ダンジョンにファフニールがいるのは間違っているだろうか   作:ニャース

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 どう考えても十話超えそうなので、短編から連載に変更しました。

 あれ? 本来ならとっくにダンジョンに潜ってたはずなのに。書きたいことが増えたのがダメなんや……。


第五話 登録

 あなたがヘスティア・ファミリアに入団してから一週間が過ぎた。

 

 その間に様々なことがあった。

 

 ベルやヘスティアに今までのヘスティア・ファミリアの活躍を聞いたり、リリルカやリューにこの世界の常識を学んだり、ししょーにちょっかいを出されてメディ子がハンマーで殴って引きずっていったり……辟易することもあったが、あなたは順調にヘスティア・ファミリアに馴染んでいった。

 

 ヘスティア・ファミリアに入団したことをギルドに報告にもいった。ヘスティアの方針であなたがレベル7であることを正直に伝えた際、ギルド内が騒然となった。

 

 あなたはそれほど驚くことなのだろうかと疑問に思う。

 

 あなたが訳あって経営を手伝っていたハイ・ラガードの料理店では、あなたが足元にも及ばない伝説と謳われる冒険者が顔を出し、グリモアの交換に応じてくれたことがたびたびあった。

 

 強い冒険者がひょっこり現れるのは、ハイ・ラガードでは日常的な光景である。

 

 そもそもハイ・ラガードのギルド長自体、実際に実力を拝んだことはないが、あなたよりも強いであろうとあなたは確信している。 

 

「あの、オラリオで頂点といわれるレベル7の冒険者は、今まで四人しかいなかったですから……」

 

 付き添いで来ていた命に半ばあきれ顔でいわれ、あなたは改めて自身の常識が通じない異世界に来てしまったのだと実感した。

 

 その後、どうにか動揺を治めたハーフエルフの受付嬢が、多少ぎこちない笑顔ではあるが、はっきりとした口調で挨拶する。

 

「初めまして、私はエイナ・チュールと申します。今後あなたのダンジョン攻略のアドバイザーを務めさせていただきます。今後ともよろしくお願いします」

 

 ベルが今までさんざんお世話になった、信頼できる優秀なギルド職員であると横にいる命が補足し、あなたは運が良いと喜んだ。

 

 ダンジョンにおいて情報とは命綱である。とりわけモンスター相手では、情報の有無が生死をわけることが多々ある。

 

 例えば特定の部位を縛ってうまく動けないようにすると、狂ったように暴れて大打撃を受けたことがあった。他にも比較的弱いモンスターを放置していたら、他のモンスターと強烈な連携技を放ってきたり、ある強敵モンスターがあなたと仲間達の生命力を一時的に大幅に下げ、全滅寸前に追い込まれたりと枚挙に暇がない。

 

 あなたはハイ・ラガートの酒場での他の冒険者の話と、輪廻の角鈴という確実に戦闘から逃げられる道具にはさんざん世話になっていた。

 

 残念ながら輪廻の角鈴に代わりになる道具がオラリオでは存在しないため、あなたは良質な情報を得るため、エイナと良好な関係を築かなければならない。

 

 さすがにエイナは外部の者であるので、異世界からの漂流者であることは隠しながらも丁寧な挨拶をし、手を差し出す。

 

 その道のプロであるエイナも、すでにレベル7の衝撃から平常心を取り戻しており、にこやかな笑顔で握手に応じてくれた。

 

「丁寧な挨拶、ありがとうございます。では、さっそくではありますが、ダンジョンについて説明をさせていただきますね」

 

 ……何気ない言葉ではあるが、あなたの背筋に悪寒が走った。

 

 先ほど情報の大切さを噛み締めていたはずなのに、あなたの本能が逃げ出せと促してくる。

 

 だが、モンスターには殺される可能性があるが、エイナ相手に命の危機は皆無であると反論し、無理やりその場に留まる。

 

「レベル7と伺っていますが、誠心誠意、余すことなく、ご理解いただけるまでお教えしますのでご安心下さい」

 

 エイナの眼鏡がキラリと妖しく光る。

 

 ――あなたが知らない話であるが、エイナ・チュールはベル・クラネルに好意を抱いている。愛しているといっても過言ではない。

 

 一時はひよっこだったベルが飛躍的に強くなっていくのを、置いていかれるような気持ちでいたのだが、エイナはただ黙って見ているだけの女性ではなかった。

 

 彼女は持ち前の生真面目さで、ダンジョンについて、そこに住まうモンスターについて、ベルのためになるならばと、以前にも増してさまざまな知識を吸収しベルに伝授していった。

 

 その結果、以前からエイナの受け持ちの冒険者は、エイナのスパルタな教育に耐え切れず逃げ出していたが、今では生半可な覚悟の者はダンジョンに入る前に冒険者を辞めるレベルにまでパワーアップしていた。

 

 ……あなたは前言を撤回し、自身の本能に従って逃げ出そうとした。

 

「……頑張ってください」

 

 まるで屠殺されるために出荷される家畜を見るかのように、命があなたを抑え込む。

 

 仲間を乱暴に振り払うことなどあなたにできようはずもなく、エイナによって奥の部屋へと連れていかれる。

 

「怖がることはなにもありません。ちゃんと覚えれば帰れますから」

 

 震えるあなたを「ご武運を」と見送り、自身に飛び火しないうちに去っていく命に対し、あなたは薄情者と大声で罵った。

 

