ダンジョンにファフニールがいるのは間違っているだろうか   作:ニャース

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ようやくまともな戦闘シーンを書けました。

少しでも原作のゲームの雰囲気が出てたらいいな。


第七話 満喫

 黒一色の身体に爛々と輝く紅い瞳。その数七対。

 

 ヘルハウンドと呼ばれるモンスターが今にも襲い掛からんと、あなたの周囲を囲っている。

 

 しかし、あなたは平静だった。

 

 もし、かつて冒険した天空の城の魔物に一人で囲まれたのならば、あなたも焦りを覚えていた。だが、現実に目の前にいるヘルハウンドからは脅威を感じない。

 

 身動ぎもしないあなたに苛立ちを覚えたヘルハウンドの一体が、口から火の粉をこぼし、次の瞬間あなたに向かって炎を吐き出した。

 

 それに対し、即座にあなたは抜刀する。握り締めた刀は、不思議なことに冷気を宿している。

 

 いや、冷気なんて生易しいものではない。触れれば即座に肉が凍りつくほどの、凄まじい凍気をまとっている。

 

【フリーズセイバー】。

 

 三色の属性を操るうちの一つ。刀剣スキルの中で非常に使い勝手が良く、あなたが頻繁に使うスキルである。

 

 炎に向かって一閃、あなたは刀を振るう。すると、まるで存在していなかったかのように、一瞬で炎が掻き消えた。その残滓として、僅かな水蒸気が生まれる。

 

 たじろぐヘルハウンドを、あなたは一歩力強く踏み出し、一瞬で間合いを詰める。近づかれたと反撃する前に、ヘルハウンドは凍気をまとった刀で切り裂かれ、絶命した。

 

 炎とヘルハウンドを切り裂いたにも関わらず、まとう凍気はいささかも衰えていなかった。

 

「ぐるるるる……」

 

「うおおおおおんっ!!」

 

 仲間の仇を討とうと、あなたに向かって五体のヘルハウンドが一斉に飛び掛かる。

 

 あなたはそれに対し、刀に宿った凍気を打ち消す。そのまま餌食になるつもりかと問われれば、答えは否である。

 

 あなたが装備したグリモアが、一瞬だけ煌く。あなたが思い浮かべるのは、氷雪に囲まれた世界で夜を闊歩する多頭のドラゴン。

 

 かつてあなたを苦しめた、【古蛇の毒牙】と呼ばれたスキルを呼び起こす。

 

 すると、あなたの頭上から首の長い竜のような闘気が迸った。

 

 闘気の竜の数は、ヘルハウンドと同数。頭をもたげるように身じろぐと、凄まじい勢いでヘルハウンドに襲い掛かる。

 

 貪るつもりが、逆に食いちぎられたヘルハウンドたちは、無残な屍をダンジョンに晒した。注入された竜の毒が肉を腐らせ、その身を魔石へと変える。

 

 たった一頭残ってしまったヘルハウンドは、一瞬で仲間を全て屠ったあなたに恐怖を抱いたが、それでもなお、あなたを焼き殺さんと炎を吐き出そうとする。

 

 しかし、それが叶うことはなかった。

 

 一瞬だけ、空気が揺らいだと思ったら、ヘルハウンドは真っ二つになっていた。

 

 崩れ落ちるヘルハウンドの背後であなたは納刀する。

 

 あなたが動いたことすら知覚できずに、ヘルハウンドが切り捨てられたのは、あなたが初めて覚えた神速の斬撃【ソニックレイド】の効果である。

 

 戦闘を終え、あなたは一回だけ大きく息を吸って吐き出し、呼吸を整えていると、戦闘に参加せず見守っていた仲間たちが集まってきた。

 

「……ベルで見慣れたと思ったが、レベル7はやっぱ規格外だな」

 

「す、素晴らしかったです! 英雄譚の一幕を見ているみたいでした!」

 

「私も敏捷には自信があるのですが、最後の斬撃は目で追うことすらできなかった」

 

「ぐおう」

 

