フリントが病院へ運ばれ、遊星が機皇帝ワイゼル∞と対峙している頃、ガレージに3人の訪問者が訪れていた。
一人は右腕に”ドラゴン・レッグ”の痣を持つ少女。
薔薇の様に赤い髪を持ち、前髪を特徴的なカーラーで纏め、着ているドレスは彼女の見事なスタイルを強調している。
彼女の名前は”十六夜 アキ”。
遊星達と共に戦った”シグナー”の一人である。
残りの二人は双子の兄妹。
精霊世界でフレアと共に戦った”ドラゴン・クロー”の痣を持つシグナーの少女、”龍可”とその兄である”龍亞”。
双子なだけあって二人はそっくりであり、龍可は兎の耳の様な、龍亞は後頭部で結んだ髪を下ろせば殆ど見分けが付かなくなるだろう。
静まり返ったガレージの中で、アキと龍可は光を放つ自分の痣を見詰めていた。
シグナーの証であり、彼女達と遊星達の絆の証でもある”赤き竜の痣”。
その痣が仲間の危機を報せ、それを感じ取ったアキ達は遊星達が住むガレージに急行し、今に至る。
「あ!? 消えちゃった……」
龍可の痣を横から見ていた龍亞が声を上げる。
突然龍可の腕から痣の光が消えたのだ。
龍亞がアキに振り返ると、アキの腕からも同様に光が消えている。
アキは光が消えた痣を見詰め続けていたが、暫くしてからフッと息を洩らし、微笑を浮かべる。
「……遊星が勝ったわ」
「え!? 本当!?」
龍亞が龍可に向き直ると、龍可も同じ様に安堵の表情を浮かべて頷く。
「よかったぁ~……なーんて! 遊星が負けるわけないもんね! へへっ!」
龍亞は大げさに溜息を吐いた後、笑いながら人差し指で鼻の下をこする。
「それじゃ、私は帰るわね」
「あれ? 遊星を待たないのアキ姉ちゃん?」
龍亞は不思議そうに首を傾げる。
アキにとって遊星は”特別”なので、龍亞はアキが遊星と逢わずに真っ先に帰ろうとしたことを意外に思ったのだ。
「そうしたいんだけど、今日はアカデミア高等部の実技試験があるのよ。 これからそれの準備の手伝いがあるから……それに、ここで待っていなくても遊星は必ず私達に伝えてくれるわ。 私達は、仲間だもの」
そう言って笑ったアキの顔には遊星への限りない”思い”が現れていた。
以前は心を閉ざし、他者を傷つける”冷たい炎”の様で、決してこの様な笑顔を浮かべる少女ではなかった。
そんな彼女を遊星が救い、ここまで変えたのである。
サテライトを出てから半年間、遊星は絆を胸に世界やダークシグナー達だけでなく、多くの人々を救ってきたのだ。
アキがガレージを出た後、龍亞はキョロキョロと辺りを見回す。
「どうしたの龍亞? 私達も帰りましょ。 余裕はあるけど、私達だって学校あるし」
「その前にさ、この前忘れていった俺達の決闘盤を返して貰おうよ。 何処にあるんだろう?」
そう言って龍亞は遊星達の居住空間である2階への階段を上っていく。
「ちょっと!? 勝手に見て回るなんて失礼よ! まったく……」
龍可は腰に手を当てて溜息をつく。
この双子は容姿こそそっくりだが、性格は殆ど逆と言ってよく、そのせいで兄妹構成すら逆に見える。
「ダイジョーブダイジョーブ! ちょっと探すだけだって! お邪魔しまー……ん?」
龍亞が階段を上がり切ろうとしたその時、手前から寝息が聞こえて来る。
「誰かいるの?」
龍亞は階段を上がり切り、辿り着いた居間を見渡す。
目の前のテーブルには自分達の決闘盤。
そして、その前にあるソファーには見知らぬ少女が眠っていた。
歳は自分よりも明らかに上だが、寝ている姿は何だか子供らしい。
時々寝言を洩らしている。
「うーん……卵は……売り切れ……」
「だ、誰このお姉さん……も、もしかして泥棒!?」
思えばアキや自分達がガレージに来た時、鍵が閉まっていなかった。
龍亞はこの少女が鍵を開け、何かを盗もうと入り込んだと予想したのだ。
「で、でも何で寝てるんだ? 逃げなきゃ捕まっちゃうのに……」
「龍亞! 何してるの?」
そこへ龍亞を連れ戻そうと龍可が階段を上ってくる。
寝ている少女が泥棒だと思っている龍亞は妹を守ろうと急いで龍可の前に立った。
「龍可! 泥棒だよ! 泥棒がソファーで寝てるんだ! 危ないから来ちゃ駄目だ!」
「……泥棒って、何で泥棒が逃げずにソファーで寝てるのよ」
「だって知らないお姉さんなんだ! 知らない人が勝手に家に入り込んでたら泥棒だろ!」
「龍亞は知らなくても、遊星達が知ってるかも知れないでしょ? きっと遊星達のお客さんよ」
「そ、そっか……」
ようやく落ち着いた龍亞を退け、龍可は2階に上がる。
龍亞にそう言いつつも、龍可もその存在を訝しく思っていた。
「(遊星達がお客さんを置いてどこかに行くなんて不自然だし、留守を任せたとしたらきっと親しい人のはずよね。 でも、それなら遊星は私達にも紹介してくれてるはずだし……まさか本当に?)」
龍可は少し恐くなったが、ゆっくりと歩を進め、ソファーで寝ている少女の顔を覗き込んだ。
その後ろに続いていた龍亞も同様に覗き込む。
「へぇ~…よく見ると綺麗な人だね。 アキ姉ちゃんとはちょっと違う感じだけど。 本当にこんな人が泥棒なのかな……龍可?」
龍亞が龍可に顔を向けると、龍可は驚いた様子で少女の顔を見ている。
「龍可? どうしたの? このお姉さんを知ってるの?」
「……フレアさん。 どうしてここに……フレアさん! 起きて!」
驚いていた龍可は我に帰ると、フレアを起こそうと体を揺する。
「ええ!? 何で起こすのさ!? 泥棒だったら―――」
「龍亞! この人よ! この人が精霊界で私を助けてくれた人よ!」
「え…? この人があの時の……」
龍亞は精霊界での話を龍可から聞かされていた。
精霊界で自分の代わりに最後まで龍可を守ってくれた正義の味方、”ガンガール・フレア”。
それを思い出した龍亞も龍可に加勢する。
「起きて! 起きてよ! お礼が言いたいんだ!」
二人がかりでフレアを揺すると、ようやくフレアは目を開ける。
シティに来ても、寝ぼすけは相変わらずのようだ。
「う~ん……眠いよぉ……」
「フレアさん! おはよう! 私が誰だか解る?」
「……龍可ちゃん? あれ? ここ……精霊界?」
フレアは何とか起き上がり、眠たい目をこする。
やがて意識がはっきりしてくると、フレアは自分の状況を確認し始めた。
