遊戯王5D's ~荒野のデュエリスト~   作:鬼柳高原

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第61話 別れ ~フレア・ヴィルアース~

 フリントが出発してから1時間、イグニッションの性能ならそろそろモーメント・エクスプレス開発機構本社に到着している頃だろう。一方で、ガレージ内の空気は重苦しかった。

 

「フレア姉ちゃん、大丈夫かな……」

「きっと大丈夫、フレアさんだもの……」

 

龍亜と龍可が外に立ったままのフレアを見て心配そうに呟く。フレアは皆に事情を話した後“今は一人にして欲しい”といい、フリントを見送った姿勢で立ち続けていた。

 

「フン! 心配せずとも、フリントならば遊星達と共に戻ってくる。それにしても、気に入らんのはフリントだ! 俺達にまで来るなと言うなど、このジャック・アトラスが遅れを取るとでも思っているのか!」

「そういう問題じゃねぇと思うけどな。全員で行っても仕方が無ぇってことは遊星達と話し合った時から分かってたことだろ? フリントには何か考えがあるんだろうよ。ま、頼らねぇのが気に入らねぇってのは同意するがな……」

 

 

上の階でソファとチェアにそれぞれ腰掛けるジャックとクロウは、“待つ”という状況に飽き飽きしてきたのか、冷静を装いながらもピリピリとした気を見せ始める。

 

「私はッ! 不安でしょうがないですよ。あのフリントという男は恐ろしい男です。何をしでかすか分かりません。それが敵地へ乗り込んでいって吉と出るか、凶と出るか……ヒィ……」

 

 自分や妻子の安否が関わるイェーガーはフリントの独断行動に不安を感じているらしく、落ち着かない様子で部屋を歩き回っている。ミゾグチは一言も喋らず、椅子に座ったままシェリーの身を案じているのだろう。

皆が落ち着かない心を持て余し、重苦しい時間を過ごしていると、アキが立ち上がって外にいるフレアの元へと向かった。

 

「フレア、気持ちは解るけど、気を張り過ぎるのは良くないわ。ガレージの中へ戻りましょう?」

「……アキちゃん、ちょっとお話しよう」

 

 そう言ってフレアはアキの方へと振り向く。もう涙は流しておらず、アキはそれに安堵した様に微笑んで頷く。

 

「いいわよ。どうしたの?」

「私、前にフリントに言ったの。“ずっと一緒にいて”って。そしたらフリントは――――

 

 

 

お前が強くなるまで、俺がお前を守る。側にいる……

 

 

 

「――――そう言ってくれた。だから私、嬉しかった。フリントはずっと傍にいてくれるんだって……でも、今は解る。これって“違う”って」

「違う?」

「うん。……フリントの心に触れて、フリントが私から離れた時、やっと解ったの。本当に傍にいるってことは、隣り合って並ぶことでも、触れ合うことでもないの。大事なのは、心の中の自分とその人が、ずっと輝き続けること……」

「……“絆”、ね?」

「うん!」

 

 漸く戻ってきたフレアの笑顔に、アキも釣られて笑顔になる。やはり、フレアはこうでなくては――――アキは心の中でそう呟いた。

 

「確かに、触れられるくらい傍にはいて欲しい。でも、もう大丈夫! 寂しさや不安に負けなければ、大事な人は何時だってここにいるから!」

「解るわ、フレア……」

 

 眼を閉じて胸を押さえるフレアを見て、アキも同様に胸に手を当てる。浮かべるのは不動遊星。何度も拒絶した。何度も傷つけた。それでも諦めずにアキを受け止めた続けた遊星の姿は、絆としてずっとアキの心に刻まれている。

 

「それにね、フリントは“お前が強くなるまで”って言ったわ。だから……きっと“その時”が来たんだと思うの」

「……フレア、貴女は強くなったものね」

 

 フレアと再会した時、アキはフレアから今までに無い“力強さ”を感じていた。それが試練の成果だと聞かされた時、この無邪気に笑う親友はまた一つ強くなったのだと確信した。

 

「フリントは私を認めてくれたんだと思う。だから、ここを私に任せて“戦い”に行った。自分にしか出来ない、譲ることが出来ない大事な戦い……だから……!」

 

 

 フレアの笑顔が真剣な表情へと変わった後、目を潤ませる。俯き体を振るわせ始めたフレアをアキは抱きしめる。

 

「いいのよ、泣いたって。それは“弱さ”じゃなくて、“絆の強さ”の証……信じましょう、フリントを……」

「うん…………ッ!?」

 

 

 突然フレアが顔を上げ、上空を見上げる。射抜く様な視線を空に向けるフレアにアキも釣られて見上げるが、そこには雲や青空が広がるだけで何も無い。

 

「どうしたの?」

「来る……アキちゃん皆のところへ!」

 

 フレアはアキを引っ張ってガレージ内に飛び込むと、2階にいる面々を大声で呼ぶ。

 

「皆急いで! 降りてきて!」

「何だ騒々しい!」

 

 文句を言いつつも、フレアのただ事ではない様子に何かを感じたジャックは階段を駆け下り、クロウ、双子、イェーガー、ミゾグチも続けて降りてくる。

 

「ヒィィィ!? 一体何があったのです!? もしやイリアステルの追手!?」

「違うわ! でも何かが迫ってる! ……身構えて!」

 

 フレアがそう叫んだ瞬間、シグナー達4人の痣が光り、周りを赤い光が包み込む。それと同時に白い衝撃波がガレージの壁をすり抜け、津波の様にその場にいる全員を飲み込んだ。殆どの者が顔を伏せる中、フレアだけが白い激流に対して向かい合う。

 

「(大丈夫……赤き竜が守ってくれてる……)」

 

 その凄まじさ故に何時までも続くと思われたが、衝撃波は一瞬とも言える間に治まった。フレアを除く7人は何事かと辺りを見渡すが、自身達を含め何も変わっていない。

 

「何だったんだ今のは……フレア、お前は今のが何か知ってんのか?」

 

 クロウが首を傾げながらフレアに近づく。先程の衝撃波による影響はまだ確認出来ないが、皆にとって衝撃波と同じ位不思議なのがフレアの様子であった。衝撃波が迫るのを感じ取ったり、終始冷静であったり、明らかに皆が知るフレアの様子ではない。もしかして今の現象について何か知っているのではないかと思い、クロウは尋ねたのだ。

 

「分かんない。でも、善い物でもないと思う……うん、やっぱりそう思うよね」

 

 フレアは急に横を向くと、誰かと会話しているかの様に頷く。

 

「フレアさん、誰と話してるの?」

「あれ? 龍可ちゃん見えない?」

「何も見えないけど……何かそこにいるの?」

「そっか……もう私以外には見えないんだ」

 

 一人で納得しているフレアの前で首を傾げる龍可。そんな龍可の横に白い獅子が姿を現す。

 

『おそらく”ガーディアン・エアトス”だろう』

「レグルス! でも、それなら私にも見えるはずだけど……」

『精霊ならば。……今のエアトスは、限りなくフレアと”近い”存在なのです』

 

 レグルスによると、フレアとエアトスの魂は殆ど混ざり合っている状態らしく、それが原因でエアトスを精霊として感知することが難しくなっているという。高位精霊であるレグルスでも、存在を感知出来てもその姿を見ることが出来ない。

 

「フレアさんとエアトスが……人間と精霊が一緒になるなんて、そんな事がありえるの?」

『嘗て、”超融合”なる闇の禁術を用いてそれを為した者がいるとエンシェント・フェアリー様から聞いた事はあるが……見る限り、フレアのそれとはまた違う物のようだ』

「そのせいで、何時ものフレアさんと様子が違ったのかな?」

『分からない。だが、一つだけ言える事があります。……決闘者と精霊、その形としてあれは間違いなく最高のもの。嘗て私の背に跨った小さき戦士は、更なる高みへと上り詰めたようです』

 

 そう言ってレグルスは姿を消す。龍可は尊敬を込めた眼差しをフレアに向けようとするが、何時の間にかフレアの姿が消えている。それに気付いた瞬間、ジャックの声がガレージに響いた。

 

「何処へ行く!?」

 

 声が向けられているのはガレージの外。龍可はその声を追う様に外を見ると、フレアが慌ててガレージを飛び出して行く姿が見えた。

 フレアは坂を駆け上がり、ポッポタイムの前で空を見上げる。

 

「(また来る!? ……違う、さっきとは違う!?)」

「待てよフレア!」

「一体どうしたというのだ!?」

「フレア!」

 

 詰め寄っていたクロウ、声を上げたジャック、フレアに一番気を掛けていたアキという順に次々とガレージを飛び出しフレアの後を追う。双子も遅れながらその後に続いた。

 

「駄目!? 来ちゃ駄目ぇ!?」

 

 フレアが駆け寄ってくる5人に振り向いた瞬間、目の前の空間が裂け、そこから無数の光る触手が飛び出す。

 

「「 きゃ!? 」」

「「 何!? 」」

「龍亞ぁーーーー!?」

「龍可ッ!? くそぉ!?」

 

 触手はフレアとシグナー4人を捕えると、空間の裂け目の中へと引き込もうとする。それぞれ抵抗を試みるが、一人、また一人と裂け目の中へと引き込まれる。一人無事であった龍亞は最後に引き込まれようとしていた龍可を捕えている触手に向かって飛びつき、振り落とされそうになりながらも必死にしがみつく。

 

「ヒィィィ!? こ、これは一体……」

「いかん!?」

 

 騒ぎを聞きつけて出て来たイェーガーとミゾグチ。慌てふためくイェーガーを横にミゾグチは双子の救出を試みるが、ミゾグチが辿り着く前に触手は双子を持ったまま裂け目へと引っ込み、空間を閉じてしまった。

 二人は目の前で起きた出来事に呆然としながら、昼下がりの静かな噴水広場に立ち尽くすのであった。

 

 

 * * *

 

 

「うわぁぁぁ!?」

「きゃぁぁぁ!?」

 

