「さて……どうするか」
フレア達が異次元へと連れ去られる数十分前、予想を超えるスピードで
出入口には警備員が二人程、フリントならばどうにでもなる相手だが、下手に動けば中にいる遊星達に危害が及ぶかもしれない。
「(急がなければ……遊星達はどうしている?)」
作戦に加わっていないフリントでは、中の遊星達と連絡を取る手段が無い。遊星達は既に目的を達成しているのか、それとも捕まってしまっているのか、そもそもこの施設の内部構造はどのようになっているのか、今のフリントには明らかに情報が不足していた。
「(焦燥感に駆られてこのザマか……だが、考えている時間は無い。事が起こってからでは遅いのだ)」
「よお、こんなとこで何してんだ?」
岩場から出ようとしたフリントの背後から聞こえる声。フリントにしては珍しい油断。目の前の事に気を取られ、背後から近づいて来る者の気配を取りこぼしていた。油断していたとはいえ、フリントに気付かれずにここまで接近した相手も並の者ではないだろう。
接近者がフリントの肩を叩こうとした瞬間、その鼻先に決闘銃の銃口が突きつけられる。
「……随分なご挨拶じゃねぇかフリント」
接近者は銃口を見て一瞬だけ驚くが、すぐに笑みを浮かべて銃口を人差し指で押し返す。フリントは接近者の顔を確認すると、決闘銃をホルスターに収めた。
「鬼柳か……」
「何時の間にかフレアと一緒にどっかへ行ったかと思えば、こんな所にいやがって、リーダーの俺をほっぽって何してたんだよ今まで!」
面白くなさそうに眉を顰め、腕を組む鬼柳。だがフリントは意に介さず、再びME社の方へと向き直る。
「話している暇は無い。今は一刻も早く遊星達の元へと向かい、”インフィニティ”を破壊しなければならない」
「ああ? お前この作戦の事知ってんのか? 俺もその一員だぜ」
”ゴースト氾濫”での傷が完治した鬼柳は、WRGPをめちゃくちゃにされた怨みを晴らす為、何処から聞きつけたのか出発した遊星達を捕まえ作戦の飛び入り参加を申し出た。しかし、品行方正で通っているB&Cの社員をアウトローな鬼柳が演じるのは無理があり、父の仇を見つける為に参加したシェリーから猛反対を受ける。遊星やブルーノは鬼柳を頼りにしたいという気持ちはあるものの、先の理由やシェリーの事情、人数の問題もあり、鬼柳の味方をしてやることが出来なかった。
だが、それでも引き下がらない鬼柳。長い口論と決闘の末、外で待機し、いざという時に退路を確保する”非常時用戦闘員”として同行することが認められたのである。
「……今、遊星達と連絡は取れるか?」
「ん? ああ、一応携帯は受け取ってるけどよ……助けに行くんだろ? それなら直接乗り込んじまおうぜ! 実は言うと俺はこれからそのつもりだったんだ! 待機だなんて満足できねぇぜ!」
「連絡を取れるなら取ったほうがいい。下手に乗り込めば向こうの状況を悪くする」
「もう入ってってから何時間も経ってんだ! これ以上待っても何も変わらねぇよ! きっと遊星達も何か動きを見せるぜ――――」
この瞬間、EM社内からけたたましい警報音が鳴り響く。表の警備員達は何事かと無線機を取り出し、連絡を取り始めた。
鬼柳が勝ち誇った表情でフリントの背中を押す。
「どうやら俺の言う通りみたいだぜ? 遊星達が動いたか、ヘマをやったかだな。どちらにせよ、こっちも動かなきゃ不味いんじゃねぇか?」
「……確かに、このままでは表を堅められそうだ。混乱している内に強行突破しかあるまい。共に来てくれ鬼柳!」
「言われなくてもそのつもりだぜ! 満足させてくれよ!」
* * *
「くそっ……!」
警報が鳴り響く廊下に立つ青年――――”ダニエル”もとい、B&C社員に変装した”不動遊星”は十字に分かれる通路を見回し、直感で方向を定め走り出す。
社員帽で特徴的な髪型を、アキによる化粧でマーカーを隠し、ブルーノとシェリーと共にME社へと侵入。ME社の最高責任者である”クラーク・スミス”との決闘を経て、何とかイリアステルやインフィニティに関するデータを奪取した。
しかし、遊星達の正体や行動は敵に筒抜けであり、クラークによって警報を鳴らされてしまった遊星は追手を振り切りつつ、データを持って逃走中のブルーノとシェリーを捜しながら社内を走り回っていた。
「(所長室から見える監視カメラに映っていたということは、まだそれ程離れてはいないはず! 必ず見つけ出してみせる!)」
危機的状況にも関わらず、遊星の心は道を失ってはいない。
諦めずに全速力で角を曲がると、その先にある十字廊下で黒服とサングラスを身に付けたガードマン2人が遊星を出迎える。
「(臆さず攻めるっ……!)」
遊星が素早く詰め寄り、左のガードマンに向かって拳を突き出した瞬間、突然右のガードマンが吹っ飛び、左のガードマンを巻き込んで倒れる。
「何!?」
拳で空を切った遊星は驚いて後ろに飛び退くと、右のガードマンが飛んできた方向から、今度は見覚えのある青年が飛び出す。
「オラァ!」
青年は飛び蹴りの姿勢で空中を飛ぶと、重なって倒れているガードマン達の上に着地する。ガードマン達は苦しげな悲鳴を上げると、そのまま気絶してしまった。
警戒していた遊星は青年の姿をしっかりと確認すると、表情を緩めて駆け寄った。
「鬼柳!? 来てくれたのか!」
「へっ! こんな面白ぇ状況になってんならとっとと呼べっての。満足できねぇ」
「済まない。それよりも二人を見なかったか? 別行動をしていたんだが……」
「いや、まだ見て無ぇな……お、噂をすればだ」
鬼柳が遊星の後ろを指差すと、その方向からB&C社の社服を着たブルーノとシェリーが駆けて来ていた。ブルーノの手には奪取したであろうデータが入ったUSBメモリが握られている。
「遊星! 無事だったようだね! データはほら、この通り!」
「ブルーノ、シェリー! 無事で良かった! 急ごう!」
