「星海ねぇ……母さんの故郷にそんなものがあったなんてなぁ」
よく晴れた朝、労働者達が今日も元気に仕事場へ向かう頃、レストラン・サザンライトのカウンター席に座るフリントから数日前の出来事について聞いていたストークは、半信半疑と言った調子で呟く。
遺跡を発ったフリントとフレアは、数日前にサティスファクションタウンに到着し、何事も無い穏やかな日々を送っていた。朝に弱いフレアは未だにベッドの中、フリントはストークに軽い報告をしながら朝食を取っていた。
「信じるかどうかは任せる。ただ、あそこでの経験がフレアを大きく成長させたのは確かだ」
そう言って、ストークが作った特性のタマゴサンドを平らげるフリント。その後ろの席で恨めしそうな表情をしているブロンソンが声を上げる。
「そうは見えなかったがなぁ? 何時もと変わらん寝坊助にしか見えんよ」
「俺もそう思うが、フリントが言うんだ。きっと間違いは無いさ」
ストークがフリントに笑い掛けるが、フリントはそれに反応せず、真剣な顔を店の奥に向けていた。そして、急にストークに顔を近づけ、耳打ちを行う。
「付いてきてくれ、フレアの部屋だ」
「え? 何だ突然……」
立ち上がり、フレアの部屋へと向かうフリントをストークは慌てて追いかける。
「おおい! どうしたんだよ二人とも?」
「すまんブロンソンさん! ちょっと外す!」
* * *
フレアの部屋の前に辿り着くと、フリントはストークに向き直る。
「フリント、一体どうしたんだ? フレアはまだ寝てるはずだぞ?」
「唸り声が聞こえた。きっと夢を見てうなされているに違いない」
「へ? よく聞こえたなぁ……って、“夢”ってことは……」
察した様にストークがフレアの部屋のドアを見ると、フリントも同じ様に見て頷く。
「今日まで、ずっとこれを待っていた。きっと遊星達の状況を知ることが出来る」
「そうか成る程。遊星さん達が大変だって言ってたもんな。にしても、それに何故俺が必要なんだ? 俺が聞いてもきっと意味が解らんと思うが……」
ストークが首を傾げると、フリントは苦笑しながら親指でドアを指し示す。
「……女の部屋だ。間違いがあっては困るだろう? 3年前とは訳が違う」
「ああ、そうか。気を遣わせてすまんな。……フレア~?」
ドアに近づき、名前を呼びながら耳を当てる。確かにフレアのうなされている声が聞こえてくる。
「本当だ……よし、入るぞ~……」
ストークがゆっくりとドアを開けると、やはりうなされながらベッドに横たわるフレアの姿があった。
「あ……ああ……ああ……!?」
そのうなされ方は何かに怯えている様で、顔を歪ませながら蹲る格好をしている。その様子を見たストークは慌てて妹の傍に駆け寄る。
「フレア!? 大丈夫か!? しっかりしろ!」
「……どうやら、フレアも遊星達も良い状況ではないらしい。ストーク、起してやってくれ」
精霊世界へ行った時のフレアの状態を思い出したのか、ストークは必死になってフレアを起そうとする。何度か揺さぶっていると、急にフレアは落ち着きを取り戻し、静かな寝息を立て始めた。
「あ、あれ……落ち着いた……?」
「(……状況が変わったか?)」
それでも心配なのか、ストークはフレアを起そうと軽くペチペチと頬を叩く。
「おーい、フレア~朝だぞ~……ごっ!?」
「やったーーーー!!!」
突然、跳ね起きたフレアの左拳が偶然にもストークの顎を撃ち抜く。顎を押さえて蹲るストークの横で、フレアはキョロキョロと辺りを見渡した。
「あれ……ここ……? 私の部屋?」
「気が付いたか」
眠たい目を擦り、フリントへと眼を向ける。
「あれ? フリント……って、あーーーー! 何勝手に部屋の入ってきてんの!? しかも私が寝てる時に! ケダモノ!」
「ケダモノの様な唸り声がここから聞こえたんでな。退治してやろうと思って入ったらお前だったという訳だ」
「何よ失礼しちゃう! ……ま、冗談は置いといて、私の“夢”についてでしょ?」
「ああ、遊星達のことだろう? 何を見た?」
フレアはそのことについて口を開こうとするが、ふと口を閉じ、意地の悪い笑みを浮かべる。
「ええ~……どうしよっかなぁ? フリントは全然話してくれないからなぁ~?」
「……フレア」