 最後に引き込まれた二人。必死にしがみついている龍亞に余裕は無いが、捕えられている龍可は何とか恐怖を抑え、辺りを見渡す。

 

「(何……ここ……?)」

 

 そこは明らかに元いた世界とは違う世界。空は赤く染まり、地には瓦礫だけが広がっている、酷く荒廃した世界であった。

 

「龍可ッ……うわぁ!?」

「龍亞!? きゃあ!?」

 

 龍亞が力尽きて手を離してしまうのと同時に、龍可は触手から解放され、空中に放り出される。地へと向かう重力を感じ、落下が始まる。もう駄目だと二人が思った瞬間、龍可の痣が光を放った。

 

「赤き竜!?」

 

 光は双子を包み込み、ゆっくりと地面へ降ろす。地に下りた二人は暫く呆然とした後、声を上げて抱き合った。

 

「うわぁぁぁ龍可! よかったぁぁぁ~~~!」

「龍亞……! 良かったっ……!」

「無事で何よりだが、喜んでばかりもいられねぇようだぜ!」

 

 抱き合う二人が聞こえてきた声の方へと向くと、そこには身構えているクロウとジャック、アキの姿があった。同じ様に赤き竜の力に助けられたようだ。

 

「皆! ……待って、フレアさんは!?」

 

 そう言って龍可がクロウ達が身構えている方へ振り向くと、そこには触手を操っている主がいた。

 

「あ、あ、あ……あれって!?」

 

 龍亞が顔を驚愕に染めて体を反らせる。それでも妹の前に出て守ろうとする姿勢は流石であった。

 シグナーと龍亞の目の前にいるのは巨大な白いロボット。その胸の中心には光るコアが収められており、そのコアから触手が伸びている。伸ばしていた6本の触手の内、5本はコアに戻し、残った1本の触手は未だにフレアを捕えていた。

 その姿を見て驚愕したのは龍亞だけではない。後ろにいる龍可も、先に対峙していた4人も同様であっただろう。6人を攫い、この世界に連れて来た者、それは――――

 

「くっ……”機皇帝”……何でこんな所に……!?」

 

 触手に締め上げられながらフレアは機皇帝”ワイゼル”の頭部であるワイゼルTを見下ろす。

 

「あれがいるってことは……やいイリアステルども! 何処にいやがる! 隠れていねぇで出て来いよ! 人質まで取りやがって!」

 

 クロウが辺りに向かって声を張り上げるが、反応は一切無い。機皇帝がここにいるのなら、使い手である”イリアステルの三皇帝”も近くにいるはず。そう思って彼等を捜す5人だが、影も形も見当たらない。

 

「ちっきしょぉ……出て来いよコラァ!」

「騒ぐなクロウ! 出て来たとしても、決闘盤も無い俺達に何が出来る?」

 

 ジャックが怒り狂うクロウの肩を掴む。ここにいる全員が慌ててフレアを追ってガレージを飛び出した為、決闘者の武器である決闘盤を装着しておらず、持っているのは決闘者の魂であり、肌身離さず持ち歩いているデッキのみであった。何時もガンベルトを身に付けているフレアでさえも、今は決闘銃を持っていない。例えるならば、フレア達は銃を持たず、銃弾だけを持って最強の敵と対峙してしまっているのである。これでは戦う事など出来ない。

 

「だけど、このままで良いわけねぇだろう! フレアがまだ捕まっちまってんだぞ!」

「言われんでも分かっている! だがガキの様に喚けばどうにかなる訳でもあるまい!」

 

 悔しそうに歯を食いしばるクロウ。それと同時にアキが視線を落とす。

 クロウとジャックは得意なリアルファイトを仕掛けるという考えが苛立つ頭にチラついているが、あの巨大ロボットに対してはあまりにも無謀な行為である上、下手にぶつかって相手を刺激し、捕えられているフレアやここにいる全員に危険が及ぶ可能性がある為、行動に踏み出せない。アキは決闘盤が無ければサイコ・デュエルのパワーを発揮することも出来ない。更に、自身のサイコ・パワーが日に日に失われていくのをアキは感じ取っており、決闘盤があったとしても力を発揮出来ない可能性がある。

 

「くっ……! こういう時に何とかしてくれねぇのかよこの痣は!」

 

 悔しげに自身の腕にある”ドラゴン・テイル”の痣を叩くクロウ。シグナー達の痣は先程から変わらずに光り続けているが、シグナー達の地面への衝突を防いでからは何も効果を見せない。そのせいか、光り方が何時もより弱く感じられた。

 

「もしかして……遊星がいないから?」

 

 龍可が腕の”ドラゴン・クロー”の痣を撫でながら不安そうに呟く。シグナーの頭である”ドラゴン・ヘッド”を欠いている今、赤き竜の力が普段よりも弱まってしまうことは十分に考えられた。シグナーの中心、そこには何時でも遊星がいたのである。だが、ここは遊星がいない次元すら飛び越えた異世界。次元の壁はシグナーの絆すら断ち切ってしまうのか――――

 

「そんな訳あるまい! 俺の熱き魂で奴の分まで補ってくれる!」

 

 ジャックは”ドラゴン・ウィング”の痣を示し、胸に拳を当てる。しかし、その胸に”バーニング・ソウル”は輝かない。

 くそっ、と悔しげに拳を振るうジャックの横で、アキは自身の”ドラゴン・レッグ”を見詰めた。

 

「(一時は忌んだ印……それでも、この痣は私達を繋ぎ止め、助けてくれた……遊星)」

 

 アキは胸の前で手を組み合わせ、祈る様に俯いた後、捕えられているフレアを見上げた。

 一方、ワイゼルTを見下ろしているフレアは、何とかもがいて触手の拘束から抜け出そうとするが、まったく上手く行かない。何故こんな所へ自分達を連れてきたのか、何故自分を何時までも捕えているのか、それを問う様な視線をワイゼルTに投げかける。

 

「(何でこんな所に機皇帝が……しかもこの形のは遊星が倒したって聞いたのに…………な!?)」

 

 

 

 オオォォォ…………ウウウ…………オオォォォォォォ!!!

 

 

 

 突然聞こえてきた、声にならない唸りと怒号。頭の中から発せられ、その中でのみ響き渡るような感覚をフレアは覚える。

 

「な、何なのこれ……今のは……アナタ?」

 

 フレアが再びワイゼルTを見下ろすと、その赤く光るアイセンサーはフレアに向けられていた。アイセンサーは軽いアラーム音を鳴らしながら、フレアの顔のある一点に注目し、拡大表示する。その一点とは、曇りが無い澄み切った”青い瞳”――――

 

 

 

 オオオ……ァ……ナー……ォオオォォォーーーーー!!!

 

 

 

 謎の怒号は、機皇帝から発せられているものではなかった。だが、それとは別に凄まじい気がフレアを襲った。重苦しく、怒りと悲しみに満ちた、息が詰まるような不快感。フレアはこれが何なのか知っていた。

 

「(……”憎悪”。物凄い”憎悪”。私の頭に声が響く度に、機皇帝がぶつけてくる……!?)」

 

 ワイゼルは触手を高く振り上げると、そのまま振り下ろすと同時にフレアを解放した。つまり、フレアを地面に叩き付けようと投げ飛ばしたのだ。

 

「「「 フレアッ!!?」」」

「フレアさん!?」

「フレア姉ちゃん!?」

 

 シグナーと龍亞が叫ぶ。謎の声が叫ぶ。悲鳴を、怒号を、二つの叫びがフレアの中で混ざり合った瞬間、フレアの感覚が一気に研ぎ澄まされ、周りの時が止まる。止まった時の中で、フレアはワイゼルを見詰めた。

 

「(あの機皇帝が、フリントの言った”あれ”なのかは分からない。でも、理解しちゃった……あれが私の”相手”。果たさなきゃならない”決闘巫女の使命”!)」

 

 フレアが腰のデッキケースから1枚のカードを取り出すと、再び時が動き出す。仲間の悲鳴、憎しみの怒号、風を切りながら落ちる自分――――全てを感じ取りながら、決闘巫女は詠唱する。

 

「星海を切り裂く一筋の閃光よ! 魂を震わし、世界に響け! 光差す”絆”の決闘竜! 《閃珖竜 スターダスト》!!!」

 

 フレアの手のカードから光が飛び出すと、それが閃珖竜へと姿を変え、落下するフレアを背中に乗せて舞い上がる。

 

「あれは!?」

「スターダスト!? 何でフレアがアレを持ってやがんだ!?」

 

 まさかのスターダスト・ドラゴンの登場に驚愕するジャックとクロウ。アキと龍亞も同じ反応を見せるが、龍可だけは違う様子で竜を見上げていた。

 

「違う……遊星のスターダスト・ドラゴンじゃない」

「違うって、どう違うの龍可?」

「上手く言えないけど……あのドラゴンからフレアさんを感じるの。とても暖かい……フレアさんの力を……」

 

 首を傾げる龍亞を横に空を舞うフレアを見上げる龍可。フレアは閃珖竜を操りながらワイゼルの触手攻撃を避け、閃珖竜と共にシグナー達の元へ降り立つ。それと同時に双子の悲鳴が上がった。

 

「「 危ない!? 」」

 

 降り立った瞬間、左腕のブレードをフレアに向かって振り下ろすワイゼル。閃珖竜はそれを見切っていたかの様に翼を広げ、”波動音壁”を張ってブレードを弾く。

 

 

 ブゥゥゥ………ナァァァダァァァーーーー!!!

 

 

 攻撃を防がれたワイゼルがアイセンサーを強く発光させると、怒り狂う声がフレアの中で響く。

 

「(その怒りの理由は何なの? 答えて……)」

 

 

 バァァァーーーーナァァァーーーー!!!

 

 

「(何を叫んでいるの? アナタが向ける憎しみは、何に対して?)」

 

 

 オオオ……ロォォォ……クゥゥゥ……バァァァナァァァドォォォーーーー!!!

