遊戯王5D's ~荒野のデュエリスト~   作:鬼柳高原

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第59話 フレア・ヴィルアース

「…………」

『……決闘者としてでも、師弟としてでも、家族としてでも、ライバルとしてでもない……一人の“女”として、私は彼を愛している……』

「…………」

 

 静まり返った心の部屋。その場に脱力した様にフレアは膝を着き、座り込んで俯いてしまう。

 

『……尊敬がそれに変わったのは、何時頃からだろう? 出会った頃から既に? それともつい最近? ……解るのは、時間が経てば経つ程、私は彼に惹かれていったということ……』

「……うん……」

 

今にも消えそうな声で、フレアはポツリと呟く。

 

『とっても強いけど、無愛想で、何考えているのか解らない“謎だらけの旅人”。でも、本当は誰よりも熱い心を持っていて、決闘を、絆を、夢を……私が大切にしているものを同じように……いえ、それ以上に大切にしている……私は、そんな彼に惹かれた』

「…………」

『フリントの様になりたかった。……憧れたから、って言うのもあったけど、そうすれば、もっと“彼の近く”に行けると思ったから……』

 

 だが、そう上手くはいかない。決闘の実力差は中々埋まらないし、彼の様に格好良く振舞おうとしても、周囲からは子供を見る様に笑われるだけであった。近づけている気がしない。フレアはフリントを必死に追うが、見えるのはその背中ばかりである。

 

「…………」

『そうやって追いかけてる内に、私は苛立ちと寂しさを覚えたわ。だって、フリントは常に私を見ていてくれる訳じゃないもの。私は彼に近づこうと一生懸命なのに、彼は時々、私からは見えない“何処か”を見ていて、その見えない“何処か”に立っている。……それが寂しかった』

「…………」

『でもしょうがないよね。フリントには、何か大事な“目的”がある。だから、ずっと私を見ている訳にはいかない。だから、それでもいいと思った。例え追いつけなくても、“現在(いま)”の様に、その背中を見ていられれば……』

「……うん」

『それに、彼はまったく私に無関心な訳じゃない。声を掛ければ振り向いてくれるし、私のことを大切に思ってくれていると思う。私にとって、フリントは家族で、先生で、ライバル……もう十分、”特別な人”じゃない。それでよかった。それで、満足……』

「…………うん」

 

 フレアの小さい声が、更に小さく、寂しげな黒いフレアの表情が急に険しくなる。長い沈黙の後、黒いフレアが眼に涙を溜め、叫んだ。

 

『でも、もう嫌なの! それじゃ満足出来ないよ! もうこの“距離”は嫌! もっと近づきたい……彼に愛して欲しいの! 彼とずっと一緒にいたいの!』

「止めて……」

『彼にずっと見ていてほしい! 私だけを見ていてほしい! 何処にも行かないで……置いて行かないで……ずっと私の傍にいてぇ! フリントォ!!!』

「もう止めてッ!!!」

 

 心の部屋に響き渡るフレアの叫び。黒いフレアが口を閉じ、フレアに微笑を向ける。静まり返った部屋で聞こえているのはフレアの嗚咽の声だけであった。

 

『……我ながら、凄い“欲望”よね? 独占欲ってやつかしら? “心の闇”が出来る切欠って大体が欲望からだけど、これ程大きな“思い”なら、私の力にも納得出来るわよね?』

 

 黒いフレアが呑気な言葉を投げかけるが、フレアはもうそれどころではない。封じ込めていた自分の思いと直面させられたせいで、心が羞恥と恐怖で押し潰されようとしていた。その姿には、明るく前向きなフレアとしての面影は無く、子供の様に蹲り、むせび泣いてしまっている。

 

『それにしても、よくこんな大きな“欲望”を封じられたものね。こればかりは私にも分からないわ。出来るものなのかしら? “決闘巫女”としての能力に関係あったりするのかしら……不思議だわ』

 

 何故、フレアがこれ程の強烈な”思い”を表に出さず、今まで自身にすら隠し通せたのか、黒いフレアにも解らない。もしかすれば、彼女の推測通り、”夢見”という特殊な力を持つフレアの心だからこそ出来た事なのかもしれない。

 

『さて……これで貴女、いえ、“フレア”がどれだけフリントが好きか思い出してくれたわね? 後はこの思いをフリントにぶつけるだけなんだけど……貴女はそれをしなかった。何故?』

「………っ……そんなの……出来ないよぉ」

 

 嗚咽交じりの、何とか聞き取れる声で答えるフレア。とてもまともな会話が出来る様には見えないが、黒いフレアはそんなことは関係ないと言わんばかりに詰め寄る。

 

『そうよねぇ? そうしてしまったら、光り輝く“今”が台無しですものねぇ! そう、それが貴女の……“光のフレア”の弱さ!』

 

 自分は、フリントのことが好きだ。この思いに嘘は無い。今すぐにでも、この思いを愛しい人に伝えたい。しかし、そう思った瞬間、“黒い何か”がフレアの心に押し寄せた。

もし、この思いを伝えてしまったら、“今”はどうなるのか。世界を救う戦い、故郷を救う戦い、度重なる試練を乗り越えて、夢の一つであったWRGPへの出場――――今は決闘者として、もっとも大事な時期ではないのか。それは自分だけでなく、フリントや他の仲間達にとっても同じではないのか。

 

『色んなものを積み上げて、やっと築くことが出来た“今”……そこへ自分の“思い”をぶつけたら、どうなっちゃうのかしらね? フリントも鬼柳も、他の皆だって、きっと“今“は真剣に夢へと向かっているのに、自分が恋に現を抜かしているなんて、皆はどう思うかしらね』

「…………」

 

 サティスファクション、5D's、どちらも最高の仲間達。本当に出逢えてよかった。何時までもこの友情が続きますように――――そう願うフレアの心が、フリントへの思いを抑え付ける。このまま受け入れてしまったら、築き上げてきた大事な“何か”が変わってしまうのではないか――――

 

『そうよねぇ、ちやほやしてくれる皆に嫌われたくないものねぇ? そうしたらフリントだけに……待って。そもそもフリントはどう思うのかしら?』

「!?」

 

 フレアの体がビクリと震える。

 

『この大事な時に、突然思いを伝えられたら、きっと戸惑うはずだわ。何故こんな時に、って……もしかしたら、フリントにも嫌われちゃうかも?』

「…………」

『いえ、もしかしたら……それ以前の問題?』

「!? や、止めて! もう止めてぇ!!!」

『色々思ってくれてるとか、感じてるとか言ったけど、結局は“フレア”の想像に過ぎないのよね。“フレア”は特別な関係だと思ってるけど、フリントがそう思っているとは限らないわよね? ひょっとしたら、未だにフリントの中では“子供のまま”だったり? ……もしかして、この“思い”って、“一方通行”なのかもね――――』

 

 

 

フリントが本当に見てるのは、“私”じゃないのかも

 

 

 

「……イヤぁぁぁーーーー!!!」

 

 限界だった。不安や羞恥により押し寄せてくる恐怖に堪え切れず、叫んだ。それほどまでに、フレアのフリントへの“思い”は大きかったのである。

 

『貴女って、本当にズルイ子。本当は欲深くて、自分が愛されてる特別な存在だと思ってるほど傲慢で、その癖どうしようもないほど臆病だから、それを自分にまで隠して、キレイな自分を作り上げて、妥協する……そんなだから、私とこんな“醜い怪物”を生み出してしまったのよ!』

 

 黒いフレアがそう言った瞬間、心の部屋が消え去り、元の祭壇の上に戻る。そこには、フレアのボルテック・バイコーンと、先程召喚された死神が睨み合っていた。死神の手には、何時の間にか大鎌が握られている。

 

『これで解ったでしょ? 貴女じゃ“フレア”はもう無理なの。これからは私がありのままの、完璧な“フレア”を演じてあげる。決闘でも負けない。フリントも必ず手に入れる。臆病な貴女には出来なくても、私には出来るわ。……だから、貴女はもう要らない』

 

 そう言うと、黒いフレアはフレアの決闘盤に手を伸ばし、勝手にターンを終了させてしまう。フレアは涙を流し俯いたまま、一切抵抗しなかった。

 

LP:13000

手札:0

モンスター

・ボルテック・バイコーン

魔法・罠

・セット

 

『私のターン』

 

 ??? 手札:0→1

 

