遊戯王5D's ~荒野のデュエリスト~   作:鬼柳高原

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*今回は決闘が無い上、メチャクチャ長いです。大体何時もの2話分くらい(決闘ないのにこんなに 書いたの初めてです(汗)途中で切れなかったので……)よろしければ時間がある時、ゆっくりど うぞ!


第41話 生きる意志

「ぐ……ここは……」

「オラ! さっさと出ろ!」

 

 棺桶から引きずり出された遊星は体が動くことを確認し、辺りを見回す。右には洞窟の入口、そして左には暗闇に包まれた荒野と、少し遠くに煌びやかに光るクラッシュタウンが見える。現在、遊星達がいるのは鉱山中腹。少し頂上に寄った高い位置であることが分かった。

 

「キョロキョロすんな! オラ!」

「ぐあ……!」

 

 マルコムの手下に殴り倒される遊星。そこへすかさず首枷をはめられる。見るとラモンも同じ首枷を付けられていた。

 

「これでよし……最後はてめぇだ死神野郎! ……そうだ!」

 

 手下は意地の悪い笑みを浮かべると、鬼柳から黒いコートを剥ぎ取る。

 

「へっ! 死神の化けの皮を剥いでやったぜ! ざまあみろイカサマ野郎!」

 

 そう言ってから手下は鬼柳を蹴り倒し、首枷をはめる。

 

「鬼柳!?」

「さーて、楽しい職場へ向かうとしようじゃねーか! ……の、前に、こいつとお別れの挨拶でもするんだな」

 

 手下がニヤケながらそう言うと、遊星と鬼柳を引っ張り、無造作に投げ出されているフリントの亡骸を見せる。

 

「!? フ、フリント……」

「……!?」

 

 遊星は声を震わせ、鬼柳も眼を見開いて亡骸を見詰めている。

 

「オラ! もう終わりだ! ……じゃ、後は頼んだぜ。普通なら見せしめの為に丘に墓立てて埋めるんだが……谷底へ捨てろとのご命令だ」

「おう分かった! 臭ってこねぇよう、できるだけ遠く深いとこに捨ててくらぁ」

 

 そう言ってもう一人の手下は馬車の荷台にフリントの亡骸を乗せると、鉱山道の奥へと馬車を走らせる。

 

「(フリント……すまない……俺が見抜けなかったばかりに……!)」

「お前等はこっちだ! 早く来い!」

 

 

* * *

 

 

「ここから逃げようったって無駄だぜ?」

 

 途中で人数が増えたマルコム・ファミリーの構成員達に連れられ、鉱山内に入った遊星達は、中のトンネル内で首枷を外され、代わりに機械の首輪を取り付けられる。

 

「その首輪から電流がたっぷり流れる仕組みになってるからな! 気をつけるこった。へへ……」

「ヒ……!? て、てめぇのせいだぞ! てめぇが負けなけりゃこんな事に――――」

「やめろやめろ! さっき聞いたぞ! てめぇが逃げ出したからだろうが――――」

 

 ラモンが鬼柳に責任を押し付け、詰め寄る。それを止めさせようと構成員達が意識をラモンに向けた瞬間、遊星は足元に置かれた首枷から外れかけている釘を1本引き抜く。

 

「――――てめぇも散々やってきた事じゃねぇか。ま、そっちの現場も今日から俺達の物になっちまったけどな!」

「(ここにはもうラモン・グループの人間はいないのか? 随分と手早いな。……あのロットンの奴が手を回したのなら、俺達が来なくても抗争の決着が着くのは遠くなかったか……)」

 

 遊星は現在の組織状況を判断すると、ロットンという敵の恐ろしさを改めて知る。

 

「(だが、俺は絶対に奴を倒さなければならない! ……フリントの為にも)」

「ほら、さっさと行くぞ! お前らもだ!」

「やだぁ! やだぁぁぁーーー!!!」

 

 子供の様に泣き喚くラモンを引きずりながら、構成員達は奥に進んで行く。遊星と鬼柳もその後に続いて進んでいくと、広く明るい空間に出た。

 

「ここは……」

 

 その空間内では大勢の人間が岩壁に向かってつるはしを振るい、掘り出された鉱石をベルトコンベアに乗せている。この鉱石こそ、クラッシュタウンの生命線”ダイン”である。

 

「サボるんじぇねぇぞ!」

 

 仕事の手を休めた労働者に対して、見張りの構成員達が鞭を振るったり、首輪から電気を流して痛めつける。そんな事が空間のあちらこちらで行われている。正に地獄の様な光景であった。

 それを見たラモンが小さく悲鳴を上げる。

 

「お前達はこの班で作業を行ってもらう! 仕事は簡単! とにかくダインを掘りまくれ! 始めろ!」

 

 遊星と鬼柳はつるはしを受け取り、ラモンと別れると並んでつるはしを振るい始める。その間に何度か鞭で叩かれながらも、二人はつるはしを無言で振り続ける。

 そんな事を繰り返しているうちに、鉱山内にサイレンが鳴り響いた。見張りをしていた構成員達は出入口に集まり、新しく鉱山内に入ってきた構成員達と言葉を交わしている。どうやら交代の時間のようだ。

 遊星はその隙に仕事の手を止め、辺りを見渡す。

 

「(何処かに脱出路は……あった! あれなら――――)」

 

 その時、遊星の後方で人が倒れる音がする。振り向くと案の定、労働者の一人が倒れていた。

 

「チッ! オラどけぇ!」

 

 見張りの構成員二人が心配して様子を見ている労働者達を退かし、倒れた労働者に意識が無いことを確かめると、担いで何処かに連れて行ってしまう。

 その時、運んでいる構成員が”くたばったか……”と呟きを遊星が聞き取ると、顔に怒りを表して構成員達の後を追おうとすが、鬼柳に肩を掴まれる。

 

「よせ……」

「……あの人は、どうなるんだ?」

「さあな。地獄に病院なんざ無ぇだろ」

 

 遊星は悔しそうに倒れた労働者の背を見送ると、拳を握り締め、顔を歪ませる。

 

「フリントだけでなく……こんなにも沢山の人の命を……!」

「……馬鹿だよ、フリントは。俺なんかに関わるから死ぬ事になるんだ」

 

 その瞬間、遊星が鬼柳の胸倉を掴み上げる。

 

「……侮辱するな。”俺の友”を……”お前の友”を……お前を救おうとした”俺達の友”を……侮辱するな!」

「……何度でも言ってやるよ。フリントもお前も馬鹿だ。馬鹿ばかり。俺の為に地獄まで付き合うなんてよ……」

 

 遊星は手に力を強め、さらに鬼柳の胸倉を引き上げる。

 

「おお……今にも俺を殺しそうな面してるじゃねぇか。……いいよ、やってくれ。お前に殺られるなら本望だ」

「おい何やってんだ! その手を離せ!」

 

 そこへ遊星達の騒ぎに気付いた見張りが鞭で遊星を叩く。遊星は鬼柳から手を離すと、命令されて再びつるはしを鬼柳と共に振るい始める。

 

「ったく……よーし、それじゃあ引継ぎだが――――」

 

 見張りが再び出入口へ戻っていくと、遊星は先程と変わらぬ顔で鬼柳に向き直る。

 

「……俺は、こんなところでゆっくりしているつもりは無い。俺は必ずお前を助けてここを脱出する! ……それがお前を救おうとし、魂のカードを俺に託したフリントの願い! 俺はフリントの為にも、必ず成し遂げてみせる! ……お前を殴るのは、その後だ」

「フッ……ならお前は俺を殴れないな」

 

 そう言って鬼柳はつるはしを振るう手を止め、自分の首輪を指差す。これを解除しない限り、逃げても電気を浴びせられて捕まり、ここに連れ戻されるのがオチだと言いたいのだろう。

 しかし、遊星は先程抜き取った釘を取り出し、鬼柳の目の前で器用に機械の首輪を外して見せる。

 

「!? ……流石は遊星だな。メカはお手の物か……」

「見張りが交代する時がチャンスだ。さっき、機材の裏に使われていないトンネルを見つけた。そこへ逃げ込んで、出口を探そう!」

 

 それを聞いた鬼柳は鼻で笑うと、再びつるはしを振るい始めてしまう。

 

「お前一人で脱出しろ……俺はここに残る」

「今言っただろう! 俺は――――」

「もう十分だ。お前は俺を助けた。……決闘と……あの”死神”と共に、俺を葬ってくれた」

「……そんな事でお前に”満足”されてたまるか!」

 

 遊星は鬼柳に対する怒りをつるはしに込めて、岩壁を砕いた。

 

 

* * *

 

 

「うっうっ……フリント……」

「ウェスト……」

 

 遊星達が連れ去られてから、自宅でウェストは姉のニコに抱かれながら泣き続けていた。強い心を持つが、まだ幼い彼にとって親しき者の死による悲しみはあまりにも大きかった。

 ニコもまだ15歳の子供だが、泣いている弟の為に涙を堪え、声を掛けながら彼の頭や背を撫でる。

 