「冗談よ。こればかりは伝えない訳にはいかないもの」
そう言ってフレアはベッドから降りると、右拳を左胸に当て、ポーズを取る。
「王者と悪魔、今ここに交わる! 荒ぶる魂よ、天地創造の叫びをあげよ! シンクロ召喚! 出でよ! 《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》!」
「……それでは訳が解らん。詳しく話してくれ」
「うーん、今のところのインパクトが凄くてね……」
フレアの話によると、星海の番人が言っていた邪神“スカーレッド・ノヴァ”がナスカでの異変の黒幕であり、その異変も、ボマーが見た夢も、全てはジャックを呼び寄せる為にスカーレッド・ノヴァが仕組んだ事であるらしい。
「そう言えば、奴からその邪神について詳しく聞いていなかったな」
「そうなのよ! 私びっくりしちゃった! 何しろ最強の“地縛神”だからね!」
遥か10000年前、スカーレッド・ノヴァはダークシグナーですら制御出来ず、赤き竜を追い詰める程の力を持ち、その力で世界を破滅させようとしていた。しかし、赤き竜もやられっぱなしではいない。
「“バーニング・ソウル”!」
「何だそのポーズと掛け声は?」
「荒ぶる魂! これが赤き竜の切り札だったの!」
10000年前、荒ぶる魂を持つシグナーの一人が火山のエネルギーと赤き竜の力を受け、“バーニング・ソウルの境地”へと辿り着く。シグナーはバーニング・ソウルの力を用いてスカーレッド・ノヴァを地上絵ごとナスカの地下深くへと封印。見事シグナー陣営を勝利へ導いたのであった。
「成る程。で、何故スカーレッド・ノヴァはジャックを呼び出した?」
「それはね――――」
10000年の時と“世界の歪み”により封印が弱まったスカーレッド・ノヴァは、復活する為に必要な“器”を求めた。それは只の器ではなく、“紅蓮の悪魔”たる自身を受け入れる様な、貪欲なまでに力を求める“器”が必要なのである。その条件を満たし、宿敵のシグナーでもあるジャックは、復活と復讐を兼ねる絶好の“器”であった。
「うーん、何だかよく解らん話だが、そんなのに眼を付けられて、ジャックさんは大丈夫だったのか?」
顎の痛みから立ち直ったストークがフレアに聞くと、フレアは自身ありげに頷く。
「うん! スカーレッド・ノヴァを見た時、私は怖くてしょうがなかったんだけど、ジャックは負けずに立ち向かって、最後の最後で遂に目覚めたの!」
絶好の“器”を見つけた。僕を使ってあらゆる異変を起し、“器”を招き寄せた。相手の戦術を逆手に取り、“器”を追い詰めた。完璧に思われたスカーレッド・ノヴァの策略は、一つの誤算によって撃ち砕かれる。それはジャックが10000年前の荒ぶる魂を持つシグナーの末裔であり、自身を封印する力である“バーニング・ソウルの境地”へと辿り着いてしまった事である。
「自身の“器”として見出し取り込もうと呼び出した男が、自身を唯一封印出来る“天敵”だったとはな。皮肉な話だ」
「それでそれで、ジャックは逆にスカーレッド・ノヴァをレッド・デーモンズの中に取り込んじゃったのよ!」
バーニング・ソウルの力で封印をするどころか、ジャックはスカーレッド・ノヴァをカードの中に取り込み、自身の新たなる力としてしまった。それが真紅の灼熱龍、“スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン”である。
「お前がさっき叫んだのはそのドラゴンのことか……フレア、念の為に聞くが、遊星達は無事なんだな?」
「うん!」
「よし……ストーク、俺達はシティへと発つ。世話になった」
「あ、ああ……随分と急ぐな? もっとゆっくりしていけばいいのに」
そうしたいのは山々であるが、イリアステルの事や休止したままのWRGPの事を考えると長く留まっている訳にはいかない。フリントは身支度を整える為に踵を返し、フレアは大きな欠伸をする。
「それじゃ私は出発の時に備えて寝まーす! 二人とも、早く出て行って!」
「起きて仕事手伝え……やれやれ、心配して損したよ」
最後まで話に付いていけなかったストークは、寝転がるフレアを見ながら溜息を付き、フリントと共に部屋を後にした。
* * *
俺のカップラーメン!!!
