決闘が終了し、片膝を付いて項垂れる白尽くめの男。
フリントは決闘銃を腰に収め、男に歩み寄って手を差し出す。
「……?」
顔を上げ、目の前に立つフリントを訝しげに見詰める男。
フリントはその眼を見返し、警戒の色を緩めてフッと笑みを洩らす。
「決闘をすれば解る。もう俺はお前に銃口を向けたりはしない。……立ってくれ」
男は何かを察した様に笑みを浮かべると、差し出されたフリントの手を握り、立ち上がる。
「完敗だ。長い研鑽の日々を送ってきたつもりだったが……まだまだだった」
男は頭からフードを外すと、色白で整った顔をフリントに見せる。
男はフリントが思っていたよりもずっと若く、最初に見た時の儚さが更に強く感じられた。
「良い決闘だった。……教えてくれるか? お前の事を」
「私の名は”ハロウ”。”夢見の民”の末裔……五千年前から続く”巫女と決闘神官”の血筋だ。決闘巫女とは遠い血縁に当たるだろう」
男はそう名乗るが、フリントはフレアからエアトスや血筋についての話を聞いていない為、ピンと来ない様子。
決闘前と中のフリントの反応から察していたハロウは、五千年前の巫女の伝説と、フレアの出生の秘密をフリントに語り始めた。
「――――私はこの事を我が主から使命と共に告げられ、この都市へとやってきた」
話を聞き終えたフリントの顔に驚いた様子は無い。それどころか当然と言った風に小さな笑みを浮かべている。
「成る程。それがあの”夢”と”ガーディアン・エアトス”の秘密か……そうだろう。フレアならばおかしくはない」
「どうした?」
「いや、何でもない。それよりも、お前の使命とは何だ?」
「私の使命は、決闘巫女を我が主の下へと連れて行く事。主がそれを望んでいる」
「何の為にだ?」
「”世界の為、決闘巫女は目覚めなければならない”……主はそう仰られた」
その言葉を聞いて、フリントは少し考える様にした後、ハロウへと向き直った。
「分かった。フレアの元へと行こう」
「分かって貰えたか。急ごう。これ以上、主をお待たせする訳にはいかぬ」
「あーーーー!? 見つけたッ! フリント!」
突然、表通りから聞こえてきた叫び声。
フリントが振り向くと、そこには息を切らせたフレアが立っていた。突然いなくなったフリントを捜してガレージを飛び出し、今やっと追いついたのである。
「何で勝手に出て行っちゃうの!? 何も言わないで! 心配したんだから!」
「怪しい客が来たものでな。その相手をしていた」
フリントが後ろにいるハロウを親指で指し示す。
「怪しい客? 一体誰なの? フリントの知り合い?」
「お前の客だ。未だに怪しいが、信用してもよさそうだ」
フリントはここまでの経緯をフレアに話す。
ハロウがフレアの周辺を嗅ぎ回っていた事、それに気付いてハロウを追った事、決闘を通してお互いの真意を確かめ合い、事情を理解した事――――それらを聞いたフレアは訝しそうな視線をハロウに向けた後、フリントに視線を戻し、面白く無さそうに顔を背けた。
「だったら私に声掛けてよ! 私の事なのに! 何で無視したの?」
お前を危険から遠ざける為――――そう言おうとしたフリントであったが、おそらくフレアは納得しないだろうと考え、別の答えを探す。
「……コイツが素早かったものでな、気付いた時にはもう追いかけていた。すまなかった」
「……とにかく、今度からはちゃんと声掛けてよ。黙っていなくならないで! 絶対!」
「……どうした? ガレージで何かあったのか?」
「知らない! その人連れて来て! 私の家で詳しく話聞くから!」
フレアは顔を背けたまま踵を返し、裏路地から出て行く。今のフレアの機嫌はかなり悪いようだ。
蔑ろにされたとは言え、それだけでここまで腹を立てるのは珍しい。この事態にフリントもやや面食らった様子。そんなフリントの肩をハロウが軽く叩いた。
「虫の居所が悪いみたいだな。先程まではそんな様子は無かったが……何かあったのか?」
