何を今更という感じですが、とりあえず復帰させていただきました。
いい加減な作者ですが、これからもよろしくお願いします。
「もう! 長すぎるよこの山!」
見極めを終え、山頂にある試練の場へと向かうフレア。登れど登れど螺旋の道は上を目指し、数時間走り続けた今でも頂上が見えない。日は9割方沈み、辺りは薄暗くなってきている。
「日が落ちちゃった……上は明るいのかな? フリント、もう着いてるのかな? ……あ」
ぶつぶつ呟きながらウィルダーネスを走らせていると、急に雲がウィルダーネスごと全身を覆い、視界を白く染め上げる。
「わわわ! 見えない……よ!」
流石のフレアでも視界が塞がれてしまっては無茶出来ない。急ブレーキを掛けて止まってからゆっくりと進む。
「うわー……これどこまで続いてるのかな……うわっと!?」
暫く進むと、急に視界が開ける。雲の上に出たのだ。
「意外と短い冒険だったなぁ……あ!?」
上を見上げると、遠くの方に揺れる火が見える。間違いなくその場を照らす篝火であった。
「ということは頂上! やった!」
ウィルダーネスのアクセルを全開にし、残りの道を一気に上り切る。辿り着いた頂上には大きな祭壇があり、その上へと続く急な階段の端には篝火が並べられ、壇上までの道を照らしている。フレアはウィルダーネスから降りると、その階段を昇り始めた。
「何か雰囲気あるなぁ……ってあれ!?」
ふと自分の体を見ると、服装が何時の間にかライディング用のサティスファクションジャケットから、何時ものカウガールスタイルへと変わっていることに気付く。何時ものガンベルトに決闘銃。それに収められているデッキはちゃんとスタンディング用に変わっており、それを見たフレアは不思議そうに首をかしげる。
「な、何で……ま、いっか。不思議なこと何て幾らでもあるもの」
* * *
「……誰もいない」
祭壇上へと登り辺りを見回すが、奥の二隅に置かれた篝火が風で揺れているだけであり、壇上広場には人一人いない。二つだけ、しかも奥にのみしか置かれていない篝火は中途半端に感じるが、階段に置かれている篝火が大きく燃え上がっている為、明暗のバランスは悪いが視界に困ることはない。この奇妙な舞台を前にフレアは再び首を傾げる。どうしたらいいかも分からないので、とりあえず奥の篝火へと近づいた。
「階段のもそうだけど、結構勢いよく燃えてるなぁ……」
一歩、また一歩と近づくに連れ、篝火に照らされるフレアの影が大きく、長くなっていく。
「特に変わった所は――――」
『こんばんは』
「っ!? 誰!?」
突然背後から聞こえてきた女性の声。フレアは驚いて振り返ると、大きく眼を見開く。
「え……え!? ちょっと!?」
『フフ……こうして向かい合うのは初めてね』
そこに立っていたのは、黒い服を身に纏い、黒髪を後頭部で束ねた少女。肌は透き通るかの様に白く、後ろの篝火がそれを妖しげに照らしている。
少女は伸びたフレアの影の上に立っており、フレアと向き合いながら微笑を浮かべていた。
「待って! 待って待って待って!?」
『どうしたの? そんなに驚くことないじゃない?』
狼狽するフレアを見て、少女はクスリと笑う。少女はフレアと同じ位の歳に見えるが、その仕草はそれ以上に大人びていて、何処か妖しげな雰囲気を感じさせる。そんな彼女を見て、フレアは信じられないといった表情で口を開いた。
「な、何で……何で”私”が!?」
『フフフ……』
色こそ違えど、少女の顔はフレアそのものであった。着ている服は黒いカウガールスタイル、瞳は同じ青で、腰には同じ決闘銃を提げている。色以外で違いを上げるならば、やはり妖しげな雰囲気を纏っているというところか。壇上奥で篝火に照らされている金髪のフレア、階段前で妖しく照らされている黒髪のフレア、二人の”フレア”が試練の場で向き合う。
『そうよ。私は貴女、貴女は私……フレア・ヴィルアース』
「な、何言ってるのよ! フレアは私! 貴女誰なの!?」
『フレア・ヴィルアース……貴女と同じ』
「????」
そんな訳ない、偽者だ、自分の偽者――――そう頭の中で叫んだが、目の前の少女の顔は間違いなく自分のもの。真似した様でも、双子の様なのでもなく、鏡に映した自分の顔そのものだとフレアは感じてしまう。あれは自分そのものなのか――――
「(そんなのありえない! だって私はここにいるもん! あれは偽者!) 何で私の真似なんかしてるの? 何の為に? 貴女が試練の相手なの?」
『言ってるでしょ? 私は貴女、真似なんかじゃないわ。最後のは知らない』
「知らないって……貴女、番人さんが用意してくれた私の相手じゃないの?」
『貴女が聞いてないことなんだから、私だって知らないわ』
フレアはこの時、自分そのものに見える少女は星海の番人が用意した試練の相手ではないかと考えていた。己を乗り越えて見せることで、強くなるということなのではないか。そう考えてみると、自分と同じ見た目なのにも頷ける。きっと番人が不思議な力で自分のコピーを創り上げたのだ。
「(きっとあれだわ! 遊星が作ってた遊戯さん達のシミュレーターみたいなものよ!)」
『試練については知らないけど、私は貴女に用があるの』
「え? 用も何も、試練でしょ? 決闘!」
