ここはアカデミアの女子更衣室。
そこのベンチに座るフレアとアキはお互いについて話し合っていた。
「やっぱり、あなたがフレアだったのね」
元のカウガール・スタイルに着替えたフレアを見て、アキは納得したように頷く。
フレアが遊星からアキについて知らされた様に、アキも遊星からフレアとフリントについて話を聞いていた。
「遊星は何時も言っていたわ。 ”あの二人がいなければ、今の俺は無かった”って。 ……ありがとう。 貴女達がいなければ、私はここにいなかったのね……」
「いやあ……私達って言うより、フリントが大きかったんだけどね。 私もアキちゃん達と同じ、フリントがいなかったら~だもん。 皆の根元にはフリントがいるの。 凄いよね、フリント。 私にとっては一番の目標よ」
「そうなの……貴女が言うんだから、本当に凄い”決闘者”なのね。 一度会って話してみたいわ」
「うん! 今度紹介する!」
そう言ってふと思い出す。
今フリント達はどうしているのか。
ゴーストを見つけられたのか、見つけられずにまだハイウェイを走り回っているのか。
「(まあ、フリントも遊星達も強いから大丈夫だよね)」
この時、フレアは噂の主がクラッシュして病院に担ぎ込まれたとは少しも思わなかった。
「さて……もう少し話していたいけど、これから下級生の授業を見るように頼まれてるから。 もう行くわ」
「あ、そうなんだ。 頑張ってね!」
フレアとアキは更衣室から出ると、お互いに握手を交わす。
「また逢いましょ。 その時は決着かしら?」
「勿論! …また逢おうね!」
そう言葉を交わし、二人は別れる。
フレアは他の試験を見ながら双子の授業が終わるのを待とうと考えたが、フリント達のことが気になり始めたので一旦ガレージへと戻る事に決めた。
アンケートを記入し、受付に提出。
再び訪れるつもりなので受付に話し、入場証を返却せずにアカデミアを出てガレージへ。
その途中でフレアを探し回っていたクロウに出会い、事を知るに至る。
……………………
………………
…………
……
…
「あの時は本当にびっくりしたのよ? まさかフリントがこけるなんて……」
「……そんな時もあるさ」
あの出来事から一ヶ月。
フリントとフレアはシティの街中を並んで歩いていた。
フレアにはゴースト事件で起こったフリントの”異常”のことは話していない。
シティへ来て胸を躍らせているフレアに余計な心配をさせたくないという、フリントの気遣いであった。
「(知らせる必要も無いだろうしな……)」
「それにしても凄いよねシティ! まだここに来て一ヶ月なのに、色んな事が起こって! ……良くない事もあったけど」
「……そうだな」
この一ヶ月、ゴースト事件以外にも多くの出来事があった。
フレアは遊星と共にアカデミアの教頭を懲らしめたり、龍可達と共に神隠しの森へ探検に行ったり、フリントはジャックと共に仕事探しをしたり、クロウ達と老人の説得をしたりと大忙し。
そんな日々を楽しんでいるフレアはともかく、フリントは早くもクラッシュ・タウンの風を懐かしく感じている。
”自分捜し”が思う様に進んでいないことも、それを強くさせていた。
「それにお店もいっぱいあるし! 今日は買い物には付き合ってくれてありがとう!」
「ガレージへ行くついでだ」
フリントは遊星に預けたあるものを取りにガレージへ行くのだという。
「何を遊星に預けてたの? それともただの忘れ物?」
「行けば分かる」
「ふ~ん……それにしても遊星は大丈夫かな? ”あんな事”があった後だし……」
フレアが言う”あんな事”とは、先日起きた”遊星誘拐事件”の事である。
王座には座らなかったが、遊星はフォーチュン・カップを制したニューキング。
それを知らぬ者はシティにはいないであろう。
それ故、翌年に開かれるWRGPの為に遊星の力を欲するチームは多い。
今までも遊星に対し、何度も勧誘があったのである。
だが遊星はジャックやクロウとの友情の為、どんな好条件を示されようとも断り続けてきた。
この事態に多くのチームが危機感を覚えた。
