ダンジョンにファフニールがいるのは間違っているだろうか   作:ニャース

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何故かは今回のお話を読めば理解できると思います。


第四話 眷属

 多少のいざこざはあったが、あなたは無事ヘスティア・ファミリアの一員になれた。

 

 ありがたいことに、ファミリアの眷属たちがあなたのために歓迎会を開いてくれるようだ。ひと悶着している間に大方の準備は終わっているようで、ベル達に案内されて食堂へと向かう。

 

 どんな料理が出てくるのか。すでに紹介の終えたベル達以外にどんな眷属がいるのか。あなたは期待に胸を躍らされている。

 

 しかし、食堂に入った瞬間、あなたは目と口を開き唖然として立ち尽くした。

 

 食堂には三十名ほどの眷属が思い思いに過ごしていた。ヒューマンもいれば、エルフや獣人、ドワーフなど様々なデミ・ヒューマンもいた。

 

 たった五人のギルドで冒険していたあなたにとって、この人数の多さは驚愕に値する。だが立ち尽くすほど驚いている理由はそれではない。

 

 料理を運ぶ春姫の足元に、白い虎のような動物がすり寄っている。いや、よく見ると動物などではない。あの異常に発達した牙を見るにモンスターだ!

 

大牙(タイガ)ちゃん、お皿落としたら危ないですから、いけませんよ。ね?」

 

 だが、春姫は恐れる様子もなく、まるで母親のように諭している。しかし白虎のモンスター、大牙は聞き分けず、ほとんど体当たりと変わらない勢いで、春姫の足に頬を擦りつけた。

 

 当然のようにこけそうになった春姫を、とても大きな白黒の不思議な模様をした熊のようなモンスターが、優しく抱き留めた。

 

「あ、ありがとうございます、ダディちゃん」と礼をいう春姫に向かって、熊のモンスターはいえいえ、とんでもないというかのように、首を人間臭く振っていた。

 

「こーら、ダメだよ大牙。支度が終わるまで大人しくしててね」

 

 あなたの見知らぬ眷属である、金髪ツインテールのドワーフの女の子が、白虎を叱っている。しかしまったく威厳はない。

 

 何故なら彼女はお説教の合間合間に、鼻血を垂らしながら「ああー。かわいい~~」と幸せそうな顔で大牙の頭を撫でているからだ。

 

 飛び散る血が白い毛皮を赤く染めそうになり、大牙が嫌がって逃げようとするが、頑として放そうとしない。

 

 そんなドワーフの女の子を、美人なのに残念な雰囲気のする、金髪ロングのヒューマンの女性が、「サボるな。手伝え」と首根っこを掴んで引きずっていった。

 

 何故残念な雰囲気がするのかというと、つまみ食いをしたのか口元にソースをつけているからだ。盗人猛々しいとは正にこのことである。

 

 あなたの視線にヒューマンの女性が気づいた。ふっ、私の美貌に見惚れたなといわんばかりのドヤ顔を披露してきた。あなたはイラっとした。

 

「ああああーーー……。た、大牙ちゃん、また後でね!」

 

 大げさに手を振るドワーフの女の子と、癇に障るヒューマンの女性は厨房へと消えていった。

 

 ……ここまで見れば、あなたが驚いた理由もわかるだろう。

 

 人間とモンスターが、なんの敵意も殺意もなく、まるで当然であるかのように仲良く交わっている。

 

 春姫達だけではない。赤帽子を被ったゴブリンが人の言葉を操り(!?)、小人族(パルゥム)の男性と穏やかに語り合っている。

 

 美しい少女の顔をした、翼人を想起させるハーピーが食堂の中で飛ぼうとしているのを、アマゾネスの女性が窘めている。

 

 まるで奇跡みたいな光景だった。

 

 あなたはふと、世界樹の迷宮の始まりの階層で出会った、ハリネズミのモンスターとの交流を思い出していた。

 

 樹木に針が刺さって動けなくなっていたハリネズミを、あなたは何度も助けたが、恩を仇で返すようにいつも痛い目に遭わされてきた。

 