「鬼柳兄ちゃんも遊星兄ちゃんも……フレアも何処かに連れてかれて……父ちゃんも帰って来なくて……僕達、どうしたらいいの……」

「ウェスト……誰!?」

 

 突然何かの気配を感じたニコは咄嗟に気配の方へ振り向くと、そこには鳥の被り物と民族衣装を着た美しい女性がいた――――が、それは”人間”ではなかった。

 宙に浮き、透けて見える体、背中に生えた翼――――二人はこの女性を見たことがある。ニコがそれを思い出そうとしていると、同じ様に顔を向けたウェストが声を上げる。

 

「姉ちゃん! これ……”ガーディアン・エアトス”だよ! フレアが持ってた!」

「ええ!? でも……決闘盤は起動させてないし……」

『ニコ……ウェスト……私の声が聞こえますか……?』

「「!?」」

 

 エアトスが急に喋ったことにより、二人は驚いて跳びあがる。

 彼女はフレアのカードに宿る”ガーディアン・エアトス”で間違いは無い。だが精霊は本来シグナーなど元々見る”力”を持った者にしか見えないはずである。何故この姉弟に薄らとだが姿が見えているのか。

 

『私のことを……説明している時間はありません……私のこの姿は長く持たない……今はとにかく、……この町にある交番を密かに尋ねてください……お願いします――――』

 

 どうやらエアトスが”力”を全力で発揮し、相手が大人よりも純粋な心を持つ子供ならば、その姿と声を伝えることができるようである。しかしエアトスの”力”を大きく消耗するようであり、今の内容を伝えるだけが精一杯であったようだ。

 

「……姉ちゃん! 行こう! きっとフレアが呼んでるんだ!」

「ウェスト……ええ、分かったわ!」

 

 

* * *

 

 

「うわー……好き勝手やってるよ~……」

「お酒臭い……」

 

 クラッシュタウンの交番は南地区の十字路から少しだけ離れた場所ある。

 交番と言っても、そこにいた保安官は姉弟が生まれるよりずっと昔にギャング達によってこの町から追い出されており、それ以来交番は”反省室”として、悪戯をした子供や酔っ払って手に負えなくなった大人を一時的に牢屋に入れて仕置きする為に利用される建物となっていた。

 おそらく、フレアはそこに閉じ込められているはずである。

 ニコとウェストはその交番に向かう為、自宅がある北地区から南地区に向かう途中にある十字路の前まで来ていた。

 十字路では勝利に浮かれたマルコム・ファミリーが酒を呷りながら騒ぎに騒いでいた。

 

「見つからないようにね、ウェスト」

「姉ちゃんこそ、気をつけてね」

 

 二人は静かに、隠れながら十字路を通る。幸い、酔っ払って二人に気付く者はいなかった。

 

「何とかなったね……あ! 見えてきた!」

 

 ギリギリ十字路の明かりが届く場所に、白い四角形の建物が見えた。あれが交番である。

 二人は急いで交番の中に入ろうとすると、中からフレアのすすり泣きが聞こえて来る。

 

「……フレア、いるんでしょ? 来たよ」

 

 ニコがそう言って持ってきたランタンに明かりを燈すと、牢屋の中のフレアが照らし出される。

 手足を縛られ、牢屋内の柱に縄で体を結ばれているが、幸い何かされたような形跡は無く、怪我なども見当たらない。

 

「フレア……大丈夫?」

 

 ニコが出来るだけ牢屋内のフレアにランタンを近づけると、フレアの頬には涙が流れていた。あれからずっと泣き続けているのである。

 

「フレア。あのエアトスのお化け、フレアが寄越してくれたんでしょ?」

 

 ウェストがそう尋ねると、フレアは泣くのを止めてから静かに頷き、口を開く。

 

「……ニコ……ウェスト……お願いがあるの。十字路にある赤いDホイール……”遊星号”を……鉱山にいる遊星に届けて……」

「鉱山へ!? でも、遊星兄ちゃんは……」

「遊星ならきっと……脱出してる。でも……”武器”が無きゃ戦えないの……だから、動けない私の代わりに……」

「私達が……鉱山まで……」

 

 ここから鉱山までそう遠くはないが、子供の脚でDホイールを押しながらだとすると、少々きつい。それ以前に十字路に置かれているDホイールを誰にも気付かれずに持ち出せるかも問題であった。

 ニコがそれらについて考え込むと、フレアが自嘲する様に笑う。

 

「……情けないよね、私……自分が動けないからって、他に頼める人がいないからって、二人にこんな危険な事頼んじゃってさ。……本当に、私って最低……!」

「フレア……?」

 

 ウェストが不安そうにフレアの顔を見ると、フレアは再び泣き出していた。

 

「私……心の底で……調子に乗ってたのよ。……私がいなきゃ駄目だって……絶対に何とかなるって……自分もフリント達と一緒にこの町を救って”ヒーロー”になるんだって……だから私は自分のことを”足手纏い”とか言いつつ、ここに残ってたのよ。……馬鹿みたい!」

 

 フレアは感情に任せて大声を上げる。ニコは一瞬今のが外に聞こえていないか気になったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

「サテライトの時も! 精霊界の時も! シティに行った後も! 今までが最終的に何でも上手くいってたから、何でも上手くいくと思い込んで……でも! 遊星が撃たれた時、私何もできずに捕まって……フリントの時も……私……見てることしかできなくて……そして……私は今、ロットンに利用されそうになってる……お爺ちゃんを脅す為に!」

 

 フレアはとうとう大声を上げて泣き出してしまう。幸い十字路ではこの声に負けないくらいで騒いでる為、声に気付いてやって来る者はいなかった。

 

「私のせいでッ……! 私のせいでこの町がッ……お爺ちゃん達がッ……フリント達もッ……私がいたから――――」

「もうやめてよッ!!!」

 

 フレアの泣き声を遮る様に、ウェストの叫びが交番の中に響く。

 

「何でだよ!? 何でフレアも鬼柳兄ちゃんも自分のこと悪く言うんだよ! 僕や姉ちゃん……皆が二人を”尊敬”してるのに!?」

「ウェスト……」

 

 今まで見たことない弟の凄まじい剣幕に、ニコは驚きながらその横顔を見詰めていた。

 

「”ヒーロー”じゃんかよ! フレアも鬼柳兄ちゃんも! 兄ちゃんはサティスファクションのリーダーで、フレアは色んな所を冒険して、しかもサティスファクションの一員じゃん! それにフレアは何時だってこの町の皆の為に戦おうとしてくれたじゃんか! 4年前にロットンに立ち向かったり、マルコム・ファミリーに絡まれた僕を助けたり、今だって! 戦えない僕等の為にこの町へ戻って来てくれたんだろ!?」

「ウェ、ウェスト……」

 

 先程まで大泣きしていたフレアも、ウェストの気迫に押され始めた。

 

「大体なんでフレアが悪いんだよ! 悪いのはマルコムにラモンだろ!? ロットンにバーバラだろ!? なのにどうして僕等の為に戦おうとしたフレアが悪いんだよ! 答えてみろよ!」

「…………」

「答えられないだろ!? 悪くないんだよ! フレアも兄ちゃん達も……悪くないんだよぉぉぉ~~~!!!」

 

 とうとうウェストまで泣き出す――――いや、隣でニコも涙を流していた。

 

「そうよフレア……あなたも鬼柳さんも悪くない……皆それを解ってる……ウェストも私も……遊星さんも……そして、フリントさんも……」

「ウェスト……ニコ……」

「グスッ……フレア! フレアはさっき言ったよね――――」

 

 

 

       何でも上手くいくと思い込んで……

 

 

 

「――――フレア! 思い込みなんかじゃないよ! 何でも上手くいくよ! ”チーム・サティスファクション”なら! 鬼柳兄ちゃん、遊星兄ちゃん、ジャック、クロウ、フレア……そして……そして――――」

 

 ”チーム・サティスファクション”最後の一人。だが、彼はもう既にこの世にはいない――――

 

「――――そんなの! 僕は信じない! フリントは……生きてる!」

「ウェ、ウェスト!?」

「フリントが……生きてる?」

「そうだよフレア! きっとフリントは生きてる! あの時は……死んだ振りしてたんだ! 父ちゃん達を助ける為に、死んだ振りして鉱山に乗り込んで行ったんだ!」

 

 ウェストのメチャクチャな言い分に、ニコもフレアも呆気に取られている。

 

「で、でもウェスト……あの時確かにフリントの鼓動が――――」

「フリントなら止めてるくらいできるよ! ……ねえフレア、フリントを……”チーム・サティスファクション”を信じようよ。信じればきっと……何でも上手くいく!」

「ウェスト……」

 

 自分よりもずっと小さい少年が、こんなにも大きな”希望”を持っている。その”希望”を持って、フレアを励まそうと、奮い立たせようとしている――――彼の”思い”に応えなければ、ここで立ち上がらなければ、荒野の決闘ガンガール”フレア・ヴィルアース”の名が廃る。

 もう、彼女の頬に涙は流れていなかった。

 

