遊戯王5D's ~荒野のデュエリスト~   作:鬼柳高原

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第37話 煉獄の番人

 

 フレアとクロウの決闘が終わり、入れ替わってデュエルレーンに入ったのはフリントとアキ。既に二人はスタート位置についている。

 フレアとクロウは双子と共に入口の前で対戦する二人の様子をそれぞれのモニターから見ていた。

 

「そういやフリントのライディング・デュエルは初めて見るぜ。ライディングテクがすげぇのは知ってるが、決闘の方はどれ位の実力なんだ?」

 

「私が一度も勝てたことが無いくらい……」

 

「マジかよ!?」

 

「マジマジ。対策して”プリベントマト”とかデッキに入れたのになぁ」

 

 一方、こちらはデュエルレーン。フリントはフレア程ライディングに慣れ切っていないアキの為に、共に最後の確認を行っていた。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ、ありがとうフリント。始めましょう」

 

「「《スピード・ワールド2》、セット!」」

 

 準備を終えた二人は共に”スピード・ワールド2”を発動させる。

 

「アキ、一つ言っておく。この決闘はゴーストとの戦いだと思って挑め」

 

「解っているわ。その為の特訓だもの」

 

「解っているならいい。シンクロモンスターの扱いには気を付けろ。先の決闘でフレア達が言い合っていたように、ゴーストはどんな手を使ってでも俺達からシンクロモンスターを奪いに来る。”ゴースト”である俺の動きには用心することだ」

 

「……ええ、解ったわ! ライディング・デュエル――――」

 

 

 

「「アクセラレーション!!!」」

 

 

 

 対ゴースト特訓二戦目。フリントとアキのライディング・デュエルが始まる。

 アキは決闘の腕こそ一級品だがライディングに関してはまだまだであり、Dホイールも中古パーツを組み合わせた急造品。それに対してフリントは高いライディング技術を持ち、Dホイールも未知数な程の高性能機。どちらが先攻を取れるかは目に見えている。

 案の定、フリントがアキを大きく引き離して先攻を取った。

 

「俺のターン!」

 

 フリント 手札:5→6

 

 フリント SPC:0→1

 アキ   SPC:0→1

 

「モンスターをセット。カードを3枚伏せターンエンド!」

 

LP:4000

SPC:1

手札:2

モンスター

・セット

魔法・罠

・セット

・セット

・セット

 

「私のターン!」

 

 アキ 手札:5→6

 

 フリント SPC:1→2

 アキ   SPC:1→2

 

「チューナーモンスター《夜薔薇の騎士》を召喚!」

 

 アキの場に現れたのは薔薇の少年騎士、”夜薔薇の騎士”。場に現れた瞬間、隣を剣で指し示す。

 

 ATK:1000 レベル3

 

「夜薔薇の騎士の効果発動! 召喚に成功した時、手札からレベル4以下の植物族1体を特殊召喚する事ができる! 手札から《返り咲く薔薇の大輪(リバイバル・ローズ)》を特殊召喚!」

 

  夜薔薇の騎士の隣に現れたのは3輪の巨大な薔薇。花の中心には水晶の様なものが埋め込まれていて、花に目が付いている様に見える。

 

 ATK:1300 レベル4

 

「レベル4《返り咲く薔薇の大輪》に、レベル3《夜薔薇の騎士》をチューニング!」

 

 夜薔薇の騎士が自身を3つの光輪へと変え、返り咲く薔薇の大輪を囲み、4つの光、そして光の柱へと変える。

 

「冷たい炎が、世界の全てを包み込む……漆黒の花よ、開け! シンクロ召喚! 現れよ! 《ブラック・ローズ・ドラゴン》!」

 

 光の柱から現れたのはアキのエースモンスターにして切り札である”ブラック・ローズ・ドラゴン”。その大きな花弁の翼を広げ、フリントを威嚇する。

 

 ATK:2400 レベル7

 

「来た! アキちゃんのエースモンスターだ!」

 

「こいつが決闘に出てくるのは初めて見たぜ。さあて、どう攻める?」

 

 アキとダークシグナー戦終盤で知り合ったクロウはまだ彼女のエースである”ブラック・ローズ・ドラゴン”の戦いを見た事が無い。今日初めてその”恐るべき能力”を目の当たりにする事となる。

 

「ブラック・ローズ・ドラゴンの効果発動! 1ターンに一度、自分の墓地の植物族1体をゲームから除外し、 相手の場に守備表示で存在するモンスター1体を表側攻撃表示に変更! そして攻撃表示となったモンスターの攻撃力を0にする! 〈ローズ・リストリクション〉!」

 

 除外したカード

 返り咲く薔薇の大輪

 

 ブラック・ローズ・ドラゴンは目の前に現れた返り咲く薔薇の大輪を捕食すると、体から棘の触手を伸ばし、フリントの場にセットされていたモンスターをカードの中から引きずり出す。

 現れたのはボロボロな姿のロボット。ブラック・ローズ・ドラゴンの棘が体に巻きつき、軋みを上げる。

 

 ジェネクス・サーチャー ATK:1600→0

 

「バトル! ブラック・ローズ・ドラゴンで攻撃! 【ブラック・ローズ・フレア】!」

 

 ブラック・ローズ・ドラゴンは口から黒い火炎を動けないジェネクス・サーチャーに向かって放ち、爆散させる。

 

「罠カード《ガード・ブロック》! ダメージを0にして1枚ドローする! そして戦闘破壊されたジェネクス・サーチャーの効果発動! デッキから攻撃力1500以下のジェネクスを1体、攻撃表示で特殊召喚できる! 来い! チューナーモンスター《ジェネクス・コントローラー》!」

 

 フリント 手札:2→3

 

 ジェネクス・サーチャーに代わって場に現れたのは小さな子供の様なロボット。その名の通り、頭部がラジコンなどのコントローラーに見えなくもない。

 

