遊戯王5D's ~荒野のデュエリスト~   作:鬼柳高原

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第31話 スピードの世界

「……よし、調整は問題無い」

 

 朝日が差し込むガレージ内にて、遊星、クロウ、フリントの3人が赤いDホイールの前で一息つく。

 

「すまないなフリント。 手伝わせてしまって」

 

「預かり物の礼だ。 気にするな」

 

「ホントに気が利くよなフリント。 見てただけのジャックとは大違いだ」

 

「俺の仕事ではない」

 

 3人とは少し離れた位置にテーブルと椅子を並べ、そこに腰掛けているジャックは手伝いもせずに優雅な表情で紅茶を飲んでいる。

 クロウは諦めた様に溜息をついた後、何かを捜す様に辺りを見渡した。

 

「そういやアキとフレア、何時の間にかいなくなってるじゃねーか。 まだ未完成とはいえ、せっかくアキのDホイールが形になったって言うのによ」

 

「奴等ならライディング・スーツに着替えると言って2階へ行ったぞ……おかわりだ!」

 

 ジャックはカップの紅茶を飲み干し、クロウに向かってポットを突き出す。

 

「自分でやれ! ……やれやれ、すぐに乗るって訳でもねぇのに気合入ってんな」

 

 クロウが笑いながら肩をすくめる。

 今日はアキとフレアがDホイールの教習を受けに行く初日。 この教習で腕を磨き、認められれば卒業検定試験を受けられるようになり、それに合格してライセンスを修得するのだ。

 

「……待ってくれ。 フレアも”着替える”と言ってたのか? あいつはまだライディング・スーツなんか持ってないぞ」

 

 フリントの言う通り、昨日初めてDホイールに乗れることを知ったフレアがライディング・スーツを用意出来ているはずはなく、フリントも用意はしていない。 教習所ではスーツの貸し出しが行われているので、急いで用意する必要はなかったのだ。

 

「知らん。 俺はそう聞いただけだ」

 

 ジャックは渋々立ち上がり、ポットを持って2階への階段を上ろうとすると、丁度アキとフレアが2階から降りて来た。 恥じらいの色を見せるアキの姿に、4人はそれぞれの反応を見せた後、フレアに眼を移して表情を固まらせる。

 

「じゃーん! アキちゃんも私も決まってるでしょ!」

 

「自分じゃないみたい……」

 

 アキは普段のドレスの様に赤いライディング・スーツを着ていて、胸元を大きく開けていること以外はまともな服装であった。

 しかし、問題はフレア。

 今のフレアの服装は、4人にとっては懐かしく、そしてフリント以外には思い入れのある物。 ノースリーブジャケット、フィンガーレスグローブ、青いジーンズ――――フレアが着ているのは間違いなく”チーム・サティスファクション”のユニフォームであった。

 

「懐かしいでしょ! 鬼柳に作って貰ったのはもう小さくて着れないから、クラッシュ・タウンの服屋さんで新しく仕立ててもらったの!」

 

「た、確かにスーツじゃなくても動きやすい服装なら止められないだろうけどよ……本当にそれで行くのか?」

 

 クロウが微妙な表情でユニフォームを指差す。

 

「勿論! ちゃんとプロテクターも着けるから大丈夫よ!」

 

「そういう問題かよ……(それにしても俺等、昔アレ着てたのか……何かハズイな)」

 

 微妙な表情のまま若き日の自分を思い出しているクロウを横切り、フレアとアキは組み上げられたDホイールに近づいて車体を見る。 組み上げたばかりのはずだが、所々古びていてあまり性能は良さそうに見えない。 それでもアキは感激して目を見張り、自分のDホイールを見詰めていた。

 

「知り合いのジャンク屋から譲って貰った部品で組み上げてみた。 練習用に使うなら、十分だ」

 

「……! ありがとう遊星! これでライディング・デュエルのライセンスを取ってみせるわ」

 

「よかったねアキちゃん! よーし! 私達も頑張ろう!」

 

 そう言ってフレアは自分の愛機”ウィルダーネス”の車体を撫でる。 早くこのDホイールで疾走したい――――その思いを募らせる中、後ろからフリントの一言。

 

「試験ならともかく、教習でウィルダーネスを使うな。 教習所のDホイールに乗れ」

 

「えーーーー!? 何で!?」

 

「性能が良過ぎる。 それに乗って教習を受けても、性能の良さに助けられてライディング技術が上達しにくくなる。 ……ウィルダーネスに乗りたければ、それに見合う実力を見せることだな」

 

「むう……それもそうね、分かったわ」

 

 不服そうだが、納得した様子のフレア。 ウィルダーネスに再び向き直り、小さく”待っててね”と呟く。

 

「(心配するな。 あの”世界”を理解出来るお前なら、すぐにでもこいつに乗れる様になるさ……)」

 

 フリントは微笑を浮かべると、フレアと同じ様にウィルダーネスの車体を撫でた。

 

 

* * *

 

 

「ふう……これでやっとDホイールに乗れる」

 

「お疲れ。 上手く出来たかしら?」

 

 フレアがベンチに腰掛けて休息を取っていると、学生服からライディング・スーツに着替えたアキがやって来る。 

 二人は先程まで学科教習を受けていた。 内容は教習生がどの程度の知識を身に付けているか確認する為の抜き打ちテスト。 基本的な交通ルールからライディング・デュエルの知識まで出題され、これから行われる”クラス分け”の判断材料の一つとなる。

 この教習所では効率良く教習を行う為、教習生達のその時点での実力が近くなるようにクラス分けを行う。 実際にDホイールに乗せてサーキットを走らせ、先程の抜き打ちテストの結果と合わせて教習生のクラスを分けていくのである。

 

「ばっちし! 100点満点!」

 

「す、凄い自信ね……」

 

「うん! 私、絶対にDホイーラーになりたくて、子供の頃からずっと勉強してたの。 新しいルールもこっち来てから勉強したし、整備とか管理方法も全部フリントから習ったわ」

 

「成る程。 私も遅れないようにしなきゃね」

 

 アキは感心した様に頷くと、布巾を取り出して手に持っていたヘルメットを大事そうに磨き始める。 

 

「それにしても、アキちゃんもDホイーラーを目指してたなんて知らなかったよ。 やっぱりアキちゃんもWRGP?」

 

 フレアは期待の眼差しをアキに向ける。 アキがその気なら、彼女を自分のチームに誘うつもりであった。

 