「……ウェスト! 私、諦めない! 信じる! 私のことも……あなたもニコも、”チーム・サティスファクション”も……フリントも! 絶対……皆でこの町を救おう!」

「うん! ……それじゃあ、僕等は遊星兄ちゃんにDホイールを届けに行くよ! この町を……皆を助ける為に! ニコ姉ちゃん!」

「ええ! 絶対に、届けて見せるわ! 待っててフレア!」

 

 そう言って二人は交番を出ようとした時、ふとウェストが立ち止まって懐から何かを取り出すと、牢屋の中に向かって精一杯手を伸ばし、できるだけフレアの前に取り出したものを置いた。

 

「これって……私があげた”チーム・サティスファクション”のサインカード……」

「それを見れば勇気と元気が湧いてくるよ! きっとそのカードがフレアを守ってくれるよ!」

「ウェスト……ウェスト、あそこの棚の上」

 

 フレアが眼を向けた方向を見ると、そこにはフリントの帽子と共にフレアのデッキケースが置かれていた。

 

「サインカードの代わりに、私のデッキを持って行って。それが二人を守ってくれるから……」

「フレア……!」

 

 決闘者の”もう一つの魂”と言えるデッキを預けるという事は、その相手に全幅の信頼を寄せ、相手に自分の”全て”を託した事になる。泣きながら必死に自分を励まし、奮い立たせ、自分の宝物を託したウェストに、フレアは最上の形で応えたのである。

 

「……分かったよ! このフレアの”魂”が一緒なら、もう恐いものなんて何もないよ!」

「ありがとう……それと、隣にあるフリントの帽子を”フリント”に渡してきて!」

「! ……うん!」

 

 ウェストは棚からデッキケースと帽子を取ると、デッキケースは腰に提げ、帽子を自分の頭に被る、が、ウェストには大きすぎて目元まで隠れてしまった。

 そこへニコがスカーフを取り出すと、帽子の中にそれを入れる。

 

「こうすれば丁度いい高さになるんじゃない? ほら、ウェストも自分の入れて」

「そっか! よーし……」

 

 ウェストも自分のスカーフを取り出し、できるだけ高さが出るようにして入れ、帽子を被る。するとギリギリだが何とか前が見えるようになった。

 

「これでよし! それじゃあフレア! 行ってくるね!」

 

 ウェストとニコが交番から飛び出して行く。

 

「(フリント、私……もう自分を責めたりしない! 泣いてる場合じゃないから……今はこれくらいしかできないけれど……私、最後まで諦めない! 私も……あなた達と一緒に戦い続ける!)」

 

 フレアは再び暗くなった牢屋の中で、ウェストが置いていったサインカードを見詰める。もう文字は見えないが、そのカードに込められた”思い”はしっかりとフレアへ流れ込んでいった。

 

「(エアトス……あの姉弟を守ってあげて……)」

 

 

* * *

 

 

「……ここら辺でいいか」

 

 ニコとウェストが遊星号を運び出している頃、フリントの亡骸を谷底へ捨てに来たマルコムの手下が谷底を見下ろす。

 夜となったせいで底がまったく見えないが、落ちたらまず助からない高さであるのは間違いない。

 

「まずは……どんなもんか確かめてみっか」

 

 手下はフリントの腕から決闘銃を取り外すと、それを谷底へと落とす。決闘銃は岩壁にぶつかりながら落ちて行くが、砕ける様子は無く、原型を保ったまま暗い谷底へと落ちていった。

 

「おおー……随分と頑丈な決闘銃だな。もらっときゃよかったぜ。さて……」

 

 手下はニヤケながらフリントの亡骸を担ぎ、谷底の側まで運ぶ。

 

「次はお前だぜ。ヒヒヒ……あばよ!」

 

 

* * *

 

 

「(ここは……どこだ……)」

 

 気が付くと、フリントは何も無い、静かで真っ暗な空間にいた。

 何も聞こえてこない、何も見えない、何も感じない、絶望的に孤独な空間。そんな場所にいるフリントは、自分が死んだことを思い出す。

 

「(俺は……そうだ……ロットンに撃たれて……意識が……いや、もっと大事なものが吹き飛んだ。そうだ……あれが俺の”魂”……俺は……死んだんだ)」

 

 フリントの胸に悔しさが込み上げてくる。自分はまだ何も成し遂げていない。鬼柳を救っていない。その為に行動してきた仲間達を救っていない。クラッシュタウンを救っていない。

 

「(それだけじゃない……!)」

 

 WRGPにも出場していない。クロウとの約束も果たしていない。自分の過去を、”記憶”を取り戻してもいない。そして何より――――

 

『気が付いたか?』

「!?」

 

 突然頭の中に響く声。フリントは辺りを見渡すが、暗闇ばかりで何もない。

 

『無様だな、フリント……我にあれだけの大言を吐いておきながら、今度は死してこの地を訪れるとは……』

「誰だ!? 何処にいる!?」

『フリントよ、今は我のことなどどうでもよい……問題はお前がこのまま”死す”か”生きる”かだ』

「!?」

『フリント……これで解っただろう? お前は所詮、ちっぽけな人間に過ぎぬのだ。お前はいとも簡単に殺され、”使命”も果たせずにここへ来た……何度現世に戻ろうと結果は同じだろう。さあ、”死”を望むがいい……』

「……黙れ! 誰だか知らないが、俺は死ぬことはできない! 俺は生きなければならない!」

『……何故だ? 死が怖いか?』

「恐い! だが俺はそれよりも”今”を失う方が恐い! 仲間達と共に生きる”今”を! 俺はまだ死ぬ訳にはいかない! 俺の”今”を生きる為! 仲間達の”今”を守る為! そして”今”から繋がる”未来”を守る為! 俺は”生き”なければならんのだ……!」

『………』

「……皆の”今”を守れたら、この命はくれてやる。地獄でも何処へでも持って行け。だから……頼む! 俺を”生か”してくれ!」

『……フッ、記憶が無くとも、その”意志”だけは変わらぬか……』

「何!? それはどういうことだ!」

『いいだろう。幸い”器”は殆ど無傷だ。現世に戻るがいい。ここで諦められてもつまらぬしな』

「おい! ちょっと待て――――何!?」

 

 突然、フリントの目の前に巨大な門が現れる。門は徐々に開いていくと、フリントは凄まじい強風によって、その門の中へと引きずり込まれて行く。

 

「お前は俺を知っているのか!? お前は一体何者なんだ!?」

 

 フリントは門の中へ引きずり込まれる直前に謎の声に対してそう叫んだが、答えは帰ってこない。フリントは完全に門の中へと入ると、視界がホワイトアウトし、意識を失った。

 

 

 

我は”煉獄の番人”。この地を統べる者にして”魂の選別者”……フリントよ、三度目は無いぞ。お前の”使命”、今度こそ果たしてみせよ。……我がもう一度、この眼で見届けてやる――――

 

 

 

* * *

 

 

「そーらーよ――――ぐへぇぁ!?」

 

 手下が勢いを付けてフリントを谷底へ投げ落とそうとすると、自分の腹に突然拳がめり込んだ。手下はフリントを離して蹲る。

 

「な、なんっ――――ヒッ!?」

 

 突然胸倉を掴まれ引き起こされると、目の前の死体が自分を吊り上げ、恐ろしく冷たい表情で手下の眼を見ている。

 

「ヒ、ヒ、ヒァァァーーー!? し、死体が!? 死体が動い――――ヒィィィ!?」

 

 先程まで死んでいたフリントが手下を谷底の上に移動させる。手を離せば、今度は手下が”死体”となるだろう。

 

「あああ……やめてくれーーー! 助けてくれーーー! ――――ゲハァァァ!?」

 

 フリントは泣き叫ぶ手下の顔に向かって強烈な右拳を叩き込むと、手下の歯が2、3本谷底へと落ちて行く。手下はそのまま気絶してしまった。

 フリントは手下を馬車の近くに放り投げると、暫くその場に佇んでいた。

 

「…………」

 

 暫くして、フリントは自分の懐に何かが入っていることに気付く。それを取り出してみると、それは遊星に渡していたはずの”煉獄龍 オーガ・ドラグーン”のカードであった。

 

「……そうか……あれは……お前か……」

 

 

* * *

 

 

「鬼柳……!」

「ほっといてくれ……俺は……死んだんだ」

 

 一方、こちらは鉱山内労働所の遊星達。遊星は次の交代時間を待ちつつ、鬼柳を必死に説得していた。

 

「鬼柳……俺もフリントも、絶対に諦めない。俺達は……死んでもお前を連れて帰る! ……現に、死んでしまったフリントの”思い”が! 俺を突き動かしている!」

「…………」

 

 その時、待ちに待った交代のサイレンが鳴り響く。

 見張り達は皆出入口の方へと向かっていった。

 遊星は見張りの眼を騙す為に着けたままにしていた首輪を外すと、鬼柳に視線を送る。

 

「今だ、行くぞ」

 

 だが、鬼柳は無表情のまま仕事を続ける。

 

「鬼柳。まだ助け出していないが……先に殴らせて貰うぞ!」

 

 そう言うと同時に、遊星は鬼柳の腹にボディーブローを放つ。

 

「ぐ……!? が……遊星……お前……」

 