 

 

「(”バーナード”!? それは……人の名前? でも、何だか……)」

 

 フレアはバーナードなる人物の事は知らない。だがその名には薄らと聞き覚えがあった。何処で聞いたのか、誰に聞いたのかは思い出せない。

 

 

 ハァァァ……アアァァァーーーー!!!

 

 

「!?」

 

 ワイゼルがアイセンサーとコアから眩い光を放ち、号令を掛ける様にブレードを掲げると、空から青と黄土色の卵の様なカプセルが2つ現われる。それぞれが砕け散ると中からワイゼルと同じ光るコアが現われ、2体の機皇帝へと姿を変えた。

 

「あ、あれはスキエル!?」

 

 龍亞が青い機皇帝を指差し、クロウは黄土の機皇帝を見て舌打ちを鳴らす。

 

「あっちは確か、グランエルとかいったな……3体同時たぁ、インチキもいい加減にしやがれってんだ!」

 

 遊星と決闘の手段を欠いた状況で機皇帝3体――――インチキと罵ったクロウと皆の心境は同じであろう。勝てるわけが無い。胸に絶望が迫るシグナー達にスキエルは腹の砲身を、グランエルは左腕の砲身を、ワイゼルは左腕のブレードを向け、一斉に光線を放つ。

 

「(フリント……私が、皆を守る!)」

 

 フレアは閃珖竜と共に機皇帝達の攻撃の前に躍り出ると、右腕を掲げて叫ぶ。

 

「赤き竜よ! 今だけでいい! シグナーを束ねる力を、私に!」

 

 その瞬間、シグナー4人の痣が強く光る。その光がフレアに向かって放たれると、一つとなってフレアの右腕に宿り、仮初の”ドラゴン・ヘッド”を描く。

 

「これで5人! 赤き竜!」

 

 フレアが痣をシグナー達と龍亞の方へと向けると、彼等の周りを赤い障壁が囲み、機皇帝達の攻撃を全て防ぎ切った。

 

「フレアの腕に……遊星の痣が!?」

「どうなっている……!?」

 

 驚きながらフレアを見上げるアキとジャック。閃珖竜がゆっくりと降下し、フレアが障壁をすり抜けて皆の側に駆け寄る。

 

「皆! 無事?」

「フレア、そいつは一体……」

「ゴメンクロウ、今は説明している暇はないの。……私が、あれと戦う。皆はここで待っていて」

 

 その言葉に、全員が驚いてフレアを引き止める。

 

「何を言っている!? 決闘盤も無いのにどう戦うつもりだ!?」

 

最初はジャック。

 

「決闘盤は無くても大丈夫。戦える……」

「まさか、そこのスタダモドキで戦うってんじゃねぇだろうな!」

 

 次にクロウ。障壁の外で機皇帝を威嚇している閃珖竜を指差す。

 

「ううん、私が決闘で倒すわ」

「……今の貴女にはその手段があるのかもしれないけど、一人で行くなんて! 私も一緒に行くわ! もしかしたら……いいえ、絶対にサイコ・パワーで貴女を助けてみせる!」

 

 次にアキ。決意に満ちた眼でフレアを見つめるが、フレアは首を振る。

 

「ありがとうアキちゃん。でも、あれはサイコ・パワーじゃどうにもならない。私がどうにかしなくちゃならないの」

「で、でも! 危ないよ! フレア姉ちゃん一人じゃ無理だ!」

 

 龍亞が泣きそうな顔でフレアに縋りつく。龍可は何も言わないが、同じ表情でフレアの腕を掴んだ。フレアはそんな二人の頭を撫でながら言った。

 

「うん、きっと私一人じゃ勝てない。だから、皆の力を貸して欲しいの。……お願い、皆の”絆”を、私に……」

 

 ドラゴン・ヘッドが輝く右腕を胸に当ててから、5人の中心となる位置に差し出すフレア。暫く沈黙が続くが、アキがその手を重ねた事により破られる。

 

「不思議だわ。何でか、遊星がここにいるみたい。……私は、貴女を信じるわ」

 

 アキの言葉が終わると、次は双子が手を重ねる。

 

「フレアさん……」

「フレア姉ちゃん……絶対に勝ってよ!」

「やれやれ……何時の間にこんなに勇ましくなったんだろうなぁ、サテライトであったあのお嬢ちゃんはよ」

 

 続いてクロウが笑いながら手を重ねる。

 

「フン! デカイ口を叩いたな。ならば見せてみろ! お前の力を!」

 

 最後にジャック。ここに、6人の”絆”が繋がった。掌を通して、目に見えない”力”がフレアに流れ込む。

 

「……皆、ありがとう! 行ってきます!」

 

 フレアは踵を返すと閃珖竜に飛び乗り、再び舞い上がる。先程から閃珖竜や障壁に攻撃を仕掛けていた機皇帝達のアイセンサーが同時にフレアを捕えると、今度はフレアに向かって一斉に攻撃を放つ。

 

「〈波動障壁〉!」

 

 閃珖竜はスキエル、グランエルの砲撃を避け、ワイゼルの剣撃を波動障壁で受け止める。

 

「機皇帝……いいえ、憎しみの主! アナタのそれは世界を、人を、私の大事なものを傷付ける!  だから……私はアナタを倒す! 仲間達と共に!」

 

 フレアが痣の腕を掲げると、眩い光を放つ。全員が眼を伏せ、再びフレアを見ると、何時の間にかフレアの姿が見慣れないものに変わっていた。

 カウガールスタイルだった服装が古代神官を思わせる白い装束へと変わり、束ねていた金髪は解け、背中に広がる。手には立派な装飾が施された杖を持ち、目の前には5枚の大きな石版が宙に浮いて並ぶ。フレアの突然な変わり様に、5人は眼を見張って見上げていた。

 

「アナタの憎しみ……この決闘巫女が打倒す! 行きます――――」

 

 

 

「 ディアク!!! 」

 

 

 

 決闘巫女フレアと、機皇帝達の決闘が始まる。最初の相手はワイゼル。

 相手は決闘者どころか人間ですらない兵器なので、特殊なルールが適応される。

 

ワイゼルのフィールド

LP:4000

手札:5

モンスター

・機皇帝ワイゼル∞

・ワイゼルT

・ワイゼルA

・ワイゼルG

・ワイゼルC

魔法・罠

・無し

 

「機皇帝が召喚された状態でスタートだと!?」

「だからインチキはいい加減にしろって言ってんだろが!」

「二人共危ない! 下がって!」

 

 ジャックとクロウが憤慨して前に出ようとすると、アキが二人を引っ張って止める。その瞬間、グランエルとスキエルの砲撃が障壁の前で爆ぜるが、それでもジャックは怯まず、前に出てフレアに呼びかけた。

 

「ヌゥゥ、フレア! ワイゼルやスキエルについては遊星から聞いているな? 油断するなよ!」

「うん! 私のターン!」

 

 フレア 手札:5→6

 

 フレアのドローフェイズに入ると、新しい石版が現れ、6枚となる。スタンバイ、メインへと移ると、フレアは杖で3枚の石版を指し示した。

 

「永続魔法《強欲なカケラ》を発動! モンスターをセット! カードを伏せてターンエンド!」

 

LP:4000

手札:3

モンスター

・セット

魔法・罠

・強欲なカケラ

・セット

 

 フレアの第一手は様子見。相手が機皇帝だという事もあり、慎重である。しかし、機皇帝にはその様な駆け引きは関係ないと言わんばかりに、ワイゼルは一気にその姿を変える。

 

 ワイゼル 手札;5→6→3

 

 頭、左腕、右腕を構成するパーツが消滅すると、新たなるパーツが現れ、胴体と繋がる。

 

モンスター

・機皇帝ワイゼル∞

・ワイゼルT3 ATK:600

・ワイゼルA3 ATK:1600

・ワイゼルG3 DEF:2000(ATK:0)

・ワイゼルC  ATK:800

 

 ATK:2500→3000

 

「いきなり強化パーツを!?」

 

 遊星や双子の話によると、機皇帝には上位ランクのパーツが存在し、下位のパーツをリリースすることで交換出来るという。上位パーツには強力な効果が備わっており、遊星や双子は大いに苦しめられた。その強化パーツが一気に3つも取り付けられたのである。

 フレアは遊星から聞いたそれぞれのパーツの効果を思い出す。

 

「(頭は確か、発動した魔法・罠を無効。右腕は戦闘誘導と破壊耐性。左腕は貫通効果……) ……きゃ!?」

 

 考え込むフレアに向かって、スキエルの砲撃が襲い掛かる。閃珖竜が”波動障壁”で何とか防ぎ、続けて放たれたグランエルの砲撃をギリギリのところで避ける。

 

「決闘中に狙うなんて卑怯だぞ!」

「フレアさん……」

 

 フレアの身を案じる双子達。フレアは彼等に向かって大丈夫と言う様に手を振ると、再びワイゼルと向き合う。

 ワイゼルはセットモンスターの石版に向かって触手を伸ばし、締め上げて砕いてしまう。砕け散った石版の欠片はフレアに向かって降り注ぐ。

 

 巨大ネズミ DEF:1450

 

「っ!? ……くっ、セットモンスターは《巨大ネズミ》! 戦闘破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下の地属性を攻撃表示で特殊召喚! 来て、《荒野の女戦士》!」

 

 フレア LP:4000→2450

 

 フレアの場に新たな石版が現れると、その中から荒野の女戦士が現れる。

 

 ATK:1100 レベル4

 

「(大きいダメージ貰っちゃったけど、これで次に――――!?)」

 

 フレアが次の手に繋がった事を確信した瞬間、ワイゼルのブレードが女戦士を両断し、破壊する。

 

 フレア LP:2450→1950

 

「どういう事だ!? 奴の攻撃は既に終了したはず!?」

 

 ジャックがそう叫ぶと、クロウはある事に気付いた様にハッと顔をワイゼルに向ける。その決め手は、攻撃を行った部位とダメージ量――――

 

「――――何てこった!? 独立してやがる!?」

「イリアステルの機皇帝は5体で1体。でも、この機皇帝は1体1体が独立して動けると言うの……!?」

 

