遊戯王5D's ~荒野のデュエリスト~   作:鬼柳高原

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ちょっと長いのでゆっくりどうぞ!

*消し忘れてた一文があったのでちょいと修正。申し訳ありません!


第67話 ラグナロク 後編

「先攻は頂戴するぜ! 俺のターン!」

 

 ブレイブ 手札:5→6

 

「さーて、まずは……魔法カード《手札抹殺》を発動! お互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分だけドローするぜ!」

「(いきなり手札抹殺かぁ……エアトスがいたのになぁ)」

 

 ブレイブ 手札:5→0→5

 フレア 手札:5→0→5

 

 ブレイブ新しく引いたカードを確認しつつ、フレアへ眼を向ける。

 

「(こっちにだって戦う理由はある。その為にやった事も無かった決闘を猛勉強して、ここまで来たんだ! はいそうですかで引くつもりなんてさらさら無いっつーの!)」

 

 ブレイブには養っている孤児達がいる。その孤児達はイリアステルの歴史改竄の影響によって引き起こされた紛争で家族を失っていた。

 これ以上養っている孤児達の様な子供を増やさぬ為、ブレイブは本業であるトレジャーハンターの道を捨て、イリアステルとの戦いへと身を投じたのだ。

 

「たった今墓地に送られた《髑髏顔 天道虫(どくろがん レディバグ)》2体の効果発動! LPを1000ポイント回復する! 2体で2000ポイント回復!」

 

 ブレイブ LP:4000→6000

 

「(ちょいと俺らしくないが……”圧倒する大奇術”を使わせて貰うぜ!)魔法カード《ソウル・チャージ》を発動! 墓地から任意の数だけモンスターを特殊召喚する! 《王立魔法図書館》と《極星霊デックアールヴ》を特殊召喚!」

 

 ブレイブの場にピンク色の精霊1体と巨大な本棚が複数現れる。ブレイブの背後に並ぶ本棚は、その大きさや見た目からして永続魔法かフィールド魔法に見えるが、れっきとしたモンスターである。

 

 王立魔法図書館 DEF:2000 レベル4

 極星霊デックアールヴATK:1400 レベル5

 

「えー!? 好きなだけ出せるの!?」

「その代わり、1体につき1000LPを失い、このターンのバトルフェイズを放棄しなきゃならないけどな。ま、髑髏顔でLP回復してるし、先攻だから実質デメリットは無しだな」

 

 ブレイブ LP:6000→4000

 

「装備魔法《ワンダー・ワンド》を魔法使い族の《極星霊デックアールヴ》に装備! ここで王立魔法図書館の効果発動! 魔法が発動される度、このカードの魔力カウンターを置く!」

 

 ブレイブが装備魔法を発動すると、本棚の傍に緑色に光る球体が現れる。

 

王立魔法図書館 魔力カウンター:0→1

 

「ワンダー・ワンドの効果発動! このカードと装備モンスターを墓地に送る事で、デッキから2枚ドロー!」

 

 デックアールヴが杖と共に消滅すると同時に、ブレイブがデッキから2枚のカードを引き抜く。

 

 ブレイブ 手札:3→5

 

「魔法カード《闇の誘惑》を発動! 2枚ドローし、その後手札から闇属性1体を除外する!」

 

 ブレイブ 手札:4→6→5

 

 除外したカード

 極星霊デックアールヴ

 

 王立魔法図書館 魔力カウンター:1→2

 

「へへっ、まだまだ回すぜ! 手札を2枚捨て、魔法カード《魔法石の採掘》を発動! 墓地から魔法カード1枚を手札に加える! 《ワンダー・ワンド》を手札に!」

 

ブレイブ 手札:4→2→3

王立魔法図書館 魔力カウンター:2→3

 

「これで3つ! 王立魔法図書館の効果発動! カウンターを3つ取り除き、デッキから1枚ドローする!」

 

 魔法が発動する度に現れていた緑色の球体が全て消滅すると同時に、ブレイブがデッキトップのカードを引き抜く。

 

 ブレイブ 手札:3→4

 王立魔法図書館 魔力カウンター:3→0

 

「もう一度《ワンダー・ワンド》を発動! 魔法使い族《王立魔法図書館》に装備し、墓地に送って2枚ドロー!」

 

 本棚と杖が消滅し、ブレイブがドローする。

 

 ブレイブ 手札:3→5

 

「(うーん、やたら手札交換するなぁ……手札事故?)」

 

 ドローしてばかりのブレイブに訝しげな視線を送るフレア。それに気付いたブレイブはフレアに笑みを返す。

 

「カードを5枚伏せて、ターンエンド!」

 

LP:4000

手札:0

モンスター

・なし

魔法・罠

・セット

・セット

・セット

・セット

・セット

 

「(あんなにあった手札を一気に……)」

 

 過剰に手札を補充したかと思えば、今度はモンスターも出さずにカードを大量に伏せる。事故を起した様にも見えるし、魔法・罠により万全の陣を布いたようにも見える。“トリックスター”と呼ばれる彼の戦術を前に、フレアは表情に警戒の色を浮かべた。

 

「私のターン!」

 

 フレア 手札:5→6

 

「ここで罠を3枚発動するぜ!」

「3枚!?」

 

 ブレイブはフレアのターンが始まった瞬間、3枚の伏せカードを展開させる。

 

「1枚目は永続罠《強化蘇生》! 墓地のレベル4以下のモンスター1体のレベルを1つ上げ、攻守を100ずつアップさせて特殊召喚する! 《王立魔法図書館》を守備表示で特殊召喚!」

 

 再びブレイブの場に魔法図書館が聳え立つ。

 

 DEF:2000→2100 レベル4→5

 

「2枚目は永続罠《王宮の鉄壁》! このカードが存在する限り、お互いにカードを除外出来ない!」

「(除外封じ!? ……予想してなかった訳じゃないけど、今来るんだ……)」

 

 神に対抗する為の手段の中で、除外は最も手軽で効果的な手段と言えるだろう。フレアが神に対して取ろうとしていた手段が正にそれであった。

 

「3枚目は永続罠《生贄封じの仮面》! このカードが存在する限り、お互いにリリースを行う事が出来ない!」

 

 除外の次に封じて来たのはリリース。相手の上級モンスターの展開を狭めるだけでなく、リリースによる除去から神を守る効果もある。あまり見られないケースだが、ブレイブはしっかりと隙を埋めにきたようだ。

 

「(とにかく、私の戦術を通すには除外封じは困るから……)速攻魔法《サイクロン》! 《王宮の鉄壁》を破壊!」

 

 王立魔法図書館 魔力カウンター:0→1

 

 フレアが発動させたカードのソリッドビジョンから竜巻が放たれ、ブレイブの王宮の鉄壁を包み込む。それを見たブレイブは頭を抱え、天を仰ぎ――――笑みを浮かべた。

 

「お、俺の罠がぁー!? ……なんてな! 永続罠《宮廷のしきたり》を発動! こいつが存在する限り、このカード以外の永続罠を破壊する事は出来ない!」

 

 ブレイブが新たな永続罠を発動すると、フレアが発生させた竜巻は何も破壊しないまま消え去ってしまう。

 

「(永続罠を守る永続罠なんて……ええい、作戦変更! ガンガン行こう!) 魔法カード《死者蘇生》! 墓地の《ガーディアン・エアトス》を特殊召喚!」

 

 王立魔法図書館 魔力カウンター:1→2

 

 フレアの墓地から光の鳥が飛び出し、女神へと姿を変え、場に降り立つ。

 

 ATK:2500 レベル8

 

「装備魔法《ビッグバン・シュート》を《ガーディアン・エアトス》に装備! 装備したエアトスの攻撃力を400アップさせ、貫通能力を与える!」

 

 ATK:2500→2900

 

 王立魔法図書館 魔力カウンター:2→3

 

 本来はビッグバン・シュートかエアトスの除外する効果で神を倒す作戦であったが、こうなっては仕方が無い。フレアはエアトスを強化し、相手のカードを削りつつ、神が出る前に押し切る戦術を取った。

 

「バトル! エアトスで王立魔法図書館を攻撃!」

「ところが! 罠カード《和睦の使者》を発動! このターン、自分のモンスターは戦闘で破壊されず、ダメージも0となる!」

 

 エアトスが攻撃を行う為に上空へと飛び立とうとした瞬間、光がエアトスの目の前に差込み、飛翔を遮る。エアトスはその光の力に気付き、攻撃は無駄と判断してフレアの場に留まった。

 

「……カードを3枚伏せ、ターンエンド!」

 

LP:4000

手札:0

モンスター

・ガーディアン・エアトス

魔法・罠

・ビッグバン・シュート(ガーディアン・エアトス)

・セット

・セット

・セット

 

「さーて、今度はこっちの番だな。俺のターン!」

 

 ブレイブ 手札:0→1

 

「王立魔法図書館の効果発動! カウンターを3つ取り除き、1枚ドロー!」

 

 王立魔法図書館 魔力カウンター:3→0

 ブレイブ 手札:1→2

 