黒いフレアはもう一度クスリと笑うと、腰から決闘銃を抜き、変形させて右腕に装着する。
『ま、そう言えばそうかもね。……私、貴女と決闘がしたいの。”確認”しなくちゃいけない事があるから……』
「私だってそのつもりよ! ……って、確認しなきゃいけない事って?」
『大事な確認……貴女は気付かなくてはならない。だから始めましょう。私達の決闘を……』
そう言うと、黒いフレアはフレアから距離を取り、階段の前で決闘盤を構える。この時、階段側の隅に突然篝火が現れ、四つの篝火が壇上全体を照らす。その光景に驚きつつ、フレアも決闘盤を左腕に装着し、変形させて構える。
「(絶対に乗り越えて見せる!)」
『フフフ……始めましょう』
「『 デュエル!!! 』」
辿り着いた先に待っていた、頂上での決闘。先攻はフレア。
「私のターン!」
フレア 手札:5→6
「(私が相手、か……ならシンクロか、獣族か……)」
自分と同じ見た目の相手と戦う未知なる感覚に戸惑いながらも、冷静に相手を見据えるフレア。わざわざ自分に似せてくるのだから、自分に近いデッキを使わせてくるだろうと予測する。
「(さっきの一撃疾走も、エースモンスターからデッキの傾向を見るためかな?) 手札から獣族1体を墓地に送り、手札からチューナーモンスター《虚栄の大猿》を特殊召喚!」
墓地へ送ったカード
キーマウス レベル1
現れたのは巨大な影と小さな小猿。小猿が威嚇すると、影が僅かに縮んだ。
ATK:1200 レベル5→4
「虚栄の大猿は――――」
『知ってるわ。”私”のデッキだもの。だからこれからも説明しなくて大丈夫よ』
「(な、何言ってんの? 番人さんにデッキの中身まで教えて無いのに……)続けて、《マイン・モール》を通常召喚!」
虚栄の大猿の横に、マイン・モールが現れ横に並ぶ。
ATK:1000 レベル3
「レベル3《マイン・モール》に、レベル4《虚栄の大猿》をチューニング!」
虚栄の大猿が自身を4つの光輪へと変え、マイン・モールを囲むと、3つの光、そして光の柱へと変える。
「荒野を駆ける雷よ! 猛き烈風を切り裂き、地平の彼方に蹄を穿て! シンクロ召喚! 轟け! 《ボルテック・バイコーン》!」
場に突き立った光の柱が消え、ボルテック・バイコーンが嘶きと共に姿を現す。
ATK:2500 レベル7
「シンクロ素材となったマイン・モールの効果で1枚ドロー!」
フレア 手札:3→4
「カードを3枚伏せてターンエンド!」
LP:4000
手札:1
モンスター
・ボルテック・バイコーン
魔法・罠
・セット
・セット
・セット
『私のターン』
??? 手札:5→6
「(さあ何で来る? 見た目やカードを真似できても、決闘まで真似なんて出来ないんだから!)」
決闘は口よりも己を語る――――プログラムに関して天才的な遊星でさえも、伝説の決闘者を完全に再現することは不可能だったと言う。
自分自身と向き合うこの状況、普段のフレアならば面白がっていたかもしれないが、何故だか今のフレアの胸中では得体の知れない”不快感”が渦巻き始めていた。明らかな”違い”があるので向こうが偽者なのは間違い無いが、それでも拭えない”何か”がある。もっと、もっと違いを見つけてその”何か”を除きたい。そのためにフレアは決闘で違いを暴こうと考えていた。しかし――――
『手札から獣族1体を墓地に送り、手札からチューナーモンスター《虚栄の大猿》を特殊召喚。そして《マイン・モール》を通常召喚』
「え?」
墓地へ送ったカード
キーマウス レベル1
ATK:1200 レベル5→4
ATK:1000 レベル3
相手の場に現れる虚栄の大猿とマイン・モール。そして――――
『レベル3《マイン・モール》に、レベル4《虚栄の大猿》をチューニング……フフ! シンクロ召喚! ! 《ボルテック・バイコーン》!』
光となる2体、突き立つ光の柱、現れるボルテック・バイコーン――――自分の場で行われた召喚が目の前でもう一度再現され、2体のボルテック・バイコーンが鏡の様に向かい合う。
ATK:2500 レベル7
『マイン・モールの効果で1枚ドロー……あら? どうしたのそんな顔して?』
「嘘……そんなの……」
??? 手札:3→4
『フフ……バトルよ。ボルテック・バイコーンで攻撃』
角を構え、フレアのボルテック・バイコーンに向かって突撃するボルテック・バイコーン。フレアはハッと我に返ると、慌てて伏せカードを展開する。
「そ、速攻魔法《突進》を発動! 攻撃力を700ポイントアップ!」
フレアの魔法の効果を受けたボルテック・バイコーンが嘶くと、向かってくる相手に対し、角を突き出して突進する。
「私の勝ちよ! これで――――」
『手札から速攻魔法《突進》を発動。私の方も攻撃力を700ポイントアップよ』
「!?」
2体のボルテック・バイコーンは場の中央でぶつかり合うと、共に倒れて消滅する。
「な……!?」
『ボルテック・バイコーンの効果により、お互いにデッキトップからカードを7枚墓地へ送る……この場合、14枚ね』
黒いフレアはボルテック・バイコーンのカードを墓地に送ると、デッキトップからカードを14枚引き抜く。フレアは呆然としながら同じ様にボルテック・バイコーンのカードを墓地に送り、デッキトップからカードを14枚抜いて確認すると、その中の1枚を取り出す。