「私は……フリント達を見送って……中々帰って来なくて……寝ちゃって……あれ!? ここ精霊界じゃないよ! という事は……」
「フレアさん!!!」
フレアは驚いた様子で龍可に振り返ると、龍可は勢いよくフレアに抱きつく。
あの時、精霊界に残ったフレアを余程心配していたのか、その目尻には涙が溜まっていた。
「よかった……また逢えた……」
「龍可ちゃん……久しぶり、少し大きくなったね! 元気だった?」
フレアは抱きついてきている龍可を抱き返して立ち上がる。
妹の思いがけない大胆な行動に呆気に取られた龍亞だったが、意を決してフレアの前に立つ。
「…お姉さんがフレアだよね?」
「うん? あ! あなたがもしかしてお兄ちゃんの龍亞君? へぇー! 本当にそっくり!」
「へへっ! ……龍可から聞いてるよ。 龍可を助けてくれてありがとう。 きっとお姉さんがいなかったら俺もダークシグナーにやられちゃってたよ……」
「…そんなことないよ。 二人が再会出来たのも、ダークシグナーに勝てたのも、二人の強い”絆”があったから。 私はその手伝いをしただけよ!」
フレアは龍可を龍亞の隣に立たせると、屈んで二人と目線を合わせる。
「二人共、頑張ったね! 私からもお礼を言わなくっちゃ! 世界を救ってくれて、ありがとう!」
「「うん!!!」」
双子は眩しい笑顔を浮かべてフレアの礼に答えた。
その後、フレアは二人に別れてからの出来事を話す。
精霊界のその後、エアトスの声、試練、そして
「ディマクやゼーマンが生きてたなんて……」
「精確には中にまだ悪者が隠れてた、って感じかな?」
「でもそれを倒しちゃったんでしょ!? スゲー! フレア姉ちゃん! 俺と決闘しようよ!」
そう言って2階のソファー前にあるテーブルに置かれていた青い決闘盤を手に取り、自分のデッキをセットする。
その決闘盤は通常の物より一回り小さく、子供の龍亞が使用するのに丁度良いサイズであった。
「もう……龍亞ったら。 もう時間無いわよ」
龍可は意気込んでいる龍亞の肩を叩きながら壁に掛けられている時計を指差す。
時刻は朝の7時を差していた。
龍亞は不満気に口を尖らせる。
「えー……しょうがないか。 フレア姉ちゃんまた今度やろうね」
「二人はこれから用事があるの? こんな朝早くに……」
「用事じゃなくて学校だよ。 ”デュエル・アカデミア”」
龍亞が”学校”と言葉にした瞬間、フレアの目の色が変わる。
「学校!? 二人共学校に通ってるの!?」
「うわぁ!? …そ、そうだよ」
龍亞に向かって勢いよく身を乗り出すフレア。
クラッシュ・タウンで育ったフレアは学校へ通っておらず、クラッシュ・タウンの住民から読み書きなどの必要最低限の知識を学んだだけである。
そうだからなのか、フレアは学校に対して憧れの様なものを抱いていた。
「学校ってさ! 歳の近い子が一杯いるんでしょ? どんな感じ? ねえ?」
「そりゃいるよ……学校だもん」
「わぁ~! ふふっ!」
フレアは龍亞から離れると、その場で踊る様にくるくると回り始める。
今彼女の頭の中では自身が思い浮かべる”憧れの学校”が映し出されているのだろう。
「いいなぁ~! バーバラさんが言ってたもん。 ”学生時代は刺激的で楽しかった”って。 私も行きたかったな~学校!」
「そ、そこまで楽しい所じゃないよ。 勉強難しいし、補習もあるし」
ハイテンションなフレアに少々押されつつ、龍亞は厄介なものを思い浮かべた様な表情をする。
「そうよねぇ~龍亞は何時も補習受けてるもんね~」
そんな龍亞の横で龍可が意地悪い口調で笑った。
何時も礼儀正しい龍可らしくない物言いにフレアは内心で驚く。
誰よりも身近で大切な兄だからこそ見せる龍可の意外な一面であった。
「う、うるさいやい!」
「ふふ! 私も勉強は嫌い。 でも、それ以上に学校は楽しいでしょ? 友達もいるし! ……ねえ二人共、見学するだけでいいから私も学校の中に入れないかな?」
フレアは二人の前で両手を合わせる。
今からデュエル・アカデミアに入ろうとしても、フレアには学力も無ければお金も無い。
ならばせめて覗くだけでも出来ないかと考えたのだ。
「学校に?」
「出来ますよ。 それじゃ行きましょうか。 まずは準備の為家に―――」
「待って待って龍可! 忘れちゃったの? アカデミアは関係者以外は入れないんだぞ!」
フレアを連れて外へ出ようとした龍可を龍亞が引き止める。
その顔は慌てながらも少し勝ち誇った表情だった。
「龍亞こそ何言ってるの? 今日は高等部の実技試験日だってさっき話してたじゃない」
「あ……」
「何? 何かあるの?」
「その事については歩きながらで。 流石にもう出ないと遅刻しちゃうから……」
デュエル・アカデミアで行われる高等部実技試験。
その日は学内の一部を一般開放し、実技試験を公開するのだと言う。
「その試験って結構凄いの。 毎回かなりのお客さんが来て、中にはOB・OG、プロ決闘者やスカウトまで来てるらしいの」
何故アカデミアは試験を大々的に行うのか。
道は様々だが、このデュエル・アカデミア生の多くが目指すのはやはり”プロ決闘者”であろう。
プロ決闘には観客は付き物である。
この様に試験をプロ決闘に近い形式にすることで、プロ舞台の場慣れやエンターテインメント性のあるプロとしての決闘を身に付けさせるのである。
一旦双子の自宅へ向かい準備を終えた後、3人はアカデミアへと向かった。
* * *
「ここがデュエル・アカデミア……トップスも凄かったけど、ここも凄いね」
目の前にそびえる校舎を見上げながら、フレアは感嘆の息を洩らす。
辺りを見渡すと、あちらこちらに双子と同じ制服を着た少年少女がその校舎を目指して歩いている。
双子と同じ位の者から自分位まで、それらの生徒を見た瞬間、ここは学校なのだとフレアは実感した。
「フレアさん、まだ一般の人は中に入れないの。 だからここで暫く待ってて」
「その内受付の人がくると思うから、詳しくはその人に聞くといいよ。 それじゃフレア姉ちゃん、またね!」
「うん! 二人共勉強頑張ってね!」
そう言って二人は校舎へ向かっていく。
二人によると、高等部生以外は普通に授業があるらしい。