「魔法カード《マジック・プランター》を発動! 自分の場の表側表示の永続罠1枚を墓地に送り、2枚ドローする! 俺が墓地に送るのは《強化蘇生》!」

 

 王立魔法図書館 DEF:2100→2000 レベル5→4 魔力カウンター:0→1

 ブレイブ 手札:1→3

 

「デッキトップからカードを1枚墓地へ送り、魔法カード《アームズ・ホール》を発動! このターンの通常召喚を放棄する代わりに、デッキ・墓地から装備魔法1枚を手札に加える! 墓地から《ワンダー・ワンド》を加え、《王立魔法図書館》に装備!」

 

 王立魔法図書館 魔力カウンター:1→2→3

 

「王立魔法図書館の効果を使い、1枚ドロー! そしてワンダー・ワンドの効果で墓地に送り、更にドローだ!」

 

 ブレイブ 手札:2→3→5

 

 本棚と杖がブレイブの場から消えた代わりに、ブレイブの手札に大量のカードが集まる。手札不足に悩まされやすい決闘者にとっては、正に”奇術”であった。

 

「これで準備はオーケー! それじゃ、主役にご登場頂くとするか! 魔法カード《死者蘇生》を発動! 墓地からチューナーモンスター《極星霊スヴァルトアールヴ》を特殊召喚!」

 

 ブレイブの場に邪悪な笑みを浮かべた黒い精霊が現れる。

 

 ATK:1000 レベル2

 

「こいつをシンクロ素材とする場合、残りの素材は手札の極星2体で行う!」

「手札のモンスターをシンクロ素材に!?」

 

 古来より、”神のカード”と呼ばれるモンスターの正規召喚を行うには、場の3枚以上のカードを素材として召喚しなければならない。有名な”三幻神”や歴史の裏の闇に消えていった”三幻魔”、”三邪神”がそうであり、チーム・ラグナロクが使う”三極神”も例外ではない。

 だが、ブレイブはたった1枚のカードを場に出しただけで召喚を成し遂げようとしている。ここまでの奇術にも驚かされてきたが、フレアにとってはこれが一番の衝撃であった。

 

「手札のレベル4《極星霊リョースアールヴ》2体に、レベル2《極星霊スヴァルトアールヴ》をチューニング!」

 

 場のスヴァルトアールヴが2つの光に変わると、ブレイブの手札から飛び出した8つの光と共に次元の穴へと吸い込まれる。

 

「星界より生まれし気まぐれなる神よ、絶対の力を我らに示し、世界を笑え! シンクロ召喚! 光臨せよ、《極神皇ロキ》!」

 

 ブレイブの瞳にルーン文字が浮かびあがると、次元の穴から1体の巨人が現れる。トールと同じく巨体なのだが、その身は細く、魔導師の様な姿し、蓄えた長髪と顎鬚を揺らしながらにやけた表情でフレア達を見下ろしている。

 これこそが三極神の2体目の神、”極神皇ロキ”である。

 

 ATK:3300 レベル10

 

「これが2体目の……!?」

「こいつが出たからには、もう勝負は決まったも同然だな! 言っておくが、破壊しようだなんて思わないほうがいいぜ」

 

 それはフレアにも見当がついている。ロキもトールと同じ神なら自己再生能力が存在するはず。ブレイブの表情からして間違いないだろう。

 

「バトルだ! ロキでガーディアン・エアトスを攻撃!」

「破壊も除外も駄目、そんな我侭言うなら、帰ってもらうよ! 罠カード《神風のバリア -エア・フォース-》! 相手の攻撃表示モンスター全てを手札に戻す!」

 

 フレアが罠を発動させると、ロキの周りに激しい風が巻き起こる。

 唯一封印されていない神への対抗策”バウンス”を行うフレア。隙を突かれたブレイブはこれも想定内と言った表情で指をパチンと鳴らす。

 

「ロキの効果発動! 攻撃宣言時に発動した魔法・罠を無効にし、破壊する!」

 

 ロキがブレイブと同じ様に指を鳴らすと、風がピタリと止んでしまう。

 

「そんな!?」

 

 トールがモンスター効果を封じるならば、ロキは魔法・罠を封じる力を持つ。これを予想出来なかったフレアに、もはや攻撃を止める事はできなかった。

 

「くらいな! 【ヴァニティバレット】!」

 

 ロキが右手の人差し指と親指を立て拳銃の様に構えると、人差し指の先から黒い魔力の弾丸をエアトスに向かって放つ。エアトスは結界を張り、何とかフレアへの衝撃を防いだが、自身は魔力に飲まれて消滅してしまった。

 

「エアトス!?」

 

 フレア LP:4000→3600

 

「俺はカードを2枚伏せ、ターンエンド! これがブレイブ様の”圧倒する大奇術”だ!」

 

LP:4000

手札:0

モンスター

・極神皇ロキ

魔法・罠

・王宮の鉄壁

・生贄封じの仮面

・宮廷のしきたり

・セット

・セット

 

 極神を召喚し、その存在と永続罠で相手を圧迫する”圧倒する大奇術”。除外を封じ、リリースを封じ、攻撃反応型魔法・罠を封じる。更にブレイブが伏せた2枚のカードはカウンター罠《リ・バウンド》と永続罠《洗脳解除》。前者はバウンスを封じ、後者はコントロール奪取を封じる。これでフレアは神が苦手とする戦術全てを封じられてしまった事になる。

 本来のブレイブの決闘は変幻自在に動き、相手を翻弄して自身のペースに引き込むもの。しかし、ドラガンとの決闘を見てフレアに何か”得体の知れなさ”を感じ取ったブレイブは、動きを合わせる事を避け、力づくで抑え込む形に持ち込んだ。

 

「(戦法を変える事に不安はあったが、何とかなったな。正直ここまで上手く行くとは思わなかったぜ。運命の神様も俺の味方だ)」

 

 視線の先のフレアは首を捻りながら唸っている。流石にこの完璧な布陣ではどう動こうか迷うであろう。LPも4000のまま無傷であり、これでは力づくの強行突破やバーンで勝利する事も難しい。

 

「さあ決闘巫女! この奇術を前に、どう出る?」

 

 ブレイブがウインクを決めながらフレアを指差すと、フレアは唸るのを止め、意を決した様にデッキトップに指を掛ける。

 

「私のターン!」

 

 フレア 手札:0→1

 

「……フッフッフ!」

「あん?」

「レディースエーンジェントルメーン!」

「おわ!?」

 

 突然なフレアの大声に、ブレイブは軽く仰け反る。ブレイブの後ろで観戦していた二人も呆気に取られた様な表情をしていた。

 

 

「って、ここにはジェントルメンしかいなかったね! まいっか!」

「おいおい一体どういうつもりだ?」

「ミスターブレイブの大奇術、お見事でした! 今度は私の番ですね!」

「はあ?」

 

 芝居がかったフレアの話し方に困惑するブレイブ。そんなブレイブを他所にフレアは変わらぬ調子で言葉を続ける。

 

「この大奇術を、私の“大魔術”で破って見せましょう! 魔法カード《魔獣の懐柔》を発動! 自分の場にモンスターが存在しない場合、獣族レベル2以下の効果モンスター3種類の効果を無効にし、デッキから特殊召喚する! 来て、私のモンスター達!」

 

 フレアがデッキから3枚のカードを取り出し、一斉に並べる。

 1体目はドリルを持ち、反射ベストとゴーグルを身につけたモグラ。2体目は歯茎をむき出しにしてブレイブにガンを飛ばしているバク。3体目は酔っ払った様にフラフラしている渦巻き模様の猫。それぞれがフレアの場に現れ、目の前に聳える神を前に怯えた様子を見せる。

 

モグモール ATK:800 レベル2

ダーク砂バク ATK:1100 レベル2

またたびキャット ATK:0 レベル2

 

「1度に3体とは、やるじゃねぇか。でもよ、それでどうやって神を倒すつもりだ?」

「お楽しみはこれからです! 永続罠《リミット・リバース》を発動! 墓地から攻撃力1000以下のモンスター、《キーマウス》を特殊召喚!」

 

 続けてフレアの場にチューナーモンスターであるキーマウスが現れる。他の獣達と違い、キーマウスは2度目の神との対峙だからなのか、それともよく解っていないせいなのか、落ち着いた様子を見せている。

 

 ATK:100 レベル1

 

「レベル2の《モグモール》、《ダーク砂バク》、《またたびキャット》に、レベル1《キーマウス》をチューニング!」

 

 キーマウスが尾の鍵を首の錠前に差込み開錠すると、姿が光輪へと変化し、3体の獣を囲む。囲まれた3体は6つの光、そして光の柱へと姿を変えて行く。

 

「荒野を駆ける雷よ! 猛き烈風を切り裂き、地平の彼方に蹄を穿て! シンクロ召喚! 轟け! 《ボルテック・バイコーン》!」

 

 柱の中から現れたのはボルテック・バイコーン。神の前でも臆さずに勇ましい嘶きを上げる。

 