「墓地に送られた《ダンディライオン》の効果により、《綿毛トークン》を2体特殊召喚――――あ!?」
ATK:0 レベル1
ATK:0 レベル1
フレアの場に綿毛トークンが2体現れるのと同時に、黒いフレアの場にも綿毛トークンが2体現れる。
ATK:0 レベル1
ATK:0 レベル1
「ま、まさか……デッキのカードも……決闘まで私と同じ……」
デッキタイプや傾向を真似てくるだろうというフレアの考えは甘かった。見た目だけではない。デッキ、カード、戦術までフレアと同じなのである。
『だから、何度も言ってるじゃない……”私は貴女”だって。解んない?』
本当に困った様な表情で溜息をつき、フレアを見る黒いフレア。この訳の解らない現象にとうとう耐え切れなくなったのか、フレアは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「だからぁ! 貴女は私じゃなーい! 大体、そんなの私じゃなーいッ!」
『あらひどい。どうして?』
「だって! ……私は……そ、そんなに大人っぽくないし……へ、変だよ! 貴女は私っぽくない!」
確かに、この黒いフレアは何もかもフレアと同じという訳ではない。顔も決闘も同じだが、明らかに”内面”とそこから滲み出る”雰囲気”が違うのである。明るい元気な少女、妖しげなほど落ち着いている大人びた少女、誰が見ても同じには見えない、明らかな”違い”があった。しかし、この指摘を受けても黒いフレアは平然としている。
『そうね、私と貴女は違う……でも、”同じ”なのよ』
「い、言ってることがメチャクチャよ!」
『いいえ、メチャクチャなんかじゃないわ……私と貴女……そうね、”フレア”らしく例えるなら”カード”の様な存在かしら?』
「か、カード?」
『”表と裏”、”白と黒”、”光と闇”……”貴女と私”は一つの存在。一緒に存在してるけど、決して”二人にはなれない存在”なの』
「な、何? 何の話?」
黒いフレアの話について行けず、怒りもすっかり冷めて首を傾げるフレア。そんなフレアを気にせず、黒いフレアは決闘を進める。
『バトルフェイズを終了。カードを伏せ、ターン終了』
「待って! エンドフェイズ時に速攻魔法――――」
「『 《グリード・グラード》を発動! 』」
「また!?」
『フフ……お互いに2枚ドローね』
フレア 手札:1→3
??? 手札:1→3
グリード・グラードとは、自分が相手の場のシンクロモンスターを破壊したターンに発動する事ができ、発動すればデッキからカードを2枚ドロー出来るカードである。この時はフレアも黒いフレアもお互いのボルテック・バイコーンを戦闘破壊しているため、発動条件はクリアしている。
LP:4000
手札:3
モンスター
・綿毛トークン
・綿毛トークン
魔法・罠
・セット
「(幾らなんでもこんなのって……どうなってるの?)」
『……私からも言わせて貰うけど、そんなの”フレア”じゃないわよ?』
「え!?」
『”フレア”だったら、そんなウジウジ考えてないで、楽しく決闘すると思うわ。私が偽者だとか、そんな事考えてないで、もっと”フレア”らしくしてればいいと思うの』
「!? ……言われなくてもッ! 私のターン!」
フレア 手札:3→4
「《シンクロン・エクスプローラー》を召喚! 効果で墓地からチューナーモンスター《ドリル・シンクロン》を特殊召喚!」
召喚された時、墓地からシンクロンを特殊召喚することができるシンクロン・エクスプローラーと、その効果で呼び出されたドリル・シンクロンが並び立つ。
シンクロン・エクスプローラー ATK:0 レベル2
ドリル・シンクロン ATK:800 レベル3
「レベル1《綿毛トークン》と、レベル2《シンクロン・エクスプローラー》に、レベル3《ドリル・シンクロン》をチューニング!」
ドリル・シンクロンが自身を3つの光輪へと変え、フレアのモンスター達を囲み、3つの光、そして光の柱へと変り、場に突き立つ。
「荒野に生まれし螺旋の槍よ! 大地を砕き、天穹を貫け! シンクロ召喚! 破砕の戦士! 《ドリル・ウォリアー》!」
場に突き立った光の柱が消え、ドリルのモーター音と共にドリル・ウォリアーが姿を現す。
ATK:2400 レベル6
「(悔しいけど、あの娘の言う通り! 私の決闘をしなくちゃ! その為には――――) 魔法カード《トークン収穫祭》を発動! 場のトークンを全て破壊し、破壊したトークン1体につき、800ポイントLPを回復する! 私と貴女の綿毛トークン、合計3体を破壊し、2400ポイントLPを回復!」
お互いの場に存在する綿毛トークンが光の粒子へと変わると、フレアの元へと飛び、吸収される。
フレア LP:4000→6400
「(カードが同じなら、これでもう私と同じ戦術は出来ないはず! LPの差も出来たし、ここから私のペースに持ち込む!) バトル! ドリル・ウォリアーで直接攻撃! 【ドリル・ランサー】!」
『罠カード《ガード・ブロック》を発動』
ドリル・ウォリアーが右腕のドリルを回転させながら黒いフレアに突き出すが、突然現れた光の障壁によって阻まれてしまう。
??? 手札:3→4
『効果により1枚ドローし、ダメージは0……フフ、貴女も分かっていたんじゃない?』
