「(くそ……何処まで行きやがった?)」
フリント達の決闘が始まる頃、鬼柳は遊星号を全速力で走らせ、逃げたロットンを追い続けていた。
日も大分沈んできており、辺りも薄暗さを増している。
「(これ以上暗くなると面倒だ……ん?)」
鬼柳が辺りを見回していると、少し離れた位置に走る巨大なDホイールを見つける。この辺りであんな物に乗るDホイーラーはただ一人であろう。
「ロットン!」
鬼柳はアクセルを全開にすると、小さい岩山をジャンプ台として利用し、ロットンのDホイールに向かって跳びかかる。
「な!? 不動……いやテメェは――――」
「フッ! オラァ!」
「ぐおお!?」
鬼柳は遊星号から飛び出してロットンに組み付くと、自身ごとロットンをDホイールから引き摺り下ろす。
二人は乾いた荒野の上を転がり、運転手がいなくなった遊星号とロットンのDホイールが凄まじい音を立てる。
地面に落ちたのか、岩にぶつかったのか、どれ程損傷してしまったのか、遊星に何て言おうかなどと鬼柳の頭に浮かぶが、今はそれどころではない。
鬼柳はロットンを地面に押さえつけ、ヘルメットのバイザー越しに見下ろす。
「……貴様のターンだ。貴様の様な奴に決闘を汚さねぇ! ……最後まで戦い続ける! それが俺の生き様だ! さあ! 決闘銃を抜け! 俺に勝てたら見逃してやる!」
そう言って鬼柳は立ち上がり、ロットンから離れ、決闘銃を腕に装着して変形させる。ロットンも同様に立ち上がって距離を取った後、自分のDホイールに眼を向けた。
Dホイールは岩に激突して煙を上げており、もうこれ以上走れそうにない。それに比べ、遊星号はフルシールドⅢが無いにも関わらず、損傷が少ない状態で荒野に倒れている。
「(走って逃げるのは無理だな。こいつをぶっ倒し、Dホイールを奪うのが上策!) ……いいだろう! 後悔させてやるよ!」
そう言ってロットンは決闘銃を装着し、起動させると中断していた決闘のソリッドビジョンが全て投影される。
ロットン
LP:1000
手札:0
モンスター
・フルアーマー・オーガ(ATK:1600 レベル5)
魔法・罠
・セット
・セット
鬼柳
LP:1850
手札:0
モンスター
・インフェルニティ・デス・ドラゴン(ATK:3000 レベル8)
魔法・罠
・女神の加護
・セット
「俺のターン!」
ロットン 手札:0→1
「もう出し惜しみは無しだ! 罠カード《無謀な欲張り》を発動! 俺はこの先のドローフェイズを2回スキップすることで、俺はカードを2枚ドローする!」
ロットンはその強欲な性格を表すかのような笑みを浮かべ、残り少なくなってきたデッキからカードを引き抜く。
ロットン 手札:1→3
「クックックック……《ガトリング・オーガ》を召喚!」
ロットンの場に現れたのは3体目の”ガトリング・オーガ”。
それと同時にロットンは2枚の
ATK:800 レベル3
「弾丸は三発。そしてお前のLPは1850……これでジ・エンドだ! ファイヤ!」
ロットンが装填された弾丸を墓地に送るとガトリング・オーガが弾丸の嵐を鬼柳に浴びせる。
「罠発動――――ぐあぁ!?」
鬼柳 LP:1850→1050
「二発目ェ!」
「ぐうぅ!」
鬼柳 LP:1050→250
「これで最後だ! 死ね鬼柳――――どうしたガトリング・オーガ!?」
ロットンが3枚目の弾丸を墓地に送ろうとした瞬間、ガトリング・オーガが砲撃を止め、脱力したように片膝をつく。
「く……こいつが効いたのさ。フリントが最後に残した永続罠《能力吸収石》! モンスターの効果が発動する度に、このカードに魔石カウンターを1つ置く。そしてこのカードに魔石カウンターが2つ乗っている場合、場に表側表示で存在するモンスターは効果を発動できずに無効化される……これで貴様はもうこのターン中にガトリング・オーガの効果は使えねぇ!」
「おのれ……! フルアーマー・オーガを守備表示に変更!」
DEF:1600
「ターンエンドだ!」
「エンドフェイズ時に、能力吸収石に乗っている魔石カウンターは全て取り除かれる!」
LP:1000
手札:0
モンスター
・フルアーマー・オーガ
・ガトリング・オーガ
魔法・罠
・セット
能力吸収石 魔石カウンター:2→0
「俺のターン!」
鬼柳 手札:0→1
「……終わりだロットン! インフェルニティ・デス・ドラゴンでガトリング・オーガを攻撃!」
「フン! 罠カード《次元幽閉》を発動! 攻撃モンスターを除外する!」
「何!?」
インフェルニティ・デス・ドラゴンがブレスを放とうとした瞬間、突然開いた次元の裂け目に飲み込まれ、姿を消してしまう。
最後の猛撃を凌ぎ、漸く勝利を掴めそうだった鬼柳はインフェルニティ・デス・ドラゴンがいた場所を呆然としながら見詰める。
「ハァーハッハッハ! 勝負を急ぎすぎたな! 甘いんだよ! 最後の最後で油断しやがったな!」
ロットンは暫く大笑いした後、急に真剣な表情で鬼柳を睨む。
