「遊星、俺は一体誰と決闘するんだ?」
フレアがシミュレーターを起動させている頃、フリントも一階のガレージで同じ装備を身に付け決闘を行おうとしていた。
「今回の相手は架空決闘者ではなく実在の決闘者のデータだ。強いぞ」
「そうか。お前がそう言うのなら、強い相手なのだろう。だがそれ程の相手ならば、データではなく本物とやってみたかったな」
「フフ……フリント。幾らお前でもデータと思って侮れば負けるぞ」
ニヤリと笑いながらシミュレーターの準備を進める遊星。フリントは装着していたゴーグルを頭の上に上げ、遊星を見る。
「……それ程の相手か?」
「そうだな……”最強の決闘者”……そう言ってもいいだろう」
フリントは瞠目した後、すぐに笑みを浮かべる。遊星の言葉がフリントの闘志に火を点けた。
「……面白い」
「よし、準備完了だ。そっちもいいか?」
フリントはゴーグルを下ろし、機器と繋がれた決闘盤を構える。
「問題無い。何時でもいいぞ」
「よし……それでは楽しんでくれ」
遊星がパソコンのエンターキーを押すとフリントの視界が暗転する。やがて目の前が明るくなり、フリントは何時の間にか大きな建物に囲まれた広場に立っていた。
「(何だここは……)」
フリントは辺りを見回すと、少し離れた位置に少年を見つける。少年もフリントに気付いたらしく、決闘をするのに丁度良い位置まで近づいてきた。
「……君が僕の相手かな?」
「(こいつ……いや、この男は……!?)」
フリントは目の前の少年を見た瞬間、頭の中にあるシティでの記憶を辿る。辿り着いたのはまだシティに来て間もない頃、フレアの勉強と自分自身の情報収集の為に図書館へ通っていた時の事だった。
…
……
…………
………………
……………………
「フリント見てこれ! ”
本棚を漁っていたフリントの前にニュース記事を突き出すフレア。フリントはその記事の写真に眼を向けると、そこには左目を長髪で隠した外人と跳んで喜んでいる小柄な老人、そしてトロフィーを手に持ち、困ったような笑顔を浮かべている少年が写っていた。
「……誰だ?」
「ウソー!? ”武藤 遊戯”を知らないの? 記憶喪失でもこの人だけは知ってると思ったのに……」
「無茶を言うな。誰だそれは?」
フレアは眉をひそめているフリントに”武藤 遊戯”について説明する。
武藤 遊戯とは、”初代決闘王”にして”最強の決闘者”であり、表舞台を去ってから数十年経った今でも決闘者達に尊敬される”伝説の決闘者”なのである。
「初代決闘王だから、遊星とジャックの大先輩ね。決闘者でこの人を知らない人はまずいないと思うよ」
「……この長髪か?」
「ちっがーう! こっちはペガサス会長! 真ん中の人が遊戯さんよ!」
「……そうには見えないな」
フリントは再び写真の遊戯に眼を向ける。稲妻と燃え立つ炎を組み合わせた様な髪型、逆四角錐の形をした金色のペンダント、そして時代を感じさせる学生服。それらだけを見れば厳つそうな威圧感のある人物だろうが、全体を見ると小柄で優しそうな、悪く言えば気弱そうな少年である。
「(これで本当に”最強の決闘者”なのか?)」
「まあそう思うよね。でも遊戯さんにはある”秘密”があるの」
フレアはフフンと鼻を鳴らし、人差し指を立てる。
「あんまり強そうに見えないのはね、今の遊戯さんが”表の姿”だからなのよ!」
「……どういうことだ?」
「遊戯さんはね、決闘する時に”変わる”のよ! まったく別人みたいになっちゃうらしいわ。”裏の顔”ってやつ?」
「……二重人格って奴か?」
「ふふふ! ちょっとまってね」
そう言ってフレアは隠し持っていた一冊の本を取り出す。表紙には”非ィ科学的! オカルト大百科”と書かれていた。
「この本によると……遊戯さんはね、”名も無きファラオの魂”を持っていたんだって!」
「…………」
その本によると、遊戯は普段の人格とは別の人格をその体に宿しており、その別人格というのがゲームの天才であった古代エジプトの名も無きファラオの魂なのだという。
「だから決闘の時はそのファラオと入れ替わってるんだって! 凄いよねー!」
「……そんな噂が出るほど、武藤 遊戯は強かったということだろう」
フリントは興味を失った様な顔をすると、別の本棚へと向かっていってしまう。