「……グランプリに出る事が目的じゃないの。 私も遊星達と一緒に疾走ってみたいの。 同じ風を感じて、同じものを見たいの……」

 

 アキはヘルメットから眼を離し、快晴の空を見上げる。 その眼には自分が知らない未知の世界への期待と、遊星への確かな思いが込められていた。

 そんなアキの表情を見たフレアはアキの勧誘を諦める。 アキはWRGPに出たい訳ではないし、出ようと考えたとしても、その時アキが選ぶのは自分のチームではないと感じたからだ。

 

「……その思いがあれば大丈夫! 絶対にアキちゃんはライセンス取れるよ!」

 

「ふふ……ありがとう。 さっきは遊星達って言ったけど、勿論貴女達ともよ。 必ず、一緒にハイウェイを疾走りましょう」

 

「うん!」

 

「おいおい、ここは女が来る様な場所じゃないんだぜ?」

 

 二人が笑い合っていると、前からガラの悪い男が三人近づいて来る。 どうやらフレア達と同じ教習生のようだ。 意地の悪い笑みを浮かべ、ベンチに座っている二人を見下ろす。

 

「ライディング・デュエルは男の世界だ! お嬢さん達は家で”お人形遊び”してるのがお似合いだぜぇ?」

 

 そう言って男達は下品な笑い声を上げる。 

 フレアは顔に怒りを表し、男達を睨みながら立ち上がった。

 

「おお恐い恐い!」

 

「忠告してやったまでさ。 ライディング・デュエルは甘くねぇ。 お嬢さん方が考えてる以上になぁ。 せっかく綺麗な顔してるんだ、色々傷付いちまう前に止めとくんだな。 ハッハッハ!」

 

 男達の中のリーダー格がそう言うと、フレアは鼻で嘲笑った後、冷ややかな眼を男達に向ける。 普段の彼女からは考えられない表情だ。

 

「解ってないのはあなた達よ」

 

「……何?」

 

「いい? ライディング・デュエルって言うのはね、男も女も関係無い、”決闘者”達がお互いの全てを”スピードの世界”でぶつけ合う、真剣勝負なの!」

 

 フレアが男達に向かって力強く一歩踏み出すと、男達はあまりの気迫に押され一歩下がる。

 

「あなた達も教習生なんでしょ? 決闘するんでしょ? 決闘者なんでしょ!? なのにそんなことも解らないの? 笑っちゃうわ!」

 

「こ、この……!」

 

 リーダー格の男が顔を引きつらせるが、フレアは引くどころかさらに一歩踏み出す。

 

「あなたが語ったのはライディング・デュエルじゃないわ! 格好付けてるだけの妄想よ! あなた達こそ、今言ったことをお人形に喋らせて遊んでれば?」

 

「言わせておけばこのアマァ!」

 

 リーダー格がフレアに掴みかかろうとした瞬間、竹刀を打ちつける音と共に中年男性の怒鳴り声が聞こえて来る。 シティ教習所の名物教官の声だ。 この教習所ではクラス分けを行う際、所内放送ではなく彼が歩き回って集合を呼びかけるのがお決まりとなっているらしい。

 

「ちっ! 覚えてろよ……」

 

「くそっ……」

 

「変な格好しやがって……」

 

 遅刻すれば容赦なく竹刀がとんで来ると専らの噂なので、男達は捨て台詞を吐きながら急いで去っていく。

 

「変な格好じゃないよ……」

 

「フレア、凄かったわね……驚いたわ」

 

「ごめんね。 ちょっと頭にきちゃって……。 皆同じ”決闘者”のはずなのに、女だから認めないなんて……」

 

 フレアは頭が急激に冷めていくのを感じると、脱力した様にベンチに座る。 先程とは打って変わって、フレアの顔に悲しみが広がっていた。

 

「フレア……ああいうのには好きなだけ言わせておきなさい。 そして、見せ付けてやりましょう。 私達の思いを……ライディング・デュエルを」

 

「……うん」

 

 

* * *

 

「うわぁ~……いっぱいいるね。 これじゃあ二人が何処にいるか分かんないよ」

 

 ここは第1試験会場。 クラス分けはこの会場で行われる。

 二人の様子を見ようと会場にやってきた遊星とフリント、そして見学に来た龍亞と龍可が観客席の最前列に座り、フレアとアキを捜す。

 

「龍亞、そんなに乗り出さないの。 でも本当に沢山……ねえ遊星? こんなにいてちゃんと教習が出来るのかしら?」

 

「今回はクラス分けだ。 実力毎に少人数のグループを作り、時間と場所を分けて教習を行うようになる。 ……それにしても、今回は特に新規の教習生が多いな。 WRGPの開催が正式に発表された直後だからか?」

 

「そうだね! 皆遊星達のライバルになるかもね!」

 

「フッ……そうかもな」

 

 龍亞と龍可を相手に、普段寡黙な遊星が声を少し弾ませながら会話する。 彼と親しい者なら誰でも、今の遊星は機嫌がいいと解るであろう。 朝からずっとこの調子なのである。

 

「(遊星……やはり昨晩に何か掴んだんだな)」

 

 フリントは遊星達から聞かされた”昨晩の事件”を思い出す。

 フレアがガレージで嬉声を上げていた頃、遊星達がいたプレミアイベント会場では大変な騒動が起きていたのだ。

 最初に起こったのは暴走族人の乱入。 先程フレア達に絡んできた男達の様に自分の理念を押し付け、それに反するWRGPを潰そうとしたのである。

 暴走族人は会場内を好き勝手に荒らし回ったが、サイコ・デュエリストであるアキによって止められ、逃げる様に会場から去っていった。

 

 事態はこれにて収束したかに見えたが、まだ終わりではない。 その晩の”招かざる客”は一人だけではなかったのだ。

 

 次に現れたのは倒したはずの”ゴースト”。 暴走族人を追跡していたセキュリティが発見したとの連絡が入った。

 ゴーストは調査の結果、セキュリティが開発していた防犯用ライディング・ロイドの試作機であったことが判明している。 それを盗み出し、凶悪な決闘マシンとして改造を施す程の黒幕がいるとしたら、その手によって量産されていてもおかしくはないだろう。

 遊星達は再び現れたゴーストを倒す為、Dホイールに乗ってハイウェイに飛び出そうとしたところ、フリントが追跡したあの”赤いサングラスの男”に遭遇した。

 