「……俺もそうだ。甘かった。油断していた。だから逃げる破目になった。……今回も出直すとするぜ。今度は上手くやってやる。お前も地獄で反省することだ……己の甘さをな! さあターンエンドしろ! もう何もできまい!」
「……俺は……生きる」
「あ?」
鬼柳は残された1枚の手札を掴み、決闘盤の魔法・罠ゾーンに挿し込んで発動させる。
「俺は生きる! ニコやウェスト、親父さん、仲間達……俺を必要としてくれる”友”の為! 俺は生きる! ”死神”として、貴様を地獄に落としてな! 魔法カード《貪欲な壺》を発動! 墓地からモンスター5体をデッキに戻してシャッフル! そしてデッキから2枚ドロー!」
鬼柳 手札:0→2
「チィ! 悪足掻きを……だがお前のバトルは既に終わっている! これから一体何ができると――――」
「カードを伏せる! 《インフェルニティ・リローダー》を召喚!」
鬼柳の場に現れたのは”インフェルニティ・リローダー”。不気味な笑い声を上げるこのモンスターが鬼柳にもたらすものは、生か、死か――――
ATK:900 レベル1
「(インフェルニティ・リローダー……さっきシンクロ素材に使ったモンスターか?)」
「自分の手札が0の場合、1ターンに一度、自分のデッキからカードを1枚ドローし、そのカードをお互いに確認。それがモンスターカードだった場合、 そのモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手に与え、それ以外だった場合、自分は500のダメージを受ける!」
「!? テ、テメェ……まさかこの状況でそれをやるつもりか!?」
「ああ……この際貴様でいい。よく見ておけ! 俺の”生き様”を! インフェルニティ・リローダー効果発動!」
インフェルニティ・リローダーが胴体を回転させると、両肩の銃口を二人に向ける。
ロットンのLPは残り1000。レベル5以上のモンスターを引き当てれば鬼柳の勝ちである。
しかし、鬼柳のLPはそれよりも遥かに低い250。モンスターを引けなかった場合、その場で鬼柳の敗北となる。
「(ば、馬鹿な……この状況で……いや、この状況だからか? だとしてもこいつ――――)」
「行くぜぇ! ドロー!!!」
鬼柳 手札:0→1
「――――引いたカードは《インフェルニティ・ドワーフ》! レベルは2! くらえ!」
インフェルニティ・リローダーがロットンに向かって弾丸を2発撃ち込む。
「ぐっ! がぁ!? ……あ、当てやがった」
ロットン LP:1000→600
能力吸収石 魔石カウンター:0→1
「ターンエンドだ!」
LP:250
手札:0
モンスター
・インフェルニティ・リローダー
魔法・罠
・女神の加護
・能力吸収石(魔石カウンター:1→0)
・セット
「俺のターン! ……ドローといきてぇとこだが、《無謀な欲張り》の効果で俺は2回ドローできねぇ。……まあ、関係ねぇな。幾らお前にツキがあっても、これで終わるんだからよ! フルアーマー・オーガを攻撃表示に変更! バトル! フルアーマー・オーガでインフェルニティ・リローダーを攻撃!」
フルアーマー・オーガが左腕の機銃をリローダーに向ける。
「罠カード《サンダー・ブレイク》! 手札を1枚捨て、場のカードを1枚破壊する! 《フルアーマー・オーガ》を破壊しろ!」
フルアーマー・オーガが弾丸を放とうとした瞬間、突如落雷が命中。フルアーマー・オーガを一瞬で灰にしてしまった。
「な!? く、くそ! フルアーマー・オーガの効果発動! 破壊された時、墓地から《ガトリング・オーガ》を1体特殊召喚できる! 守備表示で特殊召喚だ! バトルを終了し、もう一体も守備表示に変更!」
能力吸収石 魔石カウンター:0→1
フルアーマー・オーガが立っていた焼け跡の上に2体目の”ガトリング・オーガ”が現れると、先にいたもう一体と共に防御体勢を取る。
DEF:800 レベル3
DEF:800
「(くそ……攻撃力たった900のモンスターを倒せねぇとは……!) ターンエンドだ!」
LP:600
手札:0
モンスター
・ガトリング・オーガ
・ガトリング・オーガ
魔法・罠
・無し
能力吸収石 魔石カウンター:1→0
「俺のターン!」
鬼柳 手札:0→1
「カードを伏せる! インフェルニティ・リローダーの効果発動!」
「何だと!?」
再び胴体を回転させて二人に照準を合わせるインフェルニティ・リローダー。そして鬼柳はまたしても命を賭けた勝負を行うつもりである。
「(まただ……コイツ……!?)」
「ドロー!!!」
鬼柳 手札:0→1
鬼柳はカードを引く時、恐怖を微塵にも見せない。これが当然であるかのような、自然な動作でカードを引き抜く。敗北するかもしれないというのに、”自分が死ぬわけがない”という確信に満ちた表情をしているのだ。
ここまで準備に準備を重ね、慎重に計画して生きてきたロットンにとって、それは”異常”そのものであった。
「(ありえねぇ……! 死んだらやり直しなんてきかねぇんだ……! それなのにこいつは!?)」
「引いたカードは《インフェルニティ・ミラージュ》! レベルは1! くらえ!」
「!? また――――ぐあ!?」