 だが、最後の最後であのハリネズミは、あなたと仲間達が他のモンスターから奇襲されるところを助けてくれた。

 

 その時の温かい気持ちを思い出して、あなたは微笑んだ。

 

「……ここまで来るまで、困難な道の連続でした」

 

 あなたの隣で同じ光景を見ていたベルが、こぼすようにあなたに語り掛けてくる。

 

「未だにモンスターは人間の敵で絶対に相容れることはないと、大半のオラリオの住人は思っています。たとえ知能を持ち、僕達と同じように笑い、泣くことができる異端児(ゼノス)であっても、モンスターを殺すことを生業にしている冒険者は、普通受け入れることはできません」

 

 一見すると頼りない少年にしか見えないベルの瞳に、大人びた色が宿る。

 

「でも、それでも異端児(みんな)の居場所を作ることはできた。僕だけの力じゃもちろん無理でした。仲間がいたからこの光景がここにあるんです」

 

「正直にいうと、リリ達はあまりお役に立てませんでした。【慈母(モンスターペアレント)】の二つ名を持つ、規格外の調教師(テイマー)である春姫様へのギルドの信頼がなければ、未だに異端児(ゼノス)様方は暗いダンジョンの中で、同族のモンスターにも、人間にも怯え隠れる生活を続けることになっていたでしょう」

 

「でも、ベル君があの日あの時、汚名を浴びても、偽善者と罵られても、それでも彼ら彼女らを見捨てなかったから、今があるんだ。すべてを守れるくらい強くなりたいと願って、それを現実のものにしたから手にすることができたんだ。誇っていいと思うぜ、団長」

 

 ヘスティアに背中を軽く叩かれ、あなたにはあずかり知らぬ様々な思いを噛み締めて、ベルは「……はい!」と笑顔で返事をした。

 

「ここだけじゃなくて、オラリオの外にも異端児(なかま)がいます。もしよかったら、会いにきて下さい」

 

 ベルの言葉に、あなたは深く頷いた。

 

「――さあて、神妙な話もここまでにしようか。おーい、みんなぁ! 新しい眷属(かぞく)がようやく到着したぜ! 盛大に歓迎してやってくれ!」

 

 ヘスティアが大きな声で眷属とモンスター達に呼びかけると、一斉にあなたを見た。多種多様な視線に晒され、あなたが引きつった顔でぎこちなく片手をあげて挨拶をする。

 

 それを待っていたかのように、あなたの新しい仲間達は一斉に歓迎の声を上げ、あなたに駆け寄りもみくちゃにした。

 

 

 

 

 

 

 

 あなたはみなにもみくちゃにされた後、あなたについて質問責めにあった。

 

 あなたの趣味や好きな食べ物といった当たり障りのないものや、ヘスティア・ファミリアに入るまでどんなことをしていたかなど、様々な質問が飛んできた。

 

 あなたは異世界からの漂流者だということを、ファミリアの仲間たちに隠す必要はないとベル達にいわれている。あなたがしてきた冒険を存分に語ると、非常に喜ばれた。

 

 ……そのまま穏やかな交流が続けばよかった。

 

 先ほど鼻血を垂らしていたドワーフの少女――名前はフォウ=デ=ロシェ、気軽にふぉーちゃんと呼んでほしいといっていた――が、ふと質問してきた。

 

「そういえば、彼女さんとかいるの?」

 

 あなたはどう答えるべきか迷った。

 

 あなたの脳裏に、あなたの大切な少女の笑顔がよぎる。少女とは深い絆で結ばれていて、友情を超えた尊い感情をお互いに抱いている。しかし、あなたも少女もはっきりとその想いを口にしたことはない。

 

 あなたはしばし口を噤むと、恋人はいないが好きな人はいると正直に答えた。 

 

 ふぉーちゃんは「きゃー! すごい!」となにがすごいのかよくわからないことをいい、頬を蒸気させた。年頃の少女らしく、他人の色恋に興味深々らしい。

 

 勘が良い者は、いや、極端に鈍くない者以外が、あなたがいう好きな人とは冒険の話に出てきた、仲間の公女であると察しただろう。

 