”使命に支障が出るのは困る”、と言いたげな表情でフリントに尋ねるハロウ。
フリントは”俺に聞くな”と眼で返すと、ハロウを連れてフレアの後を追った。
……………………
………………
…………
……
…
その後、フレアを宥めながら詳しく話を聞かせ、シティを旅立ち、現在に至る。
やってきたのはサティスファクションタウンから遥か西にある古い遺跡。それは五千年前に巫女と決闘神官が創った遺跡であり、エアトスが守っていた部族”夢見の民”が代々管理してきた。
ハロウはその遺跡を守る”番人”に仕える決闘神官で、幼少の頃から部族の集落を離れ、ここで暮らしているという。
近くに滅ぼされた集落の跡地もあるらしく、フレアは母の故郷を見たいと頼んだが、ハロウは使命を優先して欲しいと言って聞かなかった。
「早く君を主の下へお連れしたいのだ。使命を果たした後、連れて行く事を約束しよう」
「解りました。……それにしても、ママ以外に生き残りの人がいてよかったです! きっとエアトスも喜んでくれます!」
フレアは未だに目覚めないエアトスのカードを見ながら微笑む。
「私は主に仕え、部族の名に恥じない決闘神官になる為、幼き頃から修行の為に主の下にいたのだ。……あの日、私はすぐにでも集落へ戻りたかったが、その時の私はまだ幼く、戦う力を持ってはいなかった……」
「……その主とやらは何もしなかったのか?」
フリントの問いに、ハロウは首をゆっくりと振る。
「……我が主にも私と同じ様に、果たさなければならぬ使命がある。その為に、神殿から離れる訳にはいかなかったのだ」
「神殿?」
フレアは目の前にある広くて古い遺跡を見る。
全ての建造物がボロボロに朽ちていて、建物としての原型をまったく留めていなく、もはや廃墟と言った方が相応しい。とてもではないが、これを”神殿”と呼ぶには抵抗がある。
「我が主の神殿はここではない。上にある。君達ならば気付けるだろう」
「上?」
フレアとフリントは同時に上を見上げるが、そこには青い空のみであったが、二人は何か違和感を感じる。
何かがある様で、何も無い。見えないのだが、自分達の上空に何かがある様に感じてしまうのだ。フリントはそれが初めてハロウを見かけた時の感覚と似ている事に気付く。
「フリント……」
「ああ。……お前が気配を隠すのに使っていた術と同じものか?」
「比べられるものではない。……来てくれ」
ハロウは二人を連れて遺跡の中へと入って行く。
荒廃した、寂しげな遺跡の道。歩いていて見えるのは薄茶色の廃墟とそこを這い回るトカゲ、そして何処までも広がる青い空のみ。確かに妙な気配は感じるが、こんな所に神殿なんて本当にあるのかと、フレアは内心で首を傾げる。
三人は少し歩いた後、遺跡中央の開けた場所に辿り着く。そこには台座が置かれており、台座の表面にはカードの形の窪みが四つある。窪みの一つは中心に、そして残り三つはその一つを正三角形の形で囲む様に配置されている。
ハロウは自身のデッキから四霊神のカード3枚を取り出し、囲んでいる窪み三つにセットすると、上から光の柱が伸びてきた。
「私は先に行ってこの事を主に知らせる。君達は私が昇った後、グランソイルをこの台座に置いてくれ。それが神殿へと入る証となる」
ハロウはそう言って光の柱の中に飛び込むと、光の柱と共に一瞬で消え去ってしまった。
フレアはその不可思議な現象に面食らい、立ち尽くす。
「き、消えちゃった……」
「フレア、置いてみろ。置かなければ何も始まらん」
「わ、解ってるよ。……全部揃ったら何が起きるんだろ……それっ!」
フレアはグランソイルのカードを取り出し、中心の窪みに置いて飛び退いた瞬間、辺り一帯全てが光に包まれる。
「ウソー!?」
「退いても無駄だったな」
あまりの眩さに目を閉じるフレア。光が弱まり、ゆっくりと目を開けた瞬間、そこには信じられない光景が広がっていた。
「わぁ……!?」
「……こんなものをどうやって隠していたんだ?」
