遊戯王5D's ~荒野のデュエリスト~   作:鬼柳高原

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第49話 先に向けて

 

「お! いいとこじゃねーかここ! ここなら満足できるぜ!」

「そうだね! いい席取れてよかった! フリント、パンフレット見せてよ!」

 

 ここはシティ沿岸部WRGP特設予選会場スタジアム。

 チーム・サティスファクションの面々は控え室でもピットでもなく、観客席最前列に腰を下ろしていた。

 次の対戦相手の決闘を見るためである。

 

「え!? 本気なの? この人……」

「だろうな」

「ほー! 面白れぇ奴じゃねーか! 気に入ったぜ!」

 

 試合開始数分前、フレアと鬼柳はフリントから見せられた試合情報を見て驚きの声を上げていた。

 その内容はHブロック第二試合、”チーム・フォーチュンナイツ”VS”炎城 ムクロ”の対戦である。

 チーム・フォーチュンナイツのメンバーは全員フォーチュン・カップの出場者で構成されているらしいが、練習走行にも姿を現しておらず、その詳細は不明である。そしてその対戦相手である”炎城 ムクロ”とはチーム名ではなく、個人名。つまり、一人での出場を意味する。

 

「一人でWRGPに参加するなんて……自信あるんだね」

「フリント、このムクロって奴はどんな決闘者なんだ?」

「炎城 ムクロ……シティでは有名なプロ決闘者だな」

 

 フリントがムクロについて説明を始める。

 炎城 ムクロはプロ決闘者で、しかも毎年プロランキング上位に入り、二度もタイトルマッチを経験している強者である。

 しかし、彼にはその印象を悪くする不名誉が多い。

 代表的なものを挙げれば、まずまっさきに挙がるのはプロ決闘者としての素行の悪さであろう。暴力沙汰など、何時プロ決闘者をクビになってもおかしくない程である。

 そしてもう一つは時の絶対王者”ジャック・アトラス”への連敗。これらのせいで彼は実力以下の評価を受けているのである。

 

「最後に残っている公式記録では、一年半前にフォーチュンカップへ飛び込み参加し、一回戦で遊星に敗れている」

「ああ? ジャックに負けて、遊星に負けて、本当に強いのかよそいつ?」

「いや、それは遊星達が強いのよ……」

「噂では修行の旅に出ていたとされている。……始まるぞ」

 

 フリントが前を顎で差した瞬間、MCの高らかな声が会場に響き渡る。

 前試合と近いような挨拶を述べた後、チーム入場と紹介へと移った。

 

〔フォーチュンカップでの熱き興奮、皆は覚えているかぁ!? あの時の興奮を蘇らせる、三人の決闘者が今ここに集う! ”チーム・フォーチュンナイツ”ッ! まずはチームリーダー! 鉄血の騎士! ”ジル・ド・ランスボウ”!〕

 

 MCが名を呼ぶと、入場門から金色の鎧と青いマントを纏った騎士風の男が現れ、腰に提げた剣を抜き、空に向かって突き上げてからピットへと向かう。

 

〔続いてはフォーチュンカップベスト4! 帰ってきた黒き暴風! ”ボマー”!〕

 

 続いて現れたのは褐色肌で長髪の大男。

 ジルとは違ってアクションは見せず、黙ったままピットへと向かう。

 

「あ、ボマーだ!」

「あいつ……!」

 

 鬼柳が観客席から身を乗り出してボマーを見る。

 

「鬼柳……解るの?」

「……ああ、解るさ。一度見かけたしな」

「(あれ? そんな機会あったかな?)」

 

 フレアは夢でダークシグナーとの戦いの全容を把握しているが、鬼柳がボマーを見る機会があったなどとは知らず、首を傾げた。

 

〔そして最後は”蘇る死神”! フォーチュンカップでの怨み、晴らす事ができるのかぁ! ”死羅”ぁ~~~!〕

 

 最後に現れたのはマントで身を包み、フードを深く被った怪しげな男。

 笑っているのか、小刻みに体を揺らしながらピットへと向かう。

 