 遊星は気絶した鬼柳の首から首輪を外し、彼の肩を担ぐと見つけた脱出口へ急いだ。

 

 

* * *

 

 

 その後、遊星達は無事に鉱山の外へ出ることができた。しかし、それにより遊星は鬼柳の怒りを買い、出口の前で取っ組み合いへと発展。その勢いで山の斜面から二人揃って転げ落ちてしまう。

 

 二人が落ちた先は鉱山中腹にある広い丘。そこは以前の様なクラッシュタウンを一望できる場所ではなく、死んだ労働者達の墓が無造作に建てられている墓場となっていた。

 鉱山で働く者の一部は決闘に敗れた決闘者。この墓場に自分が死に追いやった者がいるかもしれない――――そう思った鬼柳はますます自分を責める様になってしまった。

 

 体を震わせながら膝をつく鬼柳にどう声を掛けるか遊星が迷っていると、そこへ遊星号を運んできたニコとウェストと偶然遭遇。遊星は二人からクラッシュタウンとフレアの状況、二人の目的を聞き、さらに二人の父親”セルジオ”が労働者として働かされていることと、遊星が拾った脱走者のペンダントがセルジオの物だということを知る。

 

「鬼柳さんはウェストにとって、大切な”ヒーロー”だから……私にとっても」

「僕等は絶対に父ちゃんもフレアも、皆助けるんだ! 鬼柳の兄ちゃんの様に強くなって!」

 

 危険を冒し、ここまでやって来たこの姉弟が持つ父への思い、そして鬼柳への思いを聞き、鬼柳は死人の様に冷え切った”心”に、血が通うような暖かい感覚を覚え、戸惑う。

 

「(何だ……何だよ……これ……何でだよ)」

「……鬼柳、俺のDホイールを頼む。一人で山を降りるんだ」

「! 何を言っている……! どうして俺だけ……!?」

「鉱山にいる人達を助ける! ……やはり、このまま放って置く事はできない。俺なら彼等の首輪を外すことができる」

「遊星……!」

 

 遊星は姉弟から遊星号を受け取り、鬼柳の前まで押してくる。

 

「この子達もフレアも俺も、そしてフリントだって、お前を救い出したくてここまでやってきたんだ! こんなところをお前の死に場所にはさせない! だから鬼柳、お願いだ。行ってくれ」

「何で……何でお前等は俺みたいなどうしようもない奴を……そこまで……」

 

 その時、下の鉱山道からけたたましい走行音が聞こえて来る。全員が一斉に振り向くと、ロットンの巨大なDホイールが手下のDホイーラー数名を引き連れてこちらへと迫って来ていた。

 

「不動 遊星のDホイールが消えたと思ったら……やはりな。こりゃ一気に片を付けるしかねぇようだな。……山から逃がすな! 追い詰めろ!」

「「「合点!」」」

「鬼柳! 二人を!」

 

 遊星はそう言って遊星号に跨ると、ロットン達の方へと走らせる。どうやら囮を買って出たようだ。

 

「ああ! 二人共こっちだ!」

 

 鬼柳は二人を連れて山道を登り、鉱山内へと逃げ込む。

 遊星は手下を取り逃がすも、ロットンを三人から引き離し、鉱山内でのライディング・デュエルへと持ち込んだ。

 

「(遊星……気をつけろよ!)」

 

 だが、危険な状況なのは遊星ではなく鬼柳達の方。後ろから二台のDホイールが追いかけて来る。狭くてDホイールが走り辛いトンネル内でも、脚で走っている鬼柳ではすぐに追いつかれてしまうだろう。

 

「くそっ!」

「ごめんなさい鬼柳さん……きっと私達がDホイールを持ち出した事に気付かれたから……」

「謝るな! お前達のせいじゃない……これは、俺の落とし前だ。だから! 関係の無いお前達に絶対手は触れさせねぇ!」

 

 ここに”チーム・サティスファクション”のメンバーが一人でもいたら、その者は気が付いたであろう。今ここで走っている鬼柳は、”あの頃”の鬼柳に近い。サテライトで一つの目標の為に走り続ける”鬼柳 京介”に近づいていると。

 Dホイールとの差が縮まってきたその時、鬼柳は道の先に運搬用のトロッコを見つける。

 

「あそこまで走れ!」

 

 鬼柳達は力を振り絞ってトロッコまで駆け寄ると、鬼柳は二人をトロッコに乗せ、押して発進させる。

 スピードが付いてきた頃に鬼柳もトロッコへ飛び乗って後ろを確認すると、線路の上までマルコム・ファミリーの手下が追って来ていた。

 

「逃がさねぇぞ!」

「チッ! ……うお!?」

 

 突然、線路が遊園地のアトラクションの様にうねった形になる。三人は危うく振り落とされるところであったが、何とかその場を切り抜ける。そして信じられない事に、手下達は今の線路をDホイールで通り抜け、鬼柳達をまだ追跡してきていた。

 

「鉱山で鍛えたライディング・テクを舐めんなよ! お遊びはここまでだ! トロッコごと真っ二つにしてやるぜ!」

 

 手下の一人がDホイールの装置を起動させると、車体からチェーンソー二本を展開させ、トロッコに迫る。

 

「そんなことさせないぞ!」

 

 ウェストがトロッコの中に残っていた大きめな石を持ち上げると、手下に向かって投擲する。

 

「ぐえ!?」

「馬鹿あぶねぇ!?」

 

 石は見事に手下の頭に命中すると、Dホイールは大きく後退し、狭い通路なので後ろにいる仲間も同時に後退した。

 

「やったぁ!」

「やめろ刺激するな! お前達は俺の後ろに隠れていろ!」

「やだい! 僕達も戦うんだ! 動けないフレアの為にも、僕達がその分戦って、鬼柳兄ちゃんをここから助け出すんだ!」

「私も、鬼柳さんを救いたい!」

 

 再び鬼柳にやってくるあの”暖かい感覚”――――鬼柳はそれを理解できず、顔を歪める。

 

「どうしてなんだ……遊星もフレアもフリントも……お前達も……どうしてそこまで俺を……!」

「僕……鬼柳兄ちゃんに教わったんだよ? 諦めずに戦い続けて、サテライトを統一した鬼柳兄ちゃんのカッコイイ姿に!」

「!?」

「この町で、父ちゃんを助け出すことがすっげー難しくても、鬼柳兄ちゃんの様に諦めず、信じて戦い続ければ……そうさ! 信じれば何だって上手くいく! 父ちゃんだって助け出せる!」

 

 ウェストは飛ばされないように足元に置いていたフリントの帽子と腰に提げたフレアのデッキケースを握り締める。

 

「皆、信じているんだ。僕も姉ちゃんも、遊星兄ちゃんもフリントも、そしてフレアも! 皆鬼柳兄ちゃんのことを信じてるんだ! だから……鬼柳兄ちゃんには、諦めずにまた戦ってほしいんだよ! 生きて皆で一緒に帰る為……戦い続けてほしいんだよ!」

「……違う! 俺は、戦っていたんじゃない……(最初から、自分だけが満足したいだけだったんだ!)」

 

 自分がそんな存在な訳が無い。統一後に満足できず、暴走し、ただただ周りを暴力で蹂躙する自分。そして最後は仲間を信じられず、仲間の心を裏切り、多くの人々を巻き込んで仲間達に刃を向けた――――

 

「俺はそんな奴じゃない……お前は……お前らは幻を見ていただけだ……」

「そんなことないやい!」

「私も……弟と同じ様に、そう信じたい……」

「………!?」

 

 鬼柳が二人から顔を背けると、トンネルがL字の様に曲がり、線路の先が急カーブになっているのを発見する。このトロッコは現在最大速度で疾走中。相手も体勢を立て直し、再びチェーンソーを構えてこちらに向かって来ている。

 

「(タイミング! 合ってくれよ!)」

 

 鬼柳はレバーを掴むと、一気に急ブレーキを掛ける。ニコとウェストが追いつかれると慌てたが、鬼柳は目の前に神経を集中させ、適度に速度を下げながら見事急カーブを曲がりきる。

 

「な、何ィ!?」

 

 そしてトロッコの様に線路に固定されて走るわけではないDホイールは細いL字通路なのもあってか曲がり切れず、次々と壁に衝突していく。

 

「やったぁ!」

「鬼柳さん……ありがとう!」

「(……あの時の俺は、戦っていたんじゃない。だが、俺は今戦っている……戦うことで、生きようとしている……あんなにも、誰かの手で葬られたいと思っていたのに……今はその手をかわして生きようとしている……)」

 

 だんだん自分のことが解らなくなってくる鬼柳。その時、線路の先に明るい広場が見えてきた。

 追ってもいないことから、鬼柳は念のためにブレーキを掛けて減速する。

 

「鬼柳兄ちゃん!? あれ!」

「!? 何だあれは!」

 

 鬼柳達が見たのは他とは違う色をした、大きな円盤状の床。その上にトロッコが乗ると、その円盤は四分の三ほど回転し、床を傾けて鬼柳達を滑り台の上に落として下にある”ダインコンテナ”に送る。

