遊戯王5D's ~荒野のデュエリスト~   作:鬼柳高原

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会話でのカッコについてですが

「」通常
『』精霊
〔〕実況・通信機越し

ということでよろしくお願いします。


第33話 捕獲作戦

 

 治安維持局元特別調査室長、現副長官にして、今回のエンジンデータ窃盗事件の犯人”イェーガー”。

 ガレージに残っていた指紋が彼の物だと判明すると、遊星達はデータを奪還する為イェーガーがいる治安維持局へと急行した。

 イェーガーはおそらくそのデータを誰かに売りつけようとしていて、そのデータを転送したりせず、直接手渡しに行くはずだとブルーノが予想したからだ。

 

「膨大なデータ量だからね。転送だと時間が掛かってしまう。取引をするなら、手渡しの方が速いし確実だと思うんだ」

 

 先頭は遊星達3人、その後ろにフリント、さらに後ろでフレアとブルーノが並走する。

 ブルーノが乗っている黄色いスクーターの様なDホイールは牛尾と深影からブルーノ引き受けの謝礼代わりに送られた物で、お世辞にも性能がいいとは言えない中古品である。 

 

「ブルーノ、ライセンス持ってるってことはやっぱりDホイーラーだったのかな? 運転上手いし」

 

「どうなのかな? でもライセンスには助けられたよ。こうやってDホイールに乗れるし、名前を知れたしね」

 

「でも住所は出鱈目だったんだよね?」

 

「うん……牛尾さん達とライセンスに登録されてる住所に行ったら何にも無い空き地でさ。……僕は一体何処から来たんだろうな」

 

 そんな会話をしていると、前方の遊星達がDホイールを止める。目的地に着いたようだ。全員Dホイールから降りると治安維持局本部前の物陰に潜み、イェーガーが現れるのを待った。

 

「本当に来るのかよ……」

 

「牛尾達の情報が本当なら、何時もここで車に乗り込むはずだ……来たぞ!」

 

 クロウと遊星が物陰から顔を出して見張っていると、そこへ目的の人物であるイェーガーが現れ、黒い高級車に乗り込む。

 

「よっしゃ! 見てろよ妖怪ピエロ!」

 

 クロウは右拳で左掌を打った後、勇んでブラックバードに跨る。

 半年以上前、ダークシグナーとの戦いの中で彼は一度イェーガーと接触し、決闘を行ったのだという。

 その時はまんまと逃がしてしまった為、今回は逃がさないという意気込みがクロウの中にあった。

 

 遊星達はばれない様に距離を取りつつ、イェーガーの車を追跡した。

 だが突然フリントがスピードを上げ、車との距離を縮めていく。

 

「おいおいフリント! あんまり近づくとばれちまうだろうが!」

 

 イェーガーを捕まえることに一番意欲的なクロウはそれを見て慌てるが、フリントはさらにスピードを上げる。

 

「奴のことだ。もうとっくにばれているだろう。見てみろ、あれは明らかに目的地ではない。あそこで俺達を撒くつもりだ」

 

 フリントが前方を視線で指すと、イェーガーの車は突然進路を変え、その先に見えるショッピングモールへと向かう。確かに治安維持局副長官が訪れるような場所ではない。

 

「マジかよ!? じゃあとっとと追いかけねぇと! 急ごうぜ! ブルーノもフレアも遅れんなよ!」

 

「ま、待ってよクロウ! あんまり速いと僕のDホイールじゃ追いつけないよ!」

 

「(カップラーメン食べるんだから普通に行きそうな気もするけど……)」

 

 フリントとクロウを先頭に、六人も車を追ってショッピングモールへと向かった。

 

 

* * *

 

 

「な、何をするのです!? お前達一体私に何の用ですか!?」

 

 ショッピングモール二階の通路に特徴的な声が響き渡る。

 遊星達はショッピングモールの中に入って行ったイェーガーを追跡し、無用心にものんびりカップラーメンコーナーで眼を輝かせていたイェーガーを捕らえたのだ。

 ジャックが彼を羽交い絞めにし、クロウが肩車をするような体勢で足を掴み、逃げられない様に拘束する。まるでトーテムポールの様に三人の顔が縦に並んだ。

 

「貴様がプログラムを盗んだのか……!」

 

「返してくれ!」

 

「さ、さあ……何の事やら……」

 

 遊星とブルーノが怒気を込めてイェーガーの詰め寄るが、イェーガーは白を切る。

 

「とぼけやがって! 俺達のガレージからお前の指紋が出たんだよ!」

 

「指紋?」

 

「そうだ! 俺のカップラーメンの恨み、この場で晴らしてくれる!」

 

 上下にいるクロウとジャックにそう言われた瞬間、イェーガーの顔色が変わる。昨晩、忍び込んだガレージ内で発見した新商品のカップラーメンに目が眩み、手袋を外してそれを食したのを思い出したのだ。

 

「(箸も容器も持ち帰った……そうかビニール!? くうぅ……まあ、仕方ありませんか。とにかくこの場は逃げましょう) 一体何の事やらさっぱり分かりませんよ……イヨッホウ! ヒッヒッヒッヒ、ではまた!」

 

 イェーガーは落ち着きを取り戻すと上着を残してジャック達の拘束から抜け出し、笑いながら走り去る。何故かこの時、彼はジャックの腕に残してきたはずの上着をしっかりと着ていた。勿論、ジャックの腕にも同じ上着が残っている。

 

「貴様!」

 

「待て!」

 

 ジャックは手に残った上着を投げ捨てると、クロウと共にイェーガーを追いかける。呆気に取られていた遊星達もそれに続いた。

 動きが制限される店内ならば逃げられても多数を活かして回り込み、すぐに捕まえられると遊星達は考えていたが、それ程イェーガーは甘くない。イェーガーは落下防止用の柵に足を掛けると、そのまま高く跳び上がり、上階へと移動する。

 幾ら身体能力の高い遊星達でも、流石にあれは真似出来ない。クロウが悔しそうに拳を握る。

 

「相変わらず逃げ足の速ぇ野郎だ!」

 

「フリント! 銃銃! 撃ち落して!」

 

「偽物とは言え、こんな所で銃を抜けば周りが騒ぐ。騒がれて足止めをくらうのは俺達だ。追うぞ!」

 

 そう言ってフレアを促し、フリントがエスカレーターに向かって駆け出す。どうやら店内で不利なのはこちらだったらしい。

 6人はエスカレーターを一気に駆け上る。

 

「(今日ユニフォームで来て良かった。何時ものスカートでこんなとこ走ったら絶対どっかに引っ掛かってたわ)」

 

 フレアはDホイールに乗る時必ずユニフォームを着ている為、今はTシャツとジーンズという動きやすい服装をしている。因みにユニフォームのシンボルである”満足ジャケット”はブルーノを除く四人に”一緒に来るなら脱いでくれ”と頼まれた為、渋々駐車場に置いてきた。