無事合流を果たした4人は再会を喜び合う暇も無く、一斉に廊下を駆け出す。それと同時に、ブルーノが前を走る鬼柳に向かって声を掛ける。
「それにしても鬼柳、よくここまで一人で来れたね? ME社と言ったら世界中から支援を受けてる大企業。警備の堅さも世界随一って聞いてるけど?」
「一人じゃねぇよ。フリントと一緒に乗り込んだからな。暴れてる内にはぐれちまったが」
「フリント!? 帰ってきていたのか!?」
その前を走っていた遊星が鬼柳に振り向く。
「何言ってんだ? フリントもこの作戦に参加してたんだろ?」
「いや、フリントとフレアにはまだ伝えていない。連絡が取れなかったからな」
「ああ!? じゃあ何でフリントはここにいるんだよ? どうなってんだ?」
「二人共! 話し合ってる場合じゃなくなったようだよ!」
ブルーノが前方を指差すと、その方からガードマンが大人数駆けて来るのが見えた。
4人は慌てて右方向の廊下へと曲がり、全速力で駆ける。
「くそ、出口からどんどん離れてってるぜ! 遊星、こうなったら強行突破だ! 反転して突っ込む!」
「待て鬼柳! 先に何かある!」
遊星の言う通り、先の方に広い空間が見えてきた。どうやら宇宙開発用のシャトルの格納庫らしく、幾つかのシャトルが並べられているのが見える。
それを見たシェリーは入口から一番手前にあるシャトルを指差した。
「シャトルの中に隠れるのよ!」
「おいおい待てよ!? それじゃ袋の鼠だろうが! あっおい遊星!?」
「そんな事言ってる場合じゃないよ鬼柳! 早く早く!」
シェリー、遊星、ブルーノに押される形で鬼柳、ブルーノがシャトルに乗り込むと、シャトルの扉が閉じ、ロックされる音が鳴る。それに気付いた遊星とブルーノが扉を叩くがビクともしない。
「閉じ込められた!?」
「罠かっ……!?」
「だから言ったろうが! 遊星、シティ生活が長すぎてボケたか? 敵地に安全地帯なんて無ぇ! だからこそチーム・サティスファクションは何処行っても攻めて攻めて、力で押し切ったんだろうが! 間抜けな提案に軽々しく乗りやがって!」
昔の経験から今の結果を予想していた鬼柳は悔しそうにシャトル内の壁を殴る。
遊星もその可能性を考えなかった訳では無いが、非戦闘員であるブルーノと奪取したデータの安全を考慮した結果、攻めよりも守りの手を取り、シェリーの案に乗ったのである。
「済まない……」
「ご、ごめん鬼柳……僕が焦ったばかりに」
「悪かったわね、間抜けで……」
「……いや、俺も感情的になって悪かった。今は脱出することを考えるぞ!」
4人はシャトルのブリッジに上がると、それぞれに分かれて装置を調べる。しかし、幾ら装置を弄ってもシャトルの扉が開く気配は無い。そうしている内に、シャトルを乗せた巨大ベルトコンベアが作動し、シャトルを”インフィニティ”の上へと移動させる。
「皆、大変だ!?」
シャトルの計器を見ていたブルーノが声を上げる。
「もうすぐこのシャトルは”ワームホール”へと放出される!」
”ワームホール”とは異次元に繋がるトンネルの様なものであり、インフィニティで物質転送を行う際の通り道となる空間のこと。しかし、それは確実な制御をした場合の話であり、ワームホールにそのまま入ってしまうと、どこに飛ばされるか分からない危険な代物である。
今でも十分に危機的状況だが、”ある男”が更に悪い状況を遊星達に思い知らせるため、シャトル内のモニターに顔を映し出す。
「お前は……!?」
〔これはこれは、不動遊星、シェリー・ルブラン、そのお友達……〕
モニターに映し出されたのは、癖のある短い金髪に眼鏡を掛けた男。名前は”クラーク・スミス”。ME社の最高責任者で、イリアステルの手足となり、裏で暗躍していた。シェリーの両親を殺害したのも、イリアステルの歴史改竄に助力していたのも彼である。
遊星達を追い詰めた彼は、余裕な態度で事の真相を語り始めた。
ルブラン夫妻が殺害されてしまったのは、シェリーの父である”ルブラン博士”がインフィニティの”本当の使い方”を知ってしまったためである。
インフィニティは本来”空間”を繋ぐのではなく、”時空”を繋ぎ、あらゆる時代を行き来することを可能とした装置であるという。イリアステルはそれを利用して今まで歴史の改竄を行ってきたのだ。
クラークは真相を語り終えると、シャトルには制御装置が付けられておらず、ワームホール内に入ればすぐに軌道がずれ、次元の歪みに飲まれて消滅してしまうことを遊星達に告げる、
〔さらばだ不動遊星、シェリー・ルブラン〕
「待て!」
〔フフ……ごっ!?〕
〔今すぐシャトルを戻せ〕
クラークが通信を切ろうとした瞬間、彼の後頭部に勢いよく銃口が押し付けられる。
モニター越しではその顔を見ることは出来ないが、その銃を持った人物が何者なのか、遊星達はすぐに理解出来た。
「フリント! フリントなんだな!」
〔ああ遊星。俺だ。少し待っていろ〕
フリントがそう言うと通信が切れ、ベルトコンベアがシャトルを元の位置へと戻し始めた。
* * *
「き、貴様は……何故、ここに……?」
「”いるはずがない”……そう思うだろうな。何せ”何処にもいなかった”のだから」
フリントに銃を突き付けられながら会話をするクラーク。その表情は驚きと歯痒さが混じった何とも言えない表情となっている。
「イリアステルから命令されていたのだろう? ”フリントを探し出し消せ”、と……」
「!?」
「だが……俺は”何処にもいなかった”。そうだろう?」
クラークは俯いて押し黙る。その姿はフリントの言葉を肯定しているのも同然であった。
暫くして、クラークの頬に冷や汗が流れると、クラークは観念した様に口を開く。
「……私が命じられたのは、お前の過去の調査だ。消せまでとは言われていない。だが……何故だ!? 何故貴様は”何処にもいない”!? どの”場所”にも、どの”時代”にも、貴様はいなかった! イリアステルですら貴様を見つけることが出来なかった!」
「当然だ。俺は本来、いるはずのない人間。この世界に割り込んだ”イレギュラー”だ」