 ATK:2500 レベル7

 

「バトル! ボルテック・バイコーンでロキを攻撃!」

「おいおい、ここは笑いを取りに行く場面じゃないだろ? 返り討ちだぜ!」

 

 ボルテック・バイコーンがロキに突進するが、ロキが指先から放った魔弾が先にボルテック・バイコーンを吹き飛ばす。

 

 フレア LP:3600→2800

 

「……ん? てっきり攻撃力を上げるか何かしてくると思ったが、何もねぇのか?」

「あるよ! ボルテック・バイコーンが相手によって破壊された場合、お互いのデッキトップからカードを7枚墓地へ送る!」

「何だよ、そんなのお安い御用――――んん!?」

 

 ブレイブは自身のデッキを見て気付く。その厚さは既に半分以下となっている事を。

 

「(まったく気を遣ってなかったな。あんだけドローすりゃ当然か。結構削られたが……まだ大丈夫だ。カウントダウンにもならねぇ)」

 

 7枚のカードを覗いても、まだ束と言える量のカードが残っているブレイブのデッキ。ブレイブは笑みを浮かべてフレアへと向き直る。

 

「(しっかし……今のは何が目的で――――)」

「罠カード《奇跡の残照》! このターンに戦闘破壊されたモンスター1体を特殊召喚する! 来て、《ボルテック・バイコーン》! アターック!」

「ハァ!? お、おい待て!」

 

 再びボルテック・バイコーンが現れ、ロキに突進し、返り討ちに遭う。

 

 フレア LP:2800→2000

 

「さ、7枚!」

「な、7枚ぃ~……(あ、後何枚だ?)」

 

 ブレイブはゆっくり、ゆっくりとカードを捲り、墓地へと送っていく。

 

「嘘だろ……これを狙ってたのか?」

「うん! 前に失敗しちゃったから、今度こそ成功させます! ターンエンド! さあ、結果は?」

 

LP:2000

手札:0

モンスター

・なし

魔法・罠

・リミット・リバース

 

 ブレイブが7枚のカードを抜き取る。残っていたのは――――カードではなく、空になったデッキホルダーであった。

 

「マジかよ……お手上げだぜ」

 

 ブレイブがまいったという風に両手を挙げた瞬間、決闘終了のアラームが鳴り響き、ソリッド・ビジョンが消える。

 

「完璧だと思った。どんな手でも俺と神なら弾き返すと思ってたが……まさか狙いは俺でも神でもなく、デッキとはな」

「ふふ、勝利は私が頂戴しました」

 

 フレアがそう言って笑うと、ブレイブもくうっ、と唸りながら笑う。

 

「台詞まで頂戴されちまった! だが次はこうはいかないぜ!」

 

 ブレイブは二本指で敬礼をすると、仲間達の元へと戻る。

 

「すまねぇ、負けちまった。予想できねぇやあんなの。あの娘、俺よりも“トリック・スター”だぜ」

「いや、あれはお前の対策不足だ。神に対して有効な手だろう?」

「ええ!? いやいや、予想なんてできねぇって! 最初からならともかく、ビートダウンから突然デッキ破壊だなんてよ」

 

 ドラガンが真顔で言うと、ブレイブは不満そうな声を上げる。その後ろで、ハラルドが笑みを漏らした。

 

「ブレイブ、予想は出来たはずだ。君が決闘の勉学に励んでいた時に、ドラガンが神を操る上で参考になると言って君に貸した資料があっただろう? あれを思い出してくれ」

「資料? えー……」

 

 ブレイブは勉強中の記憶を巡る。ドラガンから借りた資料、過去の決闘者達の決闘をまとめたビデオディスク。タイトルは“伝説の決闘者達 決闘都市編”――――

 

「あっ……思い出したぜ。そういう事か」

 

 ブレイブは思い出す。かつて初代決闘王である“武藤 遊戯”が決闘都市において神のカードと対峙した時、絶体絶命の窮地を相手の戦術を利用した“デッキ破壊”で切り抜けていた事を。

 

「同じなのだ。神の為に行ったドローターボを利用したデッキ破壊戦術……」

「初代決闘王と同じ発想のカウンターを、あの娘は繰り出したって訳か……」

 

 カードをデッキに戻しているフレアを一瞥し、ブレイブは真剣な表情をハラルドに向ける。

 

「ハラルド、油断するなよ。あの娘はタクティクスだけじゃねぇ。勝利を引き寄せる”何か”がある。とにかく、油断してると全部”頂戴”されちまうぞ!」

「ああ。行って来る」

 

 ハラルドは決闘盤を装着し、前に出て決闘の場へと立つ。

 

「最後は私だ。……私は、使命を果たす事が運命だと信じている。その為にここまで生きてきた」

 

 決闘盤を展開させ、左の瞳のルーン文字を光らせる。

 

「先の決闘で解った。君は本物だ。君こそが世界を守る”勇者”を導く”女神”だと。……必ず認めさせて見せよう。我々こそが世界を守るのに相応しい”選ばれた者”だという事を!」

「(……この人、本気だ)」

 

 ハラルドの強固な意志を感じると同時に、遊星達と協力し合う意志が見えない事に、寂しさを感じるフレア。”ここまで生きてきた”という事は、それを信じてずっと生きて来たという事。長く積み上げられてきたハラルドの誇り(プライド)を考えれば、急に協力しろと言っても無理な話なのかもしれない。

 

「(本当は協力し合って欲しいけど、それをこの人に押し付けちゃいけない気がする……だったら、言葉じゃなくて決闘でぶつけてみよう。私の気持ちを!)」

「行くぞ――――」

 

 

 

「「 デュエル!!! 」」

 

 

 

「先攻は私! ドロー!」

 

 フレア 手札:5→6

 

「魔法カード《トレード・イン》を発動! 手札のレベル8モンスターを捨て、2枚ドロー!」

 

 捨てたカード

 ???

 

 フレア 手札:4→6

 

「お互いの場にモンスターが存在しない場合、チューナーモンスター《こけコッコ》を手札からレベル3にして特殊召喚出来る! そして《裏風の精霊》を通常召喚!」

 

 フレアの場にこけコッコと、長い髪と衣装を緑葉で飾った風の精霊が現れる。

 

 こけコッコ ATK:1600 レベル5→3

 裏風の精霊 ATK:1800 レベル4

 

「裏風の精霊の効果発動! 召喚に成功した時、デッキからリバースモンスター1体を手札に加える! 《メタモルポット》を手札に!」

 

 フレア 手札:4→5

 

「レベル4《裏風の精霊》に、レベル3《こけコッコ》をチューニング!」

 

 こけコッコが自身を3つの光輪へと変えると、裏風の精霊を囲み、4つの光、そして光の柱へと姿を変える。

 

「太古の森よりフィールドを制圧する精霊よ! かりそめの姿にその身をやつし、降臨せよ! シンクロ召喚! 一途なる”祈り”の決闘竜! 《妖精竜 エンシェント》!」

 

 光の柱から姿を現したのは”妖精竜 エンシェント”。長い尾を撓らせハラルドを威嚇しつつ、フレアの場に鎮座する。

 

 DEF:3000 レベル7

 

「フィールド魔法《光の護封陣》を発動! そしてこの時、エンシェントの効果発動! 自分のターンにフィールド魔法が発動した時、1枚ドローする! 〈永遠なる物語〉!」

 

 フレア 手札:4→5

 

「光の護封陣は種族を宣言し、このカードがある限り宣言された種族は召喚・反転召喚・特殊召喚されたターンは攻撃出来ない! 私が宣言するのは《幻神獣族》!」

 

 フレアが種族を宣言した瞬間、場に光の陣が描かれる。トールの時の様に、フレアは永続効果を持つ魔法・罠で神の動きを牽制する戦術を取る。

 

「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに手札2枚を墓地へ送り、2枚ドロー!」

 

 フレア 手札:4→2→4

 ハラルド 手札:5→3→5

 

「永続魔法《補給部隊》発動! カードを伏せてターンエンド!」

 

LP:4000

手札:2

モンスター

・妖精竜 エンシェント

魔法・罠

・補給部隊

・セット

フィールド

・光の護封陣

 

「フィールド魔法で神を縛り、高守備力でその他を防ぐか。だが……我が神の前では無力。私のターン!」

 

 ハラルド 手札:5→6

 

「チューナーモンスター《極星天ヴァルキュリア》を召喚!」

 

 ハラルドの場に戦衣を纏い、小剣を腰に提げた天使が現れる。

 

 ATK:400 レベル2

 

「ヴァルキュリアの効果発動! 相手の場のみにモンスターが存在する時に召喚に成功した場合、手札の極星2体をゲームから除外する事で、《エインへリアル・トークン》2体を守備表示で特殊召喚する!」

 

除外したカード

・極星邪狼フェンリル

・極星天ミーミル

 

 続けてハラルドの場に兵士の様な姿をした精霊2体が現れる。

 

 DEF:1000 レベル4

 DEF:1000 レベル4

 