「(あの男は”味方”だというのか…?)」

 

 遊星を引き止めた男は今の遊星ではゴーストに勝てないといい、それに勝つ為の戦術を決闘を通して遊星に教えると言い出したのである。 

 答えを見出せない故か、それともその男に何かを感じたのか、遊星は見ず知らずの男の誘いを受け、決闘を行った。

 結果は遊星の勝利。 だが誰がどう見ても不可解な勝利であった。

 まずは決闘中に激しい閃光が放たれ、一部不明な部分があった事。 そしてサングラスの男がわざと敗北したという事である。

 その事については遊星以外誰も知らず、遊星に聞いても――――

 

”この事については、まだ俺も理解出来ていない。 もうしばらく、一人で考えさせてくれ。 何れ必ず話す”

 

――――とだけ言った。 フリントがその時の遊星の声と表情から読み取れたのは、その決闘の中で遊星が何かを掴んだという事だけであった。

 

「(何なんだ? あの男は……)」

 

 フリントの頭から離れない謎の男の姿。 フリントはその男に対して強烈な違和感を感じていた。

 

「(奴とは初対面のはずだ。 なのに俺の奥底から湧いてくる様なこの感覚……もしや、奴も俺と何か関わりが……)」

 

「おーい! 皆ー!」

 

 フリントが一人で考え込んでいると、4人に気付いたフレアとアキが観客席の前まで走ってくる。

 

「見に来てくれたんだ!」

 

「うん! フレア姉ちゃんもアキ姉ちゃんも頑張ってね!」

 

「応援してます!」

 

 双子と共に笑い合うフレア。 その横でアキが遊星からアドバイスを受ける。 遊星のアドバイスはどれも的確なもので、アキはその一つ一つを聞き漏らさぬよう真剣な表情で頷いていた。

 

「――――こんなところだ。 落ち着いて行け」

 

「ええ。 遊星、ありがとう」

 

「流石遊星だね! ほら、フリントも何かフレアに言ってあげなよ!」

 

「……うん? ああ……」

 

 龍亞が呼びかけられてようやく二人に気が付いたフリント。 フレアはフリントの前で期待の眼差しを向けた。

 

「……前に言った通りだ。 ”スピードの世界”に委ねてしまえ。 今度は身も心もな。 そうすれば道は開ける」

 

「……え? それだけ?」

 

「も、もっとフレアさんに、遊星みたいに何かないの?」

 

 双子は拍子抜けしたような表情でフリントを見る。 フレアも同様の表情を浮かべ、とりあえずと言った感じに頷く。

 その瞬間、教習生のIDナンバーを呼ぶ声が上がった。 試験開始の合図である。 その中にはアキとフレアの番号があった。

 

「あ、いよいよね! それじゃ行ってきます!」

 

 二人は急いでサーキットに向かって走っていった。

 

「……ねえフリント。 もうちょっと何か言ってあげても良かったんじゃないの? 遊星みたいにさ」

 

 龍亞がフリントにそう言うと、フリントは何時もの仏頂面でフレアの背を見送る。 何も心配していない、何時も通りの表情だった。

 

「あいつにはあれで十分だ。 あいつは”スピードの世界”を理解している。 何も問題は無い」

 

 

* * *

 

 

「ふう……」

 

「十六夜 アキ。 お前は”B-3”クラスだ。 午後からこの会場にて教習を行う。 遅刻しないように」

 

「お疲れアキちゃん!」

 

 クラス分けが終了したアキの元にフレアが駆け寄る。

 

「ありがとう。 Bクラスになったわ。 少し慎重すぎたかしら?」

 

「そんなことないよ。 結構な人が転んだりしてたし、それが正解よ。 でも……」

 

 フレアは教習生達が走っているサーキットに眼を向ける。 ここにいる全員がライセンスを持たない初心者の為、大抵の者は出来るだけスピードを出さず、ゆっくりとサーキットを周っていた。 中には教官や他の教習生に見せ付けてやろうとスピードを出す者もいるが、大抵は第一コーナーで曲がりきれずに転んでしまう。

 

「やっぱり、Dホイールに乗るんだったら駆け抜けたいよね。 何も考えず、思いっきり!」

 

「ふふ! そうね。 でも無理はしないようにね。 ここで怪我してしまったら、意味が無いわ」

 

「うん、解ってる」

 

「次! フレア・ヴィルアース!」

 

「あ、はい!」

 

 教官に呼ばれ、前に出るフレア。 教官は資料に軽く目を通した後、試験用のDホイールを指差す。 この教官は先程の名物教官とは別の人物であり、名物教官ほど迫力は無いが長年教官職を続けてきたという威厳が感じられる。

 

「あのDホイールでこのサーキットを3週するように。 ……見ていて解っただろうが、スピードを出しすぎるな。 これは合否を決める試験ではない。 今の自分に合った走りをするように」

 

「はい」

 

 教官の言葉に頷き、フレアはDホイールに近づと各種点検を済ませてからDホイールに跨り、ヘルメットを被る。 それを見た教官は関心した様に頷き、手に持ったボードに何かを書き込む。

 エンジンを起動させながら、フレアは先程の教習生達の走りと教官の言葉を思い出す。

 

「(ライディング・デュエルは……そうじゃない。 ……疾走りたい。 私は、”スピードの世界”を駆け抜けたい!)」

 

 スタートの秒読みに合わせて、フレアの中から熱い思いが込み上げてくる。 やはり、我慢出来そうにない。

 

「(ごめんなさいアキちゃん、教官さん……私は――――疾走る!)」

 

 スタートの合図と共にフレアはアクセルを全開にして走り出す。 これには教官や他の教習生も驚いた。 スピードを出そうとした者はいたが、いきなりアクセル全開で走り出したのはフレアだけである。

 

「ス、スピードを落としなさい! それでは――――」

 

 第一コーナー近くに立っていた別の教官がすぐに通信機でフレアに呼び掛けるが、フレアは止まらない。 あっという間に第一コーナーに迫る。

 ある者は眼を背け、ある者は嗤う。 誰もがコーナーを曲がり切れず、転倒すると思ったからだ。

 遊星ですら慌てて観客席から身を乗り出している。 この場で冷静だったのはフリント位であろう。

 

「(……これが”スピードの世界”! もっと……もっと速く!)」

 