「…………」
黒いフレアはフレアの場に伏せられているカードを見て小さな笑みを洩らす。フレアも相手の場に伏せられているカードの正体は予想できていたため、動揺した様子はない。それどころか、この後の展開も予想することができた。
「(ガード・ブロック……やっぱり、私とまったく同じ手札……)」
フレアの手札
黒蠍-強力のゴーグ
神秘の中華なべ
「(ダンディライオンのことから、デッキのカードもきっと同じ。なら、あの娘の手札はこう……)」
???の手札予想
黒蠍-強力のゴーグ
神秘の中華なべ
トークン収穫祭
シンクロン・エクスプローラー
「ドリル・ウォリアーの効果発動! 手札を1枚捨てて、ドリル・ウォリアーをゲームから除外!」
捨てたカード
黒蠍-強力のゴーグ
ドリル・ウォリアーは地面にドリルを突き立て、そのまま地中へと潜って行く。
「カードを伏せてターンエンド!」
LP:6400
手札:0
モンスター
・無し
魔法・罠
・セット
・セット
『そうね、私の今の手札なら、がら空きにしても問題無いわね。……引くカード次第だけど。私のターン』
??? 手札:4→5
『《シンクロン・エクスプローラー》を召喚。効果で墓地からチューナーモンスター《ドリル・シンクロン》を特殊召喚』
先程のフレアとまったく同じ様にシンクロン・エクスプローラーとドリル・シンクロンを並べる黒いフレア。しかし、ドリル・ウォリアーへと繋げられた綿毛トークンは存在しない。
シンクロン・エクスプローラー ATK:0 レベル2
ドリル・シンクロン ATK:800 レベル3
「それだけじゃドリル・ウォリアーは出せないよ!」
『解っているわ。だからこれを使うの。装備魔法《シンクロ・ヒーロー》を《シンクロン・エクスプローラー》に装備。レベルを1つ上げるわ』
シンクロン・エクスプローラー ATK:0→500 レベル2→3
「(私の手に無いカード……なら、あれが次のドローカードかしら?)」
『フフフ、レベル3《シンクロン・エクスプローラー》に、レベル3《ドリル・シンクロン》をチューニング……シンクロ召喚! 《ドリル・ウォリアー》!』
モンスターの数こそ違うが、先程と同じ光の柱となり、その中からドリル・ウォリアーが現れ、黒いフレアの場に立つ。
ATK:2400 レベル6
『バトル。ドリル・ウォリアーで直接攻撃』
「罠カード《ガード・ブロック》!」
黒いフレアのドリル・ウォリアーがドリルをフレアに向かって突き出し、フレアは光の障壁でそれを防ぐ。
フレア 手札:0→1
引いたカード
シンクロ・ヒーロー
「(やっぱり……)」
フレアは確信する。どうやっているのか分からないが、やはり手札の内容とデッキの並びが同じになっているということを。
『ドリル・ウォリアーの効果発動。手札を1枚捨て、自身をゲームから除外するわ』
捨てたカード
黒蠍-強力のゴーグ
『カードを伏せてターンエンド』
LP:4000
手札:1
モンスター
・無し
魔法・罠
・セット
「私のターン!」
フレア 手札:1→2
引いたカードを確認し、相手の場を見たフレアは笑みを浮かべる。
「(あの娘が伏せたカードは”トークン収穫祭”か”神秘の中華なべ”。今の状況じゃどちらも発動できないカード! 無傷のLPで凌ぐ作戦ね! なら――――) スタンバイフェイズ時に効果で除外した《ドリル・ウォリアー》を特殊召喚!」
フレアの場の地面を砕き、中からドリル・ウォリアーが飛び出す。
ATK:2400 レベル6
「ドリル・ウォリアーの効果で、帰還時に墓地からモンスター1体を手札に加えるわ! 《ターレット・ウォリアー》を手札に!」
フレア 手札:2→3
「ドリル・ウォリアーをリリース! 《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚!」
背後に現れた光の中にドリル・ウォリアーが消えると、その光の中からターレット・ウォリアーが姿を現す。
ATK:1200→3600 レベル5
「そして装備魔法《シンクロ・ヒーロー》を装備!」
ATK:3600→4100 レベル5→6
自身の効果と装備魔法により大幅に強化されたターレット・ウォリアーは、体からオーラを発しつつ、黒いフレアに対して両肩の銃口を向ける。
「攻撃力4100! これで私の勝ちよ! バトル――――」
『フフフ……ねえ』
勝った。乗り越えた。そう確信したフレアがバトルフェイズへ移ろうとした瞬間、黒いフレアが笑いを洩らしながら声を掛け、フレアの動きを止める。
『さっきから貴女が拘ってた”私と貴女の違い”って、何だか分かる?』
「? だから色とか内面とか……」
『そうね。でも、もっと重要で大きな違いがあるわ』
「な、何なの?」
もはや為す術の無いはずなのに、黒いフレアのこの余裕はなんなのだろうか。それが不気味であり、フレアは圧されつつも答えを問いかける。
『それはね……私は強くて、貴女は弱いってことよ』
「え?」
普段ならば、笑い飛ばしてしまえる冗談に聞こえただろう。こちらが宣言をすれば負けてしまうこの状況で、負け惜しみの様なこの台詞なのである。動揺に次ぐ動揺で余裕の無いフレアは笑い飛ばすことができず、笑みを浮かべてこちらを見ている黒いフレアを“何を言っているんだ”と言わんばかりの微妙な表情で見返す。
