フレア達は現在、魔王の居城を目指していた。
フレア達を何度も襲った猿達。
その猿達を従える魔王―――”猿魔王ゼーマン”。
エンシェント・フェアリー・ドラゴンを岩山へ封印した張本人であり、ゼーマンを倒さない限り呪いを受けた者や”マイナス化”した者は元に戻らないという。
森の中を駆け抜けるレグルス。
その背に龍可、トルンカ、フレアが乗り、全速力でゼーマンの城を目指す。
その後ろから、黒蠍盗掘団も全力で後を追って走ってくる。
「だ、大丈夫? ごめんね走らせちゃって……」
フレアが心配して5人に声を掛ける。
代表してザルーグが応答するが、喋る余裕がないのか、親指を一瞬だけ立てた。
やがて森を抜けると、広い草原に出た。
ここでレグルスが足を止め、空を見上げる。
「あれ? どうしたのレグルス? 休憩?」
フレアがほっとしたように、後ろで倒れるように休んでいる黒蠍盗掘団を見る。
「いや、そんな暇は無い……あれを見ろ」
レグルスが見上げているのは太陽。
その太陽の周りには黒い雲が漂っている。
龍可はそんな太陽に違和感を感じた。
「あの太陽……何か変………あ!?」
よく見ると、太陽に見覚えのあるシルエットが浮かび上がっていた。
そのシルエットの一部が動き出す。
「あれは……カースド・ニードル!?」
「……ちょっと待って! 周りが変よ!?」
それに驚いている龍可とトルンカに辺りを見回していたフレアが異常を伝える。
3人がレグルスから降り、改めて見回すと、周りの植物が全て消滅してしまっていた。
ここまで通って来た森すら消えてしまっている。
緑豊かな大地が、一瞬にして無残な荒野と化してしまった。
「……雄大な自然が、原始の世界へ戻ろうとしている」
「大変!? このままだと、精霊達が帰れる場所が無くなっちゃう!?」
「どわぁぁぁ!?」
レグルスの言葉に驚く龍可。
その横でトルンカも驚きの声を上げる。
だが、その驚きはレグルスの話に対してではなかった。
「どうしたのトルンカ!? 服がダブダブになってる!?」
龍可が見たトルンカの服装は、明らかに体と合っていない。
肩まで捲っていたローブの袖は完全にずり落ち、長帽子は目元を隠してしまっている。
「違う! またわしの体が小さくなってしまったんじゃあ!」
「え? ……ああ!? フレアさん!?」
龍可がフレアに顔を向けると、そこには自分より少し年上位の子供が立っていた。
13歳の時のフレアである。
トルンカやフレアだけでなく龍可も小さくなっていたが、フレアの変化と比べれば微々たるものであった。
「え…? ああ! わ、私まで!? 何これ~!? 服大きい!?」
「ず、随分縮んだのぉ~……成長期だったか?」
「おお! 懐かしいお姿ですな!」
ザルーグ達が笑いながらフレアを見下ろす。
彼等も一応若返っているが、そこまで差は感じない。
チックは僅かだが縮んでしまった己に溜息をつき、ミーネは逆に若返った自分に対してやたら嬉しそうだった。
「どうせなら”ハンター”時代まで戻ってみたいものですな……っと、冗談はさておき、急ぎましょう! 年寄りの我々はともかく、このままではお嬢サンダー達が……」
「おお!? そうじゃ! このままだと、わしも龍可ちゃんもフレア殿も、何時か赤ん坊になってポン! と消えてしまうぞ!」
「もはや一刻の猶予も無い! 我々が戦える内にゼーマンを倒さなくては! 急ぎましょう龍可!」
「うん!」
3人が再びレグルスの背に乗ると、ゼーマンの居城目指してレグルスが駆け出す。
「(龍亜……”力”を貸して! 猿魔王ゼーマンと戦う”力”を!)」
* * *
「あそこに、猿魔王ゼーマンがいるのね……」
「何やら警備が厳重そうじゃのう……」
「うむ。 迂闊に近づけばたちどころに捕らえられてしまうだろう」
フレア達は現在、開けた丘の上で、高い山の上に聳え立つゼーマンの城を眺めていた。
「ふむ。 ならばまず我々が忍び込んで偵察に向かいましょうか? こちらが本業です―――」