ロットンはリローダーから弾丸を一発受けてよろめく。少ないダメージでも、このLPの量では重く響くようだ。
ロットン LP:600→400
能力吸収石 魔石カウンター:0→1
「バトル! インフェルニティ・リローダーでガトリング・オーガを攻撃!」
続けてリローダーはガトリング・オーガに向かって一発弾丸を放つと、ガトリング・オーガの内の1体が胴体を貫かれ、破壊される。
「ターンエンド!」
LP:250
手札:1
モンスター
・インフェルニティ・リローダー
魔法・罠
・女神の加護
・能力吸収石(魔石カウンター:1→0)
・セット
「ぐぐ……俺のターン……くそ! ターンエンド!」
LP:400
手札:0
モンスター
・ガトリング・オーガ
魔法・罠
・無し
ドローを封じてしまったロットンに出来る事は何も無い。歯を食いしばりながらターンを終了させる。
「俺のターン!」
鬼柳 手札:1→2
「伏せていた永続魔法《虚無の波動》を発動! 表にしたこのカードを墓地へ送り、自分の手札を全て墓地へ送る!」
鬼柳 手札:2→0
「インフェルニティ・リローダーの効果発動!」
「ま、まだやる気か!? 正気かテメェ! 何回やる気だ!?」
止まらない鬼柳の暴走に、ロットンは動揺した声で叫ぶ。
「ああ? 決まってんだろ! テメェを地獄に落として、俺が”満足”するまでだ! ドロー!!!」
鬼柳 手札:0→1
鬼柳がドローしたカードを確認すると、顔をしかめて舌打ちをする。
「(失敗か!)」
ロットンがそれを見て喜色を表すと、鬼柳は変わらない表情でカードをロットンに向かって突き出す。
「引いたカードは《インフェルニティ・リベンジャー》! レベルは1! くらえ!」
「何だと――――がぁ!?」
ロットン LP:400→200
能力吸収石 魔石カウンター:0→1
リローダーが放った弾丸により、とうとう鬼柳のLPがロットンを逆転する。
ロットンは撃たれた箇所を押さえながら、鬼柳とリローダーに向かって信じられないと言いたげな視線を向ける。
「(どうなってんだ……何故当たる!? どうなってんだ……俺が優勢だったはずなのに!?)」
「バトル! インフェルニティ・リローダーでガトリング・オーガを攻撃!」
リローダーが再びガトリング・オーガに向かって弾丸を撃ち込み、破壊する。
「モンスターをセット! ターンエンド!」
LP:250
手札:0
モンスター
・インフェルニティ・リローダー
・セット
魔法・罠
・女神の加護
・能力吸収石(魔石カウンター:1→0)
「ぐ……く……」
できるだけ表に出さないように努めているが、ロットンは徐々に恐れ始めている。目の前にいる”死神”――――”鬼柳 京介”を。
命賭けの連続勝負によって、彼の精神は大きく磨り減っていた。
「(ぶっ潰せ……カードを引いて奴をぶっ潰せ!) 俺のターン!」
ロットン 手札:0→1
「!? ……俺は魔法カード《埋葬呪文の宝札》を発動! 墓地から魔法カード3枚を除外し、デッキから2枚ドロー!」
ロットン 手札:0→2
「! クックック……カードを2枚伏せ、ターンエンド!」
LP:200
手札:0
モンスター
・無し
魔法・罠
・セット
・セット
先程までとは打って変わって余裕そうな表情となったロットン。余程良いカードを引いたに違いない。
鬼柳は自身のデッキに視線を落とす。
「(インフェルニティ……お前は俺を殺しもしなければ生かしもしていない。その結果があれだ)」
鬼柳はリローダーを一瞥する。命賭けの勝負を3回も繰り返しながら、未だにどちらも死んでいない。
「(インフェルニティよ、俺は生きたい。生きて、今度こそ皆で”満足”したい。”満足”させてやりたい! ……頼む。俺を……生かしてくれ!)」
鬼柳はデッキに指を掛けると、これまでに無い程の力を込めてカードを引き抜く。
「ドロー!!!」
鬼柳 手札:0→1
鬼柳は引いたカードを確認すると、目を細めて笑みを浮かべる。
「(そうか……これがお前達の答えか!) カードを伏せる! インフェルニティ・リローダーの効果発動!」
「させるかよ! 罠カード《ブレイクスルー・スキル》! 相手の場の効果モンスター1体を選択し、選択した相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする! 《インフェルニティ・リローダー》の効果を無効だ!」
リローダーが胴体を回転させるが、どちらにも照準を合わせないまま動きを止めてしまう。
「おいおい、そんなに恐いかよ? これが」
「何とでも言え。……お前こそ俺に攻撃する事にビビってんじゃねぇのか?」
ロットンのあからさまな挑発。間違いなくあの伏せカードは罠であろう。
「いいぜ! 今すぐ地獄へ送ってやるよ。最強の”死神”でな! 行くぜ!」
鬼柳はそう言って伏せたばかりのカードを発動させる。
「魔法カード《死者蘇生》を発動! 蘇れ――――」
《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》!!!