『デスサイスは特殊召喚に成功した時、デッキから《死神の大鎌-デスサイス》を装備させることが出来るわ。死神の大鎌は、装備モンスターの攻撃力をお互いの墓地のモンスターの数×500アップさせる……よって、デスサイスの攻撃力は――――』 

 

フレアの墓地のモンスター

キーマウス

虚栄の大猿

マイン・モール

ダンディライオン

シンクロン・エクスプローラー

ドリル・シンクロン

ドリル・ウォリアー

黒蠍-強力のゴーグ

ターレット・ウォリアー

アマリリース

 

???の墓地のモンスター

キーマウス

虚栄の大猿

マイン・モール

ダンディライオン

シンクロン・エクスプローラー

ドリル・シンクロン

ドリル・ウォリアー

黒蠍-強力のゴーグ

ターレット・ウォリアー

ボルテック・バイコーン

ガーディアン・エアトス

 

合計:21体

 

ATK:2500→13000

 

『フフフ……凄いパワー、これが“フレアの思い”の大きさ……受けなさい、【フォビドゥン・レクイエム】!』

 

 死神が大鎌を一閃させると、ボルテック・バイコーンの首が飛び、壇下へと落下し、消滅する。

 

「…………」

 

 フレア LP:13000→2500

 ガーディアン・デスサイス ATK:13000→13500

 

 ボルテック・バイコーンが倒されても、LPが一気に削られても、一切反応を示さないフレア。そんなフレアの右手を取り、黒いフレアは優しく語り掛ける。

 

『解ってくれるわよね? 誰が本当の“フレア”であるべきかを。さあ、デッキに手を置いて? そうすれば、貴女が望むものを、全て手に入れてあげるわ……』

「…………」

 

 黒いフレアがデッキの上へフレアの手を乗せようとする。フレアは抵抗せず、されるがままにデッキへと手を置いた――――その瞬間、黒いフレアの手を別の手が掴み、繋がっているフレアの手をデッキから引き離す。

 

『!?』

『サレンダーとは、そういうものではないでしょう? まだ勝負は着いていません。戻りなさい』

 

黒いフレアは掴まれている手を振り払うと、自分の立ち位置へと飛び退き、フレアの傍に立つ青いローブを纏った男を訝しげに見据える。

 

『……ウェポンサモナー、今更出て来て、何の用かしら? 主従の契約を結んだ精霊の癖に、主人に逆らうつもり?』

『私のマスターは“フレア・ヴィルアース”です。貴女ではない』

『残念だけど、もう“フレア”は私よ? その娘は心の底の、深い闇に沈んで消えていく存在。“フレア”ではないわ。その娘だって認めたことよ?』

 

 勝ち誇った笑みを浮かべる黒いフレアを他所に、ウェポンサモナーは蹲っているフレアの前に膝を着いて見下ろす。暫くの間、顔を上げるのを待っているのか、ウェポンサモナーはそのままの体制でフレアを見つめ続けた。

 

『無駄よ、もうその娘は負けを認めたの。貴方も大人しく消えなさい』

『少し、黙っていてください。……マスター、まだ決闘は終わっていないでしょう?立ってください。そして、決闘盤を構えるのです』

 

 ウェポンサモナーがそう語り掛けるが、フレアは表情が見えない程度に顔を上げ、ゆるゆると首を振る。

 

「…………駄目……」

『何が駄目なのです? 貴女らしくもない』

「……全部、あの娘が言った通り……だから……」

『貴女の秘められた“思い”のことですか? それが何だと言うのです?』

 

 その問いに、フレアは答えたくないという風に顔を下げるが、やがてそのままの状態で口を開く。

 

「……怖かった。“思い”を曝け出すことが、怖かった。恥ずかしくて、自信が無くて……怖かった、“本当のこと”を知ることが……怖かった、それによって大事な“今まで”が変わっちゃうことが……怖かった。でも――――」

 

 フレアが涙で濡れた顔を上げた。

 

「一番怖かったのは、そんな怖さも忘れてフリントを求めようとした“私”自身だった!」

『そう、それが“フレア”にとって正しい“思い”だったはずなのに、貴女はそれを抑え付けた。恐怖から逃げるため、本当は物足りない“今”で妥協して、それを忘れ去ったのよ……冗談じゃないわ』

 

 表情を険しくし、吐き捨てるように言う黒いフレア。フレアはそれに怯える様に身を竦めた。

 

『……やはり、忘れ去られたその“思い”、それが貴女なのですか』

『今は違うわ。私こそが本当の“フレア”。あの娘が“闇”に消えて、私が“光”になるのよ』

『……マスター、立ってください。やはり、貴女は立たねばならない』

「……や……私には……無理だよぉ……」

 

 ウェポンサモナーが差し出した手を見て、フレアは怯えた様に首を振る。

 

「私……もう進めない……心が動かないの……」

『そんなことがあるはずないでしょう? 何時だって貴女は困難を跳ね除け、動いてきた。今までの戦いは何だったのです? これ位の恐怖、貴女ならば乗り越えられるはず』

「いや……怖いの……私が……」

『あの黒い貴女がですか? 恐ろしき死神を従える、あの“影”が……』

「ち、違う……私……が……」

『……言ってみなさい。我がマスターの何が恐ろしいのです?』

 

 先程まで落ち着いていたウェポンサモナーは声に怒気を僅かに含ませて問いかける。

 

「あの娘の言う通り、私、嫌な女……何が何でも自分の思い通りにしたいと思ってて、でも、臆病だからそれを貫き通せるような勇気を持って無くて、人に良い眼で見られたくて……最後は逃げた……“私”に傷が付くのが嫌だったから……妥協して、逃げたのよ。そうすれば、傷付かないから……」

『…………』

「こんな私、嫌……こんなんじゃフリントに……皆にだって逢えない……見せられないよ……」

『……だから、あの“影”に存在を譲ると?』

「……うん」

 

 そう答えた瞬間、ウェポンサモナーの手がフレアの頬を打つ。

 

「っ……!?」

『マスター……いや、“フレア・ヴィルアース”! 見損なうんじゃない!』

「え……あ……」

 

 突然のことに眼を白黒させるフレア。遠くで見ていた黒いフレアも、眼を瞠目させている。これ程までに激しさを顕にしたウェポンサモナーは見た事がなかった。

 

『“思い”が叶わぬかもしれない、本当の自分を知った皆に幻滅されるかもしれない、だから貴女は消えると……ふざけるな!』

 

 ウェポンサモナーはフレアの腕を掴み上げると、無理やり立たせて正面を向かせる。そこには怯えきったフレアの表情があった。

 

「ひっ……」

『何故、フリントは今まで貴女の元にいた!? 何故、仲間達は変わらぬ友情を持ち続けている!? 何故、ガーディアン・エアトスは己の命を削ってまで貴女を助けた!?』

「あ……あう……」

『何故……何故“私達”が貴女に着いて来たのか……簡単な事……明白な事……貴女の欠点など、どうでもいい事なのです……彼らは……彼女らは……私達は――――』

 

 

 

 

 

全てをひっくるめた、貴女が大好きだからです!!!

 

 

 

 

 

 ウェポンサモナーが叫んだ瞬間、フレアの決闘盤から7枚のカードが飛び出す。1枚はウェポンサモナーの頭上に、残りの6枚はウェポンサモナーを中心として並び、光を放つ。

 

「きゃ!? ……あ……!?」

 

 眼が眩んだフレアが再び眼を開けると、そこには魂だけとなった守護者の精霊達が並んでいた。ケースト、シール、トライス、エルマ、グラール、バオウ、あの試練の時のままの姿で、全員がフレアを見つめている。

 

「皆……どうして……」

『それはこちらの台詞だ馬鹿者!』

「!?」

『フフ、らしくないぞって、シールは言いたいのよ。驚かせちゃってごめんなさいね、フレア』

 

 驚いて皆を見渡しているフレアに対し、シールが一喝する。一喝によって更に驚いたフレアに、ケーストが笑いながらフォローを入れ、優しくフレアの手を握る。

 

『そして、試練の後から何もして上げられなくて、ごめんなさい。貴女がこんなに悩んでいたというのに……』

『でも、お姉さん安心しちゃったな! 最初見た時は、この年齢でこんなに子供っぽくて大丈夫かなって思ったけど、しっかりオトナな悩み持ってんじゃん!』

『だが、根本にはまだまだ子供らしさが残ってしまっている。安定しないな』

『それが……“フレア”だということ……俺は……そう思う』

 

シール、ケーストに続き、エルマ、トライス、グラールが次々と発言していく。最後に、バオウが笑い声を上げた。

 

