ダンジョンにファフニールがいるのは間違っているだろうか   作:ニャース

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 よし、ようやくダンジョン回だ。

 ファーさんのカッコいいところを見せるぞ!


第六話 上層

 翌日、モンスターであるダディは街の住人に恐れられるため、春姫、ダディ、リューの三名はあなたよりも先に早朝に出発した。

 

 竈火の館内ならダディが自由に行動しても問題ないが、街中では早朝とはいえ檻に入れて運ぶしかない。眷属数人が台車に檻を乗せ、運ぶのを手伝っている。

 

 ――異端児(ゼノス)

 

 あなたがヘスティア・ファミリアに入ってから意味を教えられた言葉だ。

 

 人と同等の知性と感情を持ち、人の言葉を話すことが可能なものさえいる、異質なモンスター。人と同じように笑い、泣き、友になれる可能性を持つもの。それが異端児(ゼノス)である。

 

 しかし、例えそうでもあっても人々からは恐れられる。同じ言葉を話せても、同じ感情を持っていても、簡単に人間を殺せる人以外の存在を、人々はモンスターと呼ぶのだ。

 

 かといって彼らにはモンスターとしても生きられない。彼らは異質であるか故、同じモンスターからも殺意を向けられ、襲い掛かられる。

 

 ゆえに彼らは『異端児』と呼ばれる。

 

 人とモンスターの確執は理解しているつもりだが、あなたは少しやるせない気持ちになった。ダディが白黒模様の愛らしい顔を、すべてを理解したような達観したものにして、大人しく檻に入っている姿がもの哀しい。

 

 あなたもせめて付き合うつもりでいたが、ゆっくりしてから来るようにと気を利かされた。それでもなお、あなたはついて行こうとしたが――。

 

「頼りなく見えるかもしれませんが、私もヘスティア・ファミリアの先輩です。こういう時くらい先輩らしくさせていただけないでしょうか」

 

「それ以前に、エイナに一言声を掛けてからの方がいい。ダンジョンに潜る報告は義務ではないが、義理はあると思います」

 

 断り切れない優しさと、目を逸らそうとしていたことへの指摘にあなたは渋々従った。……渋々なのは、決してエイナが恐ろしいからではない。

 

 そんなやりとりの後、彼女たちより遅れること一時間、あなたは春姫達と合流すべく、ヴェルフと共に歩いていた。

 

「あっ、【不冷】(イグニス)だ!」

 

「えっ、どこどこ?」

 

「次の遠征も頑張れよ、ヘスティア・ファミリア!」

 

「おう、ありがとうよ!」

 

 街中を歩いていると、見知らぬ人々に声を掛けられる。ヴェルフは手を振ったり一声かけるなど、慣れた風に対応していた。

 

 命と共にギルドに行った時もだったが、改めてヘスティア・ファミリアの高名をあなたは思い知らされる。

 

 ハイ・ラガードで天空の城まで到達したあなたも、似たような声援を街の住民から受けていた経験があった。あなたはまだオラリオに来て一か月も経っていないはずなのに、懐かしい気持ちになった。

 

 共に名声を博していた仲間たちを思い出し、改めて絶対に帰るという誓いを強固にする。

 

 そのための第一歩のダンジョン攻略だ。あなたは気を引き締めるが、一つ気になることがあった。

 

 リューが今回、あなたの初のダンジョン攻略に同行する理由である。

 

 他の面子は理由を聞かされているが、リューだけは同行するとしか聞かされていない。他にも参加したいという者もいたのに、何故リューが選ばれたのか。

 

「……理由、か。俺がどこまで話していいのやら」

 

 あなたがヴェルフに尋ねると、ヴェルフは難しい顔で顎を撫でた。しばし口を噤んでいたが、重い口をゆっくりと開く。

 

「リューが以前所属していたファミリアな、今はもう壊滅してるんだ。オラリオ外に退去していた元主神も、とある理由で天界に送還された。……だからだろうな。今度こそ自分のファミリアを、仲間を失くしたくないって気を張っちまうのは」