 ATK:1400 レベル3

 

「(防がれた上に、チューナーが……) カードを4枚伏せて、ターンエンド!」

 

LP:4000

SPC:2

手札:0

モンスター

・ブラック・ローズ・ドラゴン

魔法・罠

・セット

・セット

・セット

・セット

 

「俺のターン!」

 

 フリント 手札:3→4

 

 フリント SPC:2→3

 アキ   SPC:2→3

 

「……行くぞ! 《Sp-スピード・フュージョン》を発動! SPCが2つ以上存在する場合、手札・場から決められた融合素材を墓地へ送り、融合召喚を行う! 手札の機械族《ブローバック・ドラゴン》と炎族《ジェネクス・ヒート》を融合! 現れろ! 《重爆撃禽 ボム・フェネクス》!」」

 

 フリントの頭上に空間の渦が現れると、その中から”重爆撃禽 ボム・フェネクス”が姿を現す。

 

 ATK:2800 レベル8

 

「融合召喚!? (でも攻撃力は2800……これなら!)」

 

 アキの場に伏せられているセットカードの1枚は罠カード”シンクロ・ストライク”。自分の場のシンクロモンスターの攻撃力を使用したシンクロ素材の数×500ポイントアップさせるカードであり、アキはこれでボム・フェネクスを迎え撃つつもりである。

 

「ボム・フェネクスの効果発動! 場に存在するカード1枚につき、300ポイントのダメージを相手に与えることができる! 場には合計9枚。よって2700ポイントのダメージを与える! 〈不死魔鳥大空襲〉!」

 

 ボム・フェネクスの胸部にある口から無数の火炎を纏った砲弾が放たれると、フリントの後方を走るアキに向かって降り注ぐ。

 アキは覚えたてのライディング技術でそれらをかわそうとするが、かわし切れず幾つか被弾してしまった。

 

「くっ……きゃあ!?」

 

 アキ LP:4000→1300

 

「この効果を使用したターン、ボム・フェネクスは攻撃できない。だが……《Sp-融合解除》を発動! 融合を解除し、素材一組を特殊召喚する!」

 

 ボム・フェネクスが空間の渦の中へ飲み込まれていくと、その渦の中から融合素材の2体が現れ、場に下りてくる。

 1体は頭部が自動式拳銃の様になっている機械のドラゴン。もう1体は溶鉱炉の様な形をしたロボットで、背中に煙突が付いている。

 

 ブローバック・ドラゴン ATK:2300 レベル6

 ジェネクス・ヒート   ATK:2000 レベル5

 

「分離!? だけど、その2体じゃブラック・ローズ・ドラゴンの攻撃力に届かないわ!」

 

「届かなくとも破壊はできる。 ブローバック・ドラゴンの効果発動! コイントスを3回行い、その内2回以上が表だった場合、相手の場のカード1枚を破壊する」

 

 フリントが宣言すると、フリントの前方にコインのソリッドビジョンが3枚現れ、高速で回転し始める。

 フリントは前もってDホイールと連動させていた決闘銃を抜くと、3枚のコインに向かって引き金を3回引いた。

 

「……そう上手くはいかないか」

 

「ふう……」

 

 表側を撃ち抜かれたコインは1枚。ブローバック・ドラゴンの効果は不発に終わった。

 アキが安堵した様に息を吐く。

 

「安心するのは早いぞ。場にいる《ジェネクス・ヒート》を手札に戻し、手札からチューナーモンスター《A・ジェネクス・バードマン》を特殊召喚!」

 

 突然フリントの場にいるジェネクス・ヒートが風に包まれて姿を消すと、その場に鳥人の様な姿をした小柄なロボットが現れる。

 

 ATK:1400 レベル3

 

「この効果で特殊召喚されたバードマンは場から離れた時、ゲームから除外される。……行くぞ! レベル6《ブローバック・ドラゴン》に、レベル3《A・ジェネクス・バードマン》をチューニング!」

 

 A・ジェネクス・バードマンが自身を3つの光輪へと変え、ブローバック・ドラゴンを囲み、6つの光、そして光の柱へと変える。

 

「R-GSシステム、起動! レアル融合炉、反応良し! ……(くろがね)の心に火を燈し、進撃の狼煙を上げ、いざ戦場へ! シンクロ召喚! 進め! 《レアル・ジェネクス・クロキシアン》!」

 

 光の柱から現れたのは蒸気機関車をモチーフとした人型起動兵器。起動音を鳴らして胸の動力部を光らせると、背中の煙突から黒煙を噴出させる。

 

 ATK:2500 レベル9

 

「(これがフリントのシンクロモンスター……でも攻撃力はボム・フェネクスよりも低い!)」

 

「クロキシアンの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、相手のレベルが一番高いモンスター1体のコントロールを得る! 〈ピリッジ・マニューバ〉!」

 

  レアル・ジェネクス・クロキシアンが両腕を前に上げて音波を放つと、ブラック・ローズ・ドラゴンがアキの側を離れてフリントの場に付く。

 

「ブラック・ローズ・ドラゴン!?」

 

「このカードは自分の場に”ジェネクス・コントローラー”が存在する場合、リリース無しで召喚できる。再び現れよ! 《ジェネクス・ヒート》!」

 

 再びフリントの場に”ジェネクス・ヒート”が現れる。

 

 ATK:2000 レベル5

 

「レベル5《ジェネクス・ヒート》に、レベル3《ジェネクス・コントローラー》をチューニング!」

 

 ジェネクス・コントローラーが自身を3つの光輪へと変え、ジェネクス・ヒートを囲み、5つの光、そして光の柱へと変える。

 

「GSシステム、起動! コントロール・ユニット、セット! ……内に秘めたる青き炎よ! 命を燃やし、力へと変えよ! シンクロ召喚! 燃え上がれ! 《サーマル・ジェネクス》!」

