遊戯王5D's ~荒野のデュエリスト~   作:鬼柳高原

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第53話 消えない火

「ハァ……ハァ……どうだ……は、ハッハッハ……」

 

 プラシドが倒れたフレアと叫びを上げるフリントを愉悦の表情で見下ろしていると、突然ふさがっているはずの右目にフードを被った老人の姿が映る。

 その老人の姿を見た瞬間、プラシドは漸く我に返った。

 

「ホセ……お、俺は……!?」

〔プラシド……〕

 

 この老人の名は”ホセ”。

 プラシドと同じ”イリアステルの三皇帝”の一人にして、実質的なリーダーでもある。

 どうやらプラシドが行った独断行動に気付き、問い質す為にプラシドへと通信を繋いだようだ。

 

「な、何の様だ!? 今俺は忙しい!」

〔何を勝手な真似をしている?〕

「アンタのやり方はぬるいんだよ……力ずくで決闘させりゃ、サーキットはあっという間に浮かび上がるぜ」

〔プラシド……お前は解っていない〕

 

 血気に逸る若者と、それを諭そうとする老人。二人のやり取りはそう表現するに相応しい。

 一歩も引かず、作戦の続行を主張するプラシド、年長者らしい静かな物腰で諭そうとするホセ、そして合間に挟まる愉快そうな子供の奇声。それらの応酬にうんざりしたプラシドは、勝手に通信を切り、センサーへと切り替える。見ると、遊星の元へ送っていたディアブロ達の反応が消えていた。

 

「不動 遊星……調子に乗るなよ」

 

 そう呟いた後、プラシドはシティ中のディアブロを遊星の元へと向かわせる指示を出す。

 

「(……何故俺はあそこまで激した? くそ! 頭がぼやけやがる……ついさっきの事が思い出せん……まあいい、原因は排除した……後は不動 遊星のみ!)」

 

 

* * *

 

 

「フレアッ!? フレアしっかりしろッ! おい!?」

 

 フリントは倒れているフレアに近づき、抱きかかえながら必死になって呼びかけるが、返事は返ってこない。

 ヘルメットは砕け、その下にある頭からは血が流れ出し、血の気を失ったフレアの顔を伝って落ちてゆく。

 

「あ、ああ……!?」

 

 恐れていた、絶対に起こしたくなかった事態が、フリントの眼に映っている。

 フリントはフレアを抱く腕を震わせると、急に視界がブレ始める。

 

「な、何だ……?」

 

 フリントの眼に映る世界が、揺れる度に姿を変える。

 シティの街が急に廃墟に変わり、また揺れれば元のシティに戻り、また揺れて廃墟へ――――

 

「こ、ここは何処だ? シティ? それとも……」

 

 視線を腕の中のフレアに戻すと、そこにはフレアではなく、自分と同じ位の歳の、砕けたヘルメットを被った青年がフレアと同じ様に血を流し、目を閉じていた。

 

「あ……あ……フレア?」

 

 フリントの視界が再び揺れると、そこにはフレアがいる。

 また揺れて青年に、また揺れてフレアに、それは段々と速度を上げ、フリントの腕の中にいる二人の姿が重なる。

 

「あ……ああ……だ、誰だ……?」

 

 重なり合った二人の目が、僅かに開かれる。

 どちらも綺麗な青い目をして、僅かに揺れるそれは、まるで”青い炎”の様であった。

 

「!? フレア! フレアしっかりしろ!」

 

 フリントが二人の顔を見下ろす様に覗き込むと、今度は僅かに口が開かれる。

 

 

                フリント……

                ___……

 

 

 聞こえてきたのは、フレアと、青年らしき者の声。

 どちらも声が小さく、辛うじてフレアの言葉だけ聞き取る事ができた。

 

「待っていろ! すぐに病院へ運んでやる!」

 

 そう言ってフリントが体を抱え上げようとすると、二人はもう一度口を開く。今度は青年の声も聞き取る事ができた。

 

 

                貴方が……

                お前が……

 

 

「何だ!? どうした!?」

 

 

                無事で良かった……

                無事で良かった……

 

 

 そう言うと、二人は目を閉じる。

 ”火が、消えてしまった”――――そう感じた時、フリントは涙を流しながら叫んでいた。

 

「うわぁぁぁーーーー!!! フレアァァァーーーー!!! バーナードォーーーー!!!」

 

 フリントは重なる二人の体を地面に押し倒すと、二人の顔に涙を落としながら叫び続ける。

 

「嫌だ! 頼む消えないでくれ! 消えるな! フレア! バーナード!」

 

 フリントはフレアと覚えていないはずの青年の名を叫びながら、二人の体を抱きしめる。今にも消えそうな火を、風から守るように。

 

「消えるな! 消えるな消えるな消えるな! くそぉ! 何が”フリント”だ! 何が”希望”だ! 俺は結局どうする事も出来ないじゃないか! バーナードを死なせ、フレアも死なせる! くそッ! くそくそくそ――――」

 

 

 

              チクショォォォーーーー!!!