鬼柳の場に現れたのは、フリントが残していった”死神”――――”煉獄龍 オーガ・ドラグーン”。
地に下りると、ロットンに向かって凄まじい咆哮を上げる。
ATK:3000 レベル8
「こ、こいつは……こいつはァ!?」
ロットンは恐怖や怒りが混ざり合ったような表情でオーガ・ドラグーンを見上げる。
「決着をつけようぜ、ロットン――――!?」
この瞬間、鬼柳の脳裏に何かのイメージが浮かび上がる。
「(何だこれは……!? 何かが……俺の中で……)」
頭に何かが流れてくるような不思議な感覚。それは鬼柳が失っていた記憶――――
「(これは……何時の……ダークシグナー……いや)」
それはサティスファクションでも、ダークシグナーの時でもない。これは”今とダークシグナーの間”の記憶――――
…
……
…………
………………
……………………
「ぐっ……こ、ここは……?」
果てしなく広がる、荒れ果てた大地――――”煉獄の荒野”。その中心で”鬼柳 京介”が目を覚ます。
「俺は……あの時消滅したはず……」
周りの風景は色の無い大地と視界を遮る白い霧。そして側には見覚えのある人物達が倒れていた。
「”ダークシグナー”……」
倒れているのは自分と同じ、それぞれの”地縛神”を連想させる黒い装束を着た男女数人。カーリー渚、ミスティ・ローラ、ディマク、そして一人だけ装束を着ていない、見覚えの無い大男の計4人である。
「(ルドガーは……――――!?)」
リーダーであるルドガーを探そうと辺りを見渡すと、急に後ろから強い威圧感を感じる。
「な、何だ!?」
振り向くとそこには巨大な門がそびえ立っていた。
鬼柳が呆然としながらその門を見上げていると、門が徐々に開き始める。
「こいつは一体……」
『気が付いたか……』
「!? 誰だ!」
突如聞こえてきた謎の声。鬼柳がその主を探そうとして辺りを見渡すが、ダークシグナー達以外は誰もいない。
『我は”煉獄の番人”』
「煉獄の番人……?」
『この地を統べる者にして、”魂の選別者”……ここは現世で死を向かえた”優れた魂”が訪れる試練の場、”煉獄の地”。お前達ダークシグナーはシグナーとの戦いに敗れ、死してこの地に訪れたのだ』
「死……選別者……つまりあれか? お前はあの世の”閻魔様”って奴か? ……ならとっとと地獄に送ってくれよ? 俺達が何なのか、解ってるだろ?」
鬼柳は自嘲するように笑う。天国か地獄かで言えば、自分は地獄であろう。その地獄から来た”神”の側に付いていたのだから。
『いや、お前達は地獄行きどころか、”器”を与えて現世に送り返す事になっている』
「!?」
『さあ、門を潜るがいい。その先が現世だ』
開き切った門の先は見えず、黒い空間がただ渦巻いている様に見える。
鬼柳は黙ってその門を見ていたが、突然フッと笑って顔を背けてしまった。
「俺は御免だ。生き返らせるならそこの4人だけにしてくれ」
『ほう……この地を訪れた者でその様なことを言ったのはお前が始めてだ。”試練”を受けずに現世へと戻れるこの機会を捨てるとは……何故生き返ることを拒む? 何故”死”を望む?』
「……戻れる訳無ぇだろうが! 閻魔なら俺が……何をしてきたか解ってるだろ……!」
鬼柳の脳裏に浮かぶ、先程までの自分。
人々の魂を奪い、友を傷つけ殺そうとし、世界を破滅させようとしたダークシグナーの自分。
「……だから、俺は戻れねぇ」
『フフフ……』
「……何笑ってんだよ」
『本当にそうか? お前は死を望むのか?』
「しつけぇ! 俺に生き返る資格なんて無ぇんだ! 死んで当然なんだよ!」
『そうか……なら試してやろう』
煉獄の番人がそう言うと、突然鬼柳の腰に提げられているデッキケースからカードが飛び出し、40枚のカードが宙を飛び回って鬼柳を囲む。
「な、何だ!? 俺のカードが……」
その中の一枚、ダークシグナーの象徴である漆黒のカードが輪の中から飛び出し、描かれている百の眼を持つ竜が実体化して鬼柳の前に立つ。
「ワ、”ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン”……!?」
ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンは鬼柳を頭部の眼で捉えると、鬼柳に向かってすぐさまブレスを放つ。
「うおお!?」