「ちょ、フリント! 嘘じゃないよ! きっと本当の事なのよ!」
「フレア、静かにしろ。そう注意する看板が置いてあっただろう」
納得できないと言いたげな表情で口を閉じるフレア。フン、と不機嫌そうに鼻を鳴らすと、オカルトの本を持ってフリントとは反対方向へ行ってしまった。
フリントはフレアに渡されたままだった記事をもう一度見る。
「(武藤 遊戯……”伝説の決闘王”、か……一度決闘してみたいものだな)」
……………………
………………
…………
……
…
「(”最強の決闘者”……成る程) その通りだ。俺の名はフリント」
「フリント君だね。僕の名前は武藤 遊戯。それじゃあ早速始めようか!」
そう言って遊戯はデュエルモンスターズ初期に作られた海馬コーポレーション製の量産型決闘盤を展開させ、構えた。フリントも同様に構える。
「行くよ!」
「(最強の決闘者の実力……見せて貰うぞ)」
「「デュエル!!!」」
伝説の決闘王”武藤 遊戯”とフリントの決闘が始まる。先攻は遊戯。
「僕のターン!」
遊戯 手札:5→6
「モンスターを裏守備表示で召喚。カードを伏せる。そして永続魔法《凡骨の意地》を発動! ターンエンド!」
LP:4000
手札:3
モンスター
・セット
魔法・罠
・セット
・凡骨の意地
「俺のターン!」
フリント 手札:5→6
「(相手は決闘王だ。油断はしない!) 《ヴォルカニック・ロケット》を召喚!」
フリントの場に現れたのは攻撃の要、”ヴォルカニック・ロケット”。遊戯に対して鋭い眼を向けると、翼の下から炎を噴出させ、突撃の構えを取る。
ATK:1900 レベル4
「ヴォルカニック・ロケットの効果発動! 召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分のデッキ・墓地からブレイズ・キャノンと名のついたカード1枚選択し、手札に加える事ができる! 俺はデッキから《ブレイズ・キャノン》を手札に!」
フリント 手札:5→6
「永続魔法《ブレイズ・キャノン》! そしてこれを墓地に送り、永続魔法《ブレイズ・キャノン-トライデント》を発動! さらにこれを墓地へ送り……来い! 《ヴォルカニック・デビル》!」
地面を割り、火柱と共に”ヴォルカニック・デビル”が姿を現す。遊戯の”力”を引き出す為、フリントは序盤から切り札を繰り出した。
ATK:3000 レベル8
「攻撃力3000……!?」
「バトルだ! ヴォルカニック・デビルでセットモンスターを攻撃!」
「罠カード《マジカルシルクハット》! 自分のデッキからモンスター以外のカード2枚を選択し、その2枚をモンスター扱いとして、自分の場に存在するモンスター1体と合わせてシャッフルし裏側守備表示でセットする!」
ヴォルカニック・デビルが遊戯のセットモンスターに狙いをつけた瞬間、セットモンスターの上にシルクハットが被さり、さらに落ちてきたシルクハット二つとランダムに位置を入れ替えた。
それを見たフリントは決闘盤を銃に変形させると、照準を中心のシルクハットに向ける。
「俺の眼は騙せんぞ! ヴォルカニック・デビル! 中心のシルクハットを狙え! 【ヴォルカニック・キャノン】!」
ヴォルカニック・デビルが中心のシルクハットに火炎岩を放つと、シルクハットごと中にいたセットモンスター《ビッグ・シールド・ガードナー》を消し飛ばす。
DEF:2600 レベル4
「ヴォルカニック・デビルの効果発動! 戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、相手の場のモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの数×500ポイントのダメージを相手に与える! 〈ヴォルカニック・チェーン〉!」
ヴォルカニック・デビルが咆哮を上げると、遊戯の場から火柱が上がり、残ったシルクハットを焼き尽くした。
「うう……! シルクハットの下に隠した装備魔法《魔術の呪文書》の効果発動! 場から墓地に送られた時、自分のLPを1000ポイント回復する!」
遊戯 LP:4000→3000→4000
「(効果ダメージは防がれたか) ならばヴォルカニック・ロケットで直接攻撃! 【ヴォルカニック・チャージ】!」