「「「「「お任せください!!!」」」」」
自信満々にポーズを取る黒蠍盗掘団。
だが、レグルスは首を振る。
「いや、もっと良い方法がある……お前達にも協力して貰うぞ」
* * *
「何!? 遂にレグルスを捕らえただと!?」
ここはゼーマン城の謁見の間。
その広間の壁には大量の精霊達の石版が壁に埋め込まれている。
そして、その広間に置かれた王座に座る、威厳と風格を備えた大猿―――”猿魔王ゼーマン”は驚きの声を上げた。
あらゆる手を尽くしても捕らえる事が出来なかったレグルスを捕らえたという報告を受けたからだ。
「でかしたぞ! レグルスさえいればエンシェント・フェアリー・ドラゴンを完全にマイナス化出来る」
ゼーマンが兵士の猿を褒め称えるが、その猿は首を振る。
「デスガ、トラエタハ、ホカクブタイチガウ」
「うん? では、何者だ?」
「ソイツラ、”クロサソリトウクツダン”ト……」
「盗掘団? コソ泥風情がレグルスを捕まえたというのか?」
「ウキー! ……ホカノセイレイ、マイナスカ。 ヌスムアイテ、イナクナッタ。 シゴト、ナクナッタ。 ダカラ、レグルス、ツカマエテウリニキタ。 ……ソウ、イッテイタ」
ゼーマンは考え込む様に目を閉じる。
暫くして目を開けると、猿に黒蠍盗掘団を呼ぶ様に命じた。
猿が急いで謁見の間を飛び出し、暫くすると黒蠍盗掘団と檻に入れられたレグルスを連れて戻ってくる。
「偉大なる猿魔王ゼーマン様。 お目通りが叶い、光栄の極みです」
ザルーグが跪き、丁寧にお辞儀をすると、他の4人もそれに習う。
「前置きはよい。 お前達がレグルスを捕らえたそうだな?」
「ええこの通り。 苦労しましたぞ。 我々は盗賊。 盗まなければ生きる事も出来ません。 生きる為なら、何だって盗んで見せますぞ! ……おそらく、これが我々の最後の仕事となるでしょう。 偉大なるゼーマン様……どうか、我々の働きにお慈悲を……」
「……フン!」
頭を下げるザルーグに対し、ゼーマンが手に持ったカースド・ニードルを指し示すと、周りの猿達が黒蠍盗掘団を取り囲む。
「おお…!? 何をなさいますゼーマン様! ゼーマン様程のお方が、報酬を惜しまれるというのですか?」
「このゼーマンを欺こうとしても無駄だ! レグルスは我が精鋭部隊の兵達ですら捕らえる事が出来ない相手。 それをたった5人程度の、下等な精霊である貴様等などに捕まえられるはずがない! そこの檻にいるレグルスは偽者であろう! 貴様等の様な愚か者は今すぐマイナス化してくれる!」
「お待ちください!」
ザルーグが周りの猿達を制止する様に両腕を横に広げ、掌を猿達にかざす。
「……我々にも盗賊としてのプライドがあります。 出来れば秘密にしておきたかったのですが……仕方がありません。 正直に話しましょう! このレグルスは紛れも無く本物! ですが、捕らえたのは我々ではありません!」
「何? では、誰が捕らえたというのだ?」
「”放浪の魔導師”っていう先生です。 我々が追い立てる役を引き受け、その先生が不思議な術でレグルスを大人しくさせて捕らえたのです。 その先生は報酬も名誉も要らないと申され、せっかくなので我々がその報酬と名誉を頂こうと……申し訳ありません」
「(プライドも何も無いではないか……) ……解せぬ事がある。 その”放浪の魔導師”とやらは何故レグルスを捕らえ、貴様達に渡した?」
金も名誉も必要無いのなら、何故レグルスを捕まえ、黒蠍盗掘団に引き渡したのか。
これでは”放浪の魔導師”に何の得も無い。
ゼーマンは怪しんだ眼をザルーグに向ける。
「それがですね。 報酬と名誉を我々が受け取る代わりに、ゼーマン様にお目通りする為のパイプ役になって欲しいと頼まれましてな。 何でも、ゼーマン様に対して申し上げたい言があるとか……」
「何? それは何だ?」
「申し訳ありませんが、我々は”放浪の魔導師”とは利害の一致により、一時的に協力し合っているに過ぎません。 何を考えているのか、我々にはさっぱり……」