 大量に積まれたダインの上に落とされた鬼柳達の前に、その上で労働者達を監督していた構成員二人が立つ。三人が辿り着いたのは労働所。鬼柳が見た事がない人や機材があることから、鬼柳が先程までいた所とは違う作業現場のようだ。

 

「大人しくしてろテメーら! ……こいつ! 首輪してねぇぞ!」

 

 鬼柳が首輪を外していることに気付いた構成員は電気発生装置になっている決闘銃をしまい、ショックガンを取り出す。

 

「変なことしたらこいつをぶっ放すからな! 立て!」

 

 三人はそれに従い、手を挙げながら立ち上がる。三人は構成員二人の間を歩かされ、ダインコンテナの上に掛けられた簡易階段を下りて行く。

 階段を降り切ったその時、構成員達と同じ服装とスカーフを巻いた男が近寄ってくる。

 三人はその男を見た瞬間、瞠目した。

 

「交代だ。そいつらの処分は俺に任せてくれ」

「ああ!? まだ交代の時間じゃねぇだろ? 何言って――――グゴォ!?」

 

 その瞬間、構成員の一人は男に殴り倒され、ショックガンを奪われる。男は奪い取ったショックガンでもう一人を撃つと、その男からも奪い、鬼柳に手渡す。

 

「鬼柳。ニコとウェストを頼んだぞ。俺は活路を開く」

「……”フリント”。お前……生きてたのか」

「フリント!」

「フリントさん!」

 

 男――――フリントは集まってきた構成員達を手当たり次第に撃ち倒す。鬼柳もとっさに後ろから援護をした。

 

「フリントさん……よかった……」

「フリント! 僕……信じてたよ! 絶対生きてるって!」

「死んでたがな」

「解ってるよ! 知んだふりしてたんでしょ? 僕には全部解ってたよ!」

「(そういえばこの子そんな事言ったわ……まさか本当だったなんて……)」

「死んだふり……そうだな。魂をあの世に飛ばした上での……死んだふりだ」

 

 フリントはそう言いながら別の構成員からもう一丁ショックガンを奪うと、二丁拳銃で一気に他の構成員を殲滅する。応援が来るのには少し時間が掛かるだろう。

 

「行くぞお前達! ……セルジオさん!」

「ああ! ……ニコ!? ウェスト!?」

 

 フリントが物陰に声を掛けると、そこからセルジオが姿を現した。

 

「父ちゃん!?」

「父さん!?」

 

 二人はセルジオに駆け寄って抱きつく。抱き合った三人の目には涙が溜まっていた。どれ程長く離れていたのか。

 

「どうしてフリントが二人の親父さんと……?」

「元々はお前と遊星を助け出した後、セルジオさんに脱出を手伝って貰う予定だったのだが……そちらでは俺の予期せぬことが起こっているらしい。そっちのことをまず話してくれ」

「(お前が生きていたことが一番予想外だったけどな……)」

 

 鬼柳がフリントの亡骸を見た時、確実に死んでいると確信していた。その時のフリントの体からは”死”のにおいが漂っていたからだ。

 

「(まあ、どうでもいい……とにかく、早く遊星に伝えてやらねぇとな……)」

 

 そんなことを考えつつ、鬼柳はここまでのことをフリントに話す。

 

「……ロットンがここに来てるのか」

「ああ、遊星が奴を引き付けてる。早い内にこいつ等を逃がして合流しないとな」

「フリント!」

 

 そこへセルジオとの再会を終えたウェストがフリントの側に駆け寄ると、カウボーイ・ハットを手渡す。

 

「これ! フレアに頼まれて持ってきたよ! フレアもフリントのこと信じて待ってるよ!」

「ああ、話は聞いた。さっさとクラッシュタウンへ戻るぞ。フレアを助けに行く。……鬼柳」

 

 フリントは渡された帽子を被ると、腰に付けていたデッキケースを外して鬼柳に渡す。

 

「!? こいつは……」

「お前のデッキだ。俺を谷底へ捨てようとしていた男が、お前から掠めていたようだな。……忌まわしくとも、お前のデッキだ。持っておけ」

「…………」

 

 その瞬間、Dホイールの走行音が大量に聞こえて来る。どうやら新しい追手が来たようだ。

 

「ゆっくりし過ぎたな。全員あそこのトロッコに乗れ!」

 

 フリントが指示すると、セルジオと鬼柳が姉弟を乗せた後に乗り込む。フリントが後方を警戒しながらトロッコを押して加速させると、フリントもトロッコに飛び乗った。

 

「……鬼柳、分かったか?」

「……デッキのことか?」

 

 鬼柳はフリントに言われた様に、デッキケースを腰に提げている。

 

「違う。お前は今、生きている……この姉弟の為に、必死で生きている。お前は俺と同じ様に”生き”たいんだ。鬼柳……」

「……俺は――――うお!?」

 

 突然後ろからの銃撃。とうとう追手が追いついて来たのだ。しかも先程よりも数が多い。だが今度のDホイールはサイドカー付きの二人乗りであり、この細い道では一台ずつでしか襲って来れないようだ。

 

「しつこい奴等だ……!」

 

 そう言って鬼柳はショックガンを構え、フリントも同様に二丁を構える。合計三丁のショックガンによる銃撃で二人はDホイールに乗った追手を撃ち落すが、後ろにいた仲間がすぐさま無人となったDホイールに飛び移り、こちらを追いかける。拍手を送りたくなる様なチームワークであった。

 

「……フリント、さっきのことだが……よく解らねぇんだ。生きたいのか、死にたいのか……だが、これだけは言える。……俺は戦う! 戦ってこの親子を救う! それだけだ!」

「鬼柳兄ちゃん……!」

「「鬼柳さん……!」」

「そうか……今はそれでいい!」

 

 フリントは僅かに笑うと、鬼柳と共に銃を撃ち続けた。しかし、敵を倒しても限りなく湧いてくる上、通路の幅が広くなり、一度に二台のDホイールが攻めてくるようになってしまった。

 それでも鬼柳とフリントは遅れを取らなかったが、撃ち続ける内にとうとうショックガンのエネルギーが切れてしまう。

 

「チッ! この!」

 

 鬼柳とフリントは役に立たなくなったショックガンを投擲するが、僅かに怯ませる程にしか効果は無かった。

 

「! いいぞ! 相手は弾切れだ! この隙にどんどん撃ち込む――――」

「馬鹿! こっちも同じだ! もうショックガンの予備はねぇぞ!」

「何だとォ!? くそ!」

 

 構成員が乗る先頭二台のDホイールの内、左のDホイールがスピードを上げ、トロッコに近づいて来る。弾が無い、だが向こうにも無い。なので残された攻撃方法”接近戦”を挑んできたのだ。

 

「冗談じゃねぇ! 捕まってたまるか! フリント! ブレーキ掛けろ!」

 

 フリントは言われた通りにブレーキを掛けると、鬼柳は加速してきている相手の運転手に向かって強烈なラリアットをくらわせる。

 運転手は悲痛な叫びを上げながら飛ばされ、トンネル内の暗闇へと消えていった。

 

「へっ! どうだぁ!」

「(いい顔だ……)」

 

 今の鬼柳は昔に近いというレベルではなく、今の一瞬だけ完全に”あの頃”の鬼柳に戻っていた。それを見たフリントは、”本来の鬼柳”が目覚めかけていることを確信する。

 運転手を失ったDホイールには、隣で並走していたDホイールのサイドカーに乗っていた構成員が飛び移り、運転する。

 

「くそ! 死神め……ん?」

 

 ここで構成員の一人がトロッコに首輪を付けたセルジオが乗っていることに気付き、すかさず電気発生装置を起動させた。

 

「う、うわぁぁぁ!?」

「父ちゃん!? どうしたの!?」

「父さん!?」

 

 突然苦しみ出したセルジオ。それが首輪からの電気のせいだと見抜いた鬼柳はトロッコの後方へと移動する。

 

「鬼柳! 何をする気だ!?」

 

 フリントがそう呼びかけた瞬間、鬼柳は電気発生装置を起動させているDホイールに向かって飛び上がり、今度は強烈な飛び蹴りで運転手を蹴り落とす。さらに、そのDホイールのサイドカーは無人になっていた為、このDホイールは完全に鬼柳の支配下となった。

 

「くそ! 降りやがれ!」

 

 そう言って、隣のDホイールに乗った仲間の構成員がまだ安定していない鬼柳のDホイールに体当たりをくらわせようとした瞬間、フリントの飛び蹴りをくらう。

 

「フリント!?」

「セルジオさんを頼む!」

 

 フリントはサイドカーの構成員も蹴り落とすと、後方のDホイール群に向かって奪い取ったDホイールで突撃を仕掛ける。

 

「フリントォー!? くそ! 無茶しやがって! ……これか!」

「あああ……ぐうぅ……」

 

 鬼柳は”ON”と表示されているスイッチを”OFF”に切り替えると、セルジオへの電気ショックが止まる。

 

「よし! 後はDホイールのコントロールを――――! うおぉ!?」

 