「何だあいつ? マジシャン野郎を思い出すな」

「奴は死羅。”蘇る死神”と呼ばれる決闘者だ。裏世界では有名な決闘者だったらしいが……詳しい情報は手に入らなかった。フォーチュンカップでは炎城 ムクロに闇討ちをくらい、出場権を奪われて終わっている」

「随分間抜けな死神様だな。闇討ちなんてくらう方が悪いぜ。サテライトでも常識なんだから、裏世界でも同じだろ? 何かあいつだけ駄目駄目な感じだな」

 

 死羅に対してきつい評価を付ける鬼柳。同じ”死神”を名乗っていただけに容赦がない。

 

〔さあ対するチーム……というより、決闘者! 打倒”キング”に命を懸ける、熱き炎のDホイーラー! ”炎城 ムクロ”!〕

 

 MCが名を呼ぶと、フォーチュンナイツとは別の入場門から一台のDホイールが飛び出し、そのままコースへと躍り出る。

 

「わっ!? Dホイールに乗って出てきた!? 何で!?」

「フォーチュンカップ式の入場だな」

 

 フレアは驚きながら車上の炎城 ムクロを見る。

 ムクロはヘルメットを脱ぐと、歓声に応える様に右腕を高らかに挙げた。

 

「わ……Dホイールもそうだけど、凄く”暴走族”って感じ」

 

 フレアの視線の先に移るのは、燃え盛る炎の様な髪と無精髭を蓄えた、品があるとは言えない笑顔を浮かべる男。

 サングラスを掛け、ドクロやトゲが付いた装飾品を身に付けたその姿は正に”暴走族”である。

 

〔炎城 ムクロは既に準備オーケーのようだぁ! 決闘はチーム・フォーチュン・ナイツの準備が整いしだい、開始されるぞぉ!〕

 

 MCがそうアナウンスすると、ムクロは少し苛立った様子で舌打ちをする。

 

「(早くしろよ……)」

 

 そう思いながらムクロはフォーチュンナイツに眼を向ける。

 その視線に気付いたフォーチュンナイツのリーダー、ジルが近くにいるボマーの肩を叩いた。

 

「ボマー殿、あれを……」

「どうした? ……対戦相手の炎城 ムクロが何か?」

「まさかチーム戦であるこの大会に一人で出場するとは……見た目と前評判の割には堂々とした男ではないか」

「確かに……圧倒的有利とはいえ、油断しない方がいいかもしれん」

「フフ……流石は上位プロ決闘者と言ったところか。……それにしてもボマー殿。今回のご協力、改めて感謝しますぞ! おかげでこの大舞台にて、最高のメンバーと共に我が愛馬の初陣を飾る事ができるのですからな!」

「む……ああ、まあ……そうだな」

 

 この時、ボマーは内心で溜息をつく。

 本来、彼はWRGPに出場する為にこのシティへとやってきたのではなく、”ある事”を”ある人物”に伝える為にやってきたのだ。

 

「(まさか、WRGPの参加を頼まれるとはな……)」

 

 シティに到着し、その人物に会いに行こうとした時、ボマーは偶然ジルと死羅に出会う。

 同じフォーチュンカップ出場者としてお互いに関心を持ち、暫く会話を交わしていたところ、ボマーはジルからWRGPチームへの誘いを受けた。

 ボマーは最初、自身の目的やフォーチュン・カップでの凶行を挙げ、彼等に迷惑をかけてしまうと言って参加を断ったのだが、その誠実な態度に騎士の姿を見たジルはこれ以上の決闘者はいないと判断し、粘り強くボマーに参加を頼み込んだ。

 ボマーはそれでも断り続けていたのだが、ジルの真剣な態度と、内から湧き上がって来る決闘者としての闘志に背中を押され始め、とうとう参加を承諾してしまう。

 

「(私も一人の”決闘者”という事か。本来はこんな事をしている場合ではないのだが……だが、ある意味丁度よかったかもしれん)」

 

 ボマーはピットに備え付けられている小型テレビに眼を向ける。

 そこにはAブロックの試合中継が映し出されており、遊星が相手チームのリーダーである”ジャン”と握手を交わしているのが見える。どうやら決着が着いたようだ。

 

「(……”ジャック・アトラス”は予選期間中にはこのシティから離れようとしないだろう。どの道、時間を取られてしまう。……アニーやマックスには申し訳無いが、今は一人の決闘者でいさせて貰おう)」