 

 光の柱から現れたのは火力発電機をモチーフとした人型起動兵器。起動音を鳴らすと、機体中から水蒸気を噴射させる。

 

 ATK:2400 レベル8

 

「おいおい!? フリントの奴、1ターンで最上級シンクロ2体を場に並べた上、アキのブラック・ローズを奪って最上級3体にしちまった!? ……これだけの戦術持ってんのに、どうしてスタンディングじゃシンクロを使わねぇんだ?」

 

「私もそう思って聞いてみたんだけど、”これでいい”って。フリントにも”こだわり”があるみたい」

 

「そんなもんか? 何かもったいねぇなぁ……」

 

 クロウには理解し難いようだが、フレアにはよく解る。彼女も周囲の言葉を聞き流し、”こだわり”を貫いてきた決闘者だからだ。

 

「それにしてもフリント容赦ないなぁ。クロキシアンだけでもアキ姉ちゃんを倒せるのに、わざわざあんなにシンクロモンスターを並べるなんて」

 

「でも龍亞。こんな感じじゃなかった? 私達が”機皇帝”と戦った時って」

 

「え?」

 

「ルチアーノの場を埋め尽くす”機皇帝”の迫力、エンシェント・フェアリーを吸収された時の心細さ、恐怖……今、アキさんも同じ心境だと思うの。フリントさんは、ゴーストとの決闘を再現しようとしてるんじゃないかしら?」

 

「あ……!」

 

 龍可の言葉を聞いて、龍亞はもう一度場の状況を見直す。

 フリントの場に強力な最上級モンスターが並んでアキを威圧する中、アキはブラック・ローズ・ドラゴンを奪われ、それを相手の戦力として利用されている。

 一瞬で開いた、圧倒的な戦力差。これは”機皇帝”と戦った者が経験する状況であった。

 

「アキ、スタート前に言ったな? ”ゴーストである俺の動きに用心しろ”と。だがお前はあっけなくシンクロモンスターを奪われる結果となった」

 

「…………」

 

「だが、問題は奪われたか奪われなかったかではない。如何にして”シンクロキラー”を乗り越えられるかだ。……この状況、巻き返して見せろ」

 

 フリントがそう言うと、アキは笑みを浮かべる。

 

「フリント、私もスタート前に言ったわね? ”解ったわ”、って。……乗り越えて見せるわ! ”ゴースト”との決闘を!」

 

 アキが迷いなく言い切ると、フリントも同様に笑みを浮かべ、攻撃体勢に移る。

 

「……行くぞ! バトル! サーマル・ジェネクスは自分の墓地に存在する炎属性1体につき、攻撃力を200ポイントアップさせる。【サーマル・スチーム】!」

 

 ATK:2400→2600

 

 サーマル・ジェネクスは両腕をアキに向けると、そこから高温の水蒸気を放つ。

 

「(私だって、ダークシグナーとの戦いを乗り越えられた。遊星達と、そして”ブラック・ローズ・ドラゴン”と共に……)」

 

 アキはフリントの場にいるブラック・ローズ・ドラゴンを一瞥する。もはやこのドラゴンは破壊の為の道具ではなく、アキの掛け替えの無いエースモンスターなのだ。

 

「(私とブラック・ローズ・ドラゴンの”絆”が、突破口を開く!) 罠カード《戦友(とも)の誓い》! エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが自分の場に存在しない場合、相手の場に表側表示で存在するエクストラデッキから特殊召喚されたモンスター1体のコントロールをエンドフェイズ時まで得る! 戻ってきて! 《ブラック・ローズ・ドラゴン》!」

 

 アキの呼びかけに応える様にブラック・ローズ・ドラゴンが羽ばたいて突風を起こすと、サーマル・ジェネクスが放った水蒸気を消し飛ばす。

 

「何……!?」

 

 その後、ブラック・ローズ・ドラゴンはアキの場へと戻った。

 

「さあフリント。私の場にモンスターが現れたから、直接攻撃は成立しないわ。ブラック・ローズ・ドラゴンに攻撃してくるかしら?」

 

「(……何を考えている?)」

 

 ブラック・ローズ・ドラゴンを一時的に取り返したところで、フリントの攻撃を防ぎ切ることはできない。だがアキの声には自信が溢れている。

 

「(罠か……?)」

 

 フリントがブラック・ローズ・ドラゴンより攻撃力が高い”ボム・フェネクス”を召喚した時、アキは驚きながらもすぐに落ち着きを取り戻していた。

 

「(間違いない。罠がある……)」

 

 ”除去系”の罠ではない。それならば直接攻撃の時点で使っているはずである。フリントはアキの場に”迎撃を可能にする強化罠”が仕掛けられていると読んだ。

 

「攻撃を中止する。ターンエンドだ!」

 

LP:4000

SPC:3

手札:0

モンスター

・レアル・ジェネクス・クロキシアン

・サーマル・ジェネクス

魔法・罠

・セット

 

「(待っていてブラック・ローズ・ドラゴン……必ずあなたを解放してみせる!)」

 

 ブラック・ローズ・ドラゴンはアキを一瞥し、視線を交わし合った後にフリントの場へ戻っていった。

 

「私のターン!」

 

 アキ 手札:0→1

 

 フリント SPC:3→4

 アキ   SPC:3→4

 

「SPCを4つ取り除き、《Sp-エンジェル・バトン》を発動! デッキからカードを2枚ドローし、手札を1枚墓地へ送る」

 

 アキ SPC:4→0 手札:0→2→1

 

「(! ……ごめんなさいブラック・ローズ・ドラゴン、乱暴なやり方だけど、これであなたを取り返せる!) 墓地に送った《アマリリース》の効果発動! このカードをゲームから除外することで、このターン一度だけ召喚に必要なリリースを1体分少なくする! これによりレベル6の《ローズ・テンタクルス》をリリース無しで召喚!」