「ならばその”放浪の魔導師”は何処にいる! 今の話が本当ならば、呼べるであろうな?」
「ええ。 もう城の目の前まで来ていると思いますよ。 この取引が終わった後、すぐにお目通りを願う約束でしたからな」
ゼーマンは近くの猿に城の外まで確認する様に命令する。
暫くすると、その猿が3人の魔法使いらしき人物を連れてきた。
中心を歩くのは手に布を巻いた杖を持ち、白い魔導着を着ている子供の様に小柄な魔法使い。
頭を帽子と布で覆っており、その隙間から目だけを出している。
「ひっひー! どうもどうも!」
その右隣で陽気に挨拶をしながら歩くのは、中心の魔導師よりもさらに小柄な魔法使い。
体をマントで包み、紫色の長帽子を目元深くまで被っている。
「……」
そして左隣で黙して歩くのは、先の二人よりも大きいが、それでも小柄と言える人物。
右の魔法使いの様にマントで身を包んでいるが、頭に被っているのは布でも長帽子でもなく、カウボーイハットである。
3人はゼーマンの前で跪き、平伏する。
「偉大なる猿魔王ゼーマン様。 お目にかかれて光栄に存じます」
「こ、光栄でごぜーます!」
「……」
「……顔を上げい」
ゼーマンの許しを得て、中心と右の魔法使いは顔を上げた。
中心の魔法使いが顔を上げた瞬間、何かに反応し、辺りに敷き詰められている精霊達の石版を軽く見渡すが、すぐにゼーマンに対して向き直る。
「聞くところによると、お前は”放浪の魔導師”だそうだな?」
「はい」
「わしは助手です! へへ……」
中心の魔法使いが頷き、右の魔法使いも答えると、ずっと黙っていた左の人物がようやく顔を上げる。
「……俺は魔法使いでも、助手でもない。 用心棒みたいなものだ。 旅の途中、この人に恩義が出来たんでな。 ……そこの盗賊と同じ様なものだと思ってくれればいい」
左の用心棒を名乗る人物は出来るだけ低い声を出している様だが、どう聞いても女性の声に聞こえる。
用心棒の礼儀知らずな物言いに右の魔法使いと黒蠍盗掘団が一瞬顔を引きつらせるが、幸いゼーマンは気にかけてはいないようだった。
「我が部隊が総力を待ってしても捕獲出来なかったレグルスをどの様に捕らえたのだ?」
ゼーマンが中心の魔法使い―――魔導師に問いかけると、魔導師は杖を持ち直し、目を閉じて呪文を詠唱し始める。
「……全ての精霊を操る力よ……我が手に宿れ……」
魔導師は開眼し、後ろのレグルスに向かって杖を突き付ける。
「目覚めよ!」
「!? グルアァァァ!!!」
その瞬間、先程までピクリとも動かなかったレグルスが飛び起き、雄叫びを上げながら檻の中で暴れまわる。
「静まれ!」
魔導師がそう命じると、レグルスはピタリと動きを止め、再び大人しくなる。
「……随分と簡単に操るのだな?」
「それはもう! 魔導師様の術は、どんな凶暴な精霊でも操れてしまうのです!」
「どうも解せん。 本当に術など使っておるのか?」
右の魔法使いがアピールをするが、ゼーマンは疑いの眼で3人を見る。
「お疑いですか? ……ならばレグルスに、あの兵士達を襲わせて御覧にいれましょう」
魔導師が杖を兵士達に向けると、兵士達は怯えた様に後ずさる。
余程レグルスは強敵だったのであろう。
「…まあ良い! レグルスさえ手に入ればそれで良いのだ。 さっそくマイナス化するとしよう」
ゼーマンが指示を出すと、猿達がレグルスの檻を取り囲み、カースド・ニードルを構える。
だが、それを遮る様に用心棒が檻の前に立ち、魔導師がゼーマンに対して再び顔を下げて跪く。
「お待ちください! ゼーマン様!」
「……何だ?」
「マイナス化に入る前に、我々の進言をお聞きくださいませ」
「……そういえば、その為に来たのだったな。 言ってみろ」
「はい……申し上げたい言とは、この後のレグルスの扱いについてです。 今、強引にマイナスの呪いをかけようとすれば、せっかくかけた術が解けてしまいます。 そうなれば、レグルスは再び暴れ出すでしょう」