「嘘っ!? これって……こんな簡単に!?」

「出来るから”選ばれし者”なのだ。レベル4《エインへリアル・トークン》2体に、レベル2《極星天ヴァルキュリア》をチューニング!」

 

 ヴァルキュリアが腰の剣を抜き放ち、剣で2つの光輪をクロスさせる様に描くと、光輪がヴァルキュリアを囲み、高速回転を始める。

 

「北辰の空にありて、全知全能を司る皇よ! 今こそ星界の神々を束ね、その威光を示せ!」

 

 球体に見えるほどに高速回転していた光輪によってヴァルキュリアが光球へと変わると、その光球の中にエインへリアル・トークン2体が吸収される。

 

「シンクロ召喚! 天地神明を統べよ! 最高神、《極神聖帝オーディン》!」

 

 球体が眩い閃光を放つと、その閃光の中から巨大な老人が現れる。神々しい戦衣を纏い、手には杖、顔には豊かな白い髭を蓄え、左目には機械的な義眼をはめ込んでいる。

 これこそがチームリーダーのハラルドが持つ神にして、三極神を統べる最高神、”極神聖帝オーディン”である。

 

 ATK:4000 レベル10

 

 オーディンが場に降臨した瞬間、光の護封陣がオーディンを結界に閉じ込める。

 

「いきなり出て来てびっくりしたけど、光の護封陣の効果でこのターンは攻撃出来ませんよ!」

「”神”ならば、そうだ。だが、このオーディンはトールやロキとは格が違う。最高神の力、とくと見よ! ……オーディンの効果発動! このターン、神への魔法・罠の効果を打ち消す! 〈インフルエンス・オブ・ルーン〉!」

 

 オーディンが手に持った杖を掲げると、オーディンを閉じ込めていた結界が消滅してしまう。

 

「そんな!? これが一番強い神の力……」

「神を前に、姑息な魔法など通用しない。バトル! オーディンで妖精竜 エンシェントを攻撃! 【ヘヴンズ・ジャッジメント】!」

 

 オーディンが杖を再び掲げると、無数の雷が妖精竜を襲い、破壊する。

 

「くっ……エンシェントが破壊された事により、補給部隊の効果で1枚ドロー!」

 

 フレア 手札:2→3

 

「私はカードを伏せ、ターンを終了する」

 

LP:4000

手札:2

モンスター

・極神聖帝オーディン

魔法・罠

・セット

 

「罠カード《奇跡の残照》を発動! このターンに戦闘破壊されたモンスター1体を特殊召喚する! 戻って、《妖精竜 エンシェント》!」

 

 フレアの場に光の粒子が集まると、それが形を作って妖精竜へと変わる。

 

 ATK:2100 レベル7

 

「私のターン!」

 

 フレア 手札:3→4

 

「(出されちゃったものは仕方無いもん。倒す倒さないじゃなくて、勝つ事に集中しよう!) フィールド魔法《破邪の魔法壁》を発動! エンシェントの効果で1枚ドロー!」

 

 フレア 手札:3→4

 

 光の護封陣が消滅すると、代わりに魔法壁がフレアの場に張られる。

 

「このカードがある限り、私のモンスターは私のターンに攻撃力が、相手のターンに守備力が300ポイントアップする!」

 

 妖精竜 エンシェント ATK:2100→2400

 

「エンシェントのもう一つの効果発動! フィールド魔法が表側表示で存在する場合、攻撃表示モンスター1体を破壊する! 《極神聖帝オーディン》を破壊! 〈森葬の霊場〉!」

 

 妖精竜が眩い光を放つと、オーディンの巨体が跡形も無く消え去る。

 

「ほう、そんな能力も持っていたのか」

「(不死身だとしても、墓地にいる間は無防備! そこを突く!) エンシェントで直接攻撃! 【妖精靭尾】!」

 

 妖精竜が飛び上がると、一人佇むハラルドに向かって尻尾を振り下ろす。

 

「神の不在を狙うとは、不届きだな。永続罠《強化蘇生》を発動! 墓地からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚し、攻守を100上げ、レベルを1つ上げる! 墓地の《極星獣タングリスニ》を特殊召喚!」

 

 尻尾の一撃は、ハラルドの前に現れた白山羊によって阻まれてしまう。

 

 DEF:800→1000 レベル3→4

 

「あっ!? ……ぞ、続行!」

 

 妖精竜は迷わず尻尾を振り下ろし、タングリスニを破壊する――――が、破壊されたタングリスニのソリッドビジョンの破片が二つに分かれ、それぞれが狼の精霊へと姿を変える。

 

「タングリスニが戦闘で破壊され墓地に送られた時、《極星獣トークン》を2体特殊召喚する」

 

 DEF:0 レベル3

 DEF:0 レベル3

 

「(壁がまた……これじゃオーディンをどかしても攻撃が通らないよ)」

「神から逃げたくなるのは無理も無い。だが、この私とオーディンの眼からは決して逃れられないと思ってもらおう」

「ムムム……逃げたりなんかしません! カードを伏せてターンエンド!」

 

LP:4000

手札:3

モンスター

・妖精竜 エンシェント ATK:2400→2100

魔法・罠

・補給部隊

・セット

フィールド

・破邪の魔法壁

 

 神と真っ向から戦う意志が無い事を見抜かれ、悔しげに唸るフレア。明らかにハラルドの挑発であり、今の戦法を恥じる事は全くないのだが、どうやらフレアの決闘者のプライドに火を点けてしまった様だ。

 

「(ふん、神様の1体や2体、どうにかしてみせるんだから!)」

 

 残念ながら次は相手のターン。次に備えてフレアは闘志を燃やす。

 

「このエンドフェイズ時、神は復活する」

 

 ハラルドが右手を掲げた瞬間、辺り一帯が光に包まれ、光の中からオーディンが姿を現す。

 

 ATK:4000 レベル10

 

「オーディンのもう一つの効果発動! 復活した時、カードを1枚ドローする!」

 

 ハラルド 手札:2→3

 

「(トールみたいな派手さは無いけど、地味に厄介かも)」

「私のターン!」

 

 ハラルド 手札:3→4

 

「……ここで一つ、試してみよう。魔法カード《カップ・オブ・エース》を発動。コイントスを行い、表が出れば私が、裏が出れば相手がカードを2枚ドロー出来る」

「ハイリスク、ハイリターンのドローカード……」

 

 ハラルドの現在の手札は3枚。手札不足でも、追い込まれてピンチという訳でもない。下手をすればフレアを有利にしかねない”賭け”を、ハラルドは仕掛けたのである。

 

「私は幼い頃から己の使命を聞かされ、信じて生きて来た。イリアステルによって壊されつつある世界も見てきた。だからこそ解る。運命は、必ず私に味方すると」

「だから、必ず表が出ると? そんなの、やってみなきゃ解りませんよ。それが決闘です」

「フフフ……君は解っていない。大きな運命は、小さき運命をも取り込む事を」

 

 ハラルドが決闘盤のスイッチを押すと、ソリッドビジョンのコインが現われ、回転しながら宙を舞う。ゆっくりと降下し、二人の目線より少し低い位置に来ると、ピタリと回転を止めた。上を向いた面は――――

 

「――――表だ。私は2枚ドローする」

 

 ハラルド 手札:3→5

 

「(本当に表が出た……偶然? それとも……)」

 

 フレアが緊張した様に息をのむと、ハラルドはドローしたカードを加えた手札を掲げる。

 

「偶然などではない。何故なら、運命によって定められた”神の手札”がここにあるからだ! 魔法カード《二重召喚》を発動! このターン、私は通常召喚を2回行う事が出来る!」

 

 ハラルドは手札から魔法を発動させた後、手札から2体のモンスターを取り出し、場に置く。

 

「チューナーモンスター《極星天ヴァナディース》と《極星霊スヴァルトアールヴ》を召喚!」

 

 ハラルドの場に、長い黒髪を後頭部で纏め、腕に鎌を持った天使と、ブレイブも使用していたスヴァルトアールヴが現れる。どちらも今までハラルドが使用してきた神々しいモンスターとは対照的に、暗い雰囲気を身に纏っている。

 

 極星天ヴァナディース ATK:1200 レベル4

 極星霊スヴァルトアールヴ ATK:1000 レベル2

 

「(チューナー? もう神は召喚してるのに、何で……)」

「ドラガンとブレイブを倒した腕は見事。もしかすれば、私でも君には敵わないかもしれん。……だが、運命を背負った”我々”ならばどうか?」

「それって、どういう……」

「決闘巫女である君を称え、見せてあげよう……我々の力の全てを!」

 

 ハラルドが号令を掛けると、ハラルドの場のオーディン以外のモンスターが一斉に飛びあがる。

 

「レベル3《極星獣トークン》2体に、レベル4《極星天ヴァナディース 》をチューニング!」

「手札のレベル4《極星將テュール》2体に、レベル2《極星霊スヴァルトアールヴ》をチューニング!」

 