続けてヴォルカニック・ロケットが遊戯に向かって一直線に突っ込む。
「うわぁぁぁ!?」
遊戯 LP:4000→2100
「俺はカードを伏せ、ターンエンド」
LP:4000
手札:2
モンスター
・ヴォルカニック・ロケット
・ヴォルカニック・デビル
魔法・罠
・セット
「いてて……強いねフリント君。ようし、僕も負けないぞ! 僕のターン!」
遊戯 手札:3→4
攻撃の反動で倒れた遊戯が立ち上がり、カードをドローして確認すると、それをフリントに向かって見せる。
「永続魔法《凡骨の意地》の効果発動! ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、そのカードを相手に見せる事でもう1枚ドローする事ができる! 僕が引いたカードは通常モンスター《
遊戯 手札:4→5
「ドローしたカードは通常モンスター《
遊戯 手札:5→6
「(手札を一気に増加させてくるか。だが増えたのは効果を持たない通常モンスター。一体どんな手を使ってくる?)」
フリントが身構えると、遊戯は新たに加わった2枚と元々手札にあった2枚を手札から取り出す。
「手札から《磁石の戦士α》、《
遊戯の場に体が磁石のパーツで構成された3体の磁石の戦士が現れると、それぞれがバラバラに分離し、1体の磁石の戦士として組みあがっていく。
「――――手札から《磁石の戦士マグネット・バルキリオン》を特殊召喚!」
ATK:3500 レベル8
「ヴォルカニック・デビルを上回るだと……!?」
「マグネット・バルキリオン! 【
マグネット・バルキリオンが手に持った剣を振り上げ、ヴォルカニック・デビルを斬り伏せる。
「く……!」
フリント LP:4000→3500
「カードを伏せてターンエンド!」
LP:2100
手札:1
モンスター
・磁石の戦士マグネット・バルキリオン
魔法・罠
・セット
・凡骨の意地
「(マグネット・バルキリオンには驚かされたが、それだけだな……) 俺のターン!」
フリント 手札:2→3
「(データとは言え、まだこんなものではないはず。”最強の決闘者”の実力、見せてみろ!) 《磁石の戦士マグネット・バルキリオン》をリリース! 相手の場に《ヴォルカニック・クイーン》を特殊召喚!」
フリントが決闘盤を銃に変形させ、ソリッドビジョンの弾丸をマグネット・バルキリオンに向かって撃つと、弾丸が命中したマグネット・バルキリオンが炎に包まれる。
「マグネット・バルキリオン!?」
マグネット・バルキリオンを包む炎が一気に燃え上がると、その中から”ヴォルカニック・クイーン”が姿を現し、防御体勢を取った。
DEF:1200
「バトル! ヴォルカニック・ロケットでヴォルカニック・クイーンを攻撃!」
ヴォルカニック・ロケットがヴォルカニック・クイーン目掛けて突撃し、胴体を貫いて破壊する。
「カードを伏せてターンエンドだ」
LP:3500
手札:1
モンスター
・ヴォルカニック・ロケット
魔法・罠
・セット
・セット
「僕のターン!」
遊戯 手札:1→2
「《凡骨の意地》の効果発動! ドローしたのは通常モンスター《デーモンの召喚》! さらに1枚ドロー!」
遊戯 手札:2→3
「魔法カード《闇の誘惑》! デッキからカードを2枚ドローし、手札から闇属性モンスター1体をゲームから除外する! 《デーモンの召喚》をゲームから除外!」
遊戯 手札:2→4→3
「永続罠《闇次元の解放》を発動! ゲームから除外されている自分の闇属性モンスターを1体特殊召喚する! 《デーモンの召喚》を特殊召喚!」
遊戯の場の空間が歪むと、その歪みの中から1体の上級悪魔が姿を現す。デュエルモンスターズ最初期のモンスターでありながらも衰えを見せず、遊戯を支え続け、共に戦ってきた上級モンスターの1体、”デーモンの召喚”である。
ATK:2500 レベル6
「さらに手札を1枚捨て、《THE トリッキー》を特殊召喚!」
捨てたカード
マジシャン・オブ・ブラックカオス
続けて遊戯の場にマントを羽織り、顔と胸に?マークを付けた道化師が現れる。
ATK:2000 レベル5
「上級モンスターを2体揃えただと……!」
「バトル! デーモンの召喚でヴォルカニック・ロケットを攻撃! 【魔降雷】!」