『ハッハッハ! 嫌な奴だろうが何だろうが、恥ずかしがることなんてねぇよ! それが“生きる”ってことさ! 生きる為なら、自分の欲望を満たす為なら、俺は誰だって貶めるぜ? アイツ、今頃何やってんだろうな――――』

『バオウ殿! 貴方の話は後にして貰う! 行くぞ!』

 

 バオウの言葉を遮る声が響くと、フレアの決闘盤から5つの光が飛び出し、ポーズを決めた5人組みへと変わる。

 

 

『『『『『 我ら、黒蠍盗掘団!!! 』』』』』

 

 

『ふふふ、どうだ! やろうと思えば出来ぬ事は無い! ……お嬢サンダー!』

「ザルーグ……」

『お嬢サンダー! 自分ばかりが悪いと思っている様だが、皆同じなのだ! 今でこそお嬢サンダーに仕える精霊だが、我々とて元はケチな盗掘団! 最初はそのせいでお嬢サンダーに拒まれはしないかとビクビクしていたぞ! ……そう! ビクビクする必要などないのだ! 何があろうとも、最後には笑い飛ばして、暖かく迎えてくれる――――』

 

 

『『『『『 それが、“仲間”というもの!!! 』』』』』

 

 

「黒蠍盗掘団……」

『……マスター、これは我々だけの“思い”ではありません。チーム5D's、鬼柳、エアトス……そして、フリントだって同じなのです。貴女にどんな隠された内面があろうとも、我々は貴女を“知って”いるのだから』

 

 ウェポンマスターがそう言ってフレアの前に一歩出ると、他の者も同じように続く。

 

『誇り高き決闘者、フレア・ヴィルアース……』

 

 シール。

 

『可愛い人、フレア・ヴィルアース……』

 

 ケースト。

 

『明るい娘! フレア・ヴィルアース!』

 

 エルマ。

 

『子供と大人が混在する者、フレア・ヴィルアース』

 

 トライス。

 

『欲深き女! フレア・ヴィルアース!』

 

 バオウ。

 

『臆病な少女……フレア・ヴィルアース……』

 

 グラール。

 

『『『『『 悩み多きお年頃! それが、フレア・ヴィルアース!!! 』』』』』

 

 黒蠍盗掘団。全員が進み出た後、ウェポンサモナーが更に進み出て、フレアの手を取る。先程とは違い、とても優しい手付きであった。

 

『“光”であろうと、“闇”であろうと、我々はフレア、そんな“貴女”が好きなのです。だから、我々は貴女を受け入れる』

「ウェポンサモナー……皆」

 

 もう流し切ったと思っていた涙が、再びフレアの頬に流れる。恐怖から流れる冷たい涙ではない。暖かい涙。

 

『そして、進むことを決して恐れないでください。……思い出してください。以前貴女がエアトスに話した、貴女の想い人の言葉です』

 

 

 

遊星! 進む事を恐れるな! ……心配するな。 お前が立てないのなら、フレアやラリーが手を貸してくれる。 お前が足を動かせないのなら、ナーヴとタカとブリッツが背中を押してくれる。 そして道に迷うのなら……ジャックやクロウ、そして俺が前に立って導いてやる! だから遊星……お前は己の為、友の為―――未来へ進むのだ!

 

 

 

「フリント……」

『マスター……我々を“仲間”と認めて頂けるのなら、立ち上がってくれますね?』

『無駄よ。今更その娘を立ち直らせたって、もう力関係は逆転してるの』

 

 ここまで大人しくしていた黒いフレアは冷笑を浮かべると、横に控える死神を指差す。凄まじい強化を受けている死神の威圧感は凄まじく、それを感じたフレアは怯んで俯いてしまう。

 

「……私、勝てるの? 私の、本当の“思い”に……」

『勝てます。その為には、貴女はまた一つ強くならなければならない』

「……どうやったら、強くなれる?」

『受け入れること。私達が、貴女にしたように』

「受け入れる……?」

『貴女の良いところも悪いところも、否定してはいけない。拒絶してはいけない。全ては愛すべき“貴女”自身なのです。そして、“彼女”も……“貴女”であることに変わりは無い』

 

 そう言われ、フレアは黒いフレアを見つめる。ずっと拒絶して、否定してきた存在――――

 

「あの娘は、私……」

『……さて、私が出来ることも少なくなってきました。恐らく、これが最後の手助けとなるでしょう』

「ウェポンサモナー?」

 

 ウェポンサモナーはガーディアン6人を見渡す。全員と眼が合うと、一斉に頷いた。

 

『貴女に仕えてから、ずっと思っていました。神殿での役目を終え、忘れ去られるだけの存在であった私がここまで存在していたのは、貴女に出逢い、仕え続ける為だと。……しかし、それは違いました』

「え?」

『私が存在し続けたのは、全てこの時の為! 我が主が進む道を、“希望の光”で照らす為! 皆、行くぞ!』

 

 ウェポンサモナーが叫ぶと、彼を中心にガーディアン達が陣形を組む。

 

「ウェポンサモナー!? 皆!? 何をする気!?」

『……マスター、我々は消える訳ではありません。何時までも、貴女と共にあります。……“剣の女神”と共に!』

「え……!?」

『剣の女神よ! 深き眠りから、貴女を導く! ガーディアン達よ!』

 

 ウェポンサモナーの言葉に応える様に、ガーディアン達は各々の武器を掲げ、叫ぶ。

 

『“気高き者”!』

 

 シール。

 

『“美しき者”!』

 

 ケースト。

 

『“大空の守護者”!』

 

 エルマ。

 

『“大地の守護者”!』

 

 トライス。

 

『“人々の守護者”!』

 

 グラール。

 

『我らが愛しき、決闘者の守護者! そして――――』

 

 バオウ。そして、6人が叫ぶ――――

 

 

 

『『『 我らが友! ガーディアン・エアトスよ! 』』』

『『『 我ら、汝の為の、新たなる剣とならん!!! 』』』

 

 

 

 その瞬間、6人の姿が消え、6枚のカードが合わさり、1枚のカードとなってフレアの元へと飛ぶ。フレアは落とさない様にそれを受け止めた。

 

 

 

女神の聖剣-エアトス

 

 

 

「これ……!?」

『マスター、その剣を掲げてください!』

 

 ウェポンサモナーの言う通りにフレアはカードを掲げると、ウェポンサモナーが呪文を唱え始める。

 

『な、何!?』

 

 すると、突然黒いフレアの墓地が光り始め、そこから1枚のカードが飛び出し、ウェポンサモナーの手に収まる。

 

『我が魂を生贄に、蘇れ! 《ガーディアン・エアトス》!』

「ウェポンサモナー!?」

 

 壇上を、眩い光が包み込む。二人のフレアが目を覆っていると、光の中から羽ばたく音が聞こえてくる。

 

「(ああ、これって……)」

 

 フレアが目を開けると、そこには舞い散る白い羽が映り、見上げると、何時もの、美しい女神が空から舞い降りてきていた。女神――――“ガーディアン・エアトス”は、微笑みながらフレアの前に降り立つ。

 

「……エアトスッ!!!」

 

 エアトスの胸に飛び込み、抱きつくフレア。初めてそうした時よりも暖かく、力強い抱擁であった。

 

「ああ、感じる……いるのね? エアトスの中に“皆”が!」

 

 エアトスは頷くと、フレアを体から離し、語り掛ける様にフレアの手を握る。言葉は発していないが、フレアはエアトスの声を感じている様であった。

 

「……もう、怖くないよ! 私、戦える! 皆がいるから!」

 

 フレアはエアトスを見つめてから、黒蠍盗掘団を見る。盗掘団は喜びの雄叫びを上げてから、ザルーグが親指を立て、姿を消す。

 

「エアトス……待ってて!」

 

 フレアがそう言いながら、剣のカードをデッキに加えてシャッフルすると、エアトスも姿を消す。その様子を遠くで見ていた黒いフレアは、狼狽しながら瞠目していた。

 

『どうして……!? 何故エアトスが……!?』

「待たせたね! さ、決闘を続けましょう!」

『本気? 手札も無い癖に、このデスサイスを……この“私”を倒そうって言うの?』

「ううん、倒そうだなんて思わない。私は……全てを受け入れる! もう怖がったりしない! 忘れたりなんかしない! 私は……私はちゃんと向き合って、私を超えてみせる!」

『……今更何よ。出来るものならやってみなさい! ターンエンド!』

 

