遊戯王5D's ~荒野のデュエリスト~   作:鬼柳高原

55 / 77
第8章 覚醒
第55話 彼方


「(……ここ……何処……?)」

 

 少女が立っていたのは、暗い、何処までも暗い世界。

 辛うじて見えるのは自分の体くらいであり、それ以外は黒一色の世界に溶け込んでしまっている。

 

「(寒い……)」

 

 少女は自身の体を抱く様にして座り込む。

 辺りが寒い訳でも、冷たい風が吹いてきた訳でもないのに少女の体、その内側から徐々に”熱”が消えて行く。それと同時に体も徐々に暗闇の中へとのまれようとしていた。

 

「(寒い……寒い……)」

 

 自分を照らし続けてきた”火”が”水”に流され、何処か遠くへと運ばれて行ってしまうような―――――その様に感じた少女は必死になって手を伸ばす。

 

「やだ……行かないで……」

 

 少女は立ち上がり、走り出す。辺りは相変わらずの暗闇で”火”など何処にも見えない。とうとう体まで見えなくなってしまうが、それでも少女は見えない”火”を追って走り続ける。

 

「待って……待って! あっ!?」

 

 少女は脚を縺れさせ転倒するが、倒れた先にあったのは大きな湖。暗闇に包まれているのでそれが本当に湖なのかは判断できないが、少女をのみ込むには十分過ぎる程の深さを持った水溜りなのは確かであった。

 湖の中へと落ちた少女は浮き上がる事無くゆっくりと水の底へと沈んで行く。

 

「(いや……”火”が……フリント……)」

 

 凍てつく心と体を抱えながら少女は静かに目を閉じた――――その瞬間、水面に眩い光が差込み少女を沈めようとする水を全て消し飛ばす。

 水が消え再び暗い陸地へと戻った空間に寝そべる少女を光が照らし出すと、少女は目を開け震える両足で立ち上がった。

 

「何が……あ……!」

 

 上から降り注ぐ光は一点に集まり、光の球となって少女の目の前に浮かぶ。少女はそれを大事そうに抱きしめた。

 

「……暖かい……」

 

 光の球の熱が少女の体を伝わり徐々にその”熱”を取り戻して行く。それに伴い暗闇だった世界も徐々にその姿を見せ始める。

 場所はネオ童実野シティの道路。自分はDホイールの後部に跨っていて誰かの体に縛り付けられている。

 

「(フリント……?)」

 

 少女は首を上げてDホイーラーの顔を覗き込む。バイザー越しだがその顔は紛れも無くフリントであった。

 

「(フリント……泣いてる……)」

 

 自分を背負い全速力でイグニッションを走らせているフリントは泣いていた。次から次へと涙が溢れてきている。それが悲しみなのか喜びなのかは分からない。

 

「どうしたの? 泣かないでフリント……」

 

 滅多に見せないフリントの涙に少女の心に不安と悲しみが沸き起こる。大切な仲間に、自分のヒーローに、これ以上泣いてほしくはなかった。

 少女が右手を伸ばしてフリントの涙を拭おうとすると、フリントはそれを制するように右腕を振り上げる。

 

「え……?」

 

 

 

 

 

「……アクセル・シンクロォォォーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 そう叫び、フリントは光の彼方へと消えていった。

 

 

……………………

………………

…………

……

 

 フレアが目を覚ますと、そこは以前にフリントが入院した時に使っていた病室だった。以前来た時は見舞い客であったが今度は自分がベッドに横たわり天井を見上げている。

 首を傾けると自分が寝ているベッドの横で椅子に腰掛け教科書を読み込んでいるアキの姿があった。

 

「アキちゃん……」

「! フレア! よかった気がついて!」

 

 アキは教科書を置いてフレアの顔を覗き込む。

 見るとアキは何時ものドレスや制服姿ではなく、今のフレアと同じ寝巻き姿であった。

 

「心配してたのよ? 貴女、3日間眠りっぱなしだったんだから……」

「3日……ア、アキちゃん……フリントは……?」

 

 まだぼうっとする頭でアキにそう尋ねると、アキは一瞬だけハッとしたような表情を浮かべた後に無理やり微笑を作る。

 

「だ、大丈夫よ! フリントも鬼柳も、遊星達も皆無事!」

「そっか……皆、ゴーストをやっつけ――――」

 

 アキの言葉を聞いてフレアは安堵した後、漸く頭がはっきりとして大量の記憶が脳内を駆け巡る。

 

「……あーーーー!? そうだ! 私ゴーストに倒されて……アキちゃん! 街は!? WRGPは!?」

「お、落ち着いてフレア! まだ安静にしてないと……それにここは病院なんだから、静かに、ね?」

「あ、うん……ゴメン」

 

 同じ病室の患者から向けられる視線に縮こまるフレア。アキはそんなフレアに”ゴースト氾濫事件”について話し始める。

 

「本当に派手に暴れまわったみたいね。セキュリティは復興作業に追われて大変らしいわ。当分の間、WRGPも中断されるそうよ。再開されるかは……治安維持局しだいね」

「そんな……WRGPが無くなるなんて嫌!」

 

 待ち焦がれ期待を胸に抱いて参加したWRGP。その期待を越える熱い決闘が繰り広げられ、この先はそれ以上であるはず。それが無くなるなどフレアでなくても堪え切れないだろう。