 

 アキの場に現れたのは”ローズ・テンタクルス”。サイコ・パワーの具現として決闘以外でも自分を助けてきたこのモンスターなら、ブラック・ローズ・ドラゴンを解放させられる――――アキはそう確信していた。

 

 ATK:2200 レベル6

 

「永続罠《アイヴィ・シャックル》を発動! このカードが場に存在する限り、相手の表側表示モンスターは自分のターンのみ植物族となる。 ……バトル!  ローズ・テンタクルスでブラック・ローズ・ドラゴンを攻撃!」

 

 ローズ・テンタクルス――――そのモンスターについてはアキと決闘をしたフレアから入院中に散々聞かされていたフリント。そのローズ・テンタクルスが持つ効果と、予想しているアキの伏せカード――――

 

「(……強化カードからの連続攻撃!) 罠カード《ダメージ・トランスレーション》を発動!」

 

「!? ……ダメージステップ時に罠カード《鎖付き爆弾(ダイナマイト)》を発動! 発動後、このカードは攻撃力500ポイントアップの装備カードとなり、自分のモンスター1体に装備する!」

 

  ローズ・テンタクルスの体にダイナマイトが付けられた鎖が巻かれる。

 

 ATK:2200→2700

 

「【ソーン・ウィップ1】!」

 

 ローズ・テンタクルスが触手による強烈な一撃をブラック・ローズ・ドラゴンに叩き込み、破壊する。

 

「ぐっ…!」

 

 フリント LP:4000→3700

 

「ローズ・テンタクルスが戦闘によって植物族モンスターを破壊した場合、相手に300ポイントのダメージを与える!」

 

「ダメージ・トランスレーションの効果! このターン、自分が受ける効果ダメージは半分になる!」

 

 フリント LP:3700→3550

 

「ローズ・テンタクルスはバトルフェイズ開始時に相手の場に存在する植物族の数だけ、攻撃回数を増やすことができるわ! あなたの場の植物族は”アイヴィ・シャックル”の効果によりブラック・ローズ・ドラゴンを含めて3体! よってローズ・テンタクルスはこのターン4回攻撃ができる! サーマル・ジェネクスに攻撃! 【ソーン・ウィップ2】!」

 

 続けてローズ・テンタクルスは2本目の触手でサーマル・ジェネクスをなぎ倒し、破壊する。

 

「ぐう……!」

 

 フリント LP:3550→3450→3300

 

「レアル・ジェネクス・クロキシアンに攻撃! 【ソーン・ウィップ3】!」

 

 三度目の攻撃。ブラック・ローズ・ドラゴンを奪われた恨みがあるのか、ローズ・テンタクルスは触手を4本伸ばし、クロキシアンの四肢をもいでバラバラにしてしまった。

 

「くっ……!」

 

 フリント LP:3300→3100→2950

 

「フリントに直接攻撃! 【ラスト・ソーン・ウィップ】!」

 

 最後の攻撃。残った4本の触手がフリントを滅多打ちにする。

 

「ぐあぁぁぁ!?」

 

 フリント LP:2950→250

 

 フリントがバランスを崩し、イグニッションが減速した隙にブラッディー・キッスが追い越して前に出る。

 

「(あの罠さえなければ勝っていたのに……流石フリントね) ターンエンド!」

 

LP:1300

SPC:0

手札:0

モンスター

・ローズ・テンタクルス

魔法・罠

・アイヴィ・シャックル

・鎖付き爆弾(ローズ・テンタクルス)

・セット(シンクロ・ストライク)

 

「このエンドフェイズ時にダメージ・トランスレーションのもう一つの効果を発動! 受けた効果ダメージの回数と同じ数だけ自分の場にゴースト・トークンを守備表示で特殊召喚する! 受けた回数は3回! よって3体のゴースト・トークンを特殊召喚!」

 

フリントの場に黒い幽霊が3体現れ、フリントの周りを飛びまわる。

 

 DEF:0 レベル1

 DEF:0 レベル1

 DEF:0 レベル1

 

「凄いアキちゃん! あの状況から逆転して、フリントをここまで追い詰めるなんて!」

 

「本当だぜ! すげぇぞアキ! (これならWRGPで後ろを任せられるな)」

 

 アキの見事な逆転にフレアとクロウは称賛を送り、双子も興奮した様子で拍手をする。追い詰められたフリントも、その顔には悔しさではなく、嬉しさを表す微笑が浮かんでいた。

 

「俺のターン!」

 

 フリント 手札:0→1

 

 フリント SPC:4→5

 アキ   SPC:0→1

 

「アキ、見事だ。今の戦術は大量展開を行う”機皇帝”には有効な手だろう。これならばゴーストと十分渡り合える。……お前なら、これからもシグナーとして遊星達を助けて行けるだろう」

 

「フリント……」

 

「ここからはゴーストではなく、俺とお前の決闘だ。……行くぞ!」

 

「ええ! 望むところよ!」

 

「SPCを4つ取り除き、《Sp-エンジェル・バトン》を発動! デッキからカードを2枚ドローし、手札から1枚を墓地に送る」

 

 フリント SPC:5→1 手札:0→2→1

 

「チューナーモンスター《ブラック・ボンバー》を召喚!」

 

 フリントの場に顔の付いた大きな爆弾、《ブラック・ボンバー》が現れる。

 

 ATK:100 レベル3

 

「ブラック・ボンバーの効果発動! 召喚に成功した時、自分の墓地から機械族・闇属性・レベル4モンスター1体を選択。そのモンスターの効果を無効にし、守備表示で特殊召喚できる! 先程墓地へ送った《A・ジェネクス・ボルキャノン》を特殊召喚!」