 ヴァナディースが4つの、スヴァルトアールヴが2つの光輪へと姿を変えると、飛び出したハラルドの手札・場のモンスター達を囲み、14の光、そして二つの光の柱へと変える。

 

「星界の扉が開くとき、古の戦神がその魔鎚を振り上げん! 大地を揺るがし轟く雷鳴とともに、現れよ!」

「星界より生まれし気まぐれなる神よ、絶対の力を我らに示し、世界を笑え!」

 

 光の柱から現れたのは、先程もフレアを圧倒した神々――――

 

「シンクロ召喚! 光臨せよ、《極神皇トール》! 《極神皇ロキ》!」

 

 極神皇トール ATK:3500 レベル10

 極神皇ロキ ATK:3300 レベル10

 

「そ、そんな……どうしてドラガンさんとブレイブさんの神が……」

 

 フレアの前に並び立つ、3体の神。1体や2体と心の中で豪語していたフレアだが、相手は3体である。

 明らかに動揺しているフレアを見て、ブレイブは悪戯の結果を見て喜ぶ子供の様な笑みを浮かべた。

 

「くくく、大成功だな」

「……ブレイブ、お前か?」

 

 ドラガンが自身のエクストラデッキの中を覗きながら苦笑を浮かべる。

 

「そ。こっそりトール、頂戴してたぜ」

「まったく……どうしてこんな真似をした?」

「理由は2つ。1つは俺の独断。流石にハラルドまで負けちまったら、チーム・ラグナロクと神の面子丸つぶれだろ? 特に俺なんかまったく良いとこ無しだからな。せめてハラルドには勝って貰いたいぜ」

「もう1つは?」

「ハラルドが言ってたろ? ”我々の力”って。この決闘はお互いの力量を試すもんのはずだろ? だったら、俺達の最大最強の戦術で挑まなきゃ、失礼ってもんだ。ハラルドも同じ考えの様だぜ」

「……少女一人に、大人気ないような気もするがな」

 

 ドラガンの言葉に、ブレイブは浮かべていた笑みを消す。

 

「少女ねぇ……俺も最初は可愛い子ちゃんだと思ってたさ。でもよ、今じゃ”怪物”にしか見えないんだよなぁ」

「……その怪物も、”三極神”の前では少女か」

 

 ドラガンの瞳に映るフレアは、動揺を必死に抑えようとする少女だった。

 三極神の登場に驚いたのもあるが、一番の衝撃はハラルドの度胸とタクティクス。フレアも以前に2体同時のシンクロ召喚を成功させた事があるが、ハラルドのものは次元が違う。同じ2体でもハラルドが呼び出したのは神のカード。1体だけでも簡単に呼び出せるものではない。その神がかったシンクロ召喚を成功させる為のカードの大半は、新しく加わったばかりのドローカードと、運に頼るギャンブルカードで揃えたもの。狙って出来る事ではないが、ハラルドは当然と言った様子で揃えて見せた。

 

「(この人、凄い……自分は負けないって、誰よりも信じてるから、こんな決闘が出来るんだ)」

 

 フレアの中から動揺と神に対する負けん気が消え、冷静さが戻ってくる。もはやむきになって神に挑もうとはしない。どうやってこの決闘に勝つか、それだけを考えていた。

 

「決闘巫女よ、神の力、とくと味わえ。オーディンの効果発動! 神を魔法・罠の効果から守る!」

 

 オーディンが杖を掲げると、三極神達が神々しいオーラに包まれる。

 

「トールの効果発動! モンスター1体の効果を無効にし、奪い取る! 〈エフェクトアブソーバー〉!」

 

 トールがハンマーを翳すと、雷が妖精竜に直撃し、電気として妖精竜の体を這い回った後、トールの体に吸収される。

 

「奪い取った妖精竜 エンシェントの効果発動! 妖精竜 エンシェントを破壊する!」

 

 トールがハンマーから眩い光を放つと、先程のオーディンの様に妖精竜が消滅する。

 

「エンシェント!? くッ……補給部隊の効果で1枚ドロー!」

 

 フレア 手札:3→4

 

「バトル! オーディンで直接攻撃!」

「手札から《速攻のかかし》の効果発動! このカードを捨てる事で、バトルフェイズを終了させる!」

 

 オーディンが杖を掲げた瞬間、フレアの手札から機械仕掛けのかかしが飛び出し、神々の周りを縦横無尽に飛びまわる。オーディンは杖を下げると、眉を顰めながらも興味を含ませた眼でかかしを追い、トールは苛立ちながらかかしを追い払おうと腕を振り回し、ロキはその様子を見てゲラゲラと笑い出す。3体とも、すぐに攻撃体勢に移れる様子ではなかった。

 

「三極神相手に抗うか、面白い。私はこれでターンエンド!」

 

LP:4000

手札:0

モンスター

・極神聖帝オーディン

・極神皇トール

・極神皇ロキ

魔法・罠

・なし

 

「私のターン!」

 

 フレア 手札:2→3

 

「(神に姑息な手は通用しない、か……なら、私の全力を込めて、撃ち貫く!) 永続罠《リビングデッドの呼び声》! 墓地からチューナーモンスター《獄落鳥》を特殊召喚!」

 

 フレアの場に現れたのは、極彩色で彩られた翼や羽毛を持つ、脚の無い怪鳥。脚が無いゆえに場に降りず、空中で神と対峙する。

 

 ATK:2700→3000(フィールドの効果により) レベル8

 

「レベル8のチューナー……最初のターンにコストで捨てていたモンスターだな。扱い辛いカードを使う」

「それを使いこなすのが、最強決闘者でしょ? 墓地の《レベル・スティーラー》の効果発動! 自分の場のレベル5以上のモンスターのレベルを1つ下げる事で、場に特殊召喚出来る! 《獄落鳥》のレベルを1つ下げ、特殊召喚!」

 

  獄落鳥の体を突きぬけ、レベル・スティーラーが姿を現す。

 

 獄落鳥 ATK:3000 レベル8→7

 レベル・スティーラー ATK:600→900 レベル1

 

「レベル1《レベル・スティーラー》に、レベル7《獄落鳥》をチューニング!」

 

 獄落鳥が自身を7つの光輪へと変えると、レベル・スティーラーを囲み、1つの光、そして光の柱へと変える。

 

「漆黒の闇を裂き、天地を焼き尽くす孤高の絶対王者よ! 万物を睥睨し、その猛威を振るえ! シンクロ召喚! 気高き”力”の決闘竜! 《琰魔竜 レッド・デーモン》!」

 

 光の柱から現れたのは、フレアが創造したもう1体の絶対王者、”琰魔竜 レッド・デーモン”。恐れを知らぬ魔の竜は、三極神に向かって咆哮を上げ、口から、拳から炎を発する。

 

 ATK:3000→3300 レベル8

 

「ジャック・アトラスのドラゴン……ではないようだな。そのドラゴン1体で何が出来る?」

「貴方を倒す事が出来る! レッド・デーモンの効果発動! 1ターンに1度、このカード以外の攻撃表示モンスターを全て破壊する! 〈真紅の地獄炎〉!」

 

 琰魔竜が再び咆哮を上げると、3体の神が一瞬で炎に包まれ、消滅する。

 

「……何と、これ程の力が」

「魔法カード《破天荒な風》を発動! 次の自分のスタンバイフェイズ時まで、モンスター1体の攻守を1000ポイントアップ!」

 

 琰魔竜の腕に強い風が絡みつくと、腕から発せられていた炎が激しく燃え上がる。

 

 ATK:3300→4300

 

「これで勝負! レッド・デーモンで直接攻撃! 【極獄の絶対独断】!」

 

 琰魔竜が拳に炎を集中させると、ハラルドに向かって突進する。

 

「……やはり、君は我々の上に立つべき存在だ。だからこそ、君に我々を認めさせる! それも私の使命だ! 墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動! ゲームから除外する事で、相手の攻撃を1度だけ無効にする!」

 

 琰魔竜の拳がハラルドに向かって突き出された瞬間、ハラルドの墓地から飛び出した戦士の影が拳を受け止め、炎を吸収して消滅する。琰魔竜は短く唸ると、ハラルドを睨み付けたままフレアの場へと戻った。

 

「届かないっ……!?」

「この”ネクロ・ガードナー”と、神々を呼び出す力となった”タングリスニ”は、君の魔法の効果で墓地へと送られたもの。……そう、最初から決まっていたのだ。この結果は」

「……カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

LP:4000

手札:0

モンスター

・琰魔竜 レッド・デーモン ATK:4300→4000

魔法・罠

・補給部隊

・リビングデッドの呼び声

・セット

・セット

フィールド

・破邪の魔法壁

 

「このエンドフェイズ時、神々は蘇る!」

 

 足元の次元を破って現れるトール。上空の次元を破って現れるロキ。そして、眩い光の中からオーディンが現れ、三極神が再び揃う。

 

 極神聖帝オーディン ATK:4000 レベル10

 極神皇トール ATK:3500 レベル10

 極神皇ロキ ATK:3300 レベル10

 