「フッフッフ……! 炎城 ムクロ……! とうとうあの日の怨みを晴らす時が来たぞ……!」

 

 チーム・フォーチュンナイツのファースト・ホイーラー、死羅が不気味に笑いながらD・ホイールの調整を終える。

 

「死羅……君の気持ちはよく解るが、復讐心を糧とした決闘に勝利は無い。気を落ち着かせた方がいい」

 

 ボマーが少し興奮した様子の死羅に実感のこもったアドバイスをする。

 嘗ては彼も復讐の為の決闘を2度行い、2度とも敗れ去っているのだ。

 

「フフフ……心配するなボマー。この俺が必ず奴を恐怖のどん底へと叩き落してやる……」

 

 そう言って死羅はローブを羽織ったままDホイールに跨り、フードの上からヘルメットを被ると、ピットを飛び出してスタートラインへと並んだ。

 

「あ、あの人ローブ着たままDホイールに乗ってる! フリントもあんな風にマント着けてた方がカッコイイのに」

「前にも言ったが、風で靡いて走り難い」

「……本当は自信ないんじゃないの~? マント着けて走るの」

「……できない事はない。だが無駄なリスクは除いて置くべきだろう」

「ふ~ん? へぇ~そう?」

「……今度走って見せてやる」

 

 フレアに茶化されたフリントが仏頂面を強めていると、ジルがピットから身を乗り出して死羅に声を掛ける。

 

「死羅殿! 実力を見せ付けるのは構わんが、フォーチュンナイツの一人として恥じぬ騎士らしい決闘を心がけるのだぞ!」

 

 ジルはそう呼びかけるが、死羅は反応すらしない。既に死羅の眼中にはムクロしかいないようだ。

 死羅はヘルメットとフードの下に不気味な笑みを浮かべながらムクロに話しかける。

 

「クックック……あの時は不覚を取ったが、今度はそうはいかん! 死神の本当の力を見せてやろう!」

「へっ! そうかい! じゃあ見てやるよ! その代わり……絶対に”遅れるなよ”?」

「何?」

「その力ってやつを見せたいなら、俺に遅れを取るなって言ってんだよ。付いてこれなきゃ決闘にすらならねぇからな」

「?」

 

[さぁー準備が整ったようだぁ! カウントダウンッ!]

 

 いよいよ決闘開始の秒読みが始まり、会場に緊張した空気が漂う。

 死羅はカウントダウンが進む毎に顔を引き締め、逆にムクロは笑みを浮かべた。

 

 

 

[……ライディング・デュエル! アクセラレーション!!!]

 

 

 

 開始の合図と共に死羅とムクロのDホイールが走り出す。

 第一コーナーを取ったのは――――

 

「な、何!?」

「トーゼン俺様よぉー!」

 

 ムクロのDホイールは一気に死羅を引き離し、第一コーナーを突破する。

 さらにその勢いは止まらず、まだ決闘が始まっていないというのに、ムクロのDホイールは死羅との距離をどんどん離して行く。

 

「何て速さなの……!?」

「今のコーナリング……フレアよりも速かったんじゃねぇか?」

 

 フレアと鬼柳は驚きながらムクロのDホイールを眼で追い、フリントは冷静にムクロを分析する。

 

「(マシンの性能差もあるが、それ以前にライディングテクの差が開きすぎている。……炎城 ムクロ、Dホイーラーとしては間違いなく、今大会最高レベルだな)」

 

「俺のターン!」

 

 ムクロ 手札:5→6

 

 ムクロ SPC:0→1

 死羅 SPC:0→1

 

「カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

LP:4000

手札:4

モンスター

・無し

魔法・罠

・セット

・セット

 

「うん? ハハハ! 手札事故とはついていないな! 貴様に死神が迫ってる証拠だぁ! 俺のターン!」

 

  死羅 手札:5→6

 

 ムクロ SPC:1→2

 死羅 SPC:1→2

 

「今その首を刈り取ってやる! 《死神ブーメラン》を召喚!」

 

  死羅の場に現れたのは刃の付いたドクロ。

 その刃とドクロには蛇が纏わり付いており、蛇の口からは火が吹き出ている。

 

