*今回、決闘はありません。 ご了承ください。
第27話 シティ
「うわぁ~! 凄いよフリント! でっかい!」
「そうだな…」
自分の背に掴まっているフレアが、目の前の建造物を見て子供の様にはしゃぐ。
フリントもそれを一瞥し、頷いた。
シティとサテライトを繋ぐ架け橋―――――”ネオダイダロス・ブリッジ”。
その橋の完成はサテライト住民及び、同等の扱いを受けていたクラッシュ・タウン住民達が長く待ち望んでいたものだった。
今やサテライト住民への差別は禁止され、シティへの出入りどころか、シティへの移住も許されるようになったのである。
”ゼロ・リバース”によって分けられたネオ童実野シティは、再び一つとなろうとしていた。
そんな中、フレアとフリントはシティへ遊びに来た訳ではない。
「あ! こっからシティが見える! やっぱりでっかい! 今日からあそこに住むのね……ドキドキしてきた!」
「(3年前に逆戻りしているな……解らなくも無いが)」
フレアは”遊学”の為、フリントは”情報収集”の為、暫くシティで暮らす事となったのだ。
…
……
…………
………………
……………………
フレアはネオダイダロス・ブリッジが完成したと聞くと、さっそくシティへ行きたいと、ストークに頼み込んだ。
シティと言えば決闘の街、決闘者の聖地。
さらに、遊星達がそこへ移住したと聞いている。
まだ見ぬライバルと世界、友との再会。
どちらも望むフレアは、どうしてもシティへ行きたかった。
”まあ、旅行位なら”と、ストークが許可しようとしたその時、それを聞きつけたクラッシュがある提案をする。
「旅行なんて言わず、向こうに暫く住みついて”遊学”してこい。 あそこは”決闘の街”だ。 学ぶ事も多いだろ」
サテライトでもやった、クラッシュの”未知の世界へ放り込む”という教育。
それを今度はシティでやると言うのだ。
フレアは喜んで承諾。
だが、妹を未だに子供扱いするストークは反対する。
「フレアももうじき17だ。 何時までも子供じゃねぇ。 こんな辺境に置いておくよりも、外で色々体験させてやった方がいいんじゃねぇか? それに……シティへの進出はヴァンの”夢”だった。 娘のフレアがそうすれば、あいつも向こうで喜ぶだろうよ」
クラッシュの息子であり、ストークとフレアの父親であるヴァンは一流の決闘者だった。
そんな彼の夢は、何時の日かシティでDホイーラーとなり、その頂点となる事。
妻子が出来てからもそれはずっと変わらず、17年前にようやくDホイールを手に入れ、夢へのスタートラインに立った。
だがその年、ネオ童実野シティで大災害”ゼロ・リバース”が起こる。
そんな状況では当然、街でライディング・デュエルをする者などいない。
ヴァンはシティの復旧と、シティに再びライディング・デュエルが戻ってくることを祈りながらその時を待っていたが、ある日のライディングの練習中、岩石地帯で落石事故に遭い、帰らぬ人となった。
クラッシュの言葉と、フレアの熱意がこもった説得により、ストークは渋々と頷く。
「分かった、俺も許す。 …いいかフレア? これは”遊学”だからな。 向こうへ行っても、遊んでばかりいるんじゃないぞ」
「うん!」
「向こうは決闘の本場だ。 お前より強い奴はごまんといる。 だから負けても腐らず、精進すること」
「解ってる!」
「それから、向こうの人には絶対に迷惑掛けるなよ」
「…うん」
「それと、もし向こうの居心地が良くても、たまには帰ってこいよ。 手紙も定期的に寄越せ。 後、拾い食いは絶対に――――」
「もー!!! もうちょっと信頼してよ! そんなに子供扱いしないで!」
「心配なんだよ。 察してくれ」
* * *
何だかんだあったが、何とか許可を貰い、フレアは故郷を旅立つ事となった。
出発の日、見送りに来た住民達と共に、フレアは北地区の門に立つ。
フレアは東に見える白い朝日を眺め、眼を細めた。
絶好の旅立ち日和である。
「気をつけて……手紙、待ってるから」
「頑張ってね! 絶対に凄いDホイーラーになってよ!」