 

 

 

 フリントが自分の右拳を道路に叩き付けようとした瞬間、右腕を何かに掴まれる。

 腕を掴んだのは、光り輝く、美しい女性の手だった。

 

「何……?」

『落ち着いて。今の貴方は混乱しています。今を見て、自分を見て、私を見て……』

「……お前は……”ガーディアン・エアトス”……」

 

 フリントを止めたのは、実体化したエアトス。

 その手はフリントに触れ、彼の眼にもハッキリと姿が見えている。

 子供の様に顔を涙で濡らしているフリント。それを見詰める彼女の眼からも、次々と涙がこぼれ落ちていた。

 

『フリント、フレアは死んではいません。死なせはしません』

「どういう事だ……?」

 

 エアトスは人々の”思い”を糧にする精霊。フリントが叫び、吐き出した”思い”を全て吸収し、自身の力を極限まで高めたのだ。

 フリントに彼女の姿が見えているのは、力の大部分が彼の”思い”によるもののためである。

 

『貴方の悲しみが、怒りが、私の”力”を満たした……この”思い”なら……!』

 

 エアトスがフレアの胸に手を置くと、その手から光が放たれ、フレアを包み込む。

 やがて光が消えると、エアトスはフレアの顔の血を拭ってからその場に倒れる。

 

「おい!? 大丈夫か!?」

 

 フリントがエアトスの体を抱き起こす。

 見ると、その体は徐々に消え始めていた。

 

『貴方の思いを、力に変えて、全てフレアに……骨を繋ぎ、傷は全て塞ぎました……暫くは持つはずです。後は……安全な場所で、流しすぎた血を……』

「……お前は大丈夫なのか?」

『私は……力を使い過ぎただけです……暫く眠るだけ……お願いします……フレアを――――』

 

 全てを言い切る前に、エアトスは消え去ってしまう。

 フリントは乱暴に涙を拭うと、痛む体を動かし、イグニッションの元へと向かう。

 

「……覚えてはいないが、お前には相当無茶をさせている様だな。でなければ、こんなに頑丈には出来ていない」

 

 派手にクラッシュしたにも関わらず、イグニッションは殆ど無傷の状態で倒れていた。

 フリントはそれを起こし、フレアの側まで移動させ、その途中で脱ぎ捨てていた自身のヘルメットを拾う。

 

「安全とは言えないが、こうするしかない……」

 

 フリントはヘルメットを被ると、イグニッション内に収納していたマントと予備のヘルメットを取り出し、フレアの頭に予備のヘルメットを被せる。

 

「ぐっ……く……」

 

 痛みに堪えながらフレアを背負い、自分の背中に寄り掛からせながら座席の後部に座らせ、落ちないようにマントで自分の体と結びつけて固定する。

 

「……消させはしない。必ず……守ってやる!」

 

 イグニッションのアクセルを全開にし、フリントは病院への道を全力で疾走り出す。

 背負った大事な”火”を、消さない為に――――

 

 

* * *

 

 

「不動 遊星……また邪魔をするか」

 

 プラシドは憎憎しげに遊星を見下ろす。

 先程まで順調にディアブロ達を倒していた遊星、シェリー、ミゾグチの3人であったが、プラシドが差し向けたディアブロ軍団には歯が立たず、ミゾグチ、シェリーと次々にディアブロの餌食となってしまった。

 絶体絶命のピンチに追い込まれた遊星であったが、そこへ颯爽と現れた”謎のDホイーラー”によって助けられ、ディアブロ軍団の魔の手から逃れる事に成功したのである。

 

「ならば、貴様の相手は――――何!?」

 

 プラシドがビルから飛び降りようと身構えた瞬間、センサーにフリント達の反応が示される。

 

「馬鹿な!? 確かに始末したはず……どうなっている!?」

 

 プラシドは右目に付けられた機械のモニターに、フリントを映し出す。

 状態を確かめる為、フリントの顔を拡大した瞬間、プラシドはフリントの目を見る。

 

「(!? 何だ……この、感じは……?)」

 

 プラシドを襲ったのは、強烈な不快感。フリントの目を見ると、憎悪でも、恐怖でもない、形容し難き不快感を感じてしまう。

 自分はこの感じを知っているような、知らないような――――ハッキリしない、モヤモヤした感覚までプラシドに襲い掛かる。

 

「う、ぐ、おおお……!?」

 

 フリントの、強い意志を宿したあの目が、”希望の火”を燈したあの目が、プラシドの心をかき乱す。

 耐え切れなくなったプラシドは再び眼に狂気を宿らせ、叫ぶ。

 

「ディアブロ・”インフェルノ部隊”! 奴を、奴を徹底的に痛めつけてから殺せ!!!」

 

 

* * *

 

 

「(遠い……フレア、持ってくれ!)」

 

 フリントが病院を目指して走り続けていると、前の十字路から3体のディアブロが飛び出し、フリント達を取り囲む。

 自身が負傷している上、フレアを乗せたイグニッションで振り切る事は不可能であった。

 

「フリント、死ね!」

「死ね!」

「死ね!」

「……来るなら来い! 俺は絶対に負けん!」

 

 イグニッションの下に∞のマークが浮かび上がると、バトルロイヤルモードが強制発動される。

 

 

 

「「「「 デュエル!!! 」」」」

 

 

 

 ターンはディアブロ1から3、フリントの順。

 