 アキも動揺しながら機皇帝を見上げる。下手をすれば一気に攻め込まれ、LPを削り切られてしまうだろう。しかし、そんな事実が判明してもフレアの闘志は揺るがなかった。

 

「女戦士の効果発動! 戦闘破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下の地属性・戦士族を攻撃表示で特殊召喚! 来て、《ターレット・ウォリアー》!」

 

 場に再び石版が現れると、そこからターレット・ウォリアーが飛び出す。

 

 ATK:1200 レベル5

 

 新たに現れたモンスターを凝視するワイゼルであったが、残りのパーツの攻撃力では破壊出来ないため、一度身を引く。

 

LP:4000

手札:3

モンスター

・機皇帝ワイゼル∞

・ワイゼルT3

・ワイゼルA3

・ワイゼルG3

・ワイゼルC

魔法・罠

・無し

 

 何とかモンスターを繋いだフレアであったが、相手の強化されたワイゼルは手強い。ワイゼルG3によってそれ以外を攻撃対象にする事が出来ず、更にG3は1度だけ戦闘破壊されない。ワイゼルT3は魔法・罠を無効にし、ワイゼルA3はダメージを貫き通す――――シンクロ・キラーに留まらない強さだが、フレアはどう動くか。

 

「私のターン!」

 

 フレア 手札:3→4

 強欲なカケラ カウンター:0→1

 

「チューナーモンスター《ドリル・シンクロン》を召喚!」

 

 フレアが手札の石版の1枚を指し示すと、そこからドリル・シンクロンが飛び出す。

 

 ATK:800 レベル3

 

「チューナーだと!? フレア、相手が何なのか分かっているのか!?」

 

 フレアが召喚したモンスターを見て、ジャックが咎める様に叫ぶ。しかし、フレアは笑みを浮かべながらジャックに振り向いた。

 

「そう、チューナー! 私はシンクロで勝負するわ!」

「何を馬鹿な! 俺や遊星ならともかく、ただのシンクロモンスターでは吸収されてしまうぞ!」

「確かに、私にはアクセル・シンクロもバーニング・ソウルも無いけれど……私には皆から受け取った”思い”がある! ジャック!」

「何だ!」

「ジャックの思い、”熱いパワー”があれば、機皇帝なんてイチコロ! でしょ?」

 

 あまりにも状況に合わないフレアの陽気な態度と余裕に思わず苦笑するジャック。拳を握り締め、胸に当てる。

 

「言うではないか! ならば見せてみろ! 俺が与えた、お前の”熱き魂”を!」

 

 ジャックの言葉に頷いたフレアは、まだ石版になっていない閃珖竜のカードを取り出し、祈る様に目を瞑る。

 

「(今私に必要なのは、思いを貫き通す為の”力”。あの憎しみを砕き、皆を守る為の……”力”!)」

 

 フレアが念じると、閃珖竜のカードが分裂し、白紙のカードが生み出される。そのカードに赤き竜の紋章が浮かび上がった後、1枚のシンクロモンスターへと姿を変えた。

 

「……レベル5《ターレット・ウォリアー》に、レベル3の《ドリル・シンクロン》をチューニング!」

 

 ドリル・シンクロンが自身を3つの光輪へと変え、ターレット・ウォリアーを囲むと、5つの光、そして光の柱へと変える。

 

「漆黒の闇を裂き、天地を焼き尽くす孤高の絶対王者よ! 万物を睥睨し、その猛威を振るえ! シンクロ召喚! 気高き”力”の決闘竜! 《琰魔竜 レッド・デーモン》!」

 

 柱の中から現れたのは、レッド・デーモンズ・ドラゴンと同じ姿をした竜。圧倒的な力強さ、禍々しい凶悪さ。どれをとってもレッド・デーモンズと瓜二つである。

 

 ATK:3000 レベル8

 

「こ、今度はレッド・デーモンズ!? どうしてフレア姉ちゃんが……」

「あれも、レッド・デーモンズじゃない……あのドラゴンから、フレアさんとジャックの思いが溢れてる……」

 

 双子の言葉と同時に、皆が一斉にジャックの方へと向く。ジャックの腕のドラゴン・ウィングは強い光を放ち、取り出したレッド・デーモンズも同様に光を放っている。

 

「あのドラゴンは、龍可の言う通りレッド・デーモンズではない。何故レッド・デーモンズと同じ姿なのかは知らんが、一つだけ言える事がある。それは――――」

 

 ジャックはレッド・デーモンズのカードを琰魔竜に向かって掲げる。

 

「こいつも奴も、揺ぎ無い”絶対王者”だという事だ! やれフレア! 粉砕しろ!」

「うん! 琰魔竜 レッド・デーモンの効果発動! 1ターンに1度、このカード以外の攻撃表示モンスターを全て破壊する! 〈真紅の地獄炎(クリムゾン・ヘル・バーン)〉!」

 

  琰魔竜が咆哮を上げると、ワイゼルの機体全体が一瞬で炎に包まれる。それぞれのパーツは蒸発し、炎が消えると残されていたのはワイゼルの光るコアだけであった。

 

「カードを1枚伏せ、魔法カード《破天荒な風》を発動! レッド・デーモンの攻撃力を次の私のスタンバイフェイズまで1000ポイントアップ!」

 

 琰魔竜の拳に風が纏わりつくと、拳から発せられた炎が激しく燃え盛る。

 

 ATK:3000→4000

 

「バトル! レッド・デーモンで直接攻撃!」

 

 琰魔竜が燃え盛る右拳を振り上げると、体を失って漂うコア目掛けて突進する。

 

「いっけぇぇぇ! 【極獄の絶対独断(アブソリュート・ヘル・ドグマ)】!!!」

 

 琰魔竜の拳が正確にコアを捉え、燃え盛る拳で撃ち貫く。コアは粉々に砕け、炎によって消滅した。

 

 ワイゼル LP:4000→0

 

LP:1950

手札:1

モンスター

・琰魔竜 レッド・デーモン

魔法・罠

・強欲なカケラ

・セット

・セット

 

「やったぁ! フレア姉ちゃんが勝ったぞ!」

「喜ぶのはまだ早い! まだ2体残っている!」

 

 ジャックの言う通り、ワイゼルが消滅すると、2体掛かりで障壁を攻撃していたスキエルが障壁をグランエルに任せ、フレアの方へと向かう。

 

「今度はスキエル……行くよ!」

 

 

「 ディアク!!! 」

 

 

 スキエル 手札:5→6→2

 

 スキエルのターンになると、スキエルはワイゼルと同じ様に自身に強化パーツを取り付ける。

 

モンスター

・機皇帝スキエル∞

・スキエルT ATK:600

・スキエルA5 ATK:1400

・スキエルG ATK:200

・スキエルC5 ATK:800

 

 ATK:3000

 

 今までのスキエルとは違い、収納式のエネルギー砲、尻尾の代わりに大きく広がったジェットエンジン付きの後翼を持つ姿へと変わった。装着を終えたスキエルは、コアから無数の触手を伸ばし、琰魔竜を取り込もうとする。

 

「速攻魔法《神秘の中華なべ》を発動! 《琰魔竜 レッド・デーモン》をリリースし、その攻撃力4000ポイントLPを回復!」

 

 触手が琰魔竜を捕えようとするも、それよりも早く琰魔竜は光の粒子となり、フレアのLPへと変わる。

 

 フレア LP:1950→5950

 

「おいおいフレア!? 確かに盗られちまうよりはましだが、がら空きになっちまったぜ? どうするつもりだ?」

「大丈夫だよクロウ! レッド・デーモンの命は必ず繋がる!」

 

 そう言ってスキエルと向かい合うフレア。スキエルは空振った触手をフレアに向かって伸ばす。

 

「罠カード《ガード・ブロック》を発動! ダメージを0にして1枚ドロー!」

 

 触手が光の障壁によって弾かれ、それと同時にフレアはカードをドローする。

 

 フレア 手札:1→2

 

 大きな一撃は防ぐ事が出来たが、スキエルの攻撃はそれだけではない。スキエルTからビーム、スキエルA5からエネルギー砲が放たれ、フレアを襲う。

 

「くうっ……ううっ!」

 

 フレア LP:5950→5350→3950

 

 射撃によって怯んだ閃珖竜の隙を突き、スキエルは接近してスキエルG、スキエルC5をフレアに撃ちつける。

 

「くうっ!? きゃあ!?」

 

 フレア LP:3950→3750→2950

 

LP:4000

手札:2

モンスター

・機皇帝スキエル∞

・スキエルT

・スキエルA5

・スキエルG

・スキエルC5

魔法・罠

・無し

 

 機皇帝の巨体を撃ちつけられたフレアはバランスを崩し、閃珖竜から落下する。仲間達が悲鳴を上げるのと同時に閃珖竜は急降下し、フレアを背で受け止める。

 それを確認したクロウは大きく息を吐いた後、フレアに向かって声を張り上げた。

 

「ほれ見ろ! 冷や冷やさせやがって! こっからどうすんだよフレア!」

 

 戦えず、ただ見ていることしか出来ないことに対する苛立ちのせいか、フレアに対して怒りの口調で言葉を投げかけるクロウ。だがフレアは気にした様子も無く笑顔を返す。

 

「大丈夫だよクロウ! 必ず繋がるから!」

「何がだよ!?」

「”思い”は必ず繋がる! ピアスンからクロウへ、クロウから子供達へ”思い”が繋がった様に!」

「!」

「そして……繋がった思いは”昇華”する! 私のターン!」

 

 フレア 手札:2→3

 強欲なカケラ カウンター:1→2

 

「《強欲なカケラ》の効果発動! カウンターが2つ乗ったこのカードを墓地へ送る事で、カードを2枚ドロー!」

 

 フレア:3→5

 

「相手の場だけにモンスターが存在する場合、手札からチューナーモンスター《こけコッコ》をレベル4で特殊召喚できる!」

 

 フレアが示した手札の石版から、こけコッコが現れ、短い翼を必死に羽ばたかせる。

 