 ATK:1000 レベル3

 

「さらにSPCを1つ取り除き、《Sp-シルバー・コントレイル》を発動! 自分の場のモンスター1体の攻撃力をエンドフェイズ時まで1000ポイントアップさせる!」

 

  死羅がSpを発動させると、死神ブーメランが銀色のオーラに包まれる。

 

 ATK:1000→2000

 

「トロトロやってんじゃねーよぉ! 罠カード《アクセル・ゾーン》! 相手がSpを発動した時、自分のSPCを6つ増やす! ヒャッハー!」

 

 SPC:2→8

 

 ムクロはSPCが増えると同時にDホイールを一気に加速させる。

 既に死羅とは半周以上差がついていた。

 

「ぬぬ!? くそ! バトル! 奴の足を刈り取れ死神ブーメラン!」

 

 死羅が攻撃宣言すると、死神ブーメランは逆走してムクロに体当たり。その刃で肩を斬りつける。

 

「ぐっ……この程度で俺は止まらねぇ! 罠カード《デス・アクセル》を発動! 相手の攻撃によってダメージを受けた時、そのダメージ300ポイントにつき、自分のSPCを1つ増やす! 受けたダメージは2000! よってSPCは6つ増える! マックス全開だぜぇーーー!!!」

 

 ムクロ LP:4000→2000 SPC:8→12

 

 さらにSPCとスピードを上げるムクロ。

 既に引き離すというレベルではなく、ムクロが死羅を追いかけている状況となった。

 

[これは凄いぞぉ! 早くもムクロのLPが半分となってしまったが、SPCを一気に上限値である12まで溜めたぞぉ! これは何かあるのかぁ!?]

 

「フン! SPCだけあって何だと言うのだ! カードを伏せてターンエンド!」

 

LP:4000

手札:3

モンスター

・死神ブーメラン

魔法・罠

・セット

 

「俺のターン!」

 

 ムクロ 手札:4→5

 

 ムクロ SPC:12

 死羅 SPC:1→2

 

「おい! 俺は最初に言ったよな? ”遅れるなよ”って」

 

  死羅の数メートル後方からムクロが呼びかける。

 

「? ……言っていたな! それがどうした?」

「俺はそう言った! なのにトロトロした走り見せやがって……ライディング・デュエル舐めてんのか!」

「何!? 何を言っている貴様!?」

「違うんだよ! 俺が求めてる熱いライディング・デュエルとよ! テメェみてぇなノロマと決闘なんかできるか! こんな決闘、もう終わらせてやるよ!」

 

 そう言ってムクロはDホイールを更に加速させる。

 それを見た死羅も対抗してDホイールを加速させた。

 

「(くそっ! もう少しスピードは出ないのか? 格好付けずにローブ脱いでくるんだった!)」

「《Sp-スロウダウン・マシーン》を発動! このターン相手がダメージを受けた時、そのダメージ300ポイントにつき相手のSPCを1つ取り除く! ……こいつで終わりだ! 《ファイヤー・トルーパー》を召喚!」

 

 ムクロの場にマントを纏った悪魔の様な戦士が現れる。

 

 ATK:1000 レベル3

 

「ファイヤー・トルーパーの効果発動! 召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、このカードを墓地へ送る事で、相手に1000ポイントダメージを与える!」

 

 ファイヤー・トルーパーは手や頭から発火させると、そのまま全身に火を回らせ、火達磨となって死羅へと突っ込む。

 

「ぐわぁぁぁ!?」

 

 死羅 LP:4000→3000 SPC:2→0

 

 強烈な火炎攻撃を受けた上、SPCまで減らされた死羅はバランスを崩してしまう。

 それを見たフリントは何かに気付いた様に眼を見開いた後、溜息をつく。

 

「……読めたぞ、(ムクロ)の狙いが。真っ当とは言えんな……」

「……ああ! 成る程な! フリント、別に真っ当も何もねーだろ? やられる方が悪ぃ」

 

 一歩遅れて鬼柳も気付く。

 一人だけ分からずにフレアはオロオロしている。

 

「何々? ムクロさんは何する気なの?」

「おいおいフレア。大会ルールくらい把握しとけよ」

 

