ダンジョンにファフニールがいるのは間違っているだろうか 作:ニャース
書けてしまったので投稿
あなたはゆっくり噛み締めるように、今までの冒険を語り始めた。
夢でも見た少女と仲間たちとの出会い。
ハイ・ラガートにある誰も踏破したことのない、天空の城の伝説がある世界樹の迷宮に挑んだこと。
有名なギルドに所属するフロ、フロ……フロントガードさんとの共闘で、百獣の王を打ち倒したこと。
まるで不死身のように何度も復活する炎の魔人の討伐。
最前線のギルドであるエスバットとの悲しい戦いと、そのギルドの一員であった女性が魔物と化した存在を永遠に眠らせたこと。
翼を持つ翼人との交流と、彼らを襲う大空の女王を打ち破ったこと。
とうとう天空の城に到達し、そこに住まう、
ハイ・ラガードの遺跡であるギンヌンガの試練と、そこに封じられていた禍を討ち滅ぼしたこと。
ギンヌンガの主に最後の力であなたを転移してもらったこと。
それだけじゃない、様々な出来事をあなたは長い時間をかけて語った。
初めはリリルカとヴェルフ、命だけがあなたの話を聞いていたが、向こうで騒いでいたベル達もいつの間にか合流して、あなたの話を聞いていた。
リリルカがヘスティアに彼の話は本当かと疑問を投げかけ、あなたが嘘は一切いっていないとヘスティアが断言すると、みなが驚いた声を上げた。
それからは興味深く聞いたいたり、あなたの話に何か考え込む素振りをしていたりと、反応は様々であったが、まるで小さな子供のように瞳をきらめかせて、話の続きを請うベルと春姫が印象的であった。
あらかた語り終えた後、ベルと春姫が感極まったように声を上げた。
「す、すごい……! あなたは数々の偉業を成し遂げてきた、本物の英雄なんですね! あ、あの、サインとか貰ってもいいですか?」
「わ、私も! はうう……。え、英雄譚の本物が、今目の前に……!」
「はいはい、そういうのは後にして下さいね」
あなたに向かって身を乗り出してきた二人の首根っこを掴み、リリルカは二人を後ろへと追いやった。副団長と名乗ってはいたが、彼女が実質のリーダー格なのだろう。
「まったくもう、お二人とも子供っぽいんですから」
そういいながら説教するリリルカと、しょんぼりしているベルと春姫を見て、あっ、違う。これはおかんだとあなたは確信した。
「なにか失礼なことを考えませんでしたか?」
あなたの視線から何かを感じ取ったのか、若干険のある声でリリルカがあなたを睨んできた。いえ、なんでもありませんとあなたは全力で首を振った。
「てかよ、ベルが英雄英雄って褒めたたえるの、なんかおかしいよな? お前だってオラリオじゃ語り草の英雄の一人じゃねえか」
「はい。ベル殿の偉業を上げればキリがありませんが、最新のものでは潜在能力レベル7相当であるアステリオス殿の単独討伐。にわかには信じられないほどの偉業です」
褒めたたえてくるヴェルフと命に、ベルは恥じらい頬を掻いた。そんなベルをアステリアが悔しいような、誇らしいような、複雑な色を瞳に宿して見つめていた。
「うーん、実際に君から話を聞くまでは確証はなかったのだけど」
難しい顔をしてあなたの話を聞いていたヘスティアが、額に当てていた指をあなたに向かって指してきた。行儀が悪いと思いながらも、あなたは黙って指されるままでいる。
「君、僕らの子供たちじゃないね」
いや、君みたいなロリおかんを持った覚えはないですと、あなたは手を振った。
「ちがーう! そういう意味じゃなくて、君はこの世界の人間ではないといってるんだい!」
ヘスティアが大声でとんでもないことをいう。いきなりあなたが別世界の人間だといわれ絶句していると、リリルカが腑に落ちたように頷いた。
「……やはりそうでしたか。あなたの異形の右腕だけならば、呪われてそうなった伝説や噂ぐらいなら聞いたことがありますし、もしくはウィーネ様やアステリア様の同類かと思いました」
リリの言葉に思わずあなたの右腕を見遣る。今は小手によって隠されているが、あなたが気絶している間に見られてしまったのだろう。あなたの『力』の代償である、怪物のような右腕を。
そのことに気づき、あなたは微笑んだ。あれを見られていながら、彼、彼女たちはあなたになんら隔意もなく接してくれたのだ。
「でも、私と同じ
「ただの人間……と呼ぶには異様なものを身に飼っている。が、人間であることには違いない」
リリルカに反論するウィーネとアステリアに、リリルカは釘を刺されなくてもわかってますよと切り返す。
「失礼ながら、あなたの持ち物も検めさせてもらった。鑑定したところ、どれもオラリオでは見たこともない薬や道具でした。品質が低ければ他所で作られたものと断じられましたが、オラリオと比べて遜色のない、それどころかオラリオでは作ることのできないものもありました」
「うちの平団員の神秘持ちが、
リューとヴェルフの言葉に、たしかに世界樹産の道具は性能が高いが、そこまで驚くものがあっただろうかと疑問を抱く。
いや、ミズガルズ図書館の『アレ』ならば、他所では珍しいものかと思い当たった。
「ヘスティア様があなたに抱いた違和感、あなたの右腕、持ち物、それだけならば確信は持てませんでした。ですが、あなたの話を聞いて確信がとれました」
落ち着いて聞いてくださいとリリルカはつけ加え、一呼吸置いてはっきりと告げた。
「この世界にはハイ・ラガートなる国も、世界樹と呼ばれる巨大なダンジョンも存在していません。いきなりこういわれても、信じられないかもしれませんが……」
あなたはしばし瞑目した。右手を一回だけ握り込み、目を開くとそれでは帰るのは時間がかかりそうだなと、あっけらかんと言い放った。
「サポーター君の話を信じてないのかい?」
あまりにもあんまりなあなたの態度に、ヘスティアが胡乱げにあなたを見遣る。そんなことはないと即座に否定する。
少ない交流ではあるが、彼ら彼女たちは信用に値する人物だと思っている。もともと助けられておいて疑うような感性を、あなたは備えていない。
「だったら、どうしてですか? まったく見知らぬ世界にいるんですよ?」
ベルの疑問ももっともであるが、ある意味的外れだ。
何故ならあなたは冒険者だ。
冒険者ならば未知を切り開くのが義務であり、権利である。なによりそれ自体が冒険者にとっての喜びである。
つまり、あなたがとる行動はいつものと変わらない。
すなわち、冒険をするのだと。
冒険をして、帰る方法を見つけるだけの話だと。
あなたのその言葉に、ベルはぽかんと口を開いてなにも言えないでいた。しかし次第にその身体が震えだし、顔色が興奮へと染まる。そして大変シンプルな賛辞を述べた。
「か、カッコいい!!」
ベルはあなたの両肩を抱き、まっすぐにあなたを見つめる。興奮のあまり若干目が潤んでいる。少しだけ怖くなって、あなたの顔が引きつった。
「あーーー!! またベル君を巡るライバルが!!」
「お、男までハーレムに入れるなんていい加減にして下さい!!」
「で、でもなんだか耽美で、わ、私、少しだけイケない気持ちが……」
「は、春姫殿! 目を覚ましてください!!」
周りがガヤガヤ騒ぎ立てる中、ベルはまるで気にすることなくあなたにまっすぐ言葉をぶつけた。
「だったら、僕たちヘスティア・ファミリアに入団しませんか?」
…………え?
短いですけど、短編なんで今後もこんな感じで小出ししていくことになると思います。