『本当のことよ。私はそれを”再確認”するためにこの決闘を申し込んだんだもの。で、もう分かったから、本当の目的を話すわね』
「本当の目的……?」
『ええ……貴女、私と代わってよ。貴女じゃもう無理なの。”私”は……”フレア・ヴィルアース”は』
「は?」
もう訳が解らない。何なのだこの少女はとフレアは思っているだろう。自分達は同じだの、違うだの、代わってだの、幾ら不思議現象に大らかなフレアでも限界だった。
「いい加減にしてよ! 訳の解らないことばかり言って! 本当に何なの!? 貴女は私の何なの!?」
『私は貴女の影。だけど、貴女以上に”フレア”を理解していて、貴女以上に強い、それが私』
「ん~~~! もういいよッ! バトルッ! ターレット・ウォリアーで直接攻撃!」
フレアの感情を表すかのように、ターレット・ウォリアーの銃口から弾丸の嵐が放たれ――――そして、それが全て光の障壁に阻まれ、ターレット・ウォリアーの元へと跳ね返ってくる。
『罠カード《聖なるバリア -ミラーフォース-》』
「!?」
ブラフだと確信していた伏せカードの正体は、戦況を覆す強力な罠。あまりの事に一瞬だけ気が遠くなるが、ターレット・ウォリアーに弾丸が命中する前に、フレアの決闘者としての本能が意識を覚醒させる。
「そ、速攻魔法《神秘の中華なべ》を発動! 《ターレット・ウォリアー》をリリースし、その攻撃力分だけLPを回復!」
ターレット・ウォリアーが光となってフレアに吸収されると、跳ね返された弾丸も同時に消滅する。
フレア LP:6400→10500
パワーアタッカーを失いつつも、何とか最悪の展開を回避したフレアであったが、その表情は愕然としたままであり、俯きながら混乱する頭を落ち着かせようとする。
「(どういうこと!? ミラーフォースなんて私の手札には無かった! 私と同じ手札だったんじゃないの!?)」
『難しいことは無いわ。貴女が弱くて、私の方が強いから、私が良いカードを引き当てた。それだけのことよ』
「まだ、私の方が弱いかなんて分からないじゃない! 決闘はここからよ! カードを伏せてターンエンド!」
LP:10500
手札:0
モンスター
・無し
魔法・罠
・セット
顔を上げて決闘盤を構え直すフレアに対し、黒いフレアはやれやれといった風に溜息をつく。
『決闘の強さだけじゃないわ。私は貴女よりも優れているの。決闘も、心もね』
「そんなのどうして分かるのよ! まだ決闘は終わってないのに!」
『じゃあ逆に聞くけど、何で貴女は分からないの?』
「分からないよ! 貴女と今まで会った事も無いし、まだ決闘も終わってない! それなのに何で分かるのよ!」
『じゃあ、何でエアトスは目覚めないの?』
「え……」
唐突に出て来たエアトスの名に驚き、勢いを止めるフレア。それを見た黒いフレアは微笑を浮かべ、話を続ける。
『エアトスは重症を負った私……”フレア”を助けるため、全ての力を使い果たし、眠りに就いた……”フレア”が弱かったばかりに』
「……そうだね」
フレアは否定せずに頷く。常に思っていたことであるし、そのために強くなろうと決意してこの試練に挑んだのだ。
『エアトスは死んだ訳ではないわ。エアトスは”思い”を糧にして存在している。信仰してくれる部族を失ってからは、”フレアの思い”、特に決闘する時に発せられる強い”思い”を糧としてきた』
「だから、私はエアトスが早く良くなるように、今日まで決闘を繰り返してきた……」
『それで、エアトスは目覚めた?』
「…………」
ゴースト氾濫事件後に目覚めてから、フレアは決闘者が溢れる場所へ出向き、何度も決闘を繰り返してきた。しかし、エアトスが目覚めることはなかった。
『何故目覚めないのか。それは貴女の”思い”が弱いからよ』
「そんなことない! 絶対にない!」
思いが弱いなどと、絶対に言わせたくなかった。自分の決闘とエアトスへの思いは、誰にも負けないと自負しているのである。
『確かに、”フレアの思い”は強いかもしれない。でも、もうそれだけじゃ足りないの』
「何ですって?」
『エアトスは、全てを出し切った。もう今までの”思い”では力の供給が間に合わなくなってしまう程に……』
「そんな!? ど、どうすればいいの?」
『簡単よ。貴女の中に眠る、更に強い”思い”をさらけ出せばいいのよ。決闘でも生み出せない程の……エアトスを復活させられる程の”思い”が、”フレア”の中に眠っているの』
「私の……――――」
『でもね』
フレアが胸に手を置いて言葉を続けようとした瞬間、黒いフレアの強い声が遮る。黒いフレアが纏っている妖しい気が一瞬強まった。
『貴女じゃその”思い”を引き出すことはできないの。何故なら、貴女自身がそれを心の奥底に封じ込めているから』
「私が……何で? そんな訳ない! エアトスを助けたいのに、そのための力を封じ込めるなんて!」
『解ってないわね……なら教えてあげる。それが何なのかをね。私のターン』
??? 手札:1→2
『スタンバイフェイズ時に効果で除外した《ドリル・ウォリアー》を特殊召喚』
地面からドリル・ウォリアーが飛び出すと、黒いフレアは墓地から1枚のカードを取り出す。
ATK:2400 レベル6