自分達が立つのは、雲を突き抜ける塔の上。そこから見渡せるのは、空の上に浮かぶ巨大な島。その上には大きな湖と巨大な山があり、山には二本の帯の様な物が巻きついている。
「あれ何だろう?」
「道だ。よく見てみろ」
フリントに言われたように全体をよく見回すと、それはとても長い二本の道だという事が分かった。
二本の道は自分達が立っている塔の頂上から二つに分かれ、左右へ大きく離れた後、それぞれが間逆の方向から浮き島へと入る。入った後、道は湖の上と山の麓を通り、最後は螺旋階段の様に山に巻きつきながら高すぎて見えない頂上へと伸びている。
「これ……もしかしてライディング・デュエルのコース?」
「その通り」
突然聞こえてきた声に二人が振り向くと、そこにはハロウと同じ白尽くめの格好をした男が立っていた。後ろにはハロウが膝を付いて控えている。
「ここは五千年前に巫女と決闘神官が私と共に創り上げた”試練の場”だ」
「……お前は?」
「無礼者!」
ハロウがフリントを睨みながら立ち上がると、男はハロウを腕で制止する。
「ハロウ。地上で私を知っている人間はもう君だけだ。敬えというのは無理な話だろう?」
「あ、あの……ハロウさんの主さん……ですか?」
フレアが遠慮がちに尋ねると、男はゆっくりと頷く。
フードを深く被っている為、その表情は分かり難い。
「いかにも。私は”星海の番人”。この”星海の道”の管理者だ」
「(番人……試練の場……)」
フリントが考え込む中、フレアは星海の番人の前に進み出る。
「あの、私をここに連れて来るように頼んだって聞いてるんですけど……」
「ああ、その通り。君には試練を受けて貰わなければならない」
「試練?」
「! …………」
フレアは首を傾げ、フリントはハッとした様に顔を上げ、警戒するような鋭い視線を番人に向ける。
「君は今、世界がどんな状況か知っているか?」
「聞いています。イリアステルを止めないと……ネオ童実野シティが……」
「そう、だから役目を終えたにも関わらず、シグナー達は再び戦いへと赴かなければならない。……だが、それだけでは足りない。相手は前例の無い未知なる敵だ」
番人はゆっくりと歩き出し、近くにいた二頭の白馬へ近づき、その背を撫でる。
何時の間に馬がと驚いていたフレアであったが、よく見ると自分達のDホイールまで近くにある事に気付き、更に驚く。
「ああ、済まない。あの時一緒に移動させておいた。……話を続けよう。更なる戦いに勝利する為、シグナーを助け、共に戦える存在が必要だ」
「……それが、”決闘巫女”?」
「そう、嘗て巫女と決闘神官がシグナーを助けた様に、君がシグナー達を助けて欲しい」
「勿論です! 遊星、ジャック、クロウ、アキちゃん、龍可ちゃん、皆私の仲間だもの! シグナーじゃなくても助けるに決まってるわ!」
フレアがそう言い切ると、番人は僅かに見える口の端を上げた。おそらく微笑んだのであろう。
「その言葉が聞きたかった。……だが、意気込みだけで勝てる相手ではない。君にはもっと強くなって貰わねば」
「その為の試練なんですね! 分かりました! 絶対に乗り越えて見せます!」
「よし……それでは始めよう。君の相棒に乗ってくれ」
「待ってくれ」
番人がウィルダーネスを指差した瞬間、フリントがフレアと番人の間に入り込み、番人と向き合う。
「その試練、俺も共に受けさせてくれ」
「君がか?」
「俺はシグナーでも決闘神官でもないが、奴等とは戦っていくつもりだ。その為に力を付けたい。構わないか?」
フリントは相変わらず鋭い視線を番人に向けている。
「……構わない。君も挑戦してくれ」
番人はそう言うと、フリントに顔を近づけ、彼だけに聞こえるよう話す。
「”煉獄の旅人”よ、心配するな。君が知っている試練と、この星海の試練は違う。そう危険な目には遭わない」
そう言って顔を離そうとする番人の肩をフリントは掴み、元の位置へと戻す。
それを見たハロウがフリントに跳びかかろうとするが、番人が手で制止させる。
「涼しい顔で嘘をつくな」