「ええっ!?」
数十分後、フレアは驚きながら飛び起きる。急いで身支度を済ませ、店へと飛び出した。
「フリントフリント! 兄さんフリントどこ?」
「寝坊助め! やっと起きてきたと思ったら何だ? フリントなら郵便局へ行ったぞ」
フリントはサティスファクションタウンへ帰ってきてすぐ、遊星宛に無事を知らせる手紙を送っている。遊星達が無事と分かった今、もしかすればシティへ帰還した遊星が返事を返してくれているかもしれない。
「何でこんな時にいないのよ~!」
「お前が呑気に寝てたからだろう……」
「戻ったぞ」
フレアが悔しそうに足踏みしていると、そこへタイミングよくフリントが戻ってくる。何時もなら買い物用の車で向かうのでもっと時間が掛かるのだが、今回は手紙だけが目的だったのでイグニッションで向い、短時間で取りに行くことが出来た様だ。
どうやら予想通りだったらしく、手には一通の封筒が握られている。
「フリント! 夢夢! また見たのよ!」
「何!? 連続で見るとは……内容は?」
眠りが浅かったせいか、あまりはっきりと覚えていないと言うフレア。だが強く印象に残っているシーンが二つ程あるという。
「一つは、ジャックがカップラーメンとしか言ってなくて、何だか格好悪かった。バーニング・ソウルとは何だったのか……」
「……それは大して重要ではないだろう。もう一つは?」
「……イェーガー」
現在失踪中の治安維持局副長官、“イェーガー”。今まで散々手を焼かされてきた相手の名が出ると、フリントは納得した様に頷く。
「成る程、で、どうした?」
「うーん……カップラーメンマン……いや、クロウだったかな? と決闘してて……後はちょっと思い出せない。ごめんなさい」
「いや、いい。これで話の訳が解ったからな」
「何の話?」
「これだ」
フリントはフレアに遊星からの手紙を見せる。内容は無事異変を解決し、ナスカの地から戻ったという事と、イリアステルから逃げ回っていたイェーガーと協力関係を結び、これから話を聞き出すという事、そして詳しい訳は二人がシティへと戻ってきた時に話すという事が書かれていた。
「イェーガーが私達に協力だなんて、一体どういう風の吹き回しだろ?」
「兎に角、行ってみるしかあるまい」
* * *
「皆いるかな?」
「いてくれれば助かるが……」
全速力でDホイールを走らせ、昼過ぎにシティへと辿り着いたフリントとフレア。噴水広場を通り、遊星達のガレージの前でDホイールを止めると、空いた腹を刺激する様な良い香りが空いている窓から漂ってくる。
「あ、何か良い匂いがする! ご飯作ってるんだ!」
「誰かしらいるということだな。入るぞ」
フリントがイグニッションから降りた瞬間、ガレージの中から小さな悲鳴と何かが割れる音が聞こえる。
「今の……龍可ちゃんの声!?」
「行くぞ!」
「あっつうーーーーい!!? 熱い熱い熱い!?」
フレアも急いでウィルダーネスから降り、フリントがガレージ内に突入した瞬間、今度はカップが床に転がる音と共にジャックの悲鳴が上の階から聞こえてくる。
「……どうやら、危険な状況というわけではなさそうだな」
「うん……」
* * *
「……という訳なのですよ、ヒッヒ……」
「怯えなくてもいい。協力するならば俺も昔の事は忘れよう」
「そうですか……」
安心した様にセットし終えた髪を撫でるイェーガー。心なしか、何時もより髪型のバランスが悪い。
イェーガーはエンジンデータ窃盗事件以降、妻子を守る為ずっとイリアステルから逃げ続ける生活を送っていた。一家で下水道を住処とし、イェーガーは変装して身を隠しつつ、本来は治安維持局副長官として守らなければならないはずの一般市民から食料を強奪して生活していた。そこへ偶然にも遊星達と遭遇する。
「そん時は一度とっ捕まえたんだけどよ。油断して逃げられちまった」
クロウが外れてしまったらしいナットのピアスを付け直しながら、悔しげな視線をイェーガーに向ける。
治安維持局長官である“イリアステルの三皇帝”について、自分達が知らない情報を持っていると踏んだ遊星達。イェーガーを捕らえる為、二度目の“捕獲作戦”を決行した。
「でもよくあれで上手く行ったよね。まんまと乗って来たんだから」
「ウムゥ……カップラーメンの事となるとつい……」
龍亜が割れた花瓶とカップが入った袋を揺らしながらイェーガーを指差す。
詳しい作戦内容は話してくれなかったが、どうやら上手くイェーガーを誘い出すことには成功したらしい。しかし、結局は逃げられてしまったという。