一人校門前に残されたフレアは壁に寄りかかりながら入場時間を待った。
「暇だな~…」
フレアは何気なく校門を通る人々に眼をやると、生徒達以外にはスーツを着た大人や派手な格好をした者まで通っている。
おそらくアカデミアの教員やその他関係者なのだろう。
派手な格好なのは、おそらくゲストのプロ決闘者かもしれない。
『ネオ童実野シティ……賑やかな場所ですね』
「(あ、エアトス! やっと出てきたね!)」
フレアが横を見ると、何時の間にか精霊であるエアトスが姿を見せていた。
だがその姿を見れるのはフレアを含める”特別な力を持つ者”だけである。
丁度暇だったフレアはエアトスと心の中で会話して時間を潰すことにした。
「(どう? 気に入った?)」
『自然が少ないのは残念ですが……人々の思いで溢れている。 いい所です』
「(よかった! ……ねえエアトス。 気になったんだけどさ、苦手なの? フリントのこと……)」
『……』
この半年間、エアトスはフレアの近くにフリントがいる時には必ず姿を消す。
クラッシュ・タウンではフレア以外にエアトスを見ることが出来る者はいない。
それなのに、エアトスはフリントが近くとわざわざカードの中へ戻ってしまう。
それを見たフレアはエアトスがフリントを嫌っているのではないかと思ったのだ。
『…彼を嫌っている訳ではありません。 ただ……』
「(ただ?)」
『……いえ、やはり苦手なのかもしれません。 フレア、少し失礼します……』
そう言ってエアトスは再び姿を消してしまう。
カードの中に戻ったのだ。
「(あ、エアトス……何でだろう?)」
再び一人となったフレアは首を傾げる。
エアトスはフリントに何を感じているのだろうか。
「お待たせしました! 受付はこちらでーす!」
校門の中から明るい女性の声が聞こえる。
どうやら入場時間となったようだ。
フレアは待ってましたと言わん勢いで受付へと向かう。
「中に入りたいんですけど」
「はーい! こちらが入場証と案内とアンケート用紙になります!」
「アンケート?」
フレアは1枚のカードと封筒を渡される。
封筒の中には学内地図と日程表、そして幾つかの質問が書かれた紙が入っていた。
「はい! お帰りになられる際に書いてこのポストに入れていってくださいね!」
* * *
学内へ入ったフレアは辺りを見回す。
早い段階で入ったという事もあるが、あまり人が見えない。
高等部生の姿が見えないのは、既に会場か教室で待機しているからであろう。
フレアは日程表を取り出す。
「試験は体育館とグラウンドの2会場で行われる、か……どっち行こうかな―――」
「あ!? いたぁーーー!!!」
突然後ろから上がった声。
フレアはそれに振り向くと、一人の女生徒が駆けて来る。
見たところ自分と同じ位なので、おそらく高等部生であろう。
胸には”試験運営委員”という名札をつけている。
「火野さんこんな所で何してんの! 一発目なんだから! ほら行くよ!」
女生徒はフレアの腕を掴んで引っ張っていこうとする。
「え!? ちょっと! 人違いです!」
「何言ってんのよ! 結んだ金髪にお土産で貰ったっていう銃みたいな決闘盤! どう見たってアンタは火野さんよ!」
「ええ~~~!!! 違うよ! ほら顔とか見て!」
フレアが必死になって言うと、女生徒はフレアに向き直り、頭頂部から爪先まで見渡す。
「……何でそんな変なカッコしてんの? コスプレ?」
「違うよ!!! 変じゃないし!!!」
フレアの服装は何時ものカウガール・スタイル。
クラッシュ・タウンなら違和感は無いが、シティで見るとかなり浮いた服装である。
「とにかく! 早く着替えて行くよ! まったくなんで急にいなくなって……まさかアンタ、逃げた?」
「(うう……話が通じないよ……)」
困ったような表情をするフレア。
だがこの女生徒はそれを違う意味で捉えた。
「……やっぱり、対戦相手の十六夜さんが恐いのね。 だから逃げたんでしょ?」
「え…?」
「はあ……ちょっと座って話そうか」
女生徒は近くのベンチにフレアを座らせると、自分もその横に腰掛ける。
その表情はとても真剣なものだった。
「十六夜さんが恐いのは解るわ。 半年前の”魔女”は私だって知ってるもの。 だけど、それは昔の事でしょ?」
半年前、十六夜 アキは自身が持つ”サイコ・デュエルの力”によって破壊をもたらし、”黒薔薇の魔女”というシティ住民から忌み嫌われる存在であった。
この事はフレアも遊星から聞いている。
「うん……(”アキはもう大丈夫だ”って遊星が言ってた……)」
「アンタは他クラスだから接する機会が無いんだろうけど、一度話してみなよ。 全然、思ってるのとは違うから」
女生徒は真剣な表情でそう言った後、笑顔を浮かべる。
「全然恐くなんかない良い娘よ? 大庭さんなんかは抱きついたり、お姉さまだとか言ったりしてるし。 決闘強くて成績も生活態度も良くて、あの厳しい委員長だって認めてるんだから!」
「(へぇ~! アキちゃんって凄いんだ……)」
「とにかく、いい機会じゃない! アカデミア生なら、決闘すれば解り合えるでしょ? きっと十六夜さんのこと、よく解るよ!」
「! …うん! そうだよね!」
決闘者だけが知る、”決闘の心”。
その言葉を聞いたフレアは純粋に嬉しくなり、今の自分の状況を忘れて頷いてしまう。
「そうそう! あ、でも決闘は恐い位強いよ? 私が一度も勝てない位だし。 ま、尻込みせずに胸を借りるつもりでいきなよ! あの娘の大きいしね! あっはっは!」
女生徒は下品な洒落を飛ばした後、ふと時計を見る。
「ヤバ! もう時間無いじゃん! ほら急いで着替えて行くよ!」
女生徒は立ち上がってフレアの腕を引いた瞬間、フレアは自分の状況を思い出す。
「あ、あの! 本当に人違いなんです! 生徒じゃないから制服も無いし―――」
「まだそんな事言うの!? アッタマきた! 意地でも私はアンタと十六夜さんを決闘させるわよ! 制服が無いって言い張るなら、私の予備を貸してあげる! ほら来なさい!」
「ちょ、ちょっと待ってーーー!!!」
完全にフレアを火野と間違えている女生徒。
自分が間違えているとは一切考えず、無理やりフレアを校舎の中へと引っ張っていってしまった。