遊星が手に入らないだけならばそれでよい。
だがその遊星とチームを組むのが元キング”ジャック・アトラス”なのである。
元キングとはいえその実力は健在。
そしてこの二人が迎える程ならば、三人目も実力者であろう。
遊星を逃せば、新戦力を逃すだけでなく強敵まで現れてしまうのだ。
それを重く見たある企業チームが強攻策に出る。
それは遊星を誘拐し、洗脳することで自チームの手駒として扱うというものであった。
その計画はアキの手によって阻止されるものの、また新たなチームが遊星を奪おうと立ち塞がる。
復讐の女Dホイーラー”シェリー・ルブラン”。
彼女は遊星のチーム入りを掛けて遊星自身と決闘を行った。
WRGPの影に潜む、ダークシグナーとの戦いでも裏で動いていた謎の組織”イリアステル”。
その組織に家族の命を奪われたシェリーはその仇討ちの為に遊星の力を欲している。
そして彼女は遊星に”求める決闘”を―――”目的”を与えるといい、手を差し伸べた。
遊星とシェリーはスピードの風の中で激闘を繰り広げるも、その場で決着が付く事はなかった。
シェリーは遊星とアキに再会を仄めかし、去っていったという。
「……ん?」
歩いている二人の前から、見覚えのあるDホイールが3台走って来た。
遊星達である。
「あ、おーい!」
フレアが手を振るも遊星とジャックはそのまま横を通り過ぎてしまうが、クロウはすれ違い様に二人に対して軽く会釈をする。
「……何か、私なんて眼中に無い、みたいな……」
「(行き先は……ハイウェイか?) ここから俺の家は近い。 追うぞ」
「え? ちょっと待ってよ~!」
* * *
「ねえどうしたのフリント! 遊星達がどうしたの?」
フリントと共にイグニッションに乗り、彼の背に捕まっているフレアが尋ねる。
「……懐かしい陰気を感じたんでな」
「懐かしい……陰気?」
「ああ……だが、遅かったみたいだな」
フリント達がある使用中のデュエル・レーンに近づいた瞬間、聞き覚えがある声と共にレーンのデュエルモードが解除される。
「決闘は中止だ!」
声の主はジャック。
ホイール・オブ・フォーチュンを反転させ、後方で息を荒くしている遊星の隣に並ぶ。
「もう勝負は付いている! これ以上やっても無駄だ! 決闘は力が全て! 相手が誰であろうと、”シンクロモンスター”で押し切るしかないのだ!」
後ろで勝負を見ていたクロウも遊星の近くでブラック・バードを止める。
「でも奴には”シンクロ封じ”がある……シンクロモンスターを吸収されたら―――」
「それでも俺は勝つ!!!」
そう言ってジャックは走り去る。
戦いについて行けない弱者を置き去りにするように。
「ジャック……」
その背中を見送るクロウ。
そして遊星は悔しそうに腕を震わせ、歯を食いしばっていた。
それを見ていたフレアはフリントの言葉を理解する。
先程行われたであろうライディング・デュエルは、2年半前のサテライトで行われた決闘と同じ決着だったのだ。
「遊星……また悩んでるのね」
「心配するな。 遊星はまた立ち上がる。 駄目な時は……俺達がまた背を押してやればいい」
「……うん、そうだね! おーい! 二人共ー!」
フレアはイグニッションから降りると、繋がったレーンを渡って二人の元へ駆け寄る。
フリントもそれに続こうとした瞬間、鋭い視線を感じた。
その方へ顔を向けると、橋の上から何者かがこちらを見ている。
「(あれは……)」
見るとそれは男性であり、青い髪を逆立て、赤いサングラスを掛けている。
その男はフリントに気付かれると、すぐに姿を消した。
「(…?)」
遅れて遊星も向けられた視線を感じ橋へ振り向くが、そこには既に誰もいない。
そして、そのいなくなった者を見たフリントの姿も同時に消えていた。
* * *
「待て!!!」
曲がりくねったハイウェイを凄まじい速さで異形のDホイールを走らせる謎の男を、凄まじい速さで追跡するフリント。
だが男の方が一枚上手なのか、フリントはどんどん距離を離されていく。
やがて曲がり道は消え、一直線のコースとなる。