LP:3000

手札:1

モンスター

・ガーディアン・デスサイス

魔法・罠

・セット

・死神の大鎌-デスサイス

 

「私のターン!」

 

 フレア 手札:0→1

 

「罠カード《貪欲な瓶》を発動! 墓地のモンスター5体をデッキに戻してシャッフル! そして1枚ドロー!」

 

デッキに戻したカード

ボルテック・バイコーン

ドリル・ウォリアー

マイン・モール

ダンディライオン

ドリル・シンクロン

 

フレア 手札:1→2

 

 フレアがドローした瞬間、死神は苦しげな声を上げる。

 

ガーディアン・デスサイス ATK:13500→11000

 

『成る程、エアトスの効果を生かす為に入れていたカードね。確かに墓地のモンスターを減らせばデスサイスの力は落ちるけど……それがどうしたの? それでも力の差は歴然じゃない?』

「忘れた? 私はこのカードの通り、欲深いの……だから、何度だってやるよ! 手札から魔法カード《貪欲な壺》を発動! 墓地のモンスター5体をデッキに戻してシャッフル! 2枚ドロー!」

 

デッキに戻したカード

虚栄の大猿

シンクロン・エクスプローラー

黒蠍-強力のゴーグ

ターレット・ウォリアー

キーマウス

 

フレア 手札:1→3

 

『……無駄よ、まだまだ……』

 

ガーディアン・デスサイス ATK:11000→8500

 

「無駄なんか無い! 私は……このカードを待ってたんだから!」

『貴女が待っていた……まさか!?』

「魔法カード《死者蘇生》を発動! 貴女の墓地の《ガーディアン・エアトス》を特殊召喚!」

 

 フレアが魔法を発動させると、黒いフレアの墓地から光の鳥が飛び立ち、フレアの場へ舞い降りて女神と化す。

 

ATK:2500 レベル8

ガーディアン・デスサイス ATK:8500→8000

 

「エアトス! また……よろしくね!」

 

 涙ぐんで呼び掛けるフレアに、エアトスは微笑み掛けてから前を向き、死神と対峙する。

 

『……エアトスを取り戻したからって、勝った気になるのは早いんじゃないかしら? まだ差は――――』

「埋めるまで! 魔法カード《アームズ・ホール》を発動! デッキトップから1枚墓地へ送り、デッキから装備魔法《妖刀竹光》を手札に加える!」

 

フレア 手札:1→2

 

墓地へ送られたカード

聖なるバリア -ミラーフォース-

 

「装備魔法《妖刀竹光》を《ガーディアン・エアトス》に装備! そして、魔法カード《黄金色の竹光》を発動! 自分の場に《竹光》の装備魔法が存在する場合、2枚ドロー!」

 

 フレア 手札:0→2

 

「ここでエアトスの効果発動! 《妖刀竹光》を墓地へ送って、貴女の墓地のモンスター3体を除外! 《聖剣のソウル》!」

 

 エアトスが手に取った妖しげな竹光を掲げると、それが聖剣へと変わり、黒いフレアの墓地から飛び出した3つの光を吸収する。

 

除外されたカード

ボルテック・バイコーン

ドリル・ウォリアー

ダンディライオン

 

「そして、エアトスの攻撃力をターン終了時まで除外したカード1枚につき、500ポイントアップ!」

 

ガーディアン・エアトス ATK:2500→4000

ガーディアン・デスサイス ATK:8000→6500

 

『まさか……!?』

「もう一押し! 《妖刀竹光》の効果発動! 墓地へ送られた場合、デッキから違う種類の《竹光》カードを手札に加える! 装備魔法《折れ竹光》を手札に! そして装備! もう一度エアトスの効果発動! 《聖剣のソウル》!」

 

 復活したエアトスの力の前では、折れた竹光もあっという間に聖剣へと変わり、先程と同じ様に黒いフレアの墓地からモンスターの魂を吸収する。

 

除外されたカード

マイン・モール

キーマウス

ドリル・シンクロン

 

ガーディアン・エアトス ATK:4000→5500

ガーディアン・デスサイス ATK:6500→5000

 

 聖剣二振りを手に持ち、構える女神。力を大幅に失い、鎌を地に着ける死神。思いには思いを、立ち上がったフレアの闘争心が、絶望的な差を覆したのである。

 

『……ありえない。こんなこと……』

「バトル! エアトスでデスサイスを攻撃! 【フォビドゥン・ゴスペル】!」

 

 エアトスが二振りの聖剣から光の衝撃波を放つと、デスサイスの体は粉々に吹き飛び、大鎌と共に消滅する。

 

『…………』

 

??? LP:3000→2500

 

 女神が蘇り、死神が消えた祭壇の上、フレアは全てを吹っ切った様な、それでいて静かな表情で俯く黒いフレアを見つめる。

 

「……私、解ったかもしれない。まだ不安はあるけれど、きっと大丈夫。進んで行ける。だから――――」

『何言ってるのよ? もう勝った気でいるの? ……こんなものじゃない。“私”は……私はッ!』

 

 黒いフレアがフレアを睨み付けた瞬間、黒いフレアの場に大穴が開き、そこから死神が這い出てくる。その手には、あの大鎌も握られていた。

 

ガーディアン・デスサイス ATK:2500→5500 レベル8

 

「嘘!? どうしてデスサイスが!?」

『ガーディアン・デスサイスの効果……場から墓地へ送られた場合、手札を1枚墓地へ送ることで、墓地から特殊召喚出来るのよ。特殊召喚されたから、デッキから新たなる大鎌を装備出来るわ』

 

??? 手札:1→0

捨てたカード

サンライト・ユニコーン

 

 説明を終えた黒いフレアの表情はフレアと正反対で、憎しみに満ちたものだった。今までの余裕さはもう見られない。これが黒いフレアの、抑え切れなくなった本性なのかもしれない。

 

『……これが“フレアの思い”! ……一番“大事な思い”だったはずなのに、貴女が弱かったせいで封じ込まれた! 私は貴女を認めない! 貴女なんかに出来るはずがない! 必ず……必ず私が“フレア”になって、“思い”を達成させる!』

「(そんな……エアトスの強化はこのターンだけ。次の攻撃を受けたら……)」

 

フレアの手札

星蝕-レベル・クライム-

亜空間物質転送装置

 

 フレアは手札を確認するが、次の攻撃を防ぐ事はとても出来ない。せっかく希望が見えてきたというのに、フレアの胸に再び“闇”が迫ろうとしていた。

 

『そうよ! 無理なのよ! 貴女にはね! 認めなさい! 私が“フレア”に相応しいということを!』

「(……せっかく、せっかく解ったのに、気付けたのに、ここまでなの? 遅すぎたの?) ……きゃ!?」

 

 フレアが俯こうとした瞬間、急に体を引かれ、前を向かされる。振り向くと、そこには相手を見据えたままフレアを支えているエアトスの姿があった

 

「エアトス?」

『フレア、本当にありがとう。貴女と、私の中で眠るウェポンサモナーと古き友人達には、感謝しても仕切れません』

「そんな……でも、ごめんね。私、勝てなかった……」

『いいえ、貴女は負けない。眠っている間、私は確かに感じたのです。貴女と、友人達で創り上げた、“希望の光”を、“確固たる勇気”を! ……フレア、貴女はまた一つ強くなった。そんな貴女には、決闘巫女としての使命が待ち受けている』

「使命……」

『フレア、貴女と友人達から与えられたこの命で、今度こそ貴女を守ってみせる……これを』

「……これは?」

 

 エアトスから手渡されたのは、白く輝く球体。フレアがそれを眺めていると、急に形を変え、一枚のカードとなる。

 

「(カード? でも絵柄が無い……白いからシンクロモンスターかな?) エアトス、これは?」

『眠っている間に、“星海の番人”から渡されていたものです』

「エアトス、あの人を知ってるの!?」

『ええ、よく知っています。星海の番人……現世を覆う星の海、無数の煌きが集う試練の場、そこを統べる者……またの名を、“竜の星”』

 

 エアトスがカードを指差すと、カードに見覚えのある紋章が浮かび上がる。頭、翼、腕、脚、尾、心臓の6つのパーツ、そして長い胴体で構成される竜の姿――――フレアが見たことのあるものとは僅かに違いはあるが、間違いなく“赤き竜”の紋章であった。

 