デーモンの召喚が体から電撃を発すると、ヴォルカニック・ロケットを一瞬で灰に変える。
「く……!」
フリント LP:3500→2900
「トリッキー! 直接攻撃!」
「罠カード《ガード・ブロック》を発動! ダメージを0にして1枚ドロー!」
トリッキーはフリントに飛びかかる構えを見せたが、無駄だと判断したのか動きを止めてしまう。
フリント 手札:1→2
「僕はこれでターンエンド!」
LP:2100
手札:1
モンスター
・デーモンの召喚
・THE トリッキー
魔法・罠
・闇次元の解放
・凡骨の意地
「やるな……こうでなければ! 俺のターン!」
フリント 手札:2→3
「罠カード《強欲な瓶》を発動! デッキからカードをドロー!」
フリント 手札:3→4
「手札を2枚捨て、魔法カード《魔法石の採掘》を発動! 自分の墓地から魔法カード1枚を手札に加える! 《ブレイズ・キャノン》を手札に!」
捨てたカード
ヴォルカニック・リボルバー
ヴォルカニック・エッジ
フリント 手札:3→1→2
「さらに《炎帝近衛兵》を召喚!」
続けて現れたのは”炎帝近衛兵”。長い胴体をうねらせながら鋭い眼で遊戯を睨みつける。
ATK:1700 レベル4
「炎帝近衛兵の効果発動! 召喚に成功した時、自分の墓地に存在する炎族4体を選択。選択したモンスターをデッキに戻し、デッキから2枚ドローする!」
デッキに戻したカード
ヴォルカニック・エッジ
ヴォルカニック・クイーン
ヴォルカニック・ロケット
ヴォルカニック・リボルバー
フリント 手札:1→3
「魔法カード《死者蘇生》を発動! 墓地から《ヴォルカニック・デビル》を特殊召喚!」
地面を割り、”ヴォルカニック・デビル”が再び地上へ這い出てくる。その眼には破壊された事に対する復讐の炎が燃えていた。
ATK:3000 レベル8
「バトル! ヴォルカニック・デビルでトリッキーを攻撃! 【ヴォルカニック・キャノン】!」
ヴォルカニック・デビルがトリッキーに火炎岩を放ち、破壊する。
「うわぁぁぁ!?」
遊戯 LP:2100→1100
「まだだ! 〈ヴォルカニック・チェーン〉!」
続けて火柱がデーモンの召喚を焼き尽くす。
「うう……!」
遊戯 LP:1100→600
「これで止めだ! 炎帝近衛兵で直接攻撃!」
「くっ……まだだよ! 手札から《クリボー》の効果を発動! 戦闘ダメージを一度だけ0にする!」
遊戯は突進してくる炎帝近衛兵を前に最後の手札を墓地に送ると、炎帝近衛兵の周りに毛むくじゃらの可愛らしい悪魔、”クリボー”が大量に現れ行く手を阻む。炎帝近衛兵は追い払おうとするが、クリボーは増える一方。どうしようもなくなった炎帝近衛兵はフリントの場へ引き返し、それと同時にクリボーは全て消滅した。
「凌がれたか……カードを伏せてターンエンド!」
LP:2900
手札:1
モンスター
・炎帝近衛兵
・ヴォルカニック・デビル
魔法・罠
・セット
「(武藤 遊戯……強い決闘者ではあったが、これが本当に”最強の決闘者”なのか……?)」
遊戯の実力に疑問を感じるフリント。
その時、フリントは遊戯の様子がおかしい事に気付く。遊戯が目を閉じ、首に下げている逆四角錐のペンダントに両手をかざしていのだ。
「何だ……? ……!?」
突然遊戯のペンダントが光を放つ。あまりの眩しさに思わずフリントは腕で顔を覆った。
「一体……何!?」
目を開けたフリントが見たものは、遊戯であるが遊戯ではない者。先程と顔付きが変わっており、凄まじい威圧感を放っている。もはや先程の遊戯とは”別人”である――――対峙しているフリントにはそれがよく解った。
「(誰だこれは!? 明らかに違う……!)」
「フリント、勝負はここからだ。俺の決闘を見せてやる。さあ行くぜ! 俺のターン! ドロー!」
遊戯 手札:0→1
不敵な笑みを浮かべ、勢いよくデッキからカードをドローする遊戯。ピンチだというのにその表情には焦りが無い。それどころか溢れんばかりの”自信”に満ちている。
「(どういう事だ……まさか!?)」
フリントはフレアが言っていた言葉を思い出す。
遊戯さんはね、決闘する時に”変わる”のよ! まったく別人みたいになっちゃうらしいわ
”名も無きファラオの魂”を持っていたんだって!