* * *
「遅い……一体何処まで捜しに行っているのでしょうか」
ここは体育館試験会場。
そこには幾つもの決闘場が用意されており、その上には試験を前にした生徒達が立っている。
間もなく試験が始まろうとしていた。
そんな中、眼鏡をかけた一人の女生徒が誰も立っていない立ち位置の横で苛立ちながら時計を見ている。
「委員長ーーー!!! 遅くなってごめん! やっと見つけた!」
「(これが制服……何か恥かしいなぁ……足スースーするし……)」
そこへ先程の女生徒がアカデミア女生徒の制服である赤いブレザーに着替えたフレアを引っ張って体育館へとやって来た。
委員長と呼ばれた女生徒―――
「遅いですよ小波さん! さあ火野さん! 貴女には色々言う事がありますが、今は試験です! 早く場に立ってください!」
「ちょっと待って! 私は違うんです! 火野さんじゃ―――」
この人なら―――そう信じて委員長に訴えようとするが、その瞬間に試験開始のアナウンスが体育館に響いた。
周りの決闘場の生徒達は一斉に決闘を始める。
「ああもう!」
委員長は急いでフレアを決闘場に立たせると、自身は先程の女生徒―――小波と共に決闘場の側面に立つ。
「これより、十六夜 アキと火野 素子の試験を行います! 審判は私、原 麗華と小波 遊子です。 よろしくお願いします! それでは開始してください!」
「委員長、ちょっといいかしら?」
フレアの相手側に立つアキが手を挙げ、自身の決闘盤をかざした。
「決闘盤の調子が悪くて、シャッフル機能が上手く機能しないの。 だから火野さんにシャッフルをお願いしたいんだけど、いいかしら?」
「成る程、解りました。 今回は旧式のシャッフルルールで行きましょう。 火野さんのデッキも貴女がシャッフルするように。 時間が押してますから、急いでくださいね。 …それとアキさん、自分の決闘盤の管理はしっかりと行うように。 これは減点対象ですよ」
「ごめんなさい。 今度から気をつけるわ」
アキは決闘盤から自分のデッキを取り出すと、決闘場の中央へ移動する。
フレアも慌ててデッキを取り出し、アキの側へと駆け寄った。
「貴女、火野さんじゃないのね? さっきの声、聞こえてたわよ」
アキがデッキを渡しながら小声で話しかけてくる。
フレアはビクリと反応した後、助けを乞う様な表情になった。
「そうなの、勘違いなのよ……どうしよ~……」
「……ここまできたらやるしかないわね。 合わせてあげるから頑張って」
「うん……」
フレアとアキはお互いのデッキをシャッフルし合い、返還して展開した決闘盤にセットする。
「……いい決闘にしましょう」
思わぬ状況に動揺しているフレアに対し、アキはそう言って笑いかけてから踵を返し、自身の立ち位置に戻る。
「(アキちゃんとの……決闘……)」
フレアは急いで立ち位置に戻り、頭からアキとの決闘以外のものを全て振り払う。
そこに残っていたのは、決闘前に何時も感じている胸の高鳴りだけであった。
「行くよ!」
「ええ!」
「「デュエル!!!」」
審判の勘違いにより始まったフレアとアキの決闘。
先攻はフレア。
「私のターン! ドロー!」
フレア 手札:5→6
「お互いの場にカードが存在しない場合、このカードはレベル3として特殊召喚出来る! 来て! 《こけコッコ》!」
フレアの場に現れたのは半上級チューナーである”こけコッコ”。
相変わらず丸々とした体を地面に転がせている。
DEF:2000
「そして手札から《星見獣ガリス》の効果を発動! デッキトップのカードを墓地へ送り、そのカードがモンスターだった場合、そのモンスターのレベル×200ポイントのダメージを相手に与え このカードを特殊召喚する! 私のデッキトップのカードは―――」
墓地に送られたカード
ダンディライオン
「墓地に送られたのはレベル3の《ダンディライオン》! よって相手に600ポイントのダメージを与え、《星見獣ガリス》を特殊召喚!」
フレアの場に鎧を纏ったグリフォンが現れると空に向かって咆哮を上げる。
すると、上から3つの流星がアキ目掛けて降り注ぐ。
ATK:800
「くっ…!」
アキ LP:4000→3400
「さらに墓地に送られた《ダンディライオン》の効果発動! 私の場に綿毛トークン2体を生成!」
DEF:0
DEF:0
「そしてチューナーモンスター《柴戦士タロ》を通常召喚!」
ATK:800
フレアの場に綿毛トークン2体と、タロが現れる。
これでフレアの場にモンスターが5体。
初ターンからの大展開に観客席から歓声が上がる。
「まだだよ! 魔法カード《烏合の行進》! このターン、他の魔法・罠カードを発動しない代わりに発動! 自分の場に獣族・獣戦士族・鳥獣族のいずれかのモンスターが存在する場合、その種族1種類につき1枚カードをドローする! 私の場には獣族の《星見獣ガリス》、獣戦士族の《柴戦士タロ》、鳥獣族の《こけコッコ》の指定種族3種類! よって3枚ドロー!」
フレア 手札:2→5
「レベル3《星見獣ガリス》に、レベル2《柴戦士タロ》をチューニング!」
タロが自身を2つの光輪へと変え、ガリスを囲み、3つの光、そして光の柱へと変える。
「大地の痛みを知る傷だらけの戦士よ! その健在を示せ! シンクロ召喚! 不屈の戦士! 《スカー・ウォリアー》!」
光の柱から現れたのは”スカー・ウォリアー”。
場に降り立つと、その傷だらけの体を前に出し、アキに対して立ちふさがる。
ATK:2100
「カードを2枚伏せてターンエンド!」
LP:4000
手札:3
モンスター
・こけコッコ
・綿毛トークン
・綿毛トークン
・スカー・ウォリアー
魔法・罠
・セット
・セット
初ターンで大量展開、手札増強、アキへのダメージをこなしたフレア。
それを見た観客は沸き立ち、アキは表情を引き締める。
「…貴女、強いのね。 なら私も遠慮なく行かせてもらうわ! 私のターン!」
アキ 手札:5→6
「魔法カード《フレグランス・ストーム》を発動! 場に表側表示で存在する植物族1体を破壊し、 自分のデッキからカードを1枚ドローする。 貴女の場の綿毛トークンを破壊!」