「さあ、神々怒りを受けるがいい! トールの効果発動!」

 

 トールがハンマーを掲げ、フレアに向かって無数の雷を降らせる。雷がフレアに命中する直前に、エアトスと閃珖竜が結界を張って本物のダメージを防いだ。

 

「くっ……!」

 

 フレア LP:4000→3200

 

「ロキの効果を発動! 復活した時、墓地から罠カード1枚を手札に加える! 永続罠《強化蘇生》を手札に!」

 

 ハラルド 手札:0→1

 

「オーディンの効果により、1枚ドロー!」

 

 ハラルド 手札:1→2

 

 三極神と戦うだけでも精一杯だというのに、ハラルドの手札は癒え、フレアはLPを削られて行く。理不尽なその力を目の当たりにすると、やはり自分は神と戦っているのだと実感が込み上げてくる。

 

「私のターン!」

 

 ハラルド 手札:2→3

 

「オーディンの効果発動!」

 

 オーディンの力によって、神々は魔法・罠の耐性を得る。

 

「君のドラゴンの攻撃力は4000、神々と並ぶ数値だ。だが、オーディンで相殺した後、他の神で攻撃すれば、君の敗北となる」

 

 ハラルドは新たに伏せられたフレアの場のカードに視線を向ける。

 

「何かを伏せたようだが……無駄だ。オーディンによって神への魔法・罠は無効となり、戦闘時になればロキが罠自体を無効化する。……終わりだ! オーディンで攻撃!」

 

 オーディンが杖を掲げ、琰魔竜に向かって雷を落とす。

 

「私は絶対に諦めない! 速攻魔法《ハーフ・シャット》と《非常食》を発動! まずは非常食の効果で発動した《ハーフ・シャット》と《補給部隊》を墓地へ送り、LPを2000ポイント回復!」

 

 フレア LP:3200→5200

 

「そしてハーフ・シャットは、対象にしたモンスターの攻撃力をエンドフェイズ時まで半分にし、このターンの戦闘破壊を無効にする! 対象は《琰魔竜 レッド・デーモン》!」

 

 ATK:4000→2000

 

「神の攻撃をその身で受け止めようというのか! ならば受けてみよ! 【ヘヴンズ・ジャッジメント】!」

 

 オーディンの雷は最初に琰魔竜を貫き、琰魔竜が受け切れなかった分がフレアに襲い掛かる。

 

「ううっ! ……エアトス、スターダスト!」

 

 何時もの様にフレアへと襲い掛かるダメージはこの2体が結界で受け止める――――が、今まで手加減していたのか、それとも3体揃っているからなのか、その威力は今までとは比べ物にならず、エアトスと閃珖竜はオーディンの力に押され始める。

 雷の光が止むと、そこには膝をつく琰魔竜と、力を出し尽くした閃珖竜、そして息を荒くしながらも何とか立っているエアトスがいた。後ろにいるフレアは3体の尽力により無傷のままであった。

 

 フレア LP:5200→3200

 

「皆!?」

「堪えたか。ならばこれはどうだ! ロキで攻撃! 【ヴァニティバレット】!」

 

 続けてロキが指先から巨大な魔法弾を放つと、琰魔竜が構え、閃珖竜がその上に被さり、エアトスが手を翳して結界を張って、魔法弾を受け止める。

 

「ううう……スターダスト!?」

 

 フレア LP:3200→1900

 

 魔法弾が消えると、そこには再び膝を突いた琰魔竜と、それに寄りかかって体を支えるエアトスがいた。閃珖竜はフレアと後ろのエアトスを守り切った後、力尽きてカードへと戻ってしまっていた。

 

「これも堪えるか!? 星海の決闘巫女……何という力だ。神を相手に見事と言わせてもらう! これで最後だ! トールで攻撃! 【サンダー・パイル】!」

 

 最後にトールがハンマーを振りかぶり、琰魔竜を横殴る。琰魔竜は衝撃と共に吹き飛ばされ、咄嗟に琰魔竜から離れたエアトスはフレアを押し倒し、最後の力で結界を張ってフレアを守る。

 

 フレア LP:1900→400

 

「ああ、エアトス……ごめんね、また貴女に無理をさせてしまった……」

 

 幸い、トールの攻撃範囲は他の2体よりも狭かった為、その場で押し倒されたフレアへの衝撃は少なく、琰魔竜とエアトスでフレアへのダメージを防ぎ切る事が出来た。

 フレアが倒れたままのエアトスを抱きかかえると、二人の体が淡い光を放ち、エアトスから傷と疲労の色が消える。

 

「エアトス……!? ああ、よかった……」

 

 エアトス自身も何が起きたのか理解しておらず、フレアに抱かれたまま呆然としていた。女神にしては少々間抜けな姿である。

 どうしてエアトスの力が回復したのかは、フレア自身にも分からない。ただ分かるのは、フレアはもう”ゴースト氾濫”の時の、力の無い少女ではないという事であった。

 

「スターダスト……よかった、貴方も無事ね」

 

 フレアはエアトスをデッキの中のカードへと戻すと、エクストラデッキの閃珖竜のカードを取り出して確認する。見ると、先程の二人と同じ様に、閃珖竜のカードも淡い光に包まれていた。フレアの力によって回復しているのだろう。

 

「レッド・デーモン……ああ」

 

  琰魔竜はトールの一撃により吹き飛ばされ、倒れ伏していた。

 フレアが琰魔竜へと駆け出そうとした瞬間、琰魔竜はそれを制止させる様に短い咆哮を上げ、立ち上がろうとする。

 

「レッド・デーモン……」

「カードを3枚伏せ、ターンエンド!」

 

LP:4000

手札:0

モンスター

・極神聖帝オーディン

・極神皇トール

・極神皇ロキ

魔法・罠

・セット

・セット

・セット

 

「……私のターン!」

 

 フレア 手札:0→1

 

「……決闘巫女、フレア・ヴィルアース。今からでも遅くはない。サレンダーしたまえ」

「え……?」

 

 思いもしなかったハラルドの言葉に、フレアはプレイしようとしていたカードを持つ右手を止める。

 

「もう勝敗は決した。これ以上は君の力が持たないだろう。神はここまでの激戦で気が昂っている。次の攻撃を受ければただではすまない」

 

 ハラルドはフレアの精霊達が回復した事を知らないが、結果としては予想通りである。幾ら回復したとは言え、これ以上精霊達に負担を掛ける訳にはいかない。次の攻撃が来た時、フレアは精霊達を遠ざけ、ダメージをその身に受けるだろう。

 

「最後まで、決闘は分かりません。続けましょう」

「……自信があるようだが、その元があのドラゴンならば、無駄だと言わせて貰おう」

 

 ハラルドは今にも倒れそうな琰魔竜を一瞥する。

 

「確かにあのドラゴンの効果は神に対しての突破口になるだろう。だが、神を一時的に排除出来ても、私を倒す事は出来ない。私には君の攻撃を防ぐ手立てがある。そして、それは一つではない」

 

 フレアとハラルドは、同時にハラルドの場の伏せカードを見る。枚数は3枚、決闘においては多量と言っていい枚数だった。

 

「例えば、この中のどれかはロキの効果で手札に加えた《強化蘇生》。君がドラゴンの効果で神々を一掃し、直接攻撃を仕掛けても、私はこのカードでモンスターを呼び出し、防ぐ事が出来る」

 

 思い出すのは3ターン目。妖精竜での攻撃を強化蘇生させたタングリスニで見事に防がれた。下手な攻撃を繰り出せば、またそれが繰り返される。

 

「そのターンで私を倒しきれなければ、復活したトールの効果を受け、君は敗北する」

「…………」

「そして、これは一例に過ぎない。あらゆる戦術に対応する自信が、今の私にはある」

 

 残り2枚の伏せカード、それが何なのかを知るのはハラルドのみであるが、それがフレアの望みを断ち切るものである事はハラルドの自信から読み取れる。

 

「我々の力を、理解してくれたと思う。我々も君の力を理解した。それでも、君はこの決闘を続けるか?」

「……ハラルドさん、今まで私、”運命”とか”使命”って言葉、いっぱい聞いてきたし、自分でも言ったような気もするけど、実はあんまりピンときた事がなかったの。決まった未来に縛られている様な気がするし、何か偉そうだし……」

 

 フレアはふらつく体を支えながら元の立ち位置に戻ろうとする琰魔竜を気遣いつつ、ハラルドに言葉を返す。

 

「だから、自分達だけで戦おうとするハラルドさん達の事、よく理解出来なくて……最初は拒絶するようなこと言っちゃったけど、皆さんと決闘して、解ったんです。それって、私が思っているのと違うって」

 

 琰魔竜は何とかフレアの場に戻ってくると、王者は健在だと示すかのように大きな咆哮を上げる。

 

「ハラルドさん達にとっての”使命や運命”って、”自分が何よりも信じているもの”なんですよね? 信じるものがあるから、ここまで生きて来た。ここまで強くなれた。そうですよね?」