??? 手札:2→3
『効果で墓地から手札に加えるカードは……これよ』
黒いフレアがカードを提示すると、フレアは思わず瞠目し、口元を押さえる。
手札に加えたカード
ガーディアン・エアトス
「何で……エアトスが貴女の手に!?」
微笑を浮かべた黒いフレアの手にあるのは、紛れもなく星海の番人に渡したはずのエアトスのカードであった。
『墓地の《アマリリース》を除外し、召喚の為のリリースを1つ少なくするわ。《ドリル・ウォリアー》をリリース! 《ガーディアン・エアトス》をアドバンス召喚!』
ドリル・ウォリアーが光の中に消えると、その光の中からエアトスが姿を現す。
ATK:2500 レベル8
「エアトス……その姿は!?」
虚ろであった瞳ははっきりとしているが、その色は赤く淀んでしまっており、歪めた美しい顔をフレアに向けている。暫く無言でフレアを睨んでいたエアトスは突然叫び声を上げると、純白の翼を漆黒に染め上げた。
「エ、エアトス!?」
『エアトスは今、私の“思い”を受けて仮の復活を果たしたわ。……そう、これは“仮”に過ぎないの』
そう行った黒いフレアをフレアは怒りを込めて睨みつける。何故エアトスをこの様な姿に変えてしまったのか。そう訴え掛けてくるフレアの視線を意に介さず、黒いフレアは言葉を続ける。
『秘められた思いでは、秘められた存在にしかならない。エアトスを復活させるには、私が“表”になるしかないのよ』
「何ですって……! だから代われって言うの!? お断りよ! フレアは私! それに、エアトスをこんな姿にした貴女は許せない!」
『……こんな姿にさせる“思い”を創り上げたのは、他ならぬ“貴女”よ?』
「煩い! もう話なんてしたくない! 決闘を続けて!」
怒り心頭のフレア。それに対して微笑を浮かべた黒いフレアは自ターンをバトルフェイズへと移行させる。
『バトル。エアトスで直接攻撃! 【精霊のオペラ】!』
「罠カード《ドレインシールド》!」
エアトスが口から光の波動を放つが、フレアはそれをLPに変換し、吸収する。
フレア LP:10500→13000
『あら、益々LPに差が付いちゃったわね。カードを伏せてターンエンド』
LP:4000
手札:1
モンスター
・ガーディアン・エアトス
魔法・罠
・セット
「(エアトス、ごめんね。私の力が足りなかったせいで……)」
フレアは睨み付けてくるエアトスの眼を見返しながら、どうすれば彼女を助けられるかを考えた。
「私のターン!」
フレア 手札:0→1
「(エアトスをあのままの姿にしたくない! エアトスを取り戻さなきゃ!) 魔法カード《エアーズロック・サンライズ》を発動! 墓地の獣族モンスター《ボルテック・バイコーン》を特殊召喚!」
フレアの場にボルテック・バイコーンが現れると、東の空から光が差し、エアトスを照らす。照らされたエアトスは苦しみだし、腕や翼を使って光を遮ろうとする。
エアーズロック・サンライズは墓地の獣族を蘇生させるだけでなく、ターン終了時まで自分の墓地の獣族、鳥獣族、植物族モンスター1体につき、相手モンスターの攻撃力を200ポイント下げる効果を持つ。
ATK:2500 レベル7
フレアの墓地の獣、鳥獣、植物族モンスター
キーマウス
虚栄の大猿
マイン・モール
ダンディライオン
アマリリース
現在のフレアの墓地には獣族が3体、植物族が2体、よってエアトスの攻撃力は1000ポイントダウンする。
ATK:2500→1500
「(エアトスを一旦墓地へ送って、何時かくる《死者蘇生》で取り返す! だから、ごめんエアトス!) バトル!」
『攻撃するのね?』
フレアがバトルフェイズに入ろうとした瞬間、それを止めるかのように黒いフレアが声を発する。
「……ええ、そうしなきゃ、貴女からエアトスを取り戻せないから」
『そうでしょうね。でも、するなら覚悟した方がいいわ』
「覚悟?」
『ええ、覚悟。エアトスは、“私の思い”を取り入れて存在している。つまり、“思いの器”なの。それを壊すということは、貴女は溢れ出たその“思い”と向き合うことになるのよ』
「……脅しのつもり? それが何なのか、あるかも分からないものに私は怯えたりなんかしないよ! ボルテック・バイコーンで攻撃! 【ボルテック・ツインランス】!」
ボルテック・バイコーンが光を受けて怯んでいるエアトスに向かって突進すると、その長い二本角の片方で腹部を貫く。
「うう……!」
ソリッド・ビジョンの演出とは言え、エアトスが傷付くのを見たくないフレアは顔を背ける。この後黒いフレアのLPが削れ、ソリッド・ビジョンが砕け散る音が耳に届くはず。顔を背けながらそれが発せられるのを待つフレアだったが、何か様子がおかしい。
??? LP:4000→3000
LPカウンターの音は聞こえた。だが、破壊音だけは響かない。フレアが恐る恐る顔を向けると、そこには角で貫かれた腹から血を流したままのエアトスがいた。
「え……あ……」
何時ものソリッド・ビジョンならば、自身を上回る攻撃を受けたモンスターのビジョンは粒子となって飛散するはず。だが、目の前のエアトスは腹から生々しい血を大量に流し、瞳の光を失っていた。あまりにもショッキングな光景に、フレアは言葉を発せず、呆然としながらエアトスを見上げていた。