「(”名も無きファラオ”……!?)」
「《凡骨の意地》の効果発動! ドローしたのは通常モンスター《クィーンズ・ナイト》! よって続けてカードをドロー! さあ続けて行くぜ!」
遊戯 手札:1→2
「ドロー! 通常モンスター!」
引いたカード:幻獣王ガゼル
「ドロー! 通常モンスター!」
引いたカード:ホーリー・エルフ
「ドロー! 通常モンスター!」
引いたカード:ジャックス・ナイト
「ドロー! 通常モンスター!」
引いたカード:アクア・マドール
「ドロー! 通常モンスター!」
引いたカード:ブラック・マジシャン
「(何回ドローする気だ……?)」
「ドロー!」
遊戯 手札:2→7
1回のドローフェイズで計7枚のカードをドローした遊戯。だが手札には効果を持たない通常モンスターばかりであり、とてもこの状況を打開できそうにない。だが遊戯の顔は笑みを浮かべたままであった。
「魔法カード《手札抹殺》! お互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分だけカードをドローする!」
そう言うと遊戯は大量の手札を捨て、その枚数分だけデッキからカードをドローする。フリントも手札の《ブレイズ・キャノン》を捨て、デッキから1枚ドローした。
遊戯 手札:0→6
フリント 手札:0→1
「(手札交換……通常モンスターだらけの手札が瞬く間に新戦力か……!)」
「こいつはカード効果で手札に加わった時、場に特殊召喚出来るぜ! 《ワタポン》を特殊召喚!」
遊戯の場に丸い綿の様なモンスターが現れる。見た目は愛らしいが、戦闘能力は殆ど無い。
ATK:200
「……フリント、どうやらこのターンで決着が付きそうだ。引いたぜ! 逆転のカードを!」
「……来るなら来い! 簡単にはやらせんぞ!」
フリントは決闘盤を構え直す。遊戯に逆転の策があるように、フリントにも何か手があるようだ。
「行くぜ! 魔法カード《死者蘇生》! 俺の墓地からモンスターを特殊召喚する!」
遊戯がそう宣言すると、遊戯の場に魔法陣が現れる。そこから強大な魔力が溢れ出てきていた。
「現れよ! 我が最強の僕! 《ブラック・マジシャン》!」
魔法陣から姿を現したのは紫の魔導着を身に纏った魔術師。この魔術師こそが決闘王”武藤 遊戯”の象徴であり、彼が最も信頼するエースモンスター”ブラック・マジシャン”である。
ATK:2500 レベル7
「ブラック……マジシャン……」
フリントの脳裏に浮かぶのは、漸く機嫌を直し、借りたオカルト本を胸に抱いて歩くフレアの姿。そして、その時に言っていたフレアの言葉が再生される――――
遊戯さんの切り札は”ブラック・マジシャン”って言ってね、凄く強い訳じゃないんだけど、遊戯さんが使うと絶対に負けないって言われてるんだよね! 凄いよね~私もそうやってカードの力を引き出せる決闘者になりたいなぁ~!