「うん! 二人共、元気でね!」
寂しそうなニコと、応援してくれるウェストの手を握り、フレアは暫しの別れを告げる。
「店は俺に任せておけ。 …思う存分、学んで楽しんで来い! 後、ブロンソンさんに会えたらよろしくな」
最初は反対していたストークだが、今は快く笑顔で送り出してくれている。
因みにブロンソンは元々シティの出身であり、ネオダイダロス・ブリッジの完成と同時に、一旦故郷へと戻ったのである。
余程クラッシュ・タウンが気に入ったのか、暫くしたらまた戻ってくると言っていた。
「フレア。 こいつを持って行け」
クラッシュは数枚のカードをフレアに手渡す。
「このカード……」
「そいつはクヴェルが持っていたものだ。 何れ子供達に渡してくれと頼まれててな。 先に渡した”ガーディアン・エアトス”もその中の1枚だ」
フレアはそれらのカードを見ると、1枚1枚から不思議な”力”を感じた。
おそらく、これらのカードもエアトスと同様に”特別なもの”なのかもしれない。
「ママの……ありがとうお爺ちゃん!」
フレアはカードをしまい込むと、見送りに来てくれた人々に向かってお辞儀をする。
「それじゃあ、行ってきます!」
「頑張れよ! …それじゃフリント、頼んだぞ」
ストークがDホイール”イグニッション”と共に待機しているフリントに声を掛ける。
今回、フリントがフレアをシティまで送る事になっていた。
「ストーク。 突然だが、俺もフレアを送り届けた後、暫くシティに留まる」
「え? 本当に突然だな……何か目的があるのか?」
ストークが首を傾げて尋ねると、フリントは北の空を見上げた。
見上げた先の方角には、シティがある。
「そろそろ、本格的に捜したい……俺自身をな」
「……ああ、そういう事か」
シティには多くの人が住み、多くの人がやって来る。
もしかすれば、自分についての情報や自分自身を知っている者がいるかもしれない。
この3年半、クラッシュ・タウンにいて思い出せる事は殆ど無かった。
それに比べ、一時期に滞在したサテライトでは”友と自分の軌跡”について、僅かに思い出すことが出来た。
「(ネオ童実野シティには”何か”があるような気がする……)」
そう考え、フリントはシティへ向かう事に決めた。
単純に、”決闘者の聖地”に興味があったというのもあるが。
「解った。 そういう事なら、仕方が無い。 フリントも達者でな。 それと……(ついででいいから、出来るだけフレアを助けてやってくれ)」
ストークはフリントに近づき、耳元でそう囁く。
やはりというか、まだフレアのことが心配らしい。
「心配するな。 フレアは3年前とは見違えるほど成長した。 そして、シティでまた己を高めるだろう。 …だから、信じてやれ」
フリントはそう返すと、ヘルメットを被り、Dホイールに跨る。
フレアも同じ様にして後ろに跨った。
「う~ん……これがDホイールの乗り心地……ねえフリント、途中で運転変わ―――」
「行くぞ」
フリントはイグニッションを始動させると、一気に加速させて荒野へ飛び出した。
一方、頼みを無視されたフレアはヘルメットの下で頬を膨らませる。
「ケチ!」
……………………
………………
…………
……
…
「うわぁ~! 凄い! 山みたいな建物ばっかり! サテライトとは全然違うわ!」
おのぼりさん丸出しのフレアを余所に、フリントはクラッシュがフレアの為に契約したマンションを探していた。
フリントは急な話だったので、フレアを置いた後に別の宿所を探しに行く。
「わざわざ別々に借りなくてもいいんじゃない? 私はフリントを信頼してるからさ、一緒に住んじゃおうよ」
「馬鹿を言うな。 そんな事をしたら俺がクラッシュ・ファミリーとストークに消されかねん……ここか。 着いたぞ」
フリントは大きな集合住宅の前にDホイールを停めた。
フレアはDホイールから降り、ヘルメットを外しながら自分の新しい住居を見上げる。
「これが”マンション”……こんなに大きいとは思わなかったわ。 一体何人ここに住んでるのかしら?」