 

「私も悔しい。でもこればかりはどうにもならないわ。またあのスタジアムに戻れる事を祈りましょう」

「うん……アキちゃん、フリントに会いたいんだけど何処にいるか知らない? 携帯とか全部会場に置いたままなの。連絡取れないから……」

「ああ……ごめんなさい。私も分からないわ……」

 

 アキは申し訳無さそうに被りを振るが、それを見たフレアはアキが何処か戸惑っている様に感じる。

 

「アキちゃん、さっきもそうだったけどフリントと何かあったの? 変な反応して……」

「あ、ああ……その……実はね」

 

 アキは3日前、フリントがフレアを運んできた時の事をフレアに話す。蒼白になりながら眠るフレア。それを抱いて目の前に立つフリントの異様な雰囲気――――

 

「……見た目は間違いなく彼だったけど、まるで別人みたいに感じられたの。治療も受けずにすぐ出て行っちゃったから何があったのかも聞けなくて……」

「フリント……私、ちょっと捜してくる!」

 

 フレアがベッドから体を起こして飛び出そうとするとアキが慌てて押さえ込む。

 

「駄目よフレア! 3日も寝ていた体なのよ? 安静にしてなきゃ……」

「でも……」

 

 アキの言葉もあるが、フレアは先程の夢を見てからフリントの事が気になって仕方が無い。今すぐ逢いたい――――頭が、胸が、先程からフレアにそう訴えかけてきている。

 

「急がなくてもフリントは訪ねて来てくれるわ。私は会ってないけど、貴女が寝ている間に毎日来てくれてたみたいだから……待ってれば今日も来てくれるわ。今は信じて寝てなさい」

 

 アキはそう言ってフレアの体に毛布を掛け、立ち上がる。

 

「私、もう行くわね。決闘を教える約束をしている子がいるの。それじゃあね」

 

 微笑みながらフレアに対して軽く会釈をした後、アキは病室から出て行った。

 アキが出て行った後、フレアはベッドの中で何かを捜すように辺りを見回す。

 

「(エアトス? いないの? ……私のデッキ、ここに無いのかな?)」

 

 ベッドの横にある棚に眼をやると、そこには決闘銃と並べて置かれている自分のデッキを見つける。

 フレアはそれを手に取り、中からエアトスのカードを取り出した。

 

「エアトス、エアトス……どうしたんだろう……」

 

 何度も呼びかけるが、エアトスから返事は返ってこない。

 込み上げてくる不安。それが頂点に達した時、フレアはベッドから足を踏み出した。

 

「(フリント……フリントの所へ……!)」

 

 

* * *

 

 

「随分と無理させたね。マシンも体も」

「じゃなきゃ奴等は倒せなかった。早いとこ直してくれよ」

 

 ここは遊星達のガレージ。そこで難しい顔をしたブルーノと鬼柳が大破した大満足号の前に立っていた。

 

「早く直しても、その腕じゃライディング・デュエルは無理だよ」

「何満足できない事言ってんだ! そんな事言ってると、俺の怪我が先に治っちまうぞ! とにかく、何時でも乗れる様に頼むぜ!」

 

 鬼柳は吊った右腕を左手で指差しながらガレージをつかつかと歩き回る。

 フリントをフレアの元へ送り出す為、ジル達やムクロと共にスタジアムのディアブロ達を引き受けた鬼柳であったが、ディアブロ達の執拗かつ危険な猛攻により、チーム・フォーチュンナイツのジルと共にクラッシュさせられてしまった。

 場数を踏んでいる鬼柳は咄嗟の動きにより腕の骨折だけで済んだが、初心者Dホイーラーのジルは命に別状は無いものの、暫くは身動きができない程の重症を負ってしまったという。

 ジルは重症、死羅は今回の一件ですっかり戦意を喪失、ボマーは果たさなくてはならない目的がある為、チーム・フォーチュンナイツはWRGPを棄権、これによりHブロックからチーム・サティスファクションとムクロの本戦出場が決定した。無論、WRGPが続行される場合の話である。

 

「ブルーノ! 鬼柳!」

「フレア!?」

「お! 心配してたんだぜ? もう大丈夫なのか?」

 

 ここで、病院から脱走してきたフレアがガレージの中へと飛び込んでくる。

 格好は先程までの寝巻きではなく、アキが持ち込んでくれていたサティスファクションタウン製の洋服に、決闘銃を収めたガンベルトを腰に巻く、何時ものカウガールスタイルであった。

 

「フリントは何処?」

「フリント? ああ……何処だろうなぁ」

 

 フレアにフリントの居所を聞かれ、曖昧そうな表情を浮かべる鬼柳。

 

「このところ、何か変なんだよなアイツ」

「フリントが?」

「おう。何かぼんやりしてる事があれば、時々今みたいにどっか行く事もあってよ。それに何と言うか……雰囲気がな。それと、何か……んん?」

 

 鬼柳は悩む様に首を捻った後、今度は諦めた様に息を吐く。

 

「分かんねぇ! あの後何があったんだろうな……っておいフレア!?」

「ごめん! フリント捜しに行くね! またね鬼柳! ブルーノ、ウィルダーネスの修理お願いね!」

 