 その瞬間、電気発生装置を停止させるのに気を取られていてコントロールしていなかったDホイールが僅かに道を外れ、岩に激突。鬼柳は咄嗟にトロッコに向かって飛び上がり、手を伸ばす。

 

「(駄目だ……届かな――――)」

 

 鬼柳が諦めかけたその時、鬼柳の右手を誰かが掴む。

 

「ニコ!?」

「ニコ姉ちゃん!?」

 

 鬼柳の為にブレーキを掛けていたウェストが今にも鬼柳ごと落ちそうなニコの体を引っ張る。だが子供二人で成人である鬼柳を引っ張り上げるのは厳しい。

 

「ニコ! もういい! 離せ! お前達まで落ちるぞ!」

「嫌! 絶対に! この手を離さない! ……鬼柳さんも……絶対に離したら駄目!」

「ニコ……うおお!」

 

 鬼柳は左手でニコの腕を掴み、ニコ達の後ろからは漸く動けるようになったセルジオが鬼柳の両手を掴むと、親子三人で力を合わせて鬼柳をトロッコの中へと引っ張り上げる。

 

「鬼柳さん!」

「鬼柳兄ちゃん!」

「鬼柳さん……」

「ありがとう……助かった」

「鬼柳! 無事か!」

 

 四人が振り向くと、フリントが敵から奪ったDホイールでトロッコに追いついて来た。フリントは車上で立ち上がるとトロッコに飛び移る。

 

「あらかた蹴散らしてきた。暫くは追って来ないだろう」

「フリント……無事でよかった。ありがとう。……そして鬼柳さん。ありがとう。あなたのおかげで――――」

「やめてくれ」

 

 セルジオが感謝の言葉を言おうとすると、鬼柳はうんざりした様子でそれを遮る。迫り来る危機を乗り越え、冷静になった途端に元の調子へ戻ってしまった。

 

「俺は……アンタ達が思っている様な奴じゃないんだ。俺は……人々を地獄へ引きずり込む”死神”だ。”ヒーロー”何かじゃないんだ……!」

「鬼柳、聞け」

 

 俯いている鬼柳に、フリントが話しかける。

 鬼柳がゆっくりとフリントに眼を向けると、フリントはこれまでに無い様な真剣な表情で鬼柳を見ていた。睨みつけていると言ってもよいだろう。

 

「フリント……」

「お前は、自分に関する何もかもを消し去ろうとした。”決闘”を、”絆”を、自分自身でさえ……」

「ああ……」

「……俺は、お前と同じ事をしようとした奴を知っている。誰だか分かるか?」

 

 フリントが問いかけるが、鬼柳は何も答えない。もはや興味が無さそうに見えた。

 

「教えてやる……”遊星”だ」

「……何!? そんな馬鹿な!? 何故遊星が……」

 

 そんな訳が無い。しつこいくらい諦めが悪く、どんなにも小さい可能性を信じる、自分よりずっと”強い”、あの”遊星”が自分と同じ事を望むなど、鬼柳にはとても想像できなかった。

 

「今から3年前、お前が死んでから暫く経っても、遊星は苦しみ続けていた――――」

 

 何故自分は鬼柳を助けることができなかったのか。何故あいつを理解してやれなかったのか。どうしてあいつが死んで俺が生きてるのか。

 

「――――”仲間”だったのに、”友”だったのに、と……」

「!?」

 

 友に対する懺悔――――遊星は鬼柳が死んだ時、今の鬼柳と同じ後悔を抱き、苦しんでいたのだ。

 

「さらに遊星はもう一つ、負う必要の無い”罪”を背負っていた。……サテライトにいて、遊星と親しかったなら、知っているな?」

「…………”ゼロ・リバース”……!?」

 

 遊星の父親はモーメント開発の責任者であり、モーメントの暴走により引き起こされた大災害”ゼロ・リバース”の発端を作った。

 それにより遊星は家族や本来得るはずだった生活を失った者達に対して強い負い目を感じており、事を知ったその日から、遊星はずっと”罪”の意識を抱えながら生きてきたのである。

 

「知らなかった……遊星がそんな風に思ってたなんてよ……」

「……俺もこの話を聞いた時は驚いた。何故当時赤ん坊だったお前が”罪”を背負う必要があるのかと」

 

 そして遊星は鬼柳への”後悔”と、仲間達への”負い目”を同時に背負うことになる。その結果――――

 

「――――潰れた。自分が解らなくなり、決闘が解らなくなり、自分を否定し、友を遠ざけ、蹲って逃げるように俺との決闘を放棄した」

 

 

……すまない……もう放って置いてくれ……駄目なんだ……俺は……俺は……

駄目なんだ……カードの声が聞こえない……応えてくれない……解らないんだ……もう……

違う……駄目なのは俺だ……皆……もう俺に関わるな……俺は……友を”不幸”にするッ……

不幸になるんだッ! 昔も今も! そしてこれからもッ!

 

 

「遊星……」

「だが、遊星は再び立ち上がった。何でか分かるか?」

「…………」

「それはな……遊星は自分が”生きる”ということに気付いたからだ」

「”生きる”……こと……?」

「そうだ。自分の中に……仲間達の中に……生きたい、生きてほしいという願いがあった」

 

 遊星にどんな”罪”があろうとも、遊星と共に生きたいと願う仲間達。そして、そんな素晴らしい仲間達の為、仲間の”思い”に応えたいと願った時、遊星は気付いた。自分は”生き”なければならないと――――

 

「奴と同じ名を持つ歯車、”遊星歯車”は太陽歯車を中心に多くの歯車を結び、動かしている……それと同じだったんだ。遊星は生きることで、多くの人間を動かし、生かしてきた……」

 

 ある少年は彼に憧れ、彼の様な男になることを目指し、外れかけていた道を歩くことができた。ある少女は彼によって”苦しみと悲しみ”から解放された――――多くの者が、遊星のおかげで”今”を”生き”ている。

 

「……遊星は”太陽歯車”だ。無くてはならない存在だ。……そして鬼柳、お前もだ」

「な……!?」

「遊星、ジャック、クロウ、フレア、ニコ、ウェスト、セルジオさん、俺……こんなにも多くの人間に生きることを望まれ、その相手を生かす為にお前は戦い、生きている……解るだろう、鬼柳。お前も遊星と同じ様に感じているはずだ。……皆の思いによって、自分が蘇る”感覚”を!」

「!?」

 

 ニコとウェストの言葉を聞く度に感じた、血が通うような”暖かい感覚”――――それの正体が解った鬼柳は、手で自分の胸を苦しそうに押さえる。

 

「フリント……だけど……だけど俺は――――」

「鬼柳さん! 自分に嘘をつかないでください!」

 

 突然、セルジオが声を張り上げる。その顔はフリントと同様に、真剣そのものであった。

 

「少し、私の話を聞いてください。……昔、シティに何をやっても中途半端で、駄目な男がいました」

 

 セルジオは唐突に語り出す。その男はそれなりの決闘の腕を持つものの、目立った結果を残せず、碌な努力もしないまま、満足の得られない日々を無駄に送っていた。

 

「そんなある日、彼はある男と出会ったのです」

 

 その男の名は”ヴァン・ヴィルアース”。何時でも決闘に対して真っ直ぐで、夢を追い続ける男。自分に無いものを持つ男。

 

「ヴィルアース……!?」

「(フレアの父親か……)」

「あんな駄目な男に、ヴァンは友としてよく気を掛け、間違いそうになる度に彼を正してくれました。……そんなヴァンに、彼は憧れた」

 

 ヴァンがクラッシュと共にシティを去るまで、彼等の交流は続いた。

 ヴァンがいなくなった後、男はヴァンの様に夢を追う為、密かに夢見ていた決闘事業を始め、それを成功させる。

 結婚もして、今まで上手くいかなかった人生が漸く上手く進んでいたその時だった――――

 

「……上手くいかない時もあれば、いく時もある。逆もまた然り。……彼は大きな失敗をし、事業を潰してしまった」

 

 どうしようもなくなった男は、恥を忍んでヴァンを頼ることにした。

 当時のクラッシュタウンはギャング達が鉱山の権利を巡って争っていた時代。なのでクラッシュタウンにやって来た男は失敗を恐れ、夢であった決闘事業を完全に捨て去り、ヴァンの制止を聞かず一番の勢力で給料もよかったクラッシュ・ファミリーの決闘者――――ギャングとして働き始め、危険と隣り合わせの生活を始めた。

 

「……ヴァンはそれからも”友”として男に気を掛け続けました。そして”ファミリー”を辞めろと。……その時、彼はファミリー内でそれなりの結果を残し、実力を認められ始めていました。……誇れることでもないのに、”友”を疎ましく思い始めた彼はそれを理由にしてヴァンの説得を無視したのです。……ですが、ヴァンは諦めなかった――――」

 

 

何で親父の所でくだらない仕事してんだよ! 奥さんを心配させんな! ……お前には夢があったじゃねぇか! 失敗がなんだ! もう一度やり直せる! もう一度”夢”を目指せよ!