 フレアは思い切り車体を傾けると、信じられない速度でコーナーを曲がり切る。 この瞬間、会場は静まり返り、その後に一部から歓声が上がった。

 

「な、な、何が起こったの? フレア姉ちゃん曲がれたの?」

 

「フレアさん……凄い」

 

 思わず眼を背けていた双子は無事に走り続けているフレアを見て驚きと同時に安堵する。

 

「まさか曲がり切るとは……フリントはこうなる事を分かっていたのか?」

 

「言っただろう? あいつは”理解”していると」

 

 顔に驚きを表している遊星の横で、フリントは微笑を浮かべてフレアの疾走を眺めていた。

 フレアの勢いは衰えず、そのまま一週、二週とサーキットを周回し、ファイナルラップを迎える。

 

「(何? 最後? 嫌、まだ走る……まだ止まりたくない!)」

 

 そう思っている内にゴールへ迫っているフレア。 ゴールの脇で教官が手を挙げ、減速するようフレアに促す。

 

「そこまで――――おい!?」

 

 フレアはゴールラインを踏むかどうかの位置でターンバックを決めると、そのままサーキットを逆走し始める。 ゴールを踏まなきゃ走り続けてもよいとでも言いたいのか。 これには流石の教官も呆気に取られた。

 フレアの奇行に会場が騒然となる中、例の名物教官が疾走るフレアに向かって通信機を使わずに一喝。 あまりの大音量にフレアも正気を取り戻したようで、急いでDホイールを止めるとゴール前の教官の元へ走り寄り、何度も頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい! 夢中になってしまってその……Dホイールに乗れた事が嬉しくてつい……」

 

「……指示無視……減点、と。 フレア・ヴィルアース、経歴には書いていないが、Dホイール……二輪自動車の運転経験があるのか?」

 

「? いいえ、Dホイールには結構触れてきましたけど、実際に運転するのは今回が初めてです。 普通のバイクもありません」

 

 教官は再びフレアの資料を見る。 今度は軽くではなく、食い入るように。

 

「(学科テストは……満点か。 そしてさっきのテクニック……いるんだよな、稀にこういう奴が) フレア・ヴィルアース!」

 

「は、はい!?」

 

「お前は”Sクラス”だ! 午後から第3会場にて教習が行われる。 遅刻しないように」

 

「はい! ……あれ? Sクラス?」

 

 フレアが聞いていた話ではクラスはAからCまでの三つ。 Sクラスがあるとは聞いていない。 

 フレアは首を傾げながら遊星達がいる観客席へと向かう。

 

「スゲー! 凄かったよフレア姉ちゃん! 最後のアレとかどうやったの?」

 

 真っ先に出迎えたのは双子。 龍亞は興奮した様子でフレアに問い掛け、その横で龍可も同じ様子で頷く。

 

「本当に凄かったわフレア! 遊星達と比べても遜色ない程よ!」

 

「驚いた。 まさかあそこまでの技術を持っているなんてな」

 

 アキも遊星も驚いきつつ、フレアの腕を称賛する。

 

「皆ありがとう! でも……実は走ってた間のことはよく覚えてないの。 楽しかったのは覚えてるんだけど……」

 

「それはお前が”スピード”と共にあったからだ」

 

 座っていたフリントが立ち上がり、フレアの前に出る。

 

「お前は”スピードの世界”を恐れなかった。 お前はスピードの中にいることを望み、その世界はお前を受け入れた。 ……恐怖は自分の可能性を小さくする。 恐怖という”闇”は、その事を知った上で忍び寄ってくる。 お前はスピードと共にあることで、それを寄せ付けなかった」

 

「……!」

 

 今の言葉に一番の反応を示したのはフレアではなく遊星。 昨晩に彼もまた、殆ど同じ言葉を別の男から教えられていたからだ。

 

「しかし、さっきのあれは酔っていた様なものだな。 スピードと一体になる、その心地よさに我を忘れ、暴走しようとした。 ……ああは言ったが、あれは委ね過ぎだ。 気持ちは解らなくも無いが、次は気をつけろ」

 

「う……はーい。 ところで”Sクラス”って何なの? ABCの3クラスって聞いてたんだけど?」

 

「Sクラスに入ったのか? 本来、あそこは初心者には縁の無いクラスだ。 知らないのも無理も無い……成る程、確かにフレアの腕なら妥当だな」

 

 遊星がフレアにSクラスについて説明する。

 Sクラスは主にライセンス制度前のDホイーラー達の為のクラスであり、午後に軽く新ルール確認などの実技教習を受けた後、すぐに卒業検定試験を受けるという、超短期コースのクラスなのだ。 フリントや遊星達も、このクラスの卒業生である。

 

「じゃあ私、今日でライセンスを取れるのね!?」

 

「ああ、合格出来ればな」

 

「フレア、今の内に第3会場のコースを見ておいたほうがいい。 試験もあそこだからな。 それと、”ウィルダーネス”を会場前に置いてある。 午後はアレで行け」

 

 実力を見せたフレアに、フリントから愛機の使用を許される。

 フレアはウィルダーネスのキーをフリントから受け取り、満面に喜色を表すと、一目散に第1会場を飛び出した。

 

「やれやれ……俺はあいつの様子を見に行ってくる。 アキ、頑張れよ」

 

「ええ、ありがとうフリント。 ……それにしても、大分差がついてしまったわね」

 

 そう言ってフレアの背を見送るアキ。 だがその目には嫉妬や自嘲は映らず、静かな闘志だけが燃えていた。

 

「お前も”スピードの世界”を感じたのなら、追いつくことは難しくない。 それじゃあな」

 

 

* * *

 

 

「……よし。 もう教えることは無い。 その調子で試験に挑め……もう暴走したりするなよ?」

 

「あはは……ありがとうございました!」

 

 第3会場にて、先程クラス分けを担当していた教官に教習を受けていたフレア。

 ライセンス導入前のDホイーラー達は導入後、皆さっさとライセンスを取ってしまった為Sクラスは基本的にガラガラであり、今回のSクラス教習生はフレアだけであった。

 

「いよいよ試験……頑張ろうね!」

 

 フレアはウィルダーネスの点検をしながらそう声を掛ける。

 クラッシュが用意したこのDホイールの操作性は抜群であり、乗っていたフレアは先程まではありえない様な一体感を感じていた。

 