「……一体どうせよというのだ? 檻の中で芸を見せるだけでは何の意味もないぞ?」
ようやくレグルスをマイナス化出来ると言うところだったので、ゼーマンは少し不機嫌そうにする。
「……恐れながらゼーマン様は、レグルスをマイナス化する方法をご存知ないようですね」
「……どういう事だ?」
「レグルスが、エンシェント・フェアリー・ドラゴンの僕である事はご存知ですか?」
「知っておるわ! エンシェント・フェアリー・ドラゴンを岩山に封印したはよいが、完全にマイナス化する事が出来んから難儀しておるのだ! だからこそ、僕のレグルスはその鍵を持っていると睨んでおったのだ!」
ゼーマンのその言葉に、魔導師は顔を上げる。
「ならば話は早い。 一旦エンシェント・フェアリー・ドラゴンの封印を解いた後、レグルスと同時に呪いをかければ、2体とも完全にマイナス化され、ゼーマン様の物となります」
「……エンシェント・フェアリー・ドラゴンの封印を解けだと…!」
ゼーマンは驚きと疑惑を表情に出す。
一度かけた封印を解く事など、気持ち的に考えれば気軽に出来る事では無かった。
「はい。 それ以外に方法はありません」
魔導師の言う通り、他に方法が無いのも事実。
ゼーマンは魔導師をにらみつけたまま考え込む。
魔導師も同じ様にゼーマンの眼を見たまま動かない。
永遠とも思える長い静寂の後、ゼーマンはようやく口を開いた。
「……よかろう。 その言葉を信じよう。 ……我が元に来たれい! エンシェント・フェアリー・ドラゴン!」
ゼーマンが立ち上がり、魔導師達がいる位置と玉座の間にある鏡の様な魔法陣に向かって杖を差し向ける。
その瞬間、魔法陣が光を放つと、封印されたエンシェント・フェアリー・ドラゴンが鏡に映し出される。
「……魔導師よ。 お前の言う通りにすれば、”力”は我が物となるのだな?」
「その通りです」
「よし解った。 ……ただし! その言葉が偽りであったのならば、ただでは済まんぞ」
「本当ですとも! これでエンシェント・フェアリー・ドラゴンはゼーマン様の物!」
右の魔法使いの言葉に、ゼーマンは胡散臭そうといった様子で鼻を鳴らすと、鏡のエンシェント・フェアリー・ドラゴンに向かってカースド・ニードルを差し向ける。
「カースド・ニードルよ! エンシェント・フェアリー・ドラゴンを解き放て!」
ゼーマンが命令を下すと、封印の岩山の上部にあるカースド・ニードルの針が”プラス”となり、エンシェント・フェアリー・ドラゴンの封印が解け始める。
「おお! その調子ですぞゼーマン様!」
魔法使いは興奮した様子で、魔導師は緊張した様子でそれを見守る。
岩山に封印され、干乾びた様になっていたエンシェント・フェアリー・ドラゴンに、みずみずしさが戻ってくる。
「何をしている! レグルスをこれへ!」
ゼーマンが兵士猿に怒鳴ると、その猿がレグルスの檻を開け、魔導師が呪文を唱える。
すると、レグルスは大人しく魔導師の後ろについて歩き始めた。
「さっすが魔導師様~! これでエンシェント・フェアリー・ドラゴンはゼーマン様の物じゃあ~!」
魔法使いが浮かれて踊るように歩き出す。
その瞬間、魔法使いは自分のマントを踏みつけ、魔導師に向かって盛大に倒れる。
「きゃあ!?」
「うわぁ!?」
倒れてしまった魔法使いは魔導師が持っていた杖を掴み、立ち上がる。
その杖に巻かれていた布は取れてしまっており、中の黒い指針が傾いて”マイナス”となる。
「いって~……はっはー! ゼーマンめ! 馬鹿じゃのう! ころっと騙されおったぁ! ……え!?」
「何だと…!?」
「トルンカ!?」
魔導師が慌てて叫ぶも、”反対の呪い”を受けた魔法使い―――トルンカの口は止まらない。
「わしらはエンシェント・フェアリー・ドラゴン様を助けに来たんじゃ! そんな事も気付けんのかぶぁーーーくぁめ! ……ええッ!?」
「アノツエ!?」
「ナゼ、ワレワレト、オナジツエ、モッテル!?」
