺だけを助けてどうする! 龍可ー! お嬢サンダー!」
「龍可ちゃーん! フレア殿ー!」
川に落ちたフレアは同じ様に流されている龍可を何とか抱き寄せる。
「大丈夫……必ず何とかするから!」
「フレアさん…!」
龍可ーーーーーーーーーーーー!!!
その瞬間、龍可の頭に最愛の兄の声が響く。
「(龍亞…!? …龍亞も戦ってるんだ!) レグルス! レグルス!」
龍可は聞こえてきた龍亞の声に負けないように声を張り上げ、レグルスの名を呼ぶ。
先程の力の爆発により意識が朦朧としていたレグルスは、龍可の呼び掛けにより意識を覚醒させる。
その声の方向を向くと、そこには二人の少女。
そして自分の名を呼んでいる少女の右腕には赤い痣が刻まれていた。
「!?」
レグルスは急いで二人の下へ泳ごうとするが、大量の水が落ちる音を聞き取るとその方角へ顔を向ける。
目の前に滝が迫っていたのだ。
「大変!? 滝だわ!」
「レグルス!」
レグルスは何とか二人を助けようと近くに寄るが間に合わず、そのまま全員で滝に落ちてしまう。
だが、ここで龍可が機転を利かし、手に握っていたカースド・ニードルの指針を”マイナス”に変更すると、水ごと龍可達が滝登りを始めた。
「な、何か変な感じ……でもありがとう龍可ちゃん! 龍可ちゃんのおかげで助かったよ!」
「えへへ…!」
* * *
「あ! いたぞ! おーい!」
二人を背に乗せて川を泳ぎ、何とか川岸まで辿り着くと、トルンカと黒蠍盗掘団がこちらに駆けてくる。
「よかったぁ~! 無事じゃったんじゃな! ……レグルス殿は?」
龍可とフレアはトルンカ達に先程の事を伝える。
「おお! それはよかった! …しかし、おぬし等は若いのに全然役に立っとらんではないか!」
「「「「「それが! 《黒蠍盗掘団》!!!」」」」」
「……もうええ。 若さを除けば、わしもどっこいどっこいじゃからな。 とにかく、レグルス殿。 よかったですな」
「ああ……」
レグルスはトルンカの言葉に頷くと、龍可の前に移動し、頭を低くする。
「……やっとお会い出来ましたね」
「え…?」
「シグナーの少女よ。 あなたがこの世界に来られる時を、心待ちにしておりました」
レグルスは先程の様に獰猛で攻撃的な様子ではなく、礼儀正しく落ち着いた様子を見せる。
本来の彼に出会えた事に、龍可は歓喜で眼を輝かせた。
レグルスによると、龍可を精霊世界に呼んだ不思議な声は彼の物らしい。
「あなたの事は、エンシェント・フェアリー様から聞いていました。 私は戦いを続けながらも、持てる能力を駆使し、あなたを精霊界へとお導きする為の術を掛けてまいりました」
ここで、レグルスが今よりも頭を低くする。
「どうかお許しを。 呪いによって惑わされていたとは言え、あなたの事を敵と認識してしまうとは……」
「まったくじゃ! わしはレグルス殿に食われてしまうかと思ったわい!」
「もういいよ。 さっき滝に落ちた時には、私とフレアさんを守ってくれたんだもの」
龍可がフレアの方を見ると、フレアは頷いてレグルスの方へと顔を向ける。
「そういう事。 ありがとうレグルス!」
フレアがレグルスに笑顔を見せると、レグルスは眼を見開き、立ち上がるとフレアに対して構える。
「……貴様、何者だ!」
「え? ちょ、ちょっと…? どうしたの?」
レグルスのタダならぬ様子に驚くフレア。
龍可も慌てて立ち上がる。
「レグルス! フレアさんはシグナーじゃないけど、私をここまで助けてくれたの! 悪者じゃないわ!」
「……妙なのです」
「え?」
「先程は水のせいで気付きませんでしたが、この者からは人間特有の”ニオイ”が無いのです」
「ええ!? 私人間だよう……」
フレアが困った顔で自分を指差す。
レグルスは目を閉じて鼻を動かし、首を捻っている。
「……かと言って、精霊でもない。 一体これは…」
「あのー……レグルス殿? おそらくじゃが―――」
トルンカはここまでのフレアの事情を話す。
フレアは最初に実体を持っていなかったのが関係してるのではないかと、トルンカは考えた。
「……実体が無かった? だとすれば、精神だけがこの世界に来ていたという事になる」
「精神だけ? じゃあ私の体は元の世界にあるの?」
「話が本当なら、そのはずだ。 だがそれはありえない」
