虚偽のエース   作:戦国宰相

5 / 5
脳内でどんどん妄想が出来上がるのに、書くとなると途端にモチベが下がる謎。

自分語り失礼しました。それではお待たせしました本篇をどうぞ。


改善への道のり

丹川視点

 

 

 

 

練習を始めて早一か月が経った頃。

 

あれから野球をするのもぎりぎりの部員数であった野球部は今や13人にもなる人数へと急速に増加していた。

 

原因は信じられない事に私の存在だと言う。

 

確かに私は一度だけだがテレビ出演もしたり、雑誌の取材を受けた事が有る為、自分で言うのもあれだがそこそこ有名人だと言う自覚はある。

 

しかし、テレビに関してはかなりマイナーな番組だった印象があるのでそこまで知名度が上がった気にはなっていなかった。そもそも元は凡人かつ小心者だった私は非常に緊張していて、その時の記憶がごっそり抜け落ちて何を言ったかまるで覚えていない。

 

そもそもあの頃はチートを使っていたので今となってはその知名度は有難迷惑なものである。あれも黒歴史と言えば黒歴史だろう。

 

とはいえ、それが野球部存続の為、戦力増強の為だと思えば少しは役に立っただろう。どうせ本来の自分には野球の才能がまったく無い。その内有望な新人が代わりをやってくれてお払い箱になる事を祈りたいものだ。

 

………しかし、今のところ投手希望の子、来ないんだよなぁ。

 

このままだと投げれるの太刀川、美藤、私の3人だけなんだけど。しかも太刀川爆弾持ちだし。美藤は私よりも打も投も守も強いけど投の方で私にちょっと勝ったくらいでは通用しないだろう。大体比較対象の私が弱すぎるし。

 

んで私はあれからほんのり制球が良くなった程度。球速は依然最速120km/h止まり。変化球は大したことのないスライダーとカーブだけ。

 

ただ、カーブに関してはまだマシな程度のレベルだと自分では思っているが、どうやら皆はそうは思っていないらしく驚きと称賛の声が挙がった。ただのカーブなのに。ただ、握りは『教えてもらったのがしっくりこなかったから少し投げやすいように変えた』けど。

 

………折角他人から教えてもらっておきながら勝手に自己流にするって私は相当な屑ではなかろうか。ま、まあ参考にして自己流に改良しただけだし…これくらいはね。

 

それは兎も角としても正直これでも武器になるとは思えない。チートを使い過ぎて決め球並みなのかそうでないのか分からない程感覚が麻痺しているが、恐らくは。

 

まあ簡単に一か月で成長出来るなら苦労はしないというものだ。諦めた理由がそれだし。

 

とはいえ、このままの調子で実際に試合に出て打ち込まれっぱなしというのも悲しくなる。よって私は成長の方針を固めた。

 

ずばり、変化球覚えまくって多種多彩な球種で翻弄する。軟投派の結論だ。

 

どの道、私が大きな成長して強くなる事はほぼ不可能。ならば軟投派らしく良し悪しに関係無く沢山の変化球を投げられれば誤魔化せられるでは、と考えたのである。

 

キャッチャー小鷹にもこの旨を伝えておいた。「やたら選択肢やサインあっても困るんだけど…」と愚痴られたが最低限活躍するにはそれしかないのだ。そもそもサイン覚えるのはチート使おうが誰でもやる事だ。元よりそれくらいは苦にならない。

 

という訳で今はチェンジアップの練習をしている。といっても球速を落とせればいいだけなので、楽で使いやすい。

 

しかし我ながらこう思った。

 

チェンジアップはその性質上、対応されたらあっさり打たれる。変わっているのは球速だけだからだ。特に珍しいボールという訳でもない為、経験のある人は多い筈だ。ボールの質に自信の無い私では余計厳しい可能性もある。

 

では珍しい変化球を覚えられれば翻弄出来るのではないか。そう考えた私はチェンジアップと『同じ』握りで投げられるある変化球を思いついた。性質としても似ているが現在では稀な変化球。