「この後、遊星達を探しに行くのだろう? ここで待っているから、管理人の所へ早く行って荷物を置いて来い」
* * *
「綺麗だったけど、思ったよりは広くなかったな~」
自室に入り、荷物を置いて出てきたフレア。
フリントの元へ戻ろうと階段を目指していると、後ろから大きな音が聞こえる。
勢いよく扉を開く音と、慌てたような女性の声だ。
「ああ~~~!!! このままじゃスクープ逃しちゃうんだから~~~!!!」
「え? きゃ!?」
フレアと同じ様に階段を目指し、猛スピードで駆け出した女性は振り向いたフレアと衝突。
お互いに尻餅をついて倒れる。
「痛たた……ご、ごめんなさいぃ~…」
女性は情けない声で謝りながら、落としたビン底眼鏡を拾って掛け直す。
眼鏡を掛ける前は、隠れてしまうのが勿体無いと思えるほどの美人。
だが、眼鏡を掛けた後の姿は不思議と違和感が無く、むしろ似合っていると言ってもよかった。
その女性の素顔を見たフレアは驚いた表情で彼女を見詰めている。
彼女はフレアのことを知らないが、フレアは彼女のことを知っていた。
「カーリー……」
「え? え~と……う~ん……何処かで会った?」
女性は自分の名前を呟いた目の前の少女を思い出そうと記憶を探る。
彼女はフレアと会った事は無い。
だが、フレアが”夢”の中で彼女を見ていたのだ。
”カーリー渚”――――新聞記者であり、”シグナー”のジャック・アトラスと死闘を繰り広げた”元ダークシグナー”、そして――――
「(ジャックの”大切な人”……) えっと……私、今日ここに引っ越してきたフレア・ヴィルアースっていいます。 遊星やジャックの友人で、その時にあなたのことを……」
「へぇ! ジャック達の知り合いで、その上新しいご近所さん! 凄い偶然なんだから! じゃあ改めまして、私はカーリー渚! このシティで記者をやってるんだから! あ、これはジャックから聞いてるかもね~…って、ど、どうしたの?」
カーリーがフレアを見ると、フレアは少し涙ぐんでいる。
カーリーは完全に忘れてしまっているが、フレアはジャックと彼女の”戦い”を知っているのだ。
「(よかった……) いえ、ごめんなさい。 何でもないです……それよりも、そんなに急いでどうしたんですか?」
「あ! そうだったんだから~!!! ごめんなさい! また今度ゆっくりとね!」
そう言って、カーリーは急いで階段を駆け下りていく。
フレアはその背を微笑みながら見送った。
「本当によかった……カーリーさんがここにいるってことは、もしかして……」
フレアは3年前のサテライトを思い出す。
自分やフリント、遊星、ジャック、クロウ、そして―――
「……鬼柳」
自分の思い出の中にあるサテライト。
そこで楽しく笑い合っているチーム”サティスファクション”と地下鉄ホームの仲間達。
その背景をシティに変えてみる。
「…ふふ!」
フレアはそんな想像をしながら、軽い足取りで階段を下りていった。
* * *
「あれ?」
フレアがマンション前に戻ってくると、フリントが誰かと話をしている。
その相手の顔―――と言うより、普段からヘルメットとゴーグル、という姿に見覚えがあった。
「ブロンソンさん!」
「よおフレア! お前達もこっちに来てるなんて驚いたぞ。 まあ、俺はもうクラッシュ・タウンに帰るんだけどな」
「え? もう帰るんですか?」
「おう。 何か向こうが恋しくなってきてな。 もうどっちが故郷だか解らないぜ」
フレア達とは入れ違いでシティを出るというブロンソン。
数少ないシティでの知人だったので、フレアは残念そうに肩を落とす。
「それじゃ、俺は行くぜ! 二人が無事着いたこと、伝えておいてやるからな!」
そう言って、ブロンソンは行ってしまう。
「行っちゃった……フリントはブロンソンさんと何話してたの?」
「家の件についてだ。 何処かいい所はないかと聞いたら―――」
だったら、シティの俺の家を使っていいぞ! もう誰も住んでないから帰る前に売っちまおうって思ってたけど、丁度いい!