「お互い様だろう? 一つ言っておくが、試練中に君が決闘巫女にしてやれる事は何も無い。勿論、守ってやる事もな」
「……信じてやる事はできる」
フリントは最後にそう言うと、イグニッションの方へと歩き出す。フレアは既にヘルメットを被り、ウィルダーネスに跨っていた。
「何揉めてたの?」
「何でもないさ」
「……また私には教えてくれないんだ?」
「……俺が奴に掴みかかっただけだ。手加減してやるとか抜かしたからな。面白い話でも何でもない」
「ふーん、そう」
「決闘巫女はこちらへ! 君はハロウの元へ!」
番人は白馬に跨ると、”左側へと分かれる道”の前へ。ハロウも同じ様に白馬に跨り、離れた位置にある”右側へと分かれる道”の前に立つ。
「え!? まさか……馬でライディング・デュエルをするつもりですか!?」
「そのまさかだ。さあこちらへ!」
「う~ん……大丈夫かなぁ?」
「フレア」
手招きする番人に困惑しながらも、フレアはウィルダーネスを走らせて側へ行こうとするが、その直前でフリントに呼び止められる。
「何フリント?」
「フレア……この試練は間違いなく厳しいものとなるだろう」
フリントの言葉にフレアは一瞬だけ顔を曇らせると、すぐに笑顔を作って自身の胸を叩く。
「……大丈夫! 私だって成長してるんだから! この試練だって乗り越えて見せるわ!」
「……そうだな。だが、これだけは忘れるな。……何があっても、自分を信じろ。立ち止まった時には、自分の全てを見詰めなおせ。いいな?」
「もう、解ってる! それじゃ、お互いに頑張ろうね!」
フレアは軽く手を振ると、番人の元へと向かう。フリントはその背を暫く見詰めた後、ハロウの元へと向かった。
* * *
こちらは左側へと向かった番人とフレア。
番人は馬をウィルダーネスに向き合わせ、試練の詳細を話し始める。
「これから君は私と決闘をしながら、あの山の頂上を目指してもらう」
「その決闘に勝って、頂上に無事辿り着く……それが試練って事ですか?」
「いや、この決闘は”見極め”だ」
「見極め?」
「私は君の決闘巫女としての実力を知らない。その為に君と一戦交え、試練に挑戦する資格があるかどうかを見極める。資格があり、無事に頂上へ辿り着けたその時に、君に試練を課す事となるだろう」
「成る程……それじゃさっそく始めましょう!」
ウィルダーネスを進行方向へと向け、エンジンを掛けるフレア。だが番人の話はまだ終わっていないらしく、番人は滾るフレアの前に馬を出す。
「まだ話は終わっていない。これから行う決闘は特殊なものだ」
「特殊なもの? 普通のライディング・デュエルじゃないって事ですか?」
「そう……”
「一撃疾走……?」
「同じ攻撃力の
「あ……」
フレアは精霊世界での戦いを思い出す。
足掻くゼーマンと、復活したエアトス。互角の力を持つ2体のぶつかり合い――――その時に乗っていたのはD・ホイールではなくイーグル・アイであったが、あれは正しく”一撃疾走”であった。
「一撃疾走とは、決闘者の心の強さで勝敗が決まる。試練に必要な資格とは”心の強さ”だ。……それをこの”北星海路”で確かめさせて貰うぞ」
「はい!」
「それともう一つ、隣の”南星海路”にて君の連れがハロウから同じ説明を聞き、ハロウ相手に同じ試練を受ける。……君は決闘巫女だ。私は君に期待している。彼よりも先に頂上へ辿り着き、期待に応えてくれ」
「フリントよりも先に……」
昔からフリントはフレアの目標であり、憧れであった。決闘者としても、一人の人間としても尊敬しているし、これからも彼の側で決闘の腕を磨きたいとも考えている。
しかし、フレアにはすぐにでもフリントに勝ちたいという”ライバル意識”があった。決闘関連で勝てる事と言えば、決闘銃の早抜きと第一コーナーの取り合いくらい。決闘ではまだ一度も勝てた事が無いのである。
フリントはフレアにとって仲間であり、師であり、家族であり、憧れのヒーローであり、そして――――乗り越えたい”最大の壁”でもあるのだ。
