遊戯王5D's ~荒野のデュエリスト~   作:鬼柳高原

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*今回は決闘がありません。 ご了承ください。


第8話 サテライトの日々、不満の日々

「よし! 行こうフリント!」

 

「少しでも危ないと思ったら引き返すぞ」

 

今日はチーム”サティスファクション”の休養日。

チームメンバーがそれぞれの住処に戻っている中、フレアとフリントはサテライトの探索に向おうとしていた。

 

「お、ちょっと待て!」

 

二人がクロウのアジトを出ようとすると、子供達の相手をしていたクロウが振り向いて呼び止める。

 

「危うく忘れるところだったぜ。 鬼柳が昨日帰る前、お前等宛てに伝言を残してったんだ。 フレアはトランプに夢中だし、フリントは寝てたからな」

 

 

 

お前等、明日はどうせ暇だろ? だったらアジトに顔出してくれよ。 すっぽかしたらお互い満足できねぇぜ! 必ず来いよ!

 

 

 

「……だってよ」

 

「? 何だろ……暇だから決闘でもして欲しいのかな?」

 

「さあな。 奴の言う通り、俺達も暇なんだ。 探検のついでに寄ってやろう」

 

 

* * *

 

 

「よお! 悪いな、オフだってのに呼び出してよ。 まあ上がって来てくれよ」

 

フレアとフリントがチーム”サティスファクション”のアジトの前に訪れると、天井と壁が半分以上崩れている5階から鬼柳が顔を出す。

 

「お邪魔しまーす! …それにしてもここ、絶景だよね~! 私は好きだな!」

 

「……アジトなのに、こんな目立つ所でいいのか?」

 

サティスファクションのアジトは廃墟に囲まれた丘の上に建てられており、その丘から一望出来る静かな海とサテライトの壊れた街並みは、何処か寂しさを感じさせる。

 

フリントの言う通り、建物自体も5階建てと大きいので非常に目立つ。

だが見晴らしのいい、通り道以外はきつい斜面となっている丘の上なので、迎え撃つには向いているのだろう。

これらの事から、鬼柳の”掛かって来い”と言わんばかりの姿勢が窺える。

 

「それで鬼柳、どうしたの? 決闘の相手になって欲しいの?」

 

「決闘したいのは山々何だけどよ、俺もちょっとこれから野暮用があってな。 …お前達を呼んだのは、俺の代わりにこいつを皆に届けて欲しいからだ」

 

鬼柳が部屋の隅に置かれているテーブルを指差す。

その上には見覚えのある服が数着、畳んで置かれていた。

 

「あれって……鬼柳達が着てるユニフォーム?」

 

「ああそうだ。 実は昨日のランニング・デュエルの時によ、俺ゴール過ぎた時に倒れただろ? あの時にズボンを破いちまったんだ。 で、クロウのアジトから帰った後に直そうと思ったんだが、よく見りゃ全体的にボロボロでよ。 だからいっその事、新調しようと思ってな。 あいつ等も同じだろうから、全員分のを作ったんだ!」

 

「これを一晩で作ったのか……」

 

「あれだけ走った後だったのに元気だねぇ……ぷぷぷ、フリントなんて一日中眠ってたのにね」

 

フレアが口元を押さえながらそう呟くと、フリントは僅かに顔を顰める。

 

「……鬼柳にはそれだけの体力があった……それだけだ」

 

「頑張らないとね、フリント! …それにしても鬼柳上手~!」

 

フレアが新品のユニフォームを見て感嘆する。

一着一着丁寧に作られており、間違いなく着た者を”満足”させる一品だった。

 

「へへ! 裁縫は得意でな! これが俺の役割なんだ! 俺がユニフォーム、遊星が機械類、クロウが食糧やカードの調達、ジャックは……何もしてねぇな。 極まれにクロウに付いて行く程度だ」

 

「ジャック……決闘と喧嘩以外はからっきしなのね……誰かみたい」

 

「……面目ない」

 

フレアがフリントに振り向くと、フリントは帽子を深く被って顔を隠してしまう。

それを見たフレアは笑いながらフリントの背を叩く。

 

「アハハ! 冗談よフリント! 頼りにしてるよ、用心棒さん! …じゃあ、私達はそのユニフォームを3人に届ければいいのね」

 