「私のターン!」

 

 ディアブロ1 手札:5→6

 

 フリント SPC:0→1

 ディアブロ1 SPC:0→1

 ディアブロ2 SPC:0→1

 ディアブロ3 SPC:0→1

 

 一番手はフリントの後方にいるディアブロ1。カードを手に取り、不敵な笑みを浮かべる。

 

「《Sp-オーバー・ブースト》を発動! SPCを6つ増やす!」

 

 ディアブロ1 SPC:1→7

 

「SPCを7つ取り除き、1000ポイントのLPを支払う事で、《Sp-押収》を発動! 相手の手札を確認し、その中からカードを1枚選択して墓地に捨てる!」

「何!?」

 

 ディアブロ1 SPC:7→0 LP:4000→3000

 

 フリントの手札

 ジェネクス・サーチャー

 ジェネクス・ニュートロン

 スキル・サクセサー

 Sp-エンジェル・バトン

 強制終了

 

「《強制終了》を墓地へ!」

「くっ……!」

 

 フリント 手札:5→4

 

「《プロミネンス・ドラゴン》を召喚!」

 

 ディアブロ1の場に炎を纏った龍が現れる。

 

 ATK:1500 レベル4

 

「カードを3枚伏せ、ターンエンド! この瞬間、プロミネンス・ドラゴンの効果発動! 自分のエンドフェイズ毎に相手に500ポイントのダメージを与える!」

 

  プロミネンス・ドラゴンがフリントに向けて炎を吐き出す。

 

「ぐわぁ!? く……フレア!?」

 

 フリント LP:4000→3500

 

 炎を背中から受けた為、自分の後ろにいるフレアに直撃してしまったはず。

 フリントは首を動かしてフレアの安否を確認しようとした瞬間、頭の中にエアトスの声が響く。

 

『大丈夫です……フリント……フレアは貴方の”思い”に守られている……』

「!? そうか……あの時の光……」

 

 フレアが無事だと分かると、フリントは前を向いて決闘に意識を戻す。

 

LP:3000

SPC:0→1(オーバー・ブーストの効果により)

手札:0

モンスター

・プロミネンス・ドラゴン

魔法・罠

・セット

・セット

・セット

 

「私のターン!」

 

 ディアブロ2 手札:5→6

 

 フリント SPC:1→2

 ディアブロ1 SPC:1→2

 ディアブロ2 SPC:1→2

 ディアブロ3 SPC:1→2

 

「罠発動! 《マインドクラッシュ》! カード名を1つ宣言し、宣言したカードが相手の手札にある場合、相手はそのカードを全て墓地へ捨てる! 宣言するのは《Sp-エンジェル・バトン》!」

「な!?」

 

 ディアブロ1が伏せていた罠を発動させ、フリントの手札を容赦なく削る。

 

 フリント 手札:4→3

 

「(こいつ……”ハンデス”か?)」

「《Sp-カウントアップ》を発動! SPCが2つ以上存在する場合、手札を任意の枚数墓地へと送り、墓地へ送ったカード1枚につき、SPCを3つ増やす! 私は手札を2枚墓地へと送り、SPCを6つ増やす!」

 

 ディアブロ2 手札:5→3 SPC:2→8

 

「手札から墓地へと送った《ライト・サーペント》の効果発動! 手札から墓地へと送られた場合、墓地から特殊召喚する事ができる!」

 

 ディアブロ2の場に、プロ決闘者である氷室も使用していた優秀なコストモンスター、ライト・サーペントが現れる。

 

 ATK:1200 レベル3

 

「SPCを8つ取り除き、《Sp-強引な番兵》を発動! 相手の手札を確認し、その中からカードを1枚選択。選択したカードをデッキに戻し、シャッフルする! 《スキル・サクセサー》をデッキに戻せ!」

「(こいつもハンデス!?)」

 

 ディアブロ2 SPC:8→0

 フリント 手札:3→2

 

「ライト・サーペントをリリース! 《炎帝テスタロス》をアドバンス召喚!」

 

 ライト・サーペントが光の中へと消えると、その光の中から赤いマントと鎧を纏った巨人が現れる。

 

 ATK:2400 レベル6

 

「テスタロスの効果発動! アドバンス召喚に成功した時、相手の手札をランダムに1枚捨てる! それがモンスターだった場合、そのモンスターのレベル×100ポイントのダメージを相手に与える!」

 

 選ばれたカード

 ジェネクス・ニュートロン レベル4

 

 フリントの手札にあったモンスターが捨てられると、テスタロスが腕から4つの火の玉を出現させ、フリントに向かって放つ。

 

「くうっ……! くっ!」

 

 フリント LP:3500→3100

 

「カードを伏せ、ターンエンド!」

 

LP:4000

SPC:0

手札:0

モンスター

・炎帝テスタロス

魔法・罠

・セット

 

「私のターン!」

 

 ディアブロ3 手札:5→6

 

 フリント SPC:2→3

 ディアブロ1 SPC:2→3

 ディアブロ2 SPC:0→1

 ディアブロ3 SPC:2→3

 