ブレスによって巻き上げられた砂塵。それが晴れ、見えてきたのは抉られた地面とその横で息を荒くして座り込んでいる鬼柳。どうやら間一髪でかわしたようだ。
『クックック……やはりな。貴様は死ぬ気など無い』
「テ、テメェ!」
『我の前で嘘を通せると思うな。貴様は死ぬ気など無い。本当はすぐにでも現世へと戻り、仲間と共に、”あの頃”の様に生きたい……そうだろう?』
鬼柳は姿の見えない煉獄の番人の代わりに門を睨みつけた後、小さく溜息をつく。
「……そうさ! そうできるならそうしたいさ! だが無理なんだよ! 俺がしてきた事は許されることじゃねぇ!」
『違うな。お前が生き返ろうとしないのは”罪の意識”からではない』
「!? な、何を――――」
『お前は”恐い”のだ。現世の何もかもが』
「な、に……?」
鬼柳の声が勢いを失うと、鬼柳は右脚を一歩後退させる。その脚は僅かに震えていた。
『お前は”恐怖”している。現世に戻った時、果たして”世界”は自分を受けいれてくれるのか? ダークシグナーとなり、世界を破滅させようとした自分を』
「…………」
『かつての仲間は自分を受け入れてくれるのか? 些細な誤解で恨みを向け、敵対して復讐を行おうとした自分を、仲間達はどう思っているのか?』
「や、やめろ……」
『仮に全てがお前を受け入れたとしよう。だがその時、お前は正常でいられるのか?』
「やめろ……やめろ!」
鬼柳は顔を強張らせながら一歩ずつ後退していく。目の前に門を恐れるかのように。
『仲間達と共に生きている間に、また繰り返すのではないのか? 己が”満足”したいが為に――――』
「やめろぉ! 違う……違う!」
『再び仲間達の”敵”となって、仲間を傷つける。仲間が大事にしている”世界”を傷つける』
「違う! 違う違う違う!」
鬼柳は耳を塞ぐようにして蹲る。
『それ等を恐れるあまり、お前は自らを偽って”死”を選んだのだ』
「……うわぁぁぁーーーー!!!」
鬼柳の叫び声が煉獄の荒野に響き渡る。鬼柳は涙を流していた。
「……そうさ、恐い……俺は罪を感じて死にたがってんじゃない……ただ恐いんだ。皆と会って、拒絶されることが……皆を傷つけることが……」
自分に絶対の自信を持ち、チーム・サティスファクションを率いていた鬼柳とは思えないほど惨めな姿。チームの崩壊、仲間への誤解、ダークシグナーへの堕落――――多くの過ちを犯してきた彼は自信を失い、人や自分に対して”臆病”になっていた。最期に許し合ったはずの遊星にすら怯えるほどである。
暫くしてから、蹲って泣いている鬼柳に煉獄の番人が声をかけた。
『……なら、確かめに行けばよい』
「!?」
『お前に何が分かる? 本当にお前の言う様な結果になるのか? 本当にお前が言う様になれば、お前は近いうちに命を絶ち、またここへ訪れるだろう。その時は真っ先に地獄へと送ってやる。だから、今は戻るがいい。”真実”を確かめにな』
「!? い、嫌だ! 俺は絶対に戻らねぇ!」
そう言って鬼柳は立ち上がり、門から離れて逃げ出そうとするが、目の前にいたワンハンドレッド・アイ・ドラゴンが鬼柳を飛び越し、彼の行く手を阻む。
「うわぁ!?」
『……つまらん。お前程つまらない者も久しぶりだ』
「な、何……」
『お前よりも以前に来た者とは正反対だ。……いや、喚いたのは同じだな。ただ、その者は”生きたい”と喚いたが』
「生きる……」
『その者は”重い罪と使命”を背負ってこの地へとやってきた。そして”試練”を乗り越え、現世へと戻っていった。”真実”を確かめる為にな……何故お前はそうしない?』
「真実……」
鬼柳にも生きたいという”希望”はある。しかしそれに踏み出す為の”勇気”が今の彼には足りない。
どうしようもなくなった鬼柳は顔を俯かせる。
『フン、臆病者め。ならば貴様に”供”をくれてやろう』
煉獄の番人がそう言うと、鬼柳から東の方角にある霧の中から黒鎧の将軍”インフェルニティ・ジェネラル”が現れる。よく見るとその後ろには”インフェルニティ・ナイト”、”インフェルニティ・アーチャー”が付き従っていた。
「な、何だこいつ等……」
『この者達は遥か昔、現世に置いて名を馳せた大国の騎士達だ。その魂はこの煉獄へと導かれ、”試練”に失敗したことにより、この地に魂を縛り付けられた。……今は我の意のままに動く憐れな亡者共に過ぎん。この者達をお前にやろう。腑抜けたお前にはお似合いの手下だ。精々守ってもらえ。……そして――――』