 ATK:1600 レベル5→4

 

「このカードは手札から特殊召喚できる! 《俊足なカバ バリキテリウム》を特殊召喚!」

 

 続けて別の石版から、サングラスとマントを身に纏った二足歩行のカバが現れる。

 

 ATK:1600 レベル4

 

 場に2体のモンスターを揃えたフレアは再び閃珖竜のカードを手に取る。

 

「(”思い”は紡がれるもの……思いと思いが繋がって翼となり、何処までも羽ばたいて行ける。何よりも速く、高く……大空よりも遠く、高く、何処までも……)」

 

 フレアが祈ると、閃珖竜のカードが再び分裂し、新たなる決闘竜を創造する。

 

「……レベル4《俊足なカバ バリキテリウム》に、レベル4《こけコッコ》をチューニング!」

 

 こけコッコが自身を4つの光輪へと変え、バリキテリウムを囲むと、4つの光、そして光の柱へと変える。

 

「漆黒の風を纏い……末世から飛翔せよ! シンクロ召喚! 思いを繋ぐ”昇華”の決闘竜! 《玄翼竜 ブラック・フェザー》!」

 

 柱の中から姿を現したのは、ブラックフェザー・ドラゴンと同じ姿のドラゴン。ブラックフェザー・ドラゴンとの違いを挙げるならば、常にその翼が黒く、赤く染まっていることか。

 

 ATK:2800 レベル8

 

「今度は俺のブラックフェザー……おいおい! こんなん見せられたら期待するしかねぇじゃねぇか!」

 

 光を放つドラゴン・テイルとブラックフェザー・ドラゴンを掲げながら、クロウは先程の苛立ちを吹き飛ばす。

 

「でも、スキエルGとC5にはそれぞれ攻撃を無効にする効果があるはず。あのドラゴン1体では突破は無理だわ! フレア、どうするつもりなの?」

 

 アキの問い掛けに対し、フレアではなく玄翼竜が鋭い咆哮を上げて応える。

 

「!?」

「大丈夫だよアキちゃん、ブラック・フェザーが必ず繋げてくれるから! ……魔法カード《火炎地獄》を発動! 相手に1000ポイントのダメージを与え、自分にも500ポイントのダメージを与える!」

 

 フレアが指し示した石版から凄まじい炎が噴出すと、炎が接近していたスキエルとフレアを包み込む。これにはスキエルも堪らず、フレアから一旦距離を取る。

 

 スキエル LP:4000→3000

 フレア LP:2950→2450

 

「あちち……」

「フ、フレア……こんな状況で自分からダメージを――――」

「いや違うぜアキ! アレが俺のブラックフェザーと似てるなら、きっとその効果もだ!」

 

 クロウが睨んだ通り、フレアがダメージを受けた瞬間、玄翼竜の目の前に石版が5つ現れ、玄翼竜はその石版全てを咆哮で砕く。

 

「玄翼竜 ブラック・フェザーの効果発動! 1ターンに1度、私がダメージを受けた時、デッキトップからカードを5枚まで墓地に送ることが出来る!」

 

墓地へ送られたカード

・チューニング・サポーター

・キーマウス

・スキル・サクセサー

・黒蠍-強力のゴーグ

・ダンディライオン

 

「モンスターが墓地へ送られた場合、攻撃力を400ポイントアップする! 〈黒翼再戦(ブラック・リベンジ)〉!」

 

  玄翼竜はその玄翼を広げ、羽を辺りに散らせると、先程よりも鋭い大咆哮を上げる。

 

 ATK:2800→3200

 

「そしてダンディライオンの効果で2体の綿毛トークンを特殊召喚!」

 

 ATK:0 レベル1

 ATK:0 レベル1

 

「アキちゃん、私、アキちゃんに逢えてよかった!」

「フレア? ……ええ、私もよかった! 貴女に逢えて!」

 

 フレアの突然な言葉に戸惑わず、アキは優しげな表情で返事を返す。

 

「アキちゃんも私も、今まで辛い事や悲しい事が沢山あったけど……でも、乗り越えてきてよかったよね!」

「ええ……遊星、フレア、仲間達皆……破壊の快楽と共に闇へと沈んでいた、私にとっての……”光”!」

 

 感極まって胸を押さえるアキ。フレアも同じ様に手を胸に当てる。通じ合っている、繋がっている、心が、思いが、絆が――――暖かな火が灯る。

 

「……チューナーモンスター《デブリ・ドラゴン》を召喚!」

 

 フレアの石版から現れたのは、小さなスターダスト・ドラゴンと言える竜。遊星も愛用しているチューナーモンスター、デブリ・ドラゴンである。

 

 ATK:1000 レベル4

 

「効果発動! 墓地から攻撃力500以下のモンスター1体を効果を無効にして特殊召喚する! 《チューニング・サポーター》を特殊召喚!」

 

 続けて場にチューニング・サポーターが現れる。これでフレアの場に複数のモンスターが揃った。フレアは3度目の”創造”を始める。

 

 ATK:100 レベル1

 

「(今のアキちゃんに、破壊の力……”冷たい炎”は相応しくない。アキちゃんにも、私にも、皆にも、きっと待っているはず……暖かい”光”に照らされた未来が!)」

 

 

 閃珖竜のカードが分裂し、新たな決闘竜を創造する。

 

「……レベル1《綿毛トークン》2体と、レベル1《チューニング・サポーター》に、レベル4《デブリ・ドラゴン》をチューニング!」

 

 デブリ・ドラゴンが自身を4つの光輪へと変え、モンスター達を囲むと、3つの光、そして光の柱へと変える。

 

「清廉なる花園に芽吹き漆黒の薔薇よ! 若き月の雫を得て、ここに開花せよ! シンクロ召喚! 麗しき”光”の決闘竜! 《月華竜 ブラック・ローズ》!」

 

 柱の中から現れたのは、ブラック・ローズ・ドラゴンと同じ姿をした竜。しかし、ブラックローズ・ドラゴンから感じられた凍える様な威圧感は感じられず、その気は静かで透き通っていた。

 

 ATK:2400 レベル7

 

「ブラック・ローズ……これがフレアの”昇華”の力なのね……!」

 

 アキは光り輝くドラゴン・レッグの痣とブラック・ローズ・ドラゴンのカードを抱きしめ、舞い上がる月華竜を見上げた。

 月華竜は舞い上がると、スキエルを見下ろし、咆哮を上げる。

 

「まずはチューニング・サポーターの効果で1枚ドロー!」

 

 フレア 手札:1→2

 

「そして月華竜 ブラック・ローズの効果発動! 特殊召喚に成功した時、相手の場の特殊召喚されたモンスター1体を持ち主の手札に戻す! 戻すのは…………どうしたのブラック・ローズ?」

 

 フレアが杖でスキエル本体を指し示すと、月華竜は首を横に振る。

 

「(この機皇帝は、こんな能力まで持っているのね) ……《スキエルC5》! 〈退華の叙事歌(ローズ・バラード)〉!」

 

 月華竜が黄金の眼を光らせると、スキエルを中心に光の渦が発生させてスキエルを取り込み、渦の力でスキエルC5をもぎ取ってしまった。もぎ取られたスキエルC5はそのまま光の渦に飲まれ、消滅してしまう。

 スキエルC5を失った機体はアンバランスな体型となり、フラフラと空中を漂う。これでスキエルは二つある防御手段の内1つを失った。

 

 機皇帝スキエル∞ ATK:3000→2200

 

「よっしゃ! スゲー能力だぜ! でも何でフレアはパーツを狙ったんだ? 本体を狙っちまえばもっと手っ取り早いじゃねぇか?」

「きっと、効果対象に出来なかったんじゃないかしら? この機皇帝達は、私達の知る機皇帝とは少し違うのかもしれないわ」

「クッソ! 訳が分からなくなってきやがる!」

「クロウ、大丈夫よ。それでもフレアは繋げる……」

 

 勝利を確信するアキが見守る中、フレアは攻撃体勢を取る。本体を消し損ねたとはいえ、スキエルC5を消滅させたことにより、スキエルの防御能力に穴が空いたのだ。

 

「カードを2枚伏せ、バトル! ブラック・ローズでスキエルGを攻撃! 【散華の鎮魂歌(ローズ・レクイエム)】!」

 

 スキエルG ATK:200

 

 月華竜がスキエルGに向かって光のブレスを放つが、スキエルGの効果によって発生したエネルギーシールドによって防がれる。

 

「これでトドメ! ブラック・フェザーでスキエルGを攻撃!」

 

 玄翼竜 ブラック・フェザー ATK:3200

 

 玄翼竜が一気に上空へと飛び上がると、ふらつくスキエル目掛けて急降下する。

 

 「思いを翼に! 切り裂け! 【黒怒尖闘撃(ブラック・レイジ・エントリー)】!」

 

 漆黒の翼がスキエルの真横を通り過ぎると、スキエルの両翼であるスキエルGが根元から切断され、切断面から火花を上げた後、爆発を起こす。爆発は他のパーツへの誘爆を引き起こし、スキエルは爆炎に飲まれながらコアごと消滅してしまった。

 

 スキエル LP:3000→0

 

LP:2450

手札:0

モンスター

・玄翼竜 ブラック・フェザー

・月華竜 ブラック・ローズ

魔法・罠

・セット

・セット

 

「やったぁーーー! あのスキエルをフレア姉ちゃんがやっつけたぞ!」

「だから喜ぶのはまだ早いと言っている! むしろここからが本番だ!」

 

 嘗て自分と妹を苦しめた強敵の散り様を見てはしゃぐ龍亞だったが、緊張を解かないジャックに一喝されて押し黙る。

 そう、ここからが本番。次の相手は名前と姿以外一切情報が無いからだ。

 

「ありがとうスターダスト。もういいよ。少し休んでて」

 

