フレアがライセンスを取ってから一ヶ月。その間に”表と裏”の大事件が起こっていた。
表はDホイール窃盗団事件。セキュリティ隊員”
裏は少年ゴースト襲撃事件。これはデュエル・アカデミアの龍亞と龍可が所属する小等部クラスに転校してきた”ルチアーノ”という少年が機皇帝を操り、二人を襲撃した事件である。
彼等は”デュエル・ボード”というライディング・デュエルを行える小型モーメント搭載スケートボードで決闘を行い、二人はルチアーノに敗北するも”赤き竜”と”精霊達”の力によって無事に生還した。
この決闘の後、特にフリントが熱心に姿を消したルチアーノについての捜索を行ったが、ルチアーノの住処は消滅し、彼に関する龍亞達のクラスメートの記憶や決闘の記録さえ無くなっているという、正に”ルチアーノ”の存在自体が消えてしまったのである。
遊星達やフリントはルチアーノをゴーストの仲間だと判断。フリントは彼が操る”機皇帝スキエル∞”を含める機皇帝2体の行方を追う為、日々情報収集を行っている。
「はあ……」
襲撃事件の当事者である龍可は遊星達のガレージ2階にあるソファーに座りながら溜息を付いた。自分の前で龍亞とテーブルにカードを並べて決闘をしているフレアを見ながら、一ヶ月前の事を思い出す。
…
……
…………
………………
……………………
レグルスの声に従い、観客席を抜け出した龍可。 フリント達から離れに離れ、とうとう会場の外へと出てしまう。
龍可が出来るだけ人通りが少ない場所に入ると、龍可の前にクリボンとレグルスが現れた。
「龍可、申し訳ありません。出来るだけあの者から離れたかったのです」
「クリリー……」
「レグルス、あの者ってフリントさんのこと? フリントさんに何があったの?」
龍可は不安そうに尋ねる。
龍可がフリントに会ったのはこれで二度目。その時は偶然デッキを持ち歩いていなかったので、精霊達がフリントに対してこの様な反応を取るとは知らなかった。
「龍可、あの者に近づいてはならない」
「え!? どうして?」
レグルスは真剣な表情で会場を見詰めた後、俯き、意を決した様に口を開く。
「正確にはあの者ではなく、”あの者と共にあるもの”……ガーディアン・エアトスもそれに気付いていたのだろう」
「共にあるもの……それって精霊のこと?」
「いや……そんな生易しい存在ではない。私は……私は潜みながらもあれ程の”威”を放つ存在を感じたことが無い! 情けないことだが……恐怖すら感じる」
「レグルスがそこまで!? 一体それって……まさか!?」
超魔神イド、猿魔王ゼーマン、地縛神――――龍可は自分が考えられる”恐怖”を思い浮かべる。全てに共通していることは”邪悪なる存在”だということだった。
「いや、聖邪も何もない。とにかく強大な”力”……その様なものの近くにいては危険だ! 関わらない方がいい!」
「でもレグルス……それはフリントさんと一緒にいるんでしょう? 私は……フリントさんを信じたい。フリントさんとならきっと危険な事にはならないと思うの!」
「……その根拠は?」
「だって……フレアさんが信じる人だもの! フレアさんに背中を預けたレグルスなら解るでしょ?」
龍可にそう言われ、レグルスは少し俯く。彼も龍可と同様、戦友の友を信じたいという気持ちがあるのだろう。
「……私は、龍可を守るだけです。龍可の判断に任せましょう」
そう言ってレグルスは姿を消す。クリボンも空気を変えようと明るく振舞ってから同じ様に姿を消した。
「…………」
……………………
………………
…………
……
…
信じたいとは言ったものの、せっかくダークシグナーとの戦いが終わったというところで、数々の事件の重なりやゴーストという新たな脅威が登場すれば、嫌でも不安になってしまう。
「(駄目、こんな事でどうするの私! 信じなきゃ! 大丈夫よ! 何が起こっても龍亞やフレアさん、遊星達やフリントさんと一緒に乗り越えられるわ!)」
龍可は不安を振り払うように頭を左右に激しく振る。
「ど、どうしたの龍可ちゃん!?」
その時、ちょうど視線を龍可に向けたフレアは龍可の様子に驚いた。
「あ、いや、あの、あ! もうこんな時間!」
「あ、本当だ。 じゃあ今日はここまでね」
「えー? まだやろうよ~」
「我侭言わないの。 あんまり遅いとセキュリティに注意されちゃうんだから。 最近厳しくなったってマリア先生言ってたでしょ? ……それじゃあフレアさん。 今日はこれで失礼しますね」
