遊戯王5D's ~荒野のデュエリスト~   作:鬼柳高原

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今回は決闘はありません。ご了承ください。


第74話 ジョニーとロック

「よしロック! それじゃあさっそく社会見学といこうか!」

 

 晴れてロックを仲間にしたバーナードは意気揚々としてロックと共にシティの街へと繰り出していた。他の二人は本来の用事を済ませる為に別行動中である。

 

「決闘しに行くのか?」

「うーん、それもいいけど、やっぱり最初は女の子だな!」

「……何故だ?」

「バッカお前! シティに来て女の子に目をつけないなんて、決闘者以前に男としてあり得ないんだぞ!」

 

 バーナードが熱く力説するが、ロックはピンと来ないらしく、ただ眉を顰めるばかり。そんな話をしている間に最初の目的地に辿り着いたようだ。

 

「何だか乗り気じゃないロック君の為に、最初は決闘も女の子も満たせる場所にしてやったぞ!」

「……ガレージか」

 

 着いたのはシティの外れにあるコンクリート製の建物。未来都市にはミスマッチな古臭い建物で、入り口を閉ざしているシャッターの上には“WCS”と書かれた看板が掛けられていた。

 バーナードはロックと共に建物の裏に回り、裏口のドアをノックする。

 

「おばちゃーん、入るよー」

 

 二人が扉を開けて中に入ると、部屋の中で何やら機械を弄っている小太りの中年女性が手を止めて立ち上がり、バーナードを出迎える。

 

「来たねバーニィ、この疫病神。まだ開店時間じゃないよ」

「いきなりひでぇこと言いやがる……今日はうちの新人を紹介しに来たんだ。ほらロック」

 

 バーナードはロックを前に立たせる。

 

「おばちゃん、こいつはロック。滅茶苦茶決闘が強いんだぜ」

「へえ、デルタに新人かい。物好きだねぇ。どれ程の腕前で?」

「ジョニーが負けて、俺とセントの二人掛かりでやっと倒した相手だ」

「あらま! そりゃ凄い」

 

 女性は少し驚いた表情でロックを見る。

 

「へぇ、中々良い面構えじゃないか。バーニィみたいにヘラヘラしてない、セントみたいに厳つくもなければ、ジョニーみたいに頼りなくもない……バランスよく纏まったワイルドボーイじゃないか。あんた等の中じゃ一番好みだねぇ」

 

 女性がニヤリと笑うと、バーナードは大げさに飛び退き、口元を押さえる。

 

「うげぇ!? おばちゃんが何言ってやがる! ロックにちょっかい出すなよ!」

「アンタと一緒にするんじゃないよ。……初めましてねロック。あたしは“ウェンディ・ケード”。このDホイール専門店“WCS(wendy cade store)”の店主よ」

 

 ウェンディが手を差し出し、ロックと握手を交わす。

 

「デルタは最低の客だけど、実力は確かよ。それを追い詰めただなんて、アンタ只者じゃないわねぇ」

「そりゃそうだ! 俺達が見つけ出してスカウトしたんだからな! ……って、誰が最低の客だコラァ! 贔屓にしてやってんのにあんまりだ!」

 

 ロックの後ろで憤慨するバーナードを、ウェンディはギロリと睨む。

 

「うちの従業員にちょっかいを出すアンタ、やたら注文が多くて喧しいセント、勝手に店の物を弄繰り回すジョニー、これが最低の客じゃなくてなんなんだい?」

「ぐぬぬ……!」

「それにしても不思議だねぇ? それ程の実力者ならここに噂が届いててもいいはずだけどねぇ?」

 

 ウェンディは不思議そうに首をかしげる。

 このDホイールショップ“WCS”は裏では情報屋としても知られており、決闘に関する情報量はシティ1とも呼ばれているのだ。

 

「届いてると思うぜ。やたら強い追剥の噂」

「ああ、最近話題になってたねぇ……まさか」

「ああ、こいつがそうだ」

 

 バーナードは先日の出来事をウェンディに話す。

 

「……帽子にマント、確かに情報と一致するね。まさかこんな坊やだったとはねぇ」

 

 ウェンディはロックが追剥犯だと分かっても特に警戒を浮かべることはなく、更に興味深そうに視線を送る。

 

「こいつまだこっちのことよく知らない世間知らずなんだ。機会があったら色々教えてやってくれよ」

「はいよ、アタシも興味あるしね」

「……店主、Dホイールに詳しいのか?」

 

 ここで初めてロックが口を開く。

 

「ウェンディでいいよ。詳しくなきゃ店は持てないね。どうかしたのかい?」

「……少し待っていてくれ。すぐ戻る」

「お、おいロック!」

 