「―――当てもないから、厚意に甘えることにした」
そう言って、フレアにブロンソンから預かった家のキーを見せる。
「よかったじゃないフリント! それじゃあ住む所決まったし、さっそく遊星達捜しに行こう!」
* * *
「最後に貰った手紙によると、ここら辺のはずなのよね?」
フレアが車上で辺りを見渡す。
ここは”噴水広場”。
その名の通り中央に噴水がある広場であり、周りには喫茶店などの店が並ぶ、シティ住民の憩いの場である。
以前、遊星から貰った手紙によると、遊星、ジャック、クロウの3人はここに住んでいるらしい。
「それにしても……”WRGP”かぁ! いいなぁ~私も出たいなぁ~!」
「まずは”Dホイールとメンバー”が必要だがな」
1年後に開かれるライディング・デュエルの大会であり、遊星達は己の可能性を試す為、この大会に出場するのだという。
「凄い”ドデカイ”事ね! 遊星達は見つけられたのよ! ”光差す道”を!」
道が見えず、暴走し、四散してしまったチーム”サティスファクション”。
だが、彼等は再び集まり、新たなる伝説を築く為に動き出したのだ。
フレアは心の底から嬉しく思う。
「着いたぞ。 ここのようだ」
停車したのは、噴水広場にある時計屋の前。
扉の上には壊れているのか、明らかに違う時間を差したまま動かない時計が飾られている。
「? 遊星達、時計屋さん始めたの?」
「いや、こっちだ。 この店の地下。 ガレージに住んでいると、手紙に書いてある」
フリントはフレアを降ろすと、Dホイールを手で押しながら、店の横にある短い坂を下る。
下りた先には、確かにガレージがあった。
「ん? 何か焦げ臭くない?」
「ああ……主に中からだな」
2人がガレージの前で顔を顰めていると、突然ガレージが開けられる。
「!? お前達…!」
「あ! 遊星! 久しぶり……ってあははは!!! なにその格好!」
「……一体何があったんだ?」
ガレージから姿を見せたのは遊星。
だが、その体は煤だらけで、煙突の中にでも入ってきたような有様である。
それに気を取られたフレアは、遊星の顔に付いている”あるもの”に気付かなかった。
「フリント……それに……フレアか?」
「何で私だけ疑問形なの? 私よ私、フレア。 忘れちゃった?」
「いや……成長したな。 大人びていて驚いた。 俺よりも長く逢わなかったジャックやクロウはもっと驚くだろう」
遊星がフレア達と最後に逢ったのは約2年前。
その間での身体的な成長もそうだが、何より遊星はフレアから力強い”威”を感じていた。
それがフレアのものなのか、それとも遊星が持つ決闘者としての勘が、フレアの後ろにいる”見えない何か”を感じ取っているのか。
とにかく、遊星にとって今のフレアは2年前とは別人の様に見えたのである。
「本当に久しぶりだな。 だが、恥かしいところを見られてしまった」
遊星は二人をガレージ内に招き入れ、事情を話す。
先程までジャックやクロウと共に新型エンジンの開発実験に取り組んでいた。
だがその最中、エンジンに負荷を掛けすぎ、その場で爆発させてしまったらしい。
幸い、3人に大きな怪我は無かったが、新型エンジンはお釈迦になってしまった。
「今、二人は服を変えに―――」
「まったく! 遊星! 今度はせめて爆発しないものを作れ!」
大きく、尊大な声をした男―――”ジャック・アトラス”。
2年と半年前からまったく変わっていないその声の持ち主が、表口の扉へ続く階段から下りてくる。
フレアはジャックを見ると、無言で立ち上がり、彼を見上げた。
「うん? 客か? ……フリント!? それに……」