「うん。 気をつけてね! バイバイ!」
龍可は龍亞を引っ張って階段を下りていくと、薄暗くなった街の中を歩いて帰っていく。
「ふう……一人になっちゃったな~」
現在このガレージに住む3人の住人達は出かけていて姿が見えない。
何でも牛尾と深影が3人を高級レストランのディナーに誘いたいということで、普段は節約の為に碌な食事をしていないクロウは喜んで、遊星とジャックは急な好意を訝しみつつ、高級レストランへと向かっていったのだ。
偶然そこへ居合わせたフレアと双子は遊んでいくついでに留守番を任されたのである。
それから暫くして、フレアはソファーに寝転がってウトウトしていると、1階からガレージのシャッターが開く音が聞こえて来る。
「(あ、帰ってきたかな?)」
フレアが出迎えようと眠たい目を擦りながら立ち上がると、今度は何かを地面に投げ捨てる音と共に、怯えた様な男性の声が聞こえて来る。
「うわぁ!? 止めてください! 暴力反対!」
「おいジャック! どうしたんだよ急に!」
続けて聞こえてきたのはクロウの声。どうやら先程の声の男性に暴力を振るっているのはジャックらしい。
「さあ吐け! 俺のホイール・オブ・フォーチュンに何をした!」
「どういう事だジャック?」
今度は遊星の声。 どうやらジャック以外は状況を掴めていないようだ。
「ホイール・オブ・フォーチュンのパワーが上がっている」
「何だと!?」
「そのDホイールのコンピュータのデータをちょっと調整しただけなんだよ……」
フレアは階段の上からその様子をちらりと見ると、見たことの無い青髪の青年がジャックに対して膝をつき、祈る様にして指を組み合わせている。何だか怯え過ぎていて少し情けない。
「んな馬鹿な!? 遊星が俺達のDホイールのパワーを上げるのに、あんだけ手こずってるってのに!? ……こいつがそれを短時間でやったってのか?」
クロウは信じられないといった視線を不安そうな表情の青年に向ける。階段の影でフレアも同じ視線を送る。
「そうとしか考えられん!」
「……どうやったのか、教えてくれないか?」
遊星が青年の肩に両手を乗せると、優しい声でそう頼む。
現在、遊星はニューエンジン開発が思う様に進まず、行き詰まりを感じていた。
そんな中、遊星はこの青年のDホイールに関する技術や知識に何か突破口があるのではないかと見たのである。
「う、うん! 喜んで!」
青年は遊星の様子に安堵したのか、表情を明るくして立ち上がる。立ち上がったその姿は意外にもかなりの長身であり、髪を入れなければジャックを凌ぐ程。2メートル近くはありそうだった。
特に隠れてる必要も無いと感じたフレアは階段を下りて近くにいたジャックに声を掛ける。
「えーと……お帰りなさい。その人誰?」
「ん? 何だフレア、いたのか。……治安維持局に預けられた風来坊だ」
青年の名は”ブルーノ”。身元一切不明の記憶喪失者であり、昨日シティの海岸に打ち上げられていたところをセキュリティに保護された。 本人が覚えていたのは決闘とDホイールのことのみであり、それら以外のことはまったく思い出せないらしい。
何故ブルーノがここへ来たのかというと、現在シティは目覚しい発展を遂げ、WRGPも控えているという事で街には多くの移住者や観光客で溢れかえっており、そのせいでブルーノを受け入れてくれる施設がまったく無いのだという。
ブルーノの対処に困り果てたセキュリティの牛尾と深影は遊星達に相談し、彼の面倒を見てくれるように頼み込んだ。
しかし、幾ら遊星達でもそんな虫がいい話を受けるはずが無かった。彼等にもやる事がある上、これ以上人を養う余裕も無い。必死に頼み込む牛尾と深影に断るの3連コンボを決めて三人が帰ろうとしたところ、ジャックのホイール・オブ・フォーチュンを勝手に弄繰り回しているブルーノを発見し、一騒ぎあった後ジャックが彼を攫い、今に至る。
「初めましてブルーノ。私の名前はフレア・ヴィルアース。フレアって呼んでね! それにしても、記憶喪失……」
「ん? ああ、そういやいたな。同じ境遇の奴が」
クロウがふと思い出したという風に自分の顎を撫でる。
「同じ? どういうことだい?」
「私達の仲間にね、あなたと同じ記憶喪失の人がいるの」
フレアはブルーノにフリントについて話す。記憶を失い、名前と決闘に関すること以外を忘れている、強くて格好いい決闘者。