 しかし、ここに一人、極端に鈍い上に空気の読めない残念なヒューマンがいた。

 

「――ふっ、私も罪づくりな女だな。新しい仲間を一瞬で恋に落としてしまった。我が美貌ながら、末恐ろしい」

 

 金髪ロングのヒューマン――周りの者たちは、なぜかししょーと呼んでいる――が、ふぁさりと髪をかき上げると、意外にある胸を張ってふんぞり返った。

 

「おい、ししょーがまたなにかバカなこといってるぞ」

 

「新人君が困ってるじゃない、あんたとめなさいよ」

 

「不良在庫を俺に押し付けるのはやめろ。目をつけられたらどう責任とってくれるんだ!」

 

 周りがししょーの奇行に騒ぎ始めるが、あなたの耳には届いていなかった。

 

 あなたは初め、ししょーに何をいわれたのか理解できなかった。ようやく正気を取り戻すと、あなたは自身の尊厳を賭けて、全力で自意識過剰のししょーの言葉を否定した。

 

 必死なあなたを見て、ししょーは頷いた。――理解してくれたのか?

 

「恥ずかしがらなくてもいい。私にはお前の気持ちはちゃんと伝わっている」

 

 なにいってるんだ、こいつ。

 

 あなたは今度は殴りたい気持ちを必死で抑える羽目になった。

 

「そこまで私のことを好きだというのなら、付き合ってやるのもやぶさかではない。いや、むしろ今すぐ結婚しても構わないぞ。仲間たちは私のことを残念美人や喪女などとバカにするが、しょせん高根の花に手が届かない者の戯言だ。しかし手を伸ばしてきたお前には、花を手折る権利がある。さて、結婚式はいつにする? 子供は何人欲しい? さあ、幸せな未来の話をしようでは――」

「痛々しい!!!!!」

 

 オレンジ色の髪と、ぴょこんと跳ねたアホ毛が特徴的なヒューマンの少女が、いきなり乱入するやいなや、ししょーの顔面にハンマーを叩き込んだ。

 

 ししょーは鼻血を噴き出し、床へゆっくりと崩れ落ちた。

 

「さすがメディ子! ししょーの扱いが上手です!」

 

「レディー相手にむごい……といえないのが、ミスししょーの人徳というべきでしょうか」

 

 メディ子と呼ばれた少女は「みなさん、お騒がせしました」と頭を下げると、片手でししょーを引きずり去っていった。

 

 それを見届けると、人もモンスターも茶番は終わったとばかりに思い思いの場所に移動し談話を始める。

 一人ぽつんと取り残されたあなたは、あまりにも濃いヘスティア・ファミリアの面々に、この先上手く交流していけるだろうかと不安になった。

 

 ……あなたは気づいていない。あなたもあなたで十分に濃い人間に当てはまるという事実に。

 

 心配せずとも、あなたはヘスティア・ファミリアに馴染めるだろう。

 

 あなたを含めた眷属達を遠くから見守っていたヘスティアが、うんうんと頷いた。

 




 以上、世界樹の愉快な眷属達でした。
 世界樹の迷宮タグを追加したのは、ふぉーちゃんがいるように新2以外からも登場させたからでした。



 異端児(ゼノス)関連はもうちょっと掘り下げたいですけど、ファーさんが主人公なので作中ではほどほどにしました。

 以下、作中に関係ない設定なので、異端児(ゼノス)関連が気にならない人は読み飛ばし推奨。







 簡単な経緯を説明すると、レベルアップした春姫が一度調教(テイム)したら絶対服従させるスキルや、モンスターとの意思疎通を可能にするスキルを保持していることを公開して、ギルドの信頼を得たと思ってください。
もっとも、春姫が絶対服従のスキルを実際に使ったことはありませんが。
 異端児(ゼノス)はスキルで喋れるようになったとゴリ押し説明してます。

 ほとんど春姫のおかげのように見えますが、ヘスティア・ファミリアがオラリオ最強の一角になっていなければ、ギルドを説得しきれませんでした。ダメ押しにガネーシャ・ファミリアの援護や、ウラヌスが裏でこっそり手を回してくれたおかげでもあります
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