「(この子となら何処までも行ける気がする! パパ、ママ、見ててね!)」

 

 フレアは点検を終えると、試験開始まで静かに待った。

 やがて会場に何本ものトゲを生やしているような、特徴的な髪型の厳つい男性が現れ、フレアの前に立つ。

 

「お前が受験生のフレア・ヴィルアースだな? 俺の名は氷室 仁(ひむろ じん)。 ちょっと昔まではプロをやってたんだが、今ではこうして卒検の試験官の一人をやらせて貰っている。 勿論加減はしないからな。 準備が出来たらスタートラインに並べ」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 フレアと氷室はそれぞれDホイールに乗り込んだ。

 サーキットに立つ前に、フレアは観客席に座るフリントの前へとウィルダーネスを走らせる。

 

「見ててね! 絶対に勝ってくるから!」

 

「ああ。 だが気をつけろ。 氷室 仁……遊星の友だと聞く。 間違いなく強いぞ」

 

「解ってる! それじゃあ行ってきます!」

 

 フレアは再びDホイールを走らせ、氷室と同時にスタートラインに着く。

 ラインの側に立つ教官が二人の準備が完了しているのを見ると、右手を高々と上げた。

 

「負けたからと言って不合格になる訳ではない。 落ち着いて決闘を行うように。 それでは卒業検定決闘を開始する! ライディング・デュエル――――」

 

 

 

「「アクセラレーション!!!」」

 

 

 

 試験官である氷室がフィールド魔法《スピード・ワールド2》を発動させると、サーキットが”スピードの世界”に支配される。

 ライセンス修得を賭けた卒検ライディング・デュエルが今始まった。

 

「何!?」

 

 フレアは一気に氷室を引き離し、第一コーナーを曲がる。 コースで行うライディング・デュエルは先に第一コーナーを制した者が先攻となるので、この場合の先攻はフレアとなる。

 

「(まさかいきなりあれ程のスピードを出してくるとは! やるじゃねぇか!)」

 

「私のターン!」

 

 フレア 手札:5→6

 

 フレア SPC:0→1

 氷室  SPC:0→1

 

「モンスターをセット! カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

LP:4000

SPC:1

手札:3

モンスター

・セット

魔法・罠

・セット

・セット

 

「フレアはまず様子見か……」

 

「フリント!」

 

 フリントが決闘を眺めていると、龍亞と龍可が観客席にやって来る。

 

「お前達か。 アキは大丈夫なのか?」

 

「アキ姉ちゃんは遊星と特訓してるよ! だから俺達はその間にフレア姉ちゃんを応援しようと思って!」

 

「まだ始まったばかりなのね。 相手は氷室さん……フレアさん、大丈夫かしら」

 

 氷室と面識のある双子は彼が元プロであり、実力者であることを知っている。 フレアの実力を知らない龍可ではないが、やはり大きな名声と経験の差には不安を感じてしまうのであろう。

 

「俺のターン!」

 

 氷室 手札:5→6

 

 フレア SPC:1→2

 氷室  SPC:1→2

 

「《Sp-オーバー・ブースト》を発動! 自分のSPCを6つ増やし、エンドフェイズ時に1つにする!」

 

 氷室 SPC:2→8

 

 氷室のSPCが一気に増えるとDホイールが同じ様に一気に加速し、フレアとの距離を縮める。

 

「SPCが一気に!? (何をする気……?)」

 

「まずは挨拶代わりだ! フィールド魔法《スピード・ワールド2》の効果発動! SPCを4つ取り除き、手札のSpを1枚見せる事で相手に800ポイントのダメージを与える!」

 

 氷室 SPC:8→4

 

 公開したカード

 Sp-エンジェル・バトン

 

 氷室のSPCが4つ取り除かれると、氷室のDホイールから光が飛び出し、フレアに命中する。

 

「きゃ…!?」

 

 フレア LP:4000→3200

 

 効果ダメージを受けたことでよろめくフレア。

 その隙を狙って氷室がフレアを追い越し、先頭に出る。

 

「これはまだ序の口だ! 《Sp-エンジェル・バトン》を発動! SPCを4つ取り除き、カードを2枚ドロー! その後手札を1枚墓地へ送る!」

 

 氷室

 SPC:4→0

 手札:4→6→5

 

「墓地に送ったカードは《ライト・サーペント》! 手札から墓地に送られた場合、墓地から特殊召喚出来る!」

 

 氷室の場に現れたのは光り輝く蛇。 長い体をくねらせ、フレアを威嚇する。

 

 ATK:1200 レベル3

 

「ライト・サーペントをリリース! 《牛鬼》をアドバンス召喚!」

 

 ライト・サーペントが光の中へ消えると、その光の中から壺が現れ、さらにその中から牛頭の鬼が飛び出す。 下半身は壺の中に隠し、逞しい上半身だけを出してフレアに構えている。

 

 ATK:2150 レベル6

 

「さらに牛鬼をリリース! 《大牛鬼》を特殊召喚!」

 

 再び光の中へと姿を消した氷室のモンスター。 だが次に現れたのは前2体とは比べ物にならないような怪物。 巨大な蜘蛛の胴体から全身が青くなった牛鬼の上半身が生えているという、まさに”妖怪”と言えるような風貌をしていた。

 

 ATK:2600 レベル8

 

「最上級モンスター……!?」

 

「行くぞ! 大牛鬼でセットモンスターを攻撃!」

 

 大牛鬼がセットモンスターに向かって腕を振り上げ、鋭い爪の一撃を浴びせ、セットモンスター”キーマウス”を破壊する。

 

 DEF:100 レベル1

 

「キーマウスの効果発動! 戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキからレベル3以下の獣族1体を手札に加えることが出来る! 私はレベル1の《ネコマネキング》を手札に!」

 

 フレア 手札:3→4

 

「ならばこちらも大牛鬼の効果! 戦闘で相手モンスターを破壊した時、もう一度攻撃出来る! 直接攻撃だ!」

 

 大牛鬼がフレアに向かって蜘蛛の糸を吐き出すと、それがフレアやウィルダーネスに絡みつき、スピードを緩ませる。

 

「LPが……でもまだ! 罠発動《ダメージ・ゲート》! 戦闘ダメージを受けた時、自分の墓地からその数値以下の攻撃力を持つモンスター1体を特殊召喚! 来て! 《キーマウス》!」

 

 フレア LP:3200→600

 

 DEF:100

 