煉獄の番人が言葉を区切ると、門の中から無数の半透明の腕が伸び、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンを捕まえ、最後に伸びてきた腕が宙に浮かんでいたインフェルニティのデッキを全て回収し、手に収める。
『フン……気に入らぬな。”闇”の奴等め、何時の間に我の力を模倣していたのか……こうしてくれる』
突如腕から紫のオーラが溢れ出すと、掴んでいるワンハンドレッド・アイ・ドラゴンとデッキを包み込む。
オーラに包まれたワンハンドレッド・アイ・ドラゴンは凄まじい叫びを上げ、もがき苦しみ出すと、その体が醜く膨張、変形していく。
「あ、ああ……!?」
『フフフ……”我の力”と”闇の力”のぶつかり合い、それに”器”が耐え切れずに変形しておるわ。最後まで器が持つかどうか……』
暫くして腕からオーラが消えると、漸く腕がワンハンドレッド・アイ・ドラゴンだったものを解放する。
『耐え抜いたか、しかし醜くなったものよ。……”インフェルニティ・デス・ドラゴン”。これもお前にやろう。これだけいれば十分だな? さあ、門を潜り、現世へと戻るのだ』
「!? ま、待てよ! 勝手に話を進めてんじゃねぇ! 俺は絶対に――――うわ!?」
突然、鬼柳は大きな力によって門に引き寄せられて行く。
鬼柳は門を見ると、全開に開いた門が全てを吸い込もうとしているのが見えた。
「やめろー! 俺は……俺は!」
鬼柳は抵抗して地面にしがみついていたが、気絶している4人は次々と門へ吸い込まれて行く。
『臆病者よ、精々生き足掻いて見せろ。”真実”を見つけるまでな……』
「く、くそ――――うわぁぁぁーーー!?」
とうとう鬼柳は力尽き、他の4人と同様に門へと吸い込まれて行く。
それを見送ったインフェルニティ・デス・ドラゴンと黒の三騎士は自身をカードへと変え、デッキのカード達と共にその後を追って門の中へと消えていった。
前にいた全てを吸い込んだ門はその扉をゆっくりと閉ざして行く。
「……行きましたね、兄さん」
「ああ。……”煉獄の番人”よ。感謝する」
門の扉が閉まった後、その裏側から体格の良い二人の男が現れる。
一人は金髪の、もう一人は銀髪の長髪を持つ、お互いによく似た顔の男達であった。
『これから”闇”の奴等と戦うというのに、むざむざと戦力を捨て、二人で挑もうとは……つくづく”人間”と言う者は理解できん。……そこが面白いところだがな』
「……もう、この様な”因縁”は終わりにしなければならない。それを断ち切るのが我等兄弟の役目……彼等は、もう自由にされるべきなのです。……それと、あなたも私達から見れば随分と面白い神ですよ。こんなに話が通じるとは思いませんでした」
銀髪の男がフッと笑うと、煉獄の番人も静かな笑いを返す。
『……さあ、もう行くがいい。その魂が尽きるまで、戦い抜いて見せろ』
「ああ。……行こう、レクス」
「ええ……兄さん」
……………………
………………
…………
……
…
「(……これが……俺の……)」
鬼柳は自身の場に現れたオーガ・ドラグーンを見上げる。
「(間違いねぇ! あの閻魔野郎と同じ気配! テメェがあの時の閻魔か!)」
鬼柳の視線に気付いたのか、オーガ・ドラグーンは鬼柳を一瞥する。その顔を見た鬼柳は何故か小馬鹿にされているように感じた。
「(この野郎……いいか閻魔野郎! よく聞け!)」
鬼柳はオーガ・ドラグーンに対して念じる様に訴えかける。
「(テメェの言う通りだ。俺は怯えて逃げてばかりのどうしようもねぇ野郎だ……だがな、見つけたぜ! ”真実”って奴をよ! 俺は……生きる! 俺を必要とし、共に歩む事を願ってくれた人々の為に! 仲間の為に! ”世界”の為に! ……だからよ、当分テメェのとこには行かねぇ! 分かったな!)」
心中でそう言い終わると、オーガ・ドラグーンは返事を返すかのように咆哮を上げる。
「ぐ……こんな……馬鹿な……!?」
「バトル! 煉獄龍 オーガ・ドラグーンでロットンを攻撃! 【
オーガ・ドラグーンが獄炎のブレスを放つと、ロットンは自棄になった様に仕掛けていた罠を発動させる。
「うおぉぉぉ!!! 罠カード《魔法の筒》ァーーー!!!」
「オーガ・ドラグーンの効果発動! 1ターンに一度、手札が0の時、相手の魔法・罠の発動を無効にして破壊する!」
「ぐッ……ううぅ……あああ――――」
ワアアァーーーーーーーーーーーーーー!!!