「赤き竜!?」

『赤き竜とは、“悪なる者の意思”が地上を覆う時、人々の願いを受けて竜の星が遣わす精霊……つまり、赤き竜とは竜の星の僕……“決闘竜(デュエルドラゴン)”なのです』

「“決闘竜”……?」

『“決闘竜”とは、戦う為に生み出された強力な力を持つ竜。強大な力を持つ者、または竜に選ばれし者だけが使役出来る特別な精霊……そして、そのカードも“決闘竜”なのです』

「これが……でも、赤き竜が見えるだけで、名前も効果も分からないよ……」

 

 カードには紋章だけで、名前やテキスト、レベルや攻守さえ書かれていない。だが、エアトスは確信に満ちた表情でフレアを見つめる。

 

『大丈夫、貴女は認められたからこそ、この竜を手にした……竜は必ず応えてくれます! 行きましょう、フレア!』

「うん! カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

LP:2500

手札:0

モンスター

・ガーディアン・エアトス

魔法・罠

・セット

・セット

 

ガーディアン・エアトス ATK:5500→2500

 

『無駄よ……無駄無駄無駄! 私のターン!』

 

??? 手札:0→1

 

『私の手で直接消してあげるわ! 魔法カード《地割れ》を発動! エアトスを破壊よ!』

「!? させない! 罠カード《亜空間物質転送装置》を発動! エアトスをエンドまでゲームから除外!」

 

 黒いフレアの場から亀裂が走り、エアトスの下へと到達する直前、エアトスは目の前に現れた異次元の裂け目に入る。

 

『フレア……貴女なら出来る』

 

 そう言い残し、エアトスは異次元へと姿を消した。

 

『アッハッハッハ! エアトスを逃がそうが、結果は変わらないわ! 消えなさい! 【フォビドゥン・レクイエム】!』

 

 守ってくれるモンスターがいなくなったフレアの首を狙って、死神が大鎌を構える。絶体絶命のこの状況の中、フレアは手渡された決闘竜のカードを見つめる。

 

「(決闘竜、お願い。ここで負ける訳にはいかないの。大事なことが解ったから……それを、あの娘にも教えてあげなきゃいけないから。お願い……)」

 

 フレアがそう念じた瞬間、大鎌を振りかぶっていた死神が急に動かなくなる。

 

「え?」

 

 それだけではない。黒いフレアも、揺らめいているはずの篝火も、全てが止まっていた。まるで、時が止まったかのように。

 

「どうなってるの……?」

『“思い”を形にするんだ』

 

 フレアが止まった世界を見渡していると、決闘竜のカードから声が聞こえてくる。

 

「番人さん!?」

『エアトスを通して君に与えたそのカードは、決闘巫女の“心”に反応し、その姿を自在に変える。君の心こそが、その竜の姿となり、力となる。さあ、念じてごらん。決闘竜を生み出すのだ』

「で、でも、生み出すって言ったって……」

『難しく考えることはない。いや、考えるまでもないさ。君がこの試練で見出したものは何だ? 君を再び立ち上がらせたもの、それを浮かべればいい。さあ……』

「(見出したもの……“見出した”ってよりも……“思い出した”かな……)」

 

 フレアは胸に様々な顔を思い浮かべる。エアトス、ウェポンサモナー、ガーディアン達、黒蠍盗掘団、チーム5D's、鬼柳、フリント――――誰よりも強い“それ”が欲しかった。“それ”を失うのが怖かった。だけど、“それ”は決して無くならない。“それ”は、何時でも、どんな自分でも迎えてくれる。何時までも、強く、強く繋がっていてくれる。“それ”は――――

 

「……“絆”!!!」

 

 その瞬間、フレアの場の最後の伏せカードが光り輝く。

 

『さあ、“道”は出来た。行け、決闘巫女、フレア・ヴィルアース!』

 

 番人の声が聞こえなくなると同時に、時が動き出す。黒いフレアの勝ち誇った笑い声。死神の大鎌。その両方が迫り来る瞬間、フレアは伏せカードを発動させる。

 

「罠カード《星墜つる地に立つ閃珖(スターダスト・リ・スパーク)》!」

 

 発動された罠から閃光が放たれ、死神の動きを止める。

 

『そんなカード、“フレア”のデッキには無いはず……!?』

「デッキには無くても、心の中にはあったの……強く、暖かい思い、“絆”!」

 

 フレアがデッキからカードを1枚ドローすると、フレアの場に光の柱が立つ。

 

 フレア 手札:0→1

 

「(私の“絆”の形……初めて強く感じた“絆”……)」

 

 フレアが一番に思い浮かべたのは、サテライトでの夜の事。鬼柳が死に、立ち直れなくなっていた遊星をフリントが奮い立たせ、皆で星を見上げたあの夜。“星屑の竜”が星空を舞った、あの夜――――フレアの中で形が決まると、カードにテキストと絵柄が表われる。

 

「……星海を切り裂く一筋の閃光よ! 魂を震わし、世界に、仲間に……“私”の心に響け! 絆の決闘竜! 《閃珖竜 スターダスト》!!!」

 

 光の柱から姿を現したのは、紛れもなくスターダスト・ドラゴン。しかし、遊星が持つシグナーのドラゴンとはどこか違う雰囲気を醸し出している。

 

ATK:2500 レベル8

 

 光り輝く閃珖の竜は、死神と対峙し、鋭い咆哮を上げた。

 

『な、何でシンクロモンスターが!? 知らない! こんな竜も知らない!?』

「《星墜つる地に立つ閃珖》は、相手の特殊召喚されたモンスターの直接攻撃によって私のLPが尽きる時、その攻撃を無効にして自分はカードを1枚ドロー出来る。そして、自分のエクストラデッキ・墓地からこの《スターダスト》を特殊召喚するのよ」

『くッ……! だけど、そんなドラゴンが強い“思い”ですって? 笑わせないで! ターンエンド!』

 

LP:2500

手札:0

モンスター

・ガーディアン・デスサイス

魔法・罠

・セット

・死神の大鎌-デスサイス

 

「このエンドに、エアトスが私の場に戻ってくるわ!」

 

 再び次元の裂け目が現れ、そこからエアトスが飛び出し、場に舞い戻る。

 

ATK:2500 レベル8

 

 エアトスは閃珖竜を見上げると、ふっと微笑み、それをフレアに向ける。

 

『これが貴女の“答え”ですね?』

「うん! ここからが勝負よ! 私のターン!」

 

フレア 手札:1→2

 

「来たよエアトス! 装備魔法《女神の聖剣-エアトス》を《ガーディアン・エアトス》を装備!」

 

 フレアがカードを発動させると、エアトスの頭上に光り輝く聖剣が現れ、エアトスはそれを手に取る。

 

『……感じます。皆の魂を……フレア!』

「うん! エアトスの効果発動! 《聖剣のソウル》!」

 

 エアトスが聖剣を掲げると、黒いフレアの墓地から3つの光が飛び出し、聖剣に吸収される。

 

除外されたモンスター

虚栄の大猿

黒蠍-強力のゴーグ

サンライト・ユニコーン

 

ガーディアン・エアトス ATK:2500→4000

ガーディアン・デスサイス ATK:5500→4000

 

「バトル! エアトスでデスサイスを攻撃! 【フォビドゥン・ゴスペル】!」

 

 エアトスが聖剣を振って衝撃波を放つと、デスサイスは鎌を振るってそれを受け止める。その様子を見ていた黒いフレアはニヤリと笑みを浮かべた。

 

『フフ、私の手札が無い内に同士討ちにして、そっちの竜で私を倒そうとしたのだろうけど、甘いわ! 罠カード《強欲な瓶》を発動! デッキから1枚ドロー!』

 

??? 手札:0→1

 

『これでデスサイスは復活出来る! 消えるのはエアトスだけよ!』

「そうはいかないよ! 閃珖竜 スターダストの効果発動! 1ターンに一度だけ、自分の場に存在する表側表示のカード1枚を破壊から守ることができる! 《波動音壁(ソニック・バリア)》!」

 

 衝撃波と鎌がぶつかり、その余波がエアトスへ向かった瞬間、閃珖竜が翼でエアトスを覆い、光の障壁を作り出す。エアトスは障壁によって無事であったが、デスサイスは衝撃を抑え切れず、先程の様に吹き飛んでしまった。

 

『……それでも、私の方が優れている! デスサイスの効果発動!』

 

 エアトスを守っていた閃珖竜が攻撃の体勢に移ろうとするが、デスサイスが再び鎌を持って場に現れた為、唸りながら身を引く。

 

墓地へ送ったカード

首領・ザルーグ

 

ガーディアン・デスサイス ATK:2500→4500 レベル8

 