 フレアの場に再び戻ったキーマウス。 場ががら空になる事は防いだが、フレアは限界まで追い詰められ、ライディング・デュエルにおける”デッドライン”を超えてしまった。

 

「LPが800以下になったな。 次に俺がSW2(スピード・ワールド2)の効果を発動すれば俺の勝ちだ。 それまでに何とかしてみせるんだな! 俺はカードを2枚伏せてターンエンド! そしてこの瞬間、オーバー・ブーストの効果により俺のSPCは1となる!」

 

氷室 SPC:0→1

 

LP:4000

SPC:1

手札:1

モンスター

・大牛鬼

魔法・罠

・セット

・セット

 

「うわぁ~氷室のおっちゃん、メチャメチャ強いよ~!」

 

「フレアさん……!」

 

「流石は元プロだ。 無駄が無い。 フレアがまだライディング・デュエルに慣れていないというのもあるだろうが、1ターンでここまで追い詰められるとはな……」

 

 3人が見守る中、想像以上の猛攻を受けたフレアは動揺を体に当たる”向かい風”の中へと流し、反撃の”追い風”を吹かせる為、デッキに指を掛ける。

 

「私のターン! ドロー!」

 

 フレア 手札:4→5

 

 フレア SPC:2→3

 氷室  SPC:1→2

 

「自分の墓地にモンスターが存在しない場合、このカードを手札から特殊召喚することが出来る! 来て! 《ガーディアン・エアトス》!」

 

 フレアの頭上に光の鳥が現れ、フレアの後を追う様に飛び始めると光が風と共に剥がれ、中から聖剣の女神が現れる。

 

 ATK:2500 レベル8

 

『これがライディング・デュエル……風の中での決闘……貴女の言う通り、この中でしか感じられない”何か”がありますね、フレア』

 

「(うん! 私、今凄く楽しい! だから絶対に勝ってライセンスを貰いたいの。 力を貸してエアトス!)」

 

『ええ……勝ちましょうフレア』

 

この時、エアトスが一瞬だけフリントを一瞥したことにフレアは気が付かなかった。

 

「すっげー! あれがフレア姉ちゃんの切り札!」

 

「(あれがフレアさんが言っていた精霊……今一瞬だけこっちの方を見たような……ねえ皆――――)」

 

 エアトスがフリントに向けた視線に気が付いた龍可は何となく自分の精霊達を呼ぶ。 しかし誰も姿を現さない。

 

「(どうしたの皆? クリボン? レグルス? ……レグルス?)」

 

 龍可が必死に呼びかける中、レグルスからは僅かに反応があった。 そのレグルスがその場から離れるように伝えてくる。

 

「え……わ、分かったわ」

 

「あれ? 龍可どこ行くの? これからがいいとこなのに?」

 

「ちょ、ちょっとトイレに……」

 

 そう言って龍可はそそくさと観客席から離れていった。

 

「タイミング悪いなぁ~。 ねえねえフリント! あのカードにはどんな能力があるの?」

 

「自身に装備された装備魔法と相手の墓地モンスターを利用し、自身を強化する能力。 ……デッキ構築の相談を受けた時に、そう聞いた」

 

「成る程~! 装備魔法……って、装備魔法!? ライディング・デュエルじゃ使えないじゃん!」

 

 現在Spには通常魔法、速攻魔法、儀式魔法以外の魔法は存在せず、永続・装備魔法を使う場合はLP2000と重過ぎるコストを支払わなければならない。 

 ”永続魔法や装備魔法などはその場に留まり続けるのでSpという名前に合わない”という理由で、永続・装備のSpは創られていないのである。 

 この事については目の前にいる龍亞を含めた一部の決闘者から批判の声が上がっているのだが、イメージを大事にしたいI2社はまるで取り合ってくれないのだという。

 

「(フレアは何故、装備魔法が使えないライディング・デュエルであのカードを使う? まあ、大体の予想はつくが……)」

 

「も~! 何で装備魔法のSpを創ってくれないんだよぉ~! このままじゃ俺の”パワー・ツール・ドラゴン”がライディング・デュエルで活躍出来ないよぉ~!」

 

 フリントが考え、龍亞が駄々を捏ねている間にも決闘は続く。

 最上級モンスターであるエアトスの特殊召喚に驚いた氷室であったが、すぐに余裕のある表情に戻す。

 

「ここで最上級モンスターを出したのには驚いたぜ。 だが攻撃力は2500、大牛鬼は2600、少しばかり足りないな!」

 

「そんな差、エアトスの”力”なら! 手札のモンスターを墓地に送る事で、手札からチューナーモンスター《クイック・シンクロン》を特殊召喚!」

 

 捨てたカード

 ネコマネキング

 

 フレアの場に現れたのは”クイック・シンクロン”。 大牛鬼と勇ましく相対し、静かに腰の拳銃に手を伸ばして睨みつける。

 

 ATK:700 レベル5

 

「キーマウスとクイック・シンクロンをリリース! ユニオンモンスター《メタル化寄生生物-ルナタイト》をアドバンス召喚!」

 

 キーマウスと虚栄の大猿が光の中へと消えると、その光の中から青白い光を放つ金属生命体が現れる。 見た目は古代生物をモチーフにしているようだ。

 

 ATK:1000 レベル7

 

「ユニオンモンスター……成る程、そういうことか。 あいつらしいな」

 

「え? あのモンスターが何なの?」

 

「見れば分かる」

 

 フリントは納得したようだが、龍亞はまだ理解出来ていない様子だった。

 見るように促された龍亞がルナタイトに眼を向けると、ルナタイトの形が急に崩れて液状化。 そこから再び形が作られていくと、ルナタイトは一振りの剣へと変わる。

 エアトスはその剣を手に取り、大牛鬼に対して構えた。

 

「ルナタイトのユニオン効果発動! 自分の場のモンスターの装備カードとなる! 《ガーディアン・エアトス》に装備!」

 

「うわぁ!? あのヘンテコなモンスターが装備カードになっちゃった!?」

 

 これこそがフレアが考えたエアトスをライディング・デュエルで使う為の戦術、”ユニオンモンスター”。

 ユニオンモンスターは装備カードとなっている間はモンスターではなく、”装備魔法”として扱われる。 それを利用し、装備魔法を無闇に発動出来ないライディング・デュエルでエアトスの能力を活用できる様にしたのだ。