「(こいつが切り札か!) そうはさせん! 罠カード《奈落の落とし穴》を発動! 相手が攻撃力1500以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時、その攻撃力1500以上のモンスターを破壊しゲームから除外する!」
フリントが罠を発動させると、ブラック・マジシャンの足元に大きな穴が開く。その穴はとにかく深く、地獄まで繋がっているように見えた。その穴がブラック・マジシャンを吸い込もうと音を立て始める。
「(これでブラック・マジシャンは――――!?)」
フリントが遊戯の顔を見ると、そこには変わらぬ不敵な笑みがあった。
「フリント、お前の手は読めていたぜ。お前は強い決闘者だ。だからこそ有利な時でも油断せず、俺への罠を張ってくる、とな……だが残念だったな! 俺の手にはそれを撃ち破るカードがある!」
遊戯は手札からカードを1枚の魔法カードを取り出し、発動させた。
「手札から速攻魔法《突撃指令》! 自分の場に存在する 通常モンスター1体を生贄に捧げ、相手の場のモンスター1体を破壊する!」
「!? しまった!?」
フリントの罠に対して遊戯が発動させたのは速攻魔法”突撃指令”。これにより罠をかわし、さらにフリントの強力なモンスターを破壊できるのだ。
「突撃指令! ブラック・マジシャン! ヴォルカニック・デビルを破壊せよ! 【
ブラック・マジシャンが杖を振り回し、先をヴォルカニック・デビルへと向けると杖から黒い波動を放つ。波動は見事ヴォルカニック・デビルに命中し、跡形も無く消し飛ばした。その後、力を使い果たしたのかブラック・マジシャンは消滅してしまう。
「く……ヴォルカニック・デビル……だがこれでブラック・マジシャンも消えた――――」
「それはどうかな?」
「何……!?」
「魔法カード《
その瞬間、フリントの墓地からカードのソリッドビジョンが飛び出す。遊戯はそれを手に取り、発動させた。
「――――《死者蘇生》! 蘇れ! 《ブラック・マジシャン》!」
フリントの場に再び姿を現すブラック・マジシャン。”甘い”と言わんばかりにフリントに対して人差し指を立て、左右に振る。
ATK:2500 レベル7
捨てた魔法
サイクロン
「そしてまだ俺には通常召喚が残されている! ワタポンを生贄に、来い! 《ブラック・マジシャン・ガール》!」
ワタポンが光の中へと消えると、その光の中から青い特徴的な魔導着を着た可憐な少女が現れる。彼女がブラック・マジシャン唯一の弟子であり、その力を受け継ぐ魔術師、”ブラック・マジシャン・ガール”である。
場に降り立つと師匠と頷きあい、同時にフリントに対して杖を構えた。
ATK:2000 レベル6
「ブラック・マジシャン・ガールの効果! お互いの墓地に存在する”ブラック・マジシャン”と”マジシャン・オブ・ブラック・カオス”1体に付き、攻撃力が300ポイントアップする! 俺の墓地にはトリッキーの効果で墓地に捨てたマジシャン・オブ・ブラック・カオスが1体存在する! よって攻撃力を300ポイントアップ!」
ATK:2000→2300
「(……これが”最強の決闘者”)」
フリントの場には攻撃力1700の炎帝近衛兵が1体のみ、LPは2900、伏せカードも存在しない。フリントに遊戯の攻撃を防ぐ手はもう残されていなかった。
「(……武藤 遊戯、いい決闘だった。お前との決闘の記憶は、俺の魂の奥深くに刻まれた。決して忘れることはないだろう)……さあ来い!」
フリントがそう言って決闘盤を堂々と構える。負けが決まっても、フリントは最後まで決闘者としての姿勢を崩さなかった。
「バトル! ブラック・マジシャン・ガールで炎帝近衛兵を! ブラック・マジシャンで相手プレイヤーを攻撃! 【
ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールがお互いの杖を交差させると、その交差点に二人の魔力を集中させ、フリントに向かって一気に放出させる。放たれた魔力は炎帝近衛兵を消し飛ばし、フリントを飲み込んだ。
「ぐうぅ……くっ……!」
フリント LP:2900→2300→0
決闘が終了し、モンスター達のソリッドビジョンが消える。
「フリント、いい決闘だったぜ」
「ああ……今度は俺が勝たせてもらうぞ」
その瞬間、フリントの視界が暗転する。シミュレーターが終了したのだ。
フリントはゴーグルを外し、それを遊星に手渡す。