 

 自分はリューに信頼されていないのだろうかと、あなたはヴェルフに尋ねる。

 

 別段、そのことにあなたは不満を抱いていない。異世界から来た、得体のしれない高レベルの冒険者なんて普通は警戒して当然だ。むしろ他の眷属たちがお人よし過ぎた。

 

「別にリューはお前を悪人だなんて思っちゃいねえよ。信用もしていると思う。そもそもヘスティア様やリリ助が邪心を持ってる奴をファミリアに入れる訳がない。ただ、自分の目で見極めて、『信頼』したいんだろう」

 

 そう聞いて、あなたはほっと溜息をついた。あなたは確かに不満は抱いていないが、悪く思われたいわけでもない。

 

「なんだ、まだ信頼はされていないのに。ずいぶんと自信ありげだな。」

 

 ヴェルフが訝しげにあなたを見る。

 

 それに対し当然だとあなたは答えた。

 

 あなたは世界樹の迷宮で冒険者として躍進し、仲間とハイ・ラガードの住人の信頼を得た。

 

 場所が変わってもやることは変わらない。ただ冒険者として振る舞い、リューの信頼を得るだけである。

 

「その口ぶりなら、安心だな。――っと、話している間に着いたな」

 

 あなたの目の前に、天を貫かんばかりの塔が聳え立っていた。

 

 その塔は神々が住まう場所であり、ギルドが運営する場所であり。

 

 ――ダンジョンの入り口でもあった。

 

 自然とあなたの口角が上がった。どんな場所でも、新しい冒険は少々怖くあり、それ以上に大きな興奮を呼んだ。

 

 リュー達が待っている。さあ、冒険へ行こう。

 

「おう。でもその前に、エイナさんに挨拶しとけよ」

 

 …………ダンジョンへの第一歩を踏み出したあなたは、ヴェルフの横やりに盛大にこけた。

 

 

 

 

 

 

 

「今からダンジョンの18階層まで潜る……ですか? そうなると初めてのダンジョンですね。頑張ってください」

 

 あっさりとダンジョン探索の許可が降り、あなたは拍子抜けした。エイナのことである。まだ知識が足りないとごねられるかとあなたは考えていた。

 

「新人とはいえレベル7が、ダンジョン慣れした高レベルの冒険者と一緒に、中層に挑戦するだけですから。むしろこれで文句をつける方がおかしいですって」

 

 そういって、エイナが言葉通りに笑う。そんな普通の少女みたいな笑顔もできるのだと、あなたは意外に思った。

 

 ……本人に直接言えば、テストの問題が倍になりそうだが。

 

「いきなり下層や、まして深層に向かうと言い出したのなら、もちろん止めますよ。下層以降は、熟練の冒険者でも命を落とす危険がありますから」

 

 そういって、エイナはどこか遠い目をした。

 

 ギルドでアドバイザーをやっていると、ダンジョンから帰ってこなかった者も大勢いただろう。

 

 エイナのスパルタとも呼べる知識の詰め込みは、彼女なりの生きて帰ってほしいという願いなのだ。

 

 そう考えると、あなたはエイナへの苦手意識が薄らいだ。

 

「でも、帰ってきたらまた講義を受けてもらいますからね。まだまだ貴方は下層や深層の知識不足ですから。今回ダンジョンに潜る分、次回は詰め込みますよ」

 

 ……訂正する。あなたはエイナへの苦手意識が『ほんの少しだけ』薄らいだ。

 

「あと、中層だからと決して油断はしないでください。最近、中層で冒険者の木乃伊になった遺体が見つかるという異常事態が発生しています。他のファミリアの冒険者に調査を依頼していますが、何らかのモンスターの強化種が出現したと推測されています」

 強化種という言葉に、あなたはエイナの講義を思い返す。たしか、モンスターの核である魔石を大量に摂取し、異常なほどに強くなったモンスターのことだ。

 