「SPCを2つ取り除き、《Sp-クロスソウル》を発動! このターン、自分のモンスター1体をリリースする場合、代わりに相手のモンスター1体をリリースしなければならない! 相手の《炎帝テスタロス》をリリース! 《炎帝テスタロス》をアドバンス召喚!」

 

 ディアブロ3 SPC:3→1

 

 ディアブロ2の場のテスタロスが光の中へと消えると、その光の中から再びテスタロスが現れ、ディアブロ3の場へと移動する。

 

 ATK:2400 レベル6

 

「効果発動!」

 

 選ばれたカード

 ジェネクス・サーチャー レベル4

 

 テスタロスが再び火の玉を4つ出現させ、フリントに放つ。

 

「ぐうう……! 俺の手札が0に……」

 

 フリント 手札:1→0 LP:3100→2700

 

「カードを4枚伏せ、ターンエンド!」

 

LP:4000

SPC:1

手札:0

モンスター

・炎帝テスタロス

魔法・罠

・セット

・セット

・セット

・セット

 

 決闘者の生命線とも言える手札を全て削られてしまったフリント。

 墓地すら肥えていないこの状況では、どう考えても勝ち目は無かった。

 

「(まだだ……この体が動く限り、俺は戦い続ける!) 俺のターン!」

 

 フリント 手札:0→1

 

「罠カード《はたき落とし》を発動! 相手が通常ドローしたカードを墓地へ捨てさせる!」

 

 ディアブロ1が罠を発動させると、そこから衝撃波が放たれ、フリントのドローカードを吹き飛ばす。

 

 フリント 手札:1→0

 

「(こいつ等……俺にまともな決闘をさせないつもりか!?)」

 

 フリント SPC:3→4

 ディアブロ1 SPC:3→4

 ディアブロ2 SPC:1→2

 ディアブロ3 SPC:1→2

 

 Dホイーラーを追い詰め、その潜在能力を引き出してサーキットの完成を目指す。それがディアブロの本来の役目であった。

 しかし、このインフェルノ部隊は間逆の存在で、Dホイーラーを徹底的に甚振り、何もさせず、最後は死に至らしめるという、悪逆極まりない殺人兵器なのだ。

 

「……ターンエンド!」

 

LP:2700

SPC:4

手札:0

モンスター

・無し

魔法・罠

・無し

 

「私のターン!」

 

 ディアブロ1 手札:0→1

 

 フリント SPC:4→5

 ディアブロ1 SPC:4→5

 ディアブロ2 SPC:2→3

 ディアブロ3 SPC:2→3

 

「2体目の《プロミネンス・ドラゴン》を召喚! 2体で攻撃!」

 

 ディアブロ1の場に2体目のプロミネンス・ドラゴンが現れると、2体同時にフリントに向かって突進する。

 

「(やられる……!)」

「罠発動! 《ギフトカード》! 相手は3000ポイントLPを回復する!」

「何!?」

 

 プロミネンス・ドラゴンがフリントに襲い掛かった瞬間、ディアブロ1が再び罠を発動させる。

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

 フリント LP:2700→5700→4200→2700

 

 炎を纏った龍2体に体当たりされ、フリントは激痛で、イグニッションは衝撃で大きくバランスを崩すが、バトルロイヤルモードによる暴走がクラッシュを許さない。

 

「(助けられた!? いや、違う……俺を甚振る気か!?)」

「ターンエンド! 合計1000ポイントのダメージを食らえ!」

 

 プロミネンス・ドラゴン2体が炎をフリントに向かって吐き出す。

 

「ぐわぁ!? ぐッ! くそぉ!」

 

 フリント LP:2700→1700

 

LP:3000

SPC:5

手札:0

モンスター

・プロミネンス・ドラゴン

・プロミネンス・ドラゴン

魔法・罠

・セット

 

「私のターン!」

 

 ディアブロ2 手札:0→1

 

 フリント SPC:5→6

 ディアブロ1 SPC:5→6

 ディアブロ2 SPC:3→4

 ディアブロ3 SPC:3→4

 

「《ボーガニアン》を召喚! バトルだ!」

 

 ディアブロ2の場に、腕にボウガンを持った目玉の様なロボットが現れ、フリントに向かってボウガンの矢を放つ。

 真っ直ぐに飛んだ矢はフリントの横腹に命中し、突き刺さった。

 

 ATK:1300 レベル3

 

「うわぁぁぁ!? ぐっ、うう……!」

 

 フリント LP:1700→400

 

 ソリッドビジョンの為、突き刺さっても血は出ない。

 その代わり、凄まじい痛みがフリントを襲った。

 

「ターンエンド!」

 

LP:4000

SPC:4

手札:0

モンスター

・ボーガニアン

魔法・罠

・セット

 

「私のターン!」

 

 ディアブロ3 手札:0→1

 

 フリント SPC:6→7

 ディアブロ1 SPC:6→7

 ディアブロ2 SPC:4→5

 ディアブロ3 SPC:4→5

 

「バトル! テスタロスで直接攻撃! そして罠カード《ギフトカード》を発動!」

 

 テスタロスが拳に炎を纏うと、その拳でフリントを殴りつける。

 

「ぐあぁぁぁ!? がっ……ぐ……」

 

 フリント LP:400→3400→1000

 

「カードを伏せ、ターンエンド!」

 