 ……その後、あなたはエイナの微細に渡るダンジョンに出現するモンスターの生態や、ダンジョンにおける活動の注意点、その他さまざまな必須の情報を、これでもかと詰め込まれた。

 

 超がつくほどの一流の冒険者であるはずのあなたは、エイナが説明後に出したテストになかなか合格できず、悲痛な悲鳴を上げた。

 

 五時間かけてようやく一時的に――あくまで一時的で、まだ覚えることがたくさんあると釘を刺された――解放された後、あなたはふらふらとした足取りで、ヘスティア・ファミリアのホーム――竈火(かまど)の館に戻り、あなたの部屋のベッドに倒れ込むと、そのまま意識を手放した。

 

 ……エイナ・チュール恐るべし。

 

 熱心な教えに感謝はしつつも、あなたの怖いものリストに、世界樹に生息する厄介なモンスターと共にエイナの名が刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日、エイナの元でダンジョンについて学び、戦々恐々と日々を過ごしていたあなたの元に、ヴェルフがやってきた。

 

「ずっと勉強だけしているのも気がまいるだろ? 明日当たり、俺たちと一緒にダンジョンに初挑戦してみないか?」

 

 あなたはヴェルフの両手を掴むと、絶対に行くと即答した。

 

 あなたは情報の大切さを理解しているが、実践することでしかわからないこともあることを知っている。知識だけでも冒険者はやっていけない。

 

 ……そう、決してエイナの講義から逃げ出したいわけではない。エイナが怖いわけではないのだ!

 

 あなたは言い訳するかのように、ヴェルフにまくし立てた。

 

「ははは、よっぽど堪えたみたいだな」

 

 ヴェルフが苦笑しながら、肩を叩いてあなたのことを労う。

 

「そろそろダンジョンに慣れてもらうって目的で誘ったんだけど、それだけじゃないぞ。お前、自分の武器がないだろ?」

 

 ヴェルフのいう通り、あなたは禍との戦いで、止めを刺す際に刀を折ってしまっている。刀もあなたと共にオラリオに飛ばされてきてはいるが、折れた刃先は消失している。素材を持っていない現状、修理することもできないでいた。

 

「そこでだ。数打ちの新米団員用の武器で悪いんだが、そいつを使ってモンスターと戦っているところを俺に見せてほしい。そうすれば、お前の戦い方にあった武器を作ってやる」

 

 まるでいたずらっ子のように、不敵にヴェルフが笑う。

 

「お前が持っていた刀、折れていても良いものだということはわかる。だがな、俺はそれ以上のもんが作れるぜ?」

 

 自信満々に言い放つヴェルフに対し、あなたはよろしく頼むと頭を下げた。

 

「頭下げるほどじゃねえよ。俺の本分は冒険者じゃなくて鍛冶師だからな。ただの住み分けだ。住み分け。その分お前にはきりきり働いてもらうからな」

 

 期待してるぜ、大型新人(レベル7)。そう締めくくったヴェルフの言葉が、あなたにはこそばゆくもあるが、心地よかった。

 

 あなたはダンジョンに誘われた目的は理解した。だが、まだ疑問が残っている。

 

 先ほどヴェルフは俺たちと一緒にダンジョンに初挑戦してみないかといっていた。『たち』とつくからにはヴェルフ以外にも同行者はいるはずだ。

 

「それなんだが、『グリモア生成』スキルがどんなものか確認すると同時に、あわよくば春姫の《ウチデノコヅチ》のグリモアが欲しいってリリ助がいっててな。だから春姫とその護衛に、ダディって名前のバンブーベアーが同行する。ダディは潜在能力(ポテンシャル)レベル5相当だから、足手まといどころかレベル4の俺よりも強いからな。春姫のことは任せてお前の戦いに専念しても大丈夫だ」

 

 《ウチデノコヅチ》……例の階位昇華(レベルブースト)の魔法。そんな破格のグリモアがあったら、世界樹の迷宮やギンヌンガの攻略が格段に楽になっただろうなと、あなたは遠い目をした。バードのフォースブレイク、最終決戦の軍歌以上の効果をある程度の時間持続できるなんて、改めて考えると頭がおかし過ぎる。

 

「他にもお前がどんな風に戦うのか興味がある奴が何人もいたな。安全地帯の18階層が目的地で、高レベルが大人数で行くものでもないから、話し合って一人に絞ったが」

 

 まさかししょーじゃないよな。あなたが恐る恐る尋ねる。

 

「安心しろ、なにがなんでもついていこうとしたのを、メディ子が殴ってとめた。当日もしっかり殴っておくから、さすがのししょーでも無理だろ」

 

 そう楽観するヴェルフに、フラグを立てるのをやめろ! そんなこといって本当に来たらどうするんだとあなたは悲鳴を上げた。

 

「大丈夫だって。……たぶんな。それより、明日の最後のメンツを紹介するぞ」

 

 ヴェルフがそういうと、外で待っていたのか、あなたの部屋のドアを開けて何者かが入ってこようとしていた。

 

 ベルか命辺りかとあなたが推測していると、意外な人物の登場にあなたは少々驚いた。

 

 短い交流ではあるが、彼女が興味本位で動くようには思えなかったからだ。

 

「僭越ながら、あなたのダンジョンアタックに同行させていただくことになった。明日はどうかよろしくお願いします」

 

 そういったエルフの女性――リュー・リオンは言葉とは裏腹に、あなたのことを探るような目で見つめていた。

 




 強化されたのがヘスティア・ファミリアだけかと思った? 残念、エイナさんもでした!

 次回はようやくダンジョン探索回です。

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