ジャックは自分を見上げているフレアに眼を向ける。
「……フレアか。 いい面構えになったな。 見違えたぞ」
多少、驚いた様な表情を見せるジャックだったが、すぐにその表情を消し、階段を下り始める。
「……お前は俺を恨んでいるだろう。 好きなだけ恨め。 だが……これだけは言っておく。 今なら解る。 あの時言っていたお前の言葉。 そして、フリント―――」
ジャックは階段を下り切り、フリントとフレアの前に立つ。
「…どんなに否定しようとも、”絆”というものからは逃れることは出来ないらしい……人はそう簡単に孤独にはなれんのだ。 …あの時の言葉を訂正しよう。 絆は己を縛るものではない……共に在らねばならぬものだ」
そう言ったジャックは迷いの無い表情をしている。
2年前、シティへ向かおうとしていた時も迷いを捨て去った様な表情をしていたが、今とは明らかに違う表情であった。
「……解ってるなら、いい……もう絶対あんな事しないでよ……痛かったんだから……」
フレアは首の後ろを撫でながら俯く。
無論、それは殴られただけの痛みではないだろう。
ガレージの床に、フレアの涙が落ちる。
「……あーあ……私最近、泣いてばっかり……」
「……ジャック。 俺もフレアも、お前を恨んだりはしない。 …絆を繋いだ、”仲間”だからな」
フリントはフレアの頭を撫でながら、ジャックに微笑を向ける。
遊星もジャックの後ろで、同じ様に笑っていた。
「……フン! 相変わらずな奴等だ」
「おわっ! 何だこりゃ!?」
ガレージ内の暖かくも湿っぽい空気を吹き飛ばすような声が裏口から聞こえて来る。
全員がそちらへ顔を向けると、見覚えのある箒のような頭の青年がイグニッションを興味深そうに見ていた。
「おい遊星! このDホイール何処で……おお!?」
青年はこちらへ振り返ると、そこに懐かしい顔があることに気付き、こちらへ駆け寄ってくる。
「お前等! 超久しぶりじゃねーか! 全然顔見せねーで、何だよ今まで何してたんだよ!」
「クロウ!」
「久しぶりだな、クロウ」
フリントとフレアもクロウを迎えるように正面に立つが、フレアはクロウの顔を見て驚きの声を上げる。
「きゃ!? クロウその顔どうしたの!?」
「あん? そりゃ―――うお!?」
クロウもフレアに近づいた瞬間、同様に驚きの声を上げる。
「お、お前本当にフレアか? 何で目線が同じなんだよ!? どうなってんだチクショウ……」
どうやらクロウの身長にフレアが追いついてしまったらしく、クロウはそれがショックだったらしい。
その髪の影響でまだクロウの方がまだ大きく見えるが、髪を除くと怪しく見える。
落ち込んでいるクロウだが、フレアはそれよりもクロウの顔が気になる様子。
以前は額に大きなM字と横に小さい点があるくらいだったのが、現在は目元に二つと、左右の頬にラインの様なマーカーが追加されていた。
「……遊星もそうだが、そうとう無茶をやっていたみたいだな。 クロウ……」
フリントがそう言ってから、フレアは初めて遊星の顔にもマーカーが付いていることに気付く。
これまでフレアは”夢”で何度か遊星を見てきたが、どれも”遠くから眺める”という感覚だったので、その細部まで見ることは出来ていなかった。
「あ? ああ……あの後、4回も捕まっちまったんだ。 まあ、今更一つや二つ増ようが関係ねーよ。 それよりも、堅物の遊星が顔にマーカー付けてる方が驚きだと思うがな。 ジャックとの決闘の後、シティへの不法侵入罪で捕まったんだっけか?」
クロウは煤が拭き取られた遊星の左頬を指差す。
そこに付けられているのは、大きく目立つラインのマーカー。