「後もう一つだ。 伝言を頼むぜ。 …”明日、予定していた遠征に行く”。 そう伝えてくれ」

 

「遠征行くの!? 楽しみ―――」

 

「お前は駄目だぞ」

 

フリントがそう言うと、フレアは錆付いたロボットの様にゆっくりと振り向く。

その顔には不満が表れているが、驚いた様子ではない。

そう言われると予想は出来ていたのだろう。

 

「私だって”サティスファクション”の一員なのに……」

 

「満足出来ねぇだろうが、ここはフリントの立場を考えてやれ。 その内、近場の残党狩りに連れてってやるから、それで満足しようぜ……おっと、忘れてた」

 

むくれるフレアを宥めていた鬼柳が、テーブルからユニフォームを一着手に取ると、それをフレアに差し出す。

 

「ほらよフレア! お前のユニフォームだ! 満足させてやるぜ!」

 

「え、嘘!? 作ってくれたの!?」

 

フレアは喜んでユニフォームを受け取る。

鬼柳と同じ赤いシャツに袖の無い茶色いジャケット。

ジーンズにフィンガーレスグローブ。

どれも他のメンバーの物より一回り程小さい。

 

「着替えてくる!」

 

フレアは自分のユニフォームを抱きしめると、嬉々として下の階へと駆け下りていった。

 

「すまねぇフリント……実はフレアのを作った時点で材料が切れちまってな。 お前の分が作れなかったんだ。 満足出来ないだろうが、材料が手に入り次第、必ず作ってやるからな!」

 

「い、いや……俺はこの服装が気に入っていてな。 貰っても着替えたいとは思わないだろう……」

 

「その格好がか? ……俺にはよく解らんが、分かったぜ」

 

「(俺も解らんがな……サテライトではそれが一般なのか?)」

 

決闘では分かり合えた二人だが、どうやら服の好みは相容れない様子。

二人が暫く待っていると、ユニフォームに身を包んだフレアが上がってくる。

普段の服装とは違うが、その腰にはしっかりとガンベルトが巻かれていた。

 

「ちょっと大きいけど……うん、大丈夫! どう? 似合う?」

 

「サイズはクロウを基準に少し小さく作ったが、大丈夫だったみたいだな!」

 

「……服の事は解らない……お前がいいならいいんじゃないか?」

 

「ふふふ!」

 

先程の不満顔はどこへやら、フレアは今にも踊り出しそうな程上機嫌となった。

 

「よーし! フリント! 早く3人にユニフォーム届けて満足しようぜ!」

 

「……口調は真似しなくていい」

 

「アッハッハ! 様になってるじゃねぇか! それじゃ頼んだぜ!」

 

 

* * *

 

 

「……成る程、そういう訳か。 ユニフォーム、ありがとよ! しかし……やっぱり遠征には行くのか」

 

クロウはフレア達の話を聞くと、ユニフォームを受け取り笑顔を見せるが、すぐに思い悩んだように顔を顰めてしまう。

 

「やっぱりクロウは乗り気じゃないの? 響きは楽しそうだけど」

 

「おいおい……”遠征”の意味解ってんのか? ”遠足”と勘違いしてんじゃないだろうな……」

 

「解ってるよっ! 馬鹿にしないで! 決闘しに行くんでしょ!」

 

「(解ってねぇだろ……)」

 

クロウは溜息を吐くと、近くにあった椅子に座り込み、遠くを見るような眼をする。

クロウらしくもなく、その顔には鬱屈したものが見えた。

 

「フリント、お前はこの遠征、どう思う?」

 

「……考えている事はお前と同じだ。 お前が昨日言っていた通り、野心の無い者をわざわざ倒しに行く事に、必要性を感じられない」

 

フリントの言葉に、クロウはもう一度溜息をつく。

 

「……サテライトを制覇してから、鬼柳はずっとそんな感じだ。 俺、最近思っちまうんだよ。 本当に俺達がやりたかった事って、こんな事だったのか、ってよ……」

 

「……クロウ、何だか楽しくなさそう……クロウは鬼柳達といて楽しくないの?」

 

フレアが少し寂しそうに聞くと、クロウは最初に浮かべたような笑顔に戻る。

ただ、それは自然と浮かんできたものではなく、子供を不安にさせないようにする為の笑顔に見えた。

 