 ジッとしてられないのか、フレアは慌しくガレージを飛び出す。

 鬼柳は面食らったような表情で、ブルーノは”本来の表情”に戻りながら、走り去るフレアの背を見送った。

 

 

* * *

 

 

「も~……何処にいるの~……?」

 

 シティ中を捜し回って数時間、フリントが行きそうな場所を隈無く捜したが、フリントの影すら見つからない。病院を出た時に東から斜めに射していた日の光も、今では間逆の西側から射してきている。

 

「(日が暮れる前に見つけたいな……)」

 

 しかし、シティでフリントが向かいそうな場所はもう思い浮かばない。残る場所は――――

 

「サテライトか、サティスファクションタウン……」

 

 フリントのイグニッションはウィルダーネスと共にガレージに置かれていた。まだ修理が終わっていないのだろう。

 必ず病室にやってきてくれていたようなので、Dホイールで数時間も掛かるサティスファクションタウンへ向かったのはありえないはず。

 

「(じゃあ、サテライトかな?)」

 

 思い立ったフレアは駆け出し、サテライト行きのバスが停まるバス停へと向かった。

 

 

* * *

 

 

「さて、何処さがそうかなぁ……やっぱり最初はあそこかな」

 

 バスから降りたフレアが向かったのは旧サテライト広場。

 昔はゴーストタウンの様であったサテライト広場も、今では綺麗に整備され、小さな歓楽街へと様変わりしていた。

 フレアが辺りを見渡しながら歩いていると、人々が出入している地下鉄ホームの出入口階段を見つけ、その前で立ち止まる。

 

「綺麗になったけど、ちょっと寂しいな……」

 

 3年前まではボロボロで、とても電車など通せるような状態ではなく、その無駄にある空間を住民達が雨風を防ぐのに利用していた。

 今では本来の役割であるサテライト中を繋ぐ移動の道としての機能を取り戻し、住民達が暮らせるような環境ではなくなっている。

 フレアにとって、昔の旧サテライト広場地下鉄ホームは大事な思い出の場であった。

 

「ん?」

 

 暫く出入口階段を眺めていたフレアだったが、その階段から3人の男と一人の少年が上がってきたのを見て表情を明るくする。

 

「”ラリー”! ”ナーヴ””タカ””ブリッツ”!」

「あれ? フレアじゃん?」

「偶然だな? 今日は約束の日じゃないはずだが……サテライトに何か用か?」

 

 最初にフレアに気付いた少年――――”ラリー”がフレアの元へと駆け寄り、続いて荷物を抱えたナーヴが手を挙げながら近づく。

 タカとブリッツは何やら大荷物を抱えており、フレアに気付く様子は無く、階段を上り切った後は荷物を地面に置いて息を切らせていた。

 

 この4人は統合前のサテライト時代に知り合った遊星の仲間であり、フレアやフリントとは今でも親しくしている友人達である。

 統合された後、彼等は遊星にシティで共に暮らそうと誘われていたが、シティに対する複雑な思いと、生まれ育った故郷であるサテライトへの望郷の念、そして新たな道を歩もうとする遊星の重荷にならないようにと、彼等は故郷で遊星とは別の道を歩んで行く事に決めたのだ。

 進む道を違え、殆ど逢う事も無くなったが、彼等と遊星は決して疎遠になった訳ではない。今でも彼等と遊星は、心の深くで結ばれた”絆”で繋がっている。離れていても、お互いの存在を強く感じながら今を生きているのだ。

 因みにフレアはこの1年半、WRGPの真っ最中であっても定期的にサテライトへとやってきて彼等と交流を続けている。

 

「これから皆の所に行こうと思ってたの! ちょっと聞きたい事があって……」

「俺達に? まあ立ち話も何だし、俺達の家に行こうぜ」

 

 ナーヴが少し離れた位置にある貸家を指差す。

 嘗ては地下鉄ホームにテントを張って貧相な暮らしていた彼等も、今ではちゃんとした屋根の下で暮らし、4人で協力しながら安定した収入を得る充実した暮らしを手に入れていた。

 

「うん、ありがとう。あ、私も手伝うよ」

 

 フレアは4人の荷物の一部を持つと、共に貸家へと向かった。

 

 

* * *

 

 

「WRGPの事は聞いてるぜ。とりあえず本戦出場おめでとう。続行されるといいな」

「ありがとうナーヴ」

「しっかし、暴走族がテロとはね……旧サテライトじゃあるまいし」

 

 ブリッツが呆れた様に新聞紙を軽く叩く。

 セキュリティが全力を持ってディアブロ捜索に当たったが、ディアブロに関する情報は全て現場から消え去ってしまっていた。

 相手が時空を操るイリアステルなので仕方が無いと言えるが、大会の参加者や一般の市民達を納得させる答えにはならない。彼等を納得させる為にセキュリティが出した答えが、ブリッツが持つ新聞の内容であった。

 

「こっちは平和な上忙しくて、そんなのまったく気付かなかった。まるであの頃と逆だな」

 

 タカがまったりとした表情で、仕事後のコーヒーを啜る。

 

「知ったとしても、俺は何も心配しなかったね! シティにはフレアや遊星達がいるんだ! 絶対に負けはしないよ!」

 

 ラリーが腕を振り上げ、飛び跳ねる。だがそれを見たフレアは申し訳無さそうに肩を落とした。

 