「……私、やります! フリントに勝ちます!」
「その意気だ」
フレアは南へと顔を向け、湧き上がる気持ちを確かめる様に胸に手を当てる。
「(……私、フリントに勝ちたい! 勝って、少しでも近づいて……フリントが私にそうしてくれるように、私もフリントを助けたい! そして……)」
フレアは左腕に装着した自分のデッキホルダーを見下ろす。
「(エアトスに無理をさせないようにする為……強い決闘者になる!)」
「それでは始めよう。まずは君が戦いに出す最初の魔物を選べ。私がそれに合わせよう」
番人が馬をウィルダーネスの横に並べながら、フレアにモンスターの召喚を促す。
フレアは再びデッキホルダーを見下ろした。
「(一番心強いのはエアトスだけど……ううん! エアトスばかりに頼っちゃ駄目! 強くならなきゃ! エアトスに相応しい決闘者になる為に!)」
フレアはエクストラデッキからカードを1枚手に取り、モンスターゾーンに置いて召喚する。
現れたのは、右腕に大きなドリルを装備したシンクロモンスター――――
「私の一番手は《ドリル・ウォリアー》!」
ATK:2400
「《
番人が魔物の名を呼ぶと背後に石版が現れ、その中から雷の様な金髪を生やした白い戦士が現れる。
ライトニング・ウォリアー ATK:2400
「では行くぞ!」
「はい!」
「「 デュエル!!! 」」
「行きます……あれ?」
アクセル全開でスタートを切ったフレア。後ろを向いて番人に声を掛けるが、そこに番人はいなかった。
「余所見をしていていいのか? 行くぞ!」
返事が返ってきたのは前から。番人はスタートから馬を凄まじい速度で走らせ、一瞬の内にフレアを追い抜いていたのだ。
「(は、速い!?)」
フレアも更に加速させるが、追いつくどころかどんどん離される一方。そして、声も届かぬほど離れた頃、番人は馬を反転させてフレアの方へと向かってくる。
「わわわ!? 危ない!?」
「まずは一撃だ! 構えよ!」
「!? (そっか、一撃疾走だった! よーし……)」
一瞬だけ怯んだフレアであったが、負けじとスピードを上げて番人へと突進する。
「(絶対に負けない!) 【ドリル・ランサー】!」
フレアと番人がすれ違う瞬間、ドリルと電撃を纏った右腕がぶつかり合い、共に消滅する。
「引き分け!?」
「決闘巫女よ、君の力はこの程度か?」
「まだです! まだまだもっと!」
「その意気だ。二戦目に入る! 魔物を選べ!」
「次は……《サンダー・ユニコーン》!」
フレアの場に現れたのはサンダー・ユニコーン。
場に降り立つと、駆け出してウィルダーネスと並走する。
ATK:2200
「ならば私は《
番人が新たな石版を出現させると、その中から右腕を鋼鉄で覆った屈強な戦士が現れる。
マイティ・ウォリアー ATK:2200
お互いにモンスターを繰り出すと、番人は再び馬を反転させ、凄まじいスピードでウィルダーネスに追いつき、追い越して先行する。
「(むむむ……相手は馬なのに全然追いつけない~!)」
「島に入るぞ。二撃目はあそこで行う!」
番人が山の前に広がる広大な湖を指差す。
青色に染まっている湖面には波一つ立っておらず、西へと傾き始めた太陽の光によって輝いている。
「わぁ! こんな大きい湖初めて見た……とと、そんな場合じゃない!」
二人は暫く走り続け、空の道から湖の上の道へと入ると、番人が更に距離を離し、反転してフレアの方へと向かってくる。
「(負けない……絶対に勝つ!)」
フレアは目の前に意識を全て集中させると、先程よりもスピードを上げ、サンダー・ユニコーンと共に突進する。
「【サンダー・スピアー】!」
サンダー・ユニコーンが角に電気を集中させると、力の戦士が放った右拳を角で斬り上げ、そのまま振り下ろして胸を斬り裂く。
右腕を斬り落とされ、胸を裂かれた力の戦士は道に倒れて消滅した。
「やった!」
「ほう……見事。それでは次へ行こう」
番人は反転し、ウィルダーネスを抜いて先を行く。