「へぇ、何だか親近感が湧くなぁ。その人に会ってみたいね」
「明日にでも連れて来るよ!」
* * *
ブルーノは凄まじい技術者だった。
遊星が抱えていたエンジン開発の問題を一晩で全て解決させてしまったのである。
これをきっかけに遊星はブルーノに大きく信頼を寄せ、彼にエンジン開発の助力を正式に依頼した。
「本当に凄いのよ! 話は全然解らなかったけど!」
「そうか……」
フレアは昨日の約束通りフリントをブルーノに紹介する為、遊星達のガレージへ再び向かっていた。
「でもジャックやクロウは何か面白くなさそうにしてるのよね。あんなに凄いのに何でだろう?」
「(それはそうだろう……)」
本来ならば、幼馴染で共に戦っていく自分達が遊星を助けていかなければならなかった。最近ではその事について深く考える様になってきたのである。そこへぽっと出の見知らぬ男が入り込み、すぐさま遊星の信頼を得て自分達が立てなかったポジションについてしまった。面白いはずはない。力になれない自分達への苛立ちもあるのだろう。
「お邪魔しまーす! フリント連れて来たよ! あ、アキちゃん!」
フレアがガレージ内に入ると、本の束を持ったアキが歩いてくる。
「フレア……こんにちは。 悪いけどもう帰るわね」
「え……? あ、うん……またね」
アキはフレアとフリントの横を通り抜け、帰っていってしまった。
「アキちゃん、どうしたんだろう? ちょっと怒ってたね」
「……大方、例の新入りが原因なんじゃないか? 遊星が入れ込んでいるんだろ?」
「そ、そんなことないよ! あ、でも……アキちゃん遊星大好きだし……ちょっと言ってやろ」
フレアはフリントを連れて階段を上がる。 2階には龍亞と龍可、ジャックとクロウ、そして昨晩から相変わらず自分達の世界を作り上げている遊星とブルーノがいた。前の4人に挨拶してから、フレアは遊星達を呼びかける。
「遊星!」
「うん? フレアにフリントか。今忙しいんだ。用があるなら一段落するまで待っててくれ。ブルーノ、ここが……」
「……成る程ね。こりゃ怒るよアキちゃん。……遊星! 悪いけど、こっちは先約なの! ブルーノにフリント紹介するって、遊星がブルーノとエンジン作るって話す前に約束したんだから!」
「え? フリントが来たのかい?」
フレアの言葉に反応し、ブルーノが作業を中断して立ち上がり、フリントの前に出る。どうやら彼はフリントに会うことを楽しみにしていたらしい。
「初めまして、僕はブルーノ! 君のことはフレア達から聞いていたよ。お互いに大変だけど、頑張って行こう! よろしくね!」
そう言ってブルーノは左手を差し出す。どうやら彼は左利きのようだ。だがフリントは何時までたっても握手に応じようとしない。
「? ちょっとフリント、何してるの? 早く握手……」
フレアがフリントの顔を見ると、フリントは呆然とした表情でブルーノを見ている。そして、ようやく口を開き、呟く様に一言――――
「……ジョニー」
「え? 何? 何て言ったの?」
「!? い、いや……俺は……何て……?」
無意識に口から出た人名に動揺するフリント。それが何なのかは自分でも解らない。
「ど、どうしたの? 大丈夫かい?」
左手を出したままブルーノが心配そうに声を掛けるが、フリントは聞かずに顔を俯かせる。
「(どういうことだ……俺は今何と言った?)」
「ほ、本当に大丈夫? もしかして僕、変なこと言っちゃったかな?」
「フリント!」
「! い、いや……すまないブルーノ、大丈夫だ」
フレアが大声でフリントを呼ぶと、フリントはようやく落ち着きを取り戻し、ブルーノの握手に応じる。
「ブルーノ……お前とは何か縁を感じる。こちらこそ、よろしくな」
「もう! フリントったら、きっと寝不足ね。ずっと調べてるんでしょ? ゴーストの事」
「ああ……そうかもな」
「よく解らないけど、無理は駄目だよ? それじゃあ僕は作業に戻るね」
そう言って遊星の元へ戻っていったブルーノの背を、フリントは暫く見詰めていた。彼が何者なのか、それを探る様に。
* * *
「どういう事だ! データが盗まれただと!?」
数日後、今までのものと違って危険は無いが、遊星達にとっては今後に関わる重大な損失を受ける事件が起こった。
ブルーノの協力を得てようやく完成させた新型エンジンのプログラムデータを全て盗まれてしまったのである。