LP:4000

SPC:5

手札:0

モンスター

・炎帝テスタロス

魔法・罠

・セット

・セット

・セット

・セット

 

 既に意識が朦朧としてきたフリント。

 飛びそうになる意識を、背中から感じる僅かな”鼓動”が引き戻す。

 

「(フレアの火を……守らなければ……)」

 

 それが、自分の使命。

 鬼柳、エアトス、ストークやクラッシュを初めとするサティスファクションタウンの住民達、彼等全てと交わした、大事な約束。そして――――

 

 

 

           ___……お前なら……火を……燈せるよ……

 

 

 

 記憶の彼方にいる、大事な”友”との約束――――

 

「俺の……ターン……」

 

 フリント 手札:0→1

 

「罠カード《はたき落とし》!」

 

 ディアブロ3の場から無情にも衝撃波が放たれ、フリントのドローカードを吹き飛ばす。

 

 フリント SPC:7→8

 ディアブロ1 SPC:7→8

 ディアブロ2 SPC:5→6

 ディアブロ3 SPC:5→6

 

「私のターン!」

 

 ディアブロ1 手札:0→1

 

 フリント SPC:8→9

 ディアブロ1 SPC:8→9

 ディアブロ2 SPC:6→7

 ディアブロ3 SPC:6→7

 

 もはやフリントに手は無く、決闘を続ける気力も無いと判断したディアブロ1は、フリントの終了宣言を待たずに勝手に自分のターンを始める。

 

「フリント、死ね!」

 

 もう十分痛めつけたと判断したインフェルノ部隊は、このターンでフリントに止めを刺す事を決めたようだ。

 フリントは力尽きたように項垂れたまま、動かない。

 

「(俺は……俺は……)」

 

 

 

『無力だな、フリント』

 

 

 

 心の奥底に響くような、おぞましい声。

 フリントはこの声に聞き覚えがあった。

 

「……煉獄の……番人……」

 

『いい加減解らんのか? お前は無力な、人間。何度挑もうとも結果は同じなのだ』

 

「…………」

 

『苦しだろう? 辛いだろう? 解ったのなら、我が世界に戻れ。お前には、所詮無理な事だったのだ』

 

「無理ではない……」

 

『無理だ。現にお前は追い詰められ、殺されようとしている。守りたかった者と共にな』

 

「煉獄の番人……力を貸してくれ」

 

『何?』

 

「お前の力を貸してくれ! 俺は守るんだ! フレアを、友を、この世界全ての”火”を!」

 

『……我が力を貸せば、何とかなると思っているのか? 力を貸したところで、お前はちっぽけな人間なのだ』

 

「変わるッ! 変えてみせる! 俺は……その為に疾走り続けている! 煉獄の番人! オーガ・ドラグーンよ! この俺に力を貸してくれぇぇぇ!!!」

 

『……馬鹿な人間よ。童の様に喚きおって……いいだろう。力を貸してやる。最後の最後まで、疾走り続けて見せろッ! 我にお前の、人間を超えた”力”を示せッ! フリントッ!』

 

 煉獄の番人がそう言った瞬間、フリントの手から吹き飛ばされていた2枚のカードの内の1枚が飛び上がり、フリントの墓地へと収まる。

 

 

 

「バトル! プロミネンス・ドラゴンで直接攻撃!」

 

 プロミネンス・ドラゴンがフリントに向かって飛びかかり、その肩に食らい付く。

 

 フリント LP:1000→0

 

「任務完了……何だ?」

 

 プロミネンス・ドラゴンに噛み付かれても、声すら上げないフリント。

 それどころか、異様なオーラが体から立ち上り始める。

 

「何だ? 何故決闘が終わらない? 何故奴は倒れない? ……何!?」

 

 インフェルノ部隊がうろたえていると、何時の間にかフリントの頭上に巨大な門が出現していた。

 それは、フリントがあの世で、鬼柳が煉獄の地で見た門と同じ物であった。

 

「……手札と自分の場にカードが存在しない時、自分のLPが0になった瞬間、墓地にある罠カード《煉獄の零門(ゼロゲート)》が開かれる!」

「れ、煉獄の零門だと?」

 

 フリントが墓地から取り出したカードを掲げると、頭上の零門が徐々に開き始め、中からオーガ・ドラグーンが現れる。

 

 ATK:3000 レベル8

 

「馬鹿な!? シンクロモンスターだと!?」

「煉獄の零門の効果……エクストラデッキから《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》を特殊召喚し、あらゆる敗北を無効にする!」

「あらゆる敗北を!? そんなカードが存在するはずが無い!? 理解不能!」

「オーガ・ドラグーンが場から離れた時、煉獄の零門の効果は失われる……お前のターンだ! 続けろ!」

「ぐっ……! カードを伏せてターンエンド! 食らえ!」

 

LP:3000

SPC:9

手札:0

モンスター

・プロミネンス・ドラゴン

・プロミネンス・ドラゴン

魔法・罠

・セット

 

 ディアブロ1がターンを終了させると、プロミネンス・ドラゴン2体がフリントに向かって炎を吐き出す。

 フリントはそれを受けるが、一瞬怯んだだけで、何事も無かったかのように疾走り続ける。

 