 

 続けてフリントの場に背中に燃料タンクを背負い、右肩にキャノン砲を装備したロボットが現れる。

 

 DEF:800

 

「レベル4《A・ジェネクス・ボルキャノン》と、レベル1《ゴースト・トークン》に、レベル3《ブラック・ボンバー》をチューニング!」

 

 ブラック・ボンバーが自身を3つの光輪へと変え、ボルキャノンとゴースト・トークンを囲み、5つの光、そして光の柱へと変える。

 

「天国と地獄、その間……死者が彷徨う荒野の龍よ! 現世の全てを無に帰せ! シンクロ召喚! 煉獄より現れよ! 《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》!」

 

 光の柱から現れたのはフリントの謎多きシンクロモンスター、”煉獄龍 オーガ・ドラグーン”。

 この龍が現れた瞬間、シグナー達の痣が一斉に光り出す。

 

 ATK:3000 レベル8

 

「(な、何……あのドラゴン……)」

 

 龍可はオーガドラグーンを見た瞬間、身を貫くような寒気を感じた。グランソイルは正反対の感覚である。

 

『あれだ!』

 

「レグルス!? エンシェント・フェアリーに……エアトスも!?」

 

 気が付くと、龍可達の周りに精霊達が一斉に姿を現していた。レグルスもエアトスも、皆が遠くに見えるオーガ・ドラグーンを見据えている。

 まだ精霊という存在に慣れていないクロウはこの光景に飛び上がった。

 

「うおお!? な、なんじゃこりゃ!? せ、精霊って奴か!?」

 

「ど、どうしたのエアトス!? 皆まで……オーガ・ドラグーンがどうかしたの?」

 

 フレアがただ事ではない表情のエアトスに尋ねると、その横にいたレグルスが大声で叫ぶ。

 

『あれだ! あれがあの者と共にあった”威”の正体だ! あの龍は一体……』

 

「あれが……」

 

「ねえ何の話!? 龍可ちゃんは何か知ってるの?」

 

 状況が解らないフレアは、龍可から”フリントから感じる威”の話を手短に聞く。

 

「それがオーガ・ドラグーンで、エアトスはそれを警戒してフリントを避けていたのね……ねえエアトス? オーガ・ドラグーンって何なの? それが解ればフリントについて何か解るかも――――」

 

『いるはずがない……”煉獄の番人”の眷属が……何故この世界に……ッ!』

 

 エアトスに耳にフレアの言葉は届いていないらしく、エアトスは返事もせずに飛び上がり、オーガ・ドラグーンの側に近づく。

 

『”煉獄の番人”よ! オーガ・ドラグーンを通して聞いておられるでしょう!? 何故オーガ・ドラグーンがこの世界に存在しているのです!? 何故フリントという者と共にあるのです!? あなたがこの世界に干渉することは――――』

 

 エアトスはかなりの大声で訴えかけていたが、これ以降は遠ざかって聞こえなかった。

 

「どういうことなの……? えーと、エンシェント・フェアリー・ドラゴン。オーガ・ドラグーンって何なの? エアトスはオーガ・ドラグーンと何か関係があるの?」

 

『……”煉獄”。天と地の狭間にある荒野……死者が彷徨う試練の場……その地を統べるが”煉獄の番人”。それに仕えし”オーガ・ドラグーン”……ガーディアン・エアトスは、かつては人々と共に生き、命が尽きた人間の魂を導く役目を持った精霊でした……煉獄は魂が向かう場所の一つ、彼女とは深い関わりがあるのでしょう』

 

 そう言ってエンシェント・フェアリーはレグルスと共に姿を消す。フレアは再びエアトスへ視線を向けると、エアトスはまだオーガ・ドラグーンに語りかけていた。

 その様子を間近で見上げていたのはシグナーであるアキ。

 

「(あれはフレアの……精霊だったのね。あのドラゴンに何を話しかけているのかしら?)」

 

『答えてください! 何故あなたが――――』

 

 その瞬間、オーガ・ドラグーンが僅かに口を開く。

 

 

 

 

 

              小娘、お前の知ったことではない。

 

 

 

 

 

『!?』

 

 突き放す様な、冷たい口調。これ以上追求すれば、その鋭い牙か爪が飛んでくる。エアトスは本能でそれを感じ取り、言葉と動きを止めた。

 

『………』

 

 二台のDホイールと共に離れてゆくオーガ・ドラグーン。エアトスはそれを見送ると、静かにフレアの元へと戻って行った。

 

「(何だったの……今の。そしてこのドラゴン――――)」

 

「おい、アキ。どうした?」

 

 今のやり取りを呆然として見上げていたアキに、フリントが声をかける。

 

「え、あ……大丈夫、なんでもないわ。フリントこそどうしたの? 攻撃にも入らないで?」

 

「……いや、何でもない。行くぞ! バトル!」

 

 フレア達と精霊達が慌ただしかった時、フリントは異様な気配を感じ、周囲に気を巡らせていた。流石に大きな”力”を持つ精霊やオーガ・ドラグーンが一斉に姿を現せば、精霊を見る”力”がないフリントでも何かを感じるようであった。

 

「(またゴーストが現れた思ったが……気のせいか) オーガ・ドラグーンでローズ・テンタクルスを攻撃! 【煉獄の混沌却火】!」

 

 オーガ・ドラグーンが獄炎をローズ・テンタクルスに向かって放つと、ローズ・テンタクルスは一瞬で燃え尽き、消滅する。

 

「きゃあ!?」

 

 アキ LP:1300→1000

 

「ターンエンド!」

 

LP:250

SPC:1

手札:0

モンスター

・煉獄龍 オーガ・ドラグーン

・ゴースト・トークン

・ゴースト・トークン

魔法・罠

・無し

 