「ゴメンねラリー、実は私、負けちゃったの……」

「ええ!? フレアが!?」

 

 ラリーだけでなく、他の3人も驚いた表情でフレアを見る。

 4人が束になっても勝てなかったフレアが、チンピラなどに遅れを取るなどと考えた事も無かった。

 

「そうよ。そのせいで私、事故って3日も寝たきりだったんだもの。起きたのは今日の朝」

「そ、そんな体でここに来たのか……」

「そ、その後大丈夫だったのかよ!?」

 

 タカとブリッツが心配するようにフレアを見るが、フレアは2人を安心させるように微笑む。

 

「大丈夫、フリントが助けてくれたから……そのお礼が言いたくて、今捜してるの。でもシティには見当たらなくて。こっちに来てない?」

「いや、見てないな……」

 

 ナーヴが他の3人を見ると、3人も同様に頭を振る。

 5人で少しだけ唸り合った後、一番最初にナーヴが口を開いた。

 

「本当にこっち来てるのか?」

「シティで行きそうな所は全部捜したから、多分こっちだと思うんだけど……」

 

 次にタカ。

 

「すれ違ったんじゃないのか?」

「フリントのDホイールも故障中だから、フリントもきっとバスよ。帰りのバスは当分先だから、すれ違ってはないはずだわ」

 

 次にブリッツ。

 

「携帯は? シティにいるんだから、それ位持ってるよな?」

「……今までDホイールの通信機で十分だったから」

 

 再び静まり返る一同。そんな空気を嫌ってか、ラリーが明るい声でフレアに話しかける。

 

「ここで話し合ってても見つからないよ! 今日の仕事は終わったし、皆で捜しに行こう!」

 

 ラリーの言葉に皆頷き、5人は貸家から出て地下鉄ホーム階段の前で立ち止まる。

 

「さて、動けばいいってもんでもないぞ。的を絞らなきゃな。フリントの行きそうな所に心当たりがある奴!」

 

 ナーヴが挙手を求めると、フレアが真っ先に手を挙げる。

 

「考え付くのは3箇所くらい。1つ目はここ”地下鉄ホーム”。2つ目は”B.A.Dエリア沿岸部”。そして最後が”ジャンク置き場”よ。どこも私達にとって、思い出の場所だから……」

 

 5人は3、4年前を思い出す。

 共に暮らした地下鉄ホーム。苦難や出会いがあった B.A.Dエリア沿岸部。そして笑い合い、泣き合い、遊星やフリントと共に”絆”を深めたジャンク置き場。どれも忘れられない”絆”の記憶である。

 

「それじゃあ手分けして捜したらどうだ? 俺はフリントがこっち来た時の為に残るわ。悪いが、仕事のせいでへとへとなんだ」

 

 タカが笑いながら手を挙げる。

 

「一番力あるくせにだらしないな……じゃあ俺とブリッツが旧B.A.Dエリアに行く。一部閉鎖されてるが、今じゃあそこもすっかり平和だしな」

 

 ナーヴがブリッツと眼を合わせて頷き合う。

 

「じゃあ私とラリーがジャンク置き場ね。あそこはまだあるの?」

「まだあるよ。だけどどっかの金持ちが土地を買い取っちゃって……ジャンク漁り防止の為、今じゃフェンスに囲まれてる上に警備員がいるんだよ」

「……それじゃあ、フリントはいないかな」

「といっても、他に手がかりは無いし、とりあえず行ってみようよ! 途中でフリントを見かけるかもしれないしね!」

 

 

* * *

 

 

「……フリントッ!?」

 

 ジャンク置き場近くにある廃ビルの屋上で、フレアとラリーがジャンク置き場内部を見下ろしていると、中で一番高いジャンクの山の上にフリントらしき人影が座って空を見上げているのが見える。

 

「どうやって中に入ったんだろう?」

「それよりも、私達も中に入らなきゃ!」

「落ち着きなよ。フリントが出てくるのを待とうぜ。急ぎって訳でもないし、フリントは出入の方法を知ってんだからさ」

「でも……」

 

 ラリーの言葉は正論なのだが、フレアは落ち着いていられない様子。再会した時からこの調子であり、どうしても今すぐフリントに逢いたいようだ。

 ラリーが再びフリントに視線を向けても、フリントが動く気配は無い。叫んで呼ぼうと思ったが、それではフリントの存在が警備員に気付かれる恐れがある。

 ただでさえ世間では事件が頻発しているというのに、ここで選手であるフリントやフレアが問題を起こせば、WRGPにどのような悪影響が出るか。ラリーはここまで気が使えるほどに成長していた。

 痺れを切らしたフレアが叫ぼうとするのを制止し、ラリーは人差し指を口に当てる。

 

「待ってフレア! 警備員に気付かれるよ! ……俺に作戦があるんだ」

 

 

* * *

 

 

 フェンスに囲まれたジャンク置き場の出入口は東西南北の4つあり、それぞれに警備員が1人ずつ就いている。

その西側出入口を見張る警備員が暇そうに欠伸を洩らした。

 

「昨日も見張り、今日も見張り、くそー……鉱山では1エリアの支配者だった俺が、今ではこんな下っ端の様な仕事をせにゃならんとは……」

 

