虚偽のエース   作:戦国宰相

1 / 5
今回はチート内容については当たり障り程度で。
次回で全容を発表します。


虚偽のエースの失踪

私は丹川道隆(にかわ どうりゅう)。本日4月1日を以て晴れて高校生になる男だ。

 

…というのは表の姿。実は私はよくある何処にでもいない転生者という奴である。

 

こんな事を他人にでもしゃべたら即精神病院行きだが、私の中では真実である。

 

何せその証拠に私は所謂前世の記憶と、それに基づいたチート能力を持っているのである!

 

…現在封印中だが。無期限の。理由は後にて語るとしよう。

 

 

 

 

 

さて、こういうもののお決まりとしてアニメやらゲームやらの世界にいる訳なのだが、私はこの世界の題材を既に把握している。ある一部分以外ほぼ現実と変わらないリアル世界だったため、気づくのにかなり時間がかかったが…。

 

端的に言えばここはパワフルプロ野球、つまりパワプロ世界だったのだ!パワプロちっくな姿ではなく皆がしっかりとした人間の姿だったのでこれも気付くのに時間がかかった理由の一つだ。当然私もだ。顔も前世よりイケメンに少し変わっていて「よっしゃ!彼女作ったる!」と中学生の当時は意気込んでいたものだ。

 

パワポケ?さあ何のことかな?(すっとぼけ)

 

私はあまり運動が得意ではなかったが、野球という文化に対して人一倍、という方でも無いがまあ兎も角ゲームをする位は好きだった。得意ではなかったので見る専であるが。

 

しかし、先述した通り、私はチート能力を持っている!ちゃんとこの世界にも通じる能力!そしてほぼ最強と言って過言でないその性能!

 

私はそのチートによって投打両方において凄まじい選手として鮮烈なデビューを果たした。所謂二刀流という奴である。

 

小学生から野球を始め、そのチート能力を以てして中学2年まで多くの野球大会にてチームに優勝をもたらし、絶頂の気分に浸っていた。

 

投げればあらゆる面で圧倒しほぼ完全試合達成。打てば中距離俊足巧打者。守れば強肩外野手。

 

まるで物語の主人公になったかのような気分だった。

 

後から思えば身に過ぎた力を行使しすぎたと後悔の念で一杯だが。黒歴史ものである。

 

というのも、私は中学2年の頃において気づいてしまったのだ。気付かない方が私は幸せであったかもしれないが、気づいた事でそれ以上私という存在がこの世界の野球少年たちの夢を壊す事を避ける事が出来たのだ。

 

尤も、今となっては遅すぎたが。

 

 

 

「あれ?これ自分の力で何かを成したというよりも他人の力を使って、しかもプロを超える力で捻じ伏せてきただけじゃね?しかも、しっかり努力した子の苦労を嘲笑って。」

 

 

 

例えるなら子供の喧嘩に片方がプロの格闘家連れてきてガチで相手をぼこぼこにするような行為である。その上でプロの格闘家ではなく、自分がやったと自慢している。卑怯という言葉を超えた外道行為である。

 

もうね、あほかと。恥ずかしいどうこうではない。こんな事を約8年間もやってきたのかと。

 

何故今まで気づかなかったのか。人は強すぎる力を持つと馬鹿になるのか?

 

その日より酷い自己嫌悪から私は絶頂期から一気に鬱になったような気分に襲われ、毎日のようにかつて対戦した敵チームが罵声を浴びせてくる悪夢を見るようになった。

 

ある子供は「卑怯者!」と言い、ある子供は「本当は変化球すら投げれない投手失格の癖に!」と秘めていた真実を突きつけた。ある子供は「努力もせずに勝って嬉しいかよ。けっ。おめでたい奴。」と皮肉った。全て夢だったが、私の心を現実よりも傷つけた。

 

これが私がチート能力の一切を封印した経緯である。まさに黒歴史。8年間中二病同然だったという事実を突きつけられ、私はあっという間に精神的に追い込まれた。自業自得だが。練習にも時折出られなくなるほどだった。

 

自分が所属していた野球部のチームメイトは原因不明のうつ病に罹ったような私を見てとにかく手を尽くして励ました。何せ今までチームを引っ張ってきたエースであり、キャプテンだった。

 

それに私が超人的な力を発揮してほぼ一人で勝ちをもぎ取っていた事から実質的に私中心のワンマンチームであったこともあり、このまま野球部を辞めてしまえば間違いなく今後の大会の優勝は不可能だった。