 一方その頃、外野のフレア達は落ち着きを取り戻していた。既にエアトスも姿を消している。

 

「この事、フリントに伝えんのか?」

 

「うーん……とりあえず、この事は私に任せておいて」

 

「龍可、大丈夫?」

 

「うん……ありがとう龍亞。ちょっと疲れちゃっただけ……」

 

 龍可はモニターから離れ、ベンチに腰掛けて休んでいた。精霊達との会話で体力を消耗してしまったのだろう。特に今回はエンシェント・フェアリーまでいたので、何時も以上に消耗しているはずである。龍亞は側について今にも眠りそうな龍可を支えている。

 

「龍亞君、この決闘が終わったら龍可ちゃん送ってってあげるよ。……さて、アキちゃんはどうやってオーガ・ドラグーンに対抗するのかな?」

 

 フレアはモニターに向き直る。アキの場にモンスターはいない。あるのは発動済みの”アイヴィ・シャックル”と伏せカードのみ。ここからどう巻き返すのか――――

 

「私のターン!」

 

 アキ 手札:0→1

 

 フリント SPC:1→2

 アキ   SPC:1→2

 

「(今は凌ぐしかないわ……) 《ローンファイア・ブロッサム》を召喚!」

 

 アキの場に爆弾の様なツボミをつけている植物が現れる。

 

 ATK:500 レベル3

 

「ローンファイア・ブロッサムの効果発動! 1ターンに1度、自分の場の表側表示で存在する植物族1体をリリースすることで、デッキから植物族1体を特殊召喚する! 《ローンファイア・ブロッサム》自身をリリースし、デッキから植物族モンスター《ダンディライオン》を守備表示で特殊召喚!」

 

 ローンファイア・ブロッサムが自身のツボミを打ち上げると、空に満開の花火が咲く。それが合図だったのか、アキのデッキからダンディライオンが飛び出し、防御体勢をとった。

 

 DEF:300

 

「ターンエンド!」

 

LP:1000

SPC:2

手札:0

モンスター

・ダンディライオン

魔法・罠

・アイヴィ・シャックル

・セット(シンクロ・ストライク)

 

「俺のターン!」

 

 フリント 手札:0→1

 

 フリント SPC:2→3

 アキ   SPC:2→3

 

「バトル! オーガ・ドラグーンでダンディライオンを攻撃! 【煉獄の混沌却火】!」

 

 オーガ・ドラグーンが獄炎を放つと、それを受けたダンディライオンは一瞬で灰となってしまった。

 

「墓地に送られたダンディライオンの効果発動! 綿毛トークン2体を生成!」

 

 DEF:0 レベル1

 DEF:0 レベル1

 

「カードを伏せてターンエンド!」

 

LP:250

SPC:3

手札:0

モンスター

・煉獄龍 オーガ・ドラグーン

・ゴースト・トークン

・ゴースト・トークン

魔法・罠

・セット

 

「私のターン!」

 

 アキ 手札:0→1

 

 フリント SPC:3→4

 アキ   SPC:3→4

 

「SPCを2つ取り除き、《Sp-貪欲な壺》を発動! 墓地からモンスターを5体デッキに戻してシャッフル! その後2枚ドローする!」

 

 デッキに戻したカード

 夜薔薇の騎士

 ローズ・テンタクルス

 ブラック・ローズ・ドラゴン

 ローンファイア・ブロッサム

 ダンディライオン

 

 アキ SPC:4→2 手札:0→2

 

「(! 来た!) チューナーモンスター《夜薔薇の騎士》を召喚! そしてその効果により手札から《ロードポイズン》を特殊召喚!」

 

 アキの場に”夜薔薇の騎士”と、それに続いて鋭い爪を生やした植物の化け物が現れる。

 

 夜薔薇の騎士  ATK:1000 レベル3

 ロードポイズン ATK:1500 レベル4

 

「レベル4《ロードポイズン》に、レベル3《夜薔薇の騎士》をチューニング!」

 

 夜薔薇の騎士が自身を3つの光輪へと変え、ロードポイズンを囲み、4つの光、そして光の柱へと変える。

 

「冷たい炎が、世界の全てを包み込む……漆黒の花よ、開け! シンクロ召喚! 再び現れよ! 《ブラック・ローズ・ドラゴン》!」

 

 光の柱から姿を現したのは”ブラック・ローズ・ドラゴン”。オーガ・ドラグーンと向き合い、お互いに辺りを飛びまわるトークン2体を引き連れながら対峙する。

 

 ATK:2400 レベル7

 

「フリント、これで最後よ! バトル!  ブラック・ローズ・ドラゴンでオーガ・ドラグーンを攻撃! 【ブラック・ローズ・フレア】!」

 

「迎え撃て! 【煉獄の混沌却火】!」

 

 ブラック・ローズ・ドラゴンとオーガ・ドラグーンの炎がぶつかり合う。しかし攻撃力はオーガ・ドラグーンが上回っているので、ブラック・ローズ・ドラゴンは徐々に押されはじめた。

 

「(これで決める!) ダメージステップ時に罠カード《シンクロ・ストライク》を発動! シンクロ召喚したモンスター1体の攻撃力を、エンドフェイズ時までシンクロ素材にしたモンスターの数×500ポイントアップする! よって、《ブラック・ローズ・ドラゴン》の攻撃力を1000ポイントアップ!」

 

 最後まで温存していた”シンクロ・ストライク”での奇襲。この時、観戦していたフレアが叫んだ。

 

「あ!? アキちゃん駄目――――」

 

「オーガ・ドラグーンの効果発動! 自分の手札が0枚の場合、1ターンに1度、相手が発動した魔法・罠の発動を無効にし破壊する!」

 

 炎を吐き合っている中、オーガ・ドラグーンは鋭い尾を伸ばし、アキが発動した”シンクロ・ストライク”のカードソリッド・ビジョンを貫く。

 