 警備員はぶつぶつと愚痴を洩らした後、悔しそうに拳を握り締める。

 

「思えば、ゴミ溜めに落とされたあの日から俺の人生は下りっぱなしだ! 鉱山から追い出され、町で暮らす事もできずサテライトに流れ、ひもじい思いで3年過ごし、統合した後は何とか職に就いたがずっとこんな警備員だ! チクショウ……」

「チワース! 修理屋”トータル修理ス”でーす!」

 

 警備員が長々と愚痴を零していると、大きな工具箱を抱えたラリーがひょこひょこと近づいて来る。

 

「あ? 何だガキンチョ!」

「修理屋ですよ。頼まれたんで来ました! 心配しなくても、俺の腕は良いよ!」

「修理だぁ? そんなの頼んだ覚えはねぇぞ?」

「え? おかしいなぁ……作業マシンの修理を頼むって依頼があったんですけど……あれじゃないんですかほら」

 

 ラリーが指差したほうへと警備員が振り向くと、少し離れた位置に古い作業マシンが一台置かれている。

 

「む……確かに、あれは動かないとか業者がぼやいていたな。しかし修理だなんて俺は聞いてねぇぞ? 前番の奴か頼んだの?」

「とにかく、仕事しないと食えないから、やらせて貰うよ!」

「あ、待て勝手な事するな! ちゃんと確認を取ってから――――」

 

 ラリーが工具箱を持ってマシンに駆け寄ると、警備員は慌ててその後を追う。

 二人がマシンの側に辿り着くと、ラリーが急に振り向き、警備員の左手に手錠の片側を掛ける。

 予想もしていなかった事態に呆然とする警備員。ラリーはもう片側の手錠をマシンの取手に掛けると、警備員から距離を取る。

 

「引っ掛かったな! おい警備員! 俺と決闘だ!」

「て、てめぇこのガキ! 何のつもりだ!」

 

 警備員はラリーに掴みかかろうとするが、手錠でマシンに繋がれている為、離れているラリーに近づく事ができない。

 まるで鎖に繋がれた犬の様に手錠を何度も引っ張る警備員を見て、ラリーはくすくすと笑う。

 

「こ、こいつ……見てろ! 警備員は俺だけじゃ――――」

 

 警備員は無線機を取り出す為に腰へと右手を伸ばすが、その手は虚しく空を切る。

 

「な、何……あ!?」

 

 見ると、ラリーが笑ったまま無線機を持ち、警備員を挑発するようにかざしながら揺らしている。

 

「(もうスリはやらないって決めてたけど、友達の為さ! それにすぐ返すしね) 決闘して勝ったらその手錠を外して、この無線機も返してやるよ。お前の分の決闘盤はそこの工具箱の中に入ってるよ」

「くそ! 何が目的だ!」

「さあね。やるの? やらないの?」

 

 そう言いながら決闘盤を腕に取り付けるラリーの視界に、警備員が離れた出入口に向かうフレアの姿が見えた。

 幸い、フェンスの扉に鍵は掛かっておらず、フレアはラリーを一瞥した後ジャンク置き場内へと侵入する。

 

「(作戦成功! 後は時間を稼ぐだけだ!)」

「やってやるよガキが! 大人を、この”レフタ”様を怒らせた事を後悔させてやる!」

 

 警備員――――レフタは工具箱から決闘盤を取り出し、装着してから自分のデッキをセットして決闘盤を展開させる。

 ラリーも決闘盤を展開させると、お互いに構えカードを引き抜く。

 

 

 

「「 デュエル!!! 」」

 

 

 

 クラッシュタウンから追放されサテライトに流れ着いていたレフタと、ラリーの決闘。先攻はラリー。

 

「俺のターン!」

 

 ラリー 手札:5→6

 

「《ガンバラナイト》を召喚!」

 

 ラリーの場に両腕に盾を持った鎧騎士が現れる。

 

 ATK:0 レベル4

 

「カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

LP:4000

手札:3

モンスター

・ガンバラナイト

魔法・罠

・セット

・セット

 

「(攻撃力0かよ? 守備表示にもしねぇとは、決闘知ってんのか?) 俺のターン!」

 

 レフタ 手札:5→6

 

「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに手札を2枚墓地へ送り、2枚ドロー! そして儀式魔法《スカルライダーの復活》を発動! レベル6以上になるよう場か手札のモンスターをリリースすれば該当モンスターを呼べるが、俺は手札の《儀式の供物》をリリース! こいつは闇属性儀式モンスターを呼び出す際、この1体だけで召喚条件を満たす事ができる!」

 

 レフタが儀式の供物を墓地へ送り、手札から儀式モンスターを取り出す。

 

「《スカルライダー》を儀式召喚!」

 

 レフタの場に恐竜の骨の様なバイクに乗ったアンデットが現れる。

 

 ATK:1900 レベル6

 

「続けて《カオスライダー グスタフ》を通常召喚!」

 

 続けて現れたのはフリントとのライディング・トロッコでも召喚したカオスライダー グスタフ。

 スカルライダーに付き従う様にバイクを並べる。

 

 ATK:1400 レベル4

 

「最後に魔法カード《死者蘇生》! 墓地に送った《ディスクライダー》を特殊召喚!」

 