「(ここだ!)」
フリントはブースターⅠを起動させ、男との距離を縮めるが、あと少しというところで追いつけそうにない。
いや、追いつかなくてもいい。
既に男は”射程内”に入ったのだから。
「待て! 止まれ!!!」
フリントは腰から決闘銃を抜き、男に向かって
既に決闘銃の出力は最大にされており、疾走中であるにも関わらずカードは真っ直ぐに前方で走る男へと飛んでいく。
これ程の威力を出せる決闘銃を持って、過去の自分は何をしていたのだろうか。
遊星に見せても、この決闘銃についてはお手上げだという。
「!?」
男はギリギリでカードをかわすと徐々に減速し、頃合を見てブレーキをかける。
フリントも同じ様に減速し、ある程度の距離をとって男と対峙した。
「貴様、何者だ? ゴーストか? 何故あそこで俺達を見ていた?」
「……それはこちらの台詞だ。 私をここまで追跡してくるとは、君こそ何者だ?」
男が質問を返すと、フリントは男に決闘銃を向ける。
「こちらの質問が先だ。 悪いが俺はゴーストには容赦せん。 アレは……”機皇帝”はこの世にあってはならないものだ」
「ゴースト、”機皇帝”……そうか……それならば、私が聞く事はもう無い」
フリントの言葉を聞いた男はフリントに背を向ける。
「待て! こっちの話が終わっていない!」
「これだけは言っておこう。 私は君が思っている様な者ではない。 そして、私は君に構っている暇は無い。 さらばだ」
そう言って男はアクセルを踏み込み、凄まじい速さで去っていく。
撃とうと思えば何時でも撃てた。
だがフリントは撃つ気になれず、そのまま男を見逃した。
「奴は一体……」
* * *
「はあ……」
「…何回目だ。 いい加減諦めろ」
時刻は夜。
仕事を終えた二人は外灯が照らす夜道を昼間の時と同じ様に並んで歩いている。
その途中で、フレアが何回目か分からない溜息をつく。
「だって、プレミアイベントよ? 名前からして凄いじゃない。 行ってみたかったな~…」
今夜、ハイウェイの特別会場にてWRGP開催を記念するプレミアイベントが行われ、名のあるチームや決闘者が招待されるのだという。
遊星はフォーチュン・カップ優勝者として、ジャックは元キングとしてWRGP出場を見越され、それぞれに三人一組の招待状が送られていた。
「遊星、クロウ、アキちゃん、ジャック、龍亞君、龍可ちゃん……四人一組だったら私達も連れてってもらえたかもしれないのに……」
「WRGPは三人一組だから仕方ないだろう」
「うう……WRGP……それまでにDホイールとメンバー、間に合うかなぁ」
既にWRGP開催まで1年を切っている。
残りの期間内に今の仕事の稼ぎでDホイールを買えるかどうかは怪しい。
遊星に頼めば何とか出来るかもしれないが、出来れば遊星には頼りたくない。
彼等もWRGPの為に毎日Dホイールの改良や特訓に励んでいる。
それを邪魔したくはない。
それに、彼等はライバルなのだ。
彼等の力を借りずに、最高の舞台で彼等と決闘がしたい。
「せっかくシティに来たんだもん。 早く、ライディングデュエルしたいなぁ…… (ね、パパ……)」
フレアはシティの星空を見上げる。
街自体が明るいせいかあまり綺麗には見えない。
何時も見ていたクラッシュ・タウンや、一度だけ見たサテライトでの星空の方がずっと綺麗だった。
「……もう大分遅い。 早くガレージに行くぞ」
「そもそもこんな遅くに、しかも遊星達も留守なのに何で取りに行くのよ。 …ねえ、その預けてるものって何なの? 私まで付いて来いだなんて、そんなにもって帰るの大変なの?」
「今日でなければならない。 でなければ、お前にもクラッシュにもどやされるだろう」
「え? どういうこと?」
「着いたぞ」
フリント達は遊星達のガレージに到着すると、前もって伝えていたガレージの大家であり、上の時計屋の女主人である”ゾラ”からスペアの鍵を受け取る。
「来るとは聞いていたけど、こんな遅い時間に来るなんてね。 あんまり遅くまでフレアちゃんを連れまわすんじゃないよ!」