荒野に響き渡る、ロットンの大絶叫。その瞬間、獄炎がロットンを包みこむ。
ロットン LP:200→0
ソリッドビジョンが消え、決闘が終了のアラームが鳴り響き、夕日が地平線の中へと消えた。
ソリッドビジョンのはずなのに、体から焦げ後と煙が消えないロットンは虚ろな眼で鬼柳を睨む。
「この……”死神”が……――――」
最後にそう言うと、ロットンは白目を剥いてその場に倒れこむ。
鬼柳はそれを見届けると、相変わらず苦手なガンプレイは行わず、元の形に戻した決闘銃をガンベルトに収める。
「……これで……”満足”したぜ……」
* * *
こうして、鉱山とクラッシュタウンを巡る、長き戦いの幕が下りた。
ロットン、バーバラ、マルコム、ラモンの4名と、鉱山内にいたロットンの手下達はセキュリティによってすぐさま連行。降伏し、改心の余地がある者については、セキュリティと繋がりがある遊星達の力添えによって逮捕はされずに済んだ。
その後、朗報を聞きつけ一瞬で元気を取り戻したクラッシュが町へ戻り、戦後処理を行ってその日は終了した。
その翌日――――
「なあ爺さん……何で俺なんだ?」
「もう俺も年だし、今回で懲りた。もう屋敷の中に引っ込んで余生を過ごしてぇんだよ。で、誰に任せるか考えたらお前が一番適任だった。暫くは助けてやるから、やってみろ」
鬼柳はクラッシュ達に十字路に呼び出され、簡単なお立ち台の裏にある簡単な舞台裏で唐突に”ある役目”を任されようとしていた。
クラッシュの後ろにはフレア、フリント、ニコ、ウェスト、ストーク、ブロンソン達を初めとするクラッシュタウンの住民達の一部と、遊星達三人が揃っていた。
「だけどよ……」
「いいじゃんやろうよ鬼柳兄ちゃん! ここに残ってくれるって言ってたじゃん! やろうよ!」
「こらウェスト! ……でも鬼柳さん、私もできれば鬼柳さんにやって欲しいの」
駄々を捏ねるウェストを叱りながらニコが鬼柳を見詰める。
「ファミリーの皆も納得してるし、問題無いと思うよ!」
「お前なら、心強い事この上ないだろうな。安心して任せられる」
続けてフレアとフリントが鬼柳の背中を押す。
鬼柳は困惑を顔に浮かべ、ストークの方を見た。
「いいのかよ? 本来ならアンタがなるはずじゃないのか?」
「いや、俺には店があるし……やっぱり、俺にギャングは向いてないんだよ。鬼柳さんなら俺以上にできると思う。代わりに頼めないかな?」
「しかし……」
「いいじゃねーか! 役に立てるだけよ! 俺なんか決戦の時気絶してたんだぞ! そして今も役に立てない! 贅沢言うなよ!」
渋る鬼柳にストークが両手を合わせ、ブロンソンが包帯だらけの体を見せた。
進退窮まった鬼柳は遊星達へと視線を送る。
「遊星……」
「フッ……諦めろ」
「クロウ……」
「まあ何だ、俺等もお前のイメージっつったら、”リーダー”だしな。向いてると思うぜ?」
「……ジャッケロォ!」
「喧しい! 何だその呼び方は!?」
見事全員から手放されてしまった鬼柳はその場で考え込み、暫くしてから顔を上げた。
「……本当に俺でいいんだな?」
「いいつってんだろうが。それじゃ早速お披露目だ。行け」
「痛! 上がるからやめろ!」
クラッシュは杖で鬼柳を突きながら壇上へと上らせる。
「ったく……おお」
鬼柳が壇上から十字路を見渡すと、そこには新生”クラッシュ・ファミリー”の構成員達で溢れかえっていた。
全員が特徴らしき物を身に付けていないせいで分かりづらいが、中にはマルコム・ロットンやラモンの手下達も混じっている。
とうとう”クラッシュタウン・ギャング”が一つの組織として統一されたのだ。
「……よう。お前等、本当に俺でいいんだな?」
「オウ!」
鬼柳の言葉に、構成員達が一斉に掛け声を上げる。
「そうか……やるからには、徹底するぞ! どんな奴等が来ようが返り討ちにする”最強の軍団”にするからな! 覚悟しておけよお前等!」
「ウオォォォーーーー!!!」
構成員達が一気に沸き立つと、クラッシュが壇上に上ってくる。
「いいぞ。それじゃ初命令と同時に、ファミリーとこの町の新しい名前を考えてくれや。何時までも”クラッシュ”じゃ俺が退いた意味が無ぇ」
「おいおい……そこまでしていいのかよ?」
鬼柳がこちらを見上げているフレアとフリントに視線を送ると、フレアはそれに笑顔を返した。
「”クラッシュ”の名前に思い入れはあるけれど、きっと新しい名前も好きになれるから、私は構わないよ!」
「全員右に同じだ。……良い名を頼むぞ」
フリントが親指を立てると、鬼柳も親指を立ててから構成員達に振り返る。
「お前等! まずは”城”がしっかりしてなきゃ意味が無ぇよな? まずはこの町の復興からだ! 住民達と協力してしっかりやれ! サボるんじゃねぇぞ! そして覚えとけ――――」
この町の名は”サティスファクションタウン”!
そして俺達は”チーム・サティスファクション”だ!