「そんな事はねぇよ。 そうだったら、俺はとっくにこのチームにはいねぇ。 長く一緒にやってれば、その間にちょっとの変化ぐらいあったりするだろ。 俺は多分、それに違和感を感じてるだけだ。 じきに慣れるさ……」

 

「……俺には、鬼柳が現状に”満足”出来ていないように見える。 そして、お前もな……」

 

フリントがクロウの眼を真っ直ぐに見ながら言うと、クロウは小さく笑う。

 

「……そうかもな。 俺も、鬼柳やジャックと同じなのかもしれねぇ………あーーー!!! 止めた! 俺らしくもねぇ! 鉄砲玉がこんなんじゃ格好がつかねぇ! 前向きに行くぜ! そうだな……今度の遠征、俺もジャックみたいに強い奴でも期待してみるか!」

 

「そうだよ! きっと楽しいよ! クロウが元気になってよかった! 引鉄を引いても飛び出さない鉄砲玉なんて嫌だもん!」

 

クロウとフレアは笑顔を浮かべて盛り上がっているが、フリントはその様子を見てもクロウがまだ完全に吹っ切れていないと感じていた。

 

「(チームリーダーである鬼柳は頼れる存在。 何時も3人を引っ張るチームの中心だったに違いない……だが、今チームに渦巻いている”負”の中心にいるのも、鬼柳かもしれない……遊星やジャックは、どのように思っているのか……)」

 

「…っと、引き止めて悪かったな。 今度は遊星達のところに行くんだよな?」

 

「うん! …あ、そういえば遊星達が何所に住んでるのか聞いてないね。 何所に住んでるの? 近く?」

 

「…鬼柳の奴、ちゃんと伝えとけよ……遊星とジャックのとこはちょいと面倒だ。 俺も一緒に行って―――」

 

その時、クロウ達が話をしている小屋の中に、子供達が飛び込んできてクロウを囲む。

 

「ねぇお話終わるのまだぁ~? せっかくのお休みなんだから遊ぼうよぉ!」

 

「あそぼ~!」

 

「だぁー! お前等少し待ってろって言ったろうが! ……すまねぇ、ガキ共が限界だ。 道案内はちょっと出来そうにねぇ」

 

「ううん、いいよ! これが私達のチームメンバーとしての初仕事だし、どうせ二人で探検に行く予定だったしね! 私達だけでやって見せるよ!」

 

「…そうか、悪いな。 ほらお前等、すぐ行くから外で待ってろ! …お前達のちょっと待ってろ」

 

クロウは子供達を一旦外へ出すと、小屋の中の物入れを漁り始める。

暫くして、クロウが物入れの中から少し古びた一枚の地図を見つけ出し、フリントに渡す。

 

「ようやく見つけたぜ。 こいつはサテライト全域の地図だ。 引いてある赤線はそれぞれの住処への道のりだ。 裏に細かい道の指示が書いてあるから、それに従っていけば辿り着ける」

 

「……遊星とジャックは大分離れた所に住んでいるな。 それに―――」

 

フリントは地図に描かれた大きな境界線の様なものを見る。

それはサテライトを東西に分断しており、東側には鬼柳とクロウ、西側には遊星とジャックの住処の位置が示されている。

 

「ああ、そこはでっけぇ亀裂があるんだ。 もはや崖だなありゃ。 それがサテライトを二つに分断してんだ。 俺と鬼柳はB.A.Dエリア、遊星とジャックは居住区に住んでる」

 

「居住区って? 人が一杯住んでいるの?」

 

「おう、セキュリティが管理してて比較的安全だからな。 チームメンバーじゃない俺達の仲間がそこに住んでて、遊星は普段そいつ等と暮らしている……俺は逆にセキュリティがいちゃ困るから、こっちにいるんだけどな」

 

クロウは苦笑いを浮かべて、自分の額のマーカーを指差す。

 

「亀裂には幾つかつり橋が架けられてるから、それを使って向こうに行けよ。 赤線引いてある真ん中の橋が一番近道だぜ」

 

「うん! 分かった! それじゃフリント、行こ!」

 

「ああ」

 

話を終え、小屋から出てくる3人。

クロウはすぐさま子供達に囲まれ、フレア達は巨大な亀裂―――通称”B.A.Dの入り口”へと向かう。

 