 上階へと辿り着いた六人は辺りを見回していると、近くの玩具屋からイェーガーが二人現れる。偽者を用意して遊星達を惑わし、その隙に逃げる作戦なのだろう。

 しかし、それではフリントの眼を騙すことは出来ない。

 

「二人になった……!?」

 

「どういう事だ……!?」

 

「ブルーノ、クロウ、騙されるな。あれはどちらもソリッドビジョンだ。足元を見ろ」

 

 フリントがイェーガー達の足元を指差す。見ると彼等は少し浮き上がっており、その下には玩具の車が走っている。その車からソリッドビジョンが投影されているのだろう。

 

「ほ、本当だ……」

 

「マジかよ! 小細工何かしやがって! 助かったぜフリント!」

 

「ああ。だが肝心の本物が何処へ行ったのか……もしかすれば、既に外へ逃げたかもしれない」

 

「大変!? 追わなきゃ!」

 

 フレアが慌てて走り出そうとするのをフリントが腕で制する。

 

「待て。あくまで可能性だ。逆にここの何処かに隠れ、やり過ごそうとする可能性もある。……二手に分かれよう。一方が外へ、もう一方がここを探す。いいな?」

 

 五人がフリントの提案に頷く。

 数秒の話し合いの結果、遊星、ブルーノ、フリントが外へ。ジャック、クロウ、フレアがここでイェーガーを探す事となった。

 外出組は急いで駐車場へと向かい、それぞれのDホイールに乗り込んで外に出る。

 

「あ!? あそこ!」

 

 駐車場から出た瞬間、ブルーノが遠くでタクシーに乗り込むイェーガーを発見する。

 遊星達は先程よりも慎重に、ばれないようにしてその後を付けて行った。

 

 

* * *

 

 

「ここが受け渡し場所か……」

 

 辿り着いたのはB地区の72番地にある巨大な工場。立ち入り禁止の表示を気にせず、イェーガーは堂々と中へと入って行く。

 

「どうする遊星? 三人を待つかい?」

 

「いや、もう三人には現在地を転送してある。とにかく、現場を押さえない限りあいつは口を割らない。後を追うんだ」

 

 そう言って遊星とブルーノが走り出すと、フリントも決闘銃に射撃用のカードを装填しながらその後を追う。

 工場の中は最先端の設備が整っており、中には今の知識や技術では説明できないような物もあった。

 

「この工場は一体何を作ってるんだろうね? まるで”宇宙船”の中みたいだ」

 

「ああ。ここまで技術の進んだ工場は俺も初めて見るな」

 

 ブルーノと遊星が通路の窓から見える工場の設備を見渡している中、フリントは一人考えに耽っていた。

 

「(謎の工場……謎の技術……そしてエンジンデータ、か……)」

 

 その瞬間、通路内に警報が響き渡った。

 

「監視カメラか!?」

 

 遊星達は進路方向へと一斉に走り出す。その先の通路のシャッターが下り始めたからだ。

 遊星とフリントはギリギリで滑り込むが、ブルーノは無理だと判断したのか、伸ばしていた腕を引っ込めて動きを止める。

 

「わっ!? 駄目だ!」

 

「「ブルーノ!?」」

 

 見事に分断されてしまった三人。遊星は滑り込めずに一人となってしまったブルーノの身を案じて声をかける。

 

「大丈夫かブルーノ!?」

 

「ごめん遊星! 僕は平気だよ!」

 

「そうか……俺達はこのまま奥へ行く」

 

「分かった! 僕はジャック達を呼んでくるよ!」

 

「頼む! 行こうフリント!」

 

「遊星を頼んだよフリント!」

 

 フリントは彼等の言葉に頷き、遊星と共に先へ進む。

 暫くすると扉を発見し、遊星がそれを開けようとした瞬間、扉が開いて何者かが現れる。

 遊星は勢いでその人物と衝突し、扉の外へと弾き飛ばしてしまった。

 

「ダァー!?」

 

「貴様は……!?」

 

「ハッ!?」

 

 弾き飛ばされた人物――――イェーガーは遊星に気付くと一目散に逃げようとするが、すぐさま遊星が上着の襟を掴んで捕らえる。

 フリントも続けて扉の外へ出ると、イェーガーを問い詰めている遊星の代わりに辺りを警戒する。

 扉の外は二階通路となっており、その下には格納庫の様な空間が広がっていた。

 

「俺達のプログラムを返せイェーガー!」

 

「プログラム? 先程から一体何の話をしているのですか?」

 

「とぼけるな!」

 

「ギャア!?」

 

 そう言って遊星がイェーガーを顔面から壁に叩き付ける。怒りのこもった一撃であった。

 

「ここで誰かに会っていたんじゃないのか!」

 

「いいえ! 私はただ工場見学に来てただけでございますよ……」

 

 そう言ってイェーガーが目を逸らした瞬間、フリントの決闘銃がイェーガーの大きな額に突きつけられる。わざとそうしたのか、ゴツンといい音が鳴った。

 

「イギッ!?」

 

「今大人しく白状し、データを返すなら昔の事と一緒にチャラにしてやる。それでも白を切るならば……こちらにも考えがあるぞ」

 

「ヒ、ヒィ!? む、昔の事?」

 

「吐け。さもないと――――」

 

 フリントが引き金に指を掛けようとした瞬間、突然地響きが起こり、下の空間に大きなロボが現れる。

 

「ヒィィ!?」

 

「こいつは……?」

 

 遊星とフリントはイェーガーを一旦離し、そのロボットを見下ろす。ロボットは起動音を鳴らすと、遊星に顔を向けた。

 

「……登録データト100%一致。不動 遊星ヲ確認」

 

 ロボットが機械音声を発した瞬間、この空間にあった通路全てにシャッターが下りる。遊星達は完全に閉じ込められてしまった。

 

「コノ工場ハ完全ニロックサレタ。私ヲ決闘デ倒サナイ限リ、ロックヲ解ク事ハ不可能ダ」

 

「何!? こいつを倒さなければ……」

 

「そ、そうですよ不動 遊星! 私とあなたは一蓮托生! もはや、進むも戻るもあなた様次第!」

 

 いきなり遊星に対して親しみを見せながら擦り寄るイェーガー。こうしてデータの件から気を逸らさせ、この空間から解放され次第隙を見て逃げ出すつもりなのだろう。

 

「不動 遊星。 コノ状況デ決闘ヲ受ケル確率……100%」

 

「さあ! やっておしまいなさい! 不動 遊星――――がっ!?」

 

「黙っていろ」

 

 調子に乗り始めたイェーガーを、フリントが遊星と同じ様に顔面から壁に叩き付ける。

 

「……遊星、俺が行くか? 明らかにあれは罠だろう」

 

「……いや、俺を指名してる以上、俺以外の決闘は受けないはずだ。ここは向こうのフィールド、逆らって不利なのは俺達だ。……絶対に負けはしない。だから俺に任せてくれ」

 