アキが発動した魔法から突風が放たれると、フレアの場にいる綿毛トークンを吹き飛ばす。
「(あちゃ~…ミスティさんの時に使ってたカードだ。 私のモンスターも対象にできるのね)」
アキ 手札:5→6
「この効果でドローしたカードが植物族モンスターだった場合、それをお互いに確認することでもう1枚ドロー出来る。 私がドローしたのは植物族の《ローズ・テンタクルス》! よってもう1枚ドロー!」
アキ 手札:6→7
アキも負けてはいない。
フレアの壁モンスターを除去しつつ、自分の手札を増強させる。
「魔法カード《偽りの種》を発動! 手札からレベル2以下の植物族1体を特殊召喚する! レベル1の《イービル・ソーン》を特殊召喚!」
アキの場に1本の木が現れる。
その木の先は2方向に分かれており、片方にはピンクの花が、もう片方には黒くて大きい、棘を付けた実がなっている。
ATK:100
「イービル・ソーンをリリースして効果発動! 相手に300ポイントのダメージを与える。 〈イービル・バースト〉!」
アキが宣言すると、イービル・ソーンの棘の実が弾け飛び、フレアを襲う。
「きゃ!?」
フレア LP:4000→3700
「さっきのお返しよ。 …その後、自分のデッキから2体のイービル・ソーンを攻撃表示で特殊召喚! その代わり、効果は発動出来ないわ」
先程イービル・ソーンが生えていた場所から、2体のイービル・ソーンが生えてくる。
ATK:100
ATK:100
「イービル・ソーン1体をリリース! 《ローズ・テンタクルス》をアドバンス召喚!」
イービル・ソーン1体が光の中へ消えると、その光から巨大なイカが現れた。
だがその頭部は薔薇の花になっており、10本の足も棘の鞭の様になっている。
ATK:2200
「ローズ・テンタクルスは通常攻撃に加え、相手の場の植物族の数だけさらに攻撃出来る。 貴女の場には植物族の綿毛トークンが1体。 よってこのターン、ローズ・テンタクルスは2回攻撃が可能! バトル! ローズ・テンタクルスでスカー・ウォリアーを攻撃! 【ソーン・ウィップ1】!」
ローズ・テンタクルスが鞭の様な足でスカー・ウォリアーを打つ。
だが、スカー・ウォリアーは歯を食いしばってそれに耐えた。
「スカー・ウォリアーは1ターンに一度、戦闘では破壊されない!」
フレア LP:3700→3600
「ならばもう一度! 【ソーン・ウィップ2】!」
ローズ・テンタクルスがさらにもう一撃加えると、スカー・ウォリアーはとうとう耐え切れなくなり、地に伏せて消滅する。
「スカー・ウォリアー!?」
フレア LP:3600→3500
「最後にイービル・ソーンで綿毛トークンを攻撃!」
イービル・ソーンが実に付いている棘の一部を綿毛トークンに飛ばして破壊する。
「カードを2枚伏せてターンエンド!」
LP:3400
手札:2
モンスター
・イービル・ソーン
・ローズ・テンタクルス
魔法・罠
・セット
・セット
「(流石はアキちゃん……だけど、私も負けないよ!) 私のターン!」
フレア 手札:3→4
「永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地から《ダンディライオン》を特殊召喚!」
フレアの場に現れたのは”ダンディライオン”。
ローズ・テンタクルスに対し、小さな体で必死に威嚇している。
ATK:300
「行くよ! レベル3《ダンディライオン》に、レベル3《こけコッコ》をチューニング!」
こけコッコが自身を3つの光輪へと変え、ダンディライオンを囲み、3つの光、そして光の柱へと変える。
「火を司りし獣の鍛冶師よ! 未来を切り開く神剣を鍛えよ! シンクロ召喚! 来て! 《獣神ヴァルカン》!」
光の柱から現れたのは”獣神ヴァルカン”。
場に降り立つと、ハンマーを振り回しながら雄叫びを上げる。
ATK:2000
「(ヴァルカンの効果なら!) 自身の効果により場から離れたこけコッコは除外される! そして獣神ヴァルカンの効果―――」
「イービル・ソーンをリリースし、カウンター罠《ポリノシス》を発動! 魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚・特殊召喚のどれか1つを無効にし破壊する! 《獣神ヴァルカン》の特殊召喚を無効に!」
突然イービル・ソーンが花粉を吐き出して消滅してしまう。
その花粉はフレアの場まで漂い、ヴァルカンの元まで流れると、ヴァルカンは苦しそうにもがきながらイービル・ソーンと同様に消滅してしまう。
「そんな!?」
「獣神ヴァルカン……見たことのないカードだったけど、貴女の様子からしてこの戦況を一変させるようなカードだったんじゃないかしら?」
「う…(態度に出過ぎちゃった…)」
フレアに対して笑みを見せるアキ。
フレアが強力なモンスターで反撃してくるのを見越していたのであろう。
昔のフレアならばここでうろたえてしまうところであろうが、今は違う。
すぐさま頭を切り替え、アキを見返した。
「(大丈夫、まだ”反撃の道”は途絶えてない!) ダンディライオンの効果発動! 綿毛トークン2体を生成!」
DEF:0
DEF:0
「手札から獣族を1体墓地に送り、チューナーモンスター《虚栄の大猿》を特殊召喚!」
墓地に送ったモンスター
サンライト・ユニコーン
フレアの場に現れたのは”虚栄の大猿”。
何時もなら影が大小するところだが、今回は元の大きさを保っている。
ATK:1200
「今度こそ! レベル1《綿毛トークン》2体に、レベル5《虚栄の大猿》をチューニング!」
虚栄の大猿が自身を5つの光輪へと変え、綿毛トークン達を囲み、2つの光、そして光の柱へと変える。
「荒野を駆ける雷よ! 猛き烈風を切り裂き、地平の彼方に蹄を穿て! シンクロ召喚! 轟け! 《ボルテック・バイコーン》!」
光の柱から現れたのは、黒い二角獣、”ボルテック・バイコーン”。
場に降り立つと、前足を上げて嘶いた後、蹄を鳴らし、同時に雷鳴を轟かす。
ATK:2500
「2回連続でシンクロ召喚!?」
「バトル! ボルテック・バイコーンでローズ・テンタクルスを攻撃! 【ボルテック・ツインランス】!」