 

そう、パームだ。投げた瞬間からゆったりと大きく落ちるチェンジアップに似た緩急を武器とする変化球。

 

性質上、速球派の方が武器になるが元より多彩な変化球で誤魔化すスタイルで行くつもりなのだから問題ない。変化が大きい為、ウイニングショットにもなりえる。やはり大きく落ちる球は決め球にするに相応しい威力があると言える。

 

ただ、コントロールすら悪い私が上手く変化の大きい球をしっかり制球出来るかと言われるとやはり難しい。さっきから練習しているが、上手い事ストライクゾーンに入れる事がままならない。

 

変化もしない事の方が多く、正直使い物にするにはやや時間が掛かりそうだ。

 

 

「丹川、今日も変化球の研究か?精が出るな!」

 

 

悩む私に羽輪が声を掛けてきた。

 

表情は今この瞬間すら楽しいと言わんばかりに満面の笑みを浮かべ、腕を組んで何やら頷いている。流石は主人公という奴か。この身には余りに眩しすぎて見るのもいたたまれない私は顔を逸らしたまま応答した。

 

 

「ん?ああ。この腕で投げられる球質には限界があるからな。投げうる限りの変化球を試してみるつもりだ。」

 

「へえ。俺も負けてられないな!だけど、随分悩んでいるみたいだけどどうしたんだ?なんか妙な球を投げてるけど。もしかして魔球ってやつか!?」

 

「違う。知らないのか?まあそう見えるのであれば完成した時、武器の一つには数えられるかもしれないな。」

 

「んん?どういう事だ。」

 

「今練習しているのはパームボールだ。お前さんも聞いたことはあるんじゃないか?」

 

「パーム………ああ!何というか、投げた瞬間に落ちる奴!ゲームで対人戦になると意外と打てないんだよな~あれ。」

 

 

その気持ちは分かる。ゲーム上、パームボールは変化が小さいとそこそこ打てるが、大きいとほかの変化球にも言える事だが投げた瞬間から落ちる為、着弾地点が分かりにくいから非常に狙って打つのが難しい。そのことから対人戦の切り札と言わんばかりの性能を誇る。

 

尤も、球の動きをカーソルに合わせて先回りして振れば打てなくもない。強振であれば当たれば飛びやすいからホームランもよく出る。まあ所詮チェンジアップ系だから仕方ない。

 

そもそも変化球の軌道に関してプロスピとパワプロでは一部異なる場合がある。

 

例えば先程から話題となっているチェンジアップはパワプロでは変化量が大きくてもブレーキがより効くだけで落ちる事は無いが、プロスピではチェンジアップは『落ちる』。流石に他の落ちる変化球程では無いが。

 

パームに関してはプロスピでは地味に軌道が斜めより。

 

他ではナックルカーブはパワプロだと落ちる変化球扱いとして高めだと変化が小さくなるが、プロスピだと通常のカーブと同じように高めでも変化は変わらない………ect。

 

まあそんなように同じ会社が出しているとはいえ、その方向性はやはり本格派と新規の入りやすいゲームではそこそこ違ってくる。

 

しかし、私が考えるに本当に重要な事は先程も考えた通り、ボールの性質だとかゲーム上の性能だとかそういう所ではなく、『知名度の低さ』、『投げる人の少なさ』の二つにある。

 

何球か投げた程度じゃ対処されないような経験の少なさを最大限に利用する。

 

左腕を振りかぶって投げるボールは壁の中心からやや落ちて当たり、地面に転がった。

 

それはひねくれ者の精いっぱいのように弱弱しいボールだった。

 

けれどもそれを見る目は輝かしいばかりで、余計に居た堪れなくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

羽輪視点

 

 

「練習試合?」

 

それは、野球部設立にあたり新しく顧問となった外部コーチから告げられた言葉だった。

 

この学校は元より女子校であった為、先生も殆どが女性であり顧問も自然と女性に決まった。

 