 フレアがそう言うと、閃珖竜は地に降り、フレアを降ろしてから光となってカードの中へと戻る。

 何故フレアが閃珖竜をカードに戻したのか、それは単純な理由、もう飛ぶ必要が無いからだ。先の2体と違い、それは地面スレスレの位置を飛び、砲撃時にだけそのキャタピラを地面に置き、機体を安定させる。戦車と人型ロボットの上半身を組み合わせた、イリアステルのリーダーが従える最後にして最強の機皇帝、”グランエル”である。

 

「(このグランエルとだけ、まだ誰も戦ってない……)」

 

 グランエルは他の2体が破壊された事を認識すると、障壁への攻撃を止め、フレアへと対峙する。

 

「これが最後! 行くよ!」

 

 

 

「 ディアク!!! 」

 

 

 

 グランエル 手札:5→6

 

LP:4000

手札:6

モンスター

・機皇帝グランエル∞

・グランエルT ATK:500

・グランエルA ATK:1400

・グランエルG DEF:1000(ATK:500)

・グランエルC ATK:700

魔法・罠

・無し

 

ATK:4000

 

「(攻撃力がパーツと合わない!? どういうこと……?)」

「くっそー! 決闘盤さえあれば俺達もカードのステータスを確認出来るって言うのに! あいつはどんなパワーを持ってやがんだ?」

 

 クロウが悔しげにグランエルを睨みつける。先2体のデータは全員が頭に叩き込んでいるので今までの決闘を理解出来ていたが、このグランエルは決闘盤が無ければそのステータスを知ることは出来ないのだ。

 決闘巫女であり、決闘を行っているフレアは感覚で解るらしく、今までの機皇帝とは何かが違うグランエルに不気味さを感じていた。

 

「(相手が何であろうと、絶対に負けない! 決闘巫女としての使命、そして……フリントとの約束を果たさなきゃ!)」

 

 決意を新たにしてグランエルと向き合うフレア。グランエルは先2体とは違い、強化パーツを装着しないまま触手を伸ばし、玄翼竜を捕えようとする。

 

「させない! 罠カード《スキル・プリズナー》! 自分の場のカード1枚を選択! このターン、選択したカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする! 《玄翼竜 ブラック・フェザー》を対象に、グランエルの効果を無効!」

 

 フレアが指し示した石版が起き上がると、玄翼竜に向かって光が放たれ、玄翼竜を光で包み込む。触手がその光に触れると、触れた部分が消滅し、グランエルは欠けた触手をコアへと戻す。

 

「あれ? アキ姉ちゃんの話じゃ機皇帝の本体って効果の対象にならないんじゃ……あいつには無いのかな?」

「いいえ龍亞、機皇帝の頂点である以上、あの強力な能力を同じ様に備えているはず。でも、スキル・プリズナーは”対象にしたカードを対象にして発動したモンスター効果を無効にする”カード。グランエルを対象にしている訳ではないから、問題無く防げるの」

「しかもスキル・プリズナーは墓地でも同じ効果を発動出来る罠だ! また奴が吸収しようとしても、もう一度防げるぜ! いいカード持ってんじゃねぇかフレア!」

「な、成る程~! こんな所で勉強するとは思って無かったよ……」

 

 アキとクロウからワンポイントレッスンを受け、龍亞は納得した様に頷く。

 シンクロ吸収に失敗したグランエルはアイセンサーを光らせると、機体からコードの様な物を伸ばし、それを触手の様に操って玄翼竜の体に突き刺す。

 

「どうしたの!? しっかりして!」

 

 玄翼竜は力なく地面に落ちると、防御体勢を取って動かなくなる。

 

 玄翼竜 ブラック・フェザー ATK:3200→DEF:1600

 

「(守備表示に……これってまさか……!)」

 

 速攻魔法《エネミーコントローラー》――――その効果により、玄翼竜は強制的に守備表示へと変えられてしまったのである。

 

「(何で? 攻撃力じゃグランエルの方が勝っているのに、どうして守備表示に?)」

 

 疑問に答えを出させぬまま、グランエルは鋭く尖った触手を伸ばし、玄翼竜を貫いて破壊する。

 

「ブラック・フェザー!? ごめん――――ああ!?」

 

 破壊された玄翼竜に気を取られた瞬間、旋回してきた触手が月華竜を貫き、破壊する。

 

 フレア LP:2450→850

 

「(嘘……連続攻撃!? そんな能力が……)」

 

 フレアが触手をコアに収納しているグランエルを探る様に見据えると、グランエルAから異様な気が漏れ出していることに気付く。

 

「(……あの攻撃的な能力……間違いないわ。あれがグランエルAの能力! 遊星のニトロ・ウォリアーの様な、条件付きの連続攻撃!)」

 

 フレアがグランエルAの能力を見破るものの、それで状況が変わるわけでもなく、グランエルはグランエルAの砲口をフレアに向ける。この砲撃を受けた時、フレアのLPは尽きる。

 

「……諦めて堪るもんですか! 罠カード《裁きの天秤》を発動! 相手の場のカードの数が自分の手札・場のカードの合計数より多い場合、自分はその差の数だけデッキからドローする! 私のカードは《裁きの天秤》1枚! 相手の場にはモンスターが5体! よって、4枚ドロー!」

 

 フレア 手札:0→4

 

「(お願い……来て!)」

 

 フレアがカードをドローした瞬間、グランエルAから光線が放たれる。

 

「手札から《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを強制終了!」

 

 光線とフレアの間に機械仕掛けのかかしが躍り出ると、かかしが光線を打ち消し、バトルを強制終了させる。

 攻撃を防がれたグランエルは目の前の地面にカード状の光を出現させると、身を引いてフレアの動きを待つ構えを見せた。

 

LP:4000

手札:4

モンスター

・機皇帝グランエル∞

・グランエルT ATK:500

・グランエルA ATK:1400

・グランエルG DEF:1000(ATK:500)

・グランエルC ATK:700

魔法・罠

・セット

 

「シ、シンクロ封じを攻略したのに、フレア姉ちゃんのドラゴンがいっぺんにやられちゃった……強すぎるよグランエル……!」

 

 グランエルの実力に不安を抑え切れなくなった龍亞の目に涙が溜まるが、そんな龍亞の手を龍可が握り締める。

 

「龍可?」

「龍亞、フレアさんを信じて。ダークシグナーとの戦いの時、フレアさんは私達兄弟を支えてくれて、精霊世界まで救ってくれた。フレアさんは皆の”ヒーロー”だもの。私にとっての龍亞の様に……龍亞、”勇気”を出して! 一緒に”祈り”ましょう。フレアさんの勝利を……」

「龍可……うん!」

 

 龍亞は目に溜まった涙を拭うと、祈る様に目を閉じている龍可の手を握り返し、力強い眼差しをフレアへ向ける。

 

「(ありがとう、龍亞君、龍可ちゃん……) 私のターン!」

 

 フレア 手札:3→4

 

「魔法カード《貪欲な壺》を発動! 墓地のモンスター5体をデッキに戻してシャッフル! 2枚ドロー!」

 

戻したカード

琰魔竜 レッド・デーモン

玄翼竜 ブラック・フェザー

月華竜 ブラック・ローズ

ダンディライオン

速攻のかかし

 

 フレアの場に5体のモンスターの魂が現れると、決闘竜達はカードとなってフレアの手に戻り、残りの2体は新たな石版となってフレアの手札に加わる。

 

 フレア 手札:3→5

 

「魔法カード《蛮族の狂宴LV5》! 自分の手札・墓地から戦士族・レベル5モンスターを2体まで特殊召喚する! 墓地から《ターレット・ウォリアー》と《黒蠍-強力のゴーグ》を特殊召喚!」

 

 フレアの場に2枚の石版が現れると、その中からターレット・ウォリアーとゴーグが飛び出す。

 ゴーグは普段から口数が少ないからか、無言のままフレアと向き合い、軽く頭を下げてからグランエルに対して構える。

 

 ターレット・ウォリアー ATK:1200 レベル5

 黒蠍-強力のゴーグ ATK:1800 レベル5

 

「魔法カード《二重召喚》発動! このターン、私は通常召喚を2回行える! チューナーモンスター《柴戦士タロ》と、スピリットモンスター《金華猫》を召喚! そして金華猫の効果で墓地からレベル1チューナーモンスター《キーマウス》を特殊召喚!」

 

 フレアの場に並ぶ大きな戦士二人。その目の前に犬、猫、鼠の小さなモンスター達が並んだ。

 

  柴戦士タロ ATK:800 レベル2

  金華猫 ATK:400 レベル1

 キーマウス ATK:100 レベル1

 

 フレアは並んだ5体を眺めた後、閃珖竜のカードを取り出す。

 

「(貴女が信じてくれるから、私や龍亞君は戦える……貴女が祈ってくれる様に、私も”祈ろう”。大切な人が、無事に帰ってこれますように……)」

「(シグナーではないけれど、龍可ちゃんの為に立つ貴方の姿はとても純粋で、”勇気”に満ち溢れている……決して負けないで。その”愛と正義”を信じて進んで行けば、必ず”革命”が起こるから!)」

 

 閃珖竜のカードが光り輝き、2体の決闘竜を創造する。

 

「……レベル5《黒蠍-強力のゴーグ》とレベル1《金華猫》に、レベル1《キーマウス》をチューニング! レベル5《ターレット・ウォリアー》に、レベル2《柴戦士タロ》をチューニング!」

 

 キーマウスとタロが自身をレベルと同じ数の光輪へと変え、モンスター達を囲むと、11の光、そして二つの光の柱へと変える。

 

「太古の森よりフィールドを制圧する精霊よ! かりそめの姿にその身をやつし、降臨せよ! シンクロ召喚! 一途なる”祈り”の決闘竜! 《妖精竜 エンシェント》!」

「現れたるは鋼鉄の魂! さあ、鋼の逆鱗に触れたいヤツはご自由に! シンクロ召喚! 愛と正義を貫く”勇気”の決闘竜! 《機械竜 パワー・ツール》!」

 