猿達もトルンカが持っている杖―――カースド・ニードルに気付いて驚きの声を上げる。
「何て事を言うの!? …って、きゃあ!?」
魔導師はトルンカの口を閉じようとした瞬間、自身の服の裾を踏みつけ、トルンカを巻き込んでこれまた盛大に倒れる。
倒れた勢いで魔導師の顔を覆っていた布が外れ、その素顔があらわになってしまう。
「ウキッ!? コイツ、シュバンクノマチニイタコムスメ!?」
「マドウシ、チガウ!?」
「ばれたーーー!!?」
「もうちょっとだったのに!」
トルンカと魔導師―――龍可は慌てふためく。
「おのれぃ! やはりこの私を騙しておったか! 捕まえろ!」
ゼーマンが命令を下すと、猿達がカースド・ニードルを手に、龍可とトルンカに対して襲い掛かってくる。
その瞬間、何匹かの猿が銃撃音と共に倒れだした。
用心棒―――気合が入ると言って、何故かフリントの真似をしていたフレアと、ザルーグによる援護射撃であった。
他のメンバー4人が龍可とトルンカを保護する。
「エンシェント・フェアリーは渡さん!」
ゼーマンが急いでカースド・ニードルの針をマイナスに変えると、エンシェント・フェアリー・ドラゴンは再び封印されていってしまう。
さらに悪い事に、謁見の間の騒ぎを聞きつけてきた城中の猿達が集まってくる。
「エンシェント・フェアリーが…!」
「なんちゅうこっちゃ……わしのドジのせいで……」
「龍可! その杖を私に!」
猿達と戦っていたレグルスが、龍可の前にきて口を開ける。
「え…? どうするの?」
「私の呪いを解いた時の様に、二つの”マイナス”を合わせ、”プラス”のエネルギーに変えてみます!」
「でもそんな事したら……」
「大爆発ですぞ!?」
二人は丸太での出来事を思い出す。
あの時ですら凄まじいエネルギーの暴発が起きた。
ゼーマンの持つエネルギーであれが起こればゼーマンを倒す事が出来るであろうが、それを行ったレグルスもただでは済まないであろう。
「早く! でないとエンシェント・フェアリー様が封印されてしまう!」
レグルスの覚悟を感じたのか、龍可は決心してレグルスの口にカースドニードルを噛ませる。
レグルスは黒蠍団に二人を檻に入れるように指示を出し、二人が檻に入ると、扉を潰して誰も出入り出来ないようにする。
「この中にいて下さい!」
「待ってレグルス!」
レグルスが猿の大群に突っ込んでいこうとすると、フレアがレグルスを呼び止める。
「あの大群に突っ込んでいくなんて無茶よ!」
「だがやらねばならん! ここで止まる事は出来んのだ!」
「なら私も連れてって! あなたにかかる火の粉は私が払う!」
「それは―――」
「危険だとか言わないで! 私だってあなたと同じ様に、龍可ちゃんを助けるように頼まれてここにいるの! 絶対にエンシェント・フェアリーを助けたいの! 覚悟は出来てる! お願い! 私と一緒に戦って!」
そう言ってフレアはレグルスの背に乗る。
「……解った! 誇り高き人間の戦士よ! 私と共に!」
フレアの覚悟を理解したレグルスはゼーマンに向かって駆け出す。
行く手を阻む猿達をその爪でなぎ倒しながら進んでゆく。
そんなレグルスを前に、猿達は果敢にも飛びかかってくる。
その猿達は二丁拳銃から放たれ、瞬く間に飛んで来る魔法弾の餌食となった。
1匹、2匹、3匹―――――二丁拳銃を舞わせて、フレアは猿達を撃ち倒して行く。
「オノレ! トマレェーーー!!!」
この集団戦の中でカースド・ニードルを使えば、味方を巻き込んでしまうかもしれない。
だからこそ使う者はいなかったのだが、ある1匹の猿が切れてしまい、カースド・ニードルからマイナス・エネルギーを放ってしまう。
「!? しまっ―――」
マイナス・エネルギーは上手く猿達をすり抜け、真っ直ぐフレアへと向かう。
不意を突いた一発にフレアは避ける事が出来なかった。
もう駄目だと思った瞬間、フレアの前に一人の大男が躍り出る。
「ぐあぁぁぁ!!!」
「ゴーグ!? そんな―――」