『やってしまったわね。……でもこれでようやく、逢えるわ』
ボルテック・バイコーンの角が引き抜かれると、エアトスの体は流れ出た血の上に落ち、血飛沫を上げる。
『私、貴女に一つ嘘をついてたの。実は、エアトスは復活なんてしてないわ。このエアトスはカードこそ本物だけど、あくまで“フレアの思い”をこの場に現出させる為の器の形に過ぎないの』
「……え?」
血溜まりに横たわるエアトスを見下ろしながら、黒いフレアは言葉を続ける。
『わざわざこんな演出にしたのは、貴女の心に隙を作る為。エアトスのこの惨状を見た瞬間、貴女の心は”零”になった。……これで、ようやく抜け出せたわ。後は、貴女を倒して私が”表”になるだけ』
黒いフレアが不敵な笑みを洩らすと同時に、フレアは涙を流し、叫ぶ。
「どうしてッ!? どうしてこんな酷いことをするのッ! 貴女は……何でなのッ!? 何で、何でこんなことをするのよッ!!!」
『それじゃ、教えてあげるわ。私の”正体”を……貴女が眼を背けてきた”心の闇”を!』
黒いフレアが最後の手札を掲げると、エアトスの下に広がる血溜まりが黒く染まり、まるで底なし沼の様にエアトスを飲み込んで行く。
「エアトスッ!?」
『《ガーディアン・エアトス》が破壊され墓地へ送られた場合、このカードを手札から特殊召喚することができる……現れなさい』
黒く染まり、エアトスを飲み込んだ血溜まりは、穴の様な円形に変わると、その中心から何かが這い出てくる。
「あ……あ……何……これ……」
這い出てきたそれは人型で、体付きから女性であることが分かるが、その姿はあまりにも異様であった。体中を包帯で多い、その上にはエアトスの物に似た民族衣装と穢れた鎧マントを身に付け、頭部にはくすんだ髪を無造作に伸ばし、白い仮面の様な顔を張り付かせている。そのおぞましい姿はエアトスと正反対と言ってもよく、エアトスを”女神”と呼ぶならば、このモンスターは”死神”と呼ぶに相応しかった。
『《ガーディアン・デスサイス》!』
ATK:2500 レベル8
その姿を見たフレアは、凄まじい恐怖と不快感に襲われた。初めて見たはずなのに、昔からそれを恐れ、知っていたかの様に心が警報を鳴らす。
『フフ、貴女の心が手に取るように解るわ。恐いでしょ? 逃げたいでしょ? 当然ね、今までもそうしてきたんだから。……これが私。貴女が封じ込めてきた貴女自身の”思い”よ』
「嘘……嘘よッ! これが……こんなものが私の中にあるなんて!」
『まだ認めないつもりなのね。……それじゃ、一緒に”確認”していきましょう』
そう言った瞬間、黒いフレアは一瞬でフレアの目の前に移動し、フレアの体を自分ごと引き倒す。
「え、きゃ!? な、何!?」
二人の体が地面に着く瞬間、黒い穴が二人の下に現れ、二人を闇の中へと落とした。
「きゃあああ!? ……あ? あれ?」
落ちると認識し、悲鳴を上げたフレアであったが、気付けば脚は地に着き、直立した状態となっていた。しかし、そこは祭壇の上ではなく、辺り一面は真っ暗な空間であり、何故か自分の体だけがはっきり見えている。
「な、何なのここ?」
『ここは、”フレアの部屋”。私達の心の中よ』
突然、後ろから声が聞こえてくる。フレアが振り返ると、そこには黒いフレアが立っており、自分と同じ様にこの暗闇の中でも姿がはっきりとしている。
「心の中……」
『そう……ここで、”フレア・ヴィルアース”という娘を再確認しましょう』
そう言うと、黒いフレアは人差し指を立てる。
『ねえ、フレアって、どんな娘?』
「え……どんなって言われても……」
『フフフ、まあ、答え難いわよね。じゃ、私が答えてあげる』
黒いフレアは体を横にくるりと一回転させると、今までの妖しい雰囲気から一変し、フレアと同じ様な明るい雰囲気を醸し出す。
「え!?」
『私の名前はフレア・ヴィルアース! サティスファクションタウン出身の決闘者よ! 好きなものは勿論決闘!』
突然始まった自身の自己紹介に呆然とするフレア。黒いフレアはそれを気にせず、話し続ける。
『夢は誰よりも強くて、素敵でカッコイイ決闘者になること! その為に、毎日頑張っているわ!』
「まあ、そうね。で、でも……突然何なの?」
意図が解らず、困惑するフレア。だが、黒いフレアの口は止まらない。
『決闘の才能は抜群! 何時でも正々堂々、悪は絶対に許さない! 何時も明るく優しくて、可愛くて、皆から愛される太陽の様な女の子!』
「ちょ、ちょっと!? 何言ってるの!?」
すまし顔で、背中が痒くなる様なことを堂々と言ってのける黒いフレア。先程まで怒り、泣いていたフレアの顔が真っ赤に染まる。
『フフ! これが周りから見た貴女よね? 本当に理想的な娘だわ!』
「そ、そんなこと……それより! それがどうしたって言うのよ!」
『慌てないの。ここからが重要よ』
黒いフレアは人差し指を唇の前で立て、顔を赤くしているフレアを黙らせた後、話を再開させる。
『そんな私の尊敬する人は……勿論フリントよ!』
「フリント……」
その名にフレアが反応した瞬間、黒いフレアは僅かに笑みを浮かべた。
『フリントは人としても、決闘者としても凄くて、私の先生であり、家族であり、ライバルでもあるの! 私の最大の目標だわ!』
この言葉に、フレアは素直に頷く。本心からそう思っているからだ。