しかし、顧問が決まるまでには一悶着があり、正式に決まったのは野球部のメンバーが9人揃ってから1か月もの時間が経っていた。

 

というのもそもそも運動で熱心な先生はこの学校における強豪スポーツに当たる部に既に所属しているし、そもそも運動部自体そう多くなかったのもあった。

 

ソフトボール部の顧問を野球部と兼任させるべきという案も出たが、ソフトボール部の顧問はこれを拒絶。そもそも野球部設立における部員引き抜きに憤慨していたので反対するのも無理は無かった。(有望株を3人も引き抜きされればそれはそうなる。だけど後悔はしていない)

 

そのまま顧問の押し付け合いが始まり、一向に決まらない状態が続いていたのだった。

 

 

「なら私が外部のコーチを招き、その人を顧問にしては如何でしょうか?」

 

 

そこで出てきたのが我らが元レジェンド、丹川だった。

 

学校側の条件である『女性のコーチである』事を受け入れ、所謂『コネ』(本人談)を使って外部コーチを招き入れたのだった。

 

尚、金は学校持ちな模様。(丹川交渉による割引はしたらしい)

 

外部コーチはとても熱心な人で、厳しいながら様々なトレーニングや機材を提供してくれる為、俺達も喜んで受け入れた。

 

そんな新顧問のコーチ、竹中胡桃(たけなかくるみ)顧問。彼女の発した言葉が練習試合を行うという宣言だった。

 

今は6月。夏休みと予選大会をあと一月に控えた夏真っ盛りの時期。俺を含めた皆は暑さに耐えつつ、より練習を重ねていた。

 

 

「みんな頑張ってくれているし、今年甲子園まで行くのはまだまだ未熟だから厳しいけど予選大会を出来うる限り勝ち抜いて来年の冬と夏の為に経験を積んでおきたいからね。それに備えて同レベルの高校と試合して、一先ず実践に慣れて欲しいんだ。」

 

 

竹中顧問は熱心ではあったけれど熱血な人ではない。寧ろ現実的な視点で俺達を見て指導してくれる明るくも冷静なコーチだった。チームの弱点を分析、見定めてはそれの克服の為のトレーニングに取り組ませた。

 

 

「まずウチらの弱点は特筆するような身体能力を持つ選手が限りなく少ない事。細かなバッティング技術や勝負強さは凄い長点だけれど、特に打撃力や長打力は根本的な面から正直どの強豪校に遠く及ばないレベル。例外も居るみたいだけど、扇風機じゃ安定した打点には繋がらないわ。」

 

「まあ確かに、安定してヒットが打てるのはちーちゃん位で、それもヒットを確実に打てる技術があってこそですしね。」

 

「正直貴方とちーちゃん以外に打撃を期待するのは難しそうね。守備に関しては全員センスがあるのか皆安定して守れるみたいだけど、小山ちゃん以外特筆する程のものではないし走力は微妙だね。矢部田とやはり貴方が盗塁を狙える位。」

 

「…俺って意外と評価されてるんですね。」

 

「巧打も長打も出来て、足も俊足。肩もそれなりで守備もライトやセンターを任せられる。男という区分においても十分過ぎる位優秀だよ羽輪君。私を呼んだ彼も昔はその位出来たんだけどね」

 

 

溜息を吐きながら丹川を見るその目は何処か切ない色を映していた。その先に見える丹川は投手としての守備練習をしていたが、反応は鈍く、送球も落ち着かず不安定。時折ボールを溢してはこちら側をも不安にさせる。

 

 

「正直別人を見ている気分だよ。中学の頃とはまるで大違いだ。確かいきなり故障してああなっちゃったんだっけ?」

 

「本人はそう言ってました。」

 

「ふ~ん………」

 

 

如何にも納得がいかない、といった表情で手元のバインダーに挟んだ練習メニュー表の空欄に書き込んでいく竹中コーチ。その書き込む手がふと途中で止まると呟くように話し始めた。

 

 