 WRGPの規定によると、試合中に周回遅れが発生した場合、追い抜いたDホイーラーのSPCが1つ増える事となっている。

 そして追い抜いたDホイーラーのSPCが既に上限値である12となっていた場合、抜かされたDホイーラーのSPCが1つ減らされるのだ。

 

「そのルールなら知ってるけど……それがどうしたの? もうムクロさんが死羅さんを抜かしそうだけど」

 

 フレアがコースに眼を向けると、死羅はどんどん後方へと下がり、ムクロは前へと進んで死羅を追い抜こうとしている。

 

「あれ? そういえばムクロさんのSPCは12で、死羅さんは0だね。増やせないし、減らせない……フリント、これでムクロさんが抜かしたらどうなるの?」

「終わりだ」

「え?」

「大会規定により、SPCが0のDホイーラーは走行不能とみなされ、棄権となる」

「そんな!? おかしくないそれ!? だってバランス崩しただけだし、死羅さんまだ走れるよ!」

「それがよフレア」

 

 フレアは驚きつつフリントに抗議すると、鬼柳が横から口を挿む。

 

「本来、クラッシュとかのトラブルじゃない限り、滅多に起こる判定じゃないんだよなこれ。だからお前の主張は正しいんだろうが、そうすると別の理由ができあがんだ」

「別の理由?」

「”トラブルでも無いのにそんなに差が付くんじゃ、やっても仕方が無い”って事さ。俺達が決闘してる場所は”スピードの世界”。その世界の速さについていけないんじゃしょうがない」

 

 鬼柳がそう言うと、フレアは複雑な表情になる。

 頭では納得できないが、”その世界”を知るDホイーラーとしての心が納得してしまっているのだ

 

「納得はできないけど……それが”スピードの世界での決闘”なんだよね」

「そういうこった。あいつ等(フォーチュンナイツ)は”土俵”に上がれなかった、だから負けたんだ」

 

 鬼柳がそう言った瞬間、ムクロが死羅を追い越し、Dホイールにセットされたルールプログラムによって死羅のDホイールが強制停止する。

 

[こ、これは……大会規定により、周回遅れによるペナルティを払えなくなった時点でチーム・フォーチュンナイツの棄権となる……ぞ……]

 

 流石のMCもこの事態には困惑するが、そんな空気を吹き飛ばすかのように会場の観客席から様々な声が上がる。

 それはムクロの凄まじいスピード戦術への喝采であったり、フリントが言う様に真っ当ではない勝ち方への批判を込めたブーイングであったりなど、とにかく様々な声が入り乱れていた。

 

 ムクロはDホイールを停止させると、呆然としている死羅を一瞥してから観客席最前列にいるサティスファクションの側までDホイールを走らせる。

 

「よおチーム・サティスファクション! 敵情視察か? 悪ぃな碌な試合見せられなくてよ!」

「……あの、どうしてちゃんと決闘しなかったんですか?」

 

 勝敗については納得できたものの、ムクロのやり方については納得できないフレアは面と向かってムクロに問いかける。

 

「ああ? そりゃ楽しくねぇからだよ。あいつとの決闘はまったく燃えねぇ。だから早く終わらせた」

「でも……観客も私達も、フォーチュンナイツの人達も皆ムクロさんの決闘を楽しみにしてたし……」

「……それじゃあ何か嬢ちゃん? 皆が楽しけりゃ俺が楽しくなくてもいいって言いてぇのか?」

「そうじゃないけど……」

 

 フレアが残念そうな表情で俯くと、ムクロが軽く笑い声を上げる。

 

「クックック……まあ、嬢ちゃんの言う事も解るぜ? 正直、今の決闘はプロ決闘者としては大問題だ。だがな、どうでもいいんだ。プロだとか何だとか、今の俺にはな!」

 

 ムクロは興奮した様子で語り始めた。

 フォーチュンカップでの遊星戦以来、炎城 ムクロは熱い決闘に飢えているのだという。

 

「ジャック・アトラスとの2度のタイトルマッチ、そしてフォーチュンカップでの、不動 遊星とのギリギリ限界での決闘! あれを経験しちまった俺は、もう普通の決闘じゃ満足できねぇんだよ! プロだのキングだのどうでもよくなっちまった! 俺が求めるのは最高に熱い決闘! それだけよ!」