 フリント LP:0→0

 

「(疾走れ! 疾走って全てを振り切れ! 焦りも、痛みも、全て風の中へ置き去りにしろ! イグニッション!)」

「私のターン!」

 

 ディアブロ2 手札:0→1

 

 フリント SPC:9→10

 ディアブロ1 SPC:9→10

 ディアブロ2 SPC:7→8

 ディアブロ3 SPC:7→8

 

「ボーガニアンの効果発動! 自分のスタンバイフェイズ時に、相手に600ポイントのダメージを与える!」

 

 ボーガニアンが再びフリントの脇腹を狙って矢を放つが、フリントは紙一重でそれを避ける。

 

 フリント LP:0→0

 

「何!? ……くっ! SPCを2つ取り除き、《Sp-ソウルテイカー》を発動! 相手の場の表側表示モンスター1体を破壊する!」

 

 ディアブロ2 SPC:8→6

 

「オーガ・ドラグーンの効果発動! 自分の手札が0の場合、1ターンに1度、相手の魔法・罠の発動を無効にし破壊する!」

 

 ディアブロ2が発動したSpのカードのソリッドビジョンが現れた瞬間、オーガ・ドラグーンが鋭い尾を伸ばし、ソリッドビジョンを貫く。

 

「何だと!? ……ターンエンド!」

 

LP:4000

SPC:6

手札:0

モンスター

・ボーガニアン

魔法・罠

・セット

 

「私のターン!」

 

 ディアブロ3 手札:0→1

 

 フリント SPC:10→11

 ディアブロ1 SPC:10→11

 ディアブロ2 SPC:6→7

 ディアブロ3 SPC:8→9

 

「ヌウ……」

 

 インフェルノ部隊のデッキの戦術は相手に”序盤から何もできなくさせ、バーンで痛めつける”事であり、オーガ・ドラグーンの様な強力なドラゴンを相手にできるようには構築されていない。出される事自体が想定外なのである。

 インフェルノ部隊のデッキに大型モンスターを除去できるカードは極僅か。場に伏せられているカードはハンデス系、バーン・キュア系のみであり、今の状態でオーガ・ドラグーンを倒す事は不可能であった。

 

「ぐっ……テスタロスを守備表示! モンスターを伏せてターンエンド!」

 

LP:4000

SPC:9

手札:0

モンスター

・炎帝テスタロス ATK2400→DEF:1000

・セット

魔法・罠

・セット

・セット

・セット

 

「俺のターン!」

 

 フリント 手札:0→1

 

「罠カード《はたき落とし》!」

 

 ディアブロ1が2枚目のはたき落としを発動させ、衝撃波をフリントに向けて放つ。

 フリントはカードが吹き飛ばされる前に、それを発動させた。

 

「速攻魔法《Sp-スピード・エナジー》! SPCを1つ取り除く事で、自分の場のモンスター1体の攻撃力を、エンドフェイズ時までSPCの数×200ポイントアップさせる! 俺のSPCは10! よってオーガ・ドラグーンの攻撃力を2000ポイントアップさせる!」

 

 フリント SPC:11→10

 ATK:3000→5000

 

 フリント SPC:10→11

 ディアブロ1 SPC:11→12

 ディアブロ2 SPC:7→8

 ディアブロ3 SPC:9→10

 

「何だと!?」

「バトル! オーガ・ドラグーンでプロミネンス・ドラゴンを攻撃! 【煉獄の混沌却火(インフェルニティ・カオス・バースト)】!」

 

 オーガ・ドラグーンが獄炎のブレスをプロミネンス・ドラゴンに向かって放つと、後ろにいたディアブロ1ごと、跡形も無く消滅させてしまう。

 

 ディアブロ1 LP:3000→0

 

「ターンエンド!」

 

LP:0

SPC:11

手札:0

モンスター

・煉獄龍 オーガ・ドラグーン

魔法・罠

・無し

 

「(疾走れる! 俺は守れる!)」

「私のターン!」

 

 ディアブロ2 手札:0→1

 

 フリント SPC:11→12

 ディアブロ2 SPC:8→9

 ディアブロ3 SPC:10→11

 

「ボーガニアン!」

 

 ディアブロ2は懲りずにボーガニアンでフリントを射抜こうとするが、フリントは先程の様に矢を避ける。

 

 フリント LP:0→0

 

「ヌウ……ならば!」

 

 ディアブロ2は密かにディアブロ3へと合図を送ると、ディアブロ3は自身の場の罠を発動させる。

 

「罠カード《ギフトカード》を発動! 相手のLPを3000ポイント回復させる。対象はお前だ!」

 

 ディアブロ3はディアブロ2を指差すと、ディアブロ2のLPが一気に増える。

 しかし、フリントとオーガ・ドラグーンはそれを見ても動かず、ディアブロ2は悔しそうに舌打ちをした後、もう一度ディアブロ3に合図を送る。

 

 ディアブロ2 LP:4000→7000

 

「(もう一度だ……)」

「……罠カード《火霊術-「紅」》を発動! 自分の場の炎属性1体をリリースし、リリースしたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える! 《炎帝テスタロス》をリリースし、2400ポイントのダメージを与える! この衝撃で倒れろ!」