ボルテック・バイコーンがローズ・テンタクルスへ向かって突進するが、触れるか触れないかという瞬間、ボルテック・バイコーンの姿が消えてしまう。
「!? どうして……」
「悪いけど、私の罠は1枚だけじゃないわ。 罠カード《シンクロ・イジェクション》を発動! 相手のシンクロモンスターを除外する! その代わり、相手は1枚ドロー出来るわ」
「……ドロー」
フレア 手札:2→3
またしても反撃をいなされてしまったフレア。
手札は悪くなかったのに、ここまで押さえ込まれてしまうとは。
幾ら強くなったとしても、流石にこれは応える。
「(強い……)」
シグナーの一人にして、デュエル・アカデミア屈指の実力を持つ決闘者”十六夜 アキ”。
フレアがシティで最初に対峙した強敵であった。
「(これが”シグナー”……そして、”シティ”の決闘者……)」
フレアの中で沈みかけた気力が再び湧き上がって来る。
ここで燃え上がってこそ、”決闘者”であろう。
フレアは墓地から2枚のカードを取り出し、ドローしたモンスターを召喚する。
「墓地から地属性モンスターを2体除外して、手札から《ギガストーン・オメガ》を特殊召喚!」
除外したカード
虚栄の大猿
柴戦士タロ
突然、フレアの後方に地を這う巨大な竜が現れ、フレアを守るように場へ乗り出した。
体はほぼ全身が岩石で覆われており、動かずにじっとしていれば岩山に見えるだろう。
先程のガリスとこのカードは出発前にクラッシュから受け取ったカードの内の2枚である。
DEF:2300
「ターンエンド!」
LP:3500
手札:2
モンスター
・ギガストーン・オメガ
魔法・罠
・リビングデッドの呼び声
・セット
「(あの展開ならがら空きになってもおかしくなかったのに、防御体勢を整えるなんてね……面白い娘!) 私のターン!」
アキ 手札:2→3
アキもフレアと同様、自分の内から湧き上がるものを感じている。
目の前の見知らぬ少女は、今まで決闘してきたアカデミア生とは明らかに違っていた。
「チューナーモンスター《
アキの場に現れたのは、黒い鎧を纏った少年騎士。
その騎士が自分の隣を手に持った剣で指し示すと、そこに大量の竹の様な植物が生え出し、絡み合って壁の様になる。
ATK:1000
「夜薔薇の騎士の効果発動! 召喚に成功した時。手札からレベル4以下の植物族を1体特殊召喚出来る! 私は手札からレベル3の《ガード・ヘッジ》を特殊召喚!」
DEF:2100
アキの場にチューナーとそれ以外の非力なモンスター。
それだけでアキが次に何をするのかが解り、そしてフレアの布陣を突破しようという気が窺える。
「レベル3《ガード・ヘッジ》に、レベル3《夜薔薇の騎士》をチューニング!」
夜薔薇の騎士が自身を3つの光輪へと変え、ガード・ヘッジを囲み、3つの光、そして光の柱へと変える。
「聖なる森に潜みし華麗なる棘の狩人よ! 戒めの鞭を持ちて今こそ姿を現せ! シンクロ召喚! 現れろ! 《スプレンディッド・ローズ》!」
光の柱から現れたのは、その名の通り華麗なる棘の戦士。
優雅に場へ降り立ち、フレアに対して構える。
ATK:2200
「シンクロ召喚!? でも攻撃力はギガストーン・オメガの守備力より低い……」
「なら、上げるまでよ。 バトル! スプレンディッド・ローズでギガストーン・オメガを攻撃!」
スプレンディッド・ローズは手に棘の鞭を出現させると、ギガストーン・オメガに打ちかかる。
「ダメージステップ時に速攻魔法《イージーチューニング》を発動! 墓地のチューナーを1体除外し、その攻撃力分だけ自分の場のモンスター1体の攻撃力をアップする! 私は墓地から攻撃力1000のチューナー《夜薔薇の騎士》を除外し、《スプレンディッド・ローズ》の攻撃力をアップ!」
ATK:2200→3200
スプレンディッド・ローズの体を3つの光輪が囲み、そのまま吸収されると、スプレンディッド・ローズは鞭をギガストーン・オメガの足に絡める。
そして、あの華奢な体のどこにそんな力があったのだろうか、そのまま引き倒して破壊してしまった。
思わぬ展開に観客達が再び沸き立つ。
「嘘!?」
「さらにスプレンディッド・ローズの効果発動! このカードが攻撃したバトルフェイズ中に自分の墓地の植物族1体をゲームから除外することで、このカードの攻撃力をエンドフェイズ時まで半分にし、もう一度攻撃を行うことが出来る! プレイヤーへ直接攻撃! 【エアリアル・ツイスト】!」
ATK:3200→1600
除外したモンスター
ガード・ヘッジ
スプレンディッド・ローズは空中へ跳び上がり、フレアに向かってドリルの様に回転しながら蹴りを放つ。
「きゃあああ!?」
フレア LP:3500→1900
「これで終わりよ! ローズ・テンタクルスで直接攻撃! 【ソーン・ウィップ】!」
「速攻魔法《非常食》を発動! 私の場の魔法・罠を好きな枚数墓地へ送り、送った枚数×1000ポイントLPを回復する! 私は《リビングデッドの呼び声》を墓地に送って1000ポイント回復する!」
フレア LP:1900→2900
フレアのLPが回復した瞬間、ローズ・テンタクルスの鞭の様な足がフレアに命中する。
「あうっ…くっ……」
フレア LP:2900→700
壁を突き抜けて襲うアキの攻撃を何とか凌ぐ。
これには観客だけでなく、審判の二人も驚いた。
「へぇ~! 押されてるけど、火野さん凄いじゃん! 十六夜さん相手にあそこまで持った人ってそうはいないよ……って、委員長どうしたの?」
小波が横を向くと、委員長がPDA生徒手帳で何かのリストを確認している。
「おかしいんです。 私はこの二人の審判を勤めることになった時、二人の決闘を入念に調べたのです。 だけど、火野さんの決闘は明らかにデータとは違います。 だから確認を……!?」
突然、委員長が固まる。
暫くしてワナワナと体を震わせ、小波に顔を向けた。
「小波さん……あそこで決闘しているのは誰ですか?」
委員長は決闘場のフレアを指差す。
「へ? 誰って……火野さんでしょ?」
「よく見なさい! 顔が全然違うでしょ! どうして顔を確かめずに連れて来たのです!?」
委員長はPDAに表示された火野の顔写真を小波に見せる。
確かに髪の色や髪型は同じだが、明らかに別人である。