「カードを伏せてターンエンド!」

 

LP:2500

手札:0

モンスター

・ガーディアン・エアトス

・閃珖竜 スターダスト

魔法・罠

・セット

 

ガーディアン・エアトス ATK:4000→2500

 

『私のターン!』

 

??? 手札:0→1

 

『バトル! デスサイスでエアトスを攻撃!』

「《波動音壁》!」

 

デスサイスが鎌をエアトスに向かって振り下ろすと、閃珖竜がエアトスを翼と障壁で覆って守るが、その衝撃は更に後ろのフレアへと流れていく。

 

「くうっ……!」

『フレア!』

 

フレア LP:2500→500

 

「大丈夫だよエアトス。私が……私が一番あの娘を知ってるから……」

『フフ……魔法カード《埋葬呪文の宝札》を発動! 墓地の魔法カード3枚を除外し、2枚ドロー!』

 

除外したカード

グリード・グラード

突進

シンクロ・ヒーロー

 

??? 手札:0→2

 

『次で終わらせてあげる! カードを2枚伏せてターンエンド!』

 

LP:2500

手札:0

モンスター

・ガーディアン・デスサイス

魔法・罠

・死神の大鎌-デスサイス

・セット

・セット

 

「エアトス、ここまで一緒に戦ってくれて、ありがとう」

『フレア?』

「何となく、感じるのこれが最後のターンだって。でも、私は諦めない! 絶対勝つよ! だから、最後まで一緒に!」

『ええ、行きましょう! フレア!』

「私のターン!」

 

フレア 手札:0→1

 

 倒しても蘇る強敵を前でも、決して希望を捨てないフレア。そんなフレアに、黒いフレアは苛立ちを募らせる。

 

『まだ勝つ気でいるのね?』

「私は、もう逃げないって決めたから」

『心の闇は、そう簡単に振り払えるものじゃないわ。貴女はまた逃げ出すに決まっている……出来ないでしょ? 貴女に私という“思い”を叶えるなんて』

「うん、出来ないね」

 

 嘲笑う黒いフレアであったが、フレアはケロリとした表情で答える。

 

「私には、まだ出来ない。フリントに、貴女という“思い”を伝えることは」

『そうでしょ? だから――――』

「それでも、私は逃げたりしない! もう貴女を拒絶したりしない! 私は……貴女を受け止める!」

 

 そう言って、フレアは両腕を広げ、黒いフレアに向かって迎い入れる様なポーズを取る。

 

『突然、何を言い出すかと思えば、“思い”を叶えられない娘が何を――――』

「私! 解ったの! 私は焦り過ぎてたんだって!」

 

 兄も、祖父も、フリントだって、皆自分を子供扱いしていた。早く大人になりたかった。大人になって、認めて貰いたかった。そう思っている内に、“思い”だけがどんどん先行して行ってしまった。

 

「“フレア”は、大人なんかじゃない。大人になろうとしている子供。“大人として見て欲しがってる子供”なのよ」

『な、何を……』

「だからこそ、自分で受け止められない様な“思い”が育ってしまった。本当はまだ子供だから、戸惑ってしまったの……怖くて、何とかしなきゃと思って、私はもう一人の私……“大人な私”まで創り上げた」

『…………』

「でも、それでも私は子供。好きだとか、怖いだとか、まだ思いばかりが先行してる……だから、ちょっと落ち着こう? まだ4年ぽっち。まだまだ先は長いよ!」

 

 ここまでの4年程の月日は、決して短いものではない。だが、それ以上に長い“未来”が、フレアを待ち受けているのだ。5年、10年、20年――――成長する機会も、思いを達成する機会も、まだ沢山ある。

 

「この4年間、フリントといて楽しかったよね?」

『……ええ』

「これからもそれがずっと続いていくよ。その途中で、きっと私は伝えると思うの。貴女という“思い”を……フリントに」

『……それまで、また私を封じておくつもり?』

「ううん、しない。私は、貴女を連れて行きたい。心の奥に仕舞わず、ずっと胸に抱いて進んで行きたいの。だって貴女は……未熟でも、私が創り出した、私の大事な“思い”だもの……」

『……何よ……今更……』

 

 静かに涙を流すフレアを前に、黒いフレアは俯きながら体を震わすと、キッとフレアを睨みつける。

 

『私はもう止まれないのよ! この抑え切れない“思い”は! 私にそんな余裕ないのよ!』

「なら、私が受け止めてあげる! 私を……もう一人の“フレア・ヴィルアース”を!」

 

 涙を拭うと、フレアはカードを構える。これが、最後の勝負――――

 

「罠カード《無謀な欲張り》を発動! デッキから2枚ドロー!」

 

フレア 手札:1→3

 

「行くよ!速攻魔法《旗鼓堂々》! 自分の墓地の装備魔法を自分の場のモンスターに装備させる! 《女神の聖剣-エアトス》を《ガーディアン・エアトス》に装備! 攻撃力を500ポイントアップ!」

 

 再びエアトスの手に聖剣が握られると、女神と死神が得物を構え、場で睨みあう。

 

 ガーディアン・エアトス ATK:2500→3000

 

『たったそれだけ? それが貴女の限界かしら?』

「ここからが……私達の力! 速攻魔法《ダブル・サイクロン》! お互いの魔法・罠を1枚ずつ破壊する! 破壊するのは、《女神の聖剣-エアトス》と《死神の大鎌-デスサイス》!」

 

 フレアが魔法を発動させると、お互いの場に竜巻が起こり、女神と死神の得物をそれぞれ粉々に吹き飛ばす。

 

『!? (あの無意味な装備魔法は、デスサイスの鎌を破壊する為に……いや、違う!?)』

 

 吹き飛ばされた後、無残にも場外へと散らばる大鎌に対し、聖剣は再び一つへと戻り、光の剣となってエアトスの手に戻る。

 

「女神の聖剣-エアトスの効果発動! 場から墓地へ送られた時、エアトスの攻撃力を除外されているモンスター1体につき、500ポイントアップさせる!」

 

 エアトスが光の剣を掲げると、次元の裂け目が現れ、そこから10つの光が飛び出し、光の剣に吸収される。

 

除外されているモンスター

ボルテック・バイコーン

ドリル・ウォリアー

ダンディライオン

マイン・モール

キーマウス

ドリル・シンクロン

虚栄の大猿

黒蠍-強力のゴーグ

サンライト・ユニコーン

アマリリース

 

ガーディアン・エアトス ATK:2500→7500

ガーディアン・デスサイス ATK:4500→2500

 

『!?』

「バトル! エアトスでデスサイスを攻撃!」

『させない! 罠カード《万能地雷グレイモヤ》! エアトスを破壊よ!』

「《波動音壁》!」

 

 光の剣を振りかぶるエアトスを爆炎が包むが、閃珖竜が障壁によって破壊を防ぐ。

 

『くっ!?』

「【フォビドゥン・ゴスペル】!」

 

 エアトスが光の剣を振るい、衝撃波をデスサイスに向かって放つ。

 

「罠カード《ガード・ブロック》発動! ダメージを0にし、1枚ドロー!」

「!」

 

??? 手札:0→1

 

 エアトスの渾身の一撃により、デスサイスは粉々に吹き飛ぶが、黒いフレアの笑い声と共に再び地の底から現れる。

 

??? 手札:1→0

 

ガーディアン・デスサイス ATK:2500 レベル8

 

『フフフ……アッハッハッハッハ! 言ったでしょ? 貴女には無理なのよッ!!!』

『……私の影なる死神よ、地の底へと沈め!』

「速攻魔法《死者への供物》! 相手モンスター1体を破壊する! 《ガーディアン・デスサイス》を破壊!」

 

 デスサイスの足元に大穴が現れると、そこから無数の帯がデスサイスに向かって伸び、デスサイスは悲鳴を上げながら地の底へと引きずりこまれて行く。やがて悲鳴が聞こえなくなり、場に静寂が戻った。静かなる時の中で、二人のフレアは見つめ合う。

 

「……行くよ」

『……ええ、来なさい』

「閃珖竜 スターダストで直接攻撃! 《流星閃撃(シューティング・ブラスト)》!!!」

 

 閃珖竜が光のブレスを放つと、黒いフレアは静かに目を閉じ、光の中へと飲み込まれた。

 

『…………』

 

??? LP:2500→0

 

ソリッドビジョンが消え、決闘終了のアラームが鳴り響く。

 フレアは立ち尽くす黒いフレアの元に駆け寄った。

 