 

* * *

 

 

数十分後、シャッターを開いて開店したWCSの前にボロボロのDホイールを押しながらロックが戻ってきた。

 

「おおロック! お前Dホイール持ってたのか!」

「俺が故郷を出る時にギャングから強奪して乗ってきたDホイールだ。ここについてから動かなくなった。見てもらえないか?」

「強奪したってのは一先ず置いておこうかね……どれ、見せてごらん」

 

 ウェンディは慣れた動きでDホイールを隅々まで見渡す。その後、触ったりパーツを外して中を覗いたりして数分、ため息をついてロックに向き直る。

 

「これもうダメだね。パーツは粗悪品ばかりで、ろくに整備もして来てない。一部には質のいいダインを使ってるけど、加工の仕方が最悪だね。これじゃ直しても直ぐにダメになる。こんな物、どこのケチがどこの下手糞に頼んで作らせたんだか……」

「もう使えないか?」

「アタシだけじゃどうにもねぇ……」

「そういやまだ“ミサキちゃん”来てないな? 何時来るんだ?」

 

 バーナードがウェンディに尋ねると、ウェンディは不愉快そうに鼻を鳴らす。

 

「ミサキは来ないよ。朝からアンタが“来そうな気がする”って言って早退したんだからね」

「何だってぇ!? じゃあ俺は何の為にここへ来たというんだ!?」

「新人を紹介するためだろ! 何言ってんだい!」

 

 ウェンディの叱責を横に、バーナードは膝をついて落胆する。

 

「そんな……そんな……じゃ、じゃあせめて“恵ちゃん”は? 今日アカデミアは休校日のはずだ」

「生徒会の手伝いがあるっていって今日はアカデミアにいってるよ」

「お、おおお……」

 

 とうとう床に手を付くバーナード。何やらぶつぶつ呟いているのが聞こえてくる。

 

「……ウェンディ、“ミサキ”というのは?」

「うちの従業員よ。そして、バーニィが今一番お熱な娘」

「うおーん! ミサキちゃーん!」

 

 今にも泣きそうな顔で想い人の名を叫ぶバーナード。それを見ながらウェンディはまたため息をつく。

 

「バーニィは気が多くて、色んな娘にちょっかい出しては振られて諦めるっていうのを繰り返してるんだけど、ミサキだけは諦める気配がないんだよねぇ……因みに恵って娘はうちのアルバイト。どっちもクールだけど、器量好しで機械弄りが上手い良い娘達だよ」

「そうか……」

「アンタもクールねぇ……で、話戻すけど、アタシは買い替えをお勧めするよ。こんなもん、無理に使っていくこたないよ……でも、そんな金も無いんだろう?」

「今の蓄えではせいぜい応急処置が手一杯だと思う」

「だろうねぇ、追剥なんてケチなことしてるんだから……とにかく、これを動かしたかったらミサキかジョニーに相談したほうがいいわよ。若い子は発想が柔軟だから、もしかすれば何とかしてくれるかもね」

「ジョニー……」

 

 ロックは怯えた表情を浮かべた体の大きな少年の姿を思い浮かべる。バーナードから聞いた話では、今日はバーナードとセントと共にダイモンエリアのジャンク市場へと行く予定だったはずだ。今はこちらにバーナードがいる為、二人でそこにいるはず。

 

「分かった。ジョニーに聞く。邪魔したな。おいバーナード――――」

「ミサキちゃーん! ミサキちゃぁーーーん!」

「ダメだねこりゃ……」

 

 ウェンディとロックは同時にため息をつき、Dホイールを押して外に出る。

 

「あのバカは落ち着いたら折檻して後を追わせるから、アンタはジョニーのとこへ先にお行き。道分かる?」

「問題無い。バーナードは任せた」

 

 

* * *

 

 

ダイモンエリア――――フレア達が知るそこはサテライトから逃れ、シティにも馴染めない半端者が集まる溜まり場であったが、サテライトが存在しないここはシティの外れにあるただの薄汚れたスラム街であった。

ここにはシティから集められたゴミが置かれるだけでなく、型落ちによってシティで売れなくなった品や事情により表では流通できなくなった物が集まる市場が存在していた。

ここでジョニー達はDホイールの部品集めをしているとバーナードから聞いていたロックはDホイールを押しながらジョニーの姿を捜す。

 

「……ん?」

 

 決して派手な見た目ではないが、その高身長の体はやはり目立つ。数人の人だかりの中からひょっこり飛び出た見覚えのある青髪の頭を見つけ、ロックは近づいた。

 