お前等! 満足しようぜ!!!
* * *
それから数日間、フレアやフリント、遊星達はサティスファクションタウンに滞在し、”チーム・サティスファクション”や住民達と共に町の復興に励んだ。
特に新たなる”町のリーダー”となった鬼柳は大忙しである。
だがそんな状況の中にいつつも、”友”に囲まれている鬼柳は”あの頃”の様に、とても楽しげな表情であったという。
そして、ある程度まで町が復興された、晴れの日の朝――――
「ストーク……もうそれ位にしとけよ。フレアが困ってんぞ?」
「フレア……もうちょっと、いてもいいんじゃないか?」
「兄さん、気持ちは解るけど、私も向こうでやらなきゃいけない事があるから……それに、これ以上いたら里心が付いちゃいそうなんだもん。だから許してね兄さん」
名残惜しそうにフレアの手を握っているストークを宥めるブロンソンとフレア。どうやら今回の一件でストークの心配性がさらに大きくなってしまった様である。
そんな様子のストークに、クラッシュが杖で頭を小突く。
「しっかりしろストーク。お前も俺の孫なんだからな。フレアが帰ってくるまでに店を今よりも繁盛させて置けよ」
「わ、解ってますよお爺さん……フレア以外の事で悩む必要はもうありませんからね。店に集中して、この町と同じ様に盛り立ててみせますよ。……お前も、しっかりやれよ! 応援してるからな!」
「うん!」
一方その横では、鬼柳がニコとウェストと並んで遊星達五人と向き合っていた。
「お前等が来てくれなかったら、俺は……皆、ありがとう」
鬼柳は心からの礼をすると、一人一人に手を差し出し、握手を求める。
「遊星……」
「鬼柳、お前ならこの町を守って行ける。頑張れよ!」
「勿論だ。……クロウ」
「チーム・サティスファクションが再結成するのも、悪くねぇと思ってたけどよ。どうやらお前には”ドデカイ”仕事があるみてぇだし、仕方ねぇな! ……たまにはこっち遊びに来いよ! 息抜きも必要だぜ!」
「ああ。……ジャック」
「フン! もう面倒を起こすなよ! ……久々に皆が揃って、楽しかったぞ」
握手を終えた四人はお互いに笑い合う。
最後に鬼柳はフリントに向かって手を差し出した。
「フリント……お前は不思議な奴だな。4年前に、フレアと一緒にフラッと俺達の前に現れたと思ったら、あっという間にいなくなって。そしてまた俺の前に現れた。……閻魔まで連れてな。あれは一体なんだったんだ?」
「俺にも分からない……分かるのは、俺達はあの”番人”に生きるチャンスを与えられていたという事だけだ」
「へっ……なら、トコトン生きてやるよ! あの野郎の薄気味悪ぃ声が恋しくなるまでな!」
「……それは、ありえないな」
そう言って鬼柳はフリントと共に大きく笑い合う。事情を知らない三人とこちらへ来ていたフレアは呆気に取られたように二人を見詰める。
「(フリント、珍しい笑い方……) ……っと、鬼柳! はいこれ!」
フレアは懐から封筒を取り出すと、それを鬼柳に渡す。
「? 何だこれ?」
「私のサインカードが入った封筒よ! ウェストが持ってるあなた達のサインカードみたいに、元気が無い時に見ればきっと元気になれるよ!」
自信有り気に胸を張るフレア。鬼柳は噴出した後、それを大事そうにしまう。
「ありがとよ。……それじゃお前等、元気でな!」
鬼柳が五人に向かって親指を立てると、五人も同様にして返し、それぞれのDホイールに乗り込み、荒野に向かって走り去る。
クラッシュ、ストーク、ブロンソンは町の出入口から五人の姿が見えなくなるまで手を振り、鬼柳、ニコ、ウェストは近くの丘まで走って見送る。
「皆ーーー!!! WRGP頑張ってねーーー!!!」
「元気でねーーー!!!」
大声を出しながら見送る二人に対して穏やかに眼を細めながら、鬼柳は先程渡された封筒を取り出し、中身を確認する。
「お……これか」
中身はフレアの言う通り、1枚のサインカードが入っていた。その表面にはフレアのサインと、彼女のコメントがサインよりも大きく書かれていた。
これからもずっと、満足しようぜ!
慣れてない下手なサインの横に、踊るような可愛らしい字で書かれたそれを見て、鬼柳は笑いの息を洩らす。
「フフ……そうだな。まだまだ、もっと……」
「鬼柳兄ちゃん、どうしたの?」
「いや、何でもない。さあ、帰ろうぜ。俺達の町へ……」
鬼柳は二人の背中を軽く叩いて促すと、町に向かって歩き出す。
”死神”から”人”へと戻った、”鬼柳 京介”の新たなる一歩であった。
「(……勿論だフレア。俺は”守るべき人達”と共に、これからもずっと――――)」
満足してやるぜ!!!
これにて、クラッシュタウン編は終了となります。
荒野のデュエリスト自体はまだまだ続きますので、どうぞこれからもよろしくお願いします!