「……解った。任せたぞ遊星」

 

 遊星は微笑して頷くと、ロボットの前に飛び降り、決闘盤を展開させる。

 

「いいだろう! この勝負、受けて立つ!」

 

 

「「デュエル!!!」」

 

 

 遊星と行く手を阻もうとするガードロボットとの決闘が始まる。先攻は遊星。

 

「(こんな所でぐずぐずしている暇は無い! ここは一気に勝負を着ける!) 俺のターン!」

 

 遊星 手札:5→6

 

「手札のモンスターを1体墓地へ送り、チューナーモンスター《クイック・シンクロン》を特殊召喚!」

 

 遊星の場に現れたのはフレアも愛用している”クイック・シンクロン”。フレアはドリル・ウォリアーの召喚にしか使用しないので忘れられているかもしれないが、このチューナーは多くの”可能性”を秘めている。

 

 ATK:700 レベル5

 

「さらに墓地に送った《ボルト・ヘッジホッグ》の効果発動! 自分の場にチューナーが存在する場合、墓地から特殊召喚できる!」

 

 続けて現れたのはネジを背負ったハリネズミ、”ボルト・ヘッジホッグ”。遊星のシンクロ戦術には欠かせないモンスターである。

 

 ATK:800 レベル2

 

「クイック・シンクロンはシンクロンと名の付くシンクロ素材の代わりとなる! 代わりとするのは――――」

 

 クイック・シンクロンが拳銃を抜き放ち、目の前に現れたルーレットを撃ち抜く。撃ち抜かれた場所にあるカードは――――

 

 

「――――”ニトロ・シンクロン”! 行くぞ! レベル2《ボルト・ヘッジホッグ》に、レベル5《クイック・シンクロン》をチューニング!」

 

 クイック・シンクロンが5つの光輪へと姿を変えると、ボルト・ヘッジホッグを囲み、2つの光、そして光の柱へと変える。

 

「集いし思いが、ここに新たな力となる! 光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ! 

《ニトロ・ウォリアー》!」

 

 光の柱から姿を現したのは”ニトロ・ウォリアー”。遊星のシンクロ戦術における”攻め”の要である。

 

 ATK:2800

 

「おお~! 1ターン目からのシンクロ召喚! お見事な速攻ですよ! ……にしてもあなた、何時まで私を押さえてるつもりなのですか? 今はそんな状況じゃないでしょう?」

 

 遊星の強気な攻勢とシンクロ戦術に感嘆の声を上げるイェーガー。その後ろではフリントが右腕で銃を付きつけ、左腕でイェーガーの上着の襟を掴んだまま離さない。

 

「心配しなくとも私は逃げも隠れもしませんよ。イッヒッヒッヒッヒ……ンガァ!?」

 

 いきなり容赦なくイェーガーを壁に叩き付けるフリント。流石に三回もやられていると応えるのか、イェーガーは顔をさすりながら恨めしげな眼をフリントに向ける。

 

「あ、あなたは私に何か恨みでもあるのですか! さっきから何度も――――」

 

「ある。3年前、サテライトでだ。忘れたとは言わせんぞ」

 

「3年前……? サテライト……あ!?」

 

 フリントが自分の首筋を決闘銃で軽く叩いて見せると、イェーガーは何かを思い出したかのように声を上げ、顔を青くする。

 

「な、何故ばれて……いやあの! あ、あれはゴドウィン長官のご命令で、どうしてもジャック・アトラスをシティに招かねばならなく、その……私も仕事――――ダァ!?」

 

 再び壁に激突させられるイェーガー。フリントはイェーガーを元の位置に引き戻すと、先程と同じ体勢で決闘銃を突きつける。

 

「あの時の借りはここを出た後にゆっくりと返してやる。覚悟しておくんだな」

 

「ヒ、ヒィ……」

 

「さらにチューナーモンスター《ドリル・シンクロン》を召喚!」

 

 続けて遊星の場に現れたのは”ドリル・シンクロン”。クイック・シンクロンと同様にフレアも愛用するこのモンスターはチューナーという事だけに留まらず、戦士族達の道を切り開く優秀なサポートモンスターでもある。

 

 ATK:800 レベル3

 

「カードを伏せ、ターンエンド!」

 

LP:4000

手札:1

モンスター

・ニトロ・ウォリアー

・ドリル・シンクロン

魔法・罠

・セット

・セット

 

「成る程、いい速攻布陣だな遊星」

 

 ニトロ・ウォリアーは攻撃によって相手モンスターを破壊した時、相手の場の守備モンスターを攻撃表示に変更し、そのモンスターに対して追加攻撃を行う能力を持つ。さらに隣にいるドリル・シンクロンは自軍の戦士族に貫通能力を与える。この2体ならば、易々と相手の守りを突破できるだろう。

 

「(下手な守りは命取り、相手はおそらく攻勢に出るだろう。あの伏せカードはその時の為の物……遊星の手は万全だ。さあ、どうでる?)」

 

 フリントがロボットに視線を向けると、ロボットはなにやら目や取り付けられた電灯を点滅させている。何かのデータ処理を行っている様だ。

 

「1ターン目カラ、シンクロ召喚ノ確率、45%。データニ相違無シ。対策トシテ、私ガ2ターン目ニ選択スベキ手段――――」

 

「こいつ……何を計算している?」

 

 遊星が警戒しながらロボットに対して構えると、計算が終わったのか、ロボットは目のライトを強く光らせる。

 

「――――”パーミッション”」

 

「何!?」

 

「私ノターン」

 

 ロボット 手札:5→6

 

「《マンジュ・ゴッド》ヲ召喚」

 

 ロボットの場に現れたのは全身から腕が生えている奇妙な怪物。もはや腕以外に見える部位は顔だけである。

 

 ATK:1400 レベル4

 

「マンジュ・ゴッドノ効果発動。召喚ニ成功シタ時、デッキカラ儀式モンスター、マタハ儀式カードヲ1枚選択シ、手札ニ加エル。デッキカラ儀式魔法《宣告者の預言(デクレアラー・プロフェシー)》ヲ手札ニ、ソシテ発動。手札カラレベル合計6ニナルヨウモンスターヲリリースシ、手札カラ《神光の宣告者(パーフェクト・デクレアラー)》ヲ儀式召喚」

 

 リリースしたモンスター

 そよ風の精霊 レベル3

 儀式魔人リリーサー レベル3

 

 ロボットの場に現れたのは手足と翼を生やした上下で繋がっている二つの球体。その体には無数の穴が開いていて、そこから三色の光が放たれている。

 

 DEF:2800 レベル6

 

「儀式召喚だと……!」

 

 ”儀式召喚”――――専用の魔法と決められたレベル合計分の生贄(リリース素材)を使って手札から特殊召喚するという、融合、シンクロ、アドバンス召喚を合わせた様な特殊召喚ルールの事である。