「(あっさり抜かれるのって凄い悔しい……せっかく勝ったのに)」
「今度は私から行かせて貰うぞ。……来い!」
番人の石版から現れたのは、見覚えのある炎を纏った巨大な猛禽類――――
「ボム・フェネクス!? どうしてフリントの……」
ATK:2800
「ハロウの決闘の記憶にあったモンスターだ。乗り越える壁としては相応しいだろう?」
「……はい! 私の三番手は《ライトニング・トライコーン》!」
フレアの場に現れたのはライトニング・トライコーン。
ボムフェネクスから跳んで来る火の粉を電気で打ち消しながらウィルダーネスと並走する。
ATK:2800
お互いにモンスターを出し終わると、再び走り続け、湖を抜けて山の麓の道へと入る。
麓は美しい草原となっており、その上の道は山をぐるりと周る様に伸びている。
「さあ行くぞ! 超えてみせよ!」
番人が一気に距離を離した後、反転して向かってくる。
それに合わせ、ボム・フェネクスは上空へと飛び上がり、トライコーンへと急降下する。
「(フリント……ううん! 違う!) 【ギガボルト・チャージ】!」
フレアがウィルダーネスを一気に加速させると、それと同時にトライコーンが角に電気を集中させ、向かってくるボム・フェネクスに向かって跳び上がる。
ボム・フェネクスは炎を吐いて迎え撃つが、トライコーンはそれを電気で掻き消し、角でボム・フェネクスの腹部を貫く。
ウィルダーネスと白馬がすれ違う瞬間、ボム・フェネクスは草原の上に落下し、消滅する。
「こんなにも容易く倒すとはな……」
「番人さん、本物のフリントはもっと凄いですよ?」
「そうか……ハロウが使命を全うできているか不安になるな」
不敵に笑うフレアに、番人は口の端を僅かにあげる。
「いいだろう! 次が最後だ!」
番人は馬を反転させ、今度は追い抜くのではなく、ウィルダーネスの横で並走し始める。
「最後の相手はこの者だ!」
「え!?」
番人が横のフレアに向かって手を翳すと、フレアのデッキから1枚のカードが飛び出し、番人の手に収まる。
カードを手にした番人はスピードを上げてウィルダーネスを引き離すと、カードを放り、石版へと変えた。
「現れよ! 聖剣の女神!」
石版から現れたのはガーディアン・エアトス。
だがその姿は半透明であり、目は虚ろで生気が無い。
ATK:2500
「エアトス!? どうして!? エアトス! エアトスッ!」
フレアが必死になって呼びかけるが、エアトスは反応を見せない。
「これは私が作り出したエアトスの幻影だ。攻撃の力だけならば本物と寸分違わない」
「どうして! どうして私がエアトスと戦わなければならないんですか!?」
フレアは怒りの篭った声で番人に訴える。
「ガーディアン・エアトスは”夢見の民の守護者”。決闘巫女である君が持つ力の大部分と言っていいだろう。君が更に強くなるためには、彼女を超えなければならない」
「でも……」
「あれは幻影だ。本物ではない。あれを攻撃してもエアトスが傷付く事は無い。……それでも、この姿には攻撃できないか?」
「(あれは……エアトスじゃない)」
フレアは前を飛ぶエアトスの幻影を見詰める。
本物のエアトスではないと解っていても、自分の中にある”エアトスとの記憶”が攻撃を躊躇わせる。
「(ここで止まっちゃ駄目! そんなのエアトスは望まない!) 《ボルテック・バイコーン》!」
フレアの場に現れたのはボルテック・バイコーン。
ウィルダーネスと並び、エアトスの背を追って駆け出す。
ATK:2500
「行くぞ!」
「(エアトス……)」
番人が距離を離してから馬を反転させ、エアトスの幻影と共にフレアへと突進。フレアもウィルダーネスを加速させ、バイコーンと共に迎え撃つ。
「【ボルテック・ツインランス】!」
バイコーンは幻影に向かって跳び上がり角を振り上げるが、それが命中する前に幻影が放った光のブレスをまともに受けてしまう。
「ボルテック・バイコーン!?」