きっぱりと言い切ったレグルスは再びフレアに対して構える。
「ま、待って! 何でそう言い切れるの?」
「精神に実体を与える術は、エンシェント・フェアリー様の様な高位の精霊のみが扱える。 …龍可、あなたにも解るだろう?」
「……うん」
龍可は小さい頃、精神をエンシェント・フェアリー・ドラゴンに連れられ、精霊世界にやって来た事がある。
その時にはちゃんと実体があった。
エンシェント・フェアリー・ドラゴンの術によるものだろう。
「だが、エンシェント・フェアリー様は今その様な事が出来る状態ではない……私が呼んだのは龍可だけ……さあ! 大人しく白状しろ! 何者だ!」
「え、え~……」
レグルスがフレアを威圧して迫ろうとすると、その間にザルーグが割って入る。
「お待ちくださいよレグルス殿。 そうやって最初から疑うのはどうでしょう?」
「盗人風情が! 今は精霊世界の危機なのだぞ! 怪しきは除くべきなのだ!」
レグルスはエンシェント・フェアリー・ドラゴンの側近という高位の精霊である為気位が高く、ザルーグ達の様な全うとは言えない精霊に対して見下した態度をとる。
だが、慣れているのかザルーグ達は表情一つ変えない。
「まあまあレグルス殿、どうやらここは私の分野のようです」
「何…?」
ザルーグは笑みを浮かべながら、フレアとレグルスに向き合える位置に移動する。
「私はこれでも人間世界で数年ほど警部を勤めた事があるのです! お任せください!」
ザルーグは自信有り気に胸を叩く。
「ウソー!? 精霊なのに!? 本当なのそれ?」
「ええ勿論! 警察の”マグレ警部”と言えば私の事です! …さて、レグルス殿? あなたはお嬢サンダーが精神体としてこの世界に来る事は不可能といいましたな?」
「そうだ! 私もエンシェント・フェアリー様もこの者を呼んではいない!」
「なら……”他の精霊”という線は?」
「何…!?」
レグルスでもない、エンシェント・フェアリー・ドラゴンでもない、ならば別の高位なる精霊がフレアの精神をこの世界に呼び、実体を与えたのではないか―――ザルーグはそう考えていた。
「馬鹿な! エンシェント・フェアリー様でさえ捕らえられてしまったのだぞ! 精霊界に存在する他の高位精霊は皆”マイナス化”されてしまった! いる訳がない!」
「いや……レグルス殿……おるかもしれんぞ」
レグルスの前に真面目な顔をしたトルンカが進み出る。
ここまで真面目な顔を見た事がなかった龍可とフレアは少し驚いた。
「”黒衣の大賢者”と呼ばれた者がこの様な者の言葉を……」
「そうではない。 ”大賢者”としての知識から”おるかもしれん”と言っておるのじゃ。 ……フレア殿、確かここへ来る時やいる時に、”声”を聞いたと言っておったな? その者にここへ連れてこられたとも。 その者は名乗ったか?」
「ええと……私、必死になって聞いたんだけど……―――」
フレアは渦にのまれた瞬間に聞いた言葉を思い出そうとする。
フレア……私はあなたを”守る者”
「”守る者”……って言ってた……」
「”守る者”…!? そうか……」
「何なのだ? その様な精霊、聞いた事がないぞ! やはり貴様―――」
再びフレアに詰め寄ろうとするレグルスを、トルンカが杖で制止する。
「レグルス殿。 いるじゃろう。 遥か西の地に……」
「何だと……!? まさか…!?」
「うむ……」
「……」
レグルスは静かに頷いた後、フレアに向き直り、龍可の時と同様に頭を低くする。
「失礼した、フレア。 先程の非礼を詫びる」
「え? え?」
「信じがたい事だが……いや、信じよう。 あの精霊が選んだ戦士ならば……頼む、龍可に力を貸してくれ」
レグルスの突然な態度の変わり様に少々戸惑うフレアだったが、自分を信じてくれるという言葉に笑顔を浮かべる。
「ううん! 気にしないで! これからよろしくねレグルス!」
「うむ! 流石はフレア殿! すっきりしておる! ……さて、大分逸れてしまったが、そろそろ本題に入ろうではないか」
トルンカの言葉に、龍可とレグルスが頷く。
頼もしい仲間を得た龍可とフレア。
その進む先には、如何なる”闇”が待ち受けているのだろうか――――
次回も決闘はないですOTL
次々回はかならず……