 その歴史は古く、デュエルモンスターズ最初期から存在し、強力なモンスターを呼び出す手段として活躍した――――と言うのは昔の話。儀式召喚は他と比べて召喚条件が厳しく、同様に難しい召喚条件を持つ”融合召喚”程環境に恵まれなかった為、現在では稀に見られる程度となってしまっている。低コストで強力なシンクロ召喚が台頭する今の時代では仕方の無い事だろう。

 そんな骨董品に近い儀式モンスターを前にした遊星は驚きつつ警戒を強める。時代遅れの召喚方法とはいえ、決して楽に倒せるような相手ではないのだ。

 

「《宣告者の預言》ノ効果発動。儀式召喚ニ成功シタ時、墓地ニアルコノカードヲ除外スル事デ儀式召喚ノ為ニリリースシタモンスター1体ヲ墓地カラ手札ニ加エル。《そよ風の精霊》ヲ手札ニ」

 

 ロボット 手札:2→3

 

「ソシテ、素材トシテリリースシタ《儀式魔人リリーサー》ノ効果。コノカードヲ儀式召喚ニ使用シタ儀式モンスターガ表側表示デ存在スル限リ、相手ハ特殊召喚ヲスル事ガデキナイ」

 

「何だと!?」

 

「(こういう事か……)」

 

 遊星は驚き、フリントは内心で舌を打つ。相手は遊星のシンクロ戦術を封じる手を用意していたのである。

 

「シンクロ召喚を完全に封じた!? これではエースモンスターの”スターダスト・ドラゴン”を呼べないではありませんか!?」

 

「(その為の儀式モンスターか? いや、違う。おそらくそれだけではない……遊星、用心しろ)」

 

「バトル。マンジュ・ゴッドデドリル・シンクロンヲ攻撃」

 

 ロボットの場にいるマンジュ・ゴッドが無数の腕を伸ばし、ドリル・シンクロンに襲いかかる。

 

「罠発動! 《くず鉄のかかし》! 攻撃を無効にする!」

 

 遊星の場にあった伏せカードの1枚が立ち上がり、そこからくず鉄で作られたかかしが飛び出す――――が、その瞬間、紫の光がかかしを貫き、破壊した。

 

「何!?」

 

「《神光の宣告者》ノ効果発動。手札カラ天使族モンスター1体ヲ墓地ヘ送ル事デ、相手ノモンスター効果、魔法、罠カードノ発動ヲ無効ニシ、破壊スル」

 

 墓地へ送ったカード

 そよ風の精霊

 

「馬鹿な……!」

 

 遊星の罠が無効にされた事により、マンジュ・ゴッドの攻撃が続行される。

 マンジュ・ゴッドの腕はあっという間にドリル・シンクロンを捕らえて包み込み、そのまま押し潰してしまった。

 

「ぐッ……!」

 

 遊星 LP:4000→3400

 

「バトルフェイズ終了。カードヲ伏セ、ターンエンド」

 

LP:4000

手札:1

モンスター

・マンジュ・ゴッド

・神光の宣告者

魔法・罠

・セット

 

「(脅威的なモンスターだが、どちらもニトロ・ウォリアーを倒せない……俺の行動を制限して時間を稼ぐつもりか? だがそうはさせない!) 俺のターン!」

 

 遊星 手札:1→2

 

「んん? そういえば不動 遊星の場にいるのはニトロ・ウォリアー……そして相手の場……おお! これならば連続攻撃が可能ではありませんか! いけますよこれは!」

 

 ニトロ・ウォリアーでマンジュ・ゴッドを戦闘破壊し、効果で守備力が高い神光の宣告者を攻撃表示にして追加攻撃すれば相手の布陣は完全に崩壊し、遊星の勝利はほぼ確実――――イェーガーはそう言いたいのであろう。だがフリントの表情は険しい。

 

「(ニトロ・ウォリアーを前にしてあの布陣……怪しいのはあの伏せカードか……)」

 

「速攻魔法《サイクロン》を発動! お前の場に伏せカードを破壊する!」

 

 遊星も同じ予感を感じたのか、不安要素である伏せカードを潰しに掛かる。だが遊星の発動したサイクロンは風を巻き起こす前に神光の宣告者から放たれた緑の光に貫かれ、破壊されてしまう。

 

「不動 遊星ガ伏セカードヲ警戒シ、破壊スル確率……75%。神光の宣告者ノ効果発動。サイクロンヲ無効ニシ、破壊スル」

 

 墓地に送ったカード

 朱光の宣告者

 

「く……まだ手札に天使族が……ならばニトロ・ウォリアーでマンジュ・ゴッドを攻撃! 【ダイナマイト・ナックル】!」

 

「罠カード《デモンズ・チェーン》ヲ発動。場ノ効果モンスター1体ヲ選択、ソノモンスターハ攻撃デキズ、効果ヲ無効化サレル」

 

 マンジュ・ゴッドへ飛びかかろうとしたニトロ・ウォリアーの下から無数の鎖が飛び出し、ニトロ・ウォリアーをがんじがらめにする。

 

「ああ~はぁッ! せっかく召喚したシンクロモンスターが! 攻撃が封じられてしまったではないですか――――ヒィィ!?」

 

「静かにしろ! 大人しく見ていられないのか!」

 

 鬱陶しいオーバーアクションで落胆するイェーガーを引き上げ、壁に向けるフリント。

 今のは遊星の気にも障ったらしく、一瞬だけ上の階を睨んだ。

 

「(俺の速攻ばかりか、罠から魔法まで完全に読み切っている……ここまで流れを作るとは……こいつは俺の行動パターンを全て計算しているのか……!?) ……モンスターをセットし、ターンエンド!」

 

LP:3400

手札:0

モンスター

・ニトロ・ウォリアー

・セット

魔法・罠

・セット

 

 

* * *

 

 

 一方その頃、遅れてやってきたクロウ、ジャック、フレアの三人は工場内部への入り口を探し回っていた。先程の警報により、遊星達が入って行った入り口は塞がれてしまったのである。

 

「くそっ! どうなってんだ! 何処にも入り口がねぇ!」

 

「本当に間違いは無いのか?」

 

「間違ってないよ。だってあそこにDホイールがあるもの」

 

 フレアは離れに置かれている三台のDホイールを指差す。どれも特徴的な物なので間違いは無いだろう。

 

「だけどよ、遊星との連絡が取れなくなっちまったんだぜ? 何かあったに違ぇねぇ」

 

「うん、大丈夫かなフリント達……あれ? ねえクロウ、ジャック、ここから入れない?」

 

 フレアが工場周辺を見渡していると、偶然人が通れそうなダクトを発見する。そこに取り付けられている鉄格子に触れてみると若干がたついており、力を加えれば外れそうであった。

 

「お! でかしたフレア! よ~し……俺に任せろおらぁ!」

 