目立つという事は、それだけ重い”罪”を犯したという証である。
今でこそありえないが、当時はサテライト住民がシティへ行く事は絶対に許されなかったのだ。
遊星は当時の事を思い出しながら、自分の手で左頬に触れる。
「ああ……だが、これのおかげで得た絆もある。 今では、これを付けていることも悪くないとさえ思える」
「へぇ~! …あ、そうだ! 鬼柳は? 鬼柳はどこにいるの?」
「「「!?」」」
何故フレアがその事を知っているのか。
3人は驚いた様子でフレアを見ている。
ここで遊星は2年前を思い出した。
「……俺達のことを”夢”で見たのか?」
「ああ……そういう事か。 もう昼下がりだってのに、寝ぼけるなよフレア」
「違うよ!」
呆れた様な表情のクロウとジャックに、フリントがフレアの”力”について説明する。
「―――という事だ。 だから俺達はお前達のことと、お前達の戦いをある程度知っている」
「じ、じゃあ俺があの時戦った相手、分かるか?」
「”ボマー”。 …あの人は故郷に帰ったのかな? きっと、兄妹仲良く暮らしてるよね?」
「マジかよ…!? フレア、お前一体何者なんだ?」
驚いた様子でフレアを見るクロウ。
フレアはクロウの問い掛けに答えようとしたが、言葉が出る前に口を閉じてしまう。
「(これは言わなくていっか。 ”決闘巫女”って、何かちょっと恥かしいし……)」
「…遊星。 フレアの言う話が本当なら、鬼柳も生き返っているはずだ。 …奴は今どこに?」
半年前、鬼柳はダークシグナーとなり、遊星と2度に渡って死闘を繰り広げた。
最後は遊星が勝利を収め、鬼柳との”絆”を取り戻したのである。
宿命の戦いが終わると、地縛神の生贄となった人々は蘇り、ゴドウィン兄弟を除くダークシグナー達も元の人間として再び生を得た。
鬼柳もカーリーと同様に、生きているはずなのである。
だが、鬼柳について聞かれた遊星の表情は暗い。
「……分からないんだ」
「分からないって……それどういうこと?」
戦いの後、B.A.Dエリアにて蘇ったダークシグナー達の捜索が行われた。
その結果、Aslla piscu、Ccarayhua、Cusilluの制御装置前でカーリー、ミスティ、ディマクの3人が見つかり、ボマーが路上で発見された。
しかし、ただ一人―――鬼柳だけが見つからなかったのである。
「鬼柳……」
遊星は鬼柳の身を案じて溜息をつく。
フレアは”夢”の最後で間違いなく鬼柳の”鼓動”を感じ取ったので、生き返っているのは確かなはず。
それなのに、何故鬼柳は遊星達の前から姿を消したのだろうか。
「(せっかく仲直りしたのに……あ、もしかして恥かしいとか?)」
自分の中で納得したフレアは、俯いている遊星に笑顔を向ける。
「大丈夫よ遊星! あの時、鬼柳にあなたの思いは伝わったじゃない! 絆は断ち切れてないよ! ……逢いに来ないのは、きっと心の準備が出来てないのよ。 ほら、喧嘩した後って顔を合わせづらいじゃない? だから、信じて待っててあげようよ」
「……そうだな。 鬼柳は俺達の仲間だ。 信じよう」
フレアの励ましに、微笑を返す遊星。
その顔にはもう憂慮の影は無かった。
「さて、俺等の事もいいんだけどよ、お前等はどうだったんだ? 気になるから聞かせてくれよ!」
「うん! 私達はね―――」
クロウの言葉に頷いて話し始めるフレア。
この後、積もるに積もった話に花が咲き、数時間に渡ってガレージ内に楽しげな話し声が響く。
今夜、新たなる戦いの幕が上がるとは知らずに、フレア達は楽しい時間を過ごすのであった。
ようやくWRGP編です。
ここは結構自由にやれそうなので楽しみです。