「あ! 言い忘れてたぜ! 比較的安全なだけで、居住区も”サテライト”なのは変わりねぇからな! 気をつけろよ!」

 

 

* * *

 

 

「凄かったね、あのつり橋。 物凄く高くて、幅も一人分しかなくて、しかもボロボロ……思い出しただけでヒヤッときちゃう」

 

「そのわりには臆する事も無く渡りきったな……(これ位、肝が据わっていなければ、クラッシュ・タウンでもサテライトでも生きてはいけないのかもしれないな)」

 

「それよりも見てフリント! 街よ! ボロボロだけど、人もいるし、ちゃんと街の形してる!」

 

B.A.Dエリアは不気味なほど静かで、殆どの建物が廃墟と化し、まともに住めないような状態だった。

だが、この居住区には人影がちらほらと見え、建物は完全に形の残った物や補修された物など、人が住める環境となっている。

 

「油断するなよ。 ここはサテライトだ」

 

「もーフリントは心配性ねぇ! ……きゃ!」

 

「ごめんよっ!」

 

突然、路地から飛び出した子供にぶつかられるフレア。

その子供はニットキャップを被り、大き目で水色のコートを羽織っていた。

 

「こら! 危ないでしょ急に出てきたら―――フリント!?」

 

子供が離れた瞬間、フリントは決闘銃を抜き放ち、子供の背に向かってカードを撃つ。

 

「ぎゃあ! ……いってぇ~~~!!!」

 

子供は背にカードを受けると、そのまま倒れ、悶絶する。

 

「フ、フリント! 子供に向かってカード撃つなんて危ないでしょ!」

 

「油断するなと言ったはずだ。 ……腰を見てみろ」

 

「腰? ……あーーー!!? 無い! 私の決闘銃が無い!?」

 

フレアは慌てて体中を見渡すが、自分の決闘銃はどこにも無い。

フリントが悶絶している子供からフレアの決闘銃を取り上げると、フレアに渡す。

 

「私の決闘銃を何時の間に……」

 

「解ったか? ”サテライト”というのはこういう所だ。 …おい、お前は何を盗んだのか解っているのか?」

 

「う、うわぁ!?」

 

フリントは逃げようとする子供の服の襟を掴むと、そのまま自分の目線と合う様に持ち上げる。

その子供は長い癖のある茶髪を伸ばし、コートの下には女物の服を着ている。

だが、注目すべきは左頬にある小さいマーカー。

さっきの手際からして、盗みの常習犯であろう。

 

「決闘盤、そしてデッキは決闘者の魂だ。 それを盗むような奴を見逃せる程、俺はお人よしじゃない……」

 

「ひ、ひえぇ~!?」

 

フリントは厳しい眼で子供を睨みつけ、決闘銃を突きつける。

子供の方は逃れようと暴れていたが、決闘銃を突き付けられて大人しくなる。

 

「止めてフリント! 相手は小さい子よ! ……ねえあなた、何でこんな事したの?」

 

「…うるさい! お前等余所者だろ! どうせシティから来たんだろ! いっぱい持ってんだから少しぐらいいいじゃないか! お前も撃ちたきゃ撃てよ! 俺は謝らないぞ!」

 

フレアが子供に話を聞こうとしたが、子供は開き直って叫ぶ。

 

「こら! 女の子がそんな乱暴な言葉使っちゃいけません!」

 

「俺は男だ!」

 

子供はフリントに吊り下げられたまま、暫くフレアと口論していた。

やがて、フレアの方が諦めたように溜息をつく。

 

「……もういいわ。 とにかく、もうこんな事はしちゃ駄目だからね! じゃないとこの恐いお兄さんがまた撃ちに来るからね! ……行こうフリント、早く遊星の所に行かなきゃ」

 

「え、遊星!? 遊星の事知ってるの!?」

 

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

「遊星の新しい仲間だって知ってたら、盗みなんてしなかったよ……」

 

フレア達は現在、遊星の仲間だと名乗るスリの少年、”ラリー・ドーソン”の案内で遊星の住処へと向かっていた。

 

「遊星の仲間じゃなくても盗んじゃ駄目! もうやっちゃ駄目よ! きっと遊星だって悲しむから!」

 

「で、でも……あ、着いたよ!」

 