「迂闊だった……少なくともバックアップは取っておくべきだった……!」
遊星が表情を歪めながら呟く。
ここ数日、不眠不休で作業してようやく完成させた念願のニューエンジンプログラムだったのだ。その悔しさは相当なものであろう。
現時刻は朝の9時。フレアとフリントがガレージへやってきたのをきっかけに遊星とブルーノが起床、二人が身支度を済ませてパソコンへと向かい、データチェックをしようとしたところ、今回の事件が発覚したのである。
「僕も遊星もクタクタだったんだ。仕方ないよ……」
ブルーノが遊星を慰めると、ジャックがブルーノの胸倉を掴みあげる。
「貴様が犯人か! 最初から怪しいと思っていた!」
「ち、違うよ!? 僕じゃない!」
「待つんだジャック!」
遊星がジャックとブルーノの間に入ってジャックを抑える。
「止めるな遊星! 今こいつの正体を暴いてやる!」
「待ってよジャック! ブルーノは記憶喪失なのよ? 正体なんて、ブルーノ自身だって解らないんだから! 泥棒なんてしないよ!」
「そんなもの演技に決まっているだろう!」
ジャックが凄みを出してフレアを睨みつけるが、昔程の威厳を持たない穀潰しの睨み位でフレアは怯まない。フレアは逆に詰め寄り、ブルーノを掴んでいるジャックの腕を掴んだ。
「記憶が無いって事はね、とても心細い事なのよ! 周りは勿論、自分さえ解らないんだから! そんな状態で何処にも受け入れて貰えなかったブルーノにとって、あなた達はやっとできた仲間なのよ? ……信じてあげようよ」
「フレア……」
同じ境遇の者をずっと近くで見てきたからか、フレアはブルーノに同情を寄せる。ブルーノは感動した様にフレアを見詰めるが、ジャックはまだ納得できていないようだった。
それを見たクロウも遊星やフレアと同じ様に二人の間に入る。
「そこまでにしとけジャック。俺もフレアの言う通りだと思うぜ?」
「クロウ! 貴様もこいつの肩を持つのか!」
「肩を持つも何も、こいつが犯人ならデータを盗んだ後にとっとと逃げてるだろ? 現場にノコノコ残ってる犯人なんているかよ」
「そ、それはそうだが……」
「ジャック、俺からも頼む。ブルーノは……そんな奴じゃない。根拠は無いが、何となくそう思う……」
フリントもジャックの前に立ってブルーノを弁護する。
孤立無援となったジャックは気に入らない様子でブルーノを突き放した。
ブルーノによると、あれ程のエンジンデータを作り直すのはまず不可能であるとのこと。つまり、最高傑作のエンジンデータを諦めるか、犯人から取り戻すか、そのどちらかしか道は無い。
あのエンジンデータを諦めてしまえば、費やしてきた多くの時間を無駄にすることとなる。遊星達は絶対に諦めたくない。ならば盗んだ犯人から取り戻すしかない。幸いその犯人は完璧に見えて何処か抜けているらしく、ブルーノが意外な場所からあっさり指紋を発見。遊星達はこれを元に犯人を特定し、エンジンデータを取り返すことにした。
「本当にやるつもりなのか遊星?」
「ああ。この指紋をセキュリティのデータベースに照会すれば、犯人を特定できる」
遊星はブルーノと共にパソコンの前に座り、凄まじい速さでキーボードを叩く。そんな二人の作業をジャックは厳しい表情で見ていた。
「だがセキュリティのデータベースは頑丈なファイヤーウォールに守られている。ハッキングして逆探されれば、俺達が捕まるぞ」
「ハッキングする回線を世界中のサーバーで中継すれば7、8分は稼げる。ブルーノ、8分で突破できるか?」
「まあ、何とかなるかも」
ブルーノがそう言うと、遊星はジャックに振り向く。
「どうする? やめるかジャック?」
「……ええい! このジャック・アトラスの命運は貴様等に預けるッ!」
心配するジャックに対して遊星が確認をとると、ジャックは自棄になった様に腕を組んでそっぽを向く。
ジャックの言葉を聞いたブルーノは微笑を浮かべながらジャックに振り向く。さっきまで疑われていた相手に大事を任されたことが嬉しかったのだろう。
「失敗しても殴らないでよ?」
「殴るに決まっている!」
ジャックのあんまりな言葉を気にせず、ブルーノは真剣な表情を画面に向け、キーボードを
打ち始める。
「よーし、行くよ! アクセス開始!」
ブルーノがセキュリティのデータベースのハッキングを始めると、突然小さな警告音が鳴る。
「逆探が開始された。いけるか?」