 最後に現れたのは、バイクに乗ったグスタフとよく似た緑の悪魔。

 グスタフと同じ様にスカルライダーの隣にバイクを並べる。

 

 ATK:1700 レベル4

 

「(暴走族……まさかこいつがテロの犯人とか無いよな?)」

「俺の暴走軍団でひき潰してやるよ! グスタフとディスクライダーの効果発動! グスタフは墓地から魔法を2枚まで、ディスクライダーは墓地から罠を1枚まで除外する事で、グスタフは1枚につき攻撃力をお前のエンドフェイズ時まで300、ディスクライダーは500アップする! 俺は墓地から魔法2枚、罠1枚を除外!」

 

除外したカード

手札断殺

スカルライダーの復活

マジック・ジャマー

 

 カオスライダー グスタフ ATK:1400→2000

 ディスクライダー ATK:1700→2200

 

「覚悟はいいかガキンチョ! 決闘ってのはこうやるんだよ! バトル! ライダー達で攻撃! 【暴走上等 参連悪辰苦(さんれんあたっく)】! まずはスカルライダーで雑魚モンスターだ!」

 

 スカルライダーがバイクを発進させると、ガンバラナイトに向かって突進。ガンバラナイトは両腕の盾を構え、頑張ってスカルライダーの突進を止めようとする。

 

「ガンバラナイトの効果発動! 攻撃対象になった時、守備表示に変更できる!」

 

 ATK:0→DEF:1800

 

「ちっ、それがどうした! そんな守備力じゃスカルライダー止められねぇ!」

 

 頑張ったものの、ガンバラナイトは突進を止め切れず、撥ね飛ばされて破壊されてしまった。

 

「次はディスクライダー!」

 

 ディスクライダーが手に持った輪の形をした刃を振り上げながら、ラリーに向かって突進する――――が、突然ラリーの前に現れたボロボロのかかしがその突進を止める。

 

「罠カード《くず鉄のかかし》! 攻撃を1度だけ無効にし、もう1回セットし直す! その攻撃は通らないぞ!」

「この……! ならグスタフ!」

 

 今度はグスタフが突進し、手に持った長刀でラリーを斬りつける。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 ラリー LP:4000→2000

 

「はっはっは! どうだ! もう生意気な事言えない様に叩きのめしてやる! ターンエンド!」

 

LP:4000

手札:0

モンスター

・スカルライダー

・カオスライダー グスタフ

・ディスクライダー

魔法・罠

・無し

 

「負けないぞ! 俺のターン!」

 

 ラリー 手札:3→4

 

「永続罠《エンジェル・リフト》! 墓地からレベル2以下のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する! お前のカードの効果で墓地へ送ったレベル2チューナー《ワンショット・ロケット》を特殊召喚!」

 

 ラリーの場に切り札への布石となるワンショット・ロケットが現れる。

 

 ATK:0 レベル2

 

「また攻撃力0のモンスターかよ?」

「そうさ、俺のデッキには攻撃力0のモンスターしか入ってないからな!」

 

 そのラリーの言葉にレフタは驚いた後、大声で笑い始める。

 

「だっはっはっはっは! お前! 本当に決闘知ってるのかよ? 攻撃して、LPを0にするゲームだぞ? 見たところバーンデッキでもねぇ見てぇだし、とりあえずその辺に落ちてたクズカードをかき集めたってとこか?」

「決闘なら知ってるさ。おっさんよりもね」

 

 馬鹿にするような口調でおっさんと呼ばれたレフタは顔をしかめ、地団駄を踏みながらラリーに指を突きつける。

 

「おっさんだと!? しかも俺より知ってるなんぞ、出鱈目を抜かすな!」

「知ってるさ! 決闘で一番大事な……カード1枚1枚が持つ可能性をね! 《ミスティック・パイパー》を召喚!」

 

 続けてラリーの場に現れたのは、遊星も使用していたミスティック・パイパー。

 笛の音を鳴らしながら、その姿を消す。

 

 ATK:0 レベル1

 

「ミスティック・パイパーの効果発動! リリースする事で、デッキからカードを1枚ドロー! この効果でドローしたカードをお互いに確認し、それがレベル1モンスターだった場合、自分はカードをもう1枚ドローする!」

 

 ラリー 手札:3→4

 

「ドローしたカードはレベル1の《ワンショット・ブースター》! よってもう1枚ドロー!」

 

 ラリー 手札:4→5

 

「バトルだ! ワンショット・ロケットでスカルライダーを攻撃!」

「見栄張るんじゃねぇぞガキが! 攻撃力0に何ができるってんだ!」

 

 ワンショット・ロケットが胴体の両側に付けられたロケットをスカルライダーに向かって発射するが、スカルライダーはそれを難なく避け、ワンショット・ロケットに向かってバイクをぶつける――――が。

 

「うわぁぁぁ!?」

「ぐわぁ!? な、何故……」

 

 ラリー LP:2000→100

 レフタ LP:4000→3050

 

 スカルライダーがバイクをワンショット・ロケットにぶつけてもワンショット・ロケットは破壊されず、スカルライダーが避けたロケットがレフタに命中する。

 

「ワンショット・ロケットの効果発動! こいつが攻撃する場合、こいつは戦闘では破壊されないぞ! また、攻撃を行ったダメージ計算後、攻撃対象の攻撃力の半分のダメージを相手に与える!」