 柱の中から現れたのは、エンシェント・フェアリー・ドラゴンとパワー・ツール・ドラゴンと同じ姿をした竜。 妖精竜はエンシェント・フェアリーには無い力強さを気に備え、機械竜はパワー・ツールと同じ見た目でもその本質は竜に偏っているらしく、興奮する様に鉄の皮膚に赤みを帯びさせ、本物の竜の様な咆哮を上げる。

 

 妖精竜 エンシェント ATK:2100 レベル7

 機械竜 パワー・ツール ATK:2300 レベル7

 

「ああ!? 龍可見て! 今度は俺達のドラゴンだ!」

「うん……私達の”思い”が、ちゃんとフレアさんの力になった!」

 

 龍亞はドラゴン・クローが輝く龍可の手を取り、決闘竜に反応して光っているお互いのエースモンスターに手を重ねながら決闘竜達を見上げる。

 

「行くよ……装備魔法《ビッグバン・シュート》を《機械竜 パワー・ツール》に装備! 攻撃力を400ポイントアップ!」

 

 機械竜が赤いオーラに包まれると、機械竜はフレアの手札を手のドライバーで指し示す。

 

 ATK:2300→2700

 

「機械竜 パワー・ツールの効果発動! 自分のターンにこのカードが装備魔法を装備した時、 デッキからカードを1枚ドロー出来る! 〈装備特典(イクイップ・ボーナス)〉!」

 

  機械竜が目を光らせると、フレアの前に石版が現れ、手札に加わる。

 

 フレア 手札:0→1

 

「よし! 続けてフィールド魔法《破邪の魔法壁》を発動!」

 

 フレアがフィールド魔法を発動すると、フレアとグランエルが立つ荒地に巨大な六芒星が描かれ、それを囲む様に光の壁が張られる。

 

「破邪の魔法壁は、私のターンならば私のモンスターの攻撃力を、相手のターンならば私のモンスターの守備力をそれぞれ300ポイントアップさせる!」

 

 妖精竜 エンシェント ATK:2100→2400

 機械竜 パワー・ツール ATK:2700→3000

 

 妖精竜と機械竜が破邪の加護を受けると、妖精竜はフレアの上空を舞い、光の粒子を舞い散らせる。

 

「妖精竜 エンシェントの効果発動! 自分のターンにフィールド魔法が発動した場合、デッキからカードを1枚ドローする! 〈永遠なる物語(フェアリー・テイル)〉!」

 

 舞った粒子が一箇所に集まり、それに向かって妖精竜が尻尾を振るうと、粒子は石版へと変化し、フレアの手札に加わる。

 

 フレア 手札:0→1

 

「さあ、仕掛けるよ! 妖精竜 エンシェントの第2の効果! 1ターンに1度、フィールド魔法が表側表示で存在する場合、攻撃表示のモンスター1体を破壊出来る! 私が破壊するのは――――」

 

 破壊出来るパーツは3つ。グランエルT、グランエルA、グランエルC。効果が分かっているのはAのみ。守備表示であるGを含めた残るパーツの能力はまだ未知数である、

 

「(なら……)」

 

 分かっているAは対処出来る。ならば、これ以上能力を発揮される前に叩くのが上策――――

 

「――――《グランエルC》を破壊! 〈森葬の霊場(スピリット・ベリアル)〉!」

 

 スキエルとの決闘での経験から、厄介な能力を有していたという印象があるCを選択したフレア。正にこのグランエルCこそがグランエルの防御の要であるとは、本人も気付いてはいなかった。

 妖精竜は高く飛び上がると、体から眩い光を放つ。それを受けたグランエルの下半身であるグランエルCが消滅し、バランスを崩したグランエルは地面に倒れた後、空中に浮かびあがる。

 

「バトル! パワー・ツールでグランエルGを攻撃!」

 

 機械竜が右腕のパワーショベルを振り上げ、グランエルに向かって突進する。

 

「ビッグバン・シュートを装備したモンスターは貫通能力を得る! 砕け! 【重装解体(フルメタル・デモリション)】!」

 

 グランエルG DEF:1000

 

 機械竜がパワーショベルを振り下ろすと、グランエルは右腕のグランエルGで胴体を庇うが、パワーショベルの一撃によってグランエルGは容易く粉砕されてしまう。

 

 グランエル LP:4000→2000

 

「よし、次は――――え?」

 

 ここでフレアはグランエルの様子がおかしい事に気付く。右腕を失ったグランエルのアイセンサーの光が急に弱弱しくなり、トーンダウンするかの様な電子音が機体内から聞こえてくる、

 

 機皇帝グランエル∞ ATK:4000→2000

 

「(グランエルの攻撃力が!? 一体……まさかLP?)」

 

 今までの機皇帝に無いグランエル最大の特徴、それはLPと連動する攻守であり、LPを高いまま保持すればグランエルは驚異的な攻撃力を保つことが出来るのだ。しかし、今の様にLPが大きく削れてしまうと、高い攻撃力が一気に転落するという、強力だが扱いの難しい機皇帝なのである。だからこそ、リーダーを名乗るのに相応しい機皇帝なのかもしれない。

 遂に弱点を晒してしまったグランエルだったが、それを放って置く程甘い相手ではない。地面に設置した光を一つ消滅させると、機体内から何かの起動音が鳴り、グランエルのパワーを回復させる。

 

 罠カード《ダメージ・ワクチンΩMAX》発動

 グランエル LP:2000→4000

 ATK:2000→4000

 

「(元に戻っちゃった……でも見えてきたよ、”光差す道”が!) エンシェントでグランエルTを攻撃! 【妖精靭尾(フェアリー・テイル・ウィップ)】!」

 

 グランエルT ATK:500

 

 妖精竜がグランエルT目掛けて鋭い尾の一撃を見舞うと、グランエルTは形を歪ませながら弾き飛ばされ、地面に落下すると同時に爆散する。

 

 グランエル LP:4000→2100

 ATK:4000→2100

 

「カードを伏せてターンエンド!」

 

LP:850

手札:0

モンスター

・妖精竜 エンシェント 

・機械竜 パワー・ツール

魔法・罠

・ビッグバン・シュート(装備:機械竜 パワー・ツール)

・セット

フィールド魔法

・破邪の魔法壁

 

「おっしゃ、数値的な状況は分からねぇが、奴の体はズタボロだ! 次のターンで一気にやっちまえフレア!」

「お前まで俺にこの台詞を言わせる気かクロウ? ……まだ喜ぶのは早い! 奴にターンが回った以上、何か仕掛けてくるかもしれん! 決闘が終わるまで油断するな!」

 

 戦いに参加出来ないせいで血気を抑えられずにいるクロウだが、ジャックの方は最初こそクロウと同じだったが、龍亞とのやり取りから妙に冷静な態度を維持している。フレアへの信頼が為せるものなのか、それともシリアスなキング時代にふと戻ったのか、はたまたただの気まぐれなのか、誰にも分からない。

 

「(もしかしたら、遊星がいない分、自分がしっかりしようと思ってるんじゃないかしら?)」

 

 何となく、そう思うアキであった。

 

 グランエル 手札:4→5

 

 もはや人型の面影すら失ってしまったグランエル。もはや手は無いと思われたが、突然グランエルの前に見覚えのあるパーツが現れ、グランエルCが接続されていた部分に繋がる。

 

「あれは……スキエルA!?」

 

 グランエルに接続されたスキエルAが消滅し、スキエルA3、そしてそれも消滅すると、スキエルA5が現われ、グランエルに繋がる。

 

 ATK:1400 レベル5

 

「いけねぇ!? スキエルA5の能力は直接攻撃付与だ! このままじゃグランエルの直接攻撃をくらっちまうぞ!」

「ここまででフレアもかなりのダメージを受けてきている。奴め、この奇襲で決闘を終わらせるつもりか!?」

 

 クロウとジャックの予想通り、グランエルは触手を伸ばし、妖精竜と機械竜をすり抜けて直接フレアを狙う。仲間達が思わず眼を覆った瞬間、フレアは最後の伏せられた石版を杖で指し示す。

 

「”光差す道”は、途切れてない! 罠カード《星墜つる地に立つ閃珖(スターダスト・リ・スパーク)》! 相手の特殊召喚されたモンスターの直接攻撃によって私のLPが尽きる時、その攻撃を無効にして自分はカードを1枚ドロー! そして――――」

 

 フレア 手札:0→1

 

 フレアの石版から光が放たれると、グランエルの触手が消え去り、光の柱が現れる。

 

「星海を切り裂く一筋の閃光よ! 魂を震わし、世界に轟け! 光差す”絆”の決闘竜! 《閃珖竜 スターダスト》!」

 

 柱の中から閃珖竜が飛び出すと、妖精竜、機械竜と並び、同時にグランエルへ向かって咆哮を上げる。

 

 ATK:2500 レベル8

 

 防がれた起死回生の奇襲、突然目の前に現れた閃珖竜、本来はこちらが”狩る側”であるはずなのに、3体ものシンクロモンスターに囲まれ、追い詰められてしまったグランエル。機体からは異常状態を知らせる警報の様な音が鳴り響き、錯乱したようにグランエルAを振り回した後、スキエルA5の砲身を妖精竜に向け、禍々しいオーラを発しながら砲撃を放つ。

 

 手札より速攻魔法《虚栄巨影》発動

 スキエルA5 ATK:1400→2400

 

「閃珖竜 スターダストの効果発動! 1ターンに1度、自分の場に表側表示で存在するカード1枚を選択! 選択したカードをあらゆる破壊から守る! 〈波動障壁〉!」

 

 閃珖竜が妖精竜を翼で覆うと、周りに光の障壁を作り出し、スキエルA5の砲撃を弾く。障壁によって弾かれた光線の一部がフレアの方へと流れるが、フレアはそれを杖で弾き飛ばす。

 

 フレア LP:850→550

 

LP:2100

手札:1

モンスター

・機皇帝グランエル∞

・グランエルA

・スキエルA5

魔法・罠

・無し

 

「私のターン!」

 

 フレア 手札:1→2

 

 妖精竜 エンシェント ATK:2100→2400

 機械竜 パワー・ツール ATK:2700→3000

 閃珖竜 スターダスト ATK:2500→2800

 