 クロウが鉄格子に向かって全力で蹴りを入れると、鉄格子は音を立てながら見事に倒れる。

 

「おし、問題ねぇ。行こうぜ」

 

 

* * *

 

 

「私ノターン」

 

 ロボット 手札:0→1

 

「マンジュ・ゴッドヲリリース。《光神テテュス》ヲアドバンス召喚」

 

 マンジュ・ゴッドが光の中へと消えると、その光の中から純白の翼を持った女神が現れる。

 

 ATK:2400 レベル5

 

「上級モンスター……攻めにくるか!」

 

「光神テテュスデセットモンスターヲ攻撃」

 

 セットモンスター:シールド・ウォリアー DEF:1600

 

 テテュスが掌から光弾を放つと、遊星のセットモンスター”シールド・ウォリアー”に直撃し、破壊されてしまう。

 

「シールド・ウォリアー……!」

 

「ターンエンド」

 

LP:4000

手札:0

モンスター

・光神テテュス

・神光の宣告者

魔法・罠

・デモンズ・チェーン(ニトロ・ウォリアー)

 

「俺のターン!」

 

 遊星 手札:0→1

 

 引いたカード:ジャンク・シンクロン

 

「不動 遊星ガコノ時点デキーカードヲドロースル確率……23%」

 

「くッ……ターンエンド」

 

LP:3400

手札:1

モンスター

・ニトロ・ウォリアー

魔法・罠

・セット

 

「私ノターン」

 

 ロボット 手札:0→1

 

「コノ瞬間、光神テテュスノ効果発動。ドローシタカードガ天使族モンスターダッタ場合、自分ハカードヲモウ1枚ドローデキル。私ガドローシタカードハ天使族《紫光の宣告者(バイオレット・デクレアラー)》。ヨッテ、カードヲ1枚ドロー」

 

 ロボット 手札:1→2

 

「何!?」

 

 ロボットはテテュスの効果でドローしたカードを遊星に見せると、さらにもう一枚カードをドローする。ロボットはそれを後2回程繰り返す。

 

 ロボットの手札

 紫光の宣告者

 センジュ・ゴッド

 神光の宣告者

 伊弉波

 ???

 

「手札の天使を増やしただと……!?」

 

「ご、合計4回分……こ、これでは不動 遊星がカード効果を発動する隙が無いではありませんか!?」

 

 ロボットの突然な手札増強にフリントもイェーガーも驚く。イェーガーに至ってはおどける余裕も無い。

 

「永続魔法《波動キャノン》を発動。ターンエンド」

 

LP:4000

手札:4

モンスター

・光神テテュス

・神光の宣告者

魔法・罠

・デモンズ・チェーン(ニトロ・ウォリアー)

・波動キャノン

 

「何だと……! 気をつけろ遊星! 波動キャノンは自分のスタンバイフェイズ毎にターンをカウントし、波動キャノン自体を墓地に送る事で経過したターンの数×1000ポイントのダメージを与えるカードだ!」

 

「何だと!?」

 

 バーンカードの使い手なだけあってそれらのカードに詳しいフリント。遊星は相手のパーミッションを掻い潜り、波動キャノンのカウンターが溜まる前に相手のLPを削りきらなければならない。

 

「相手には神光の宣告者と光神テテュス。さらに手札には4体の天使族にLP4000……不動 遊星のLPから考えれば残されたターン数は最長で4ターン!? 動けないシンクロモンスター1体でどうやって勝てというのですか!?」

 

 遊星が勝たなければロックは外れず、外に出ることができない。幾多の困難を乗り越えてきた遊星なら勝てるだろうと楽観視していたイェーガーの表情に焦りが浮かび始める。

 そんな彼に追い討ちを掛けるかのように、突然空間内に警報が鳴り始めた。

 

 

緊急警報です。この工場は10分後に破棄されます。作業員は直ちに作業を中止して避難してください。繰り返します――――

 

 

「このアナウンスは……」

 

「……間に合わなかったか。遊星、おそらくこいつの取引相手だ! データを持ち去り、こいつの口を封じると同時に俺達を消すつもりだろう!」

 

「そんな!? 副長官である私ごとォ!?」

 

 驚愕の事実に、イェーガーはこれまでに無い程狼狽している。もはや余裕の欠片も無い。

 そして、余裕が無いのは遊星も同じであった。

 

「(この状況……どう切り抜ける……!) 俺のターン!」

 

 遊星 手札:1→2

 

 引いたカード:ダブル・サイクロン

 

「……ターンエンド」

 

LP:3400

手札:2

モンスター

・ニトロ・ウォリアー

魔法・罠

・セット

 

「ヒィ~~~!?」

 

「…………」

 

「私ノターン」

 

 ロボット 手札:4→5

 

「スタンバイフェイズ時、《波動キャノン》ノカウントハ”1”となる」

 

 波動キャノン:1

 

「永続魔法《魔力の枷》ヲ発動。互イノプレイヤーは500LPヲ払ワナケレバ手札カラ召喚、特殊召喚、発動、セットヲ行エナイ」

 

「何ですとォーーー!? ふ、不動 遊星が手札からカードを使えば、それだけ死期が近くなるという事ではありませんか!?」

 

 遊星のLPは残り3400。そして次の相手のターン、波動キャノンのカウントは2となる。つまり、遊星のLPが大きく回復しない限り手札からカードを使用できる回数は残り二回という事になる。

 

「ターンエンド。不動 遊星ノ敗北確率……100%」

 

LP:4000

手札:4

モンスター

・光神テテュス

・神光の宣告者

魔法・罠

・デモンズ・チェーン(ニトロ・ウォリアー)

・波動キャノン(カウント:1)

・魔力の枷

 

 

* * *

 

 

「喧しい警報だ!」

 

「益々ヤベェ雰囲気だぜ!」

 

「(フリント、遊星、ブルーノ……何処にいるの?)」

 

 一方、工場内に侵入した三人。警報に不安を感じ、必死になって遊星達を捜す。

 

「お! おいブルーノ!」

 

 クロウがある暗い部屋の前で立ち止まると、その奥で突っ立っているブルーノを発見する。

 

「あ、クロウ……」

 

「一体何があったんだ!」

 

「心配したのよ? フリントと遊星は?」

 

 クロウ達は部屋に入り、ぼんやりとしているブルーノの側まで駆け寄った。

 

「確か……イェーガーをつけてこの工場まで来て……遊星達とは途中で別れて……」

 

「マジかよ!? 畜生! 何処にいやがんだ!」

 

 クロウが苛立ちを見せる中、ジャックは無駄に広い部屋を見渡していると、上方に小さな部屋がある事に気付く。そこからが点滅している赤い光が見える。装置が稼働している証拠であった。

 

「あそこが司令室のようだな。あそこに行けば、建物内部の様子が分かるかもしれん」

 

「本当か!? よし行くぞ!」

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

「おい! あそこが稼働してるぜ!」

 