「どうってことなさそう。シンプルなシステムだし」
ブルーノの真剣な顔に余裕が表れる。彼にとっては本当のどうってことない作業なのだろう。
「よく解らないが……」
「何か、とんでもねぇみてぇだぜ、こいつ……」
後ろで見ていたジャックは唸り、クロウも驚いた様子を見せる。ようやく彼等もブルーノを優れた技術者だと認め始めた。
「ブルーノ、凄い……ねえフリント?」
「ああ……」
フレアも彼の見事な手際を驚きながら見詰めている。ただフリントは驚きながらも相変わらず探りの視線をブルーノに送っていた。
「ようし、次を突破すればデータベースだ!」
ブルーノがセキュリティシステムの迷宮を突破すると、そこに表示されたのは決闘フィールド。お互いの場には何枚かのカードが置かれており、対戦相手側の奥にはロックが掛かった扉が見える。
「おい、何だこれ? 急に決闘画面が出てきたぞ?」
クロウが訝しげに画面を見ていると、気になったフレアが画面に向かって身を乗り出す。
「! これ”詰め決闘”よ」
「確かに、これは詰め決闘だ」
フレアの言葉に頷く遊星。
どうやらセキュリティは最後のパスワードに詰め決闘を使っているらしい。
「残り時間……7分」
「その時間内にこれ解けって言うのかよ……」
クロウが面倒そうに顔を顰める中、ブルーノはその画面を見ながら再び真剣な表情を浮かべていた。
「画面の状況は――――」
プレイヤー
LP:100
手札:6
・強制転移
・大嵐
・ならず者傭兵部隊
・異次元の戦士
・魔法石の採掘
・稲妻の剣
モンスター
・鉄の騎士 ギア・フリード(ATK:1800 攻撃表示)
魔法・罠(全てセット)
・召喚制限-猛突するモンスター
・ボーン・テンプル・ブロック
・あまのじゃくの呪い
・愚鈍の斧
墓地
・サイレント・ソードマン LV3
・地砕き
相手
LP:1800
手札
・無し
モンスター
・虚無の統括者(ATK:2500 攻撃表示)
魔法・罠
・セット
・セット
・セット
・セット
・マクロコスモス(発動済み)
墓地
・古代の機械騎士
・鉄の騎士 ギア・フリード
「”このターン中に勝利せよ”、か……」
クロウは画面に表示された文を読み上げニヤリと笑う。
「こうなると、相手の場の伏せカードが曲者だな。幾ら何でも多すぎる」
遊星が訝しげに相手の場を睨むと、クロウが意気揚々とブルーノに近づく。
「要するに、このターンで相手のLPを0にすればいいんだな? よーし解ったぁ! 俺に任せろ!」
クロウはブルーノを退かすと椅子に座り、画面上に決闘場へ立つ自分の分身データを出現させる。それはSD化したクロウ自身であり、中々可愛らしい。
「(これとこれがあれば楽勝だ!) まずはこいつだ! 《ならず者傭兵部隊》を召喚!」
クロウの場にガラの悪い武装集団が現れる。
ATK:1000
「効果発動! こいつをリリースすることで、相手のモンスター1体を破壊するぜ! 《
クロウの場のならず者傭兵部隊が消滅すると、相手の場の白いマントを身に付けている男、”虚無の統括者”が同様に消滅する。
「さあて、これで俺の場にいるギア・フリードで攻撃すりゃ終わりだが……そんな罠に引っ掛かるクロウ様じゃねーぜ! 魔法カード《大嵐》を発動! 場の魔法・罠を全て破壊する! 罠なんか一掃してやるぜ!」
クロウの場を中心に突風が吹き荒れると、まずはクロウの場の魔法・罠を吹き飛ばし、次に相手の場のカードを吹き飛ばそうとする。
破壊したカード
聖なるバリア -ミラーフォース-
マクロコスモス
「おっしゃー! やっぱりミラフォだ! んなことだろうと思ったぜ! そのまま全部破壊しちまえ!」
黄金の邪神像
黄金の邪神像
セキュリティー・ボール
「……はあ!?」
大嵐が止んだ後、クロウの場にいたギア・フリードが爆発にのまれて破壊され、相手の場に2体の魔物が現れる。
邪神トークン DEF:1000
邪神トークン DEF:1000
見事に立ち塞がる2体の壁。クロウの場には既にカードは無く、通常召喚も行ってしまった。これでは完全に突破不可能である。
「セットされた《セキュリティー・ボール》と2枚の《黄金の邪神像》が破壊された時、場のモンスター1体を破壊し、自分の場に2体のトークンを残す。クロウの場は全滅、相手は守備表示モンスターが2体、これでは詰めない……」
遊星が残念そうに呟くと、ジャックがクロウの胸倉を掴みあげる。