「あはは! 思い出した! カップラーメンマン!」
「いいっ!? くそっ! しっかり“見て”やがったかフレア……」
「まったくクロウめ! 作戦を考えてやったというのに、まんまと逃げられおって! 遊星に感謝するがいい!」
「あの時、何もしてなかった貴方が言ってもね……」
紅茶まみれになったズボンを履き替え、ジャックが自室から戻ってくる。呆れるアキの言葉に鼻を鳴らすと、堂々とソファに腰掛けた。
「遊星がね、発信機をイェーガーに取り付けていたの」
こぼれた花瓶の水を拭き取った雑巾を片付けながら龍可が言う。
発信機を頼りにイェーガーの住処を突き止めた遊星達。流石のイェーガーも妻子のいる住処を背にしては逃げることは出来ず、勝てば見逃し、負ければ情報提供の条件でクロウとの最後の決戦へと挑んだ。
「それで、クロウが勝ったという訳か?」
「まあ、そうなんだけどよフリント。勝敗はまあ、関係無ぇんだ」
クロウとの決闘を経て、イェーガーは気付く。本当にイリアステルから逃げ回っているだけでよいのか、妻子の為に戦うべきなのではないか。遊星の言葉と、クロウの心を感じた時、イェーガーは“勝利せんが為の敗北”を選んだ。
「それでイェーガーが協力してくれる様になったのね。で、何か新しいこと分かった?」
「それが、イェーガーの知っていることは全て私達も知っていることだったの」
アキが溜息と共に詳細を語る。
協力する約束をしたものの、未だに躊躇いを見せるイェーガーから情報を聞き出す為、同じくイリアステルの情報を集めているシェリー・ルブランを呼び、ガレージ内で尋問を行った。しかし、イェーガーの口から出るのは全て既出のもの。果てにはこちらの持っている情報をイェーガーが知らないという事実まで発覚した。
「こっちの方が詳しかったんだ……」
「でも、有益ではあったわ。情報を得る為の手掛かりをイェーガーは知っていたの」
イェーガーによると、一度だけイリアステルの三皇帝とコンタクトを取ろうとしてきた企業があったという。その企業を治安維持局のデータベースで検索すると、驚くべき事実が判明した。
「“モーメント・エクスプレス開発機構”って知ってる?」
「ううん、知らない。モーメントと関係のある会社?」
モーメント・エクスプレス開発機構――――主にモーメントを小型化し、一般に普及させている大企業である。Dホイールは勿論、小型化されているモーメントの殆どはこの会社から売り出されていると言っていい。
「その会社が、イリアステルと関わっているらしいのよ」
「その為、遊星、ブルーノ、そしてシェリーお嬢様の3人がボルガー&カンパニーの社員に成りすまし、潜入調査に向かわれたのです」
ここまで黙っていたミゾグチが固い表情で口を開く。本当はシェリーに付いて行きたかったのだろうが、向かう社員の数が3名と決まっていたのと、流石にミゾグチの様な厳つい大男を一般社員と言い張るのは難しいということで、機械に強く、戦闘力も申し分ない遊星。同じく機械に強く、怪しまれない風貌のブルーノがメンバーに選ばれた。
「そっか、だから遊星達がいなかったのね」
フレアは納得した様に頷くが、フリントはその横で難しい表情を浮かべていた。
「(イリアステルと……モーメント……)」
「こちらでも、モーメント・エクスプレスについて調べてみました。最近ではモーメントを利用した“物質転送装置”を開発しているとか」
「物質転送装置!? すげー! それって何なのミゾグチのおっちゃん!」
龍亜が興味ありそうに目を輝かせる。ミゾグチは携帯端末を起動させると、集めたモーメント・エクスプレスの情報を確認する。
「何でも、モーメントの力でワームホールを作り出し、空間を越えて物質を転送させるのだとか。……本当にそんなことが出来るのでしょうか」
「凄い! それが実現したら、サティスファクションタウンからあっという間にシティへ行けるわ! 逆もそう! ねえミゾグチさん、それって何時出来るの?」
「さあ……裏のルートで入手した情報ですから、世間に公表もされていません。まだ当分先かと。因みに、名称は“インフィニティ”だそうです」
この瞬間、ここまで黙って話を聞いていたフリントの表情が一変する。
「“インフィニティ”だと!?」
「フ、フリント!?」
フレアを押し退け、ミゾグチに詰め寄るフリント。その鬼気迫る表情にミゾグチも驚き、僅かに身を反らす。