 司令室に辿り着いた四人は奥にあるモニターが稼働しているのを見つける。そこには”warning”の文字と、もうすぐ9分を切ろうとしているタイマーが表示されていた。

 

「これ……爆弾!?」

 

 フレアは驚きモニターの前から飛び退く。

 フレアの言葉を聞いたブルーノは表情を一変させてモニターの席に座ると、独特な形のキーボードを打ち始める。先程の寝ぼけた様子が嘘のようだ。

 

「……間違いない! 起爆装置が作動している!」

 

「起爆装置!?」

 

「止められないのか!」

 

 朝のハッキングの例もあり、クロウとジャックは期待の眼を向けるが、モニターの表示は変わらず、ブルーノは悔しそうに顔を歪めただけであった。

 

「駄目だ! キーボードが反応しない!」

 

 その瞬間、キーボードが反応したのか突然小窓の画面がモニターのあちこちに表示され、そこには遊星達の姿が映し出されていた。

 

「遊星!? 決闘してるのか? ……何だあのロボットは?」

 

「ほう、フリントがイェーガーを捕らえたか。しかし……この妙な状況は何だ?」

 

 クロウとジャックがモニターを見上げて状況を確認する。遊星達の表情からして、どうやら押されているようだ。

 クロウは辺りを見回すと、席の側に放送用のマイクが設置されているのを見つけ、それに向かって大声を出す。

 

 

* * *

 

 

こちらは遊星達がいる閉鎖空間。遊星が活路を探していると、突然空間内にあるスピーカーから聞き覚えのある声が響いた。

 

〔おい遊星! 聞こえるか!?〕

 

〔遊星フリント無事か!〕

 

〔どうしたの遊星、フリント!?〕

 

〔私達よ! 助けに来たよ!〕

 

 聞こえてきたのは順にクロウ、ジャック、ブルーノ、フレアの声。ブルーノは無事に役目を果たし、ここまでやってきたようだ。

 

「皆!?」

 

 遊星は辺りを見渡すと、フリント達の後ろの監視カメラを見つけ、視線を送る。

 

〔何をぐずぐずしている遊星! フリントと共に早くそこから逃げろ! もうすぐこの工場は爆破されるぞ!〕

 

「何!? 本当かジャック!?」

 

「ああ!? やはりあのカウンターは……」

 

 イェーガーはロボットの横に現れたソリッドビジョンで表示されているカウンターに眼をやる。残り時間は8分20秒。

 

〔早く逃げろ遊星! もう時間がねぇぞぉ!〕

 

 声を張り上げて叫ぶクロウ。

 それを聞いた遊星は険しい表情でロボットを睨む。

 

「……それができない。こいつを倒さない限り、ここの扉は開かないんだ」

 

〔なら遊んでないでさっさと倒せ! もう時間が無いぞ!〕

 

 今度はジャックの声。しかし、そう簡単に行かないのが今の状況。イェーガーがその事をジャックに短く説明する。

 

「俺達のことはいい! 先に逃げろ!」

 

〔何だって!?〕

 

〔んなことできるかよ!〕

 

 遊星の言葉に対し、ブルーノとクロウが同時に声を上げる。その時、遊星はカメラに向かって笑みを浮かべた。

 

「大丈夫だ! 勝算はある!」

 

〔…………〕

 

「どうなったらこの状況を大丈夫と言えるのです!? 皆さん! お助けください――――ヘェハァ!?」

 

「黙っていろ」

 

 フリントは見苦しく助けを請うイェーガーを壁に叩き付け、カメラの範囲外に出す。

 

〔フリント……〕

 

 今度はフレアの心配そうな声が聞こえて来る。それを聞いたフリントは首をカメラの方向へと向けた。

 

「心配するな。遊星を信じろ……大丈夫だ。行け」

 

〔……うん〕

 

 

* * *

 

 

 フレアはマイクから顔を離すと、三人に対して向き直る。

 

「皆! 行こう!」

 

「……解った。脱出するぞ!」

 

「……おう」

 

 フレアの言葉にジャックとクロウが頷くと、一斉に踵を返して出口へと向かおうとする。だがブルーノだけは一瞬軽蔑したような表情をすると、一人でモニター前へと戻ろうとする。

 

「遊星達を置いては行けないよ! 行くなら勝手に――――」

 

 その瞬間、ブルーノは尻餅をつきながらモニターデスクに叩き付けられる。ジャックに殴り飛ばされたのだ。

 

「いってぇ……何するんだ!」

 

 ブルーノは怒りの表情でジャックを睨みつける。彼がジャックに殴られたのはこれで二度目だが、今回の一撃は前回よりも強烈で、彼の左頬は痛々しく晴れ上がってしまった。

 

「逃げないと言うなら……俺が力ずくで連れ出す!」

 

「何だって……?」

 

「イテェのは……お前だけじゃねぇんだよ!」

 

「クロウ……」

 

 ジャックとクロウが声を荒げながらブルーノを睨み返す。そんな中、尻餅をついたままのブルーノにフレアが手を差し出した。

 

「ブルーノ、今のはやりすぎだけど、ジャックの方が正しいよ。だって遊星もフリントも”大丈夫”って言ってたじゃない」

 

「でも!」

 

「私もジャックもクロウも、皆だってブルーノと同じ気持ちよ? でもね、それだと遊星は安心して戦えないの。私達が遊星を思う様に、遊星は私達を思ってる。応えてあげなくちゃ、遊星の”思い”に」

 

「…………」

 

「ブルーノ、信じてあげて。あなたを信じてエンジンを任せた遊星を。あなたを信じて詰め決闘を任せたフリントを。……遊星達を信じて、あなたを信じる私達を」

 

「……解ったよ」

 

 ブルーノはフレアの手を取り、立ち上がる。

 

「遊星、フリント! 待ってるからな!」

 

 そう言ってクロウは走り出す。

 

〔ああ! ジャック、後を頼んだぞ!〕

 

「貴様等! こんな所で死んだら許さんぞ!」

 

「遊星! フリント! 絶対帰ってきてよ!」

 

〔行け! ブルーノ!〕

 

 続けてジャック、ブルーノ、フレアがクロウの後を追って走り出す。

 

「ねえフレア……」

 

「ん?」

 

「これが……この”繋がり”が……”絆”なんだね」

 

「……うん!」

 

 フレアの曇りの無い笑顔を見ながら、ブルーノは遊星と語り合った”遊星ギア”の話を思い出す。

 

 

 

遊星ギアは面白い構造だよね。一つのギアでは何も役に立たない。数多くのギアが太陽ギアを中心にして結ばれている。僕達が歯車の一つだとしたら、僕達を結ぶ太陽ギアは何なんだろう?

 

決まってるさ。それは、ライディング・デュエルを可能にしてくれた”デュエルモンスターズ”さ。その上に仲間達との”絆”がある。

 

成る程、簡潔で美しい構造だ!