ラリーが指差したのは地下へと続く階段。

3人はその階段を下りていく。

 

「凄く広い地下室ね」

 

「地下鉄って言う、何か速い乗り物に乗る場所だったらしいよ。 俺は見たこと無いけど。 ここは雨も風も入ってこないし、夏は涼しいから過ごしやすいんだ」

 

3人は奥へと進み、地下鉄のホームへと辿り着く。

その端の方に張られたテント、その前には3人の男がたむろしていた。

その中の一人、頭にバンダナを巻き、顎鬚を生やした男がこちらに気付く。

 

「ラリー、どこ行ってたんだ? まさか、また盗みに行ってたんじゃないだろうな?」

 

「う……ま、まあ今はいいんだよそれは! それより遊星にお客さんだよ!」

 

「お客って……後ろのヘンテコな格好の二人か?」

 

ドレッドヘアーを頭頂部で縛り、眼鏡を掛けた男が立ち上がってフリント達を見る。

 

「ちょっと! フリントはともかく、このユニフォームを見てそんな事を言ったの!」

 

「ヘンテコじゃないか……”サティスファクション”のユニフォーム……あれ? 何でその子が”サティスファクション”のユニフォームを着てんだ?」

 

筋肉質で背の低い男が首を傾げる。

フリントはこの男の発言を聞き、服装のセンスは人それぞれである事を理解した。

 

「3人共、この2人は”サティスファクション”の新しいメンバーだよ。 遊星に用があって来たらしいんだ」

 

「ああ、そうなのか。 そこの2人が失礼したな。 俺は”ナーヴ”。 そこのラリーと同じ遊星の仲間だ。 よろしくな!」

 

「俺は”タカ”。 んーまあ、よろしくな」

 

「何かいう事無いのかよタカ……俺は”ブリッツ”。 ヘンテコ何て言って悪かったよ。 仲良くやろうぜ」

 

バンダナの男、ナーヴが自己紹介すると、背の低い男、ドレッドヘアーの男と続く。

6人がそうやって騒いでいると、テントの中から遊星が現れる。

その姿はユニフォームではなく、紺色のジャケットを着た私服姿であった。

 

「……フリント、フレア。 どうしてここに?」

 

「あ! 遊星!」

 

フレアは鬼柳からの頼み事と、先程までの出来事を遊星に伝える。

 

「……そうか、ラリーが迷惑をかけたな。 ユニフォームをありがとう。 遠征の件も了解した。 ……ラリー」

 

「わ、解ってるよ! もうスリはやらないよ!」

 

ラリーは慌てながら遊星に向かって手を振る。

だが、これで止めるのならマーカー付きの常習犯にはなっていないだろう。

ラリーからはあまり反省の色が見られない。

 

「それじゃあ次はジャックの所に行くね!」

 

「ああ、今の時間なら住処にいるだろう。 気をつけてな」

 

「遊星」

 

フレアが出発しようとすると、フリントが遊星の近くにより、何かを耳打ちする。

 

「どうしたのフリント?」

 

「少し遊星と話がある。 待っていてくれ」

 

フリントはそう言うと、遊星とテントの中に入る。

テントの中は証明が点いて明るく、様々な機械や工具で溢れており、さらにはパソコンまで置いてある。

やはりB.A.Dエリアと比べると、大分環境に恵まれた地区のようだ。

 

「……聞きたい事とは?」

 

「遊星、最近の鬼柳をどう思う?」

 

フリントがそう尋ねた時、遊星は一瞬驚いた様な反応を見せる。

 

「……似たような事を、昨日フレアにも聞かれた。 お前達は鬼柳に何を感じたんだ?」

 

「…鬼柳はいい奴だ。 だが解らないところがある。 それを知る為に、お前やジャックの話を聞きたい」

 

「……フレアにも言った事だが、多少憤っている感じはする。 …俺達はサテライト制覇をした。 だが、それを越える明確な目標が見つけられないでいる……鬼柳はそのせいで気が立っているんじゃないだろうか」

 

「……”不満”、か」

 

遊星の話を聞き、フリントは今までの鬼柳を思い返す。

無意味に思える無理やりな遠征、そして時々見せる過激な言動。

これらは鬼柳が満足出来ない日々に”不満”を募らせ、それを解消させる為に行っている―――フリントはそう考えた。

 