「おいこら木偶の棒! そのパーツは俺達が先に目をつけてたもんだぞ!」

「で、でも先に買ったのは僕だから……」

「ごちゃごちゃうるせー! さっさと渡せ!」

「ううっ……!?」

 

 やはり飛び出た頭はジョニーのもの。しかし様子がおかしい。見ればジョニーは数人の男に囲まれているらしく、前の男に怒鳴られ、後ろにいた男に足を蹴られていた。

 

「こ、これはどうしても必要なパーツなんだ。お願いだから見逃して……暴力反対!」

「ふざけんな! このや――――いでっ!?」

 

 逃げ出そうとするジョニーを捕まえようとした男の頭に1枚のカードがぶつかる。その後に次々と聞こえる男達の悲鳴。悲鳴の後にはバラバラとカードが地面に落ちていた。

 

「な、何だこれ? カード……これが飛んできたのか!?」

「そいつから離れろ」

 

 ロックが決闘銃を構えながら男達の前に進み出る。

 

「な、何だテメェは!?」

「そいつから離れろ。三度目は無い。俺の要求に応えなければさっきのをこの距離でぶち当てるぞ」

「ゲッ!?」

 

 あの射撃を至近距離で――――離れた位置から全員に当てた正確さ、そして未だにジンジンと痛む命中部分、それらの情報が合わさり、頭の中で数秒後の未来のイメージが出来上がる。男達の背筋に寒気が走った。男達はパーツの事も忘れ、射程距離から脱出する為に全速力で逃げ出す。

 

「大したことないな……おい、大丈夫か?」

「え!? あ、ああ……うん……」

 

 ジョニーは呆気に取られた後、頷きつつも少しだけ後退りする。チームメイトになったとは言え、やはり襲い掛かってきたロックへの警戒は解けていないようだ。

 

「もう一人の……セントだったか。あれはどうした? 一緒ではなかったのか?」

「セ、セントは別の用事があるって……」

 

 オドオドと目を逸らしながら答えるジョニー。ロックはそんなジョニーの気も知らず、決闘銃をしまってジョニーに一歩詰め寄る。

 

「ひえ!?」

「お前に頼みがある。あのDホイールを見てくれ」

「え……Dホイール?」

 

 ロックが後方の押してきたDホイールを指さす。

 

「ウェンディにお前に聞いた方がよいと言われてな。こいつを――――おい」

 

 ジョニーはロックの言葉を待たずにDホイールへと近づき、勝手に見渡し始める。

 

「うわ、これは酷いね……ボロボロなだけじゃなくて碌に整備もしてないよ……」

 

 今度は実際に手を付け、服の下に隠し持っていた工具でフレームを外し、中身を見始める。

 

「ああ!? これダインじゃないか! いいなぁ……これがあればもっと良いモノが作れるよ……でもこれは……うーん……」

 

 人が変わったかのようにDホイールを弄るジョニー。ロックはその背に近づく。

 

「どうだ?」

「うーん……残念だけど、これはダメだね。ダイン以外のパーツが限界だ。あまり良いモノを使ってない。ダインもこんな使い方じゃ……一体誰が作ったんだ?」

「直せないか?」

「メカニックとしては悔しいけど、これは買い替えた方がいいね。幸いこのダインでも良い値で売れるからそれを予算の足しにして……あ!?」

 

 ウェンディと同じ答えを出した後、ジョニーはハッと気が付き、Dホイールからパッと飛び退く。

 

「ご、ごめんなさい! 勝手に触っちゃって……!」

「構わん。目的は果たした。……お前の言う通り、潰して金に換えるのがよさそうだ」

 

 ロックはDホイールのハンドルを持つと、ジョニーを首で促す。

 

「見たところ用事は済んだのだろう? 来てくれ、WCSという店でバーナードが迷惑をかけている」

「ああ……また……解ったよ」

 

 ジョニーはそれだけで全てを察したらしく、頷いてロックの後に付いていった。

 暫くは会話もなく微妙に気まずい雰囲気のまま移動が続く。

 

「……あ、あの」

「何だ?」

 

 最初に沈黙を破ったのはジョニー。

 

「どうして……僕等のチームに入ろうと思ったの?」

 

 怖くて聞こうか迷っていた。何故会ったばかりの、しかも強盗対象の相手の仲間になろうと思ったのか。

 ジョニーは正直、ロックを恐ろしく思っている。自分を容赦なく打ち負かし、バーナードやセントを追い詰めた追剥犯。本来なら出くわした時点で悲鳴を上げながら逃げる相手なのに、奇妙なことに今ではチームメイトである。それが不思議でならなかった。