「本当にそうだと思う?」

 

「え?」

 

「幾ら何でも肩が壊れたからと言ってそれ以外の動きに大きく影響を及ぼすなんて子。私は見た事も聞いたこともないよ。」

 

 

いきなり何を言い出すのか。俺は内心訝しんだ。

 

確かに丹川のあの動きは素人同然だ。しかしそれは丹川が語った『才能を失った』という語りからその答えは出ている筈だ。

 

 

「い、いや。俺もそうだと思いますけど、あの動きを見せられちゃ…あれは演技じゃとても出来ないくらい…」

 

「素人としては自然。だけど野球少年としては不自然。前に会った時はそれこそ他の子と一線を画した素早く、無駄の無い動きだった。その動きがまるで残っていない。1年や2年で鈍るようなものじゃなかった筈。」

 

 

竹中コーチは自己紹介で『元女子プロ野球選手』であったと話していた。それに加えてプロ3年目の25歳という若さで『故障』によって技巧派投手としての人生を閉ざされ、引退した人とも。

 

…恐らくはこれを承知で丹川は竹中コーチを呼んだのだろう。太刀川という爆弾持ちの投手を管理して、無理をさせないように。

 

勿論、本人自身相当体の管理に気を遣っている。一日の投球数に自ら制限をし、トレーニングも十分な程度に留めるようにしている。しかし、自分の事は自分でも意外と分からないとも言う。

 

実際、太刀川への体の分析力は高かった。引退後は反省からスポーツトレーナーとしての資格を取っただけの事はあり、太刀川の投球スタイルを出来る限り尊重しながらトレーニング方法、投球フォームなどの改善を図り、少しずつ効果が出始めている。

 

説得力は十分であると言える。だからこそ、重みがあった。

 

 

「………何が言いたいんですか?」

 

「彼はまだ何かを隠しているね。そもそも、疲労による怪我をするような練習はしていなかった筈。となれば練習以外での何らかの重い怪我を負った。もしくは心的なダメージを負った事によるトラウマ。もしくは…」

 

 

そこで竹中コーチは一度目と口を閉じた。その先を言うのを躊躇ったのだろう。もし想像の通りであるなら、彼の闇は相当深い物であるからだ。軽々しく踏み込むべきではない。

 

だけど俺は敢えてその先に踏み込むべきだと、そう思った。その瞬間、既に口は動いていた。

 

 

「言ってください。」

 

「………」

 

「あいつは俺達野球部の仲間です。付き合いは2か月程度。決して長くはありません。だけど仲間なら、野球が好きな仲間なら、俺は、俺達は………助けてやりたい。」

 

「………そう。」

 

 

竹中コーチはゆっくりとその口を開いた。鉄の門を思わせるような重く、緩やかな開きだった。

 

 

「彼は野球における重度の怪我、そしてトラウマによる心的ダメージの両方によって野球選手としての反射思考を………失っていると思われる。単なる怪我であれば投げられなくなる程度で済む筈だよ。」

 

「それが丹川が言う本当の意味での『才能を失った』、という事ですか?」

 

「恐らくはね。ただ、表面上彼には強い恐怖や戸惑いを感じ取る事が出来ない。相当根が深いのか、もしくはかなり限定的な場面でその原因が生まれたのか。どちらにせよ、解決するには彼の深層心理まで探るか、原因が現れるのを待つしかない。」

 

 

尤も、心の内を探ろうにも彼は口が堅そうだけど。と竹中コーチは締めくくって、溜息を吐いた。

 

 




次回、投手メンバーは
先発  :太刀川広巳(ステータス省略)
リリーフ:美藤千尋(同述省略)
     丹川道隆
球速    :120km/h
コントロール:F(35)
スタミナ  :D(50)
変化球   :スライダー 1
       ナックルカーブ 2
       パーム 1
投手特殊能力:ランクがある特能全てE
       ポーカーフェイス

以上でお送りします。野手は次回。
省略されたステータス?各自アプリ版で調べてください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。