 

 

「――――それでも彼は話を聞かない。そこでヴァンはある提案をした」

 

 ヴァンが持ちかけた提案――――それは自分が悪路が続く無整備の谷底を最高速度のDホイールで駆け抜け、それを成し遂げたら男はギャングから脚を洗い、失敗したらヴァンが身を引くというもの。

 男は思った。”できる訳が無い”。まだ乗り始めて1年と少しという腕で、道とは言えない程に荒れている谷底を走るなど不可能だと。

 

「”お前に可能性の力を見せてやる!”……そう言ったヴァンを男は内心で笑いながら、その提案を受けました。そして……その日にヴァンは死にました。岩石地帯で……落石事故にあってッ……!」

「「「「!?」」」」

「ヴァンは……妻と幼い息子、そして産まれたばかりの娘を残して死んだのです……男の……”私”のせいで……」

 

 セルジオは声を震わせながら涙を流す。

 

「その日以来、私は自分を責め続けた。どうして”友”の言葉を聞かなかった。どうして夢を諦めた。無理だと思いながら、何故止めなかった……私のせいだ。私が”友”を殺したのだ、と……」

「親父さん……」

 

 鬼柳はセルジオを見詰める。ここにも、自分と同じ”苦しみ”を持つ男がいた。

 

「何故中途半端に落ちぶれ、夢を忘れた私が生きて、まっすぐで夢を持ったヴァンが死ななければならなかったのか……私はそう思いながら時間を過ごし……ある日、ヴァンの妻である”クヴェル”さんに全てを話しました」

 

 

* * *

 

 

「本当に……本当にすまなかった……!」

 

 泣きながら土下座をして頭を下げるセルジオ。赤ん坊のフレアを抱いて話を聞いていたクヴェルは静かに口を開く。

 

「……セルジオさん、そんなに自分を責めないでください。あなたのせいではありません。夫も私も、あなたを怨んだりはしません」

「そんなはずは無い! 私がちゃんと耳を傾けていれば、こんな事には……ヴァンは死なずに……夢を叶えられたはずなのに……」

「セルジオさん……もう悔やむのは止めましょう。天上にいる夫も、それは望みません」

「しかし……!」

「……セルジオさん。悔やむのではなく、”生きる者”としてどうするべきか考えてみてください」

「”生きる者”……?」

 

 クヴェルは立ち上がると、ベッドの上で寝ている幼いストークの横にフレアを寝かせる。

 

「私は夫の分までこの子達を守って行かなければなりません。そしてあなたも、大事な奥さんと、何れ産まれて来る子供達を守って行かなければならない……悔やんでる暇などないのです。それに……夫は最期まで、”自分”を貫きました」

 

 クヴェルは壁に掛けられている写真に眼をやる。そこにはまだ結婚する前の若いヴァンが写っていた。

 

「あの人は何時だってそう。誰かの為に走ってる。私を命懸けで助けたり、何だかんだ言って義父様を心配して、この地方まで付いて来たり……」

「……最期は、私なんかを説得しようとして――――」

「セルジオさん!」

 

 セルジオが”死んだ”と続けようとすると、クヴェルが大きな声でそれを遮る。それに驚いたのか、眠っているフレアが一瞬だけぐずった。

 

「……夫は死んだのではありません。”生き様”を見せたのです」

「”生き様”……?」

「ええ、夫は最期まで、自分の”生き方”を貫いたのです。……夫は失敗して夢を失ったあなたに夢を取り戻して貰いたくて、危険な賭けに挑んだ……そして、それを成功させて見せたのです。あなたの為に……」

「成功……?」

「岩石地帯が何処にあるかご存知ですか? 谷底の向こう側、奥にある岩山が乱立する場所、そこが岩石地帯なのです。……夫は走り抜いていたのです」

「!?」

 

 成功するはずが無いと思っていたセルジオは見る気も起きず、仕事だと言ってヴァンの挑戦を見に行っていない。その時に立ち会っていた者から”岩石地帯で死んだ”と聞いていただけだったので、岩石地帯のことを”整備されていない岩だらけの谷底”と解釈していた。まさか成功させているとは思っていなかったのだ。

 

「ですから……自分の夢が叶わなくなったのは残念に思っているかもしれませんけど、夫は”満足”していると思います。自分らしく、最期まで誰かの為に”生きること”ができたから……私が愛した男は、そういう人です」

「……そんな……ヴァン……!」

「……セルジオさん。今でも夫を思ってくれるなら、一つ願いを聞いてもらえませんか?」

「え……?」

「どうか――――」

 

 

”生きる意志”を持ってください。ヴァンの分まで生きて、夢を追いかけて、奥さんや子供達にあなたの”生き様”を見せてあげてください。それが、私とヴァンの願いです。

 

 

* * *

 

 

「……その後、ニコとウェストが生まれて……妻とクヴェルさんが病で亡くなった。……一人残った私はニコとウェストをその手に抱きながら誓いました。……何時か必ず、この子達に私の”生き様”を見せてやると……! その為に私は”決闘者”を辞め、資金を蓄える為にクラッシュさんに頼み込み、鉱山で働かせて貰っていたのです。何時の日か、再び決闘事業へ戻るという夢の為に……」

「父ちゃん……!」

「父さん……!」

 

 ニコとウェストはそれ以上何も言わず、揃って涙を流しながら父の胸に抱きつく。

 セルジオは二人をしっかりと抱きしめながら、その眼を鬼柳に向けた。

 

「鬼柳さん……あなたの噂は鉱山まで届いていました。皆、あなたのことを”死神”と呼んでいました。でも……私にはとてもそうには思えない! 鬼柳さん! ニコやウェスト、そして私を守ってくれたあなたを見て確信しました! 死に場所だろうとどこであろうと! あなたには強い生きようとする”意志”がある! ”死神”でも”亡霊”でもない、”人”としての”生きる意志”が!」

「親父さん……」

 

 セルジオは子供達を胸から放すと、鬼柳の手をしっかりと握る。トロッコへ引っ張り上げられた時よりも優しく、それでいて力強い手。鬼柳が感じたことの無い”父親”の手であった、

 

「あなたにも夢があるはず! そして、共に生きてゆきたいと望み合う”友”がいる! それらの為にも、生きてください! 鬼柳さん!」

「鬼柳……セルジオさんの言う通りだ。お前は見せなければならない……生きる意志を、”鬼柳 京介の生き様”として」

「親父さん……フリント…………!? 何だ!?」

 

 鬼柳がトロッコの後方を見ると、大量のDホイールが後ろから凄まじいスピードで追いかけてきていた。

 

「ガーッハッハッハ! これぞ秘密兵器! ダインの売り上げで買った最新式だ! あっという間に追いついたぜ! 覚悟しろ!」

「くそっ! 本当にしつこい奴等だ!」

「! あれを見てください」

 

 セルジオが前方を指差すと、その先の線路が三方向に分かれており、横に置かれたレバーは奥に倒れ、”right”という表示を点灯させている。

 

「あのまま右に行けば外に出られるはずだ!」

「本当か!?」

「させねぇよ!」

 

 追ってきた構成員がコントローラーを弄ると、レバーが二段階動き、”left”と表示される。

 

「コースが変わった!?」

「まずい!? 左は別の作業現場だ! 入れば袋のネズミに……!」

「……鬼柳、最後に俺の頼みを聞いてくれ」

「何だフリント――――フリント!?」

 

 鬼柳が声に振り向くと、フリントがトロッコの縁に脚を掛け、身を乗り出している。

 

「鬼柳! お前はまだ自分が許せないか?」

「…………」

「……そうだな。感じた”罪”というのは、中々消えやしない。周りが幾ら許そうとも、自分の中に残ってしまう……だが、それを承知で言わせてもらうぞ。鬼柳――――」

 

 

         俺の”友”を……”鬼柳 京介”を許してやってくれ。

 

 

「!? フリントォ!」

 

 フリントは鬼柳に言葉を告げた瞬間レバーに向かって飛び、勢いを利用してレバーを引く。

 

「この……!」

 

 だが、レバーは思いのほか固く、一段階までしか引くことができなかった。

 表示は”center”となり、鬼柳達の乗ったトロッコは中心の線路を走って行く。フリントを置いて――――

 

「フリントォ――――」

 

 鬼柳達の声が遠くなっていくのを感じながらフリントは立ち上がると、数台のDホイールが鬼柳達を追わずにフリントの周りを囲んでいた。

 

「手こずらせやがって! 覚悟はいいか? へへへ……」

「……お前達もな」

 

 

* * *

 

 

「(くっ……何処だ! 何処に行った?)」

 

 構成員を全て叩きのめしたフリントは、はぐれた鬼柳や遊星を必死に探していた。

 

「(ここが何処だかも分からん……)」

 

 複雑な鉱山内を走り回っているうちに、フリントはとうとう鉱山の外に出る。外では既に夜が開け、明るくなっていた。

 

「(出口か。だが一人で出ては――――!?」

 

 その瞬間、耳をつんざく様な大爆音が聞こえて来る。

 

「(何だ!? 何が起こっている!? 爆発……皆!)」

 

 フリントは急いで音の方向へと向かう。すると大きなDホイールの影が見えた。

 