「(所謂”八つ当たり”か) 遊星は遠征についてどう思う?」

 

「……俺は……鬼柳を信じる。 きっと何かを掴んでくれる……そう願う」

 

「そうか……時間をとらせてすまない。 ありがとう」

 

そう言ってフリントはテントから出る。

この事でフリントの鬼柳に対する印象が悪くなったわけではない。

 

「(誰だって己の道に思い悩み、それによって苛立ったりはする……)」

 

だがそれにより、鬼柳どころか、チーム自体が何か良くない方向へと進んでしまうのではないか―――フリントもフレアと同様、根拠の無い不安を感じるようになった。

 

 

* * *

 

 

「ねえ、遊星と何の話をしてたの? いい加減教えてよ」

 

「…俺にも拘束装置を一つ作ってくれと頼んだだけだ。 今は材料が無い断られたがな」

 

「えー…何か嘘っぽい! ひそひそ話すような事じゃないし、第一何でフリントにそんなのが必要なの?」

 

「何でだろうな? ……着いたぞ」

 

二人が話しながら歩いていると、周りの建物より一際大きく目立つ”城”の様なジャックの住処に辿り着く。

フリント達は地図の指示通りに中を進み、印が描かれている入り口の扉を開けると、中には多くの観客席、そして一番奥の玉座にはジャックが目を閉じて座っていた。

 

「住んでる所も凄ければ、座ってる所も凄いね……本当に”王様”見たい」

 

フリントとフレアは玉座に近づくが、ジャックは二人に反応しない。

 

「あれ? もしかして寝てるのかな? ……ジャックーーー!!!」

 

「うお!? な、何だ貴様等!? 何時ここに入ってきた!? そもそも何故ここにいる!?」

 

フレアが目の前で叫ぶ事で、ジャックは眼を覚ましたようだ。

突然の事で、ジャックは非常に動揺している。

見るとジャックも遊星と同様、ユニフォームではなく私服で、水色のシャツに白いロングコートという姿だ。

 

フレアはジャックに新しいユニフォームを渡し、鬼柳の伝言を伝える。

 

「フン! 俺は今からでも構わんのだがな……」

 

「それにしても凄い所に住んでるねジャック。 ちょっと中を見回ってもいい?」

 

「キングの居城だ、見るのは勝手だが、荒らすんじゃないぞ!」

 

「荒らすなって……もう十分荒れ放題じゃん……もう荒らす所ないよ」

 

フレアは天井に空いた穴を見上げる。

城と言っても、”サテライト”の建物。

例外なくボロボロである。

 

「まあいいや。 フリントも行く?」

 

「いや、俺は少し疲れたからここで待っている」

 

「えー! フリント体力無さ過ぎ! …じゃあ私一人で見てくるよ」

 

そう言ってフレアは玉座の部屋から出て行く。

 

「……ジャック、お前は最近の鬼柳についてどう思う?」

 

フリントはジャックと二人になると、例の話を持ち出す。

ジャックは訝しそうな顔をフリントに向けるが、少し考えるような仕草をしてから答える。

 

「……ズレているな」

 

「ズレている?」

 

「ああ。 …鬼柳は俺達にとって”救世主”だ。 奴がいなければ、俺達はこのサテライトでくすぶったままで終わっていただろう。 今まで奴は、俺達に魂を揺るがすような決闘を与え続けた……だが、今は違う。 何処か”ズレ”ている」

 

ジャックもクロウと同様に、今のチームの在り方に違和感を感じていた。

 

「…何故ズレていると感じるんだ?」

 

「残党狩りが王者のする事だと思うか? キングたる者、弱者など省みず、堂々と構えていればいいのだ! ……だが、何もせずにくすぶっているのは苦痛だ。 だからこそ、俺は魂を揺るがす決闘を求め、遠征に赴くのだ!」

 

「…成る程、よく解った」

 

遊星、ジャック、クロウの3人は鬼柳を信頼しながらも、どこかで疑問を感じている。

やがて、その疑問は”衝突”の原因となるだろう。

だが、今のフリントにはどうする事も出来ない。

何事も起こらず、無事に遠征が終了する事を願いながら、フリントはフレアの帰りを待った。

 

 




久しぶりの更新なのに、決闘がなくてすいません。
次回はやります。
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