「スマンな」
「ありがとうございますゾラさん!」
ゾラはフレアに笑顔を向けてから店の中へ戻っていく。
ゾラはクロウやジャック、フリントには厳しい物言いをするが、遊星など一部の者には今の様な態度を見せる。
目上の相手や他人に対して礼儀正しいフレアはゾラに気に入られたらしい。
フリントはガレージを開けて中へ入り、明かりを付け、隅にある布が掛けられた物に近づく。
「それ……少し前からあった奴だよね? それが預け物?」
「ああ」
フリントがその布を取り去ると、白いボディのDホイールが姿を現す。
「これ……Dホイール? 誰の?」
「お前のだ」
「……え?」
フリントの言葉に、フレアは驚きのあまり思考が停止してしまう。
やがてゆっくりとフリントに間の抜けた顔を向ける。
「お前のDホイールだ。 フレームはαⅢ、エンジンはDWE-3000、CPUはミドルレンジのカスタムチップ。 …今日で17歳となるお前の為に、クラッシュがシティにある知り合いの工房に作らせた特注品だそうだ。 この日に渡すよう、クラッシュに言われていたのでな」
そう言ってフリントは懐から手紙を出してフレアに見せる。
「そっか……今日私の誕生日だ……すっかり忘れてた……」
未だに信じられないような気持ちなのか、フレアは騒ぎもせずに目の前のDホイールを見詰めている。
「かなり良いパーツを使っている。 その割には馬力は並みだが、その分操縦性が高い、扱い易いマシンだ。 ……後でクラッシュに礼の手紙を書いておけ―――」
「キャーーーーーー!!! やったぁーーーーーー!!!」
「(爆発したか……)」
体中から喜びをぶちまけたフレアは念願のDホイールに抱きつき、頬ずりを始める。
「ずっと大事にするから、よろしくね! やっと……やっとパパと私が夢見た世界に入れる!」
ずっと夢見てきたスピードの世界。
一つの目標を達成したフレアの目尻には涙が溜まっていた。
「それじゃさっそく走りに行こうね! ”ウィルダーネス”!」
「ちょっと待て、まだ走れる訳ないだろう」
Dホイールを押して外に出ようとするフレアをフリントが止める。
こんな暗い夜道で初ライディングなど危険極まりない上、フレアはまだライセンスを持っていない。
「それに何だ”ウィルダーネス”とは? そのDホイールの名前か?」
「そうよ。 カッコイイでしょ!」
「
「そういう訳じゃないけど、私の大好きな故郷だから……やっぱり変かな?」
「……いや、いいんじゃないか? 自分の相棒だ。 思い入れのある名の方がいい」
「だよね! それじゃイテキマー―――」
「待て! (俺は今日、何度”待て”と言えばいいんだ…!)」
尚もDホイールに乗ろうとするフレアを再度止めるフリント。
フレアは不満そうに振り返るが、不機嫌そうなフリントの表情を見て諦めた。
「だ、だって~…やっとDホイールが手に入ったのにすぐ乗れない何てあんまりよ~……」
気持ちが解らないフリントではないが、ゴースト事件や誘拐事件が起こった事で街の警備が厳重になっている今、真夜中のコースに飛び出したフレアが無免許運転で捕まるのは目に見えている。
一時の思いでつまらない汚点は付けさせたくはない。
「……明日、アキがライセンスを取る為に教習を受けに行くそうだ。 手続きは俺が済ましておいたから、お前も一緒に行って乗って来い」
「アキちゃんもDホイールに!? 行くいく絶対行く!!! よーし! アキちゃんと一緒に、絶対にライセンス取るぞーーー!!!」
いよいよ夢の一歩に踏み出すフレア。
昂る気持ちを抑えず、ガレージの中から夜の街に向かって大声で意気込むのであった。
無論、その後ゾラに怒られたのは言うまでもない。
うーん、ちょっと無計画すぎました(汗)
アカデミアでの午後を予定していたのですが、まったく思いつかずOTL
そのような状況の中、先の展開が頭の中で光って邪魔をする。
元々目当ては前半のアキさんとの決闘だけだったので、後半をばっさりカットして回想にしました。
完全に前回切るところ間違えたなぁ……