「イレギュラー……?」
クラークが振り向こうとすると、フリントはもう一度銃口を後頭部に押し付けた後、モニター席に座っていたクラークに立ち上がるよう促す。どうやら遊星達のいる格納庫へと移動するようだ。
「そう、”現在”に割り込んだだけの異物……そんなものに”過去”も”未来”も在りはしない。あるのは……”現在”だけだ」
* * *
「フリント、助かった! お前が来てくれなかったら、どうなっていたことか……」
「ありがとうフリント!」
クラークを連れたフリントが格納庫へと辿り着くと、既にシャトルから脱出した遊星とブルーノが駆け寄ってくる。
「良いとこ持って行きやがって。だが、流石は現サティスファクションのメンバーだぜ。満足――――うおっ!?」
続いて鬼柳がフリントに近づこうとした瞬間、その横からシェリーが飛び出し、クラークを蹴り飛ばそうとする。しかし、クラークはフリントの手によって引き倒され、シェリーの蹴りは空を切った。
「邪魔をしないで! そいつはお父様やお母様の!」
「事情は分かっている。だが今は駄目だ。インフィニティについて聞きださねばならぬ事が山ほどある」
その美貌を歪め、鬼の様な形相になっているシェリー。そのシェリーに睨まれたクラークはさっきまでの余裕は何処へやら、完全に怯え切った表情となっている。
「く、く、くそ……SPは何をしている! うおっ!?」
「大人しくしやがれ。追って来てた奴等ならお前が来る前に片しちまったよ。ここまでにも俺とフリントでぶっ飛ばしてきたから……もう見回ってる奴はいねぇと思うぜ」
鬼柳がもがいているクラークを押え付け、持っていた手錠で両の腕と脚を繋ぐ。
「遊星達の行動を見抜いていたんだ。あのデータは偽物だろう。そして、遊星達に話した事も全てではあるいまい。さあ、聞かせて貰おうか。イリアステルと、インフィニティについて……何故あれがここにあるのかを!」
フリントがクラークの襟元を捻り上げる。が、クラークはその事については喋るつもりは無いらしく、冷や汗を浮かべながらもそっぽを向く。
その態度が気に障ったのか、それとも湧き上がる復讐心が限界を迎えたのか、シェリーがフリントとクラークの間に割って入る。
「そんな奴に何言っても無駄よ! 始末するわ! そして今度は――――」
「私達を、か?」
突如聞こえてきた低い老人の声。その方に全員が振り向くと、そこには白いローブとフードを纏い、顔の下半分を隠すマスクを付けた巨漢の老人が立っていた。
「お前は……!? フ、フフ……何てついている日なのかしら。まさかこうも次々と仇が現れてくれるなんてね……”イリアステルの三皇帝”!」
シェリーが怯えた表情をしているクラークを突き飛ばすと、三皇帝のリーダー”ホセ”に対して飛び掛かる。
「同じ事の繰り返し……お前は決闘者でないばかりか、愚かなる人類の典型の様だな」
ホセは飛び掛ってきたシェリーを容易く捕えると、シャトルに向かって投げ飛ばす。
シェリーはシャトルに叩き付けられると、その場に倒れて気を失ってしまった。ブルーノが慌てて彼女の元へと駆け寄る。
「シェリー!? ブルーノ、シェリーは!?」
「大丈夫だよ遊星、気を失ってるだけみたいだ」
「そうか……イリアステルのリーダー、ホセ! 一体何の用だ!」
「不動遊星……用があるのはお前でも、そこの女でもない。……そこの男、フリントにだ」
ホセがその大きな手をフリントに向かって向けると、フリントは前に出てホセと対峙する。
「イリアステルのホセ、俺に何の用だ?」
「お前に聞きたい事がある。答えて貰うぞ」
「……言ってみろ。ただし、俺の質問にも答えると約束するならばな」
「……良かろう」
ホセはローブを翻し、隠れていた体をさらけ出す。フリントも同じ様に体を覆っていたマントを払い、体を見せる。お互いに話し合いに応じるという意思の表れなのだろう。
「まず一つ、お前は私達の事を知っているのか?」
「ホセは知っているが、”お前達”の事は知らない。今度は俺の番だ、お前達は俺の事を知っているのか?」
「……他の二人は、お前を知らない。私とて、その名が奥深くに刻まれている程度だ。だが……我等三人に共通する事がある」
ホセは大きな拳を握り締め、震わし、フリントを睨みつける。
「プラシドとルチアーノは感じるだけで自覚はしていない様だが、お前の”眼”を見てから、我等の中である”感情”が沸き、渦巻き始めた」
「……それは?」
「体を焼く様な”怒り”、身を凍て付かせる程の”悲しみ”、そして……それ等をどうする事も出来ない事による”虚脱感”……」
「人はそれを――――」
声を僅かに震わせるホセ。ホセが続けて言葉を続けようとした瞬間、フリントが遮る様にして言葉を放った。
「――――”絶望”と呼ぶ」
フリントの言葉が終わると同時に、ホセが拳を床に叩き付ける。その大きな拳により、床には見事なクレーターが出来上がっていた。
その様子を見たフリントは帽子を深く被り、僅かに俯く
「……そうか、”お前”は……まだ……」
「……次の質問だ。お前は……何故ここにいる? 何のために、我等の前に現れた?」
「……”友”に逢うため。もう二度と間違えないため、俺はここにいる……」
「……そうか」
「おい! さっきから何なんだよ!? こいつと一体どういう関係なんだよ!」
「イ、イリアステル! お助けください!」
状況に付いて行けず、鬼柳が痺れを切らした様に間に入る。それに便乗する様に、鬼柳に引き摺られていたクラークがホセに助けを求めた。
「鬼柳、フリントにも事情があるんだ。……きっと何時か話してくれる。それまで待ってやってくれ」
「な、何だよ遊星……俺だけが何も知らねぇのか? 満足出来ねぇぜ……」
鬼柳が確認するようにブルーノへと視線を向けると、ブルーノはこれまでに見たことの無い様な真剣な表情でフリントを見詰めていた。それは正に別人と言える様子で、鬼柳は呆気に取られてしまった。