「とんでもない相手をぶつけてくれたな遊星。だが礼を言う。楽しかったぞ」
「フリント、いい決闘だったな」
その時、階段を慌しく下りる音が聞こえて来る。二人が振り向くと、同じく決闘を終えたフレアが二階から下りて来ていた。フレアは階段を下り切ると、フリントの前まで駆け寄り右手の人差し指と中指をフリントの目の前に突き出す。
「ガッチャ! フリントどうだった? 勝てた?」
「何だその掛け声は……完敗だ。お前の言う通り、武藤 遊戯は強かったな」
「え!? フリントは遊戯さんと決闘したの!? どうだった? サイン貰った? ブラマジ出た?」
「落ち着け。 お前の相手は違うのか?」
「私は遊城 十代って人だったよ。凄く強かったの! 負けちゃったけど……凄く楽しかった! 決闘してみて思ったんだけど、多分あの人遊戯さんにも負けないくらい強い人なんじゃないかな?」
「……成る程。そっちも遊星が用意した”最強クラスの決闘者”だったという事か。……遊星、教えてくれ。過去での事、そして俺達が戦った決闘者達のこともな」
「ああ、勿論だ。話そう」
遊星は過去での出来事を話し始める。
過去の英雄”遊城 十代”と”武藤 遊戯”との出会い。そして、未来からやってきた仮面のDホイーラー”パラドックス”との死闘――――
「パラドックスは何れ世界が崩壊し、”破滅の未来”を迎えると言っていた。そしてその原因がデュエルモンスターズにあると考え、その存在を抹消しようとしていたんだ」
「そんな……世界が滅んじゃうなんて……」
フレアは不安そうに胸を押さえながら、隣のフリントに眼を向ける。フリントは声も発さず、顔を強張らせていた。
「二人共、心配する事は無い。そんな未来は俺達が少しずつ変えていけばいい。人には未来を変える”力”がある。それを証明する為に、俺は遊戯さん、十代さんと共にパラドックスと戦った」
パラドックスは各時代の最強カードを元にした”Sin”モンスターを操り、遊星達を苦しめた。しかし遊星は十代、遊戯との絆の力による連携でスターダスト・ドラゴンを取り返し、見事勝利を掴み取る。
「……遊戯さんも、十代さんも、素晴らしい決闘者だった。俺はそんな二人の決闘を皆に知ってほしくて、このシミュレーターを作った」
「そうだったんだ……凄かったよ十代さん! しかもゲームセンターにあるのよりずっとリアルで! 作るの大変だったでしょ?」
「ああ。プログラミング自体も大変だったが、彼等のデータ収集にも苦労した。遊戯さんはともかく、十代さんは本当に資料が少なくてな。仕方が無いから万丈目グループからデータを買い取った。そのせいでクロウに申し訳ないほどの金を出させてしまったが……」
「そういう事だったんだね。言ってくれれば僕も手伝ったのに」
遊星達が話していると、二階からブルーノがシミュレーターのノートパソコンを持って下りてくる。
「すまないブルーノ。お前に手伝わせたらエンジン開発ができなくなるからな。俺の我侭でエンジン開発を止める訳にはいかない。それに、これだけは俺の手で完成させたかったというのもあったんだ」
「成る程ね。それにしても凄いね遊星。僕はフレアとの決闘を見てたけど、あれはプログラムデータとは思えない程だったよ!」
「思ったより上手くできた。ここのプログラムが――――」
話が終わると、遊星とブルーノは技術者の世界を作り出す。暫くは話しかけても無駄であろう。
「……フリント、私達の世界に”破滅の未来”なんて、絶対に来ないよね?」
フレアはフリントのマントを引く。”決闘巫女”としての勘がそうさせているのか、不安が拭えないようだ。
「……そうさせないのが、俺達の役目だ。現在を生きる俺達が世界を守り、遊星の言う様に未来を変えて行けばいい。……武藤 遊戯や、遊城 十代がそうして来た様にな」
「……うん! よーし、それなら十代さんに負けないくらい強くならなくちゃね! フリント! ライディング・デュエルしにいこう!」
そう言ってガレージから飛び出してゆくフレア。フリントはゆっくりとその後を追う。
二人は伝説の決闘者との決闘の余韻と昂りを残したまま、夕暮れのハイウェイでDホイールを走らせるのであった。
うーん、何というか……十代も遊戯もご都合全開でしたね(汗)
あんなことさせられるデッキ構造になっていたので、甘えてしまいました。
作中で明らかに年上であるフリントを遊戯が君付けで呼んでいたのはプログラムの会話パターンの都合という設定です。