黒蠍盗掘団の一人であるゴーグがフレアをマイナス・エネルギーから庇ったのだ。
石版と化すゴーグ。
フレアが石版となって離れていくゴーグを眼で追おうとした瞬間、チックが目の前に現れる。
チックだけではない、黒蠍盗掘団がフレアとレグルスを守るように4人で囲んでいたのだ。
「お嬢サンダー! 振り向いちゃ駄目だぜ! 前を見な!」
チックがそう言った瞬間、再びマイナス・エネルギーが飛んできて、チックを石版に変える。
1匹が放ったのを皮切りに、他の猿達もマイナス・エネルギーを放ち始めてしまったのだ。
何匹もの猿を石版に変えながら、マイナス・エネルギーがフレアとレグルス目掛けて飛んで来る。
「させん!」
次はクリフがフレアを庇い、石版となる。
「お頭! 後は―――」
ミーネはレグルスを庇い、石版となって猿の群れの中に消える。
マイナス・エネルギーが周りの猿を石版に変えてくれ、それを恐れた他の猿達が寄って来なくなった為、とうとうレグルスとフレアは猿の大群を抜ける。
ザルーグは足止めの為に大群の中に残り、猿達を盾にしながら銃を乱射。
だが長くは持たず、とうとうマイナス・エネルギーを受けてしまう。
「お嬢サンダー! 精霊界を頼みましたぞーーー!!!」
ザルーグの言葉を聞いたフレアは振り向かず、目前に迫ったゼーマンに対して銃を構える。
「まさか!? マイナス同士をぶつけて”力”を暴発させるつもりか!? させん!」
レグルスの意図に気付いたゼーマンは近くにいた猿の首を捕まえ、へし折って殺すと、その猿の魂を結界に変えて自身の前に張る。
これではレグルスが近づく事が出来ない―――だが。
「やぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」
フレアが叫びながら二丁拳銃をゼーマンに向けると、ありったけの魔法弾を結界に撃ち込む。
1発2発と弾を撃ち込む度に結界にひびが入り、そして――――
「グアァァァ!!! ば、馬鹿なァ!!!」
とうとう結界を撃ち砕く。
レグルスは一気に間合いを詰めると、口に咥えたカースド・ニードルの針を”マイナス”に変え、ゼーマンのカースド・ニードルと接触させると、レグルスの時以上の”プラス・エネルギー”の暴発が起き、謁見の間にいる猿達を全て消し飛ばした。
檻の中にいた龍可とトルンカにも爆炎が迫るが、龍可の右腕にあるシグナーの痣が光を放ち、結界を作って二人を守る。
「これで済むと思うなよ! 私が倒れても、マイナスの呪いはディマク様の元へと送られるのだァー! …グアァァァーーー!!!」
粘っていたが、とうとうゼーマンも”プラス・エネルギー”によって消滅する。
暫くして龍可が眼を開けると、謁見の間はボロボロになっており、天井に穴が開いてしまっている。
壊れた檻から出た龍可はレグルスとフレアを捜して辺りを見回すが、残った煙もあってか見当たらない。
「レグルスー! フレアさーん!」
名前を呼ぶが、返事は返ってこない。
不安になってきた龍可は捜しに行こうとした瞬間、聞き覚えの無い声が聞こえて来る。
「やれやれ……やっと元の姿に戻る事が出来たわい。 龍可ちゃん、怪我は無かったかな?」
「あなたは…?」
龍可の目の前に現れたのは、何処か見覚えのある服装と杖を持った高齢の魔法使い。
その魔法使いは龍可の反応を見て朗らかに笑い、片目を閉じる。
「わしじゃよわし」
「……トルンカ? トルンカなの!? びっくり! 本当にお爺さんだったんだ! という事は、呪いが解けたの?」
龍可は驚きつつも嬉しそうにトルンカへ近づく。
「うむ!」
「龍可!」
今度は煙の中から知っている声が聞こえて来る。
レグルスの声だった。
彼は煙の中から駆け出してくる。
「レグルス! ……!? フレアさん!?」
レグルスの背にはボロボロになったフレアが寝かされていた。
フレアも呪いが解け、元の16歳に戻っている。
レグルスはフレアを背から降ろし、自分の体で背を支え、地面に座らせた。