 ――モンスターの中でも異端児(ゼノス)とは異なる方面で異質である同胞喰らい。

 

 ハイ・ラガードの世界樹の迷宮での強敵、『F.O.E』(エフ・オー・イー)に強化種は匹敵すると認識し、あなたはエイナの言葉に深く頷いた。

 

「ご武運と、無事な帰還をお祈りします」

 

 真摯な顔であなたを送り出すエイナに、あなたは親指を立てることで返した。

 

 

 

 

 

 

 

 オラリオのダンジョンに初めて入ったあなたの感想はいたってシンプルだった。

 

 ……微妙だ。

 

 世界樹の迷宮は繁茂する植物に覆われた、緑豊かなものだったり、階層が変われば舞い散る雪が神秘的なものだったりと、移り行く四季のようにどれも美しく、心動かされる光景だった。

 

 しかし、あなたの目の前にはごつごつした岩壁と、どこかしけったような空気しかない。万人が想像するような、ただの洞窟のようなダンジョンである。

 

 異世界での初めてのダンジョン攻略だと期待していたあなたは、がっかりと肩を落とした。

 

「お前、変に期待し過ぎだ」

 

「じゅ、18階層に行けば、ダンジョンの中とは思えない、素晴らしい光景が待っていますから!」

 

 ヴェルフのつっこみと春姫のフォローに、あなたは渋々と顔を上げる。

 

「上層とはいえ、油断しないでいただきたい。貴方のレベルならば問題ないかもしれませんが、もしここが深層ならば貴方でも命取りになります」

 

 リューに厳しい指摘をされ、あなたは謝罪する。リューの信頼を欲していたのに、初っ端からダメなところを見せてしまった。

 

「ぐるおぅ」

 

 ダディが大きな手で優しく肩を叩いてくれた。彼は人の言葉を話せないが、あなたを労わる気持ちは十分に通じる。あなたはありがとうと礼を述べた。 

 

「んじゃ、気を取り直して18階層目指して行くか」

 

 ヴェルフの号令にあなたとみなが頷き、ダンジョンを歩き始める。

 

 あなたは大人しく歩くつもりであったが、異様に身体が疼いた。なぜだろうと考え込みながら、あなたは無意識に手持ちのバッグを漁る。

 

 あなたは白紙を一枚取り出すと、使い慣れたペンを右手に握り、歩いた場所の地図を正確に描き始める。

 

 すると、不思議と身体の疼きが収まった。あなたはなんだったのだろうと疑問を抱きながらも、これ以上醜態はさらせないと周囲を警戒しながら進む。

 

 ……あなたは自身の手が勝手に動き、ダンジョンの地図を次々と埋めていっていることに気づいていなかった。

 

「なあ。その書いてる地図。詳しいのにわかり易くていいものだとは思うが、もうすでに完成したものがここにあるぞ?」

 

 ヴェルフはいったいなにをいってるんだ? あなたは首を傾げる。

 

「…………はあ。手を見て下さい」

 

 リューにいわれるがまま、あなたは自分の手を見る。

 

 そこには、いつの間にか描かれた一階層の一部の地図と、ペンがあるではないか!

 

 身に着いた習慣は恐ろしい……。

 

 世界樹の迷宮で地図を描くことを担当していたあなたは、無我の境地で描かれた地図に戦慄した。

 

 あなたは恐る恐るリューの顔を見遣る。呆れ顔の美女がそこにいた。

 

 ………………………………………………………………。

 

 …………あっ、モンスターを発見! よし、すぐに倒すぞ!!

 

 あなたは運悪くのこのこやって来たゴブリンの群れに向かって、八つ当たり気味に刀を繰り出した。

 

 一瞬でゴブリンたちが魔石に変わったのは語るまでもないだろう。

 




 ……あれ、カッコいいファーさんは何処に行った?
 
 …………じ、次回はちゃんとカッコいいはずだから(震え声)
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