「え? あれ!? 嘘!? ……あ、いやはは……実は私、人の顔覚えるの苦手でさ。 金髪と珍しい決闘盤ってだけで覚えてた……あの娘が言ってたこと、ホントだったんだ……」
小波は照れ隠しの様に笑った後、落ち込んだように肩を落とした。
「……この件に関しては、確認せずに決闘場へ立たせた私にも責任があります。 どうにかしなくては……」
「といっても、こんないい決闘途中で終わらせる訳にはいかないよ。 観客盛り上がってるし、止めさせたらきっと暴動が起こるよ? 私ならそーする」
「しかし……」
「いいじゃん委員長。 前の双子ちゃん達の時みたいにさ~見逃しちゃおうよ」
「!? 貴女何故それを……」
二人の審判が場外でもめている間にも決闘は続く。
攻撃を終えたアキはフレアの粘り強さに驚いていた。
「(まさか決まらないなんて……フフ、何だか遊星を思い出すわ)」
決闘を通して、”破壊の力”によって人々を傷つけてきた昔のアキ。
その”力”を何度も遊星にぶつけてきた。
だが遊星は何度も立ち上がり、アキが持っていた苦しみと悲しみを全て受け止めてくれた。
同じ様に諦めず何度も立ち上がるフレアに、アキは遊星と似た”何か”を感じたのである。
「(最初はただの試験だと思ってたけど……この決闘、試験よりもずっと意味がある!) ターンエンド!」
LP:3400
手札:0
モンスター
・ローズ・テンタクルス
・スプレンディッド・ローズ
魔法・罠
・無し
「私のターン!」
フレア 手札:2→3
「(このままじゃ……ううん、終わらない!) 魔法カード《貪欲な壺》を発動! 墓地のモンスター5体をデッキに戻してシャッフル! そして2枚ドロー!」
戻したカード
ダンディライオン
獣神ヴァルカン
星見獣ガリス
サンライト・ユニコーン
ギガストーン・オメガ
フレア 手札:2→4
「(!? 来た!) 魔法カード《戦士の生還》を発動! 墓地から《スカー・ウォリアー》をエクストラデッキに!」
「(? 今の状況でスカー・ウォリアーをデッキに? 何をする気なのかしら……)」
「これで私の墓地のモンスターは0! 自分の墓地にモンスターが存在しない場合、このカードを特殊召喚出来る! 来て! 《ガーディアン・エアトス》!」
フレアがカードを決闘盤に置いた瞬間、決闘場が眩い光に包まれる。
やがてこの場にいる全員が眼を開けると、そこには純白の翼を持つ女神”ガーディアン・エアトス”が現れていた。
思わぬ切り札の登場に、観客達はこれまでにない歓声を上がる。
ATK:2500
「コスト無しで最上級モンスターを……さっきのはこれが狙い! (それにしてもこのモンスター……何か……)」
アキがエアトスに対して身構える中、フレアは心の中でエアトスに呼びかける。
「(エアトス!)」
『フレア、先程は申し訳ありませんでした。 …相手はシグナーの一人。 強敵ですね』
「(うん! だからエアトス、私に力を貸して!)」
『無論です。 勝ちましょう!』
「(ええ!) 装備魔法《重力の斧-グラール》を《ガーディアン・エアトス》に装備! そして装備カードを墓地に送ってエアトスの効果発動! このカードに装備された装備魔法1枚を墓地へ送る事で、相手の墓地に存在するモンスターを3枚まで選択し、ゲームから除外する! 私は3体の《イービル・ソーン》を除外! 〈聖剣のソウル〉!」
エアトスの前に現れたグラールの斧が聖剣に変わると、エアトスはそれを手に取り、高々と掲げる。
その瞬間、アキの墓地から3つの光が飛び出し、エアトスの聖剣に吸収された。
「そして除外したモンスター1体につき、500ポイント攻撃力をアップ!」
ATK:2500→4000
「攻撃力4000!? 成る程、これが貴女の切り札なのね……」
「その通り! バトル! ガーディアン・エアトスでスプレンディッド・ローズを攻撃! 【フォビドゥン・ゴスペル】!」
エアトスがスプレンディッド・ローズに向かって光の斬撃を放つと、スプレンディッド・ローズは跡形も無く消し飛ぶ。
「くっ…!」
アキ LP:3400→2600
「バトル終了! 相手のシンクロモンスターを破壊した事により、速攻魔法《グリード・グラード》を発動! カードを2枚ドロー!」
フレア 手札:0→2
「魔法カード《地割れ》を発動! ローズ・テンタクルスを破壊!」
フレアが魔法を発動させると、ローズ・テンタクルスの足場が割れ、その中へと落ちていってしまう。
「カードを伏せてターンエンド!」
LP:700
手札:0
モンスター
・ガーディアン・エアトス
魔法・罠
・セット
形勢逆転。
まだLP差はあるものの、先程まで追い詰められていたフレアが逆にアキを追い詰める。
アキをよく知る審判の二人は特に驚いた。
「……あの娘一体何者? 制服持ってないって言ってたからうちの生徒じゃないんだろうけど」
「同世代で、アカデミア生でもないのにあの実力……アキさんも長くアカデミアを離れていましたし、学べる場所はアカデミアだけじゃない、ってことなのでしょうね……」
アキは何も無くなった自分の場を見ても動揺してはいない。
追い詰められているとは思えないほど冷静であった。
「(遊星みたいなあの娘に勝つ為には、私も遊星の様に信じればいい)」
アキはデッキに指を掛け、カードを引き抜いた。
「(私の決闘を!) 私のターン! ドロー!」
アキ 手札:0→1
「チューナーモンスター《
アキの場に現れたのは人形の様に可愛らしい小さな魔女。
杖の先で円を描くようにくるくると回し、その杖の先からは光の粒子が振り撒かれる。
ATK:1700
「黒薔薇の魔女の効果発動! 自分の場にカードが存在しない場合にこのカードが召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローする。 この効果でドローしたカードをお互いに確認し、モンスターカードではなかった場合、ドローしたカードを墓地へ送りこのカードを破壊する。 …ドロー!」
アキが引いたカード
薔薇の妖精
「引いたのは《薔薇の妖精》! よって、黒薔薇の魔女は自壊しない。 そして薔薇の妖精の効果発動! このカードが魔法・罠・モンスター効果によってデッキから手札に加わった場合、このカードを自分の場に特殊召喚する事が出来る!」