ブレスによって押し切られそうなバイコーンであったが、力を振り絞り、電撃を放って幻影を爆散させる。
幻影が消滅した後、バイコーンも力尽きて消滅してしまった。
「引き分け……」
全力でやったつもりであったが、やはりエアトス相手では気が引けてしまい、それが勝敗に影響してしまった。
フレアは項垂れながらウィルダーネスを停止させ、番人は馬を反転させてフレアの元へと近づく。
「番人さん……ごめんなさい。これじゃ――――」
「いや、君はこのまま頂上を目指し、試練を受けて貰う」
「え!? でも私、全力を出し切れなかった……」
「いや、それでも倒した事には変わりない。……勝利できなくとも、それを超える事ができる可能性を見させて貰った。後は君次第だ」
「私次第……」
「ああ。……さあ! 試練の場である頂上へ!」
「は、はい! あ、エアトスは……」
「これは今の君が持っていても仕方が無い。試練が終わるまで預かろう。……このカードに相応しい決闘者となって戻ってきてくれ」
「はい!」
フレアは再びウィルダーネスを動かすと、麓の道を抜け、山に巻きつく様に続いている山道へと向かった。
番人はフレアの背を見送った後、手に持ったままのガーディアン・エアトスを見詰める。
「……許してくれ。この試練は、彼女にとって厳しいものとなるだろう。だが……今はこうするしかない。彼女の為にも、君の為にも、世界の為にも……負けないでくれ、フレア」
* * *
「どういうつもりだ! これは一撃疾走ではなかったのか!」
一方、こちらは南星海路のフリント。
彼は今、イグニッションを駆り、本物のボム・フェネクスを従え、空の道でハロウを猛追している最中であった。
番人のものと同じ様にハロウの白馬のスピードも凄まじく、中々追いつけない。
ボム・フェネクスで攻撃しても、ハロウが従える伝説の爆炎使いは応戦せずに避けてしまう。
「悪いがお前を先に行かせる訳にはいかない」
「あの主とやらの命令か」
「お前は知らなくてもいい事だ」
「……戦う気がないのなら、そこをどけ!」
フリントはボム・フェネクスに指示を出し、砲弾の雨を伝説の爆炎使いに向かって撃たせる。
伝説の爆炎使いは一つ一つ見事に回避するが、近くにいたハロウはその攻撃の凄まじさに一瞬だけ怯む。
「貰った!」
その隙にフリントは一気に速度を上げ、ハロウを抜く。このまま引き離し、フレアの元へ向かうつもりの様だ。しかし――――
「何だと……!?」
ハロウを大きく引き離した瞬間、突然目の前にハロウを乗せて走る馬が現れ、行く手を塞いだ。
「(瞬間移動? いやまて……おかしいのは奴だけではない!?)」
辺りを見渡すと、周りの風景がまったく変わっていない。もう浮き島に辿り着いてもおかしくないはずであるのに、未だに自分は空の道を走っている。
「……瞬間移動したのは俺の方か?」
「その通り。お前はこの”永遠の空”に囚われている。どこまで走ろうと、お前は私の元へと戻ってくる。そして、私もこの空の道から出る事はできない」
「俺を閉じ込めてどうする気だ?」
「どうする気もない。試練が終わるまで大人しくしていて貰おう。終わり次第、ここから出してやる」
「……大人しく待っているのは嫌いなんだ」
ボム・フェネクスが再び伝説の爆炎使いへと襲い掛かるが、伝説の爆炎使いはそれを避ける。
「何時までも逃げられると思うな!」
「(我が主よ、力無き僕をお許しください……そう長くは持ちそうにありません……!)」
話の中の古代決闘語は原作で出て来たもの以外は全て筆者が適当に考えたものです。あれって何か元とかあるのかな……教えて彦久保さん。
原作の一撃疾走はお互いに攻撃力を調整したエースをぶつけ合い、その一撃でのフィールの威力を競う、というものでしたが、この作品ではフィールの概念がないため、作中のような設定になっています。まあフィールって結構精神で左右されてるかんじなのでそんなには変わってないかもですね。
今年中に次投稿できるかなぁ……