「インフィニティ! インフィニティと言ったな!?」
「え、ええ……」
「間違いないんだな!? “インフィニティ”を擁するモーメント・エクスプレスが、イリアステルに協力していると!」
「ちょ、ちょっとフリント! 落ち着いて!」
あまりの様子に、フレアがフリントの腕を掴んで引く。フレアの言葉と皆の視線を受けたフリントは落ち着きを取り戻すと、腕を掴んだままのフレアを引っ張り、ガレージの外へと連れ出す。
「一体どうしたのフリント? “インフィニティ”がどうかしたの?」
「フレア……俺は遊星達の元へと向かう」
「遊星達のって……モーメント・エクスプレスまで?」
「急がなくては。俺が……俺が行かなければ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 遊星達は調査に行ったのよ? 何も考えずに乗り込んでっても迷惑なだけだよ! ……って、何これ? 今までと全く逆なんだけど」
まさか自分がフリントのブレーキになるとは思っていなかったフレアは妙な違和感を感じながらも、今にも飛び出して行きそうなフリントの腕を更に強く引く。
「なら私も行く! 今のフリントを一人には出来ないわ! 私が行くのが心配なら、皆で行きましょう!」
「いや、誰も付いてくるな。俺一人だけが向かう。そしてフレア、お前は絶対に残るんだ」
「またそうやって……ううん、確かに私はまだ未熟かもしれないけど、冷静じゃない貴方を一人には――――」
「聞け! フレア!!!」
フレアの言葉を遮る怒声を上げ、彼女の両肩を正面から掴むフリント。何事かとガレージ内の面々が顔を出す。フリントは彼等に聞こえない様に小さな声で話し始めた。
「フレア、頼む、お願いだ……ここに残ってくれ。お前にしか頼めないんだ」
「どういうこと……?」
「俺が行かなくてはならない。そして、俺が向かっている間、もしくは俺が敗れた場合……皆を守れるのはお前だけだ」
「え……?」
「もし俺の“予感”が正しければ、“あれ”にはシグナーでも対抗出来はしない。だが、お前なら出来る。お前は“希望の火”なのだ」
「…………」
「フレア、“決闘者”としてお前に頼みたい。皆を守れない俺の代わりに……ここに残ってくれ。頼む……」
肩に置いた手に力を入れ、フレアの青い瞳を見つめてから頭を下げるフリント。フリントの力が、フリントの本気が、掴まれている両肩から、見詰め合った眼から、フレアの心へと流れて行く。やがてフレアはフリントの手に自身の手を添え、ゆっくりと肩から外す。
「……ズルイよフリント。そんな風に言われたら、“嫌”だって言えないじゃん」
「俺を、見送ってくれるか?」
「……一つだけ教えて。どうして私を“希望の火”って呼ぶの? “決闘巫女”だから? これに答えてくれたら、見送ってあげる」
「…………」
口を閉ざすフリント。ここでフレアは“一歩”踏み込む。
「貴方が言う“私”って何なの? お願い、大事なことだから……答えて」
「……俺は、お前をずっと探していた」
「私を?」
「長い旅路の果て、漸く見つけた……俺の、俺の“生きた証”」
「フリント……?」
そう言うとフリントは踵を返し、フレアに背を向けてイグニッションに乗り込む。
「ここまで生きてきてよかった。お前の全てに、感謝する――――“ありがとう”」
イグニッションのアクセルを全開にし、フリントはその場から走り去る。フレアはその背を見送ったまま、その場から動かなかった。やがて、様子を見ていたガレージ内の一人、龍亜がガレージから飛び出し、龍可もその後に続いてフレアに近づく。
「い、一体どうしたのフレア姉ちゃん……あ!?」
「フ、フレアさんどうしたの!? フリントさんと何かあったの!?」
フレアはフリントを見送ったまま泣いていた。声一つ漏らさずに泣いていた。何故涙が流れたのかはフレア自身にも解らない。ただ一つ、自分の頬を伝うこの涙こそが、フリントが普段は見せない“心”を感じ取ったという証ではないか――――そう思う、フレアであった。
決闘パートが無いとやっぱり早く書けますね。次回はあるのでもしかしたら遅くなるかもです。
とうとうこの作品も60話。漸く前作を上回りました。
そして何時の間にか、書き始めてから2年が経ってました。前作のTOSが半年の連載でしたので、ハーメルンさんに投稿し始めてもう2年半以上になりますかね。休載中に2周年を迎えていました。だらだらし過ぎですね(汗)