 だがユニオンモンスターの大半は専用カードであり、フレアの多様なカードで構築されたデッキで扱える様な汎用ユニオンは召喚に手間が掛かる最上級モンスターしかいない。 

 この戦術はエアトス(最上級モンスター)の為に最上級モンスターを扱うというかなり無理やりなものであり、これならばエアトス以外で戦術を立てた方がずっと楽で効率的なはず。

 しかし、フレアはその様な事を一切考えない。 自分が使いたい好きなカードを使う――――今回もそれを通す為に、この面倒な戦術を取ったのだ。

 

「(賢い構築とは言えないが、だからこそカードがフレアに応える……)」

 

「成る程ー! 俺もDホイーラーになったらやってみようかな!」

 

「エアトスの効果発動! 自身の装備魔法を墓地に送る事で、相手の墓地からモンスターを3体まで除外出来る! 《ライト・サーペント》と《牛鬼》を除外! 〈聖剣のソウル〉!」

 

 エアトスが月の様に光る剣を掲げると、氷室の墓地から二つの光が放たれ、剣に吸収される。

 

「墓地のモンスターを……? 何する気だ?」

 

「そしてエアトスの攻撃力を除外したモンスター1体につき500ポイントアップ!」

 

ATK:2500→3500

 

「これでエアトスの方が上! バトル! エアトスで大牛鬼を攻撃!」

 

「ちぃ! これが狙いか! だが――――」

 

 焦った様に叫んだ氷室であったが、急にニヤリと笑みで表情を歪ませた。

 

「対策は万全だ! 罠カード《聖なるバリア -ミラーフォース-》! これで返り討ちだ!」

 

 大牛鬼の前にミラーフォースが張られる。 

 氷室は優勢でも油断せず、必死になって反撃に出るであろうフレアに対して罠を張っていたのは流石元プロと言ったところ。

 だがこの時、ミラーフォース越しにフレアも笑みを浮かべていた。

 

「それは私も同じ! 伏せていた《Sp-禁じられた聖槍》を発動! SPCを一つ取り除くことで、エンドフェイズ時まで場のモンスター1体の攻撃力を800ポイントダウンさせ、このカード以外の魔法・罠の効果を受け付けなくさせる! 私が対象にするのは《ガーディアン・エアトス》! 行って! 【フォビドゥン・ランス(禁じられた聖槍)】!」

 

 フレア SPC:3→2

 

ATK:3500→2700

 

 エアトスの剣が槍に変わると、それを大牛鬼に向かって投擲する。

 槍はミラーフォースと牛鬼と蜘蛛の胴体を同時に貫き、大牛鬼をそのまま消滅させた。

 

「何だと!? ミラーフォースを読まれるとは……」

 

 氷室 LP:4000→3900

 

「カードを伏せてターンエンド!」

 

LP:600

SPC:2

手札:0

モンスター

・ガーディアン・エアトス

魔法・罠

・セット

 

「やったー! フレア姉ちゃんが逆転したぞ!」

 

「いや、まだだ。 フレアが”デッドライン”にいる事は変わらない」

 

 フリントの言う通り、未だにピンチなのはフレアの方である。

 氷室のLPは3900、それに比べてフレアのLPはたったの600であり、スピード・ワールド2の効果を受ければその時点で敗北である。

 そして運が悪いことに――――

 

「俺のターン!」

 

 氷室 手札:1→2

 

 フレア SPC:2→3

 氷室  SPC:2→3

 

 引いたカード

 Sp-地砕き

 

 ――――氷室がSpを引き当てる。

 

「(いい引きだ。 さて――――)」

 

 氷室は現在の手と場を確認する。

 手札には”Sp-地砕き”、そして下級モンスターである”暴鬼(あばき)”。 場には伏せてある永続罠”メタル・リフレクト・スライム”。 このカードは発動後に守備力3000のモンスターとなり、守備表示で特殊召喚される。

 

「(SPC3つを使い、地砕きでエアトスを破壊、暴鬼で直接攻撃を決めれば俺の勝ち。 だが――――)」

 

 氷室はフレアの場に伏せられているカードを見る。

 

「(俺の勘では、あのカードはミラーフォースの様な逆転のカード! 無闇に攻撃すれば止めを刺せないばかりかこちらが痛手を受ける。 ならば――――) モンスターをセットしてターンエンド!」

 

LP:3900

SPC:3

手札:1(Sp-地砕き)

モンスター

・セット(暴鬼)

魔法・罠

・セット(メタル・リフレクト・スライム)

 

 氷室は無理はせず、次のターンにSW2のバーン効果による確実な手段を取った。

 実際、氷室にはフレアのターンを防ぎきる自信がある。

 

「(引いたカードがモンスターかモンスター除去ならば問題なく止められる。 魔法・罠除去でも問題ない。 そして俺には大量のLPが残っている。 万全だ! 来いフレア・ヴィルアース!)」

 

「私のターン!」

 

 フレア 手札:0→1

 

 フレア SPC:3→4

 氷室  SPC:3→4

 

「(お願い! 私のデッキ……) 罠カード《無謀な欲張り》を発動! この先2ターン自分のドローフェイズをスキップする代わりに2枚ドロー!」

 

 フレア 手札:1→3

 

「(読み違えた!? しかもドローソース……だが手札が増えようと簡単には突破出来んぞ!)」

 

「《Sp-オーバー・ブースト》を発動! 自分のSPCを6つ増やす!」

 

 フレア SPC:4→10

 

 フレアが発動したのは氷室も使用していた”Sp-オーバー・ブースト”。

 SPCの増加と共にウィルダーネスも加速し、空いていた氷室との距離が縮まる。

 

「(SPC10……SW2の破壊効果か?)」

 

 SW2にはSPCを4つ取り除いてダメージを与える効果以外にも、7つ取り除いて1枚ドロー、10つ取り除いてカードを1枚破壊するという2つの効果を持つ。

 フレアは10の破壊効果を使って布陣を突破しようとしているのではないかと、氷室は考えた。

 

「(だとしても壊されるのは壁1枚だ。 まだ届かん!)」

 

「《Sp-デッド・シンクロン》を発動! SPCが5つ以上ある時、自分の墓地からチューナーとチューナー以外のモンスターを除外し、墓地からシンクロ召喚出来る! 私は墓地のレベル1《ネコマネキング》に、レベル5《クイック・シンクロン》をチューニング!」