 手放しで称賛してくれる仲間たちに、あなたは照れたように頭を掻く。内心は少しはリューの落胆を返上できて一安心していた。

 

「しかしまあ、ベルみたいに魔法を武器に宿すとはなあ。まあ、ベルの場合は武器の特性やらスキルやらで無理矢理つかってるようなもんだが、こいつの場合、数打ちの普通の刀でも使えるのか。……魔力伝導率が高い素材を使えば、より効果は上がるか? いや、むしろこんな刀でも魔法を宿せるのなら、ブースターになるような素材を重点的に使うべきだな。なら、この前遠征で手に入れた、深層のアレを使って――」

 

 先ほどの賞賛はどこへやら、突如ヴェルフがぶつぶつと独り言をつぶやく。あなたが無言でリューと春姫を見遣ると、無言で首を振られた。どうやら彼が満足するまで待つしかないようだ。

 

「――でもなあ、まだ上手い具合に組み合わせられねえんだよなあ。クエストを出して目星をつけてた素材を集めてもらうか? ――っ! 待てよ、よく考えたら折れているとはいえ、こいつの刀はまだ刀身が残ってるじゃねえか! 溶かせば少量だがインゴットが作れる。異世界の未知の素材、もしかしたら、もしかすると…………はっ!」

 

 ヴェルフを囲う生暖かい視線にようやく気付いたのか、ヴェルフは顔を上げると申し訳なさそうに謝ってきた。

 

 あなたは自分の新しい武器のために付き合ってくれているのだ、気にすることはないと返す。

 

「よし、だったら次は剣を使ってみてくれ。お前、剣も使えるんだろ? 剣ならどんな戦い方をするか、見せてほしい」

 

 多少取り回しが異なるだけで、剣に関わるグリモアをつけていない限り、大差はないとあなたがいう。しかし、キラキラした子供のような期待に満ちた顔で剣を差し出されると、断るのが悪いように思えた。

 

 あなたは結局、剣を受け取りヴェルフに刀を返した。

 

「よし、次いこうぜ」

 

 そう言葉短くいいながら、自分が戦うわけでもないのに、ヴェルフが先頭に立って歩き始める。

 

「あの、ヴェルフ様のことを悪く思わないでくださいね。鍛冶の腕前が上がって、深層で新しい素材を手に入れて、少し熱が入りすぎているだけですから」

 

「……【不冷】(イグニス)の二つ名に相応しいといったら、相応しいですね」

 

 春姫のフォローと、それを台無しにするようなリューの一言にあなたは噴き出した。ダディがなにがそんなにおかしいのかと首を傾げている。

 

 ――この仲間たちなら、上手くやっていける。

 

 あなたは確信し、ヴェルフの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

「…………やばいな」

 

「…………やばいですね」

 

 …………ああ、やばい。

 

「はうう…………」

 

「ぐうう?」

 

 言語能力が著しく低下しているあなたたちの視線の先には、小さな石のようなものがあった。

 

 傍目から見れば、たいした価値もないゴミにも見えるが、この場にいるよくわかっていないダディを除いた人間は、その価値を正しく理解していた。

 

「リリ助はできなかったらできなかったで、構わないとはいってたんだが……」

 

「最初にできたのが、まさかこれとは……」

 

「はうう…………」

 

 あなたの手のひらにある石は、グリモアと呼ばれる魔法やスキルなどを封じ込めて置ける、特殊な道具である。

 

 あなたの出身地であるミズガルズ図書館で開発された、画期的なものではあるが、グリモア生成には運が関わっていて、必ずしも狙った魔法やスキルが生成されるわけではない。

 

 生成されたとしても、元より劣化していることが大半であり、最高品質のグリモアができるのは稀である。

 

 あなたが装備しているグリモアも、品質が高いものばかりであるが、それでも《炎の王》などの一部のグリモアは、元よりも少し劣化している。

 

 しかし、あなたが何度か戦闘しているうちに、いつの間にか生成していたこのグリモアは、最高品質のものである。

 