「……と、とにかく! こいつがWRGPをめちゃくちゃにしやがった奴なんだろう! ぶっ飛ばしてやる! そしてWRGPを再開させて、満足してやるぜ!」
鬼柳がホセに近づこうとすると、突然地響きが起こる。それはただの地響きではなく、地面や建物だけでなく空気まで揺れている様に感じられた。
「何だ!? 何が起こっている!?」
「(プラシドが仕事を終えたようだな……)」
遊星がホセに向かって叫ぶ。ホセはこの事態に動揺する事無くローブを着直すと、フリントに向かって指を突き出した。
「フリント、お前が我等と大きな関わりがある事は分かった。……今は見逃しておいてやろう。お前の存在には何か意味があるはず。それが我等にとって吉と出るか凶と出るか……それは大いなる神のみぞ知るだろう。さらばだ」
そう言うと、ホセは次元の裂け目を開き、その中へと姿を消す。
「そ、そんな! 助けて、助けてくれないのですか!? イリアステルゥーーーー!!!」
「うるせーぞ! 静かにしろ、って……おい、どんどん振動が強まってきてないか?」
「……皆! 遊星を中心に固まれ! 来るぞ!」
フリントの言葉に従い、遊星と鬼柳はブルーノとシェリーの元に駆け寄り、遊星を中心として固まる。残るはフリントのみであった。
「フリント! お前は!?」
「俺は大丈夫だ……身を伏せろ!」
合図に従って遊星達が身を伏せると、それと同時にフレア達を襲ったものと同じ白い衝撃波が遊星達に襲い掛かる。
「な、何だ!? ぐうっ……!」
衝撃波は遊星達を飲み込もうとするが、遊星の腕の”ドラゴン・ヘッド”の痣が光を放ち、光で4人を包んで衝撃波から守る。
「痣が……フリント!?」
遊星は慌ててフリントがいた方へ眼を向ける。フリントは白い衝撃波の中にいたが、マントすら靡かせず、まるで何事も無い様子で立っている。
「(フ、フリント……?)」
無事な姿でその場に立つフリントを見て、遊星は安心よりも先に不安を覚えた。
衝撃波の影響を受けずに立つフリントの姿は酷く儚げで、このまま光となって消えてしまうのではないか――――何故か、遊星はそう思った。
「フ……フリントォーーーー!!!」
遊星は腹の底から声を絞り出し、必死に手を伸ばして友の名を呼んだ。その叫びが届いたか否か、はっきりする前に遊星の視界は白く染まった。
* * *
「ぐ……うう……ここは?」
遊星の視界が元に戻ると、そこには何も無い、広大な更地が広がっていた。
「俺達はさっきまでME社にいたはず……っ!? フリント!?」
遊星は慌ててフリントの姿を捜す。フリントは遊星達から少し離れた位置で立ち尽くしており、一人空を見上げていた。
「フリント……よかった……皆、無事か!」
遊星は自分の周りにいる仲間達を見渡す。シェリーはまだ気絶したままだが、鬼柳とブルーノは無事の様で、不思議そうに辺りを見渡している。
「あ、あれ? 僕等はME社にいたはずなのに、ここどこ?」
「……いや、ここはそのME社だと思うぜ。見てくれよあの遠くに見える岩場。俺やフリントはあそこに隠れて待機してたんだ。間違いねぇ」
「ええ!? そんなおかしいよ! 僕等がいた研究施設は何処に行っちゃったのさ!?」
「さっきの光で吹っ飛ばされちまった……そうとしか思えねぇよ。瓦礫一つ無いけどな」
鬼柳の言う通り、遊星が持っていた携帯端末で現在位置を調べた所、ここは間違いなくME社があった場所である。しかし、ME社は姿形どころか、データ上の存在すら消えていたのである。
「(ここら一帯はME社の所有地だったはず……しかし、今では”広大な空き地”となっている。一体どうなっているんだ?)」
「んん!? おい遊星! あの眼鏡野郎がいなくなってやがるぞ!?」
とんでもない現象が起きたせいで見落としてしまっていたが、見ると手錠で捕えていたはずのクラークの姿が消えている。残されていた手錠の鍵はしっかりと掛かっており、外された形跡は残っていない。ME社同様、クラークまで姿を消してしまったのである。
「クラークまで……これは……」
「……おそらく、用済みとなったのだろう」
黙ったまま空を見上げていたフリントが口を開く。
「用済み?」
「必要が無くなったのだ。歴史の改竄の必要が無くなった。今のが最後の改竄だったのだろう」
「歴史の改竄……まさか今のが!?」
歴史の改竄――――過去が変化すれば、当然その先の未来に影響が出る。過去で生きていたものが消えれば、そのものの未来は無くなる。
消されたのだ。クラークも、ME社も、過去の時代で。
「言い換えれば、奴等の準備が整ったという事でもある。遊星、何時でも奴等と戦える準備をしておけ」
「!? ……ああ!」
「さてと……満足出来ねぇ結果になっちまったが、とりあえず帰ろうぜ? そこの女を送り届けなきゃならねぇし、残してきた奴等の様子も気になるしな。もしかしたらWRGPの続報なんてのもあるかもしれねぇ!」
鬼柳の提案に遊星とブルーノが頷く。しかし、フリントだけは空を見上げたまま動かない。
「おいどうしたんだよフリント? 帰ろうぜ」
「俺はまだ帰れない。やらなければならない事がある」
「あん? 何にも無くなっちまったこんなとこで他に何をやるってんだよ?」
「クラークとMEは消えた。だが……”インフィニティ”はまだここに残っている」
「何だって!?」
鬼柳だけでなく、遊星やブルーノまでも驚き、フリントの元へと詰め寄る。インフィニティは施設の隣に設置されており、先ほどの白い衝撃波によって施設ごと消滅してしまったはずである。
「用済みになってあいつ等が消しちまったんだろそれ?」
「インフィニティは奴等に扱える様な代物ではない。この世界での形は消えても、”憎しみ”と共にまだここにある」
「憎しみ……? それは一体何なんだフリント?」
遊星がフリントに問い掛けた瞬間、4人の頭に凄まじい”叫び”が響き渡る。
オオオオオ…………ウオォォォォォーーーー!!!