 

 突然フレアの場に大きな招き猫とクイック・シンクロンが現れ、クイック・シンクロンが5つの光輪へと姿を変えると、ネコマネキングを囲み、1つの光、そして光の柱へと変える。

 

「荒野に生まれし螺旋の槍よ! 大地を砕き、天穹を貫け! シンクロ召喚! 破砕の戦士!  《ドリル・ウォリアー》!」

 

 光の柱から現れたのはフレアのエースモンスター”ドリル・ウォリアー”。  勇ましい掛け声と共に右腕のドリルを回転させる。 フレアにはエアトスという最愛のパートナーが出来たが、新しいシンクロ口上を考えているあたり、このモンスターに対するフレアの信頼は変わっていない。

 

 ATK:2400 レベル6

 

「墓地からシンクロ召喚だと!?」

 

 思わぬ展開に焦りを見せる氷室。 土壇場で万全の布陣を破られる――――以前それを経験した事がある氷室は嫌な予感を感じ始めていた。

 

「ここでフィールド魔法《スピード・ワールド2》の効果発動! SPCを4つ取り除き、手札のSpを1枚見せる事で相手に800ポイントのダメージを与える! 私はSPCを8つ取り除き、手札のSp1枚を2回見せて1600ポイントのダメージを与える!」

 

 フレア SPC:10→2

 

 見せたカード

 Sp-スター・フォース

 

 ウィルダーネスから二つの光が飛び出し、氷室に命中する。

 

「ぐおお!? (破壊ではなくダメージだと!?)」

 

 氷室 LP:3900→2300

 

 大きくダメージを受けた氷室はよろめき、その隙にフレアが横から追い抜く。 その時、氷室がヘルメット越しに見たフレアの横顔には笑みが浮かんでいた。

 

「(来る!? 間違いなく……!)」

 

「ドリル・ウォリアーの効果発動! メインフェイズ時に攻撃力を半分にすることで、このターンこのカードは直接攻撃が出来る!」

 

 ATK:2400→1200

 

「エアトス! ドリル・ウォリアーに力を貸して! 《Sp-スター・フォース》を発動! SPCが2つ以上存在する場合、自分の場のモンスター1体を除外し、自分の場のモンスター1体の攻撃力を除外したモンスターのレベル×200ポイントアップする! 除外するのはレベル8の《ガーディアン・エアトス》! よってドリル・ウォリアーの攻撃力は1600ポイントアップ!」

 

『分かりました。 ……フレアを守る大地の戦士よ。 貴方に”力”を……!』

 

 エアトスが光輝き、8つの光球へ姿を変えると、光球はエアトスの能力〈聖剣のソウル〉の様に全てドリル・ウォリアーのドリルへと吸収される。

 

 ATK:1200→2800

 

「攻撃力2800の……直接攻撃だとぉ!?」

 

「バトル! ドリル・ウォリアーで直接攻撃! 【フォビドゥン・ロンド】!」

 

 ドリル・ウォリアーが氷室に狙いを付け、光り輝くドリルを発射。 ドリルは氷室の場を飛び越え、狂い無く氷室を貫いた。

 

「ぐおぉぉぉ!?」

 

 氷室 LP:2300→0

 

 決闘が終了し、ソリッド・ビジョンが消え、敗者である氷室のDホイールが蒸気を出して強制的に停止する。

 フレアもDホイールを止めてヘルメットを脱ぐと、教官がフレアの元へ走り寄って来る。

 

「見事な決闘だった。 Spも新ルールも見事に使いこなしていたな。 これは間違いなく合格だ。 おめでとう」

 

「! あ、ありがとうございます!」

 

 フレアはウィルダーネスから降りて勢いよく頭を下げた。

 そこへ氷室がヘルメットを抱えながら歩いてくる。

 

「よお、いい決闘だったぜ。 まさか突破してくるなんてな」

 

 そう言って氷室は1枚のカードを見せる。 手札にあった”Sp-地砕き”であった。

 

「あの時これを使って攻め込めば俺の勝ちだったんだが、俺はお前を警戒しすぎて踏み込めず、安全策に走っちまった。 ミラーフォースの時といい、この決闘は完全に俺の読み負けだ」

 

「氷室さん……この決闘、とっても楽しかったです! ありがとうございました!」

 

「ああ、こちらこそだ。 遊星によろしくな。 それじゃあな」

 

 氷室はちらりと観客席にいる龍亞に眼を向けた後、Dホイールを押しながら去っていった。

 

「いやぁ~フレア姉ちゃんも氷室のおっちゃんも凄かったね!」

 

「あ! もう終わっちゃってる……」

 

 龍亞が満足したような表情でいると、ようやく龍可が戻ってきた。

 

「あ、龍可! 遅いよ! もう終わっちゃったよ!」

 

「ご、ごめん……でもフレアさん、勝ったみたいね。 よかった……」

 

 サーキットで教官と嬉しそうに話をしているフレアを見て、龍可は安堵の息を洩らす。 やがて話を終えたのか、笑顔を浮かべたフレアが観客席へと駆けて来る。

 

「さて……新しいDホイーラーを迎えてやろう」

 

 そう言ってフリントは立ち上がり、フレアの方へと歩いて行く。

 

「うん! 行こう龍可!」

 

「う、うん……」

 

 龍亞が龍可を促すと、龍可は複雑そうな表情でフリントを見ながら頷く。

 

「? フリントがどうかしたの龍可?」

 

「!? ううん、何でもない! 行こう龍亞」

 

 龍可は歩きながらフリントの背を暫く見詰めた後、首を横に振る。

 

「(大丈夫、フレアさんのヒーローで、一番信じてる人だもの。 私も信じなきゃ!)」

 

 龍可は龍亞の後に続き、笑顔でフレアを迎える。 龍可はフリントに何を思ったのだろうか。 龍可はその事を一旦胸にしまい、今は兄と共に新たなるDホイーラーの誕生を喜ぶのであった。

 




ミラーフォース大好きな常識人氷室ちゃん。
WRGP編じゃなにやってたんだろう? WCSじゃダイモンで暮らしてたけど。

やっとまともなライディング・デュエルです。
教習所は大体アニメの設定にオリジナルを加えたもの。 ルールはWCS、Spもゲームに出てるものは全てゲーム基準です。

ちょっと勉強して、書き方を変えてみました。
変だったらご指摘をお願いします。
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