 

……なあブルーノ。君さえよかったら、暫くここにいてくれないか?

 

え!? いいのかい?

 

ああ……WRGPの為に、俺達には新しいマシンが必要なんだ。是非協力して欲しい。

 

うん! 僕でよかったら、君達の夢を叶える”歯車”の一つになるよ!

 

ありがとう、ブルーノ!

 

 

 

「(僕は……歯車になりたい! 遊星達の様に、”絆”で結ばれた本当の歯車に! ……遊星! フリント! 僕は君達を信じる!)」

 

 

* * *

 

 

「……すまないフリント。ここまで巻き込んでしまってな」

 

「気にするな。何の問題も無い」

 

「ああ……本当に私達は……もう……」

 

「誰もまだ諦めたとは言っていない」

 

「へ?」

 

 涙を流して項垂れるイェーガーに、遊星は真剣な声を向ける。その眼はしっかりと対戦相手であるロボットを見据えていた。

 

「俺のターン!」

 

遊星 手札:2→3

 

「(このカード……これで”あのカード”を呼び込めれば……しかし……)」

 

「遊星!」

 

 ドローカードを見詰めて迷いを見せる遊星に、フリントが上から叫ぶ。後押しするような、力強い声だった。

 

「行け! 俺達”決闘者”は確率に縛られる生き物ではないだろう! お前の”力”を見せてやれ!」

 

「……ああ!」

 

 遊星は3年前を思い出す。

 星空の下、ジャンクの山に囲まれながら行ったフリントとの決闘。その時フリントは立ち上がれなくなった自分を立ち上がらせ、導いてくれた。あの日のフリントの言葉通り、仲間達は何時だって自分を助けてくれた――――

 

「(俺は……仲間達の思いに応えてみせる!) デッキの上からカードを1枚墓地へ送り、魔法カード《アームズ・ホール》を発動! このターン通常召喚を行わない代わりに、自分のデッキ、墓地から装備魔法1枚を手札に加える! デッキから《パワー・コンバーター》を手札に!」

 

 遊星 LP:3400→2900 手札:2→3

 

「ま、魔法は無効に――――んん? 無効にしてきませんねぇ?」

 

「無効にするとすれば、”アームズ・ホール”よりもサーチした”パワー・コンバーター”だろう。それならば有用な装備魔法を潰せる上、アームズ・ホールを発動させれば通常召喚を封じられるからな」

 

「あ、成る程……って、結局無効にされるなら意味が無いじゃありませんかーーー!?」

 

 ショックで顔が可笑しくなっているイェーガーを余所に、フリントは遊星の狙いが解るのか、微笑を浮かべている。

 

「(成る程な。イェーガーも普段の様に冷静なら、ここから見えたかもしれん……遊星は掴みとった!)」

 

「俺は装備魔法《パワー・コンバーター》を《ニトロ・ウォリアー》に装備――――」

 

 遊星 LP:2900→2400

 

「神光の宣告者ノ効果ニヨリ、無効」

 

 墓地へ送ったカード

 神光の宣告者

 

 遊星の場に現れた装備魔法を、神光の宣告者が放った緑の光が容赦無く貫く。

 

「ななな、何故無効にされると解っていて発動したのです!? それにLPがぁ!?」

 

「……不動 遊星、決闘放棄ノ確率……90%」

 

「……ターンエンド」

 

LP:2400

手札:2

モンスター

・ニトロ・ウォリアー

魔法・罠

・セット

 

「後3分! カップラーメンが……ああ~~~! 私はこんな所で死にたくないッ! 妻よ! 息子よ! どうか私を守っておくれ~~~!」

 

 イェーガーは残り僅かとなったカウンターの時間を見てからその場に座り込むと、懐から1枚の写真を取り出して再び涙を流し始める。その写真にはイェーガーと彼にそっくりな女性と子供が写っていた。

 

「私ノターン」

 

 ロボット 手札:3→4

 

「スタンバイフェイズ、波動キャノンノカウントヲ”2”ニ増ヤス」

 

 波動キャノン:1→2

 

「ターンエンド」

 

LP:4000

手札:4

モンスター

・光神テテュス

・神光の宣告者

魔法・罠

・デモンズ・チェーン(ニトロ・ウォリアー)

・波動キャノン(カウント:2)

・魔力の枷

 

「ヒィィィ~~~! もう何もかも通じません! これで波動キャノンのカウントは2。次のターンで3となり、効果を使われれば遊星の負け……私の人生も、終わり、だ……」

 

 イェーガーは絶望し切ったような表情で固まる。もしかしたら魂まで飛び出ているかもしれない。

 

「そんな風に固まっている暇があるなら、体でも温めておいたらどうだ? 走ることになるからな」

 

「へ?」

 

「この勝負……遊星が勝つ」

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 遊星 手札:2→3

 

「諦メロ。不動 遊星ノ敗北確率……100%」

 

「……フッ、それはどうかな?」

 

 遊星はドローしたカードを確認し、手札に加えた後ロボットに笑みを見せる。

 

「……何?」

 

「お前は俺を見すぎた為、一つ見落としたことがある」

 

「私ノ計算ニ狂イハ無イ。不動 遊星敗北確率100%、決闘放棄確率90%――――」

 

「そこだ。そこでお前は見落とした。……大好きな計算に夢中でな! 墓地から罠カード《ブレイクスルー・スキル》を発動!」

 

「ト、罠カード!? 何時の間に……ではなく! これでは無効にされ――――」

 

「!? ガ……ガガ……」

 

「――――って、動きませんね?」

 

 ロボットは動こうとしても何かが邪魔して動けないと言った風に機体を小刻みに揺らしている。今にも煙を吹きそうな雰囲気だ。

 

「当然だ。神光の宣告者は”カードの発動”を無効にする。墓地から”効果を発動する”罠を無効にはできない。……あいつの光では、墓地に潜む罠を貫くことはできないということだな」

 

「は、はぁ……それにしても、あの罠は何時の間に墓地へ?」

 

「遊星が”アームズ・ホール”を発動した時だ。あの時のコストで墓地に送られた」

 

「へ!? あ、あれでございますか?」

 

 アームズ・ホールは発動のコストとしてデッキトップのカードを墓地に送らなければならない。それを利用して遊星は”ブレイクスルー・スキルを墓地”に呼び込んだのである。

 

「あの意味の無い行動はそれの眼暗ましですか……何という賭け……」

 

「それに勝ったのが遊星だ。行け、遊星……!」

 

「ブレイクスルー・スキルは相手の場のモンスター1体の効果をエンドフェイズまで無効にする! 無効にするのは当然、《神光の宣告者》だ!」

 

 遊星の墓地から光が放たれると神光の宣告者を包み込み、神光の宣告者の光と色を全て奪ってしまった。無色となった神光の宣告者は先程のイェーガーと同じ様に力無く地面に座り込んでしまう。

 