 

 テスタロスが燃え盛る炎に変わると、フリントに向かって襲い掛かる。

 2400の衝撃となれば、防がざるを得ないだろう――――そう計算したディアブロ2であったが、オーガ・ドラグーンは動かない。

 

「何!?」

「うおぉぉぉーーー!!!」

 

 フリント LP:0→0

 

 テスタロスの炎から抜け出すと、フリントの体から煙が上がる。

 想像絶する痛みがフリントを襲ったはずだが、フリントはまだ疾走り続けていた。

 

「な……!? ぐ、ぐ、ぐ……SPCを2つ取り除き、《Sp-ソウルテイカー》を発動!」

 

 ディアブロ2 SPC:9→7

 

「オーガ・ドラグーンの効果発動!」

 

 ディアブロ2は2枚目のソウルテイカーを発動させるが、オーガ・ドラグーンに尾で貫かれ、無効にされる。

 どうやら先程までの指示はフリントにオーガ・ドラグーンの効果を無駄に使わせ、本命のソウルテイカーで破壊する作戦だったようだ。

 

「そんな子供騙しで俺を止められると思うな!」

「予測不能……ターンエンド」

 

LP:4000

SPC:7

手札:0

モンスター

・ボーガニアン

・セット

魔法・罠

・セット

 

「私のターン!」

 

 ディアブロ3 手札:0→1

 

 フリント SPC:12

 ディアブロ2 SPC:7→8

 ディアブロ3 SPC:11→12

 

「……モンスターをセットし、ターンエンド!」

 

LP:4000

SPC:12

手札:0

モンスター

・セット

・セット

魔法・罠

・セット

 

 先程のディアブロ2への援護で、殆どのカードを使い果たしてしまったディアブロ3。防御を固めただけでターンを終えてしまった。

 先程までとはまるで正反対の状況となってしまっている。

 

「俺は……疾走れる! 疾走れるぞ! 俺のターン!」

 

 フリント 手札:0→1

 

「《はたき落とし》!」

 

 今度はディアブロ2が発動させるが、衝撃波がフリントのカードを飛ばす事はできなかった。

 

「速攻魔法《Sp-シルバー・コントレイル》を発動! SPCを1つ取り除く事で、自分の場のモンスター1体の攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 

 ATK:3000→4000

 

 この瞬間、吹き飛ばされていたもう1枚のカードが飛び上がり、フリントの手に戻ってくる。

 

「墓地にある《インフェルニティ・クイーン》の効果発動! 自分の手札が0枚でこのカードが墓地に存在する場合、自分の場のモンスター1体は相手に直接攻撃を行う事ができる! 【煉獄の混沌却火(インフェルニティ・カオス・バースト)】!」

 

 オーガ・ドラグーンがディアブロ3に向かってブレスを放つと、ディアブロ3も1と同じ様に跡形も無く消滅する。

 

 ディアブロ3 LP:4000→0

 

「お、おのれ……死ねぇ! フリント!」

 

 ディアブロ3が倒されるのを見たディアブロ2は、もはや決闘で勝利できないと悟ると、自爆装置を作動させ、フリントに向かって突進し始める。

 フリントはディアブロ2を振り切る為、イグニッションを一気に加速させた。

 

「(希望を繋ぐ為……全てを……限界を超えろ! イグニッション!!!)」

 

 全てを振り切った時、凄まじい逆風の中でフリントは独りだった。

 遥か後ろで鳴り響いた爆発音も、背中にいるはずのフレアも、今のフリントには何も感じられない。

 共にあるのは、静かな己の”心”のみであった。

 

「(俺は……)」

『フリントよ、見事だ』

 

 静かな心の中に、煉獄の番人の声が響く。

 

『お前の”揺ぎ無き意志”、しかと見せて貰った。改めて言わせて貰うが、長い時の中で、お前の様な人間は始めて見た。いや……お前は既に人間とは呼べぬかもしれんな』

「俺は……人間だ」

『そうか……フリント、我はお前と交わした約束を、今果たそうと思う』

「約束……?」

『我はお前に言った。”お前の意志が変わる事がなければ、返してやろう”、と』

「何を……」

『最後まで戦い抜け、フリント。それまで我は、お前と共にいよう。……お前の記憶を解放する』

「!?」

 

 フリントの視界が、急に白くなる。

 何も見えない、そう思った瞬間、フリントの目の前に大量の記憶の映像が流れ出す。

 一度見た記憶は、吸い込まれるようにしてフリントの心に収められて行った。

 

「あ、ああ……!?」

 

 忘れたくない、大事な記憶。

 忘れてしまいたい、嫌な記憶。

 長い、長い、フリントの旅路の記憶が、欠ける事無く、全てフリントの心へと戻ってくる。

 喜び、怒り、悲しみ、憎しみ、全ての感情がフリントに心に押し寄せ、それらは涙となってフリントの中から溢れ出た。

 

「……うおぉぉぉーーーー!!!」

 

 涙として流しても止まらない感情の放出。涙で出し切れない分は叫んで追い出す。

 全ての感情を吐き出し終え、再び心が静かになると、フリントはオーガ・ドラグーンのカードを手に取り、再び叫ぶ。

 