「機皇帝……何が来ようが、何体で来ようが、私達は負けない! ……憎しみの主よ、世界に、仲間に貴方が憎悪を向けるなら、私がそれを撃ち砕く! エンシェント、〈森葬の霊場〉!」

 

 妖精竜が体から光を放つと、スキエルA5を光の中へと消滅させる。

 

「バトル! パワー・ツールでグランエルAを攻撃! 【重装解体】!」

 

 グランエルGを砕いた様に、左腕に向かって機械竜がパワーショベルを振り下ろし、グランエルAを粉砕する。

 

 グランエル LP:2100→500

 ATK:2100→500

 

「スターダストで機皇帝グランエル∞を攻撃! 【流星突撃(シューティング・アサルト)】!」

 

  トドメに閃珖竜が体に光を纏い、グランエルへと突進。光の矢となった閃珖竜はグランエルを貫き、コアを粉砕する。

 

 グランエル LP:500→0

 

 コアを破壊されたグランエルの機体は地に落ち、それ以降動かなくなった。

 

「……ジャック、もういいよね?」

「いいよな?」

「ああいいぞ……よくやったフレア!」

 

 ジャックが許しと同時にフレアへ労いの言葉を掛けると、龍亞とクロウが歓喜の声を上げながらフレアの元へと駆け出す。その後に龍可とアキが続き、ジャックが鼻を鳴らしながら最後に歩み寄る。

 

 

「スゲーぜ! あの機皇帝3体を連続で倒しちまうなんてよ!」

「超かっこよかった! 今度パワー・ツール同士で勝負しようよ!」

「龍亞ったらもう……フレアさん、ありがとう!」

「フレア……フレア?」

 

 仲間達の喝采が降り注ぐも、フレアは振り返らずに無言のまま。アキが心配してフレアの正面に回ると、フレアは脱力してアキの体にもたれ掛かる。アキは勢いよく倒れこんだフレアの体を何とか支え、何事かと揺さぶる。

 

「きゃ!? フレア、どうしたの? しっかりして!」

「……疲れた」

 

 決闘巫女としての最初の戦い。石版による決闘。機皇帝3体を相手に立ち回り、決闘竜を5体も創造したのだ。その消耗は凄まじいものに違いない。現にフレアはもうまったく立てない状態であり、意識も朦朧とし始めている。その為か、フレアの腕からドラゴン・ヘッドの痣が消え、赤い光の障壁も同時に消え去る。

 

「フン! 寝かせてやれ、戦いは終わったのだ。だが休んだらすぐに起きるのだぞ! 元の世界に戻る方法を見つけなければならんからな!」

「いい!? そういやそうだ!? どうやってここから出りゃいいんだ!? おいフレア、寝る前に聞かせてくれ! ここから出る方法知ってたりしねぇか?」

 

 クロウが慌ててフレアに詰め寄ると、フレアは重い瞼を開け、ゆっくりと口を開く。

 

「……まだ……終わっ……てな……ぃ……」

「あ? 何だって? もうちょい頑張ってく――――」

「ああ!? あ、あれ!?」

 

 クロウの追求を隔てる様に、龍亞の悲鳴が上がる。全員が龍亞が見ているものの方向へ向くと、そこには白い卵型のカプセルが宙に浮いている。

 

「まさか……嘘だろ!?」

 

 クロウの叫びと同時にカプセルが砕け、機皇帝ワイゼルが姿を現す。

 

「馬鹿な!? 奴はフレアが破壊したはずだ!? 我が魂と共に!」

 

 これまで冷静であったジャックも、この事態には動揺を隠せない。フレアは現れたワイゼルを見上げる。

 

「これで……分かった……イリアステルの……ここで戦ったの……機皇帝は……一体ずつじゃなく……沢山いる……」

「ふざけんな! ふざけんじゃねぇ! そんな事が……そんな事が!」

 

 クロウが叫んでも、現実は変わらない。シグナーやフレアを仕留めようと、ワイゼルはゆっくりと近づき、ブレードを振り上げる。

 フレアは動けず、赤き竜の力にはもう期待出来ない。自分達を守って倒れたフレアを一瞥してから、クロウは立ち上がる。

 

「……この野郎! フレアには指一本触れさせねぇぞ! こうなったらリアルファイトでも何でもやってやる! ”鉄砲玉のクロウ様”を舐めんじゃねぇぞ!」

「待てクロウ! この俺を忘れるな! このジャック・アトラス、機皇帝なんぞには後れを取らん!!」

 

 機皇帝の前に進み出るクロウとジャック。

 

「龍可、下がってて! 心配しないで! 俺が付いてるからな!」

「龍亞……うん!」

「(お願い……私の力! 今だけ戻って!)」

 

 龍亞は龍可の前に立って身構え、アキは膝に寝かせているフレアを庇いながら髪留めを外し、必死に念じる。

 それぞれが仲間達の為に立ち上がり、ワイゼルとの決戦に挑もうとした瞬間――――ワイゼルの左腕が発火し、凄まじい腕力によってもぎ取られる。

 見ると、何時の間にかワイゼルの後ろに業火を纏った悪魔がワイゼルAを両手で握り潰しているのが見えた。

 

「あ、あれは……間違い無ぇ! ”ヴォルカニック・デビル”だ!」

 

 クロウが声を上げたのと同時に、ワイゼルの後ろから煉獄の竜による鋭い尾の一撃が見舞われ、ワイゼルのコアを貫く。コアを失ったワイゼルは機能を停止し、バラバラになって崩れ落ちた。

 

「……一先ず、これで全部か。何体残っていたのやら……無事か、皆?」

 

 崩れ落ちるワイゼルの向こう側、荒廃した世界を歩いてやってくるのは、カウボーイハットとマントを身に纏った、その上からでも分かる程に傷だらけの男だった。

 男が帽子を軽く上げると、皆がその名前を叫ぶ――――

 

「「「「「 フリント!? 」」」」」

「……フリン……ト?」

 

 皆の声を聞いたフレアが反応すると、アキが急いでフレアを助け起こし、フリントの方へと向かせる。

 フレアは眠たい眼でフリントの姿を見つけると、その眼に涙を滲ませた。

 

「フリント! 何故お前がここにいる!? 遊星達の元へ向かったのではなかったのか?」

「ジャック……遊星達もこの世界に来ているが、もうじき元の世界に戻る。お前達もだ」

「何だって!? フリント、お前は元の世界に戻る方法を知ってんのか!?」

「落ち着けクロウ。すぐに帰れる」

「フ、フリント……その傷はどうしたの?」

「血が……!?」

「龍亞、龍可、心配するな。大した事は無い」

 

 フリントは4人の間を抜け、フレアとアキの側へと向かう。

 

「フリント……」

「アキ、フレアは大丈夫か?」

「かなり消耗しているみたい……フレアはずっと貴方の事を案じていたわ。眠ってしまう前に、話をしてあげて」

「ああ……アキ、すまないがフレアと二人だけで話させてくれ」

 

 アキは少しだけ驚いた後、頷いてフレアの体をフリントに差し出す。フリントはフレアを仰向けの状態で腕に乗せると、少し離れた位置に移動した。

 

「フリント……無事だった……のね……」

「フレア、よく皆を守ってくれたな」

「う……ん……約束……守ったよ……」

「……フレア、お前は強くなった。もう、俺が側にいる必要は無い」

「!? フリ……ント……」

「だがフレア……お前が進む先には、必ず俺がいる。……迷わず進め。辿り着いたその時が、再会の時だ。……さらばだ、愛しき人よ」

 

 フリントはそう言って、被っていた帽子をフレアの顔を覆うようにして被せる。フレアは何か言おうとするが、とうとう限界が来たせいか、暗闇の中で瞼を閉じ、深い眠りに就いた。

 フリントはフレアの寝息を聞いた後、皆の元へと戻る。

 

「待たせた。フレアは眠った。……元の世界への扉を開く。ジャック、フレアを頼んだ」

「ああ」

 

 フリントは一番体格のあるジャックにフレアを渡すと、決闘銃を抜き、オーガ・ドラグーンのカードをリロードする。

 

「……煉獄の番人よ、次元の通路を開け!」

 

 目の前の空間に向かって引き金を引くと、銃口から飛び出たオーガ・ドラグーンが時空を裂き、大きな裂け目を創り出す。

 

「この中を通れば、元の世界へ行けるはず。さあ、急いで入れ! グズグズしていると閉じてしまうぞ!」

 

 フリントがそう言うと、皆は急いで駆け出し、順番に裂け目へと飛び込んで行く。最初は龍亞が龍可の手を取って同時に、次にアキ、その次にクロウと続き、ジャックがフレアを背負って裂け目に入ろうとする。

 

「……おい、何故来ない。早くしろ!」

 

 裂け目に入る直前、ジャックはその場から動かないフリントへと振り向き、一緒に来るように促す。

 呼ばれたフリントはジャックの側まで近づくと、彼の耳元で囁く。

 

「ジャック、俺はここに残る。……遊星と共に、皆を頼んだぞ」

 

 フリントはそう言って、ジャックとフレアを裂け目に向かって突き飛ばした。

 

「フリント貴様――――」

 

 ジャックが続けて何かを言おうとするが、その前に次元の裂け目が閉じてしまう。

 残されたフリントはマントを翻し、一人歩き出す。ここからでは霧に包まれて見えない、空に浮かぶ”巨大な建造物”に向かって――――

 

 

 

「(行こう……友が待つ”城”に……”アーククレイドル”に)」

 

 

 




これにてフレア視点は終了、
次回は同じ時間軸の遊星視点による、”第62話 別れ ~フリント~”を投稿します。よろしければどうぞお楽しみに!

今回登場した機皇帝はTF5・6の効果となっております。また、最初から機皇帝が召喚されているという特殊ルールでしたが、登場描写でスキエルとグランエルがそれぞれのコアから現れているので、この2体は”特殊召喚扱い”となっております。ご了承ください。

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