『でも……私、悔しい! だって……だってフリントは何時も先に行っちゃうんだもん!』
「!」
『決闘は何時も勝てないし、私より知ってることがとても多いの。決闘のことでも、私のことでも……私は、彼のことを殆ど知らないのに!』
フレアは、考える様に俯く。確かに、その通りだ。フリントは強い。決闘に関する知識だって豊富で、接していると自分のことをよく理解してくれていると感じることが多々ある。それによってフリントは決闘者として、大人として、フレアを導いてきたのである。だが、自分はどうであろう。もう4年以上の付き合いになるがフリントのことをどれ程理解出来ているのだろうか。
「(私は……フリントのことを全然知らない。彼が何処で産まれて、何処で育ったのかも知らない。何を考えてるのかも、全然解んない……)」
フリントは時々、フレアが知らないことを考え、知らない内に行動していることがある。ゴースト氾濫事件後は特に多くなった。その事に不安を覚えて問い詰めても、ある時は関係ないだの、ある時は危険だのと、果てには説明も無く誤魔化されてしまう。今回の件の始まりだってそうだった。黒いフレアの言う通り、フレアはフリントのそういう一面を見る度、彼との距離を感じてしまうのだ。家族なのに、ライバルなのに、どうして頼ってくれないのか――――
「(私は、それで悩んでたと思う。どうして私に教えてくれないのかなって……私が未熟だから、子供だから、だからフリントは私に頼ってくれないし、打ち明けてもくれないのかな?)」
そんな悔しくて寂しい思いがふと洩れてしまい、出発前や試練前に不機嫌な態度として表に出てしまったのだ。そこまで考えたフレアは、その考えと、黒いフレアの話を頭の中で整理し、結論を出す。
「解ったと思う、貴女が言いたいこと」
『あら、もう解ったの?』
黒いフレアは先程とは逆方向にクルリと回転すると、元の妖しい雰囲気に戻る。
「貴女が言う”裏”とか、”封じた思い”とか言うのは、私の”フリントへの不安”のこと何でしょ?」
『…………』
フレアが問いかけても、黒いフレアは微笑を浮かべたまま答えない。そんな様子を気にせず、フレアは続ける。
「確かに、私はそれで悩んでいたこともあったわ。でも、もう大丈夫! フリントは私を置いてったりしない! 見捨てもしない! そう信じてるから!」
フリントとジャンク置き場で交した約束。”俺はここにいる”――――その言葉を思い出せば、どんな不安もフレアの胸から掻き消えた。
「少し位、離れたって大丈夫! 私が、しっかりと追いかけていれば! 見失わなければ! それでいいのよ!」
ここでようやく、フレアの顔に何時もの笑みが戻った。ここまで黙ってフレアの言葉を聞いていた黒いフレアは、堪え切れないと言った風に噴出す。
『フフフ……アッハッハッハッハ!』
「あら? 可笑しいことなんてあった?」
自分の心に確信を持ったフレアは余裕そうな態度で、笑っている黒いフレアを見返す。黒いフレアは暫くしてから笑いを収めると、更に余裕そうな顔をフレアに向ける。
『ええ、可笑しいわ。余りにも予想通りなんですもの』
「ふーん。じゃ、もうお話は終わりにして、決闘に戻りましょう?」
『そうはいかないわ。まだ全然終わってないもの』
「まだ何かあるの?」
『ええそうよ。貴女はもう終わったって思ってるけど、見当違いにも程があるわ。ここからが本題』
「本題って……もう結論まで出たよ。もう思い当たることなんて無いもん」
『それはそうよ。だって、貴女が言った“裏”も、貴女が出した結論も、そこまで全部が“表”、“心の光“なんですもの』
「え?」
『そんな浅いものであるはずがないじゃない。“心の闇”は、貴女のもっと深いところに存在しているのよ?』
そんなはずはないと否定したい。だが、言い出せない。フレアは今、黒いフレアの言葉を聞いて、体の底から恐怖が湧き出してくるのを感じている。まるで、彼女の言う“心の闇”が呼応しているかの様であった。
『あらあら、そんなに怖がっちゃって。言うけど、“心の闇”って悪いものじゃないのよ? 貴女の“思い”の一つというだけ。“光と闇”は“表と裏”の様なもの。表と裏、どちらが悪いなんて決まってないでしょう?』
「……一体、何なの……私の……“心の闇”って……」
今、フレアの中にあるのは、得体の知れない“恐怖心”と“好奇心”。知らないはずなのに、それが何なのか知っているかのように怯える自分。そして、怖いにも関わらず、それを知りたい、はっきりさせたいおかしな自分。混乱し切っている頭を落ち着かせたい、その一心で言葉を搾り出すと、黒いフレアは再びクルリと一回転し、雰囲気を変える。
『私はフレア・ヴィルアース! ここまで話して、私の“光の部分”は理解してくれたよね?』
黒いフレアの問いに、フレアは答えを求める様に余裕無く頷く。
『じゃ、ここからが“闇の部分”! ……ずっと、隠し続けてきた。誰にも言えなかった。私自身にさえ……悩むことすら出来ない様に、心の底に閉じ込めた、私の“思い”……』
黒いフレアは切なげな表情になると、フレアを真っ直ぐに見つめる。
『私、フレア・ヴィルアースは――――』
フリントのことを、愛している――――
次話は今日か明日に投稿します。