 

野球部だけではない。顧問ですらない先生達までが私を見るなり「野球部にはお前が必要だ(意訳)」と言葉に付け足してくる。時に他の子供の親たちもだ。

 

しかし当然ながら私には逆効果であり、励まされれば励まされる程ほとんどの周りの人間が信用出来なくなり、人間不信に陥っていった。

 

唯一救いだったのは私の親が理解を示してくれたことだろう。

 

「野球以外にも楽しい事は沢山ある。辞めたいなら辞めてもいい。」

 

と父や母は慰めてくれた。

 

私は両親の言葉に甘えて野球部を退部。色々な人たちが応援から罵声まで様々な声をかけてきたが両親がしっかりガードして、転校手続きだけでなく引っ越しまでしてくれる事になった。原因の私一人の為にここまでしてもらって本当に感謝してもしきれない。

 

そこそこのマンション暮らしだったが、これを機に別の町の一軒家に住む事となり、この町そのものからも去る事となった。

 

自分のしたことの結果の末であるとは言え、長く暮らしていた場所を離れるのは寂しい事である。数少ない信頼できる親友だけに別れの言葉を告げ、移動中の車の窓から暮らしていた町の日暮れ姿を寂しく見ながら新たな家へ向かった…。

 

 

 

 

 

 

 

さて、これは別の話になるがパワプロ世界において当然と言わんばかりに野球がスポーツの中心として全国的に大流行している。その次位にサッカーがある程度か。

 

その為、どの中学、高校も野球部が充実しているが、一応例外も無い事も無い。

 

例えば女子校。パワプロ世界特有の性質上、ソフトボール部があくまで女子のスポーツのメインではあるものの、一応男子程に野球文化に理解があるわけではなく、そこそこばらけている為、野球部が無い所もそこそこにある。

 

つまり何が言いたいかと言うと流石に私は男性である以上女子校に通う事は出来ないが、中学3年生になった私は進路を考えるに考えてこの度共学になるという元女子校の高校に通う事にした。態々そんな場所にした理由は先に挙げた野球部への興味の低さだ。決して女性にもてたいからではない。というか寧ろ針の筵である。

 

このパワプロ世界では野球が大流行しているだけあって私の黒歴史伝説?とやらがかなり噂として広まっているらしく、普通の高校に通ったとしてもまず目を付けられて何かと理由も付けて入部させられる可能性があった。よってそもそも野球部の存在しない高校に通わねばならなかった。

 

何処の高校の野球部であっても実力に関わらず甲子園優勝を目指して努力する程の熱狂ぶりから嫌でも分かってしまった事もあって、可能性は限りなくそぎ落としておく。もう黒歴史増産は懲り懲りだ。

 

そうした中で都合よく見つけた高校が今年4月1日を以て共学となる聖ジャスミン学園だった。

 

調べた所によればソフトボール部はあるものの、野球部は存在せず。そして元女子校故の男子の少なさ。新たに野球部を設立する可能性はかなり低いだろう。そもそも今年から共学になるから、少なくとも私が居る間は大丈夫だろうと確信した。

 

ただ難点があるとすればやはり女子の割合が9割以上という居心地の悪さだろうか。偏差値そのものはかなり良い方ではあるし、お嬢様校程ではないが気品は良いようで悪い噂らしきものは殆ど無い。

 

ああいや、一つ不穏な噂があった。何でも今年、「番長」の渾名を持つバリバリの不良が入学するらしいが…まあそんな奴がこんな所来るわけもなし。ただのデマだろう。

 

ともかく私は安住の地を得た。その代償としてチートを使う機会を自分から消してしまったがこれでよかった。あのままこの世界に生きる野球に生きる子達を無自覚につぶし続けるよりは遥かに。野球の無い場所に逃げて野球という世界の表舞台から永遠に去る事こそが今の私の贖罪だったのだ。

 

そして前世のように大人になって、テレビやネットでプロの野球を観戦するだけを楽しみにして生きる人生を送る。それでいいじゃないか。

 

 

 

 

 

私もまた、私のチートによって圧倒的な実力差を見せつけられ、夢をつぶされた子供達のように夢を諦めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして1年が経った頃、私は捨て去った夢に再び向き合う事となる。

 

 

「なあ、野球部に入ってくれないか?俺達と一緒に甲子園に行こうぜ!」

 

 

………本当の物語の主人公。

 

『パワプロ君』こと、『羽輪布留』(はわ ふるい)によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。