「解るぜ、その気持ち……満足できないのは辛いぜ」

 

 自身にとっての最大のキーワードを耳にすると、鬼柳は腕を組んで嬉しそうに頷く。

 

「俺はそれを求めてこの大会に出場した! 俺がやりてぇのはあんな決闘じゃねぇんだよ! ……お前等はできるか? 熱い、限界ギリギリの決闘をよ?」

 

 ムクロが挑発する様な口調で問いかけると、鬼柳が身を乗り出してムクロに拳を向ける。

 

「面白ぇ! いいぜ! 俺達の決闘で満足させてやるよ!」

「へっへっへ……楽しみにしてるぜ?」

 

 ムクロはそう言ってDホイールを走らせて去ろうとするが、その直前に何かを思い出したかのようにサティスファクション達に向き直る。

 

「言っておくが、俺が一人で大会に出てるのは俺のスピードに誰も付いて来れなかったからで、別に俺に仲間とかダチがいないって訳じゃねぇからな! 本当だからな!」

「え!? 何突然……」

 

 

* * *

 

 

「――――って、いう事があったの」

 

 その日の夜、チーム・サティスファクションはチーム・5D'sと共に、ガレージで互いの初陣勝利を祝うささやかなパーティを行っていた。

 今は既に料理も片付けられ、夜も更けたという事でガレージ内は静かな雰囲気の中にある。

 アキや双子は既に帰宅しており、調子を悪くしたブルーノは風に当たりたいと言ってガレージから出て行った今、ガレージ内にいるのはそれぞれのレギュラーメンバーのみとなっていた。

 

「一人で出場ねぇ、随分思い切った奴だな」

「瓜生に、ムクロか……懐かしいな。あの頃は色々あったからな、もう随分と昔の事の様に感じる」

「フン! あれはただ運がいいだけのチンピラだ! 軽く捻りつぶしてやれ!」

 

 フレアから今日の話を聞いていたクロウ、遊星、ジャックの3人はそれぞれの感想を口にする。

 

「にしても、お前等は大変だったみてぇだな? 強ぇチームだったんだろ? よくクロウ抜きで勝てたな」

 

 鬼柳が自分のデッキを確認しながら5D'sの3人に話しかける。

 チーム・サティスファクションが第一回戦を突破したように、チーム・5D'sも今日行われた一回戦で当たった強敵”チーム・ユニコーン”を打倒し、初陣を勝利で飾った。

 だが、その試合内容はかなり苦しいもので、”天性のデュエル・タクティクス”を持つ決闘者であり、 相手のファースト・ホイーラーでもある”アンドレ”の前にジャック、アキが続けて敗れ去り、しかもその際に無茶をしたジャックがクラッシュしてしまうというアクシデントを起してしまう。

 それらにより大きな差をつけられながらも、ラスト・ホイーラーである遊星は奮戦し、仲間達を次々と倒したアンドレ、セカンド・ホイーラーの”ブレオ”、そしてラスト・ホイーラーにしてリーダーである”ジャン”の3人を打倒して勝利を掴み取ったのであった。

 

「今日の試合で、俺達はチームプレイの重要さを思い知った」

「ああ、奴等の戦術とチームワークは、今大会でもトップクラスのものだろう!」

「間違いなくあいつ等は決勝トーナメントへと勝ち上がってくるはずだ! それまでに俺の怪我を治して、俺達もあいつ等の様なチームプレイを身に付けておこうぜ!」

 

 クロウがそう言って吊り下げられた腕を揺らすと、遊星とジャックはそれに合わせて力強く頷く。

 ここで一旦会話が途切れると、鬼柳がデッキをしまって口を開く。

 

「それにしても、お前等は本当に色々巻き込まれてるよな。さっきの空気を読めねぇ感じ悪ぃ女といい、何言ってんだか俺にはさっぱりだぜ」

 

 鬼柳が言っている女と言うのは、WRGPの出場者であり、謎の組織”イリアステル”の影を追う女Dホイーラー”シェリー・ルブラン”の事であり、彼女は先程、このガレージを訪れていた。