「う、うわぁぁぁ!? な、何……これ……!? あああ!?」
ブルーノが頭を抱えてその場に座り込む。遊星と鬼柳はそれを感じ取った瞬間、過去の記憶が鮮明に浮かび上がってくる。二人は知っていた。この”叫び”が何なのかを――――
「(忘れはしない……俺はこの”感情”を……受けた事がある!)」
「(忘れはしねぇ……俺は……こいつを向けた事がある!)」
サテライトで起こった、悲しき事件と戦い。ダークシグナーとなった鬼柳が遊星にぶつけた悲しき”思い”。それは――――
「「 (この感情は……”憎悪”!) 」」
「う……ううっ……遊星……!」
「ブルーノ!? しっかりしろ! 大丈夫か!?」
震えながら蹲るブルーノを助け起こそうとする遊星。しかし、ブルーノは蹲ったまま立とうとしない。
「恐い……恐いんだよ遊星! 何でか……恐いんだ! うわぁぁぁ!?」
「落ち着けブルーノ! どうしたんだ!?」
とうとう涙まで見せ始めたブルーノに、遊星は声を掛け続け、フリントは背を摩ってやる。しかし、ブルーノは落ち着く事無く、とうとう耐え切れずに気を失ってしまう。
「ブルーノ!? ブルーノ!」
「無理も無い。この憎悪は俺と……ブルーノに対して向けられている。お前達が感じていたものとは桁違いのプレッシャーだっただろう」
「何だって!? フリント、何故お前とブルーノに!?」
「……遊星、ブルーノとシェリーを連れて、鬼柳と共にここから離れろ。今すぐにだ」
「何を言っている!? お前はどうする気なんだ!?」
「ここで”奴”を迎え撃つ……奴は必ず俺を狙ってくるはずだ。だからお前達は逃げろ」
「馬鹿を言うな! お前を一人で置いては行けない! 行ってたまるか!」
「遊星……っ!? 散れぇ! 来るぞ!」
フリントが何かを感じ取り叫んだ瞬間、フレア達の時と同じ様な次元の裂け目が現われ、そこから無数の光る触手が伸びる。咄嗟に反応したフリント、遊星、鬼柳は飛び退いて避けるが、気絶しているブルーノとシェリーは触手に捕まってしまう。触手は二人を捕まえると、次元の裂け目に引きずり込もうとする。
「しまった!? くそっ!」
フリントは決闘銃を取り出し、二人を捕えている触手に向かってカードを放つ。
カードは見事触手を断ち切り、ブルーノとシェリーを解放する。しかし、ブルーノは上手く地面に落ちてくれたものの、シェリーは一歩間に合わず、次元の裂け目の中へと吸い込まれてしまった。
「シェリー!?」
「くそっ! こうなっては……ん?」
フリントがふと自分のデッキケースを見ると、一番手前に入れてあるオーガ・ドラグーンのカードが光っている事に気付く。
「……やれるんだな? 番人としての力、見せてみろ!」
フリントはオーガ・ドラグーンのカードを決闘銃にリロードすると、裂け目に向かって銃口を向ける。
「こじ開けろ! オーガ・ドラグーン!」
銃口からカードが放たれると、オーガ・ドラグーンのカードは狂い無く裂け目の中へと入り、光を放つ。その光は裂け目をぐんぐんと押し広げ、フリント達をも包み込んだ――――
* * *
「……ここは?」
遊星が気が付くと、そこは空の赤い、瓦礫だらけの世界。そう、フレア達も連れて来られたあの世界である。
見渡すと、近くには残骸となった機皇帝ワイゼルと、フリントが落ちているオーガ・ドラグーンのカードを拾い上げている姿が見えた。
「こいつめ、遊星達まで巻き込むとはな……」
「(ワイゼル……!? ということは、近くに奴が?)」
遊星はワイゼルの使い手”プラシド”の姿を捜すが、何処にも見えない。
「遊星、ここにいる機皇帝はイリアステルの僕ではない。そして……一体だけの存在でもない」
「なっ!?」
フリントの視線を追うと、そこには大量の機皇帝がこちらを目指して飛んで来ていた。ワイゼル、スキエル、そして一度だけ見た事のあるグランエルまでもが複数存在している。
「これは……本当に機皇帝なのか?」
「本当だ。だが、イリアステルの物の様に調整されている訳ではなく、無造作に作り出された量産機に過ぎない。だからこそ……やりようがある!」
先行して近づいてきたスキエル一機に向かってフリントがカードの弾丸を数発放つと、見事パーツの接合部分を撃ち抜き、墜落させる。
「流石だフリント。しかし……あの数は厳しいぞ」
「何てことねぇよ遊星! フリント、ここでも”決闘”は出来るんだよな?」
後ろからブルーノを背中に背負って鬼柳が歩いてくる。
「あ~重てぇコイツ! 伊達にでかくねぇな」
「可能だ。決闘盤を起動させれば、奴等とリンクし、決闘を行える」
「へっ、なら結構だ! 蹴散らしてやろうぜ!」
鬼柳は地面にブルーノを降ろすと、腰から決闘銃を抜き、腕に装着して決闘盤へと変形させる。
やる気十分な鬼柳だが、フリントは首を左右に振った。
「いや、それは無理だろう。見ろ」
フリントが指し示した方へ遊星と鬼柳が向くと、そこにはまるで”要塞”の様な建物が聳え立ち、その中から次々と機皇帝達が出て来ているのが見える。
その要塞を見た瞬間、再び憎悪の叫びが3人を襲う。
「うおっ……!?」
「ぐっ!? これは……」
「あれこそがMEにあった”インフィニティ”の真の姿だ。あれを破壊しない限り機皇帝は増え続ける」