『……負けちゃったわね』

「うん……」

『……貴女は、“フレア”は強くなった。だから、私は負けた。フフ……』

 

 黒いフレアが小さく笑うと、その体が徐々に消え始める。

 

「体が!?」

『当然でしょ。私は貴女に変わって“思い”を叶える為の強い存在。貴女の方が強くなったのなら、もう存在する必要が無いのよ』

「そんな……!?」

『可笑しな娘。さっきまで存在を賭けて戦ってたのに、そんな顔しちゃって……ねえ、一つだけ、約束してくれる?』

 

 黒いフレアの言葉に、フレアはゆっくりと頷く。それを見た黒いフレアは、眼を細めて優しい笑みを浮かべた。

 

『……私のこと、もう忘れないでね?』

「忘れないッ! 忘れないよッ! 私の……私の大事な……」

 

 フレアは消えかけている黒いフレアを抱きしめる。

 

『ありがとう……大丈夫ね? 貴女なら……』

「うん! 大丈夫だよ! 貴女がいるから……仲間がいるから……“絆”があるから!」

 

 

* * *

 

 

「(くそっ! 一体どうなっているんだ!)」

 

 一方、ハロウの妨害を抜け、フレアを追って山を登っているフリント。ハロウは一撃疾走でフリント相手に善戦し、何とか時間を稼ぎ切っていた。お陰でフリントが山を登り始めた頃にはすっかり日は沈んでしまっていた。

 

「(奴らが言っていた試練が俺の知っているものと同じならば、フレアが危険だ! 急がなければ……むっ!?)」

 

 ここでフリントは雲の間に辿りつき、そこを抜けて祭壇の前に辿りつく。祭壇の前にはウィルダーネスが置かれており、この上にフレアがいるのだとフリントは確信する。

 

「(ここが試練の場か? ならば、俺が知ってるものとは違うか……)」

 

 フリントはイグニッションから降りると、マントと帽子を身に付け、警戒しながら祭壇を登る。祭壇の篝火は弱くなっており、先程までより薄暗い。

 

「(フレアは……)」

 

 フリントが階段から壇上を覗くと、そこには壇上の中心で空を見上げているフレアの姿があった。

 

「フレア! 無事か!?」

「……フリント、無事だったのね」

 

 フリントがそう言って近づくと、フレアは空を見上げたまま振り向かずに応える。

 

「そっちの試練は大丈夫だったの? 合格出来た?」

「いや、俺の方はお前と引き離す為のブラフだった。それよりも、お前は大丈夫だったのか?」

「私? 大丈夫だったよ。フリントはわざわざここまで登ってきて、どうしたの?」

 

 相変わらずフレアはこちらを向かない。それを訝しく思ったフリントはフレアの正面へと回り込もうとするが、そうするとフレアは体を回転させ、後ろを向いたままにしようとする。

 

「……何のつもりだ?」

「ゴースト事件の後の、あの時のフリントの真似」

「……ふざけてないでこっち向け。お前が本物かも怪しくなる――――」

「ばぁ!!!」

「!??……」

 

 突然なフレアの奇襲に、流石のフリントも驚いて体を反らせる。その様子にフレアは満足したのか、笑いながらフリントと向き合う。

 

「やーい、大成功! 私を早く迎えに来ないからだぞ!」

「……子供みたいな真似をする……いや? フレア……」

 

 フリントは苦い表情をしながらフレアの顔を見るが、急に表情を変え、不思議なものを見る様な顔でフレアに顔を寄せる。調子に乗っていたフレアも、流石にフリントの顔が目の前まで来れば流石に慌て、僅かに顔を赤くして仰け反る。

 

「な、何フリント!? 私の顔に何か付いてる?」

「いやフレア……どうやら試練とやらを乗り越えたらしいな。良い顔になったじゃないか」

「……ふふ! そう?」

 

 フレアは機嫌良さそうに笑うと、階段を指差して歩き始める。

 

「さ、戻りましょう! 多分、もうすぐ朝だよ!」

 

 フレアは一気に階段を駆け下り、ウィルダーネスの元へと駆け寄る。祭壇を登った時の様に、服装は何時の間にかサティスファクションジャケットへと戻っていた。

 

「(どうなっている!?)」

「フリント何やってんの! 早く行くよ……って、あ!? 見てフリント!」

 

 フリントがフレアの指差した方を見ると、そこには光輝く道が出来上がっており、湖の上を伸びてスタート地点へと繋がっている。これならばわざわざ長い山道を下る必要は無い。どうやら星海の番人が用意してくれたようだ。

 二人はDホイールを走らせ、光の道の上を進む。

 

「わあ! フリント見て! 凄くキレイ!」

「成る程、だから“星海”か」

 

 来た時は昼間だった為に分からなかったが、道の上から湖を見ると、満天の星が水面に映り込んでいる。上にも下にも広がるそれは、正に“星の海”であった。

 

「……ねえフリント」

「何だ?」

「えっとね……何ていうか、私が凄く大人っぽくなったら、どう思う?」

「お前が? そうだな……酒の一杯でも奢ってやろうか?」

 

 フリントのこの言葉に、ウィルダーネスがガクンと傾く。

 

「……それだけ?」

「何がだ?」

「ほら、もし私が大人っぽくなったら……クラッときちゃうとか……」

「眩暈を起させるような大人になるつもりか? 止めておけ、ストークが泣くぞ」

 

 今度は逆方向へ。何とか立ち直るものの、僅かにふらついている。

 

「え、ええ~……(もしもだけど、これあの娘に代わっても難しかったんじゃないかな?)」

「どうした? さっきから何処か変だぞ?」

「……もういいでーす。ゆっくり行きまーす」

「そう言いながら加速するな」

 

 

* * *

 

 

「よくやったね。これで一先ず、私の役目も終了だ」

 

スタート地点に辿りついた二人は、番人とハロウに出迎えられた。番人はホッと一息付くと、フレアに声を掛ける。

 

「フレア、辛い思いをさせてしまった。だが、君はそれを乗り越えて、ここに戻ってきてくれた。ありがとう」

「いえ、私こそありがとうございました。ここに来てよかったです。ドラゴン、大事にしますね!」

「うむ、我が力、決闘巫女として存分に使ってくれ。……フリント」

 

 今度はフリントと向き合う。

 

「君にもすまないことをしてしまったな。だが、解ってくれ。決闘巫女のこと、頼んだぞ」

「ああ。……だが、今度からはちゃんと説明して貰うぞ。でなければ、お前の部下がまたああいう目に遭うことになる」

 

 フリントは番人の横にいるハロウを指差す。その白い装束は砂埃にまみれており、見えている肌には一部に擦り傷が見える。どうやらフリントが突破する際に転ばされてしまったようだ。

 

「ははは……ハロウ、苦労を掛けたな。前にも告げた様に、お前の使命もこれで終わりだ。自由に生きるといい」

「はっ! ……お仕え出来た事を、誇りに思います。ありがとうございました」

 

 ハロウは丁寧に礼を行い、番人の傍から離れる。

 

「さあ、これでお別れだ。皆の者、今世界に迫っている脅威は、今までに無い敵だ。この私でも、その存在の全てを掴めていない」

「イリアステルのことですか?」

 

 フレアがその名を挙げると、番人は強く頷く。

 

「しかし、私が懸念しているのは、その新たなる脅威の出現により世界の安定が崩れ、眠っていた古き脅威が目覚めることだ」

「古き脅威?」

「既に“ナスカ”の地で邪神“スカーレッド・ノヴァ”が目覚めようとしている。遥か10000年前に封じられたはずの脅威だ。私は、イリアステルの出現に関係していると考えている」

「ナスカって……遊星達が行った場所!?」

 

 フレアがフリントに顔を向け、フリントはそれに合わせて頷く。もしかすれば、既にその脅威と遭遇してしまっているかもしれない。フレアは今にも飛び出して行きそうな様子を見せるが、フリントに眼で制される。ここからでは到底間に合わない。到着する頃には決着がついてしまっているだろう。ならば自分達が出来ることは一つ。仲間達の無事と勝利を信じることである。

 

「本来ならば、起こりえない事態が起こっている。既に地縛神との戦いを終え、眠りにつくべき赤き竜も、未だに眠りが許されぬ状態だ。……頼んだぞ、シグナー達と共に、この世界を守ってくれ」

 

 その瞬間、フレアの視界が光に覆われる。次に目を開けた時、そこは最初に訪れた廃墟の中心に、ウィルダーネスと共に立っていた。

 