「何だと……だがお前の被害の方がでかいぜ! 自らの首を絞めただけだ!」

 

 思わぬダメージを受けて怯んだレフタであったが、すぐに落ち着きを取り戻し、勝ち誇った視線をラリーに向ける。ラリーはそれを余裕の表情で見返していた。

 

「いいのさこれくらい! 俺が勝つんだから! バトル終了、行くぞ! 通常召喚を成功させたターン、このカードは手札から特殊召喚できる! 来い! 《ワンショット・ブースター》!」

 

 現れたのは彼のお気に入りであるワンショット・ブースター。

 1年半前にジャックの元へと向かった遊星の無事を祈り、彼にこのカードを託していたラリーであったが、遊星にサテライトで”自分達の道”を行く事を告げた際、遊星が”とあるカード”と共にこのカードをラリーに返還し、感謝と共に新しい道を行く彼等を送り出したのである。

 

 ATK:0 レベル1

 

「レベル1《ワンショット・ブースター》に、レベル2《ワンショット・ロケット》をチューニング!」

「いい!? シンクロ召喚……」

 

 ワンショット・ロケットが自身を2つの光輪へと変え、ワンショット・ブースターを囲むと、1つの光、そして光の柱へと変える。

 

「シンクロ召喚! これがオレの切り札だっ! 飛び出せ! 《ワンショット・キャノン》!」

 

 光の柱から姿を現したのは、彼の切り札であるワンショット・キャノン。

 フリント戦でシンクロモンスターがトラウマになっているレフタ。ワンショット・キャノンに砲口を向けられ、怯えたように後ずさるが、その攻撃力を見て安堵の息を洩らす。

 

 ATK:0 レベル3

 

「へ、へへ……そういや全部攻撃力0だったな」

「攻撃力は0でも、可能性は無限大さ! ワンショット・キャノンの効果発動! 1ターンに一度、場に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊し、そのコントローラーに破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える! 《ディスクライダー》を破壊だぁ! 〈ファースト・ショット〉!」

 

 ワンショット・キャノンが両方のキャノンから光線を発射すると、ディスクライダーをバイクごと跡形も無く吹き飛ばす。

 

「うがぁ!? く、くそっ! だが俺は倒せてないぞ? ガキのわりには頑張った方だがな!」

 

 レフタ LP:3050→1950

 

「まださ! 魔法カード《シンクロキャンセル》を発動! 《ワンショット・キャノン》のシンクロを解除! そしてもう1回シンクロ召喚!」

 

  ワンショット・キャノンが素材であるロケットとブースターに分離すると、先程と同じ様にシンクロ召喚され、再び姿を現す。

 

「は、はぁ? わざわざ分離させて、またシンクロするだと? 同じモンスター出して何のつもり――――」

「決闘を解っていないのはおっさんの方じゃないの? こいつは同じモンスターじゃないよ。シンクロ召喚したての、新しいモンスターさ!」

「新しい……あ!? そうか!?」

「新しいモンスターだから、まだ効果を使っていない状態なのさ! 行けぇ! 〈セカンド・ショット〉!」

 

 ワンショット・キャノンが再び光線を発射すると、今度はグスタフを撃ち抜き、破壊する。

 

「うぎゃあああ!? ぐ、ぐ、ぐ、だがまだ俺のLPは残ってるぞ!」

 

 レフタ LP:1950→950

 

「まだだ! まだ可能性はある! 遊星から貰ったこのカードで! 手札からモンスター1体を墓地へ送り、魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する! デッキから《サイバー・ヴァリー》を特殊召喚!」

 

 ラリーの場に蛇の様なマシンが現れる。

 

 ATK:0 レベル1

 

「ヴァリーの効果発動! こいつと自分の場のモンスター1体を選択して除外し、デッキからカードを2枚ドローする! ヴァリーと《ワンショット・キャノン》を除外して2枚ドロー!」

 

 ヴァリーが場で咆哮を上げると、ワンショット・キャノンと共に姿を消し、それと同時にラリーがデッキからカードを引く。

 

 ラリー 手札:1→3

 

「これで繋がった! 手札を1枚捨て、装備魔法《|D・D・R《ディファレント・ディメンション・リバイバル》》を発動! ゲームから除外されている自分のモンスター1体を選択! 選択したモンスターを攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する!」

「じょ、除外から特殊召喚だと!? てことは……」

「もう一度使えるって事さ! これで止めだ! 〈ファイナル・ショット〉!」

 

 ラリーの場に次元の穴が現れると、その中からワンショット・キャノンが飛び出し、残っていたスカルライダーに向かって光線を放つ。

 スカルライダーはバイクを反転させて逃げようとするが間に合わず、レフタと共に光線で撃ち抜かれる。

 

「ぎゃあああ!?」

 

 レフタ LP:950→0

 

 ソリッドビジョンが消え、決闘終了のアラームが鳴り響く。

 レフタは脱力して膝を着き、ラリーは喜び飛び跳ねる。

 

「やったやったーい!」

「チクショウ……こんなんばっか……」

 

 ラリーがようやく落ち着きを取り戻した頃、ジャンク置き場内部から1枚のカードが飛び出し、ラリーの足元に落ちる。

 ラリーがそれを拾い上げると、それはフリントが持つ白紙のカードであった。

 