「大丈夫だ。 命も意識もある。 …大したものだ。 人間だという事が信じられん程にな」
「フレアさん! しっかり!」
龍可が呼びかけると、フレアは眼を開けて微笑む。
「龍可ちゃん……無事だったのね。 よかった……ふふ、せっかく勝ったのに、こんなボロボロだなんて……私ったらかっこわるい……」
「そんな事ないよ! フレアさんは……”ヒーロー”よ! ……ありがとう、守ってくれて……」
龍可は眼に涙を溜めて、フレアに抱きつく。
「ふふ……あなたのお兄さんの次位にはなれたかな」
「ご無事でしたか、レグルス殿、フレア殿」
トルンカが座り込んでいるフレアとレグルスを見下ろす。
「きゃ……トルンカ? すごーい! 本当にお爺さんだったのね……身長高!?」
「ほっほっほ! フレア殿は意外と余裕があるようですな! ……レグルス殿」
「うむ。 どうやら、猿魔王ゼーマンは滅んだようです」
「本当!? エンシェント・フェアリーは何処!?」
頷き合うトルンカとレグルス。
その事に龍可が喜んで立ち上がり、辺りを見渡す。
だが、レグルスの顔は暗かった。
「それが、何処にも姿が見えないのです……」
「そんな……そういえば、精霊達が元に戻ってない…! 呪いが解かれたのにどうして…!」
龍可は広間中の石版を見渡すが、どれも元に戻る気配すら無い。
床に転がっている、黒蠍盗掘団の石版も同様である。
龍可はゼーマンが最後に言った事を思い出した。
「(ゼーマンが、”マイナスの呪いはディマクに送られる”って言ってた…!?)」
龍可が上を見上げた瞬間、崩れた天井から見える空に”猿の地上絵”が現れる。
そして周りの石版から光が放たれると、その光は全て地上絵へと吸い込まれていく。
「ああ!?」
「精霊達の魂が…!?」
「黒蠍盗掘団!?」
フレアが何とか立ち上がり、それぞれの石版を確認しに行くが、既に石版には彼等の姿は無かった。
「そんな…!」
「一体何が起ころうとしとるんじゃ……」
「……”地縛神”が、目覚めようとしているんだわ……」
龍可が言った”地縛神”という名に、フレアの背筋が寒くなる。
今でも思い出せる―――人々の魂が悲鳴と共に食われていく様子を、遊星を押し潰そうとした恐ろしき邪神の姿を。
「!? 龍亜が……龍亜が危ない!」
「何と……!? うわぁ!?」
龍可が兄の危機を感じ取った瞬間、その場にいる全員の体が浮き上がる。
「な、何なのこれ!? 龍可ちゃん!」
フレアは龍可を守ろうと、龍可を何とか抱き寄せる。
龍可は上を見上げると、自分達が地上絵に近づいている事に気付く。
「地上絵に吸い込まれちゃう!?」
「このままでは、精霊界は永遠の闇に閉ざされてしまう!」
「わしに任せろ!」
ここで声を上げたのは、精霊界の魔法使い族長老にして、”黒衣の大賢者”と呼ばれるトルンカ。
突然杖を構え、魔力を集中させる。
「わしの最後の力で、龍可ちゃんを元の世界へ送り込む! …頼む! 地縛神を倒してくれ!」
「精霊界の未来は、あなたの手にかかっています。 龍可……」
トルンカの言葉に、レグルスが頷く。
「龍可ちゃん。 私が助けられるのはここまで……だけど、忘れないで! ”絆”がある限り、私は何時でもあなたの側にいるから……」
「フレアさん……ここまで、ありがとうございました! また何時か……平和な世界で!」
フレアが龍可を離すと、トルンカが集中させた魔力を解放し、龍可を光で包み込んで人間世界へと飛ばした。
「(龍可ちゃん……気をつけて……)」
フレアは戦いへ赴く少女を見送る。
龍可の姿が見えなくなると、フレアは使命を終えた事を実感しながら、意識を失った。
ここまでが、原作での精霊世界編です。 ここからは、オリジナル展開で進みます。 つまり、精霊世界編はもうちょっとだけ続くんじゃ。
それにしても……何時からこの作品は遊戯王からワイ○ド・アー○ズになったんだ?
これでカイトさんがいたら完璧でしたね……
次回から遊戯王になると思います。
お楽しみに。