「クロウ! 貴様貴重な時間を無駄にしおって!」
「何だと!」
「そうよねぇ~。 クロウはちょっと詰め決闘を解ってないね。何の為に自分の場にも魔法・罠が用意されてると思ってるの?」
フレアがクロウに対して少し意地悪く笑う。
「うぐ……まさかお前にそんなこと言われるとは思わなかったぜ……」
「これでも故郷の友達と何時も詰め決闘やってたんだから! 私、ちょっと自信あるよ!」
フレアはしたり顔で胸を張り、同時に故郷であるクラッシュ・タウンを思い出していた。何時も詰め決闘を作って遊んでいた彼女の友人達は元気だろうか。
フレアがそんな風に思っている中、遊星は焦る様子も無く冷静に場を見詰める。
「クロウのおかげで分かったこともある。あの伏せカードの内、1枚は”聖なるバリア -ミラーフォース-”、もう1枚は”セキュリティー・ボール”、後の2枚が”黄金の邪神像”。攻撃すればミラーフォースで全滅、”大嵐”で除去しようとすれば手痛い反撃を受け、さらに壁ができてしまう……厄介だな」
「ええい! 貴様等の決闘など見ていられん!」
ジャックはクロウから手を離すと、詰め決闘の席に座り、画面にSDジャックを出現させる。どうやら問題に挑戦するようだ。
「破壊効果などという小賢しい手に頼るからだ! 決闘は力! 己の力で押し切ってこそ決闘! 俺はセットされた装備魔法《愚鈍の斧》を《鉄の騎士 ギア・フリード》に装備! 攻撃力を1000ポイントアップ!」
全身鋼鉄の鎧に包まれた騎士、ギア・フリードの手に不細工な顔の模様が彫られた斧が握られる。
ATK:1800→2800
「あれ? ギア・フリードって……」
「お前の言いたいことは解るぞフレア。通常ならギア・フリードは自身に装備されたカードを破壊してしまう。だが愚鈍の斧は装備モンスターの効果を無効にするのだ! つまり、この斧はギア・フリードに装備できる数少ないカードだということだ!」
「へぇ~! 流石ジャック!」
「フン! 見ているがいい! 装備魔法《稲妻の剣》を《鉄の騎士 ギア・フリード》に装備! 攻撃力を800ポイントアップ! さらに《ならず者傭兵部隊》を召喚!」
ATK:2800→3600
もう片手に剣を手にし、さらにパワーアップしたギア・フリードと、その隣に現れるならず者傭兵部隊。その様子にフレアの期待も高まる。次はどんな手を使うのか――――
「これでダメージは1800以上! 行け! ギア・フリードで虚無の統括者を攻撃!」
「え?」
フレアが固まると同時に、ギア・フリードが斧と剣を振り上げ突撃する。その先に何があるのかを忘れた様に。
「罠発動《聖なるバリア -ミラーフォース-》」
「あ!?」
相手が機械音声で発動を宣言すると、ギア・フリードの前に光の障壁が現れ、ギア・フリードとならず者傭兵部隊を消し飛ばす。
あまりにも予想外な展開に、フレアどころか遊星やフリントも固まった。
クロウが怒りの表情で呆然としているジャックの腕を掴み、引っ張り上げる。
「話聞いてんのか! あれはミラフォだっつっただろ!」
「伏せカードが入れ替わっていないか確認しただけだ!」
「この時間がねーって時に、んな暇あんのかよ!」
「貴様に言われる覚えはなーい!」
元キング、ジャック・アトラスのあるまじきミス。そして子供の様な言い訳。フレアの中でまだ残っていた会ったばかりの頃の、尊敬していたジャックの像がショックにより音を立てて崩れた。
「ジャック……絶対に攻撃してから気付いたよね? ”あ!”って言ってたし……」
「う、うるさい! 今日は調子が悪かっただけだ!」
「そうですか……まあとにかく、二人共しょうがないなぁ」
フレアが笑いながら詰め決闘の席に着く。
「見てて! 私が解いて見せるから!」
フレアが詰め決闘を始めると、画面にSDフレアが現れる。
「……何でお前のがあるんだ?」
「このパソコンのシミュレーター使わせてもらった時に、ついでに作ってもらったの! フリントのもあるよ! ……さて、まずはこれ! 魔法カード《魔法石の採掘》を発動! 手札を2枚捨てて、墓地から魔法1枚を手札に加える! 墓地にある《地砕き》を手札に!」
捨てたカード(マクロコスモスにより全て除外)
ならず者傭兵部隊
大嵐
「地砕き? 破壊するならならず者で十分じゃねーか? 回収でコストも掛かってるしよ」