「(えーと、白紙は”何とかなるから引き上げろ”だったな。やっぱりフリントは抜け道を知ってるんだなぁ)」

 

 旧サテライト時代にフリントとの間に決めておいた合図を思い出しながら、ラリーはカードを見詰める。

 ラリーは懐にカードをしまうと、レフタの方に無線機を投げ、駆け出してその場を離れる。

 

「あ、おい!? これ外して行けよ!?」

「散々ガキだの何だの言われたお返しさ! 舐めるなよ! 心配しなくてもその内交代が来るだろう? 暫くそこで大人しくしてな! じゃあねー!」

 

 ラリーは笑いながら手を振った後、レフタの怒声を背に受けながら、フレアと話し合って決めた待ち合わせ場所へと向かっていった。

 

 

* * *

 

 

「フリント!」

 

 ラリーがレフタと決闘をしている頃、フレアはフリントの元へと辿り着く。

 フリントは一番高いジャンクの山の頂上に座り、何処までも続く青い空を眺めていた。

 

「フレアか。もう大丈夫なのか?」

「うん。アキちゃんにはまだ寝てろって言われてたけど……私、どうしてもフリントに逢いたくて」

「俺に? わざわざこんな所までどうした?」

 

 フリントは振り向きもせず、空を見上げたままフレアとの会話を続ける。

 

「……私、ゴーストに負けちゃって……フリントが助けてくれたんでしょ? そのお礼が言いたくて……ありがとうフリント! また助けられちゃったね!」

「俺はお前を運んだだけだ。礼なら、ガーディアン・エアトスにするんだな」

「!? フリント……エアトスの事知ってたの?」

「あの時に一度会っただけだ。お前を助ける為に力を使い果たし、今は回復の為に眠り続けている」

「(そっか……だから呼んでも答えが無かったんだ……)」

 

 フレアはデッキからエアトスのカードを取り出す。

 

「(ありがとう、エアトス。ごめんね……もっと私に力があれば……)」

 

 フレアは顔を上げ、フリントを見上げる。

 フリントは相変わらず空を見上げていた。

 

「サテライトの空が……綺麗だ」

「え? うん……そうだね! 昔は殆ど曇りだったのに、今じゃよく見えるね!」

 

 フレアが合わせて言葉を返すが、フリントからの返信は来ない。二人の間に沈黙が続く。

 

「(……アキちゃんの言う通りかな。やっぱりフリント、前とはちょっと違う。もしかして――――)」

「お前が、お前達が守らなくてはならない」

「え?」

「この空を、この光を、今を生きるお前達が……」

「ど、どうしたのフリント?」

 

 フレアが不安そうに聞き返すと、フリントは漸くこちらを向き、山から降りてくる。

 

「フリント……」

「…………」

 

 フリントはフレアと向き合い、見詰めたまま何も言わない。

 フレアの中の不安は益々大きくなり、とうとうその不安を抑えられなくなる。

 

「フリントッ!」

 

 フレアがフリントに抱きつき、その胸に顔をうずめる。

 

「何処にも! 何処にも行かないよね!? フリントッ!」

「どうした突然?」

 

 フリントは動じた様子もなくフレアの肩を掴み、向き合う程度に体を離す。

 

「”夢”を見たの! 暗くて、寒くて、恐い夢! フリントが泣いてる夢! 光になって走り去る夢! ……あんなの……初めて……」

 

 フレアは堪えきれず、体を震わし、涙を流す。

 

「私……フリントが何処かに行っちゃう様な気がして……何処か遠くに……フリント! 私達、チームだよね!? 家族だよね!? ずっと一緒だよね……フリント!」

 

 フレアは再びフリントに抱きつき、胸の中で咽び泣く。

 その時、フリントはフレアの頭に手を載せ、軽く撫でた後、顔を上げさせる。

 

「泣くなフレア。……不安で辛いか?」

「辛いよぉ……」

「辛いか。フレア、俺はここにいる。解るか?」

「うん……」

「大丈夫だ。俺はここにいるぞ。ここにいる」

「フリント……」

 

 フレアが胸の中で見上げたフリントの顔は、今まで見た事ないような穏やかなもので、優しかった。

 

「フレア、お前は強くならなければならない。お前は全てを照らす”火”。皆の、世界の希望なのだ」

「フリント……?」

「お前が強くなるまで、俺がお前を守る。側にいる……だから、もう泣くな」

 

 フリントがフレアの涙を拭う。

 フレアも自分の手で一回顔を拭うと、太陽の様な笑顔をフリントに向けた。

 

「うん!」

「さて……帰るか。俺が外で足止めしているラリーに合図を送ればいいんだな?」

「え!? 何で分かったのフリント!?」

「お前の考える事だ。大体解る。俺が入った抜け道があるから、俺たちはそっちを通って帰るぞ」

「え、え? ま、待ってよフリント!?」

 

 ラリーがいる西口へと歩き出すフリントの背を追って走り出す。

 フレアの心に、もう不安は無かった。

 

 

 

「(フリント、何時までも……その大きな背中を見せていてね! 約束だよ!)」

 

 

 

 




ひぃー! ペースが落ちてきた!
時間が厳しいですけど、頑張ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。