続けてアキの場に赤い薔薇の様な頭をした白い妖精が現れる。
ATK:600
「!? (これ……まさか!?)」
「レベル3《薔薇の妖精》に、レベル4《黒薔薇の魔女》をチューニング!」
黒薔薇の魔女が自身を4つの光輪へと変え、薔薇の妖精を囲み、3つの光、そして光の柱へと変える。
「冷たい炎が、世界の全てを包み込む……漆黒の花よ、開け! シンクロ召喚! 現れよ! 《ブラック・ローズ・ドラゴン》!」
光の柱から現れたのは、黒薔薇を模した巨大な竜。
花弁の様な体と翼、棘の様な尾、そして金色の眼。
これこそシグナーの五竜の1体にして、十六夜 アキの切り札”ブラック・ローズ・ドラゴン”である。
ATK:2400
「あ、あわわわ……」
フレアは”夢”で知っている。
このドラゴンの恐ろしさを。
「ブラック・ローズ・ドラゴンの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、場のカードを全て破壊出来る! 〈ブラック・ローズ・ガイル〉!」
『フ、フレア……申し訳ありません…! 後は―――』
「うう……エアトス!?」
アキが宣言すると、ブラック・ローズ・ドラゴンを中心に花弁が混ざった突風が巻き起こる。
それは全てを葬り去る破壊の風であり、フレアの伏せカード”万能地雷グレイモヤ”とエアトス、そして自分さえも消し飛ばしてしまった。
「……これが、今の私に出来る全力よ。 ターンエンド!」
LP:2600
手札:0
モンスター
・無し
魔法・罠
・無し
これでLP以外のアドバンテージは互角。
先にモンスターを召喚し、相手の布陣が整う前に止めを刺した者の勝利である。
「私のターン!」
フレア 手札:0→1
引いたカード
破邪の大剣-バオウ
「むう……ターンエンド!」
LP:600
手札:1
モンスター
・無し
魔法・罠
・無し
「私のターン! ドロー!」
アキ 手札:0→1
「……カードを伏せてターンエンド!」
LP:2600
手札:0
モンスター
・無し
魔法・罠
・セット
「(お願い…!) 私のターン! ドロー!!!」
フレア 手札:0→1
「!? 魔法カード《死者蘇生》を発動! 来て! 《ガーディアン・エアトス》!」
「ここで死者蘇生…!?」
再び場に舞い降りたエアトス。
フレアに振り返り、微笑む。
『やはり、フレアには運を呼び寄せる才があるのかもしれません』
「ありがとう! 行くよ! 装備魔法《破邪の大剣-バオウ》を《ガーディアン・エアトス》に装備! 攻撃力を500ポイントアップさせるよ!」
エアトスの目の前に禍々しくも力強い大剣が現れる。
それを手に取り、エアトスはアキに向かって勇ましく構えた。
ATK:2500→3000
「これで決まり! バトル―――」
その瞬間、この体育館に残っていた全てのソリッドビジョンが消え、開始の時と同じ様にアナウンスが鳴り響く。
時間です。 全ての決闘を終了してください。 繰り返します―――
「えええーーーーー!!?」
フレアだけでなく、多くの者が同じ声を上げただろう。
冷静なのはアキと審判達位であった。
「時間です。 LPが多かった十六夜 アキを勝者とし、試験終了とします」
「え、え、え、何で…? いいとこだったのに……」
「貴女は知らないかもしれませんが、この試験には時間制限があります。 それを超えてしまったため、今の時点で決闘を強制終了させなければならなかったのです」
委員長の手には何かのリモコンが握られている。
おそらく決闘を強制終了させる為のものだろう。
「後がつっかえてるからね~うち生徒多いし、日程上しかたないのよ。 しかもアンタ達の場合、開始前に色々やってたからね。 余計に時間無かったわよ」
小波が励ます様にフレアの肩を叩く。
「そ、そんな~……」
「じゃ、悪いけど私達次の準備があるから! あ、後間違えちゃってごめんね! 本物の火野さんには私達が何とか言っておくから! 制服は着替えた時のロッカーに入れておいてね! 最後にいい決闘をありがとーーー!!!」
「それでは……」
そう叫びながら小波は走り去り、委員長は不満そうな観客を宥めに行ってしまった。
フレアは小波の背中を複雑そうな表情で見送っていると、アキがこちらへ近づいてきた。
「お疲れ様。 お互いに納得できない結果だったけど、いい決闘だったわ」
「アキちゃん……ねえ、最後に伏せてたのって何?」
フレアがそう聞くと、アキは決闘盤に伏せられていたセットカードを取り出してフレアに見せる。
それは罠カード”聖なるバリア -ミラーフォース-”だった。
「ええ~~~ウソ~~~!!!」
「ふふ……まだ勝負は分からなかったわ。 あのまま続けてたらどっちが勝ったのかしらね?」
「うーん……分かんないからもう一回やろう!」
そう言ってフレアが笑顔で決闘盤を挙げると、アキは堪えながら笑い出す。
「ご、ごめんなさい……貴女、本当に”決闘者”なのね」
「む、むう……(何かアキちゃんに笑われると恥かしい……)」
アキは笑いを収めると、辺りを見回してからフレアの腕を引く。
「とりあえず、移動しましょう。 色々聞きたい事もあるから」
「え? うん。 じゃあ小波さんのロッカーに行こうか。 いい加減着替えたいし……」
こうして、試験を終えた二人は校舎内のロッカーへと向かう。
シティ初決闘を勝利で飾る事が出来なかったフレアだが、対戦者のアキ共々表情は明るかった。
実はこの話、予定に無かったんです(汗)
大体考えてた話を思い返してたら、双子とアキさんが一度も決闘してないのに気付きまして。 それはあんまりだなと思い、急遽考えて入れました。 なので結構無理やりな感じになってしまったかもしれません。 もしかしたら色々と変なところがあるかもしれないので、もしそういうところをみつけたら是非ご指摘ください。
因みに委員長はタッグフォースのキャラですが、小波と火野はその場の為に考えたオリキャラです。 ご了承ください。
後小波が言っていた双子ちゃん云々はタッグフォースであった龍可のイベントを元にしています。(5か6かどっちかだったかな?)