「あ、あれ……何時の間に」

「地上に戻ったのだ。星海はこの時代での役目を終え、四霊神と共に遥かなる天へと帰る。もう、人間があの世界へ踏み入る事は無いだろう」

「あ、ハロウさん」

 

 何時の間にかフレアの横に立っていたハロウは、一緒に送られてきた馬に跨り、フレアを見下ろす。

 

「さらばだ。もう会うことは無いだろう」

「ハロウさん、これからどうするの?」

「そうだな……主はああ言ったが、やはり私は使命に生きることしか出来ん。何れ訪れる脅威に備え、我が部族を再興するつもりだ」

「ママとエアトスの部族を? 一人で大丈夫ですか?」

「私とてまだ若い。どれ程の時が経とうとも、必ず人を集め、成し遂げて見せる。……君の様にな」

 

 自信に満ちた笑みを見せるハロウ。今までの彼はこの様に笑う青年ではなかった。フリントとの決闘を経験し、フレアの試練を聞き、そして主から離れた彼もまた、成長を遂げた一人なのかもしれない。

 

「ふふ! ハロウさんなら絶対出来ます! あ、よかったらサティスファクションタウンを拠点にしたらどうですか? 多分、一番ここに近いのはあそこですし、今の時期は人も多いし、私からお爺ちゃんへ話を通して置きますよ!」

「途中で寄ったあの町か……いいかもしれん。厚意に甘えるとしよう」

「それじゃ一緒に町へ戻りましょう!」

「いや、暫くは見聞を広める為に旅をしたい。だから、ここで別れよう」

 

 そう言ってハロウは手綱を引き、馬首をめぐらせる。

 

「さようなら! 困った時は何時でもサティスファクションタウンに着てくださいね!」

「ああ! ……っと、その前に、一つ相談があるのだが、よろしいか?」

「相談?」

 

 あっさりと引き返してきたハロウを訝しがるフレアであったが、素直に頷き、馬に近づいて話を聞く態勢を取る。

 

「部族を再興させた場合、唯一部族の血を引く私が族長となるだろう。そして、その血を残して行くには良き妻がいる。……そこでだ。あの町に、君の友人である器量の良い娘がいただろう? 旅が終わり次第、あの娘を妻として貰い受けたい。どうであろう?」

「私の友人って……もしかしてニコのこと!?」

 

 フレアは驚いた後、暫く思考を巡らせながら固まっていたが、急に両手を前で勢いよく振り始める。

 

「駄目駄目駄目! まだあの娘は14です! 早すぎ!」

「ハッハッハ! まあ急ぐ事でもない。成長を待たせて貰うとしよう! さらばだ!」

 

 そう言って今度こそ駆け出して行くハロウ。フレアは疲れた様に溜息をつく。

 

「はぁ……ハロウさんって、意外と積極的ね。それに見る眼もある。フリントとは大違い……って、あれ? フリントは?」

 

 先程からフリントの存在を感じていないフレアはキョロキョロと辺りを見渡すと、突然近くで光の柱が立ち、その中からフリントがイグニッションと共に現れる。どうやら彼はたった今、星海から戻ってきたようだ。

 

「フリント、遅いよ! ハロウさん行っちゃったよ!」

「番人に呼び止められたのだから仕方が無いだろう」

「番人さん? 何で呼び止められたの?」

「大した事じゃない」

 

 そう言ってフリントが帽子とマントを脱ぎ、イグニッションに跨ろうとすると、フレアが前からイグニッションのハンドルを取り、目を細めてフリントを睨みつける。

 

「……何のつもりだ?」

「フリントさん? もうそうは行かないんですよぉ?」

「……何だ? 何が言いたい?」

「これからはどんな些細なことでも私に知らせなさい」

「何故だ? 本当にどうでも――――」

 

 フリントがそう言いかけた瞬間、フリントの目の前にフレアの決闘銃が突きつけられる。

 

「私にとってはどうでもよくないの。教えて」

「……おい、クラッシュの後でも継ぐつもりか? 随分と強引だな」

「それもいいかもね。でも、今はそんな話じゃありません。答・え・て」

「何故そんなに知りたがる? 楽しいことじゃないぞ」

「貴方と同じだから。貴方が私を心配してくれるように、私も貴方が心配なの。だから、どんなことでも知りたい。貴方のこと……」

 

 フレアは決闘銃を降ろすと、寂しげな表情を浮かべる。その表情を見たフリントは溜息をつき、イグニッションから降りる。

 

「……フレア、心配を掛けてすまない。だが、まだお前に教えてやることは出来ない。何れ分かる時がくる。その時を待ってくれないか?」

「……本当に?」

「ああ、約束しよう」

「……分かった」

 

 そう呟いた瞬間、フレアは腰を屈め、決闘銃を持っていない左拳をフリントの腹に突き出す。

 

「オラァ! 満足ボディブロー!!!」

「うおっ……!?」

 

 威力は大した事ないものの、あまりに予想外なフレアの行動にフリントは反応できず、モロに拳を腹で受けてしまう。

 

「もういいもん! フリントが話してくれないなら、自分で調べてやる! 今度から徹底的に行動を見張らせて貰いますからね! 覚悟しておいて!」

 

 そう言ってウィルダーネスの元へ戻り、帰り支度を始めるフレア。フリントは腹を摩りながら、フレアの後姿を眼で追う。

 

「(すまないな……フレア)」

 

 

* * *

 

 

「……おい、俺だけここに残して、何のつもりだ?」

 

 フレアとハロウが地上へ帰された後、フリントは番人と二人で向かい合っていた。

 

「話したいことがあるからさ。……君については、君と共にある“彼”から聞いたよ」

「やはり、“奴”のことを知っていたか」

「そりゃ知っているさ。君達人間の関係で言えば“同僚”みたいなものだからね。……気を悪くしないで貰いたいが、世界の乱れの原因はイリアステルだけでないく、君にもあると私は思っている」

「尤もだな。俺は本来、この世界にいていい存在ではない」

「そうだ。本来ならば、私は君を“異端者”として消さねばならぬだろう。だが……」

 

 番人は手に剣を出現させ、その切っ先から6つの赤い光を放ち、空中に浮かべる。5つは円を描く様に光り輝き、6つ目は5つの傍で弱く光る。

 

「シグナー達が闇を照らす光とすれば、フレアは闇を裂く剣……そして、君は闇を貫く“弾丸”となれる」

 

 番人は剣でフリントの腰の決闘銃を指し示す。

 

「迫る脅威は、あってはならぬ脅威。人が立ち入ってはならぬ領域を犯した、罪深き脅威だ。“この世界の者”が、絶対に勝たねばならない。その為にフリント、君の力が必要なのだ」

「言われなくても、俺は戦う。“罪を犯した一人”としてな……さあ、俺を地上へ帰してくれ」

「おっと、待ってくれ」

 

 フリントが帰る意思を示す様に踵を返すと、番人は僅かに笑って呼び止める。

 

「その前に、フレアについてどうだい? 君から見て、試練の成果はあったかな?」

「ああ、見違える程に成長した。それに、色気づいたな。まさかあんなことを聞かれるとは思わなかったぞ」

「おや、気付いていたのかい? 彼女の“思い”に?」

 

 苦笑するフリントに、意外だという表情を見せる番人。それに対しても、フリントは苦笑する。

 

「これでも長生きなんでな。察することくらい出来るさ」

「だったら応えてあげればいいじゃないか。彼女はそれを望んでいたのではないのかい?」

「お前も解っているはずだろう。俺はこの世界にいていい人間ではない。……俺が共にいるのは、全てが終わった時までだ」

「……そうか」

 

 番人はフリントに向かって手を翳す。どうやら地上へと送る様だ。

 

「それでは、君を地上へ帰そう。……最後に、天上の者らしく予言しよう。君がどう思っていようと、全て左右するのはフレアだ。覚えておいてくれたまえ。……さらば」

 

 

 番人の手が光ると、一瞬でフリントとイグニッションの姿が消える。それを見送った番人は、白み始めている星空を見上げた。

 

「(……フリント、君が“この世界”に存在してはいけない者だったとしても、君は今“この世界”で生きている。その意味を、必ず見出してくれ……)」

 

 

 

 




元々この2話は1つの予定でしたが、文字数が40000越えそうだったので2つに分けました。しかし、復帰戦には向かない話でしたね(汗)中々感覚が戻らず(というより、変わっていた)、忙しさもあって半年近く掛かりました(泣)何でこんなとこで切ったんだろう……
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