機皇帝と叫びの原因があの要塞ならば、あれさえ何とか出来れば良いという話。否定的な発言をしたフリントであったが、その時には既に決闘銃を構え、静かに要塞を見据えていた。明らかな臨戦態勢である。
「遊星、鬼柳、先にこちらへと落とされたシェリーは必ずどこかにいる。ブルーノ共々、頼んだぞ」
「何をする気だフリント! まさか一人であの要塞を叩くつもりなのか!?」
「その通りだ遊星。あれを破壊しなければ、俺達に先は無い。それどころか、ここの機皇帝が表の世界へと現れる可能性すらある。絶対に破壊しなければならないのだ」
「ならば俺も行く! お前だけ危険な目に遭わせる訳にはいかない!」
遊星がフリントに近づこうと前に出た瞬間、フリントが手を遊星の前に出し、制止させる。
「遊星、お前は世界に必要な男だ。こんな所で倒れさせる訳には行かない。だからこそ厳しい事を言わせて貰う」
フリントは遊星に背を向け、語り始める。
「遊星、今のお前に何が出来る? 決闘盤も持たないお前に」
「っ!? それは……」
「それにだ。仮に決闘盤があったとしても、”クリア・マインド”を使えないお前はどうやって機皇帝に対抗する気だ」
「!?」
揺るがなき境地”クリア・マインド”――――それは”スピードの世界”でのみ辿り着ける新境地。Dホイールでのライディング・デュエルでなければ、発動することは出来ないのである。
「遊星、これは俺がやらなければならない事なのだ。お前はこの場を生き抜き、来るべき時の戦いに備えなければならない。……今は、俺の番だ。俺に任せてくれ」
そう言うと、フリントは機皇帝が見下ろす瓦礫だらけの荒野へと駆け出す。機皇帝達は一斉に反応すると、フリントに向かって攻撃を始めた。
「フリント!? くそ! くそぉ!」
「……遊星、受け取れ!」
悔しそうに叫ぶ遊星に、鬼柳が何かを投げ渡す。遊星は不意打ちに近いそれを何とか受け止めると、驚いた表情で鬼柳へと向き直った。
「これは……決闘銃!?」
「念のために持ち歩いておいた俺の予備だ。それ持ってフリントを追いかけな」
「……鬼柳?」
「あんな事言われてもよ、満足出来ねぇよな? 仲間が突っ込んで行くのを見てるだけなんざ……理屈じゃねぇんだ、こういうのはよ!」
鬼柳は決闘盤を構える。
「ブルーノとあの女は任せろ! 敵も出来るだけ引き付けてやる! だからお前はアイツに教えてやれ! お前の理屈じゃない”底力”ってやつをよ!」
「鬼柳……分かった!」
遊星は決闘銃を握り締め、フリントを追って駆け出す。
機皇帝が狙っているのは憎悪の対象であるフリントとブルーノらしく、ワイゼル数体がフリント達を無視して鬼柳達の方へと向かってくる。要塞から向けられる”憎悪”と共に――――
ウウウ……ジョアアアアーーーー!!!
「へっ、来いよぉ!」
鬼柳が決闘盤を構え、決闘盤をワイゼル1体とリンクさせる。
「 デュエルだぁ!!! 」
ワイゼルのフィールド
LP:4000
手札:5
モンスター
・機皇帝ワイゼル∞
・ワイゼルT
・ワイゼルA
・ワイゼルG
・ワイゼルC
魔法・罠
・無し
ワイゼル 手札:5→6
先攻はワイゼルから。フレアの時と同じ様に次々とパーツを入れ替え、更に魔法で強化を行う。
LP:4000
手札:1
モンスター
・機皇帝ワイゼル∞ ATK:0→800
・ワイゼルT3 ATK:600→1400
・ワイゼルA3 ATK:1600→2400
・ワイゼルG3 DEF:2000(ATK:0→800)
・ワイゼルC ATK:800→1600
魔法・罠
・セット
・一族の結束
ATK:2500→7000
「面白ぇじゃねぇか! 今度はこっちの――――何ィ!?」
ワイゼルの強化に気を取られ過ぎたか、鬼柳は倒れているブルーノに向かってブレードを振り上げる他のワイゼルの存在を見落としていた。
「ちっきしょぉ! 決闘に水差すんじゃねぇ!」
ブルーノを庇おうと駆け出す鬼柳であったが、間に合わない。ブルーノの背にワイゼルの刃が迫ろうとしたその時――――
「おおおおお!? ……お、お前は!?」
鬼柳がブルーノに飛び掛るよりも早く、鬼柳の決闘盤から飛び出した”煉獄の将”がワイゼルの前に立ち塞がり、刃を大剣で受け止める。
「“インフェルニティ・ジェネラル”……!?」
ジェネラルだけではない。その後ろでは煉獄の騎士がブルーノを背負いながら剣を抜き、その横では煉獄の射手が弓矢でワイゼルTを撃ち抜く。
「お、お前らがどうして……いや、聞くまでもねぇ! 満足してぇんだなお前ら! いいぜ! 満足させてやるよぉ! 俺のターン!」
鬼柳 手札:5→6
「永続魔法《インフェルニティガン》を――――」
鬼柳が魔法を発動した瞬間、ワイゼルT3から光線が放たれ、鬼柳の魔法を破壊する。
「へっ、どうってことねぇよ! 魔法カード《手札抹殺》! お互いに手札を全て捨て、その枚数分だけドロー!」
鬼柳 手札:4→0→4
ワイゼル 手札:1→0→1
「魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札のモンスター1体を墓地へ送り、デッキ・手札からレベル1モンスターを1体を特殊召喚! 来いよ《インフェルニティ・ミラージュ》!」
墓地へ送ったカード
インフェルニティ・デストロイヤー
鬼柳 手札:3→2