「まあクロウ見てて! 魔法カード《地砕き》を発動! 場の一番守備力が高いモンスター1体を破壊! 破壊するのは勿論《虚無の統括者》!」
フレアが魔法を発動させると、虚無の統括者が地面ごと叩き潰され破壊される。
「これでよし! 次は……罠カード《ボーン・テンプル・ブロック》! そしてそれにチェーンして永続罠《召喚制限-猛突するモンスター》を発動! まずはボーン・テンプル・ブロック! 私の手札を1枚捨て、お互いに相手の墓地からそれぞれレベル4以下のモンスターを選択し、自分の場へ特殊召喚する! 来て! デュアルモンスター《
フレアの場に特殊召喚されたのは機械仕掛けの騎士、”古代の機械騎士”。手に持った槍と盾を相手に対して構える。
ATK:1800
捨てたカード
異次元の戦士(マクロコスモスの効果により除外)
「そういうことか! いや~見落としてたぜ、相手の墓地なんてよ」
「フン! あんな雑魚モンスター、普段の決闘ならば気にもかけん!」
クロウはフレアがやろうとしていることに気が付いて納得したように頷き、ジャックも同様だが未だに強がっている。
続けてフレアの墓地から相手の場へと特殊召喚されたのは大剣を持った少年剣士、”サイレント・ソードマン LV3”。召喚されるとすぐにしゃがみ込み、大剣を盾の様に構える。
DEF:1000
「そうはさせない! 永続罠《召喚制限-猛突するモンスター》の効果発動! 特殊召喚されたモンスターを強制的に攻撃表示に変更!」
フレアが予め発動しておいた永続罠の効果により、しゃがんでいたサイレント・ソードマンが興奮した様子で立ち上がる。
ATK:1000
「ここで古代の機械騎士のデュアル効果発動! デュアルモンスターは最初は何も効果を持っていない通常モンスターだけど、もう一度召喚を宣言すれば効果を身に付けることができる! 古代の機械騎士、召喚!」
フレアに再召喚を命じられると、古代の機械騎士は体中の歯車を回転させ、目を青く光らせる。
「これで古代の機械騎士には”攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠を発動できない”っていう効果が付いたよ! もうミラーフォースは恐くない! 装備魔法《愚鈍の斧》を装備! これで攻撃力は2800! これでフィニッシュ! 古代の機械騎士で攻撃!」
フレアが攻撃宣言した瞬間、横でフリントが溜息をつく。
「何フリント?」
「罠発動《聖なるバリア -ミラーフォース-》」
フレアがフリントの方を向いた瞬間、画面から発動宣言と爆発音が鳴り響く。驚きながらフレアが画面に顔を戻すと、突撃した古代の機械騎士が見事に破壊されていた。
「え? あれ? 何で?」
「……さっきジャックが言っていただろう――――」
通常ならギア・フリードは自身に装備されたカードを破壊してしまう。だが愚鈍の斧は装備モンスターの効果を無効にするのだ!
「あ……」
「お前もまだまだということだ……」
「…………」
「……間違えることは恥では無い。次に活かせばいい。ジャックもな」
「ぐッ……あれは何かの間違いだ!」
反省の色が見られないジャックに対し、フレアは先程の威勢は何処へやら、しゅんとして席を立ち、後方へ下がると皆に向かって頭を下げる。
「ごめんね皆。私、調子に乗っちゃって……」
「いいってことよ。解ってる分、こいつよか何倍もマシだ」
「クロウ貴様!」
「お前はもうちょっと恥ってもんをな――――」
「二人共、喧嘩している場合じゃないぞ。残り2分を切りそうだ」
遊星が時間を見ながら二人にそう告げる。時間的に次が最後のチャンスだろう。
「フリント! フリントならできるでしょう? 私のミスにも気付いてたんだから」
フレアがフリントを指名するが、フリントは首を横に振り、横で思案している青年に顔を向ける。
「いや、俺よりも適任者がいるぞ。……ブルーノ、どうだ?」
「え?」
フリントが指名したのは自身でも遊星でもなく、ブルーノ。周りは勿論、ブルーノ本人もこれには驚いた。
「フリント! 何故こんな奴に!」
「すまないジャック。だが俺はブルーノに任せてみたいんだ。……遊星、どうだ?」
フリントに聞かれた遊星は少し考える様に目を伏せた後、ブルーノに顔を向ける。
「……できるか? ブルーノ」
「……僕の記憶の中には、Dホイールと決闘のことしかない。もしかしたら、これをきっかけに何か思い出せるかもしれない……やらせてもらうよ」