 

 ドラガンは何も言わずに、ただ頷く。捻じ曲がったものを持っていたとはいえ、死に場所を求めるような自分を再び奮い立たせたのは、自分を認めてくれる素晴らしい仲間と出逢い、共に世界を守るという”使命”だったからだ。

 

「そうだな~じゃなきゃ、きっと決闘なんてしてなかっただろうよ」

 

 ブレイブは感慨深そうに頷く。戦争孤児達の為に”使命”を全うしようと思わなければ、ブレイブは孤児を生み出す世界に嘆きつつ、今も危険なトレジャーハントを繰り返すだけの人生だったかもしれない。

 

「……そうだ。決して我々は神を妄信しているわけでも、それに従い、世界を守る己に酔っているわけでもない」

 

 ハラルドが後ろを振り返ると、ドラガンとブレイブが一歩前に出る。

 

「戦って勝ち取りたい”誇り”がある!」

 

 ドラガン。

 

「戦って”守り”たいものがある!」

 

 ブレイブ。

 

「そして、戦って証明したい”生き様”がある! それが”運命”を定められ、”使命”の為だけに生きて来た私の……いや、我々が信じる、誰にも譲る事が出来ない”夢”なのだ! それを成し遂げる為に、チーム・5D'sを必ず倒す!」

 

 そう叫びつつ、ハラルドは内心で驚いていた。普段は冷静なのに、ここまで熱く激しい自分がいたのか、と。

 

「……私、よかった。今日、皆さんと決闘が出来て。皆さんの事を知る事が出来て……私も、信じます。私の”使命”を……」

 

 自分の使命とは何か。虚ろな意識の時に口走った”シグナーを導く”ことか――――いや、違う。そんな事は自分も望まないし、仲間達や”彼”も望まない――――

 

「(私の使命は……皆で一緒に戦う事。誰一人でも欠けては駄目。皆で世界を……守る事!)」

 

 フレアはドローしたカードを翳す。

 

「魔法カード《マジック・プランター》を発動! 場の永続罠《リビングデッドの呼び声》を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

 フレア 手札:0→2

 

「チューナーモンスター《柴戦士タロ》を召喚!」

 

 フレアの場にタロが現れると、怯えつつも苦しげな琰魔竜を励ます様に鳴き声を上げる。

 

 ATK:800 レベル2

 

「(感じる……私の思い、チーム・ラグナロクの思い、決闘に懸ける、皆の思いを……)」

 

 幾度の決闘を乗り越え、フレアはその度に成長を遂げてきた。この瞬間でも、それが続いている。

 

「(ああ、熱い……体が燃えそう……でも、嫌じゃない……この感じ)」

 

 思い返せば、込み上げる。決闘者達の”熱い思い”が――――

 

 

 

 このジャック・アトラスに隙を見せる事は、即敗北に繋がると思え

 

 あー……いやすまねぇ……お前が想像以上に強くてな。 久々の強い相手につい熱くなっちまったんだ

 

 ……ここまで熱くなれたのは久しぶりだった。 いい決闘をありがとう、フレア

 

 おう、驚いたぜ。ここまで強い……いや、強くなってたなんてな。負けちまったが、楽しかったぜ

 

 

 

「(ジャック、鬼柳、遊星、クロウ……)」

 

 

 

 そんな~…負けるなんて……フレアって強いんだね

 

 お疲れ様。 お互いに納得できない結果だったけど、いい決闘だったわ

 

 もう! 危なっかしいんだから! 計算も間違えてるし……

 ごめんよ龍可……でも楽しかったよ! 俺も絶対にDホイーラーになる!

 

 

 

「(ラリー、アキちゃん、龍亞君に龍可ちゃん……)」

 

 

 

 ……私のこと、もう忘れないでね?

 

 

 

「(もう一人の、私……)」

 

 今まで戦ってきた決闘者達の言葉が次々と浮かんでは沈み、火種となって胸の中に溜まっていく。そして、何人か浮かんで沈んだ後、最後に浮かんだ、”彼”の言葉――――

 

 

 

         お前が進む先には、必ず俺がいる。

     ……迷わず進め。辿り着いたその時が、再会の時だ。

          ……さらばだ、愛しき人よ

 

 

 

「……魔法カード《死者蘇生》を発動! 貴方の墓地のチューナーモンスター《極星天ヴァルキュリア》を私の場に特殊召喚!」

 

 フレアの場にヴァルキュリアが現れる。

 

 ATK:400 レベル2

 

「何!? 既にチューナーを出しているのに、私のチューナーを奪うだと?」

「(フリント……)」

 

 フリントの言葉が胸に沈んだ瞬間、火種が一斉に燃え上がり、巨大な炎となる。

 

「……バーニング・ソウルッ!!!」

「何だ!? 何が起こっている!?」

 

 フレアが白紙の決闘竜のカードを掲げると、それが赤く輝き、絵柄とテキストが描かれる。

 

「レベル8《琰魔竜 レッド・デーモン》に、レベル2の《柴戦士タロ》と《極星天ヴァルキュリア》をダブルチューニング!」

「ダブルチューニングだと!?」

 

 タロとヴァルキュリアがそれぞれ2つの炎輪へと姿を変えると、琰魔竜を囲み、そのまま琰魔竜に吸収される。

 

「孤高の絶対破壊神よ! 神域より舞い降り、全ての災厄を喰らい尽くせ! シンクロ召喚! 神をも超越する決闘竜の”王者”! 《琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティ》!!!」

 

 炎輪を取り込んだ琰魔竜は体を膨張させ、禍々しく変形させる。

 角先は大きく前を向き、首は獅子の様な鬣に覆われ、背中からは新たなる腕を2本生やし、4本腕となる。体を覆っていた甲殻はより鎧らしく変化し、手足の間接部からは鋭く大きな棘が突き出していた。

 何故フレアが琰魔竜をここまで禍々しく悪魔めいた進化をさせたのか、それは神々しい三極神への対抗の為でも、格好良くしたいという子供の様な理由でもない。自分の中にあった決闘者達の熱き思いを全て込めるのなら、熱く、強く、ワイルドに、琰魔竜を大きくする必要があるという、乱暴な程に単純純粋な考えから、この恐るべき竜王が生まれたのだ。

 

 ATK:4000→4300 レベル12

 

「お、お、お、おいおい!? シスターさんがこんなもん呼び出していいのかよ!?」

「俺達の時は”女神”を、そして今はこの様な”魔神”を呼び出すとは……もしかすれば、星海とはその様な概念すら超越した世界なのかもしれん……」

 

 ブレイブもドラガンもその姿に圧倒され、ハラルドもルーンの瞳を発動させ、警戒しながら竜王を見上げている。

 

「(この恐ろしい竜から、悪の力は感じない……神も同じ様に言っている……そして、この竜は確実に我等の神を上回った力を秘めている!)」

 

 しかし、ハラルドに恐れた様子は無く、むしろ笑みを浮かべていた。

 

「ダブル・チューニングとは恐れ入った。しかし、攻撃力を1000程上げたとしても、何の解決にもなりはしない。例え先程までと同じ能力かそれ以上でも、私を倒し切る事は不可能だ!」

 

 琰魔竜王は明らかに琰魔竜の進化形態。能力もそれを強化したものだと読んだハラルド。それならば、伏せている”モンスター効果”を無効にする罠で封じ込める事が出来る。

 

「倒し切る! 私の中にある”熱き魂”で! 琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティの効果発動!」

「無駄だ! 罠――――何!?」

 

 ハラルドが自身の場を見ると、伏せカード全てが灰色に染まり、決闘盤には”発動不可”と表示されていた。

 

「シンクロ召喚に成功した時、相手はこのターン、場で発動する効果を発動できない! そして、この効果の発動に対して相手はカードの効果を発動する事はできない!」

「では、この罠どころか、《強化蘇生》の発動も封じられたという事か!? ……だが、それがその竜の効果ならば、やはり私は負けん!」

 

 琰魔竜王の攻撃力はオーディンを僅かに上回る程度。これでは無傷のLPを持つハラルドを倒しきれない。

 

「(もっと、もっと燃え上がるはず! 私の魂!)  バトル! 琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティでオーディンを攻撃! 【真紅の絶対破壊(クリムゾン・アブソリュート・ブレイク)】!」

 

 琰魔竜王は下段の手の指を組み合わせると、組み合わせた手に紅い魔力を集中させ、オーディンに向かって突進。オーディンの頭上を取ると、その手をハンマーの様に振り下ろし、脳天を砕いた。

 

 ハラルド LP:4000→3700

 

「オーディン……だがこれで――――ッ!? 何をする気だ!?」

 

 頭を砕かれたオーディンはそのまま光となって消滅するが、琰魔竜王はそのままの位置に留まり、今度は上段の腕を掲げ、紅い魔力の球体を作り出す。

 

「カラミティのもう一つの効果発動! 戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手モンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「何だと!?」

「これが最強最後の一撃! 〈地獄の災厄琰弾(ヘル・カラミティ・メテオ)〉ォォォ!!!」

 