 

 

 

 

「……アクセル・シンクロォォォーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 その叫びと共に、イグニッションは眩い光に包まれる。

 光が収まった時、そこにはフリントも、フレアも、イグニッションも全て消えていた。

 

 

* * *

 

 

「お前は……お前は誰だ!」

 

 謎のDホイーラーと再会し、クリア・マインドの境地へと辿り着いた遊星は、空から飛来してきた石版に導かれ、以前にブルーノやシェリーと共に来た謎の空間に飛ばされていた。

 空間の奥には、やはり”あの時”の機械が逆さまになって浮いている。

 古代生物のアンモナイトの貝殻に似た様なマシンで、その上部には人の形をした四肢の無い鎧が埋め込まれており、顔の鎧の隙間からは何もかもを見通すような青い瞳が覗いている。

 

「遊星……貴方は貴方の可能性を手に入れました」

 

 遊星は何時の間にか手に持っていた白いカードに眼をやる。

 目の前の青い瞳の人物によると、これが機皇帝を倒す為に必要な戦術、”アクセル・シンクロ”を行う為に必要な境地”クリア・マインド”に到達した証だという。

 

「貴方には、それを受け取る権利があります。全ての”可能性”が、平等であるように」

「お前は俺を知っているのか!?」

「貴方は……自分が正しいと信じた道を進んでください。そうすれば、何れ……」

「待て――――」

 

 遊星が詰め寄ろうとした瞬間、遊星の姿が消える。元の世界に戻されたようだ。

 

「不動遊星……」

「可能性が平等……か。お前の言葉とは思えないな」

 

 青い眼の人物が眼を閉じようとした瞬間、あるはずのない声が後ろから聞こえてくる。

 マシンを振り向かせ、その眼で確かめると、そこにはカウボーイハットとマントを身に付けた青年が、気を失った少女を抱きかかえながら立っていた。

 

「……フリント」

「”ゾーン”……」

 

 

* * *

 

 

「遊星……皆……」

 

 遊星がプラシドとの決闘を行っている頃、シティ沿岸部にある病院の廊下にて、十六夜アキはプラシドの雷攻撃によって荒れ狂うシティの空を窓から見上げていた。

 事故によって昏睡状態に陥っていたアキはつい先程目を覚まし、現在の異常事態を知ったのであった。

 

「(遊星……あそこで戦っているのね……)」

 

 想い人の身を案じながら、アキは自身の胸に手を当てる。

 シグナーとしての勘なのか、それとも自身に訪れている”変化”のせいなのか、拭いきれない不安が彼女に襲い掛かっている。

 

「(駄目よ……もっとしっかりしなくちゃ)」

 

 自分を叱咤しながら、自分の隣でもっと不安そうな表情をしている少女”ハルカ”に目を向ける。

 遊星達がこの街を守る為に戦っている。ならば、自分も守る為に戦わなければ。たとえ、”力”が消えてしまっていても――――

 

「……! Dホイール?」

 

 雷の音の合間に聞こえた、Dホイールの急ブレーキの音。

 アキが視線を窓に戻し下を見ると、そこにはフレアを抱えたフリントが出入口の方へと歩く姿が見えた。

 

「フレア!?」

 

 アキはハルカに一言断ってから、まだ少し痛む体に鞭を打ち、出入口に向かって駆け出した。

 

「フレア! フリント!」

 

 アキは出入口に辿り着くと、そこから飛び出し、歩いてくるフリントへと駆け寄る。

 見るとフリントは全身傷だらけで、フレアは血の気のない顔で目を閉じていた。

 

「一体何があったの!? 他の皆……は……」

 

 アキはフリントと顔を合わせると、呆気にとられた様にその顔を見詰める。

 

「……貴方……本当にフリント?」

「俺は俺だ。それよりも、フレアを頼む。血が足りない。すぐに輸血してやらなければ」

「え……あ! ごめんなさいフリント! 私ったら何を言ってるのかしら……」

 

 アキはフリントからフレアを受け取り、アキが駆け出したのに驚いて後を追ってきていた主治医に事情を話す。

 何故体に傷一つ無いのに血が減っているのかと主治医は首を傾げたが、フレアの状態が思わしくないのを確認すると、直ぐに応援を呼び、急いで病院内へと運び込んだ。

 

「……フレアを、頼んだぞ」

「フリント!? 何処へ行くの!?」

 

 そう言って踵を返すフリント。

 アキは慌ててフリントの腕を取って引き止める。

 

「遊星達の加勢に行くつもり? 無理よその怪我じゃ! 貴方も診て貰いなさい!」

「俺は、行かなければならない」

 

 そう言って自分に振り返ったフリントの眼には、これまで感じた事の無いような”気迫”が篭っており、アキは思わず掴んでいた腕を放してしまう。アキには今のフリントが、まるで”別人”の様に見えた。

 

「どうしてそこまで……」

 

 呆然とするアキは何とか言葉を搾り出すと、フリントは荒れた空を見上げながらそれに答えた。

 

 

 

 

 

「俺は……世界を救わなければならない」

 

 

 

 

 




大イベント回なので、すいすい筆が進みました。
何時もこの調子ならいいんですけどねぇ~(汗)
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