鬼柳の場に、インディアンを模した悪魔、インフェルニティ・ミラージュが現れる。ミラージュはこれから起こることをこの時から予見していたのか、ケタケタと愉快そうに笑い出していた。
ATK:0 レベル1
「速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! 相手の場にモンスターが存在し、自分が攻撃力1500以下のモンスター1体の特殊召喚に成功した時、特殊召喚したモンスターと同じモンスター全てをデッキ・手札・墓地から攻撃表示で特殊召喚する! デッキから2体の《インフェルニティ・ミラージュ》を特殊召喚!」
鬼柳の場にミラージュが2体増える。
本来、地獄の暴走召喚は相手にも特殊召喚する権利を与えてしまうカードだが、モンスターゾーンを埋めている機皇帝にはその様な心配は無用。機皇帝の隙を突いた見事なコンボである。
「カードを伏せる! 行くぜ、《インフェルニティ・ミラージュ》の効果発動! 手札が0の時、こいつをリリースする事で墓地からインフェルニティ2体を特殊召喚する! 来い! 《インフェルニティ・ビートル》! 《インフェルニティ・デストロイヤー》!」
鬼柳が号令を掛けると、ミラージュが姿を消し、代わりにビートルとデストロイヤーが現れる。
インフェルニティ・ビートル ATK:1200 レベル2
インフェルニティ・デストロイヤー ATK:2300 レベル6
「レベル6《インフェルニティ・デストロイヤー》に、レベル2《インフェルニティ・ビートル》をチューニング!」
ビートルが2つの光輪へと変わると、デストロイヤーを囲み、6つの光、そして光の柱へと変える。
「死者と生者、ゼロにて交わりしとき、永劫の檻より魔の竜は放たれる! シンクロ召喚! いでよ! 《インフェルニティ・デス・ドラゴン》!」
光の柱の中から、鬼柳の切り札“インフェルニティ・デス・ドラゴン”が姿を現す。
ATK:3000 レベル8
「聞いてるぜ、お前等はこいつが大好物なんだってな? ……いいぜ、ご馳走してやるよ! 俺のシンクロモンスター達をよ!」
鬼柳の挑発と同時に、インフェルニティ・デス・ドラゴンが咆哮を上げる。
「《インフェルニティ・ミラージュ》の効果発動! 墓地から《インフェルニティ・リベンジャー》と《インフェルニティ・デストロイヤー》を特殊召喚!」
2体目のミラージュが消えると、デストロイヤーが復活し、更にインフェルニティ・リベンジャーが現れる。
インフェルニティ・デストロイヤー ATK:2300 レベル6
インフェルニティ・リベンジャー ATK:0 レベル1
「レベル6《インフェルニティ・デストロイヤー》に、レベル1《インフェルニティ・リベンジャー》をチューニング!」
リベンジャーが光の輪へと変わると、デストロイヤーを囲み、6つの光、そして光の柱へと変える。
「持たざる者の未来と意思が、ゼロにて輝く時……全てを断つ剣は抜き放たれる! シンクロ召喚! 来いよ! 《スクラップ・デスデーモン》!」
光の柱の中から現れたのは、その名の通りスクラップで作られた悪魔の模造体。しかし、その眼に宿る邪悪な気は明らかにスクラップの模造体が発せられるものではなかった。
ATK:2700 レベル7
「最後のミラージュの効果発動! 《インフェルニティ・ビートル》と《インフェルニティ・ビースト》を特殊召喚! 更にビートルの効果発動! 手札が0の時、こいつをリリースする事でデッキからビートルを2体特殊召喚する!」
3体目のミラージュが消えると、2体のビートルとインフェルニティ・ビーストが姿を現す。
インフェルニティ・ビートル ATK:1200 レベル2
インフェルニティ・ビートル ATK:1200 レベル2
インフェルニティ・ビースト ATK:1600 レベル3
「レベル3《インフェルニティ・ビースト》に、レベル2《インフェルニティ・ビートル》をチューニング!」
ビートルが2つの光輪へと変わると、ビーストを囲み、3つの光、そして光の柱へと変える。
「地獄と煉獄がゼロへと鎖すとき、無限の運命により死神は蘇る! シンクロ召喚! 《幻層の守護者アルマデス》!」
光の柱から姿を現したのは、逞しい戦士の姿をした悪魔。聖なる者の様に白い体を持ち、右腕には全てを焼き尽くす様な炎を、左腕には全てを凍結させる様な冷気を纏っている。
ATK:2300 レベル5
「伏せていた魔法カード《貪欲な壺》を発動! 墓地からモンスターを5体をデッキへ戻しシャッフル、2枚ドロー!」
デッキに戻したカード
インフェルニティ・ミラージュ
インフェルニティ・ミラージュ
インフェルニティ・ミラージュ
インフェルニティ・ビートル
インフェルニティ・ビートル
鬼柳 手札:0→2
「魔法カード《死者蘇生》を発動! 蘇れ《インフェルニティ・デストロイヤー》!」
デストロイヤー、3度目の復活。しかし、ここで止まる鬼柳ではない。
ATK:2300 レベル6
「シンクロキラーだか何だか知らねぇが、そんなもん俺には関係ねぇ! レベル6《インフェルニティ・デストロイヤー》に、レベル2《インフェルニティ・ビートル》をチューニング!」
ビートルが2つの光輪へと変わると、デストロイヤーを囲み、6つの光、そして光の柱へと変える。
「相手が何だろうと、ぶったおして、天辺まで駆け上がる! 仲間と……こいつ等と! シンクロ召喚! いでよ、《ダークエンド・ドラゴン》!」