 琰魔竜王が球体をハラルドに向かって振り翳すと、球体から無数の隕石が飛び出し、ハラルドを襲う。

 

「うおぉぉぉーーーー!!?」

 

 ハラルド LP:3700→0

 

「「 ハラルドッ!? 」」

 

 決闘終了のアラームが鳴り響き、ソリッドビジョンが消える。

 最後の一撃によって倒れ伏したハラルドの元へドラガンとブレイブ、そしてフレアが駆け寄る。

 

「おいハラルド! 大丈夫か!?」

「嘘だろ……三極神全部出したっていうのに、負けちまうなんて……」

 

 二人の顔には、ハラルドへの心配と、最強だと信じていた三極神の敗北に対する驚愕が現れていた。自分達のリーダーが倒れている事が信じられないといった表情である。

 

「だ、大丈夫だ……我々にはルーンの瞳と、神の加護がある……衝撃で倒れただけで、ダメージは無い」

 

 ハラルドはドラガンの手に掴まって立ち上がると、フレアに向き直る。

 

「決闘巫女よ、我々の完敗だ。我々は、君の目に適うチームではなかったという事だな。チーム・5D'sを羨ましく思う……」

「そんなことないです! 素晴らしい決闘でした! 今まで戦った相手の中で、一番手強かったです!」

「我々は星海の決闘巫女に対して、あれだけの大言壮語を吐いたのだ。神を持っていたとしても、そんな滑稽なチームに、果たして世界を守る力があるのか……」

 

 急に弱気なことを言い出すハラルドに、フレアは頬を膨らませて詰め寄る。

 

「まだ答えを出すには早いんじゃないですか?」

「……どういうことだろう?」

「まだチーム・5D'sとの試合が残ってるでしょ? それをやらないで身を引くなんて、馬鹿にしてません?」

 

 やってみないと分からないんです、と言いながらフレアはドラガンとブレイブを交互に見やる。二人はフレアの勢いに圧され、ただ頷くだけであった。

 

「ドラガンさんはジャックへの復讐改め、誇りを取り戻す為に、ブレイブさんは子供達の為に、ハラルドさんは人生を懸けてここまで来たんでしょ? だったら、それには意味があるんです! 無いなんて神様にも言わせません! 引いちゃ駄目!」

「……では、君から見て我々はイリアステルと戦うに相応しいと?」

「そこまで言ってませーん!」

「何だそりゃ!? 上げてから落とすんじゃねーよ!」

 

 クロウに似たブレイブの突っ込みを気にせず、フレアは言葉を続ける。

 

「迷ったのなら、とにかく決闘してみるんです! 5D'sとイリアステルとの勝負の権利を賭けて、全力で戦うんです! そうすれば、きっと迷いの答えが出るはずだから……」

「……決闘巫女よ、一つだけ聞かせてくれ。君の言う通り、明日、我々は全力で5D'sと戦う。その時に我々が負けた場合……我々の使命とは何なのであろう?」

「お、おいハラルド……そんな弱気になるなよ……」

 

 僅かに顔を俯かせたハラルドを見て、ブレイブが不安そうに顔を覗き込む中、フレアは少し考える仕草をしてから口を開く。

 

「はっきりとした答えは私にも言えません。でも、さっきも言ったとおり、皆さんがここに来た事には意味があるんです。きっと、貴方達にしかできない、”何か”あるはず。それがイリアステルと戦う事じゃなくても、必ず……」

「……そうか、ならば……明日は神に恥じない決闘をしてみせる。勝てば変わらぬ使命を果たし、負けた時は……新たなる使命を探しに行くとしよう」

 

 ハラルドは顔を上げると、何時もの優雅な笑みを見せる。

 

「そうです! その意気です! あ、後それから、あんまり弱気な事言っちゃだめですよ? ブレイブさん、とっても心配そうにしてましたから」

「し、してねーよ! 何言い出すんだ……」

「してたぞ。まるで子供のようだった」

 

 ドラガンがからかう様にブレイブの頭に手を乗せると、ブレイブは僅かに顔を赤くしながら手を振り払う。

 

「お前まで何言い出しやがるんだドラガン! あ、あれだ! ガキの世話ばっかしてたから、ガキのがうつっちまったんだ! くそっ!」

 

 ブレイブは拗ねてそっぽを向く。ブレイブの苦しい言い訳に、フレアは思わず笑いを洩らした。

 

「ふふ! とにかく、リーダーは暑苦しいくらい強気なのが丁度いいんです!」

「そうか、参考にさせて貰おう」

「(いや、それもどうかと思うがな……)」

 

 そんな事をしていると、空間に変化が起き始める。極彩色の空間が少しずつ白く染まり始めていたのだ。

 

「そろそろ、目覚めの時の様だ」

「そういえば、夢の中でしたねこれ」

 

 4人で白くなっていく空間を見詰めていると、フレアが何かに気付いた様にポンと手を鳴らす。

 

「ハラルドさん、いっその事、明日は使命とか忘れて決闘してみたらどうですか?」

「……何故?」

「ハラルドさん達が使命を大事にしているのは解りますけど、もしかしたらその方がすっきりすると思うんです。皆さんも、遊星達も」

 

 フレアは3人から少し離れると、両手を大きく広げる。この時には既にフレアの服装は元に戻っていた。

 

「それに、ハラルドさん達は人気なプロチームなんでしょ? お客さん達も、明日の決闘を楽しみにしてるんです。イリアステル~ってギスギスしてるより、皆で盛り上がる決闘をしましょうよ」

「軽いな。気持ちは解らなくも無いが、決闘巫女さんがそんなんでいいのか? ……こんな突っ込みばっかしてる気がするぞ俺ぇ」

 

 ブレイブが呆れた様な表情で突っ込むと、フレアは満面の笑顔を浮かべた。

 

「いいんですぅ! ほら、想像してみてくださいよ。満員の客席から聞こえてくるラグナロクコールと、5D'sコール。コースで待ち受けるはチーム・5D's。そして、MCさんがマイクを手にして叫ぶんです! ほら――――」

 

 

 

             よんでますよ、ハラルドさん!

 

 

 

 * * *

 

 

「う、う~ん……あれ? ここ……」

 

 フレアが目を覚ますと、見慣れた一室のソファの上にいた。遊星達のガレージ2階のリビングである。明かりが点いていてカーテンが閉まっている事から、もう夜中のようだ。

 

「あ、よかった! 目が覚めたんだね!」

「ブルーノ? 私……」

「ビックリしたよ! 遊星達と最終チェックに行くって聞いてたフレアを、チーム・ラグナロクがここまで運んできたんだからね。Dホイールと一緒に」

「え!? (あ、そっか! 私が一番お寝坊だったんだ……)」

 

 どうやらチーム・ラグナロクはフレアよりも早く覚醒し、寝たままだったフレアをここまで送り届けてくれたようだ。

 

「彼等と決闘したんだってね? それで、神のカードに驚いて気絶しちゃったとか。フレアが気絶するって、一体どんなカードなのかなぁ?」

「(……まあ、説明し辛いだろうし、いっか)」

「あとフレア、起きたら渡してくれって、彼等が。はい」

「? ……手紙?」

 

 フレアがブルーノから受け取ったのは、白い洋封筒。中を見ると、手紙と3枚のカードが入っていた。

 

 

 

* * *

 

星海の導きを感謝する。

君の今後を健闘を祈り、我々からカードを1枚ずつ送らせてもらった。

君ならば使いこなせるだろう。

言う必要は無いかもしれないが、明日の試合は是非見に来て欲しい。

君の眼で、運命の行く末を見届けてくれ。

次に会う日を楽しみにしている。

 

ハラルド

 

* * *

 

 便箋にはハラルドが書いた文と、隅に”次は負けん”と”決闘巫女様の寝顔、頂戴したぜ”という言葉が走り書きされていた。

 フレアは便箋を丁寧に封筒へとしまうと、一緒に入っていたカードを取り出す。

 

・極星獣グルファクシ

・極星宝ブリージンガ・メン

・極星宝レーヴァテイン

 

「フレア~! 遊星達が帰ってきたよ~! これからアキさんや双子達も誘って最終ミーティングを兼ねた夕食会をするそうだから、君も来なよ~!」

「は~い!」

 

 ブルーノが発した1階からの呼び声に応えた後、フレアは貰ったカードを大切にしまい、階段を駆け下りる。

 突然始まり、突然終わった夢の中の決闘。フレアは己の中の成長と新たなる好敵手達との出会いに喜びを感じながら、1日を終えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。今日の事は黙っといてあげるから、最終調整すっぽかした事、ちゃんと皆に謝っておきなよ。ジャックやクロウは勿論、珍しく遊星も怒っていたからね」

「あ~ん……」




何とか年内に間に合いました!
予定とかもあって大分急いだので、間違いとかあったら申し訳ありません!
来年も変わらずに書き続けられればいいなぁ……

それでは皆様、良いお年を! そして楽しい決闘を!
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