「そんな……!?」

 

 強化を受けられなかったブラック・ローズ・ドラゴンはついに押し負け、獄炎に飲まれて破壊されてしまった。

 

「ああ……ブラック・ローズ・ドラゴン……」

 

 アキ LP:1000→400

 

「これで決着だ! 罠カード《ファイアーダーツ》を発動! 自分の手札が0枚の時、ダイスを3回振り、その合計の数値×100ポイントのダメージを相手に与える!」

 

 フリントが罠を発動させると、ダイスが3つ現れ転がり始める。アキが生き残れる可能性は絶望的なほど低い。

 

「(どんなに小さい確率でも諦めない! お願い……)」

 

 

 

 サイコロの目:2+4+2=8

 

 

 

「合計8……800ポイントのダメージを受けて貰う!」

 

 フリントは決闘銃を取り出し、銃口から炎の矢を放つ。矢は一直線に飛び、前方を走るアキの背を突いた。

 

「あああ!?」

 

 アキ LP:400→0

 

 決闘が終了し、ソリッドビジョンが消える。

 決闘に敗北したアキのブラッディ・キッスは強制停止し、それに合わせてフリントもイグニッションをブラッディ・キッスの横に停止させた。

 アキがヘルメットを脱ぎ、フリントと向き合う。

 

「フリント、ありがとう! あなたのおかげでまた一つ強くなれたわ!」

 

「ライディング・デュエルは奥が深い。まだまだ新しい発見があるだろう。その度に、お前は強くなれるはずだ。……これからも遊星達と共に、精進しろ」

 

「ええ! ……それと、”遊星達”じゃなくて、”俺達”。自分を入れ忘れてるわよフリント。あなたも私達の仲間なんだからね」

 

 アキにそう言われると、フリントは一瞬だけ面食らったような表情をした後、微笑を浮かべる。

 

「……そうだった。すまない。……俺達皆で、共に高め合っていこう」

 

 

* * *

 

 

「あー! 楽しかったねフリント!」

 

「ああ。いい決闘だった」

 

 夕日に照らされる街中をフレアとフリントは並んで歩いていた。フレアの背には眠ってしまった龍可が、フリントの背には支えている内に一緒になって眠ってしまった龍亞が乗せられている。

 二人はDホイールを一旦駐車場に置き、背中の二人を家に送り届ける為にトップスエリアへと向かっているのだ。

 因みに負けてしまったクロウとアキはまだ暫く残って特訓を続けるとのこと。

 そしてフレア達は去り際に、クロウ達と”ある約束”を交わしていた。

 

……

…………

………………

……………………

 

「俺とフリント、アキとフレア、確かどっちも引き分けで勝負がついてないって話だったよな?」

 

「うん、だから今日その決着が着けられるって楽しみにしてたんだけど、まずは二人を送り届けないと……」

 

 フレアはベンチで仲良く寝息をたてている双子に眼をやる。

 

「へへ! ならよ、この決着は”WRGP”で、ってことにしねぇか?」

 

「WRGPで!?」

 

「おうよ! お前も出る気満々なんだろ? 誰かもう一人メンバー見つけて、俺達に挑んで来いよ!」

 

……………………

………………

…………

……

 

「うーん! 楽しみっ!」

 

「その前にメンバーがいないだろう」

 

「もう! 解ってるよ! わざわざ口に出さなくていいよ!」

 

「だが開催までもう半年を切っている。メンバー登録はそれよりも前に済ませなければならない。呑気している場合ではないぞ」

 

「う……でも中々いないんだよね、良さそうな人」

 

「……まあ、こればかりは適当に決める訳にはいかない。残りの期間で何とか探して見せるぞ」

 

「! 何だ、やる気無さげに見えたけど、フリントも結構やる気じゃん! よーし! 頑張ろう!」

 

 フレアが高々と右拳を上げていると、目的地のトップスエリアが見えてきた。二人は既に顔見知りになっている警備員から許可を貰い、二人を部屋まで送り届けてから市内駐車場へDホイールを取りに戻る。

 ここまでの移動で日はすっかり沈み、二人が帰路に着く頃には完全に夜となっていた。

 

「気をつけて帰れ」

 

「子供じゃないんだから大丈夫! ……そうだフリント。”オーガ・ドラグーン”をどう思う?」

 

「オーガ・ドラグーン?」

 

 

* * *

 

 

 フレアがフリントの決闘中、エアトスにオーガ・ドラグーンは何故フリントのデッキに入っているのか尋ねたところ、エアトスはただ”有り得ない、解らない”と言った。

 

『オーガ・ドラグーンはこの世界に存在する精霊ではありません。ありえないのです……カードとしてこの世界にあるのが……人の手に渡り、それに従っていることが……』

 

「じゃあ変なこと言うけど、フリントは人じゃなかったりするの? なーんて……」

 

『……あの青年は、人です。間違いありません。だからこそ解らない……』

 

 その後、フレアはエアトスに二つほど質問してみた。

 まずオーガ・ドラグーンは危険な存在なのか。

 

『……少なくとも、”煉獄の番人”にこちらを害そうとする気は無いようです。私が接触した時は口を閉ざし、最後は威を持って私を追い払っただけでしたから……』

 

 フリントがそれを持っていて大丈夫なのか。

 

『……私はそれよりも、オーガ・ドラグーンを従えるあの青年が何者なのかが気になります。あの者を、このままフレアに近づけておいてよいのか……』

 

「大丈夫だよエアトス……フリントは絶対に悪い人じゃないよ」

 

『……申し訳ありませんフレア。暫く一人で考えさせてください……』

 

 そう言って、エアトスはカードの中へと姿を消した。

 その後、フレアは一人で”煉獄の番人”の目的について考える。何故フリントにオーガ・ドラグーンを渡したのか。

 