ブルーノは再び席に着くと、真剣な眼で画面を見詰める。頭の中で正解の”道”を探しているのだろう。
「遊星までこんな奴に――――」
「ガタガタ言うな! 時間がねぇ! ……任せるしかねぇよ」
納得がいかない様子のジャックだったが、クロウに抑えられ仕方ないといった風に口を閉じる。
暫く画面を見詰めたままだったブルーノは突然眼を見開くと、詰め決闘を開始させ、SDブルーノを出現させた。
「行くよ! まずはフレアと同じ所まで進める! ”地砕き”を回収し、場にいる間こっちの特殊召喚を封じる”虚無の統括者”を破壊、そして――――」
フレアが繋げていった道を手際よく、解説しながら辿っていくブルーノ。そして、とうとう未開の場面へと辿りつく。
「フレアが間違えたのはここからだったね。ここで古代の機械騎士を強化して止めを刺したいけど、強化すれば効果が失われ、ミラーフォースをくらう」
「うーん……あ! ブルーノ、こっちが強化できないなら、向こうを弱体化すればいいのよ!」
フレアは閃いた様に手を打ち、ブルーノの場にある伏せカードを指差す。
「”あまのじゃくの呪い”! このカードは攻守の強化を逆転させるわ! 愚鈍の斧を相手に装備させてからこれを発動すれば――――」
「残念ながら、それはできないんだ。見て御覧、相手のモンスターは”サイレント・ソードマン LV3”。あのモンスターを対象にしたこっちの魔法効果を無効にする能力を持っているんだ。愚鈍の斧を先に無効化されてしまう」
「え~!? じゃあどうするの?」
慌てるフレアに、ブルーノは安心させる様な笑顔を向ける。
「大丈夫さ。古代の機械騎士を強化しても駄目、サイレント・ソードマンを弱体化しようとしても駄目、ならば残った手は……これだ! 装備魔法《愚鈍の斧》と《稲妻の剣》を《鉄の騎士 ギア・フリード》に装備!」
先程のジャックの時と同じ様に、ギア・フリードの手に愚鈍の斧と稲妻の剣が握られる。
ATK:1800→2800→3600
「え!? どうしてギア・フリードに? ギア・フリードじゃ……」
「フレア、君はいいカードを手札に残していたね。……魔法カード《強制転移》を発動! このカードはお互いに1体ずつ自分のモンスターを選択し、相手にコントロールを移す。僕が移すのは《鉄の騎士 ギア・フリード》、相手の場には1体しかいないから、相手は必然的に《サイレント・ソードマン LV3》を送り込んでくる。強制転移は対象とする魔法効果ではないからサイレント・ソードマン LV3に対して有効だ」
ギア・フリードとサイレント・ソードマンは一瞬姿を消すと、お互いの陣営が入れ替わった状態で再び姿を現す。
「これが最後の手! 罠カード《あまのじゃくの呪い》を発動! エンドフェイズまで強化効果を弱体化効果に変更する!」
ブルーノが罠を発動させると、相手の場に移ったギア・フリードが武器を握ったまま膝をつく。
ATK:3600→0
「バトル! 古代の機械騎士でギア・フリードを攻撃!」
古代の機械騎士が目を赤く光らせながら槍を突き出すと、ギア・フリードは何の抵抗も無く貫かれ、破壊される。
ゲート LP:1800→0
相手のLPが0になると、画面の奥にある扉の鍵が外れ、徐々に開かれていく。
そして画面が暗転し、表示されたのは”CLEAR”の文字。
「「やったぁ!」」
「おおお!」
ブルーノの後ろでクロウとフレア、そしてジャックが高らかに腕を挙げ、勝利を喜んだ。
フリントは微笑して頷き、遊星も笑みを浮かべてブルーノに顔を向ける。
「見事だブルーノ!」
ブルーノがその言葉に振り向き、微笑を浮かべるとすぐに画面へ向き直り、キーボードを再び打ち始める。
「すぐに指紋を照合しないと!」
ブルーノは急いで採取した指紋を照合させると、画面にその指紋の持ち主が映し出される。それは遊星達、そしてフリントにも因縁がある意外な男であった。
三度目の正直、詰め決闘です。
前回は難しくしようとしてやたらカード枚数とLPを多くして失敗していたので、今回はできるだけ少なくして(前回よりは)、原作に近い流れでできる問題を作ってみました。
それにしてもカード1枚1枚の可能性って恐ろしいもんですね。見直す度に穴が見つかって(泣)変更したり追加したりして、また新たな穴が出来たり(汗)遅くなったのもその為です。
ちゃんと確かめたつもりですけど、ミスってないといいなぁ(不安)