 最高品質の、元の魔法と遜色のない《ウチデノコヅチ》のグリモアである。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「…………なあ、もし仮にこいつを売ったら、いくらになると思う?」

 

階位昇華(レベルブースト)という規格外の魔法を、無制限で誰にでも扱えるようになるというと……数十億ヴァリス、いえ、数百億ヴァリス払ってでも欲する者がいるでしょう」

 

「はうう…………」

 

 …………初っ端から、恐ろしいものを生成してしまった。

 

 このグリモアが《ウチデノコヅチ》とわかるや否や、ヴェルフとリューの目から光がなくなったままでいる。

 

 春姫なんて「はうう…………」という鳴き声しかもらさなくなり、今にも倒れ込みそうな身体をダディに支えてもらっている。

 

「…………こいつの【グリモア生成】スキル、春姫の魔法と一緒に絶対に隠し通すぞ」

 

「…………はい。異論などあるはずもない」

 

「はうう…………」

 

 あなたは力強く頷くと、《ウチデノコヅチ》のグリモアを厳重に布で覆い隠し、バッグの奥底にそっとしまい込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどの騒ぎを忘れるかのように、あなたたちは無言で18階層に向かって歩を進めていた。

 

 あなたはすでに完成した地図があるにも関わらず、心を落ち着かせるために新しい地図をその手で描いている。

 

 もはやつっこむ気力もないのか、リューは横目で見るだけで何もいわなかった。

 

 モンスターも出現せず、何事もなく次の階層へとたどり着く直前、あなたは違和感を覚えた。

 

 とっくに見飽きている、ごつごつとした岩の壁。その一部だけ、他とは異なる色をしていた。

 

 あなたはこれに心当たりがあったが、確証を得るためにリューにこれがなんなのか質問する。

 

「採掘場ですね。掘り進めばこの階層で手に入る鉱石が手に入りますが……」

 

 その言葉を聞いた途端、あなたはバッグから発掘道具を取り出すと、意気揚々と壁を掘り出した。説明の途中だったリューが唖然としているが、あなたは気にも留めずに掘り進める。

 

「……まるで子供ですね」

 

 呆れた声でリューがため息をつくが、ダンジョンを共に進むうちに、幾分とその声は和らいでいた。

 

 あなたは無心で壁を掘り続ける。以前世界樹の迷宮を探索していた際は、採掘や採取などはレンジャーであるあなたの親友に頼りきりであった。

 

 しかし今、あなたは採掘の発展アビリティを所持している。

 

 まだまだレベルは低いが、それでもあるなしでは大きな差があるに違いない。

 

 あなたは珍しい鉱石を夢見て、採掘道具を振るい続ける。

 

 するとガキンッ! と音を立てて、なにか固いモノの感触がした。あなたはそれ以上音の原因であるものを傷つけないよう、慎重に周りを掘り進める。

 

 ついに周りを綺麗に掘り進めることに成功し、あなたは感無量で鉱石を手に取る。

 

 鈍い光を放ち、一見上等なものには見えないが、ここまで苦労して掘り出したのだ。これはいいものに違いないとあなたは確信した。

 

 あなたは自慢げに手に取った成果を仲間に見せびらかす。

 

「…………なあ。悪いんだが、それ、珍しくもなんともない、普通の鉱石だぞ」

 

 ヴェルフの無慈悲な言葉に、あなたは大きなショックを受けた。

 

 さ、採掘アビリティがあっても、こんなものしか掘り出せないのか……。

 

 あなたは良くレアものを手に入れていた、あなたの親友の偉大さを改めて実感した。

 

「さ、先ほどのグリモアで運を使っただけですから。つ、次の機会があるのでしたら、きっとよいものが手に入りますよ!」

 

 春姫が懸命に励ましてくれるが、あなたはしばらく肩を落としたままであった。

 

 

 




以上、タイトル通りダンジョンを満喫するファーさんでした。

採掘はレアは出ないときはとことん出ないから、仕方ないね。
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