「(きっと”煉獄の番人”はフリントと一緒に決闘がしたかったんじゃないかな? それでフリントにオーガ・ドラグーンを……)」

 

 などと考えてみたが、結局はフレアの想像。何の根拠もない。

 

「(そもそもどうやって別世界からフリントにカードを渡したのかって話になっちゃうし……何でフリントなのかって話にもなるし……そもそもフリントが何者なのか……あ~~~! ……あ、そうだ!)」

 

 ここでフレアは発想を変える。”フリントとは? オーガ・ドラグーンとは?”ではなく、”フリントはオーガ・ドラグーンをどう思っているのか”。

 

「(まずは使っているフリントがどう思ってるのか知るべきよね!)」

 

 そう思い立ち、フレアはフリントにさりげなくオーガ・ドラグーンについて尋ねてみたのだ。

 

 

* * *

 

 

「そ、何か不思議なカードだよね! 記憶喪失でも自分のデッキのことを忘れてなかったフリントが、まったく覚えてなくて、でもフリントは使いこなせちゃったり……一体何なのかな? ちょっと恐い感じもするけど、フリントはどう思う?」

 

 フレアにそう問われると、フリントはケースからオーガ・ドラグーンを取り出す。

 

「……このカードのことは、本当に解らない。他は解る。ずっと共に決闘してきた、俺のカードだからだ。……だがこいつだけは違う。覚えも何も無いのに、俺の手にある。何も無かったはずなのに、俺はこいつを理解できる。……俺以上に謎だらけなカードだ。だが――――」

 

 フリントは決闘銃を決闘盤へ変形させると、モンスターゾーンにオーガ・ドラグーンを置く。起動させていないので、ソリッド・ビジョンは現れない。

 

「俺はこいつと共に在らなければならない……そう感じる」

 

「……オーガ・ドラグーンと?」

 

「ああ。何故だかは解らない。だが、俺はこいつといることで何かを掴める……そんな気がする」

 

 フリントはオーガ・ドラグーンをケースにしまうと、決闘盤を決闘銃に戻し、腰のガンベルトに収める。そしてイグニッションに跨ろうとフレアに背を向けた瞬間、ふと何かに気付いたかの様にフレアへと向き直った。

 

「もしかすると、俺とオーガ・ドラグーンは同じなのかもしれない」

 

「同じって……え? 性格? 記憶喪失?」

 

「さあな。ただ、俺とあいつはどちらも分からない事だらけだ。……あいつが俺の手にあったのも、俺がさっき言ったように感じているのも、似た者同士で、お互いに気が合うから……なのかもしれんな」

 

 ”自分は馬鹿なことを言っている”――――そう言いたげな表情で、フリントは軽く笑った。

 

「……ふふふ……アッハッハッハッハ!」

 

 フリントの話を聞き終えたフレアは腹を抱えて笑い出す。心の底からの声と笑顔であった。

 

「……そんなに笑える話だったか?」

 

「ううん、いや……はは……ごめんごめん!」

 

 フレアは横を向き、何とか笑いを押さえ、呼吸を整えてからフリントに再度向き直る。

 

「フリント、オーガ・ドラグーンのカードちょっと見せて!」

 

「?」

 

 フリントは再びケースからオーガ・ドラグーンを取り出し、フレアに渡す。

 その瞬間、フレアの後ろにエアトスが顔に警戒の色を浮かべて姿を現す。勿論、フリントにはその姿は見えない。

 

『フレア! 一体何を……』

 

「オーガ・ドラグーン、これからもフリントをよろしくね。あ、後あんまりエアトスを恐がらせないでね」

 

『な……!』

 

「はい! ありがとうフリント!」

 

 フレアはオーガ・ドラグーンをフリントに返す。フリントは怪訝そうな表情でそれを受け取る。

 

「……何がしたかったんだ?」

 

「何でもいいじゃん! それじゃねフリント!」

 

 フレアはウィルダーネスに跨り、ヘルメットを被ると急発進させて駐車場から飛び出した。エアトスは姿を現したままその後を追う。

 

『フレア……さっきのは何だったのですか?』

 

「エアトス。フリントとオーガ・ドラグーンは、お互い信頼しあったパートナーなのよ。それだけなの」

 

『しかし……』

 

「大丈夫! フリントもオーガ・ドラグーンも、絶対に私達の仲間よ。エアトスが私を信じてくれるように、フリント達のことも信じてあげて」

 

 笑顔のフレアから伝わってくる、フリントへの”信頼”。思いを力とするエアトスにはそれがよく感じ取れた。

 

『……私には解らなくとも、フレア、あなたには解るものがあるのかもしれませんね。私にはまだあの青年を信じるのは難しいですが……青年を信じるあなたを、信じましょう』

 

 そう言ってエアトスは姿を消した。一人になったフレアは、先程までの自分を思い返す。

 

「(私、考えすぎてた。フリントが何者であろうと、オーガ・ドラグーンが何であろうと、フリントは私達の仲間だもの。そのフリントがオーガ・ドラグーンと一緒にいたいって言うなら、私達もオーガ・ドラグーンを受け入れてあげなきゃ!)」

 

 謎に包まれたコンビ、フリントとオーガ・ドラグーン。彼等の過去を殆ど知らないフレアだが、彼等の”現在”は知っている。フリントは自分が尊敬している決闘者で、オーガ・ドラグーンはフリントが信頼する相棒なのだ。それだけで、フレアはオーガ・ドラグーンを信頼できる。

 

「(もしかしたら、私の最初の予想……外れてないかもね!)」

 

 

 新しい仲間ができたような嬉しさを胸に、フレアは夜のシティをウィルダーネスで駆け抜けるのであった。

 




これが今年最後の投稿となります。
来年も皆様に楽しい決闘がありますように。
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