光の柱から姿を現したのは、腹部にもう一つの顔を持つ漆黒の竜。来るべきWRGP再開の日の為に鬼柳が用意した秘密兵器、”ダークエンド・ドラゴン”である。
ATK:2600 レベル8
「さあ、出陣と行こうぜ! フィールド魔法《暗黒界の門》を発動!」
鬼柳がフィールド魔法を発動させると、鬼柳の後ろに禍々しい巨大な門が現れる。
鬼柳はこの門と周りで機皇帝達の妨害を防いでいるインフェルニティ・ジェネラル達、そしてインフェルニティ・デス・ドラゴンを見て”煉獄”での出来事を思い出し、思わず笑みを洩らす。
「(フリントのとこにいる”閻魔”さんよぉ……俺はまだ、生きて戦っているぞ!) この門がある限り、場の悪魔族の攻守は300ポイントアップする!」
スクラップ・デスデーモン ATK:2700→3000
幻層の守護者アルマデス ATK:2300→2600
”ハンドレス・コンボ”の脅威の展開力により、全ての準備が整った鬼柳陣営。場に並んだ4体のシンクロモンスターが機皇帝と向かい合う。最初に動いたのはダークエンド・ドラゴン。
「ダークエンドの効果発動! 1ターンに1度、攻守を500ポイントダウンさせる事で、相手のモンスター1体を墓地へ送る!」
鬼柳は最初にワイゼル本体を指差したが、ダークエンドはそれに反応しない。鬼柳もワイゼルの能力に気付き、舌打ちをして対象を変更する。
「なら、ダメージの通らねぇ守備表示野郎! 消えろ! 〈ダーク・イヴァポレイション〉!」
ATK:2600→2100
ダークエンドが眼を光らせると、突然ワイゼルの側に黒い霧の様なものが現れ、ワイゼルの右腕であるワイゼルG3を包み込む。霧に包まれたワイゼルG3は、そのまま霧と共に消滅してしまった。
機皇帝ワイゼル∞ ATK:7000→6200
「チーム・サティスファクション、行くぜ! アルマデス、脚を狙え!」
アルマデスが両手の炎と冷気を強め、ワイゼルCへと突撃。ワイゼルはワイゼルCの効果で攻撃を防ごうとするが、ワイゼルCは異音を鳴らすだけで動かない。
「アルマデスは攻撃するダメージステップ終了時まで、魔法・罠・モンスター効果を発動する事は出来ねぇ! 食らいやがれ!」
アルマデスがワイゼルCに右腕の炎を押し付けた後、左腕の冷気をぶつける。熱された後に急激に冷やされたワイゼルCのフレームは歪に変形した後、爆散する。
ワイゼル LP:4000→3000 ATK:6200→4600
「スクラップ・デスデーモン! 左腕ぇ!」
スクラップ・デスデーモンは咆哮を上げながらワイゼルA3に組み付き、もぎ取ってそのまま握り潰す。
ワイゼル LP:3300→2700 ATK:4600→2200
「ダークエンド! 【ダーク・フォッグ】!」
ダーク・エンドがワイゼルT3に向かって黒い煙を放つと、煙が先程のワイゼルG3の様にワイゼルT3を包み込み、消滅させる。
ワイゼル LP:2700→2000 ATK:2200→800
「テメェに俺達を止める事は出来ねぇ! インフェルニティ・デス・ドラゴン!」
五体を破壊され、胴体だけの無残な姿となったワイゼルにデス・ドラゴンが迫る。デス・ドラゴンがその腕を振り上げた瞬間、デス・ドラゴンは爆炎に包まれた。
「何!?」
ワイゼルとて甘くはない。最後の最後で罠を張っていたのである。
「《万能地雷グレイモヤ》……か……」
攻撃宣言時、相手の一番攻撃力の高いモンスターを破壊する罠カード。
危機を凌いだワイゼルは煙の中でコアを光らせる。次のターン、残ったシンクロモンスターを吸収し、反撃に移る。相手は手札0、魔法・罠ゾーンにもカードは無し。一方的に嬲り殺せる。そう計算し、動き始めたワイゼルのセンサーが捉えたのは――――煙の中に立つ”死神”の姿であった。
「くくく……ケケケ……残念だったな。死神は死なねぇ!」
鬼柳の言葉と同時に、インフェルニティ・デス・ドラゴンが煙を払って姿を現す。
「墓地の《インフェルニティ・ビショップ》の効果発動! 手札が0の時、場のインフェルニティが破壊される場合、こいつを代わりに除外する事が出来る! ……さあ、覚悟しな! 【デス・ファイア・ブラスト】!」
デス・ドラゴンが赤いブレスを放つと、ワイゼルは何も出来ぬまま焼かれ、コアごと消滅する。
ワイゼル LP:2000→0
「へっ! 玩具の決闘なんてこんなもんだ! ……さて」
鬼柳はジェネラル達が足止めしていた機皇帝の内の一体へと振り向くと、再び決闘盤を構える。この時、フリントと遊星が向かった要塞の方角から再び憎悪の叫びが聞こえてくる。
「(……人間の”思い”って奴は、本当に恐ろしい。それが強ければ強い程、どこまでも真っ直ぐ伸びちまって、自分では修正が効かなくなっちまう。例え、それが腐ってようがお構い無しだ)」
鬼柳は機皇帝と対峙しながら、要塞へと眼を向ける。
「(フリント、遊星、あれが誰だかは知らねぇが、何とかしてやってくれ。俺の時の様にな)」
本来はこの話と次を合わせて62話の予定でしたが、鬼柳を話にねじ込んだ結果、長くなったので2話に分けました。
予定には無かったんですけど、鬼柳の影の薄さが気になったので予定を変えちゃいました。
本来の62話予定だったものも出来るだけ早めに書き上げますのでどうぞお楽しみに。