 彼女はパーティの楽しげな雰囲気を破ってガレージに入り込むと、遊星達にゴーストを操っているのは”イリアステル”だという事を伝え、遊星達と共にイリアステルが人間にそっくりなロボットを創り上げるほどの高度な技術を持っているという目処を付けた後、Dホイールに乗って去っていった。

 

「あんなんだから遊星にもフラれて、他の奴も見つからずに二人で出る羽目になるんだよ」

「それくらいにしておけ鬼柳。……進展が無くて、彼女にも余裕が無くなっているんだろう」

「……何で遊星はあいつの肩を持つんだよ? まあいいや……」

「(遊星やシェリーさんには悪いけど、私も鬼柳と同じ事思っちゃった……流石にあれは無いよ)」

 

 ガレージ内でそんな話をしていると、外に出て行ったブルーノが戻ってくる。

 シェリーとの話の後、顔色を悪くして外へと出たブルーノであったが、帰ってくると顔色をさらに悪くしていた。

 

「ちょっとブルーノ!? 大丈夫!?」

 

 ブルーノの様子にフレアは驚き、心配して駆け寄る。

 

「だ、大丈夫……悪いけど今日はもう休ませて貰うよ……」

 

 そう言ってブルーノは2階への階段を上っていってしまう。

 

「おいおい……ブルーノの奴どうしちまったんだ?」

「今日は忙しい日だったからな。今までの疲れが合わさって、体調に出てしまったんだろう。暫く休んで貰わなければ」

 

 クロウの言葉に対して遊星がそう言うと、ガレージの隅に置かれたDホイール調整用のノートパソコンとクラッシュによって大破したホイール・オブ・フォーチュンに眼を向ける。

 ブルーノはガレージに戻ってからパーティが始まるまでずっとガレージで作業をしていたのだ。

 

「フン! 軟弱な奴だ!」

「解ってると思うけど、無茶したあなたにも責任があるんだからね? ジャック……」

 

 鼻を鳴らしたジャックに対して、フレアが白い視線を向ける。

 今回の件に限らず、ブルーノを初めとするメンバー達に一番苦労を掛けているのは間違いなくジャックであろう。

 ジャックはばつが悪そうに唸る。

 

「ぐ……ぬう……」

「……もうこんな時間か。俺達もこれで失礼しよう。今日の反省会もあるしな」

「そうだな、そろそろ帰るか」

「明日は仕事もあるしね」

 

 フリントが二人を促して立ち上がると、二人も頷いてそれに従う。

 

「あ、そういえば私達の試合はちょうど一週間後なんだけど、よかったら見に来ない? 遊星達はその日に試合は無かったよね? アッツイ決闘を見せちゃう予定だよ!」

 

 フレアが振り返って遊星達にそう言うが、遊星は申し訳無さそうに首を振る。

 

「すまない。その日はチーム・ユニコーンと”チーム・カタストロフ”の試合があるんだ。後々の為に見ておきたい。特に、チーム・カタストロフは次の相手だからな」

「あ、そうなんだ。じゃあ仕方ないね! 私達も頑張るから、遊星達も視察頑張ってね! ブルーノにはお大事にって伝えておいて!」

 

 そう言ってフレアは手を振ると、フリント達と共にガレージから出て行く。

 

「おおサンキュー! 応援には行けねぇけど、そっちも頑張れよ!」

「ムクロごときに負けるのは許さんからな!」

 

 5D'sもガレージから出て来てサティスファクションの面々を見送る。

 その時、遊星はシェリーとの会話を思い出していた。

 

「(ゴーストはイリアステル……つまり、イリアステルが関係しているWRGPが進めば、再びゴーストが……”機皇帝”が俺達の前に現れるかもしれない)」

 

 遊星は拳を握り締めると、夜空に煌く星を見上げる。

 その時の遊星の眼は、夜空よりも先にある”何か”を見詰めているかのように見えた。

 

「(俺はまだ、己の限界を超えていない……必ず見つけてみせる! 限界先にある、機皇帝を撃ち破る戦術……”アクセルシンクロ”を!)」

 

 




お待たせしました(汗)
ですがまともな決闘が無くてすいません(汗)
次回はムクロ戦です。お楽しみに。
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