「!? (ロットン……!)」

 

 遠い視線の先にはDホイールに乗ったロットン。そして縄で縛られ、Dホイールに取り付けられているアームに吊り下げられているのは――――

 

「!? ニコ! ウェスト!」

 

 フリントは叫ぶが、二人どころかロットンにも届いていない。ロットンはそのままDホイールを発進させ、クラッシュタウン改め”バーバラタウン”へと向かう。

 町の名前がこんなことになっていて、さらにもう二度変わることになるなど、今のフリント達にはまったく想像できていなかった。

 

「くそッ! ロットン!? ……鬼柳と遊星、セルジオさんは――――」

 

 辺りを見渡すが、彼等の姿は何処にも見えない。

 

「まさか……そんな馬鹿な!」

 

 フリントは急いでロットン達がいた場所に近づくと、谷底の前で赤い何かの欠片を見つける。

 

「これは……Dホイールのフレーム!? 遊星!」

 

 フリントは走り出すと、出来るだけ緩い斜面を見つけ、急いで谷底へと滑り降りる。

 

「!? あれは……」

 

 降りた先には何と自身の決闘銃が落ちていた。フリントはそれを広い上げると、多少傷付いてはいるが欠けた部品は無く、セットされていたカードも無事であった。

 

「これがここにあるという事は……ここは俺が捨てられそうになった谷底か」

 

 フリントは決闘銃を持って谷底を進んで行くと、この高さから落ちたにもかかわらずに原型を保っている遊星号を見つける。

 

「遊星号!? ということは――――」

 

 更に奥へ眼を向けると、そこには遊星と鬼柳が倒れていた。

 

「遊星! 鬼柳! 大丈夫か!?」

「ぐっ……うう……」

「…………」

 

 フリントが声を掛けると、二人は目を覚まして立ち上がろうとする。

 

「(この高さから落ちて立てるのか!? いや――――)」

 

 見ると遊星の右腕が光を放っている。おそらく”赤き竜”が彼等を助けたのだろう。

 

「遊星、よく無事でいてくれた」

「……フリント……本当に、お前なのか……? ……フリント!」

 

 遊星は完全に立ち上がると、フリントの両肩を掴み、ヘルメットのバイザーの下から一筋の涙を流す。

 

「よかった……生きていたんだな!」

「気の良い閻魔大王がこの世に送り返してくれてな。心配を掛けた。それよりも、ニコとウェストがロットンにさらわれた」

「何だとッ!?」

 

 フリントは膝をついている鬼柳に顔を向ける。

 

「鬼柳! セルジオさんは? はぐれてしまったのか?」

「……親父さんは……死んだ」

「何!? どういうことだ!」

「親父さんは……俺達を助ける為に――――」

 

 

この子等を……後を頼みます……私は……あなたと、この子達を守る!

 

あんたまさか……ふざけんな! 生きろよ! 生きて夢を追うんじゃなかったのかよ! こいつらに”生き様”を見せるんじゃなかったのかよ!

 

”生きる”為に私は戦うんです!

 

 

「――――親父さんは……”生き様”を見せたんだ……俺に……あいつ等に……」

「セルジオさん……」

「だが俺は……何もできなかった……託されたのに……守れなかった……ニコとウェストを……」

「鬼柳……」

 

 鬼柳は地面を握り締め、爪跡を残す。

 

「俺は……皆に守られっぱなしで……なのに、俺は……誰も守ることができなくて……」

「そんなことはない。お前はあの子達を守ろうとしていた」

 

 遊星がヘルメットを脱いでから近寄り、鬼柳を励ますが、鬼柳は俯かせていた顔を上げ、怒りの表情を浮かべる。

 

「守りきれなきゃ……しょうがねぇだろうが……! !?」

 

 その時、鬼柳は立ち上がって移動すると、何かを拾った。

 

「ウェストが持ってた……親父さんのペンダント……」

「鬼柳、ちょっと来てくれ。遊星もだ」

 

 

* * *

 

 

「ここは……またここに……」

 

 フリントが二人を連れて来たのは丘の上の墓場。最初にきた時は暗くて分かりづらかったが、今では杭と決闘銃で作られた墓標がかなりの広範囲で建てられていることが分かる。

 

「……すまない、親父さん……やはり俺は”死神”や”亡霊”のままだった……」

「鬼柳、こっち向け」

 

 フリントの呼びかけられ、鬼柳がゆっくりと首を回すと、墓場から少し離れた位置にフリントが立っていて、その横には石で作られた小さな墓が建てられていた。

 遊星が近づいてそれを見るが、名前の部分が汚れや砂などで見えなくなってしまっている。

 

「石の墓? 労働者では無さそうだが一体誰の――――」

「鬼柳の墓だ」

「「!?」」

 

 フリントが墓の上を軽く払うと、そこには本当に”鬼柳”の文字が書かれていた。

 

「鬼柳が死んだ時、俺とフレアが密かに建てた物だ」

「……フッ、やっぱりここが俺の死に場所か……」

「残念だが、それはできないな。もう既に埋まってるものがある。定員オーバーだ。お前は入れない」

 

 そう言いながらフリントは落ちていた杭でその場を掘り始める。すると中から箱が出てきた。

 フリントはそれをあけると、中にはボロボロのカードやよく分からないガラクタ。そして一通の封筒が入れられていた。フリントはその封筒を手に取る。

 

「この箱にはこの手紙と、フレアがサテライトで拾ってきたものが入れてある。見ての通りただのガラクタや決闘盤が読み込めないほどに破損したカードだな」

「その手紙は?」

「フレアがサテライトにいる”チーム・サティスファクション”に宛てた手紙だ。……鬼柳、お前がリーダーだ。お前から読め」

 

 フリントは離れた位置に立っていた鬼柳を呼び寄せ、手紙を渡す。

 鬼柳はそれを受け取って封筒から便箋を取り出した。

 

* * *

 

チーム・サティスファクションの皆様

こんにちは、そして久しぶり! フレアです!

実は今度また遊びに行けるようになりました!

だからこの手紙が着く頃にはもうそちらに向かう準備をしてると思います!

今度もまたフリントと一緒に行くので、楽しみにして待っていてください! 

 

それともう一つ。

 

鬼柳。満足してますか?

前はちょっと不満気な感じだったので気になってます。

もしかしてサテライトにはもう飽きちゃったのかな、なんて思います。統一しちゃったしね。

 

そこで私から提案があります。

 

皆で一回クラッシュタウンに遊びに来ませんか?

あんまり広く無いし、ちょっと遠いけど、きっと皆も気に入ってくれると思います。

私も皆に故郷を知って貰いたいです。

 

後ついでにクラッシュタウンも制覇してみませんか?

クラッシュ・ファミリーは強いので手ごたえあると思います。

きっと鬼柳も満足できると思います。

 

もし来てくれるなら、今の内に準備しておいてください。

兄さんの車で皆乗せて行ってもらいます。

 

それでは最後に……皆! クラッシュタウンで満足しようぜ!

 

フレア・ヴィルアースより

 

* * *

 

「……これは」

「フッ……俺とやり取りしていた時と比べて、慣れてない感じがするな」

 

 鬼柳は驚いた表情で手紙を見詰め、遊星は鬼柳の横から覗き込み、軽く笑う。

 フリントは手紙をしまわずに箱を墓へ戻すと、鬼柳に向き合う。

 

「鬼柳、まだ守れなかった訳じゃない。ニコもウェストもフレアも、クラッシュタウンだって生きている。……それだけじゃなかった、見ろ」

 

 遊星が決闘銃の墓標の一つを指差すと、それが光と音を放っている。決闘銃内のモーメントが起動している証だ。

 

「あの決闘銃……まだ生きている……鬼柳?」

「そうか……」

 

 鬼柳は生きている決闘銃の前に立つと、その上にセルジオのペンダントを引っ掛ける。

 

「あんた等やフリントは……ここを俺の死に場所にはさせてくれねぇって訳だ」

「満員だ。当分くるんじゃない」

 

 フリントが冗談のような言葉を投げかけると、鬼柳は小さく笑い、ペンダントを取ってから生きている決闘銃を装着する。

 

「俺は戦う為に、再び”死神”に戻る! ……奴等を本当の地獄へ引きずり落としてやる! そして、ニコとウェスト、そしてフレアを今度は俺が救い出す! ……遊星! フリント!」

 

 鬼柳は二人に向き直る。

 

「俺としたことが、こんなにでかい目標が残ってたじゃねぇか。思えばここもサテライトの管轄地区なんだよな……お前等、力を貸してもらうぜ! ”クラッシュタウン”地区を制覇するぞ!」

「ああ!」

「頼んだぞ、リーダー……」

 

 三人は朝日に照らされながら、並んで遠くにあるクラッシュタウンを見詰める。

 

 

 

「俺を……満足させてくれよ!」

 

 

 

 鬼柳がそう言った瞬間、フリントが決闘銃で号砲を鳴らす。

 いよいよ、クラッシュタウンでの最後の戦いが始まろうとしていた。

 




中二の心を全開に、長々と書いてきましたが……滑ってないといいなぁ~(泣)
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