「これで遠慮無く攻め込める! 装備魔法《ニトロユニット》を《神光の宣告者》に装備! このカードを装備したモンスターを戦闘破壊した時、装備モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

 遊星 LP:2400→1900

 

 真っ白になっている神光の宣告者に大きな爆弾が取り付けられる。ロボットの方は本当に煙を吹き始め、異音まで鳴らし始めた。

 

「速攻魔法《ダブル・サイクロン》を発動! 自分の場と相手の場にある魔法・罠を1枚ずつ破壊する! 俺の場のセットしてある《シンクロ・マテリアル》と、お前の場の《デモンズ・チェーン》を破壊する!」

 

遊星 LP:1900→1400

 

 お互いの場に2つの竜巻が起こると、それぞれのカードを吹き飛ばし、同時にニトロ・ウォリアーを拘束していた鎖が外され自由となる。

 

「バトル! ニトロ・ウォリアーで光神テテュスを攻撃! 【ダイナマイト・ナックル】!」

 

 ニトロ・ウォリアーはテテュスに飛びかかると、今までの鬱憤を晴らすかの様に両拳を突き出して殴りかかる。

 

「ニトロ・ウォリアーの効果! 自分のターンに自分が魔法を発動した場合、このカードの攻撃力はこのターン中のダメージ計算時に一度だけ1000ポイントアップする!」

 

 ATK:2800→3800

 

 ニトロ・ウォリアーが拳から光を放つと、拳を当てる前にその光によってテテュスは消し飛んでしまった。

 

「ガ……ガガ……不動……遊星……ノ……」

 

 ロボット LP:4000→2600

 

「さらにニトロ・ウォリアーの効果発動! このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊したダメージ計算後、相手の場に表側守備表示で存在するモンスター1体を選択して攻撃表示にし、そのモンスターにもう1度だけ続けて攻撃できる! 〈ダイナマイト・インパクト〉!」

 

 ニトロ・ウォリアーが神光の宣告者に向かって緑の光線を放つと、神光の宣告者は立ち上がって攻撃体勢を取る。しかし、神光の宣告者に反撃できる程の力は残されていなかった。

 

 ATK:1800

 

「これで終わりだ! ニトロ・ウォリアーで神光の宣告者を攻撃! 【ダイナマイト・ナックル】!」

 

 ニトロ・ウォリアーがジェット噴射で飛びあがり、神光の宣告者に取り付けられているニトロユニット目掛けて拳を振り下ろすと、ロボットの場は大爆発に飲み込まれる。

 

「……逆……転……確率……100%」

 

 ロボット LP:2600→1600→0

 

 ソリッドビジョンが消え、決闘終了のアラームが鳴り響く。

 

「ロックヲ解除シマス。ロックヲカイジョ……――――」

 

 ロボットの機能が停止した瞬間、シャッターが上がり、出口が開かれる。

 

「行くぞ遊星!」

 

「ああ!」

 

 遊星と共に、既に下へ飛び降りていたフリントが出口に向かって駆け出す。

 

「ああ!? 待ってください!」

 

 まだ脱出できていないというのに、解放感に浸って呆けていたイェーガーは慌てて下へ飛び降りると、急いで二人の後に続く。

 

 

* * *

 

 

「やっと出られたー!」

 

 遊星の勝負が着いた頃、フレア達は迷いに迷って漸く工場を脱出していた。

 

「まだ脚を止めるんじゃねーぞ! もうすぐ爆発するか――――!?」

 

 その瞬間、工場が大爆発を起こす。火が噴き出し、無数の瓦礫が辺りに飛び散った。

 ブルーノとクロウは地面に伏せ、後頭部を両腕で守る。ジャックはとっさにフレアを押し倒し、自身の体で覆うようにして瓦礫からフレアを守る。こういう所と態度だけは、流石は元キング、と言ったところか。

 

「いたた……ありがとうジャック……!? フリント!? 遊星!?」

 

 フレアはジャックの下から飛び出すと、急いで工場へと振り返る。まだ彼等が脱出したとの連絡は受けていない。他の三人も同じ様に工場を振り返っていた。

 

「!? 遊星! フリント!」

 

 嫌な沈黙を破ったのはクロウ。黒煙が広がる空の一部を指差し示す。

 そこには黄色い風船にぶら下がる三人の男。一人はキツそうな表情のイェーガー、もう一人はイェーガーに腕を掴まれている遊星、最後はイェーガーの脚に掴まっているフリントであった。

 

「遊星!」

 

「フリント! よかった……」

 

「無事だったか! まあ、当然だ!」

 

 四人はホッと胸を撫で下ろした。ブルーノは隣にいるフレアに向き直り、これまでに無い笑顔を浮かべる。

 

「フレア、ありがとう! 僕、信じてよかったよ! これが……”絆の力”なんだね」

 

「うん!」

 

 地上でフレアとブルーノが笑い合っている中、空中ではイェーガーが余裕とは程遠い表情でぶら下がっている二人に話しかけていた。

 

「か、間一髪でしたねッ! 不動……遊星……!」

 

「まさか、お前が俺を助けるとはな……大丈夫か?」

 

「大丈夫だ遊星。むしろこれくらいでは足りん」

 

 フリントの恨みは中々深いものであり、イェーガーに対してトコトン容赦が無い。

 

「た、助けた訳では……んッぐッ……ありません! 借りを……作りたくは……なかったのですンフゥ! お、重い……この辺でよろしいでしょうッ! 早く離しなさいッ!」

 

 イェーガーは掴んでいた遊星の手を離し、フリントは渋々イェーガーの脚を離す。二人が降り立ったのは工場の裏山であった。

 地面に下りた瞬間、遊星はハッと気付いた様にイェーガーへと振り返る。

 

「待て! プログラムを誰に渡した!」

 

「さあ? 何の事やら?」

 

 重荷が無くなるとすっかり余裕を取り戻したイェーガーは再び白を切る。既に彼は山から少し離れている為、追うことは不可能であろう。

 

「遊星、一つだけ忠告しておきます。今回の件にこれ以上関わらないことです。とてもあなた達の手におえる相手ではありません。……一応、忠告はしましたよ。ヒィッーヒッヒッヒッヒッヒ!」

 

 遊星とフリントは並んで山から離れていくイェーガーを睨んでいた。すると後ろから仲間達四人の声が聞こえてきた。

 

「(例えどんな奴が立ち塞がろうとも、俺は戦い抜いてみせる! ……この素晴らしい、仲間達と共に)」

 

 遊星はそう決意すると、フリントを一瞥してから駆け寄ってくる仲間の元へ。

 フリントは決闘銃を最大出力にし、イェーガーの風船に向かって引き金を引いた後、仲間達の元へと向かうのであった。

 




何時も主人公達ばかりが決闘していたので、たまにはという事で遊星。
決闘の内容も変えてみました。

ゴッズでは一番ブルーノが好きです。大好きブルーノちゃん。
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