 

「……ジョニー、何故お前達はあんなごみ溜めの中でパーツ探しなどしている?」

「え、それは……予算が足りないから……」

「何故奪わない? 良質なものを他の奴から奪えば済むことだ」

「だ、ダメだよそんなこと!」

「何故駄目なんだ?」

「な、何故って……駄目に決まってるよ奪うなんて……」

「それだ」

「え?」

 

 ロックは脚を止め、戸惑うジョニーの眉間に指を突きつける。

 

「俺の故郷では当たり前のことだった。奪い、蹴落とし、他人を犠牲にして生き残る。強くなければ死ぬのみだ。それが、“決まってる”ことだった」

「そ、そんな……ひどいよ……」

「……そうだな、本当にひどい“世界”だ」

 

 ロックは落胆する様に腕を下げ、自嘲気味に笑いながら再び歩き始めた。ジョニーも後を追い、今度は隣に並ぶ。

 

「俺はそんな世界が堪らなく嫌だった。クソ野郎が堂々と町を歩いて物を食い荒らし、優しいお婆さんが明日も見えない生活を強いられる……だから俺は“世界”を飛び出した。そこでの流儀である“力”でねじ伏せてな」

 

 腰から決闘銃を抜き、構え、空中に向かって撃つように銃身を揺らす。

 

「あの時は、流石に胸が高鳴った。地獄から抜け出したんだ。俺は新しい世界で生きるんだ……だが、“新世界”は決して甘く優しい場所ではなかった」

 

 ロックの表情が曇る。地獄からの脱出を夢見て故郷を飛び出した彼であったが、どうやらシティでの生活も決して“天国”ではなかったようだ。

 

「結局、俺は一歩も抜け出せていなかった。無知で、地獄で暴力しか見てこなかった俺は、地獄の外で暴力を振るう……失望した。新世界にも、俺にも」

 

 だから諦めた。理想を追い求めることを。見たこともない幻想を追いかけるのを。結局、自分も同じだった。暴力を振るわねば生きられなかった。

 

「諦めた後は、あっという間だ。どうやら人は考える事をやめると、時間の感覚が解らなくなるらしい。色んなものを抜け落としながら、ただ生きていく」

 

 諦めてから何人の人を襲っただろう。何人の弱者から物を奪っていったのだろう。時間の流れと共に唯一の誇りだった“地獄に染まらない自分”すらも消えていく。

 

「どのくらいそんなことしてたのか分からなくなってきた頃、俺は可笑しな奴に出会った」

「バーナード?」

 

 即答するジョニー。それを聞いたロックは思わず吹き出してしまう。初めて見せた屈託の無い笑顔。この時、ジョニーは初めて目の前の男が自分と同じ年頃の少年なのだと感じることが出来た。

 

「俺は一晩中考えた。アイツの言葉の意味を」

「“考えた”んだ?」

「ああ考えた。あんなに長い夜は人生で二度目だ」

 

 ロックは脚を止め、ジョニーに向き直る。

 

「結局、朝を迎えてもアイツの言葉に対しての結論はでなかった」

「でも、君は来た。バーナードの元に」

「俺は知りたいんだ。アイツの言葉の意味を。そしてそれを知るには……お前達のいる“世界”に飛び込むしかない……ジョニー、お前にも頼む。俺に……俺に“世界”を教えてくれ」

「(……そうか、そうなんだ。彼はまだ“子供”なんだ)」

 

 自分達にとって当たり前でも、ロックにとっては未知なる世界。追剥も悪意からのものでなく、どうしていいか解らない“子供の叫び”だったんじゃないのか――――そう理解したジョニーの中で恐れが消えると同時に、暖かい使命感が宿る。

 

「(教えてあげなくちゃいけない……彼は……“僕等の仲間”なのだから!)」

 

 ジョニーはロックの手からハンドルを引っ手繰り、駆け足で押し始める。

 

「おい、何をする?」

「代わるよ! それに急がないとバーナードが何をしでかすか分からないからね! ……これからもよろしくロック!」

「……ああ、よろしく頼む」

 

 憂鬱気な表情はすでになく、上に広がる青空の様に清々しい表情のジョニー。Dホイールの重さもなんのその、後ろから続くロックと共に、軽い足取りでWCSへと急ぐのであった。

 




皆さま、新年あけましておめでとうございます。
三か月も間をあけた上にもう1月終わるってのに何言ってんだって感じです(汗)

とりあえず今年の目標は今年中の完結ですね。流石に4年は掛かりすぎです(汗)
そのクセ新連載やろうとしてるんだからどうしようもないですね。
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